Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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 ⚪︎パイロット
 タイタンとリンクする操縦者。その多くは土木建築などの技術者であり、戦闘用のフルコンバット認証を所持するパイロットは希少。軍用タイタンに搭乗するパイロットには高い能力が求められ、候補生の98%は道半ばで命を落とす。
 戦場の行方を左右するほど重要な戦力ではあるが、例え死にかけるほどの重傷を負っても『再生』によって再び戦場に帰ってくるとされる。


Log.6 作戦ロケーション:IS学園 ①

 ユーラシア大陸東部に位置する島国、日本。IS学園のおかげもあって世界中から優秀な女性が集う国、といっても過言ではない。

 しかし、織斑一夏の存在によって状況が一変する。束によれば織斑一夏は強制的にIS学園に入学させられたそうだが、そうなると周りの国々も黙ってはいまい。

 まず間違いなく、織斑一夏と接触して情報を得ようとするものが出てくる。中には強引な手に出る者もいるかもしれない。

 それらから織斑一夏を守るのが俺の任務。あとはもう一人、束の妹である篠ノ之箒も護衛対象だったな。

 

(さて、織斑一夏とはどんな男なのか。あまり堅苦しい感じじゃないほうがやりやすいんだが……ともかくファーストコンタクトは大事だな)

 

「……」

 

「少しは落ち着けって。もうそろそろ着くぞ、サラ」

 

「あうぅ……緊張してきたのです」

 

 日本の街並みを眺めつつ、緊張で固まっているサラに声をかける。本当なら二人でゆっくり観光でもしながらリラックスしたいところだが、まあ遊んでいる暇もないというもの。

 

(仕方がない、日本の美味い飯や酒を楽しんでみたかったがそれは後回しだな)

 

 バス停の名を告げるアナウンスに耳を傾けながら、指定された料金を払ってバスを降りる。すると、目の前には周りのビル群とは違う雰囲気を放つ大きな建物があった。

 住所に間違いはない、ここがIS学園だ。遂にここに来てしまったのだ。サラの言う通り、俺も緊張してきたのか少し肩に力が入ってしまう。

 束の話によると、このIS学園で教師を務めている織斑一夏の姉、織斑千冬に既に話が通っているとのことだ。まずは彼女を探さなくてはならない。とはいうものの、何処に彼女がいるかなど分かったものではない。勝手に入って歩き回ってもいいものなのか? 

 

「リーゼ、学園内の様子をスキャンできるか?」

 

「周辺環境のスキャン開始……幾つかの場所で人口が密集している場所があります。殆どが十代ほどの女子、しかし、一部二十代以上の女性が集まっている区域があります」

 

「ふむ、とりあえずはその部屋を目指してみるか」

 

「パイロット、お待ちくだっ──」

 

 俺はどうも気分が浮ついていたのか、リーゼが話ししている最中だったというのに、IS学園の校門を超えて敷地内に足を踏み入れてしまったのだ。パイロットとして、こんな油断の仕方をしてしまうなんて情けない二もほどがある。

 そして、俺が足を踏み入れた次の瞬間、周囲にサイレンのような警告音が響き渡り始めたのだ! 

 

『学園に登録されていない不審なISコアを探知、職員は第二種戦闘配置、侵入者を拘束せよ。繰り返す、学園に……』

 

「お、おいおい……なんじゃこりゃ……」

 

「パイロット、この校門には複数のセンサが取り付けられています。迂闊に足を踏み入れるのは危険でしょう」

 

「マジか……っていうか話は通ってるんじゃなかったのか!」

 

「兄様、あれを!」

 

 サラが指をさした方を見れば、学園の空に浮かぶ無数の影。こちらへと目掛けて飛来してくるそれは──IS、この学園の職員たちだった。

 

「周囲に複数のコア反応を確認」

 

「うおぉ……さすがにこれはマズイ……」

 

 俺とサラを取り囲むように降り立つ複数のIS、装甲形状からあれはラファール・リヴァイヴと同じく第二世代機の打鉄か。

 幾ら何でもこうまで数の不利があると、戦ったところで袋叩きにされるのがオチだ。とにかく、敵ではないことをアピールしないと。 

 

「手を挙げろ、抵抗はするな! ISを所持しているのはそっちの女子の方か……?」

 

 取り囲んだISの内、ラファール・リヴァイヴを纏った女が高圧的に俺に問いかけてくる。ここは刺激しないように慎重に、だ。

 

「あー……すまないが、織斑千冬、とやらに会わせてもらえないだろうか。一応、そっちに話は通ってるはずなんだ」

 

「なんだと? 一体なんの話をしている、デタラメを言っているのではないだろうな⁉︎」

 

「いやいや、そんなことは……束から話が入っているはずなんだ」

 

「束……⁉︎まさか篠ノ之束博士のことを言っているのか……⁉︎」

 

 束の名前が出た途端、俺を取り囲んだ学園の職員たちにどよめきが走る。さすがは束、名前だけでもすごい影響力だ。

 だが、いきなり束の名前を出したのはマズかっただろうか。いや、どうせ遅かれ早かれ俺が束に送り込まれたことは露見するんだ、構やしない。

 

「嘘をつくな! 貴様のような男が篠ノ之博士と関係があるわけないだろう!」

 

「兄様、皆怒ってるのです……!」

 

「……こりゃ逆効果だったか」

 

 アサルトライフルやらマシンガンやら、各々の獲物をこちらへと向けてくる学園の職員たち。どうやら、余計にことを荒立ててしまったみたいだ。

 まさに一触即発といった雰囲気。俺は手首に装着されたリーゼにいつでも動けるように指示しながら、サラを後ろへと下がらせる。

 いきなりぶっ放してくることはないだろうが、この膠着が続けば多少強引な手立てに出てきてもおかしくは無さそうだ。

 

「そこまでだ、全員警戒態勢を解除しろ」

 

 張り詰めた空気の中、凛とした女性の声が通る。声の方を見ればそこには長身黒髪の美人がいた。しかし、放たれる威圧感は戦場の兵士以上のもの。

 一目で分かった、彼女がそうなのだ。世界で初めてのISパイロットであり、世界で初めてISの世界の頂点に立った最強の代名詞。現れたその女性はブリュンヒルデ、束がよく聞かせてくれた織斑千冬その人なのだ。

 

「……皆、そこの二人が篠ノ之博士の命でここに来たというのは事実だ。私が直接話を聞いているので、後の対応は任せてほしい。皆は通常業務に戻ってくれ」

 

「えと……大丈夫なんでしょうか……」

 

「なに、もし彼らが抵抗するようなら私がこの手で拘束する」

 

 ギロリと音が聞こえてきそうなほど鋭い視線を向けられる。思わず背筋に悪寒が走った、束がキレた時と同じような視線だな。

 

「……分かりました織斑先生、後ほどご説明をよろしくお願いします」

 

 喧しく鳴り響いていたサイレンが鳴り止み、俺たちを取り囲んでいたISたちは一人また一人と武装を解除して去っていった。

 そして後に残されたのは俺たちと織斑千冬だけになった。織斑千冬は澄ました顔をしていたが、その目は明らかな怒気を含んでいた。

 

「まったく、随分と騒がしい登場をしてくれたものだな」

 

「……それに関しては申し訳ないとしか言いようがない」

 

「お前たちのことは束から聞いている。だがその前にだ……」

 

 織斑千冬は颯爽と俺の前まで詰め寄ると──

 

「ふんっ!」

 

「うごっ⁉︎」

 

 俺の頭にゲンコツを落としたのだ。頭が割れたかと錯覚するほどの激痛に、思わず頭を抱えて地面に転がり込んでしまう。

 

「に、兄様⁉︎」

 

「うおぉっ……頭蓋骨がへこむぅ……!」

 

「未登録のコアを所持して学内に踏みいればどうなるか、それが分からんのか愚か者」

 

 痛みに悶絶する俺を、織斑千冬は襟首を掴み上げて無理やり立たせる。サラは心配そうに俺の顔を覗き込んでいたが、それ以上に織斑千冬に対してある種の畏怖を感じていた。

 それにしても何という拳をしてやがるんだこの人は。殴られて痛みを感じるまで、殴られたことにも気づかなかった。

 当然、俺だってパイロットとして血の滲むような対人格闘術の訓練をしてきた。そんな俺が反応することすらできないとは。

 

「これに懲りたら、次からはもう少し慎重に動くことだ」

 

「くっ……織斑千冬、束から聞いた通りの性格だな」

 

「貴様はその体たらくであいつの護衛が務まるのか? ……レイ・オルタネイト」

 

「あんたが規格外すぎるだけじゃないのか」

 

 俺の実力を疑問視する織斑千冬だったが、こちらからすればあんたの方がおかしいと思うのだ。

 

「そちらはサラ・オルタネイト、お前の妹と聞いているが……その名前も全部束の偽装だろう」

 

「名前の半分と戸籍、その他諸々諸々はそうだな。束と付き合いが長いだけあって、そういうところはよく分かってるみたいだ。だったら、束があんた達には本当に下らない冗談は言わないってことぐらい分かってるだろう?」

 

 少なくとも、俺は決して遊びでこんなところまで来たわけじゃない。きっちり任務を果たすためにここまで来たのだから。

 というかここで追い返されても困る。きっと束は俺たちがすごすごと帰っても家に入れてくれない。

 

「ふむ……貴様、本当に十代か? 私より年上に感じさせる雰囲気だ」

 

「見た目はそんな老けてないだろ。あんたが若々しいだけっ……おい、待て! 何でそれで怒るんだよ! バカにしたわけじゃないだろ⁉︎」

 

 再び拳を握りしめて詰め寄ってくる織斑千冬、またあんなゲンコツを食らうなんて冗談じゃない。何で今の言葉で怒るんだよ! 

 しかし、なにはともあれ織斑千冬によって危ないところを助けられたのは事実だ。そこのところだけは感謝しなくてはなるまい。

 

「……いいか。今この学園は既に織斑一夏という存在で既に手一杯だ。学園としては貴様というイレギュラーを受け入れている余裕はない」

 

「だからこそだろ。あたふたしているうちに、ネズミが懐まで入り込んで来ていても知らないぞ。俺たちが束の命令で動いてることが信用できないか? なら証明する方法はいくらでもあるぞ」

 

「ちっ……いいだろう。まずはお前の実力を私が確かめてやる。ついて来い」

 

 有無を言わさぬ口調で話しを進める織斑千冬、口出ししたらまた拳が飛んで来そうだ。ここは大人しく従っておくと。先ほどのやりとりで、織斑千冬にはむやみに逆らわない方がいいと判明したからな。

 

「確かめるって、一体何をするつもりだ?」

 

「そのままの意味だ。第二アリーナまで来い、私は訓練機を一つ拝借してくる」

 

「訓練機って……おいおい、まさか……」

 

 それはつまり()()()()()()なのか? 織斑千冬が直接確かめてくれるということは──

 

「あの束がわざわざ送り込んでくる程だ、生半可な腕で私を失望させたりはしない。そうだろう?」

 

 ニヤリと好戦的な笑みを見せる織斑千冬に、思わず背筋に鳥肌が立つ。俺は今から、この人と戦わなければならないようだ。

 

『……リーゼ、織斑千冬が量産型のISに搭乗したとして、俺たちの勝率はどれくらいだろうか?』

 

 思考通信でリーゼにそう問いかけてみる。暫くの沈黙をの後にシミュレートの結果を告げる。

 

『恐らく、今の私たちでは勝てないでしょう。私たちはまだ、対IS戦における経験値が圧倒的に不足しています』

 

『なるほど。()()、ね』

 

 ということは、その確率は決して0ではないわけだ。現時点では不可能でも、少し先の未来は分からないものだ。それに加えて、俺は結構なラッキーマンだ

 何故かって? 俺は相棒と共に生存率0.0001%を生き延びたんだぞ。確率は0じゃないってだけで十分なのさ。




束さんは細胞レベルのオーバースペックらしいので、きっとパイロットなんて一捻り。
というより、サイヤ人レベルじゃないと太刀打ちできないんじゃないだろうか。

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