Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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 ⚪︎フォールド・ウェポン
惑星タイフォンにて発見されたロストテクノロジー。人類がフロンティアに入植するよりはるか昔、フロンティアにいた外宇宙生命体の文明によって築かれたとも言われるが、真相は定かではない。
IMCによって復元され、『アーク』と呼ばれる物体を原動力に作動する惑星破壊兵器となる。その標的はミリシアの本拠地である惑星ハーモニーだった。
フォールド・ウェポン、そして『アーク』から放たれるエネルギーは時の流れにすら干渉するとされる。


Log.56 ミッションNo.9『フォールド・ウェポン』

 惑星タイフォン、フォールド・ウェポンの発射場。IMCのARES師団が総力を挙げて作り上げたその基地の守りは鉄壁そのもの。無数の対空砲火と多量に配備されたタイタンで、ミリシアの部隊は近づくこともできない。今はまさに、そんな状況だった。

 

『こちらゴルフ4-6! 被弾した! 畜生、制御が効かな──』

 

『こちら第三擲弾兵隊隊長、コール大尉だ! 敵タイタンの攻撃が激しすぎる! 援護を!』

 

『地上部隊は対空砲火を無力化して! タイタン部隊は出来る限りフォールド・ウェポンの近くで降下するのよ、急いで!』

 

「はぁ……はぁ……くそっ、急がないと……!」

 

 俺は高速艇のコクピットで、脇腹の傷を抑えながら操縦桿を握る。ガラスに反射して映る俺は額に玉のような汗が浮かべ、血を流しすぎたのか顔色も悪い。それだけで、既に限界を迎えているのが分かる

 それでも俺は歯軋りしながら高速艇を全速力で飛ばす。フォールド・ウェポンの発射場まではあと少しなのだが、そのあと少しが途方もなく遠く感じてしまう。

 

『パイロット、およそ2分34秒後に、フォールド・ウェポン発射場の上空に到達します。このままでは敵の対空砲火にさらされてしまいます、危険です』

 

 高速艇の上部にとりつく俺の相棒、SD-6853が暗にこのまま突っ込むのが危険であることを伝えてくる。しかし、俺は速度を緩めるどころか更に加速させて行く。

 

「相棒……ヴォーテックスシールドをオンラインにしろ」

 

『パイロット、それは……』

 

「このまま突っ込む……回避しきれない分は、お前が防ぐんだ……律儀に外から攻めていたら間に合わん、時間はもう……残されていないんだ……!」

 

『……了解しました。ヴォーテックスシールド、オンライン』

 

 それ以上何も言うことなく俺の言葉に従う相棒は、左手のマニピュレータからヴォーテックスシールドを展開する。そして、その翡翠のカメラアイは遂に見えてきたフォールド・ウェポンを捉えていた。

 砲火と爆炎に塗れるIMCの基地、天をも貫きそうな巨大な砲身、あれだ。あれをぶっ壊さなきゃ、俺たちの故郷が吹き飛ばされちまう。

 

(生きて生還する……申し訳ありません、ブリッグス司令。その命令は完遂できそうにありません……!)

 

 俺は残った燃料を使い切る勢いで高速艇を飛ばす。目指すはフォールド・ウェポン、その制御室。そこを制圧すれば、発射を阻止できる可能性がある。

 当然、IMCの自動対空砲に捕捉されるだろう、戦闘機もハエのように飛び回っている。まず間違いなく途中で撃墜されてしまう、だが、それでも──

 

(絶対に……止める!)

 

『警告、敵対空砲に捕捉されています。回避を』

 

 遂に発射場の外縁部に到達した俺たちに向けて、基地の周辺に設置されていた対空砲が火を噴く。俺は操縦桿を操作して、迫り来る砲弾をギリギリで回避し、相棒がヴォーテックスシールドで防いでいく。

 

『パイロット、後方から敵戦闘機を複数確認。捕捉されています』

 

「くそっ……あと少しだってのに!」

 

 背後から迫る複数の戦闘機が俺の高速艇をロックオンし、多数のミサイルを放つ。相棒がヴォーテックスシールドでそれを絡めとり、敵戦闘機へと跳ね返すも、敵の勢いは止まらない。

 そして、後方の戦闘機に気を取られた隙を狙われたのか、地上から飛来した対空砲の砲弾が高速艇の左翼を撃ち抜いた。

 

「ちいっ……機体のバランスが……!」

 

 左翼を撃ち抜かれたことで遂に機体の制御も効かなくなってしまう。これ以上の航行は不可能、そう判断した俺はコクピットを蹴り破って外に飛び出す。

 

(畜生……このまま降下するしか、ない……!)

 

 黒煙を吹き上げる高速艇から飛び出した俺は見た相棒もまた、高速艇から空中へと身を投げる。そのまま重力に身を任せて落ちて行く俺は、すかさずグラップリングフックを相棒のシャーシに引っ掛けてコクピットに飛び込む。

 

『パイロットモード、起動。周辺の地形をスキャン……パイロット、フォールド・ウェポンの制御室は、基地の中央にある管制塔にあります。そう遠くはありません、急ぎましょう』

 

「ああ……!」

 

『周辺には複数のタイタンの反応も検知しています。戦闘は避けられないでしょう。パイロット、戦闘準備を』

 

 基地の天井を突き破って、何処かの倉庫の中に着地する俺たち。すぐさま姿勢を立て直すと、壁を突き破って外に飛び出る。

 

『ミリシアのタイタンを発見! 攻撃を開始する』

 

 基地の道路を駆け抜けて行く俺たちの前で、複数のミサイルが炸裂し爆ぜる。その爆炎の向こうにはIMCのトーン級だ。

 

「敵タイタンを捕捉、トーン級。ロケット弾を警戒」

 

「邪魔を……するなあっ!」

 

 次々と放たれるトラッカーキャノンの炸裂弾とロケットをステップで回避し、ブロードソードで防ぐ。そのまま正面から突っ込むと、トーン級は俺たちの勢いに気圧されたのか動きがが止まっていた。

 

『退けっ!』

 

『ひっ……⁉︎』

 

 下から掬い上げるように放たれたアークウェーブ、地を這う電撃がトーン級の動きを縛り付ける。そこへ相棒のシャーシの全重量を乗せた拳がコクピットに叩き込まれ、陥没したコクピットの隙間から血が吹き出した。

 

『やりやがったな、ミリシアのクソッタレめ!』

 

 沈黙したトーン級を蹴り飛ばして、新たに現れたローニン級タイタンを迎撃すべくブロードソードを構える。

 しかし、俺の視界は既に血で赤く染まりつつあり、意識もはっきりとしていない。ただぼんやりと、相棒の声だけが聞こえた。

 

「ローニン級タイタンを捕捉。フェーズダッシュを起動」

 

「……っ、ぐぅ……!」

 

「11時の方向、ノーススター級タイタンを検知。警告、クラスターミサイルです、迅速な回避を……パイロット、しっかりしてください」

 

「あぁ、大丈夫……大丈夫だとも……」

 

「ダメージ増大、システムに重大な損傷が発生……さらに複数の敵タイタンを検知。パイロット、私の声が聞こえますか?」

 

「……」

 

「パイロットの脈拍低下、医療ユニットを起動。サンスフェンタルニ、250ml投与。死なないでください、パイロット」

 

(まだ、まだ死ねないさ……俺はまだ戦え、る……)

 

 意識ははっきりとしないのに、不思議とタイタンの操作だけはなんてことない。いつも以上に効率よく、素早く敵を倒せる。火事場の馬鹿力ってやつだろうか。

 俺は無我夢中で戦い続けた。そして、動かなくなったタイタンの残骸を踏み越えて、大きな渓谷を跨ぐブリッジにたどり着く。

 この先に、フォールド・ウェポンの管制塔がある。そこさえ制圧すれば、フォールド・ウェポンは止められる。

 

『──……ブリッジにいるバンガード級タイタン! こちら6-4、隊長のゲイツよ。そこにいるのはレイ、貴方でしょう⁉︎ 私の声が聞こえる?』

 

「……ゲイツ?」

 

 朦朧としていた意識が、通信で呼びかけてきたゲイツによって引き戻される。無線からは絶え間なく銃声が聞こえてくるため、ゲイツもまた激戦の最中にあるようだ。

 

『よかった、無事だったのね……!』

 

「は、ははっ……無事とは言えないくらっ……ゲホ、ゲホっ! ボロボロだけど、な……そっちの戦況は?」

 

『もう後がないわ、タイタンの予備もあと一機だけ……けれど、希望はある。SRSのパイロット、ジャック・クーパーがフォールド・ウェポンの制御室の近くまで来ているわ。彼のタイタンは大破したけど、替えのタイタンのシャーシさえ送り届ければ……!』

 

「付近には敵がわんさかだろう……つまり、敵の注意を引けばいい……わけだな?」

 

『貴方、まさか……特攻するつもり⁉︎』

 

「あぁ、ちょうどいい相手が俺を待ってるんだよ……」

 

 俺は相棒のカメラアイ越しにブリッジの先を見据える。すると、二機のタイタンが俺を待ち構えていた。

 リージョン級とイオン級、どちらもIMCの標準迷彩ではなく、カスタムカラーに塗装されている。そして、リージョン級に描かれた独特なノーズアート。それを見て、待ち構える二機のタイタンが何者かを分かった。

 

「前方に敵タイタンを捕捉。イオン級とリージョン級、塗装パターンとノーズアートから推測するに──」

 

「エイペックス・プレデターズ、か……恐らくは、指揮官のクーベン・ブリスク、だな……」

 

『……っ! レイ、ダメよ! 今の貴方では、彼らには敵わないわ!』

 

「そんなこと、百も承知だ。だがそれでも……一分一秒でも長く、奴らを引きつけよう。あのルーキーが制御室に辿り着くまで、出来る限り……!」

 

 待ち構える二機のタイタンも俺たちを捕捉しているのか、各々手に持つ得物を向けてくる。俺はただブロードソード一本を手に、ゆっくりと二機のタイタンへと近づいていく。

 

「あのルーキーなら、ラスティモーサ大尉の意思を継いだアイツなら、きっと……」

 

『……分かったわ。でも、一つだけ約束してちょうだい』

 

「約束?」

 

『ブリッグス司令から下された命令、必ず生還すること。この命令に背くことは、私が許さないわ。必ず生きて戻りなさい。そして、あのいけすかない野蛮人どもをぶちのめすのよ! いいわね?』

 

「ふふっ……お安い御用だ」

 

『必ず……生きて帰ってくるのよ……貴方はまだ──』

 

 その言葉を最後に、ゲイツとの通信が途切れる。最後に何を言おうとしていたのかは分からない。けれど、やっぱりなんだかんだでゲイツ姉さんは優しい。

 必ず生きて戻る、それはもはや叶わぬとは分かっていても、俺はゲイツとの約束を果たすために前へと進む。

 

『よう、別れの挨拶は終わったか?』

 

 手に持つプレデターキャノンの銃身を回転させながら、俺に銃口を向けるリージョン級。そのパイロットであるクーベン・ブリスクは、オープンチャンネルで俺に語りかけてくる。

 

『なあ、何故勝ち目のない勝負に挑もうとしてるんだ? そんなボロボロのタイタンで俺たちに勝てると思ったのか? お前は英雄にでもなろうとしているのか?』

 

「英雄になんざ……なるつもりはない」

 

『じゃあ、何がお前を振るい立たせる。名声か? 俺と同じ金か? 俺からすれば、この戦争は命をかけるほどのもんじゃあない。だが、大金は手に入る。俺は金が貰えるなら、仕事はきっちりこなす』

 

 金、それがブリスクの行動理念のようだ。金にならない仕事はしない、シンプルな考え方だ。故に、彼はここまで生き残ってこれたのだろう。

 

「……どうせ俺は、遅かれ早かれ死ぬ。生きて帰るのは……多分無理だ。だったら、残されたこの僅かな命に意味を持たせる。有意義な死に方だろ?」

 

『ふん、所詮はただの死にたがりか。だったらお望み通りに……』

 

 二機のタイタンが攻撃を始める直前に、俺はブリッジの柱の裏へと身を隠す。しかし、大きくプレデターキャノンの銃身が唸る音が響くと、一瞬間を置いて吐き出された無数の弾丸がその柱を打ち砕いた。

 

『無駄な足掻きだ、ミリシアのパイロット。フォールド・ウェポンは……もう止められない!』

 

「そんなこと……! 発射される最後の瞬間まで分かんねぇだろうがっ!」

 

 スプリッターライフルからエネルギー弾を連射するスローンのイオン級、プレデターキャノンの弾幕を叩きつけてくるブリスクのリージョン級。遮蔽場のないこのブリッジじゃ、もう防ぎきれない。

 俺は相棒の残された力、俺の残された命全てを注ぎ込むようにソードコアを起動する。次に放つ一撃が、正真正銘最後の一撃だ。

 

「保護層破損、リアクターが露出しています。危険です、パイロット」

 

「チク、ショウ……! まだ、だ……まだ、まだあぁぁ──!」

 

 盾代わりのブロードソードで防ぎきれなかった弾丸が相棒のボロボロになった装甲を穿ち、俺の身体を貫く。

 もう痛覚なんて麻痺しきってるはずだ。なのに、いつも以上に鋭い痛みが突き刺さってくる。だが、痛いと感じるってことは生きてるってことだ。俺はまだ、生きている! 

 

「がはっ……! はっ、はははっ! どうした⁉︎瀕死の俺、一人も……始末できねぇ、のか⁉︎」

 

『いい加減くたばれ、死に損ない!』

 

 イオン級のスプリッターライフルが相棒の左腕を撃ち抜き、遂にブロードソードを握る力すらも失われる。だが、相棒は耐え切った。

 スローンのイオン級は俺のブロードソードの間合いに入った。俺は残された右腕でブロードソードを振りかぶり、アーク放電を纏った斬撃を繰り出す──その瞬間、フェーズダッシュを起動した。

 

『なにっ⁉︎』

 

『むっ……』

 

(届けっ──‼︎)

 

 俺が狙っていたのはスローンのイオン級ではない、その後ろから攻撃してくるブリスクのリージョン級だ。フェーズダッシュで二機のタイタンを追い越した俺は、リージョン級のすぐ後ろで実体化した。

 そして、ガラ空きのリージョン級の背後から、コクピットを刺し貫くべくブロードソードを突き出した。

 

『なるほど、いい腕だ。だが──惜しかったな』

 

「……っ!」

 

 しかし、俺の一撃は届かなかった。俺が刺突を繰り出したと同時に、スローンのイオン級のレーザーショットが放たれていた。それが相棒の左膝を貫いたのだ。

 バランスを崩したことで俺の一撃は狙いが逸れた。そして、リージョン級のコクピットではなく、マニピュレータに握っていたプレデターキャノンを破壊しただけに終わってしまった。

 だが、俺たちにはもう何も残されていない。相棒のカメラアイから翡翠の輝きが失われ、そのまま無防備にリージョン級の前で跪いて動かなくなってしまう。

 

『流石はミリシア、少数精鋭は伊達じゃないな。そんな状態でよくもまあ……時間稼ぎは十分ってか?』

 

 ブリスクのリージョン級が破損したプレデターキャノンを放り投げると、管制塔の上の方はカメラアイを向ける。その紅い瞳には、空から落ちてくる流星の光を捉えていた。

 

『ブリスク! あれはミリシアのタイタンフォールだ! 降下地点は管制塔のすぐ近くだ……すぐに戻らなければ!』

 

『コイツはただの陽動か……俺たちを管制塔から少しでも引き離すために、無茶な特攻を仕掛けてきたワケだ』

 

 あのタイタンフォールは最後の希望だ、ミリシアに残された最後のバンガード級だ。それが管制塔のすぐ近くにまで来ているクーパーの元へと送り届けられているのだ。

 あの距離なら、制御室まで突っ込むのにそう時間はかからない。フォールド・ウェポンが発射される前に止めることができるかもしれない。

 

(あぁ……クーパー、あとは……頼む……お前が英雄になって……)

 

『……スローン、そいつにはきっちりとどめを刺しておけ』

 

 跪く相棒に歩み寄り、スプリッターライフルの銃口をコクピットに突きつけるスローンのイオン級。それに対して、相棒はコクピットの中の俺を庇うように蹲る。

 それを煩わしく感じたのか、スローンのイオン級が相棒を蹴っ飛ばして仰向けにする。それに対抗するように、相棒は機体を起こしながら弱々しくゆっくりとブロードソードを振るった。

 

「パイロ──私、は……パイロットを──守る……」

 

 振われたブロードソードの切先が、虚しくカツンと小さな音を立ててスローンのイオン級にぶつかる。スローンのイオン級はそれを無造作に振り払うと、スプラッターライフルを相棒に突きつけた。

 

『ナイストライ……もうおねんねしな』

 

 無慈悲に浴びせられるエネルギー弾の熱量と衝撃で、装甲は破壊されコクピット内のディスプレイが砕ける。飛散した金属片が俺の脇腹を裂き、俺の身体を貫いた。

 そして、必死に俺を守ろうとする相棒の努力も虚しく、トドメと言わんばかりにスローンのイオン級にブリッジの上から突き落とされる。そのまま俺たちは、血と火花を散らしながら谷底へと落ちていくのだった。

 




エイペックス、遂にあの方が参戦!
初心者から熟練パイロットまで幅広く使われるSMG『CAR』もやって来ます!

しかし、あの方の設定とか読むと、こう……色々と思うところありますね
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