20201210 「安楽椅子」執筆
20201222 「みかん」執筆
『墓穴』
墓を掘るのが趣味だった。
中に何を入れるというわけではない。
言ってしまえばただの穴だが、俺にとってそれは墓なのだ。
じいちゃんが山を持っていたので、子供の頃からそこで遊んでいた。
始まりは自分の手で、浅い浅い墓を掘った。
それからシャベルを買って、墓と呼べそうな深さのものを掘った。
大人になった俺は、大きなスコップをホームセンターで買って、もっと大きな墓を掘ろうとしている。
先日、じいちゃんが死んだ。
遺産の相続があり、俺が一番あそこでよく遊んだからと、じいちゃんが持っていた山を譲ってもらったのである。
特に何かを育てているわけでもなければ、利便性のある土地でもないので誰も欲しがらず、すんなりとした遺産相続であった。
適当に足場の良さそうなところを見繕って、俺は穴を掘りだした。
昔からやっているこの作業で、墓に埋めるのは見えないものだ。
そう、始まりは猫が死んだことからだった。
野良猫だったそいつはいつのまにか会えなくなった。
じいちゃんがきっと死んだんだって言ったからそうなんだと納得した。
でも死体は見つからなかったから、穴だけ掘って墓だけ作った。
猫が死んで悲しかった気持ちのお墓だ。
それ以来俺は悲しくなると墓を作る。
俺は、じいちゃんが死んで悲しんだ自分ごと埋葬する。
その感情を埋めてしまわないと、生きていけないからだ。
思い出したくなったらまたここに来ればいい。
自分で作った自分の墓に。
※ ※ ※
『安楽椅子』
「未来を知ってるとか、めちゃくちゃ頭がいいからなんでも推理できちゃう探偵とか、そういうキャラクターって物語上扱いづらから序盤でいなくなりがちだよね」
探偵は言った。
「そんでもって俺は世間からこう言われてるわけ。現代の安楽椅子探偵、って」
「そうですね。それで俺は現代のワトソンって呼ばれてますね」
現代の安楽椅子探偵と呼ばれるこの男の助手を務めて、数年が経つ。
「そもそも現代の安楽椅子探偵ってなに? 安楽椅子探偵に古代とか中世とかある? っていうか君の現代のジョン・ワトソンもおかしいよね。君が現代のワトソンなら俺は現代のシャーロック・ホームズって呼ばれるべきじゃない? てかシャーロック・ホームズは創作なんだからワトソンに現代の、って形容詞がつくのはおかしいよな、せめてリアルワトソンとかだろ」
「そんなの僕に言われたってどうしようもないですよ。世間が勝手にそう呼んでるだけですから」
「本当に納得いかないなあ」
僕は警察から渡された捜査資料をまとめながら、探偵に問いかけた。
「それで、最初の妄言はなんです?」
「妄言ってなんだよ、俺は探偵なんだから真理しか語らないんだぜ」
そういう妄言だろうな、と僕は思った。
「俺はなんでも推理できちゃう探偵な訳だけど、リアルに存在してるから物語のことは考えずに行動するわけだよ」
「つまりどういうわけです?」
「この事件はこの概要資料を読んだだけで一から百まで全て解決しちゃったって話」
最初から最後まで、探偵は安楽椅子の上から動かない。
※ ※ ※
『みかん』
「みかんとして、歴史に名を残したいんですよね……」
幻聴が聞こえた。
俺は自宅でこたつに入っており、ボケーッとテレビを見ていたところである。
どこぞから声が聞こえたと思ったのであたりを見渡せば、明らかに声はこたつの上に置いてあるみかんからするのだ。
「え、もしかしてみかんが喋ってる?」
「みかんが喋って何が悪いというんですか?」
「いや、悪いよ。俺の精神状況が」
会話が成立してしまったので、俺は持っていたスマホで精神科を探し始めた。
「そもそもみかんとして名を残すって何? 美味しく食われてえってこと?」
「そんなのはみかんとして当たり前のみかん生じゃないですか」
「そうなの? ごめんね、俺みかんについて思ってたより詳しくなかったみたい」
このみかんは実家から送られてきたものだ。
だから精神科を予約する前に、念のため母親にメッセージを送っておくことにした。
「もしかしてみかんに何か仕込んだ?」というメッセージにはすぐに既読がつき、返信がある。
「愛、かな」……しゃらくせえわ。
「具体的にどういうビジョンがあんの?」
「そうですね……やはり柑橘であることを活かしていきたいですね」
「なるほど。皮を芳香剤がわりにでも使えばいい?」
「そんな凡夫にはなりたくないんですよ……いえ、凡みかんには」
凡みかんってなんなんだ。
「目潰しとかどうですか? こう、例えばあなたが今から強盗に襲われてもらって」
「襲われてもらう」
「そこで私で目潰しをするんです。みかんのおかげで命拾い! とか、ネットニュースに載ったらいいなと」
「そう簡単に強盗は来ねえかなあ……」
俺は言葉を話すみかんを手に取った。
「俺たち人間は、普通の人間として普通の人生を送ることが難しいって言われてんだよね。だからお前も高望みはやめて、普通のみかん生を享受するべきだよ」
「いいえ、私はもっと高みを目指せるみかんのはずで……」
みかんの皮に親指を突っ込み、べろりと中身を取り出した。
「ギャッ」という声が聞こえたのはみかんの房をバラバラにしたところまでで、口に放り込んで咀嚼する頃には何も聞こえなくなった。
「みかん、うっま」
全部制限時間10分。
「墓穴」
ドシリアスというお題。シリアスが鬼門。
「安楽椅子」
テンプレ展開の禁止というお題。テンプレで初めてオチでグルンと方向転換すればいけるかなと思った。思っただけ。
「みかん」
適当に友人に出してもらったみかんという単語で脳死状態で小説を書いた。