Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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 ○ミリシア特殊偵察中隊SRS『特攻兵団』
 ミリシアに所属する勢力の一つ。旧マローダー隊を前身とする部隊であり、司令官はサラ・ブリッグス。少数精鋭の名の通り、幾人もの熟練のパイロットが所属している。主人公が所属していたのもこの部隊。


Log.5 任務内容の更新 

 鳩が豆鉄砲を食らったよう、という言葉がある。リーゼはそれを聞いて……

 

『私のXO-16は豆鉄砲ではありませんよ』

 

 ……などとトンチンカンなことを言っていたが、実際の意味は突然の出来事に驚く様のことをいう。数ヶ月前俺が初めてこの世界で目覚めた時や、今の俺のような状態をそういうのだろう。

 それは、束の命令でまたしてもとある実験施設を襲撃していた時だった。例のごとく、非人道的な実験をISを用いて行ったことで束の逆鱗に触れたのだ。

 ただ、今回は在中する戦力も大したものではなく、ISもコアのままでアッサリと回収できたのだ。それを持って帰還しようとした時、たまたま施設の休憩室のような場所を通り過ぎたのだが──そこに置いてあったテレビに映っているニュースを見て、前述のような感じになったのだ。

 

「お、おい……リーゼ、あのニュースはデマか何かか?」

 

「ネットワークにアクセス……検索の結果、このニュースは96%の確率で事実です」

 

 テレビで放映していたニュース、その内容は──

 

『先日、日本のIS学園にて行われた適性試験にて、織斑一夏 15歳 男性がISを起動し、世界初の男性適合者であることが判明しました。日本要人警護プログラムにもとづき……』

 

 ──つまるところ、世界で初めてISを起動できる男性が見つかったということだ。……俺か? リーゼは純粋なISじゃないから例外ということにしておこう。

 ともかく、これは驚くべきことだ。束はこのことを知っているのだろうか? 無線で束をコールしてみる。

 

「おい、束! ニュース見たか? とんでもないことになってるぞ!」

 

『ん〜? ああ、いっくんのこと? それがどうしたの?』

 

「いっくんって……ん? そういえば、"織斑"って性、もしかしてあのモンド・グロッソの覇者、織斑千冬と関係が? お前、あの織斑千冬と幼馴染とか言ってたし……」

 

『そうだよ〜、いっくんはちーちゃんの弟だよー』

 

 それを聞いて俺はなんだかすごく納得してしまった。世界初の男性適合者っていうのも、すごく当たり前な気がしてきた。あの世界最強の弟だ、別にISに乗れたっておかしくないだろ(暴論)。

 

「なんだ、お前の知り合いかよ。ビックリして損した……」

 

『え? 何その反応』

 

「だってお前の知り合いだろ? かの世界最高の頭脳の持ち主で天災であるお前の。ただの一般人なわけないだろ」

 

『うーん……褒めてるのかな、それ』

 

「……褒めてることにしておいてくれ。そら、今からISコア持ち帰ってやるから回収地点を示してくれ」

 

 束はなんだか納得していない様子だったが、すぐに回収地点を示してくれた。俺は、世界初の男性適合者とは運が良いのか悪いのかよく分からん、などと下らないことを考えながら回収地点へと向かうのだった。

 

 

 ──

 

 

 束の隠れ家であるアジト、相変わらずどんなテクノロジーで動いてるのか分からない仕掛けが満載である。毎回、アジトに帰ってくると、出入口の場所まで変わってるのだ。

 アジトの格納庫にピットインした俺はリーゼのコクピットから飛び降りると、パイロットのスーツを量子化してパッケージに収納。スーツから飾り気のない黒いTシャツと、機能性重視のズボンへと瞬時に切り替わる。全く、この量子化技術は便利なもんだ。

 

「お帰りなさいです、兄様!」

 

 横から差し出されるタオル、それを持つ小さな手と少し黒みがかったブロンドの少女。彼女は俺が数ヶ月前、俺とリーゼの初陣によって壊滅したあの実験施設にいた被験体の少女だった。

 彼女の名前はサラ、一応名前を付けたのは俺だ。あの我が身を顧みずに突貫してくる様が、司令官という肩書きを持っているにもかかわらず、最前線でタイタンを乗り回すあの女傑を彷彿とさせたのだ。なので、勝手ながらその名前を拝借させてもらった。

 サラが目覚めたとき、俺は彼女が生まれ育った場所に返してやると諭してやったのだが、彼女は身寄りのない孤児だった。流石にそれを聞くと見捨てるわけにもいかず、俺はここに留まらせてやることを束に提案したのだ。

 それを聞いた束は、なんというか捨て猫を連れ帰った子を叱る母親みたいな反応だった。しかし、サラは高いIS適性の持ち主だった。だから束は何か利用価値があると判断したのだろう、結局はここに残すことに賛同してくれたのだ。まあ接し方は極めて冷たいが。

 

「ありがとう。だが、その兄様ってのはやめてもらえないか?」

 

「あ、えっと……ごめんなさい」

 

 目に見えてしょんぼりとするサラ。こういう反応をされると、どうにもこちらがいたたまれない気持ちになってくる。

 まったく、最初はあれだけ怖がっていたのに随分と懐かれてしまったものだ。こうなってくると、こっちがどう接したらいいか分からなくなってくる。

 何しろ俺もサラと同じで親だとか兄弟だとか、そういうものはよく知らないのだ。ガキの頃に親に捨てられたからな。

 

「そんな顔するなよ……ああ、分かったよもう。サラの好きなように呼べばいい」

 

 それを聞いたサラはぱっと顔を綻ばせると、嬉しそうに頷くのだった。妹っていうのはやっぱりこんな感じなのだろうか。

 

「よかったですね、サラ。私も兄様とお呼びしましょうか、パイロット?」

 

「冗談きついぞ…………本気で言ってるのか?」

 

「束博士から語彙項目の追加のために学習を受けた際、男性は女性からお兄様と呼ばれると萌える、と学びました」

 

「アホかっ!」

 

 またしてもトンチンカンなことを言うリーゼにツッコミを入れながら、リーゼのシャーシを量子化しパッケージに格納する。待機形態へと移行したリーゼは、緑光を放つデバイスとなって手首に装着されていた。

 まったく、何がお兄様だ。気色悪いことを言いよってからに……サラがよくて何故リーゼがダメなのかって? そりゃリーゼは長いこと一緒に戦ってきた戦友だからな。そんな奴にいきなりお兄様とか言われたらいろいろと嫌だろ! 

 

(変な方向に成長してるな、ほんと……束の奴め、あまり偏った知識を与えないように言っておかなくちゃな)

 

 後で束に文句を言うことを心に留めておきながら、束がいる研究室へとサラを連れて向かう。とりあえずは仕事の報告をしなければ。

 

「束、いるか?」

 

 研究室のドアをノックし、束の名を呼ぶ。しかし、返事は帰ってこない。また研究に没頭しているのだろう、勝手に入っても怒りはしないだろうか。

 だが、ここで待っていても、束は不眠不休で没頭し続けるからキリがない。俺は束の返答は待たずに、ドアノブに手をかけて部屋の中に足を踏み入れる。

 

「うわっ……またこんなに散らかってるし……」

 

 部屋の中はよく分からない走り書きがしてある紙やら作りかけの機械やら、とにかく色んなものが所狭しとと散らばっていた。そんな中、パソコンに向かい合ってキーを打ち続ける半裸の女性が一人。

 あられもない格好の束が、やはり無心に研究に打ち込んでいたのだ。俺が部屋に入ってきたというのに、まるで関心を示さない。

 

「おい、束……おーい……お──いっ!」

 

「……んん? ああ、帰ってきてたんだ。何の用?」

 

「何の用、じゃねえ。お前が俺にISのコア回収を命じたんだろうが……って、ちょっと待て。こっちに振り向くんじゃない、とりあえず何か羽織ってくれ……サラが恥ずかしがってる」

 

「おっとっと、束さんの乙女な柔肌は高いんだよ?」

 

「やかましい、さっさと服を着ろっ!」

 

「うるさいなぁ、もう……」

 

 ぶつくさと文句を言いながら、いつものフリルがついたドレスを着る束。サラはというと、束のふしだらな格好に顔を真っ赤にしていた。年頃の娘には刺激が強かったみたいだ。いや、年頃の娘に()、だな。

 束は確かに美人だし、そのプロポーションは男の視線を釘付けにして止まないだろう。だが、俺はもう少しお淑やかな女性の方が好みなんだ。

 

「それで、なんの話だっけ……あ、そうだ。いっくんが世間に知れ渡っちゃったことだね」

 

「いや、その前にだな……」

 

「さすがはいっくんだねー。でもIS学園に入れられちゃったら、それはそれで色々と危険がいっぱいだよぉ」

 

「だからそんな話はしてないって……回収したISコアはどうするんだよ」

 

「そんなわけで、君にはこれから日本のIS学園に向かってもらうよー。任務はただ一つ。いっくんと、この束さんの麗しく華麗でいっくんのお嫁さんになる、でもちょっぴり寂しがり屋さんな……」

 

「……お前の妹のことか?」

 

 以前、束には妹が一人いて、もう随分と会ってないと愚痴を言っていた。自分がISを開発したが故に、国から最重要人物として保護され、普通の生活を送れなくなったことで嫌われてるのだとかなんとか。

 

「そう! 束さんのかわいい妹! 君の任務はこの二人をあらゆる障害から守ること!」

 

「はぁ…………はぁっ⁉︎」

 

 危うくスルーするところだった! IS学園に行け? 束の妹と例の織斑弟の護衛をやれだって? いやいやいや、ごめん被りたいぜこんな任務! 

 だって世界初の男性適合者だぞ、世界中のありとあらゆる国が喉から手が出るほど欲しい貴重なサンプルだ。あの手この手で自国に引き込もうとするだろう。

 そこで起こるのは単純な武力による争いじゃない。政治的な駆け引きだ。俺みたいな戦うしか脳のない奴にどうこうできる話かよ! 

 

「束、俺にできるのは力ずくで相手をねじ伏せる事だけだ。それでも俺じゃないとダメだっていうのかよ? 交渉とか駆け引きを持ち出されたら、俺はお手上げだぞ」

 

「大丈夫大丈夫、そこのところは期待してないから。束さんの意のままに動いてくれる駒がいるってだけで、やりやすくなるの」

 

「駒、駒ねぇ……あんまり期待するなよ、駒は駒でも俺は結局ポーン止まりだ。ルークやナイトにはなれない」

 

 だが結局のところ、束がそう命ずるなら俺はそれに従う。束の期待に100%答えられるかは知らないが、やれるだけやるしかないだろう。

 

「これからいっくんには色々と大変なことが起こるからね。あの子にも色々とね……本当は束さんの手で守ってあげたいけど、中々そうもいかないの」

 

「分かったよ……お前がそう言うなら、俺はその任務を遂行しよう」

 

「あ、ついでにそこの役立たずも連れてってよ。そいつ、適性が高いだけで、あんまり束さんの役に立ってもくれなさそうだし。拾ってきたのは君なんだから、責任持ってねー」

 

 ジト目で束に睨まれるサラ、それが怖かったのかサラは俺の後ろに隠れてしまった。どうやら厄介ごとにサラまで巻き込んでしまったらしい。

 だが、織斑 一夏ら護衛の任務に出れば、しばらくはここに戻ってこれない。その間に束に嫌われっぱなしのサラを置いていくのはあまりに酷だ。むしろ連れていけるのは都合がいいかもしれない。

 

「二人のパスポートとか戸籍は今捏造してるから、完成したら早速出発してね。ちーちゃんには話を通してあるから安心していいよ」

 

「強引だな……」

 

 有無を言わさない口調で話を進める束、しかし、なんだかんだできっちりサポートはしてくれる。何か裏はあるんだろうが、幼馴染や妹を守ってやりたいという気持ちは本物なんだろう。

 自分が興味ないものにはとことん冷たい束がそこまで言うのだから、やはり束にとって彼らは大切な存在なのだ。そう信じさせてもらおう。

 

「リーゼ、任務内容を更新」

 

「了解、プロトコル2、任務の執行。任務内容の更新、我々の任務は織斑一夏、篠ノ之箒の安全の確保、及びあらゆる障害の排除」

 

 デバイスの緑光を点滅させながら、データの更新を行うリーゼ。この形態でもAIとしての活動は可能で、パッケージからコールすれば即座にシャーシを呼び出し戦闘形態へと移行することもできる。

 

「束博士、我々は度重なる出撃によって国連や各国の諜報機関などに存在を知られ、危険対象としてマークされている可能性があります。戦闘行為が必要となった場合、パイロットが私を使用することは許可されますか?』」

 

「そんなの気にする必要ないよ。リーゼのことを聞かれたら、私が作ったって言っておけば納得するでしょ。ほらほら、束さんは忙しいんだからもう行った行った」

 

 ……などと適当な返事を返す束。それから束は一心不乱に画面とにらめっこを始める、ああなったらもう何を言ってもこちらには反応してくれないだろう。

 

「まったく……サラ、行こう。ここにいたら束から怒鳴られるぞ」

 

「は、はい」

 

 サラを連れて、俺は研究室を後にする。束から指示が出るまでは、しばらく他の任務が下されることもないだろう。とりあえずはシャワーが浴びたい、そして一眠りさせてもらおう。

 その後はサラにトレーニングにでも付き合ってもらおうか。次の作戦区域はIS学園、及びその周辺の市街地になるだろう。それを想定したフィールドで対IS戦の訓練をしよう。

 

「すまないな。お前まで面倒ごとに巻き込んでしまった」

 

「いえ、そんなことはないのです。束博士がおっしゃる通り、サラはISに乗れる以外には役に立たないのです。だから、少しでもお力になれるのなら、サラは頑張るのです!」

 

「そうか……ま、無理のない程度に頑張ってくれ」

 

 以外にもやる気を見せるサラ。束は本当に厄介払いをするつもりで命じたのだろうが、サラは逆にやる気を出しているようだ。

 

「ところでさ、学園ってどんなところなんだろうな」

 

「どうなのでしょう、サラも学校には行ったことないのです」

 

(俺は一応、ミリシアに入隊したての頃は訓練の為に施設に入れられていたが……あんな感じなのかな?)

 

 イメージが掴めない学園の姿に頭を悩ませる俺とサラ。そんな俺たちに、助け舟を出すようにリーゼが口を挟んできた。

 

「IS学園は、日本を含めた世界中から集った女学生が、一流のISパイロットになる為に設立された学園です。厳しい試験を乗り越えた者のみが入学できるエリート校です」

 

「ふーん……」

 

「そうなんですか……」

 

 これからそのIS学園に行くことになるというのに、いまいちピンとこない俺たち。だから、どこか無関心な反応をリーゼに返してしまった。

 まあ、ここで悩んだって仕方ないし、そこがどんなところだろうとボディガードとして役目を果たすだけだ。

 

「……何があってもいいように、トレーニングだけは重ねておくか」

 

 IS学園なら、少なからず戦闘になれば相手はISである可能性も高いだろう。サラとの戦いは俺が勝つには勝ったが、一歩間違えれば俺があのパイルバンカーに貫かれていたかもしれないからな。少しでも多く、経験値を貯めておこう。

 

「サラ、後でトレーニングに付き合ってくれ。対IS戦のな」

 

「はい。サラもトレーニング、頑張るのです」

 

 俺はまだ気づいてなかった。IS学園はある意味でオトコが羨む楽園であり、ある意味では拷問のような環境であることに。特に、女性との付き合いなどあまりない俺にとっては、ますます辛い環境だということに気付けてなかったのだ。




初めてタイタンフォールをプレイした時は、ボトムズを連想しました。

これはむせる

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