Infinit Fall :Re   作:刀の切れ味

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福音との決戦もようやく終盤


Log60 試行#パイロットとの再リンク

(夢……いや、ここも夢か現かも定かじゃないが……とにかく、今俺が見たのは、エドの記憶か……?)

 

 地面に大の字で倒れたままぼんやりと虚空を見つめていた俺は、今の一瞬で脳裏に駆け巡ったイメージを思い返す。

 カプセルの培養液の中に揺蕩う自分が、エドに救われた。そして、俺に名前を付けてくれた。俺はエドの視点から自分が生まれる瞬間を見たのだ。

 

(今見たエドの記憶は、相棒のデータベースに記録されていたものだろうか? それとも、エドの幽霊か何かが見せてくれたのか……そういえば、エドはどこだ?)

 

 俺は立ちあがろうと地面に手をつくが、腕に全く力が入らず体を起こすこともできなかった。見れば、俺の胸には血に塗れた大きな風穴が空いていた。しかし、傷口からもう血は出ていない。両足や肩にも鉄片が突き刺さり、脇腹は裂けて内臓がまろび出そうになっている。けれども、不思議と痛みはない。

 僅かに動く首を持ち上げ、辺りを見回せば、そこら中にミリシアの兵士の死体が転がっていた。その光景は、俺がかつてデメテルで戦った時に見た光景と全く同じだ。そうだ、俺がこのデメテルで戦った時も、こんなふうに重傷を負っていた。

 俺は第三フィージリア連隊のライフルマンとして、デメテル攻略作戦に参加していた。そして、俺たちはポイントBの第二リアクターを確保するためにデメテルに降下し──結果、全滅した。

 リアクターは確保したがIMCパイロットに強襲され、なす術なく殲滅されたのだ。そこで俺も今のような致命傷を負わされ、動けぬまま地面に横たわっていたんだ。

 けれど、俺はデメテルから生還しているはずだ。俺は一体どうやって生き延びたのか? どうやって撤退したのだろうか。そこのところはよく思い出せない──

 

「よう、夢の中で夢を見るのはどんな気分だ?」

 

 倒れたまま動けない俺の頭上から、よく知った声が聞こえて来る。視線を上げれば、大破寸前のアトラス級タイタンが点滅するカメラアイで俺を見下ろしていた。

 そして、そのアトラス級タイタンの肩に1人のパイロット──エドが腰掛けていた。

 

「エド……ああ、あまり気持ちのいいものではなかったかな。クローンの自分がカプセルに入っているのを見るのは、まあ、ちょっと……」

 

「ははっ、そうかい。その割にはスッキリした顔してるぜ? 篠ノ之束にお前はクローンだ、って言われた時は、この世の終わりみたいな絶望した顔してたのにな……けれど、お前はただのクローンなんかじゃない」

 

「あぁ、分かってるよ。肉体そのものはクローンかもしれないけど……俺はアンタの記憶と人格を引き継いだわけじゃない。そうだろ? 俺は……俺だけの記憶と人格を持ってる。全てが作り物ってわけじゃなかったんだ」

 

「……そうだな、まったくもってその通りだよ」

 

 ひび割れ、青く点滅するヘルメットのカメラアイで俺を見据えるエド。俺の返答が面白かったのか、小さく肩を揺らして笑う。そして、エドは愛機から飛び降りると、俺の身体を起こしてそっと肩を抱きしめてくれた。

 

「や、やめろよ、俺ももうガキじゃないんだよ……」

 

「そう嫌がるなよ。だが……悪かったな。お前には本当のことを黙っていたし、俺が教えられたのは銃の撃ち方くらいだったしな」

 

「……女の子の口説き方も教えてくれたろ?」

 

「あぁ? ……ははっ、そうだな! ……あれだけ周りに可愛い女の子がいるんだ、一人二人はきっちり口説き落したいか?」

 

「無茶言うなよ。そんなこと、できるわけないだろ……」

 

「それはお前に課せられた任務が理由か? それとも──自分の本性を見られるのが嫌になったか?」

 

「……っ!」

 

 ──エドの言う通りだ。アイツらは優しい、ラウラが俺のした事を暴露した時も、俺への接し方は結局変わらなかった。だがあの時の、俺がシャルロットに銃口を向けた時の、俺が一夏を撃ったあの時の……俺を見るあの目が忘れられない。何故そんなことを? どうして? そんな疑問の念を含んだ目だった。けれど、それが俺なんだ。俺の本性なんだ。

 一度はそれでも、と覚悟していた。だが、引き金にかける指は重くなるばかり。いつかはその重圧に耐えられなくなっていただろう。だから束は、俺に『調整』を施した。俺の中からそんな雑念を消してくれた。俺も心のどこかで、そうしてくれと望んでいたんだ。

 

「まったく、お前は真面目だなぁ。そんなんだから二進も三進も行かなくなって、行き詰まっちまうんだよ」

 

 そう言ってエドは俺を背負うと、跪くアトラス級タイタンの前に立つ。このタイタンはエドの愛機なわけだが、後に俺が受け継ぎ、そして、束の手によってIS『リーゼ・シエラ』へと生まれ変わる。つまり、俺の相棒でもあるわけだ。

 そんな相棒は静かにコクピットを開くと、ゆっくりと俺へ手を伸ばした。

 

「お前とリーゼは今、互いのリンクが途切れた状態にある。だから、お互いの意識が干渉を引き起こしてるんだ。パイロットである自分への自己嫌悪からリンクを拒否したお前と……二度とパイロットを失いたくないと願い、パイロットとのリンクを求めるリーゼ。二つの意識がぶつかり、この空間は形成されてる」

 

「俺と……リーゼの意識が……?」

 

「ああ、お前とリーゼがもう一度リンクすれば、この空間も消えてなくなる。お前たちは現実に目覚めるんだ」

 

「現実に……か」

 

 それが何を意味するかはよく分かっている。現実の俺は福音に負わされた致命傷で、まさに風前の灯といった状態。現実に目覚めれば、きっと俺は──死ぬだろう。

 正直に言って俺は死ぬのが怖い。正確には、死んだ後に()()()()()()()()()()()()()()ことが恐ろしい。束は俺に約束したのだから、何度でも俺を再生させると。アイツはきっと俺を蘇らせ、再び駒として利用しようとするだろう。

 その時、俺が俺のままである補償なんてどこにもない。また束に頭を弄られ、記憶を塗り替えられているかもしれないのだから。

 

『お願い、です……もう一度、私と……』

 

「……相棒?」

 

 カメラアイを僅かに点滅させた相棒から、小さな声が聞こえる。相棒が俺を呼んでいるんだ。

 俺は無意識に、相棒の破損して歪んだマニピュレータに手を伸ばす。そして、それが俺の指に触れた時、相棒の塗装が音を立てて剥がれ落ち、その下から見慣れたリーゼの姿が現れた。

 気づけば、俺もいつものパイロットスーツへと様変わりしていた。もちろん、俺もリーゼもボロボロの血塗れの状態だが。

 

(任務のためなら平気で引き金を引ける、友人を傷つけても何とも思わない。そんな冷徹な自分が嫌になったから……そんな自分を皆に見られたくなかったら……自分がパイロットじゃなければ、なんて思ってしまった。けれど……)

 

 例え皆と同じように過ごしても、俺が享受できなかった青春を取り戻せる訳じゃない。皆と同じと言うには、あまりに血で汚れすぎた。

 何より俺はパイロットのクローンで、エドの生きる方法を教えられた。そして、俺はエドみたいになりたいと想ってパイロットになった。この血塗れの人生は、俺が自らの意思で選んだ生き方だ──こんな風に逃げたままでなんて終われない。

 

「エド……俺は行くよ。例えこの先に待ち受けるのが逃れようのない死だとしても、行かなくちゃならない。自分のやったことにけじめを付けなくちゃならない。皆に……一夏に謝りたい。それに……」

 

「相棒を独りにできない、か?」

 

「ああ、相棒が俺を呼んでるんだ。独りにしないでくれって……」

 

「……そうかい」

 

 リーゼはゆっくりとマニピュレータで俺を掴み上げると、赤く染まったコクピットに俺を押し込める。俺はなされるがまま、シートに背中を預ける。

 

「おい、レイ!」

 

 コクピットが閉じようとするその時、エドが俺の名を呼ぶ。だが、エドからそれ以上の言葉はなかった。ただ何も言わずに、俺にサムズアップしてみせた。

 俺もエドにサムズアップを返したかった。だが、俺の意志に反して俺の体はピクリとも動かない。あの時と同じように──

 

(……あぁ、そうか。俺がどうやってデメテルで生き延びたのか、それも思い出した。エドは死にかけた俺を離脱させるために、俺をタイタンのコクピットに入れて……ここから俺と相棒だけを……)

 

 ここは俺と相棒の意識が干渉して生まれた深層空間。互いの記憶が混ざり合い、再現されたただのイメージだ。だから、ここで見たイメージは全てに過去に起きた現実が元になっている。

 デメテルでの死闘の中で、確かに俺は今と同じ光景を見たのだ。閉まるコクピットの向こうに見える、サムズアップをするエド。それが、俺が見たエドの最後の姿だったのだ。

 

「エド、俺、は……最後、まで……──……」

 

 惑星タイフォンでも、俺は動けなくなるまで戦い続けた。相棒は生存率0.0001%に賭けて足掻いた。ここでも同じだ、やる事は変わらない。

 俺の肉体は作り物でも、俺の魂は、俺の意志は本物だ。俺は一人の人間として、ただ一人のパイロットとして、最後の最期の瞬間まで──ひたすらに生き抜くだけだ。

 

『シエラ・デルタ-シックス・エイト・ファイブ・スリーの搭乗権限を再設定……システムを再起動。プロトコル1、パイロットとのニューラルリンクを確立──お帰りなさい、パイロット』

 

 

 ──

 

 

 青い空と海を照らしていた太陽は、既に水平線の向こうに沈み始めている。しかし、オレンジに染まる海の上では、未だに銃声と爆音が響いている。空を駆ける少女たちと、光の翼を広げる天使。彼女らの戦いは、まだ終わらない。

 

『キイアァァアアッッ!』

 

 つんざくような咆哮をあげながら、海面へ向けて多量の光弾を撃ち放つのは、二次形態移行した銀の福音。シャルロットはその間に割って入り、換装した『ガーデン・カーテン』の四つのシールドで防ぐ。

 

「くうっ──!」

 

 既に半壊しかけたシールド越しにシールドバリアーを削り取られ、相殺しきれないダメージにシャルロットは歯をくいしばる。そんな福音を止めようとアサルトライフルを連射するのは、訓練用のラファール・リヴァイヴを纏うサラ。

 

「よくも兄様を……!」

 

 放たれた弾丸は確かに福音に命中する。しかし、福音が己が身を守るように包み込んだ光の翼が、弾丸を全て弾いてしまう。

 

「……大丈夫ですか、シャルロットさん」

 

「うん、大丈夫──とは言い難いかな。もうシールドバリアーの残量も殆どない。ガーデン・カーテンもさすがに限界が近いね」

 

「私が勝手に持ち出したこのラファール・リヴァイヴも、所詮は訓練機。福音の一撃でも貰えば、あっけなく堕ちるでしょう」

 

「勝手に持ち出した、か。サラも随分と無茶をするね?」

 

「皆さんも人のことは言えないのです。後で一緒に織斑先生に怒られましょう……兄様を連れて」

 

「そうだね……」

 

 シャルロットは、リーゼが沈んでいった海面に視線を向ける。今すぐ助けに行きたい、しかし、福音がそれを許さない。福音は執拗に海中に没したリーゼにとどめを刺そうと、何度も光弾の雨を降らしていたのだ。

 シャルロットらなど眼中にない、そんな福音をどうにかしなければ、レイとリーゼを助け出すことなどできない。そんな状況だった。

 

「くっ、あたしだって……!」

 

「まだだ、私もまだ戦える!」

 

 福音の攻撃で、機能停止寸前まで追い込まれたラウラと鈴、もはや浮遊しているだけが限界な二人は、それでもなお追い縋ろうと懸命に機体を前に進める。

 しかし、それを遮るように、迸る紅の背中が立ちふさがる。二本の刀を手にし、長いポニーテールをなびかせるのは、紅椿を纏った箒だった。

 

「二人は……下がっていてくれ……その状態で戦うのは危険だ。元は私が招いた事態、私が……私がケジメをつける!」

 

 展開装甲から紅いエネルギーを煌めかせながら、箒は福音へと飛翔する。そして、福音の死角から鋭く斬り込む。

 

「箒さん!」

 

「サラ……お前の兄には色々と言いたいことはある。だが、今は福音をどうにかするのが先決だ!」

 

「……っ! はい!」

 

 サラは物理シールドで身を守りつつ、接近してショットガンの掃射。それを嫌って翼で周囲を薙ぎ払う福音の隙を突いて、エネルギーの斬撃を浴びせる箒。そして、『ガーデン・カーテン』で二人をカバーしつつ、アサルトライフルを的確に当てていくシャルロット。

 土壇場での状況が、三人のコンビネーションを完璧なものにした。しかし、やはり相手が悪かったのか。二次形態移行を果たした軍用機の力は想像の遥か上を行っていたのだ。

 三人の追撃を躱し、ずっと空高く舞い上がる福音。そして、目一杯翼を横に広げると、これ以上ないほどの光を放つ。その次の瞬間には、文字通り雨のような光の弾丸が降り注いだ。

 

「──っ⁉︎」

 

 箒は紅椿の展開装甲を用いた機動力と、ブレードによる相殺で何とか防ぐ。だが、既に限界も近かったシャルロットと、物理シールド一枚しか防御手段を持たないサラは、その光弾の雨に晒される。

 

「くぅっ……!」

 

「まだ……まだ耐えられるっ──!」

 

「二人とも……! くそっ、あの弾幕を止めなければ……‼︎」

 

 変則的な軌道を描きながら、空高く舞い上がった福音へと肉薄する。多少の被弾でも怯まない、箒は『雨月』と『空裂』を大きく振りかぶり、無数の斬撃を放つ。

 しかし、福音は、そんな箒には目もくれず、すれ違うように急降下を始める。あくまで狙うのはリーゼ、福音はリーゼを完全に破壊することしか考えていなかったのだ。

 

「絶対に……それだけはさせないのですっ!」

 

 物理シールドをパージして、その内部に隠されていたラファール・リヴァイヴの持つ最高火力、六九口径パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケイル)』を展開する。

 そして、サラは急降下してくる福音を迎撃すべく、回転するシリンダーから重たい金属音を響かせて、パイルバンカーを引き絞るように構えた。

 

『La……!』

 

 邪魔だ、そう言わんばかりに、福音は光の翼を振るった。すると、サラが構えていたパイルバンカーが両断され、爆散する。さらに、急降下の勢いのままサラの頭を掴み上げる。

 

「うっ、あ……!」

 

 サラは必死に抗おうとするが福音は動じず、ゆっくりと翼でサラを包み込んでいく。広域射撃兵器『銀の鐘』によるゼロ距離掃射、訓練機のラファール・リヴァイヴでは耐えきれないことなど、一目瞭然である。

 

(兄様……っ!)

 

 ──光り輝く翼が爆ぜる、その刹那だった。

 

『レーザーコア、オンライン』

 

 海中から伸びた真紅の柱、海水を蒸発させながら噴き上げたエネルギーの奔流。それが福音の片翼を貫いたのだ。

 

『──、──っ!』

 

 声にならない叫び声をあげる福音は、撃ち抜かれた翼を震わせながらサラを手放す。そして、サラは確かに見た。蒸発して海に空いた大穴、その先で輝く翡翠の光を。

 ぽっかりと空いたその大穴が再び海水で蓋されると、その海面が爆ぜる。立ち昇る水柱の中に青白い残滓が揺らめくと、サラと福音の間に割り込むように、それは実体化する。

 

「あぁ……兄様、なのですか……?」

 

 両手のマニュピレータを破損し、シャーシには焼け焦げた穴。各所から火花を散らせ、千切れたコードが垂れ下がり、漏れ出たオイルと血で装甲は赤黒く染まりっている。しかし、そこにいるのは確かにリーゼ・シエラだった。

 太陽が水平線の彼方に沈み、辺りに夜の帳が下り始める中で──リーゼのシアキットは、かつてのように翡翠の輝きを放っていた。

 

 




福音は広域射撃兵器を主兵装にしてますが、実は対IS用じゃなくて地上制圧用の兵装なのかも?
空中を高速で飛び回りながらの広範囲対地攻撃……うーん、恐ろしい
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