Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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 ⚪︎SD-6853
ミリシア特殊偵察中隊『SRS』に所属するパイロット、レイ・フェデラル少尉にリンクするバンガード級タイタン。BTとはやや形式が異なり、既存のシャーシを流用した改修機。
元々は旧式のアトラス級タイタンであり、エド・フェデラル中尉にリンクしていた。『デメテルの戦い』の後にバンガード級へと改修され、より高度な女性型AIを搭載する。
常に冷静な分析と判断でレイをサポートし、幾多のタイタンを撃破してきた百戦錬磨の実力を持つ。しかし、一度パイロットを失ったという経験から、行動パターンに若干のバグを抱えている。



Log.57 コード:✳︎✳︎✳︎

 ニ門のレールカノンから撃ち出された徹甲弾。それは鈴にブロードソードを振り下ろそうとしていたリーゼに命中し、はるか後方へと吹き飛ばす。

 しかし、空中で宙返りしながら体勢を立て直すリーゼ。その重厚さからは想像できないような軽快な動きをスコープ越しに見たラウラは、冷静にリーゼの動きを見極める。

 

「ラウラ、福音のパイロットは保護したよ!」

 

「こちらも、箒さんと一夏さんの無事を確認しましたわ! ですが、一夏さんの方は……」

 

 気を失った福音のパイロットを抱えるシャルロットと、呆然として一夏を抱える箒と共に浮上してくるセシリア。ラウラは一夏の方に視線を向けると、ハイパーセンサーでその容体を読み取る。

 

「大丈夫、出血はしていますが傷は深くないですわ。とにかく止血しなければ……箒さん、聞いてらっしゃるの⁉︎」

 

「わ、私は……」

 

「ちっ……セシリア、一夏たちと福音のパイロットを頼む。私とシャルロットは、レイを止めに行く……任せたぞ!」

 

「ええ、分かりましたわ!」

 

「ラウラ、行こう!」

 

 スラスターから炎を噴出しながら、ラウラとシャルロットはリーゼと格闘を続ける鈴の援護に向かう。それを厳しそうな表情で見送るセシリアだったが、すぐに一夏の手当てに移る。

 しかし、一方で箒は一夏の血で濡れた手を震わせながら、呆然としたままだ。ISの具現化こそ維持しているものの、今の箒には戦う意思というものがそっくり抜け落ちてしまっていた。

 

「ぼんやりしてるだけなら、福音のパイロットを抱えていてくださいな! 私は一夏さんを手当てします!」

 

「……っ!」

 

 福音のパイロットを押し付けられてもなお、箒の表情は変わらない。その間にも、セシリアは一夏の傷口を止血し、応急処置を施していく。

 

「箒さん、何があったかは知りませんが、今はそんな風に落ち込んでる場合ではないのではなくて? 一夏さんが傷ついて、皆が戦っている中で、貴女はそれでいいのですか」

 

「……私の、私のせいで一夏は傷を負ったようなものだ……私のせいなんだ……」

 

「だから……! そんなことを言ってる場合では──」

 

『セシリア、箒! 回避しろ!』

 

 回線から飛び交うラウラの警告、それと同時にハイパーセンサーで飛翔するロケットを感知したセシリアは、大型BTレーザーライフル『スターダスト・シューター』で、ロケットを残さず撃ち抜く。

 

「鈴! 射線を箒たちの方に通さないよう気をつけて!」

 

「分かってるわよ! でもこいつ……射線もへったくれもないじゃない!」

 

 二枚の物理シールドと更に二枚のエネルギーシールドで前面を覆ったリヴァイヴ専用防御パッケージ『ガーデン・カーテン』を装備したシャルロットは、ロケットを防ぎながら鈴に注意を促す。

 しかし、鈴が言うように今のリーゼには戦い方も何もなかった。獣のようにカメラアイを左右に動かして、唸り声のような機械音を立てるリーゼは、ブツブツと途切れ途切れの音声を零しながら暴れ回る。

 

「周辺に敵タイタンを検知……エラー。パイロット、せんとう準備を……パイロット? パイロット、私の声がが、き、聞こえ……」

 

 背部に二つのアコライトポッドを展開したリーゼは、めちゃくちゃにサルヴォロケットをばら撒く。そして、手に持つXO-16をあらぬ方向に向けて連射しながら叫び続ける。

 

「レイ! 僕の声が聞こえる? 一体どうしちゃったのさ⁉︎」

 

 物理シールドで弾丸を弾きながらシャルロットが叫ぶも、リーゼはそれに応える代わりにスラスターを噴射してシャルロットへと飛びかかる。

 

「──っ⁉︎」

 

『て、てき、敵タイタンを捕捉……トーン級? パイロットとのニューラルリンクを確立できません。ロケット弾を、ケイ、警戒戒ィ──』

 

 スプリッターライフルを呼び出したリーゼは、その銃身を展開して拡散させるようにエネルギー弾を撃ち放つ。それをシャルロットはエネルギーシールドで防ぐが、その隙にリーゼの放ったエネルギーサイフォンがシャルロットの動きを縛り付ける。

 

「どこ見てんのよ、アンタの相手はあたしよ!」

 

 動きが止まったシャルロットに追撃を加えようとしたリーゼを、横から衝撃砲を叩き込む鈴。リーゼは防御することもなく無防備に吹き飛ばされるが、やはり最速で体勢を立て直し、今度は鈴へと飛びかかる。

 

「ロー、ロ──ローニン級タイ、タイタンを捕捉。フェーズダッシュを起動。パイロットとのリンクを再確立──エラー。フェーズダッシュを起動。データ領域に異常を検知──エラー。フェーズダッシュを起動」

 

 フェーズダッシュにより亜空間への転移、そして実体化。それを連続で繰り返しながら鈴との距離を詰めたリーゼは、ブロードソードを展開して斬りかかる。

 鈴も二本の青龍刀『双天牙月』で応戦するが、『甲龍』をも上回る暴走したリーゼの圧倒的な膂力に、一太刀受け止めただけで大きく後ろに押し込まれてしまう。

 

「つっ──なんてパワーしてんのよ……!」

 

「ダメージ増大、シ、システムに重大な……基幹システムの再起動を試行。パイロット、私の声が聞こえ──リブートエラーを検知。パイロット、パイロット、私、の声、が……」

 

 鈴を蹴り飛ばして一度距離を取ったリーゼは、その手にプレデターキャノンを呼び出す。そして、その銃身が回転すると同時に、銃身が青白い雷光を纏う。

 

「パイロットの脈拍低下、医療ユニットを起動──スマートコア、オンライン。サンスフェンタルニ、25、250、50ml投与──バーストコア、オンライン」

 

「……っ! 鈴、下がって!」

 

 敵を自動で探知するスマートコア、そして弾丸にアーク放電を纏わせシールドバリアーに対する威力を高めるバーストコア。その二つを掛け合わせたプレデターキャノンを、リーゼは鈴へ目掛けてトリガーを引く。

 しかし、回転した銃身が弾丸の暴雨風を吐き出すその瞬間、鈴の前に『ガーデン・カーテン』のシールドを構えたシャルロットが割り込む。

 

「つぅ──!」

 

 シールド越しに伝わる凄まじい衝撃に、シャルロットは歯を食いしばって耐える。シールドで防いでいるとはいえ、アーク放電によるダメージまでは軽減することはできなかったのだ。

 

「目標捕捉……Feuer(発射)!」

 

 遠方で閃く刹那の砲火、それに続いて轟く重たい金属音が二回。砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』を装備したラウラによるニ門のレールカノンの狙撃が、リーゼの持つプレデターキャノンを狙撃したのだ。

 銃身と弾倉を撃ち抜かれたプレデターキャノンは幾度も弾丸が爆ぜる音と共に爆散し、その爆発に巻き込まれたリーゼは両手のマニピュレータがボロボロに破損させる。

 

「……! 待って、ラウラ、鈴! リーゼの様子が変だよ……!」

 

「はぁ? どうでもいいわよ……! 暴走してんのか頭がトチ狂ったのか知らないけど、こいつが一夏を傷つけた! それが事実よ!」

 

「いや、シャルロットの言う通りだ。あの程度の攻撃で、あそこまで機体が破損するものか。恐らくリーゼは今……シールドバリアーすらまともに展開できていない」

 

 ラウラの言葉に、鈴は手を止めてリーゼの方を見る。衝撃砲で凹み歪んだ装甲。爆発で半ばから吹き飛んだマニュピレータ。ラウラの言う通り、絶対防御すら発動せず、全てのダメージが直に装甲に突き刺さっている。

 

「じゃあどうしろって言うのよ⁉︎あたしはこのままアイツを放っておくなんて嫌よ! 一発ぶん殴ってやんなきゃ……なんであんなことしたのか問い詰めてやんなきゃ気が済まないわ!」

 

「でも、下手に攻撃したら、レイが……!」

 

 両手を破損したリーゼは、暫くカメラアイだけを盛りに動かしていた。しかし、唐突に機体をのけぞらせるように痙攣させる。そして、両腕の装甲を無理やり展開し、テルミットの炎を滾らせた。

 

「待ってください、エド、エド……エド? 認識に矛盾を検知。矛盾を、矛盾を──パイロット、どこですか? 私はここです、パイロット。私はここです」

 

 あれはマズイ、そう察したシャルロットたちが機体を反転させるも、その前にリーゼが両手を眼前で突き合わせ、フレイムコアを起動。リーゼを中心に強烈な熱波が放たれる。

 凄まじい爆発と熱でシャルロットたちは吹き飛ばされるが、シールドバリアーを維持できていないリーゼも自ら放った熱波に焼かれていく。

 

「くっ……やめて、レイ! それ以上自分を傷つけるのは……!」

 

「保護層破損、リアクターが露出しています。危険です、パイロット……私は、パイロ──守る……」

 

 焼け付いた装甲が剥がれ落ち、内装が剥き出しになったリーゼ。コクピットの中にいるであろうパイロットを守るように蹲りながら、ただひたすらにパイロットを呼ぶ。しかし、返事が返ってくることはない。

 代わりにへしゃげた装甲の隙間からどろりとした赤が流れ出る。それはリーゼの流したオイルか、それともパイロットの血か。カメラアイの隙間からも流れ出たそれは、まるでリーゼの涙のように海に落ちていった。

 

「わ、ワタシを……私を、独りに──……」

 

「またっ……!ラウラ、リーゼを止めてっ!」

 

「くそっ、一か八か……!」

 

 再び装甲を展開してフレイムコアを放とうとするリーゼ。ラウラはニ門のレールカノンをオミットすると、最大出力のAICでリーゼの動きを拘束する。

 しかし、AICの見えない網に捕らえられてなお、リーゼは無理やり機体を動かそうと関節を軋ませ、徐々にねじ切れていった。

 

「頼む、止まれっ……止まってくれ!」

 

「プロ、プロトコル3、パイロットの、保護……自壊プログラム起動、リジェクトシークエンスに移行。入力、コード:✳︎✳︎✳︎」

 

「自壊プログラム⁉︎ま、まさか──」

 

 リーゼが何をしようとしているかを察したシャルロットは、焦燥の表情を浮かべる。ラウラも鈴も、同じくリーゼがやろうとしていることに気づく。

 ハイパーセンサーが、リーゼに集中する過剰なエネルギー反応を探知し、それがあと少しで爆発することを示す。シャルロットたちは全速力でリーゼへと駆けるが、一体何ができようか。

 下手に攻撃すれば、リーゼとレイをいたずらに傷つけるだけ。ハッキングして機能停止させるなんてこともできない。かといって何もしなければ、リーゼはこのまま……

 

「──皆さん、避けて!」

 

 しかし、その瞬間。周囲が眩い光に包まれる。セシリアの必死な声が響くも、それも虚しく凄まじい絶叫に掻き消された。

 

「あれ、は……⁉︎」

 

 自爆しようとするリーゼをも上回る膨大なエネルギーの反応。後ろを振り向いたラウラはその正体を目に収める。眩い光の翼を広げる天使の姿を、沈黙したはずの銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を。

 

「バカな……『第二形態移行(セカンド・シフト)』だと⁉︎何故、このタイミングで──」

 

 新たに生成された二枚の光の翼を構えた福音は、近くにいたセシリアと箒を振り払うように翼で薙ぐと、とてつもない加速力で三人の方向へと飛び出す。

 しかし、福音の狙いは三人ではなかった。狙いは自分の翼を奪おうとした黒い悪魔、福音はリーゼへ目掛けて飛翔しながら、大量のエネルギー弾を射出する。

 

『キアァァァアア……‼︎』

 

 射線上にいた三人も巻き込み放たれる凄まじい弾幕、それは無防備なリーゼへと降り注ぎ、ラウラと鈴は瞬く間にシールドバリアーを削り取られ、ボロボロになっていく。その中で、『ガーデン・カーテン』で何とか弾幕を防いでいたシャルロットは、福音がリーゼを狙ってることに気づく。

 

「やらせない……! それだけはっ!」

 

 身を呈してリーゼの盾になるシャルロット。物理シールドは既に半壊し、エネルギーシールドでも防ぎきることはできない。それでも、シャルロットは歯を食いしばり、目を瞑って耐え続けた。

 しかし、不意に弾幕が止む。シャルロットが目を開ければ──目の前には、福音の無機質なバイザー。シャルロットへと手を振り上げる福音がいたのだ。

 

「あっ……」

 

「ぐうっ……! シャルロット……!」

 

「こんの……ふざけんじゃないわよ……!」

 

 機能停止寸前まで追い込まれたラウラと鈴が、福音を止めようと傷ついた体を奮い立たせる。だが、福音までのわずかな距離すら間に合わない、福音は無慈悲にシャルロットへと翼と同じ光のエネルギーを纏った手を突き出した。

 

「……っ‼︎」

 

 ぐしゃりと金属がへしゃげ、潰れる嫌な音が響く。血とオイルが入り混じった赤が宙を舞う。それを──リーゼに横へ押しのけられたシャルロットは呆然と眺めていた。

 

「レ……イ……?」

 

 福音がリーゼのシャーシを貫いた手を引き抜くと、リーゼのカメラアイの、シアキットの輝きが遂に消える。そして、シャルロットの盾となったリーゼは、黒煙を吹き上げながら海へと堕ちていった。

 

「レイ──っ⁉︎」

 

 福音は、今度は堕ちていくリーゼへと手を伸ばすシャルロットに向けて翼を広げる。シャルロットはあらん限りの声でレイを呼ぶが、返事が返ってくることはなく、福音は無慈悲にエネルギー弾を射出しようとした。

 しかし、それは遠方から飛来した無数の弾丸によって中断される。福音が弾丸が飛んできた方向に視線を向ければ、その遥か先には長距離航行用の追加パッケージを換装した一機のラファール・リヴァイヴがいた。

 専用機ではなく訓練用のラファール・リヴァイヴを纏い、怒りに満ちた表情で福音へとアサルトライフルを構えるのは──サラだった。

 

「よくも……兄様を……!」

 

 背部に装着した追加スラスターをパージし、両手にアサルトライフルをコールしたサラは、怒りに任せて福音へと突撃する。それを海へと堕ちていくリーゼは、光の消えたカメラアイでじっと見つめていたのだった。




人間性を捨てていると思うな。人間の虚弱さを脱ぎ去っているだけだ。
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