オマエもタイタンフォール最高と叫びなさい‼︎
夏の暑さ真っ盛りなこの頃……俺はついに謹慎が解かれ、二週間ぶりの教室の席に座っていた。俺が久しぶりに顔を見せたことから、クラスメイトたちはこぞって俺を取り囲んであれやこれやと質問攻めにしてくる。
「久しぶり、オルタネイトくん! もう、怪我は大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だ」
「この前のニュース見たよ! 暴走した軍用ISを止めるために織斑君たちと一緒に戦ったんでしょ⁉︎」
「おう、大丈夫だ」
「……えっと、本当に大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
ここ最近は女の子と会話するだけでもドキドキしっぱなしだった。だが、俺は自室謹慎の最後の三日間、過酷なメンタルトレーニングの末に己の内に昂る熱を抑え込むことに成功した。
その結果、俺はもはや何にも動じない鋼のメンタルを手にしたと言っても良い。トレーニングの結果は抜群と言うべきか。今はこうやって可愛い女の子たちに囲まれても何ともないんだぜ。
「なあ、レイ。正直、こっちからしたら全然大丈夫に見えないんだが……この前、見舞いに行った時の方が元気そうだったぞ」
「何を言ってるのやら。俺はこの通り元気いっぱいだぞ?」
「いや、でも、目の下の隈が凄いことになってるんだが。やっぱり本調子じゃないんだろ? まだ休んでた方がいいんじゃないか?」
隣の席の一夏が心配そうに声をかけてくるが、一体何を心配きてるのやら。目の下の隈? これ不眠不休でひたすら瞑想してたせいだ。その時の俺がどんな様子だったか、それは同室の本音が詳しい。
「それがねー、おりむー。レイレイってばず──っとベッドの上で正座しててね、目を瞑ったままピクリとも動かないの。お坊さんの修行みたいだったよ〜」
「な、なんだそりゃ……」
「ねー。あれは何がしたかったのさー、本音さんは気になって夜も眠れないのだ〜」
相変わらずブカブカと袖の余った制服の本音が、やはりいつものように俺の腕にしがみ付いてくる。それを見たクラスメイトたちがザワザワと色めき立つが──ふん、何度も言うが、こんな状況で慌てふためくなんてことはないんだぜ。
「あの布仏さん……なんだか更に二人の距離が縮まって見えるというか……何かあったの?」
「えぇ〜……? うーん……レイレイが謹慎中は毎日ご飯を食べさせたりしたけどー」
「毎日っ⁉︎ご飯を食べさせるっ……⁉︎」
「そうだな。俺は毎日、本音にご飯を食べさせてもらっていた」
「まさかの肯定っ‼︎もはや熟愛夫婦じゃん!」
「えへへっ、サーたんからも無茶しないように世話してあげてほしいって言われてたしね。レイレイはもっと私に甘えてよいのだよー♪」
「おおっと、これは流石のオルタネイトくんも、布仏さんののほほんオーラにはメロメロかっ……⁉︎」
「バカ言うな。そんなワケないだろ」
「ガーンッ‼︎そこは否定するんだぁ〜……」
しょんぼりとする本音をそのままに、俺は鞄から教科書類を取り出して授業の準備を始める。皆もいつまでもそんなザワザワとしてていいのか、もうすぐ織斑先生がやって来るぞ。帳簿で叩かれても知らんぞ。
(しかし、来週を乗り切ったらすぐにも夏休みか……)
来週から始まる一ヶ月半ほどもある夏の長期休暇。謹慎からは解放されたわけだし、休暇を使ってやりたいこと沢山ある。
最優先にすべきはリーゼの整備と装備の新調だ。実はすでにデュノア社と話をしてある。この夏休みで時間を取って、フランス旅行がてらデュノア社のお世話になる算段だ。
(リーゼ、お前はまだ眠ったままだが……早く目を覚ましてくれよ。やっぱり側にお前がいなきゃ、寂しいってもんだ)
手首の待機状態のリーゼは未だ光を失ったままだ。だが、心配はしちゃいない。リーゼは必ず目覚める、のんびりとそれを──いや、のんびりとはしていられないか。
楯無には『例の課題』をクリアするまで実戦には出さないと言っていたが、敵はそれを考慮なんかしちゃくれない。できることは今のうちにやっておくべきだ。まずは、この鈍った体と心をもっと鍛え直してやらないとな。
──
「げっ……」
「……なんだ、その嫌そうな顔は」
授業を終えた放課後。寮に戻った俺は、久しく顔を見ていないサラの様子を見に行っていた。しかし、彼女の部屋の戸を叩いて出てきたのは、サラではなく──鈴だった。
「な、なによ? 用がないならさっさと帰れば? 言っておくけど、あたしは別に気まずいとかそんなんじゃないしっ……」
「……俺と話すのが気まずいのか?」
「ち、ちがっ──何勘違いしてんのよ⁉︎私がアンタに対して何か後ろめたい気持ちがあるって言いたいのっ⁉︎」
「……つまり、気まずいってことか?」
「〜〜‼︎」
何故か知らないが、部屋から出てきた鈴はしどろもどろになって、らしくない雰囲気だった。どうやらあまり俺に会いたくなかったみたいだが。
「何か言いたいことでもあるのか? それとも、俺が部屋に篭ってる間に一夏と喧嘩でもしたか?」
「別に一夏は関係無いわよ……いや、関係あるけど……」
「言いたくないなら、無理に話す必要もないぞ。俺はサラに会いに来ただけだしな……で、サラは何処に行った?」
「サラなら図書室に…………あ〜っ‼︎やっぱり言うわ、言うわよ!」
ガシガシと頭をかいてからツインテールを綺麗に整えて息をつく鈴。俺はどんな言葉が出てくるのかとつい身構えてしまう。しかし、鈴の口から出てきた言葉は思いもよらぬものだった。
「あー、えっと、その……ごめんっ!」
「……な、何に対しての謝罪だ?」
「それは……福音の事件の時のことよ。あたし、頭に血がのぼってて、アンタがどういう状態かも考えずに……本気で攻撃したわ」
「……」
「皆はアンタを止める事を考えてたのに、あたしは一夏を傷つけられた事が許せなくて……シールドバリアーも展開できてないアンタに、全力の衝撃砲を撃ち込んだ。もし当たりどころが悪かったら、あたしは……」
「俺を殺してたかもしれない、か?」
「……そうよ。あたしはルームメイトの兄妹を……友達の家族を殺しかけたのよ。しかも最悪なのは、サラが泣き崩れたあの瞬間まで、あたしはそんなことに気づきもしなかったってこと……ほんと、我ながら最悪だわ」
「なるほど、そういうことか……ふふっ、やはりらしくない気の病み方だな」
いつもの快活さとは正反対の沈んだ顔で落ち込む鈴だったが、苦笑する俺にむっとした表情になる。だが、俺は別に鈴が落ち込んでいること自体がおかしかったワケじゃないぞ。
「どうせお前のことだ、同じようにサラにも謝ったんだろ? そして、『私ではなく本人に謝ってください』とか言われたんだろう。そんなやり取りが目に浮かぶな」
「……何で分かるのよ」
「図星か? 妹に仲の良い友達ができたようで、兄としては嬉しい事この上ないぜ……ああ、冗談はさておきだな。鈴、その事でお前が落ち込む必要はないぞ」
「……」
「想い人を傷つけられたら、誰だって頭にくる。当然の反応だろ。それに、お前のキツイ一撃のお陰で、俺は正気に戻れたのかもしれないじゃないか」
「むぅ……あたしは何か納得いかないけど……アンタはそれでいいの?」
「いいさ。というか寧ろ、謝るべきは俺の方だと思うが……まあ、そんな事ばかり言ってると、また一夏にゲンコツを食らっちまうかな」
皆に心配をかけた罰として食らった一夏のゲンコツを思い出し、俺はつい口元が緩んでしまう。
そんな俺を見て鈴も毒気が抜かれたのか、肩をすくめて大きなため息をつく。それから顔を上げた鈴には、いつもの溌剌とした元気が戻ってきていた。
「そうね。あたしもしつこいのは嫌だし、一応ちゃんと謝れたし……これでこの話は終わりにしましょ。レイの言う通り、湿っぽいのはあたしらしくないもの」
「ああ、そうだな。その方がいい、お前に悩んでる姿は似合わないからな」
「はぁ? あたしだって悩むことくらいあるから、アンタと違って乙女の心は繊細で複雑なのよ」
「くくっ、悩むのは一夏絡みの時だけだろ?」
「……そうだけど、何か文句ある?」
ふん、と胸を張って開き直る鈴に、俺はまた苦笑してしまいそうになるのを堪える。飾らない率直さ、それが鈴の良い所なのだが……どうして一夏の前ではああも素直になれないのだか。鈴の言う通り、乙女心は繊細で複雑というわけだな、うむ。
「……で、話を戻すが、サラは何処に行ったんだ?」
「図書室よ。レイのルームメイトの、えっと、布仏本音だっけ? その子と一緒に勉強するんだってさ」
「勉強? 追試でも受けるのか、あの二人……」
いや、そんなワケないか。あの二人は学年でもかなり成績上位らしいし。まあ勉強するのは良いことだ、邪魔はしないでおこう。
「顔ぐらい見せに行ったら? サラも寂しそうにしてたし」
「また今度にしておくよ。今日はもう部屋に戻って……早めに寝るとする。じゃあな」
「……そうね。まったく、どんどけ寝不足になったらそんな隈ができんのよ」
ならさっさと帰れ、と呆れたように手を払う鈴を尻目に、俺はあくびを噛み殺しながら自室へと足を向ける。その途中でも、俺の瞼は重く閉じようとしてやまなかった。
──
窓から差し込む眩しい陽光、そこには朝の爽やかさと真夏の熱気が込められている。その光に目を細めながら、本音はのっそりとベッドから身体を起こした。
本音は眠たげに目をこすりながら伸びをすると、ぼんやりと隣のベッドへと目を向ける。そこには、同じようにぼんやりとした表情で身体を起こしたレイがいた。
「おはよ〜、レイレイー」
「……」
本音が声をかけるも、レイから返事は返ってこない。それを不思議に思った本音はベッドから降りてレイに近寄ると、不意にレイが本音の方を向く。
「わっ……えっと……おはよう?」
「……おはようございます、布仏本音。貴女と会話をするのは随分と久しぶりですね」
「ほぇ?」
いつもと異なる丁寧な口調で話すレイに、本音は小首をかしげる。それに対してレイも、何故か困ったように小首をかしげていた。
「おかしいですね、パイロットの声がいつもと違うような……声色がワントーン高い上に、直接頭の中に響くようにクリアに聞こえます」
「ん〜……? 言ってることがちんぷんかんぷんだよ、レイレイ?」
「レイレイ? いえ、私の呼称はリーゼ・デルタです。貴女はいつも、私をリゼっちと呼んでいましたね」
ややぎこちなく、しかし柔らかで優しい笑みを浮かべるレイに、つい本音は惚けた顔で見とれてしまう。ただそれも束の間で、本音はすぐに目を点にして何度も瞬きする。
「えっ……リゼっち? うぅん、レイレイじゃなくてリゼっち? レイレイが喋ってるのに、レイレイじゃなくてリゼっちなんだ?」
「私と話をするのは初めてではないでしょう。そこまで驚くことでは……それより、パイロットは何処ですか? 何故かパイロットの位置情報が正確に取得できないのです。パイロットはすぐ側にいるはずなのに……」
「……これ、見てみて」
本音が机から自分の手鏡を取り出してレイ? の前にかざす。そして、その鏡面に自分の姿を目に収めたレイ? は、信じられないと言いたげな驚愕の表情を浮かべた。
「こ、これは……私がパイロットに……⁉︎いや違う、私とパイロットが……」
「おわー、やっぱりそうなのかー。つまりこれって、レイレイとリゼっちが──入れ替わっちゃった、ってこと?」
「そんな馬鹿な……」
パイロットとISの精神が入れ替わるという異常事態、そんなことあり得ないとは思いつつも、鏡面に映る事実は変わらない。自分がレイの身体を動かしていることを自覚したリーゼは、すっかり混乱して手首のデバイスをいじくり回していた。
「自己診断プログラムを起動、全システムのセルフチェックを開始……あ、あれ、開始できない。そうか、パイロットの身体ではいつものようにプログラムを実行することも……いや、それよりもパイロットは、パイロットの意識は何処に行ってしまったのですか? パイロットは何処ですかっ⁉︎」
「……お、落ち着いてよリゼっち〜」
「何処に行ったのですか、パイロット‼︎私を独りにしないと約束したのに……っ、な、何ですかコレは……⁉︎目から何か、熱い液体が……」
感情のコントロールができないのか、慌てふためきながら涙まで流すリーゼ。それをレイの姿でやるのだから、普段とは真逆の様相に本音は思わずくすりと笑ってしまうのだった。
なお、リーゼはこの後、本音に抱きしめられがらあやされることでようやく落ち着きを取り戻す。しかし、これは怒涛と波乱の夏休みの幕開けに過ぎないのだった……
エイペックスに新シーズンが来るも、CODに浮気中。