中量級のタイタン。エネルギー弾を射出するスプリッターライフルやレーザーショットなどの光学兵器を主兵装とする。ヴァーテックスシールドによる防御、トリップワイヤーによる妨害なども可能であり、多岐にわたって活躍する汎用機。
タイタンから脱出したパイロットをレーザーショット狙撃するのは様式美。
「……っ……」
窓から入ってくる風と心地よい日差しを感じながら、目の前に広げた教科書に目を通すことに集中する。……周りから感じる視線には気づかないふりをしておく。
教科書のページをめくってもやはり目新しい項目はない。なにせ、俺は開発者である束本人からISが何たるかを学んだのだ、今更このような参考書など大した意味はない。
だというのに俺はこの学園の制服に身を包み、とある教室の最前列の席にて学生ごっこに興じている。何でこうなった?
(そうだ……俺はこの学園の護衛を任された傭兵的立場だったはずなのに……なんだこれは。この学園の学生になるためにここまできたんじゃないってのに……)
そして何より、俺の周りは全て女子、女子、女子。改めて自分の置かれた環境を意識すると、頭がクラクラしてくる。
いや、一人だけ俺と同じ境遇のやつがいた。隣の席に座るこのクラスに俺を含めて二人だけの男子、織斑一夏だ。
織斑一夏と同じクラスなのは色々と護衛という面では助かる。しかし、こうやって同じように机に座って授業を受けるのは、精神的にキツい。
(くそぉ……有事の時だけ働きゃいいと思ってたのに、こんなことになるなんてな。どうにかならんかこれ)
そもそも、俺がこうなったのはあの猫娘とウサギのせいだ。この前、織斑千冬と模擬戦行った後、俺たちは学園の生徒会室とやらに呼ばれて……
──
「あ〜……」
「だ、大丈夫ですか、兄様?」
肩を落として呻き声を上げている俺に、サラか心配そうに声をかけてくれる。しかし、それに返事をするのが億劫になるほど、全身が怠かった。先の模擬戦で
まあ、俺とリーゼの相性なんてとうの昔に証明されてるからな。既に単一仕様は束によって改修された際に組み込まれている。
(リーゼの
勝てる確率は極めて低いとは分かっていたが、全力を出してなお訓練機程度に負けたというのはかなり堪える。
「畜生……なんなんだよあの強さ、訓練機であれは反則だろ……」
「兄様も手酷くやられてしまったのですね。でも私なんかはシールドバリアーを一割も削れなかったのですから、兄様は十分に凄いのです」
「……いいや、やっぱり納得いかねぇ! 絶対にいつかリベンジしてやる、剣で勝負だとかそんなのは抜きだ! リーゼ、次は絶対に目にもの見せてやるぞ!」
「はい、任せてくださいパイロット」
「ほお、随分と元気そうだな」
「あぁ?」
顔を上げてみれば目の前には黒いスーツ。さらに視線を上にあげてみれば──今まさに俺の頭に振り下ろされようとしている拳があった。
「ふんぬっ!」
「む……!」
「兄様⁉︎ 何するんですか、織斑千冬!」
その拳が俺の頭に叩き込まれる前に、ギリギリでその拳を受け止める。受け止められたのが気に入らなかったのか、織村千冬は小さく舌打ちをしていた。
一度食らった拳をそう何度も食らってたまるか。というか、すぐに人の頭殴るのやめろよ!
「よく止めたな……ふん!」
「あ、おい! 逆の手も使うのは卑怯っ……ぶへっ⁉︎」
「片手を止めただけでいい気になるな」
もう片手の拳が、やはり俺の頭に突き刺さる。ミシリと頭蓋骨が軋み、凄まじい激痛に頭を抱え机の上で悶絶する。
いつのまにか部屋に入ってきていた黒スーツの女性、織斑千冬は俺にゲンコツを食らわせてスッキリしたのか少し満足げな表情をしていた。
「なぜ殴る……!」
「上司に対しての態度がなってないので教育してやったまでだ」
「上司?」
「そうだ……更識、あれを渡してやれ」
織村千冬がそう言うと、織村千冬の背後から音もなく淡い青色の髪をした少女が現れる。始めからそこにいたのだろうが、まるで気配を感じさせていなかった。
「初めましてね、二人目のイレギュラーさん? うふふ……貴方には自己紹介とか色々とお話ししたいことがあるけど、まずはこれをどうぞ」
青髪の少女に手渡される一枚の書類。それを受け取ってざっと目を通してみる。内容は色々と小難しい言葉が羅列していたが、要約するとこうだ。
・この俺、レイ・オルタネイトは本学園の護衛として雇用される。直接の命令権は織斑千冬に譲渡される。
・任務内容は、本学園、および本学生の安全確保。
・サラ・オルタネイトは中途編入としてクラス1-2に配属する
といった感じだ。
「貴方の処遇については、あとでもう少し詳しく話してあげるわ」
「……なんか任務内容変わってないか。それにサラは護衛じゃなくてここの学生になるのか? いや、別にいいというか、寧ろそれでいいなら……」
「私がこの学園の生徒に……?」
「レイ・オルタネイト、これを見ろ」
織斑千冬がポケットから取り出したタブレット。それにはとあるメールの文面が写っていた。差出人はウサギを模した謎のマーク、題名は『愛するちーちゃんへ!』。これ絶対に送ってきたの束だろ。
そして、メールには簡潔に一言、『ちーちゃんの好きにしていいよ!』と綴ってあった。
「あのウサギ……適当かよ……」
「……というわけだ。これにはこの学園の理事長、生徒会長の更識からも賛同を得ている。感謝しろ、お前という爆弾を本学園は受け入れるというのだからな」
「うーん……サラ、お前はどう思う……ってどうした、そんなソワソワして」
サラの方を見れば、何やらサラはモジモジと何か言おう口を開いては閉じて、を繰り返していた。
一度落ち着くよう促してやると、サラは大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、俺の方を向いて凛とした声を響かせた。
「私……この学園に入りたいです! 私はISを操縦すること以外知らないことばかりで、いつも兄様に迷惑をかけてしまってるから……少しでも兄様のお役に立ちたいのです。だから、サラはここで沢山勉強したいのです!」
「あら、健気な妹さんね」
「……と言っているぞ。どうする?」
「こう言われちゃあな……答えなんか決まってるようなもんじゃないか。なぁ、リーゼ」
「はい。プロトコル2、任務内容を更新します」
プロトコル2に課すされた任務、それは──護衛対象の優先。俺がこの任務に就いている限り、その行動優先基準は任務内容に記載された護衛目標、および特殊護衛対象である特定個人の2名。
これらの達成は、状況によっては他プロトコルよりも優先すべき最重要事項。例え、それがパイロットの安全を蔑ろにすることになってもだ。
(束の下した命令も無下にできないしな……)
さて、取り敢えずはこの学園に身を置かせてもらえそうだ。これからどうなるかは分からないが、まあどうとでもなるだろう。
しかし、学園に滞在することになった以上、やはり覚悟は決めねばならない。有事の際に命をかけて戦うのは勿論だが……
(俺とサラはここで上手いことやっていけるかね? うむ、不安しかないなぁ……)
「では更識、あとは頼んだぞ。サラ・オルタネイト、お前は私と来い」
「は、はい。では兄様、また後で……」
「じゃあ貴方は私と一緒にお話しましょうか?」
「お、おう……」
サラと別れて、俺は更識という少女にIS学園のとある部屋、そこは生徒会室と連れて行かれる。生徒会、というのは学園で生徒を纏める役割を任された、生徒で構成された学内の特殊機関なんだとか。
「まずは自己紹介からいきましょうか? 私は更識楯無、この学園の生徒会長よ」
「……レイ・オルタネイト」
青髪の少女、更識楯無は、どこから取り出したのか、歓迎と達筆な字が描かれた扇子を開き、ニコリと蠱惑的な笑みを浮かべていた。
それを見た俺の中では、警報のアラートが鳴り響いていた。何となくだがこいつは危ない、と俺の勘が言っているのだ。
「もう、素っ気ないのね。ま、それよりも仕事のお話をしましょうか……私は言わばこの学園の生徒の代表、学生の身ではあるけど、この学園と生徒たちを守る義務が私にもあるの。だから、私には織斑先生に次いで貴方に指示権があるわ。その点については構わないかしら?」
「……任務に支障がなければ」
「そう、それなら話が早いわ。私や織斑先生、そして理事長とも話し合って貴方の処遇をざっくりと決めたの。とりあえずそれに従ってもらうということでよろしい?」
今度は真意の測れない怪しい笑みで、俺に問う更識。だが、俺には拒否権なんてないじゃないか。俺はあくまでここに雇われる形なのだ、雇い主にはどうこう言えん。
「貴方は名目上は本学園のクラス1-1に所属してもらうわ。あのクラスには今話題の織斑一夏くんに束博士の身内である篠ノ之箒までいるわ。丁度いいでしょ? あ、あと貴方の存在については、少しばかり世間にも公表させてもらうわ。一応、世界で二人目の男性適合者ですもの」
「いや、ちょっと待て……俺がクラス1-1に、ってそりゃサラと同じような学生になれってことか? それに俺の存在を公表するって……!」
「そうよ。もしかして……まるで素性が知れない人物に、しかもあの篠ノ之束博士が送り込んできた人物に、この学園の警護だなんて大事な仕事を任せると思った? そんなわけないじゃない。あの束博士よ、後々貴方に何をさせるか分かったものじゃないわ」
反論しようにも……反論できない。何せ俺自身、束が俺をここに送り込んだのは、いつか俺がここにいることが束にとって都合がいいからだと理解している。
なんてこった、護衛として認めてもらえたかと思えば、認められるどころか俺がこの学園に首輪をつけられた形になってしまっている。
「じゃあ、さっきの書類で確認したことは……」
「別に嘘は言ってないわ。将来的には貴方はこの学園の護衛を任されたフリーランスの傭兵、になる予定よ。でも実務を任せるのは、貴方が信用に足る人間だと私たち学園の人間が納得してからの話よ」
(じゃあ更識の提案自体はそんなに悪くないんじゃないか。サラを特別待遇で学園に入れてもらったこともあるし……ここは大人しく従っておく方がいいのかもしれん)
「さて、貴方の返答を聞かせてっ──」
「分かった。その処遇、甘んじて受けよう」
「……即答?」
「俺はな、そういう小難しいやり取り得意じゃないんだよ。面倒くさいし」
「単純ねぇ……ま、私は全くもって構わないけれど。何はともあれこれで取引成立、ね。然るべき手続きを済ませたあと、貴方は1-1に転入する、ということで」
う、うむ、どうも安請け合いしすぎた気もするが、まあなんとかなるだろう。転入するといっても俺は、本当にこの学園の学生になるわけじゃない。
(多少は我慢だ、どっかの国に捕まって実験体とかにされるよりはマシ、はるかにマシだ。束のためにも、与えられた任務は遂行する)
「それじゃ、貴方の存在の公表と転入手続きと諸々の準備が整うのは3日ほどかしら……それが終わるまではこのホテルで大人しくしててね?」
「……了解した」
楯無が手配してくれたというホテルの住所を確認し、楯無に軽く会釈してから生徒会室を後にする。楯無は今度は再見とこれまた達筆な字で描かれた扇子を開いて、また蠱惑的な笑みで俺を見送るのだった。
──
それからの三日間、まさに怒涛のような三日間だった。俺が世界で二人目の男性適合者であることが公表され、再び世間は突かれた蜂の巣の如く、慌ただしく騒いだ。
そして俺は、世界の各国、さらにはここ日本を含めて特定の国が干渉できないようIS学園に入学させられることとなる。
書類の提出やら何やら小難しい手続きやらはあまりにめんどくさかったので、ほとんどリーゼに丸投げしてしまった。さすがは俺の相棒、一切手抜きのない完璧な仕事ぶりだったぜ。
さて、そんなこんなで俺はついに学園に転入する日を迎えた。学園指定の制服に身を包み、学園の職員室の前でクラスの担任の先生を待っていた。
「はぁ〜……学校には通ってみたいな、とは思ってたけど、まさかこんな形で実現するとはな。サラは一足先に転入を済ましたらしいけど、どうだったんだろうか」
「大丈夫です、パイロット。織斑千冬との模擬戦の結果から、貴方もサラもこの学園ではかなり上位の実力者となります。貴方たちに敵うものはそうそういないでしょう」
「いや、そういう心配じゃなくてな」
かつてフロンティアにいたころ、俺は14くらいまでは野良犬みたいな浮浪児生活を送っていたし、それからミリシア軍に入隊してからは、ひたすら訓練の毎日。
ライフルマンからパイロットになってからも、あの惑星タイフォンでの作戦までは、戦場を駆け回ってばかりだった。つまりだな……そんな華の十代女子と接する機会なんて全くなかったということさ。いや、女性との接点がなかったわけじゃないんだぜ?
「ああ、嫌だ嫌だ……」
「……パイロット、先ほど匿名からの暗号化メッセージを受信しました。現在、暗号を解読中……」
「んん? 匿名からの?」
匿名からの暗号化メッセージ? いやいや、そんなもの誰が送ってきたなんて分かりきっているじゃないか。リーゼに秘匿通信できる者なんて一人しかいない。
「暗号解読完了……差出人は束博士からです」
「やっぱりな……それで? 内容は?」
「会話ログを再生します……『やっほー、束さんだよー。元気にしてるかなー? どうやらちゃんとIS学園に無事転入できたみたいだね。そのままいっくんと束さんの大〜事な妹に近づく無頼な輩どもを、諸々殲滅しちゃってね〜。また何かお仕事を頼むときは連絡するよ。それじゃねー』……会話ログは以上です」
「転入って……こうなること全部予定通りかよ! あのウサギ!」
思わず大声で突っ込んでしまうが、俺は悪くない。いや、そもそも束が織斑千冬に話をつけた時点で、こうなることは確約していたのかめしれん。そうなるなら、最初から言っとけよ!
「あ、あのー……大きな声出してましたけど、大丈夫ですか?」
「うぇっ⁉︎」
突如後ろから声をかけられて、素っ頓狂な声が出てしまう。それに続いて後ろから聞こえてくる、それまた素っ頓狂な声。
後ろを振り向けば、緑髪のメガネをかけた女性。ああ、この人が話に聞いていた1-1の担当の教師、山田真耶という人だろう。しかし、こっちが心配になるほど慌てふためいてるが大丈夫か?
「は、はわわ……ご、こめんなさい、後ろからいきなり声をかけちゃって! でもでも、これから貴方をクラスまで連れて行かなくちゃいけなくて……」
「あ、ああ分かった、分かったから落ち着け……いや、落ち着いてくださいお願いします」
両手をあたふたさせて慌てる山田真耶に、落ち着くよう言い聞かせながら、自身も落ち着くように深呼吸を重ねる。
なにせ振り向けば、それはもう世間一般で言う眼鏡美人が立っていたのだから、こっちだって慌ててしまうじゃないか(しかもスタイルすげぇ!)。
「あー、落ち着きましたか?」
「は、はい。ごめんなさい、先生なのに恥ずかしいところを見せちゃいましたね……」
「ああもう、今度はそんな目に見えて落ち込まないでくれ……ください。さ、教室に向かうなら行きましょう」
落ち込む山田真耶に早く教室に向かうことを催促する。それを聞いて気を取り直したのか、シャキッとした山田真耶は俺に付いてくるよう言いながら歩き出す。
教室に向かう途中で互いに簡単な自己紹介を済ませながら、1-1がどんなクラスなのか尋ねてみる。皆いい子ばかりです、と大きな胸を張って語る山田真耶は、少し誇らしげだった。
「織斑くんも順調に馴染めているみたいですし、オルタネイトくんもすぐに溶け込めると思いますよ?」
「……そうだといいんですけどね」
「大丈夫です、先生がサポートしてあげますから! さあ、1-1の教室に着きましたよ。私が名前を呼んだら、教室に入ってきてみんなに自己紹介をしてあげてくださいね?」
山田真耶はそう言って、先に教室の中に入っていった。うーむ、自己紹介か。名前を言うだけでは駄目だろうか?
とはいっても趣味とか特技とか聞かれてもだなぁ、射撃や格闘術は特技に入るのだろうか。そうだ、ここはいっそ筋トレを趣味にでもしておくか。
「……はい、それでは今日は転入生を紹介したいと思います! レイ・オルタネイトくん、どうぞー」
「うーん……どうしたものか……」
「……オルタネイトくんー?」
「まずいな、ついつい軍隊方式で受け答えしてしまうかっ……殺気⁉︎」
先ほどの山田真耶に声をかけられた時とは違い、即座に振り返りすぐ眼前にまで迫ってきていた拳をギリギリで受け止める。
その手は細く女性のものなのに、込められた力は大の男よりもよっぽど力強い。こんな拳を打てるのは……世界最強のヴァルキリーくらいだろう。
「随分な挨拶ですね、織斑先生……!」
「挨拶ができんのは貴様だろう、山田先生が呼んでいるぞ」
「え? あ……」
「……さっさと自己紹介を済ませろ、ホームルームが終わらんだろう。それとも頭に一発貰ってからでないと、気が進まんか?」
織斑千冬がまたもう片方の拳を振り上げる前に、急かされるように教室のドアを開けて中に入る。真っ先にまたもやオロオロしている山田真耶が目に入ったが、今は何も言わずその横に立つ。
(……ん? そういやなんで織斑先生がここに来てるんだ? わざわざ様子を見に来たわけじゃあるまいし……いや、それよりもとにかく自己紹介を済ませてしまわないと──って、うおぉ……なんじゃこりゃ……!)
山田真耶の隣に立ってこの教室を視界に収めた時、その異様とも言える光景に思わず絶句する。教室の中、どこを見ても女子、女子、女子……そして彼女らの視線が、突き刺さるかのように俺に向けられているのだ。
ただ一人、一番最前列に座っている俺と同じ制服を来た、つまりこのクラス唯一の男子だけは呆然とした表情で俺を見ていた。
彼こそが、この世界で初の男性適合者であり、織斑千冬の弟。そして俺の護衛対象でもある、織斑一夏なのだ。
ゆっくり話でもしたいところだが、今は自己紹介とやらを済ましてしまわねばならん。この状況で口を開くのは些か勇気がいるが──ええい、ままよ!
「はじめまして、本日付でこのクラスに転入することになりました……レイ・オルタネイトです。ええっと、趣味は…………筋トレと銃の手入れです。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げながら、自己紹介を締める。しまった、簡単すぎただろうか? だが、これ以上喋ることが、とっさに思いつかなかったのだ。
「……はっ! おい、耳を塞ぐんだ! 早く!」
「ん?」
呆然とした表情から一転して、焦りを含んだ表情を見せる織斑一夏。耳を塞げ? 一体それはどういう意味──
「「「キャ──ッッ‼︎」」」
教室内に幾重にもこだます黄色い歓声。織斑一夏の忠告が理解できていなかった俺は、そのある意味音響破壊兵器ともいえる女子たちの歓声に、鼓膜を通して脳を揺さぶられる。
「男子! 男子よ! このクラスに二人目の男子が!」
「織斑くんとはまた違ったイケメンよ!」
「これは織斑くん×オルタネイトくんの組み合わせが……!」
(ぐ……っ……! なんて声上げるんだ……!)
たまらず顔をしかめて耳を塞ぐが、その声量に頭がガンガンする。横を見れば山田真耶も目を回していた。
しかし、ただでさえ俺の登場に興奮を隠せない様子であるクラスの女子たち。そんな彼女らに、さらに火に油を注ぐように、リーゼが爆弾を投下してしまったのだ。
「私はリーゼ・シエラ。パイロットであるレイ・オルタネイトの専用ISです」
「「「……っ⁉︎」」」
「どうぞよろしくお願いします」
「「「シャベッタァ──ッッ‼︎」」」
それからしばらく、織村千冬が怒鳴り声を上げるまでクラスは凄まじい喧騒に包まれていた。そしてさらに俺と織斑一夏に一発づつゲンコツを見舞った彼女は、サラリと俺にこのクラスの担任であることを告げたのだ。
なんとまさかの担任はブリュンヒルデ、束の命令で俺が何かしようとすればすぐさまゲンコツが飛んでくるに違いない。束が何かやらかしても俺にゲンコツが飛んでくるに違いない。
織村千冬に怒鳴られてなお、興奮を隠しきれないクラスの女子たち。織斑一夏も違った意味で、大いに喜んでいるようだったが。ともあれ、しばらくはここで過ごすということに、俺は不安を抱かずにいられなかった。
エイペックス、ランクマの沼にハマる