Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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またもや久しぶりの投稿に……
読んでくださっている方々には申し訳ないの一言でございます

そして、いきなりオリキャラの過去話とよく分からん展開でございます


Log.59 ミッションNo.0-2『オルトロス攻防戦』

 

 手に持つアサルトライフル『R-201』、残弾はマガジンに込められた十数発のみ。背中に背負った対タイタン用装備のチャージライフルは、──ああ、コイツはもう銃身が焼き切れて使い物にならないな。

 他に残されたのはデータナイフと愛銃のリボルバー『B3ウィングマン』、その予備の弾薬がいくつか。もう正面きっての撃ち合いはできないか。

 

(クソッ、ここがこんな激戦区になっちまうとはなぁ……まったくツイてねぇぜ)

 

 フロンティア宙域にある惑星エキドナ、ここにはIMCが建造した巨大な軍事都市『オルトロス』がある。フロンティアにおける戦略的要所でもあるこの都市は、今や熾烈な戦場と化していた。

 IMCに対抗するレジスタンス組織であるミリシア、ここ最近の奴らはどうにも勢い付いている。まさかこのオルトロスが陥落しようなどと、夢にも思わなかった。

 

「おいデルタ2、デルタ5、応答しろ。まだ生きてるか? 生きてんなら返事しろー」

 

『……デルタ1かっ⁉︎こっちはヤバい、ミリシアのパイロットどもが──』

 

「おっとっと、取り込み中かい。デルタ6はどうした、死んだか? ……ああ、こりゃ死んだか」

 

『か、勝手に──勝手に殺すんじゃねぇ……っ‼︎畜生、IMSワイバーンが墜とされるぞっ⁉︎』

 

 無線機から聞こえてくる友軍の悲鳴をBGMに、俺は瓦礫が散乱する道路を行く。頭上を見上げれば、黒煙を噴き上げて墜落寸前の巨大戦艦『IMSワイバーン』が見える。

 何を隠そう、IMSワイバーンにあれだけの痛手を与えたのは、オルトロス外縁に配置されていた対空兵器群だ。つまり俺たち艦が俺たちの兵器で堕とされそうになってるのだ。

 

(ミリシアのパイロットども、片端から砲台をハッキングしやがって……おかげこっちの航空戦力はぜーんぶ自分の砲台に撃ち落とされるハメになっちまった。それに、他の防衛兵器を統制する中枢制御まで掌握されつつあるときた……)

 

 IMSワイバーンは全長400m以上もある。それが墜落したらどうなるかなんて容易に想像できる。早々に撤退したいところだが、上からの指示もすっかり途絶えたままだ。さて、どうしたものか。

 

「何はともあれ、相棒と合流せにゃならんか……んっ?」

 

 不意に頭上を掠める影、背筋に走る悪寒、敵に狙われている感覚──俺は腰に装備しているジャンプキットを噴射し、宙返りするように飛び上がる。すると、俺がいた場所に何発かの弾丸が撃ち込まれる。

 撃たれた方向を見れば、ウォールランで加速しながらこちらに迫り来るミリシアのパイロットが視界に映る。その手に持つアサルトライフル『フラットライン』は、既に銃口が俺の眉間に定められていた。

 

「ちいっ──‼︎」

 

 咄嗟に空中で体を捻り、放たれた弾丸を回避する。運良く弾丸はヘルメットの表面を掠めただけで命中はしなかった。しかし、追撃で叩き込んできた飛び蹴りまでは回避できなかった。

 プロテクター越しにも伝わる重たい衝撃は、容易く俺の肋骨を砕き折る。俺はヘルメットの中に血反吐を吐き出しながら地面に転がると、必死に立ち上がりながらライフルを構える。

 

「げ、げほっ……チクショウっ、やりやがったな……!」

 

「しぶとい奴だ……諦めろ、虎の子の戦艦もすぐに堕ちる。もうお前たちの負けだ!」

 

「うるせぇ! んなことぁ分かってんだよっ、だからすぐに撤退してーんだ俺は!」

 

「その必要はない、俺が今ここで仕留めてやる」

 

 突進してくるミリシアのパイロットを迎撃しようとR-201を連射するが、それすらも回避されてしまう。再び目の前まで距離を詰められると、ミリシアのパイロットは俺に鋭いボディブローを繰り出す。

 

「うぐっ……この、野郎っっ……!」

 

「くたばれっ!」

 

 何とか腕で防ぐが、肺の中の空気全てが吐き出され、俺は苦痛に呻く。それでも俺は歯を食いしばって耐え、ミリシアのパイロットが持っていたフラットラインを蹴り飛ばす。

 武器を失ったミリシアのパイロットは、すぐにホルスターの拳銃を引き抜こうとした──が、その動きはブラフ。ミリシアのパイロットは俺の手首を掴むと、そのまま捻り上げる。

 

「て、てめっ、うおぁっ⁉︎」

 

 みしりと肘関節が悲鳴をあげ、俺は背中から地面に叩きつけられる。そして、衝撃で飛びかけた意識を何とか引き戻した時には、既に俺のR-201の銃口が突き付けられていた。

 

「げほっ、げほっ……人の銃を盗るとは手癖の悪い奴だな、おい」

 

「減らず口を叩きやがって。まあいい、これで終わり──っ⁉︎」

 

 俺から奪ったR-201の引き金を引くミリシアのパイロット。だが、そのヘルメットの下では、勝ち誇った表情が驚愕へと変わっていたことだろう。

 何故なら、引き金を引いても銃声は響かなかった。カチリと虚しく弾切れの金属音が聞こえてきただけだったのだ。

 

「あー悪いね……その銃は俺が全部擊ち尽くしちまった」

 

「貴様っ……⁉︎」」

 

 ライフルを捨てて退こうとしたミリシアのパイロット、しかし、その前に腹と胸に一発ずつ弾丸が撃ち込まれる。もちろん、火を噴いたのは俺の愛銃『B3ウィングマン』だ。

 

「ふー……やれやれ。ハッタリで弾切れのライフル抱えておいて正解だったぜ」

 

「がっ……がはっ……」

 

「お、まだ息があんのか。しぶといねぇ。どれ……」

 

 ウィングマンで撃ち抜かれ倒れたミリシアのパイロットは、ヘルメットの隙間から吐血して地面に赤いシミを作る。

 俺は先程蹴り飛ばしたアサルトライフルの『フラットライン』を拾い上げると、その銃口を持ち主に向ける。自分の銃に撃ち殺されそうになったんだ、これはその仕返し──と思いきや、だ。

 

「んん? ……はっ、考えることは同じかい」

 

 引き金を引いてみれば、なんと弾は一発も発射されなかったのだ。つまり、最初の銃撃で既に弾切れだったのだ、コイツも俺と同じように、ブラフで弾切れのライフルを抱えてたわけだ。

 しかし、何とか迎撃できたものの、もうこれ以上の戦闘は無理だ。装備的にも体力的にもキツい。

 

(肋骨の痛みは……耐えられないほどじゃないが、コンディションは全快時の40%ってとこか。潮時だな、とりあえず後方に下がって……ん? おかしいな、急に周りが暗くなったぞ? 何でかなぁ……)

 

 ヘルメットの下で、俺はじとりと嫌な冷や汗をかく。気づけば辺りは影に覆われて薄暗くなり、地鳴りのような轟音が空から降ってくる。

 言わなくても分かるよ、何が起きてるかなんて分かってる。上を見れば一目瞭然さ。なんてことはない、限界に達した全長400mの戦艦が墜落してきてるだけ──

 

「ちょっ、おまっ、じょ、冗談じゃあぁ……ねえってえぇぇっ⁉︎」

 

 空を覆うほどの巨大な船体は、砲火に巻かれて炎を吹き上げながらビル群に衝突。ガラスと鉄片のシャワーを降らせながら、地表へと迫り来る。

 アレが地面に激突したら、そのまま爆発四散したら、間違いなく俺も消し炭になる。俺は全力で走り出すが、これはもう間に合わない。

 

(撤退するタイミングを完全に見誤った、さっさと戦線を放棄して後退すりゃあよかった! ああクソッ、マジでここで死ぬのかよ、俺は……!)

 

 どうせ死ぬのなら、さっきのパイロットに殺されればよかった。こんな風に巻き添えで死ぬなんてダサすぎる。いやいや、それよりも見ろよ。なんだか周りの景色がゆっくりになって、落ちてくるネジの一本まで見分けられるぞ? 

 こりゃアレだ、死ぬ間際の走馬灯とかいうアレだ。さて、これまで俺の思い出といやぁ……あれ? 俺の思い出? 俺は、ここ惑星エキドナに来る前は何してたっけ? 

 

(エキドナの任務についてからの数年間は覚えてる、その前は何してたんだ。そもそも俺は、なんでIMCのパイロットやってんだ? なんで俺は……死に際にこんなことに気づいたんだ……?)

 

 一度頭をよぎった疑問は、その瞬間まで離れることはなかった。ISワイバーンが周りのビルを巻き込んで地面に墜落し、その衝撃で地盤が砕ける瞬間まで、俺は自分の中にある記憶を手繰っていた。

 記憶はある。自分が何処で生まれたかも分かる、親の顔も、友人と馬鹿騒ぎしたことも、酒と女に溺れる夜も、全部記憶にはある。だが、灰色で味気ない、思い出とは呼べない。

 何より、なぜ俺はIMCのパイロットとして戦ってるんだ? 金で雇われた傭兵なら、ここまで命をかけて戦う義理もないだろうに。そうだ、相棒のデータベースになら、今までの記録が全部残ってる。アイツは何処だ、相棒に会いたい……

 

「は、ははっ……おーい、相棒──」

 

 俺が相棒の名を呼んだ時、IMSワイバーンはオルトロス中央に墜落した。その衝撃は容易く大地を引き裂き、都市を粉砕した。

 俺はなす術もなく爆風に吹き飛ばされ、あっさりと意識を刈り取られた。死ぬ、そう思った。けれど、初めて死ぬ気がしなかったのは……何故だろうか? 

 

 

 

 

 ──

 

 

「……げほっ、げほっ……はぁ、俺も悪運だけは大したもんだよな……」

 

 どれくらい気絶していたかは分からないが、とりあえず生きている。目の前に戦艦が墜落してきたというのに、よくもまあ死ななかったものだ。

 俺は体に乗っかる瓦礫をどかして立ち上がると、痛む脇腹を押さえながら辺りを見渡す。

 

「……で、ここは何処だ?」

 

 殆ど明かりもない薄暗い空間、頭上を見上げれば崩れた天井と遠くから差しこむ微かな陽の光。俺はどうやら、オルトロスの地下施設に滑落してきたようだ。

 確かにオルトロスの地下には広大な軍需工場や研究施設が敷き詰められている。しかし、俺も滅多に足を踏み入れたりしねぇんもんだから、自分が何処ら辺にいるかの見当もつかん。

 

「デルタ3、デルタ4、聞こえるか? 相棒、応答してくれ! ……ちっ、無線も使えねぇか」

 

 見たところ通路の電灯の類も全部消えてるようだし、地下施設の機能も死んでいるのだろう。地上に戻る以外、味方とコンタクトは取れなさそうだ。

 俺はヘルメットの暗視機能をオンにし、ウィングマンを片手に薄暗い通路を進む。ここもいつ崩れるか分かったものじゃない、さっさとエレベーターでも見つけないと。

 

「相棒がいりゃあなぁ、周辺環境のマッピングなんてお茶の子さいさいだってのになぁ……」

 

 瓦礫に塞がれた通路を迂回し、へしゃげたセキュリティゲートをこじ開ける。ゲートの先は何かの生産ラインになっていて、ベルトコンベアやロボットアームの類の列が延々と続いていた。

 当然、生産ラインは既に停止しているが、作業用に配置されていたマーヴィンだけは虚しく動き続けている。

 

(ふむ、このラインを辿れば地上への搬出路に出られるかもしれん)

 

 俺はただ決められた動作を繰り返すマーヴィンたちの間をすり抜け、生産ラインの奥を目指す。しかし、その時だった。

 

「──ッ‼︎」

 

「うおっ……⁉︎」

 

 ガシリと襟首を掴まれ、俺の首が絞まる。俺は振り向きながら背後の襲撃者に向けて後ろ蹴りを放ち、よろけたソイツに向けて素早くウィングマンを構える。

 後ろから掴みかかってきたのは、マーヴィンと同じく機械の身体をもつ兵士。IMCの主戦力でもある自動機械化歩兵『スペクター』だ。

 

(こいつ、どっから湧いてきやがった……? いや、それよりも、なんで警告も無しに俺に掴みかかってきた? 俺を敵だと思ってんのか……?)

 

 スペクターはIMCが開発したロボット兵器、同じくIMCに所属している俺は味方だ、友軍信号を認識しているはずなんだ。なのに、何故こうも俺に向かって──

 

「……っ! 止まりやがれ、撃つぞこの野郎!」

 

 警告を飛ばすも、それを無視して突っ込んでくるスペクター。そりゃそうだ、ロボットにこんな警告が通じるわけねぇ。俺は即座に引き金を二度引き、スペクターに向けて弾丸を撃ち込む。

 しかし、そのスペクターは獣のような動きで回避すると、壁や天井を当然のように駆け回り、俺に襲いかかってきた。

 

「こいつっ……!」

 

 俺はデータナイフを抜いて迎撃しようとしたが、それよりも早く俺の前に拳銃が突きつけられる。そして、そのスペクターの輪郭がぼやけたかと思えば、電子音とともに姿が変化していく。

 特殊な迷彩装備で自身の姿をスペクターに化けさせる、IMCには確かにそういう装備がある。しかし、スペクター迷彩が解除されても、そいつの見た目はあまり変わらなかった。変化したのは頭部、無骨なカメラアイから、女性の仮面のような頭部へと変化していた。

 

「なるほど、スペクターに化けてたわけか……だが、なんだその珍妙な姿は? お前もロボットか?」

 

「……失礼ですね。私は貴方よりも『完璧』な存在ですよ? ……それよりも、貴方はIMCのパイロットですね。こんなところで何をしているのですか?」

 

 スペクターよりも細い手足、胴体も完全に機械化しているのか異様に薄い。そして、なによりも不気味なのは、能面のようにぴくりともしない表情だ。全身義体の女は素顔をフードで隠しながら俺に問い詰めてくる。

 

「名乗りなさい、脱走兵ならすぐに射殺しますよ」

 

「いや……だ、脱走兵じゃねぇよ。俺は崩落に巻き込まれてここに迷い込んだのさ。名前はエド・フェデラル、階級は中尉……アンタこそ何者だよ」

 

「私のことはどうでもいいです。しかし、その名前は……これはいい実験になりそうです。エド中尉、私についてきなさい」

 

「はぁ……?」

 

 全身義体の女は俺についてくるようジェスチャーすると、銃口を下ろして歩き出す。俺は意味が分からず困惑してしまうが、大人しく女について行くことにする。

 後ろから銃を突きつけ返してやろうかと思ったが、背を向けていても女に隙はなかった。コイツは只者じゃない。

 

「……何処へ連れていくってんだ?」

 

「すぐに着きますよ。ほら、ここです」

 

 全身義体の女に連れられてたどり着いたのは、地下施設の最奥。重々しいゲートを越えると、そこには幾つかの溶液で満たされた大きなカプセルがあった。いくつもの計器や機械に繋がれ、厳重なセキュリティが敷かれているところを見るに、ここはかなり重要な施設らしい。

 しかもカプセルの中では、年若い少年少女が目を瞑って溶液に揺蕩っていた。クローン人間の生産プラントだろうか? それにしては数が少ないが。

 そうやって俺が首を傾げていると、女がカプセルの方を顎でしゃくる。近づいて確認してこい、ということだろう。

 

「ちっ、意味が分かんねぇぞ。これが何だって……いや、待てよ。このカプセルに記されてる名前……ヒルシュ・イーブリッド少尉! コイツは確か、俺と同じオルトロスに配属されているパイロットだ! これはパイロットのクロー、ン……ま、まさかっ⁉︎」

 

 パイロットのクローンを作る、それが何を意味するかは明白だ。これはパイロットの再生用のクローンだ。だが、もっとも重要なのはそこじゃない。

 

(俺は……俺は自分が再生したという記憶はねえが、そんな記憶(曖昧なもん)は幾らでも弄られる……)

 

 俺はカプセルを一つ一つ確認していくと、ついに最後の一つで見つけてしまった。カプセルの中で眠る少年、記された名前はエド・フェデラル。その横には、再生した回数を示す世代数も記されていた。

 

「俺のクローン……! しかも、世代は……第四世代……なんてこった、俺はもう二回も再生していたのか⁉︎」

 

 二回の再生、つまり俺は二度の死を経験している。今ここにいるのは、三人目のエド・フェデラルってわけか。

 流石の俺も驚きを隠せず、つい膝をついて頭を抱えてしまう。そんな様を全身義体の女は小馬鹿にするように見下ろしいた。

 

「その反応、どうやら期待はずれだったようです……何をそんなに驚いているのですか? パイロットなら誰しも経験することではないですか。私たちは再生を繰り返すことで、より合理的で完璧な『兵士』になれるのですよ」

 

「……合理的で、完璧、だぁ?」

 

「はい。兵士にとって最も不確定な要素、それが心や意思といった人間性です。兵士は与えられた命令に従い、それを最大効率で実行する。それが全てです。心なんてものは必要ないのですよ」

 

 そう言って全身義体の女は拳銃を構えると、カプセルの一つに向けて数度引き金を引く。スライドガラスに弾痕が刻まれ、中にいた少年の頭部はスイカのように砕け散った。

 

「なっ……て、てめぇ、何してんだ⁉︎」

 

「この基地はまもなく放棄される、ミリシアの手に堕ちる前にパイロットたちのクローンを始末し、施設を完全に破壊しろ。そう指示されているのです」

 

 そう言って全身義体の女は、今度は俺のクローンに銃口を向ける。俺のクローンが殺される……それは俺が殺されるのと同義だ。冗談じゃない、自分の頭が吹き飛ばされる様を見て喜ぶやつなんかいるかよ⁉︎

 

「──じゃねぇ……ふざけんじゃねえぞ⁉︎ソイツに手ェ出すんじゃねぇ!」

 

 俺は腰のホルスターからウィングマンを引き抜き、最後の数発を全身義体の女に向けて撃ち放つ。

 全身義体の女はすぐにコンテナの影に隠れて弾丸を回避する。俺はその隙に自身のクローンが収められたカプセルのスライドガラスを蹴り砕くと、クローンの少年を抱えて走り出す。

 

(IMCのクソどもめ……っ‼︎マジに俺たちパイロットを使い捨ての消耗品にしか見てねぇんだな……! 俺がこんな連中に何年も雇われてたなんて信じられねぇ。きっと都合の悪い記憶は全部改竄されてたんだ……!)

 

 二度も再生した時点で、記憶の大部分が弄られたと考えるべきだ。IMCのために戦うことに何の疑問も持たない、都合のいい操り人形にされてたんだ。

 その上、IMCのクソどもは勝手に俺のクローンを作って、また勝手な都合で殺そうとしている。これ以上に人の尊厳を、人の魂を踏み躙る行為があるだろうか。

 

『待ちなさい。そんな物言わぬ肉塊を抱えて、何処に行こうというのですか?』

 

 後ろから追ってくる全身義体の女の声。俺は振り返ることなく、全力で停止したコンベアの上を走り抜ける。

 

『貴方が死んだ時、貴方の記憶は貴方が抱えるソレに受け継がれ『再生』する。つまり、今のソレには人格も何もない、空っぽの肉体。機械的に鼓動を刻むだけの……一体何の価値があるというのです? なぜ、そんなものを庇うのです? 私には理解できません』

 

「うるせぇ! 俺はな、人殺しのパイロットどけどな……それでも人並みの感性ってもんはあるんだよ、テメェと違ってまだ『人間』なんだよ、俺はっ!」

 

『人間であることに、そこまでこだわる必要が……』

 

「──ったりめぇだろうが馬鹿野郎っ。テメェみてたいな機械の体じゃあ、酒も飲めねぇし女も抱けねぇだろうが! 俺にゃ死活問題だっ!」

 

「……実に下らない答えですねっ……!」

 

 すぐ後ろにナイフを振りかざす全身義体の女が迫る。そのまま俺ごとこのクローンの少年を始末する気なのだ。

 しかし、俺も黙って殺される気なんてない。もう俺には反撃できる武器もないが、それでも俺を守ってくれる奴が──いつだって窮地に駆けつけてくれる戦友がいる! 

 

「なぁ、そうだろ……相棒──っ‼︎」

 

 俺が相棒を呼んだ瞬間、俺のすぐ後ろで天井が爆ぜる。そして、巨大な鉄塊が瓦礫を粉砕しながら現れる。全身義体の女はすんでの所で崩落を避けたが、目の前に現れた鉄塊を前に足が止まった。

 

『パイロットを確認……フォローモードを起動、パイロットを援護します』

 

「タイタンですか……‼︎」

 

 全長4メートルほどの鋼の巨体、周囲を見透かす紅いカメラアイ、無骨で兵器然としたシルエット──土煙を掻き分けて全身義体の女の前に立つそのタイタンは、俺の相棒であるアトラス級タイタンだった。

 俺は相棒の肩に飛び乗ると、全身義体の女の方を一瞥する。やはりフードで表情は隠れて見えないが、俺には女が怒りの篭った視線を向けているように感じた。

 

「はっ……心は必要ねぇとか言っておいて、てめぇも感情は捨てきれてないんじゃねぇのか?」

 

「……黙りなさいっ……! 貴様と一緒にするな……!」

 

「ああ、一緒になんかしてほしくないね。いいか、IMCのバカどもによーく伝えておけよ。俺は今日限りでIMCのパイロットを辞める、ミリシアにでも寝返ってやる。お前らの元で働くのは、もうウンザリなんでね……行け、相棒!」

 

 俺が指示を出すと、相棒は俺を背に乗せたまま駆け出す。そして、コンベアの先にあったシャッター突き破り、薄暗い搬入路を突き進んでいく。

 後ろからはあの全身義体の女が怒りに叫ぶ声が聞こえて来るが、俺たちは振り返ることなく前に進み続けた。とにかく、このオルトロスを生きて脱出するために……

 

 

 ──

 

 

(はぁ……これで俺もブラックリスト入り、IMCには裏切り者として指名手配されるだろうなぁ……)

 

 どれくらい走り続けたかは分からないが、俺たちは何とかオルトロスを脱出できた。今は地下施設から下水道を抜け、都市部から何キロも離れた丘陵地帯にいた。

 丘の上から遠くを見渡せば、黒煙と炎に包まれたオルトロスが見える。地下施設に閉じ込められることなく脱出できたのは、本当に幸運だった。

 

(しかし、これからどうするか……まずはこの惑星エキドナから脱出して、惑星ハーモニーに行こう。あそこにはミリシアの本拠地がある。相棒の整備もそこでなら……そういや、相棒はどうして俺について来た? いや、どうしてついて来れた?)

 

 相棒はIMCが製造したタイタンだ。俺とリンクしてはいるものの、根本的なシステムとしてIMCから下された命令には逆らえないはずだ。つまり、こんなふうに戦線を放棄して脱走するなんて、プログラムされたAIとしてはあり得ないことだ。

 

「もしかして……お前は自分の意思で俺を助けてくれたのか?」

 

「……?」

 

 俺の問いかけに対して、瞬くようにカメラアイを開閉させる相棒。まあ理由はなんでもいいさ。相棒が俺を助けてくれた、それが事実だ。相棒のおかげで俺もコイツも──

 

「おっ……見ろよ相棒! コイツ、目を開けようとしてるぞ! 意識があんのか?」

 

 相棒が抱える俺のクローンの少年が、うっすらと目を開ける。だが、虚な瞳で焦点は合ってないし、とても意識がはっきりしているようには見えない。

 それもそうか。身体は戦う兵士として完成していても、中身は生まれたばかりの赤ん坊と同じ状態なんだ。

 

(つい勢いで助けちまったが……コイツはこれからどうなる? 一生このままか? それとも、心が芽生え、自我が生まれるのだろうか? 普通の人間にゃなれると思えねぇが……もしかしたら、あのまま死なせてやった方がよかったのかね)

 

 ただ、あのままだったらこの少年は死んでいた。この何者でもない少年を、何者にもなれないまま死ぬという運命から救ってしまったのは俺だ。

 まあ丁度いいということにしよう。コイツが自分の意思で自由に生きられる男になるまで、責任を持って面倒を見ようじゃないか。

 今しばらくは──それが俺の生きる目的、俺が引き金を引く理由だ。

 

「相棒、もし俺が死んだら……コイツを守ってやってくれよ。俺と同じ血を分けた兄弟、いや息子……ちと歳の差が微妙だな。とにかく、守るべき家族だ」

 

「新規パイロットを確認、搭乗権限の移行を──パイロット、対象のデータが不足しています。対象の識別名称から登録してください」

 

「ん? まずは名前を付けろって? そうだな、確かに名前がなきゃなぁ……」

 

 俺は顎に手をやって少年の名前を考える。そこで思い浮かんだのは、オルトロスで出会ったある傭兵パイロットから聞いた話だ。

 遠い宇宙の彼方にある人類の故郷、地球。その青い海に浮かぶ、ある島国の話だ。そいつは昔、その島国にいたんだと。かつては美しい四季の移ろいと独特な文化を持つ国だったらしい。今は見る影もないそうだが。

 そして、その傭兵パイロットは、俺にその国の言葉を幾つか教えてくれた。『ニンジャ』とか『サヨナラ』とか。その教えてもらった言葉の中から一つ、名前として選ぶのなら──

 

「レイ、それがお前の名前だ。数字の0を表す言葉さ。0は空っぽの数字だが、最初の文字でもある。これから全てが始まるお前にゃピッタリだろ?」

 

 そうさ、俺もここからやり直すんだ。惑星ハーモニーまでの道のりは長い、コイツと一緒に旅をしながら取り戻すんだ。

 一人の人間としての意志を、誇りを……魂を取り戻すんだ。俺はIMCに言いなりの人形なんかじゃない、使い捨ての消耗品なんかじゃない。俺は──パイロットなのだから。

 

 




ギリシャ神話ではエキドナは巨人の神テュポーン、あるいはタイフォンの妻だそうな
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