九条空の本棚   作:九条空

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20201123 「明太フランスパン」執筆
20201201 「父の仇」執筆


明太フランスパン/父の仇

 

『明太フランスパン』

 

「まひるってメッチャいい名前じゃねえ?」

「ハ? 私に惚れたか?」

「ウン惚れた、惚れたからあんぱん奢って」

「しょうがねえな食らえ」

「わーい」

 

 パン屋の店頭で茶番を繰り広げていると、ウフウフ笑った明月サン——こないだ知り合ったパン屋の店主——が明太フランスパンをおまけしてくれた。

 やっりい! と大げさにガッツポーズをすると、それだけでウフウフと喜んでくれる。

 オレも喜んだ甲斐があって嬉しいわ〜。

 

「明太半分よこせ」

「ハ? ヤダ」

「私の金で買ったあんぱんについてきたおまけなんだから権利は私だろ!」

「おまけしてもらえたのはオレがいたおかげだから権利はオレですゥ〜!」

 

 パンの奪い合いを仕掛けてきているまひるとは、なんだかんだ知り合って長い。

 オレが深夜に飲み屋街で占いの屋台をだしていたら、管を巻いて絡んできた女である。

 なんの仕事をしているのかとか、普段なにして生きてんのかとか、そういう話をしたことはない。

 だが妙に気があうので、度々あってはこうして絡んでは絡まれしているのだった。

 

「まひるってどういう字書くん?」

「ひらがなだよ」

「へえ! 逆にオシャレ」

「なんの逆だよ」

「知らねえけど。あれじゃん、芸名っぽい」

「芸能とか知らねえわ」

 

 パン屋のフードコートで雑談を続ける。

 まひるは自分で買ったベーコンエピを犬歯で引きちぎりながら吐き捨てた。

 

「私の名前がひらがななの、名前をつけた親が字を書けなかっただけだからな」

「字書けねえなら名前つけらんねえじゃん。どういうこと?」

「市役所の人に書いてもらったんだと。まひるってお願いしますって。漢字は分からんかったからひらがなにしたってさ」

「そこでカタカナにしないあたりアンタの親センスある」

「だはは! なんだそりゃ!」

 

 チンパンジーのように手を叩くまひるに、明月サンがそっとココアを出してきた。

 

「おまけ」

「マジ!? ヤッタ!」

「明月サン、オレにはァ!?」

 

 明月サンはウフウフ笑って、オレの頭を撫でてレジに戻っていった。

 何か言おうとしたのも忘れて、ポ〜っと明月サンを眺めていると、まひるが鼻で笑った。

 

「私の方が明月サンに好かれてるって証明されたな」

「ハア!? 明太パンの方が単価たけえし!」

「単価とか難しい言葉使うな! ココアの方が甘くて愛がこもってるだろ!」

「ハァ〜!? 明太の方が一粒一粒に命が込められててついでに愛もこもってますゥ〜!」

 

 ギャンギャン怒鳴りあっているオレたちの声と、それを見てウフウフ笑う明月サンの声が、平日の昼のパン屋に響いた。

 

 

※ ※ ※

 

 

『父の仇』

 

 目の前に小さな影が落ちてきた。

 

「父の仇ィ!」

「何ィ!? ッダァ!?」

 

 影——それは少女だったのだが、見事な正拳突きを放ってきたので、不可避の一撃を食らってしまった。

 小さな拳から繰り出されたとは思えないほどの重さにえずいてしまう。

 

「貴様の罪を数えろォ!」

「絶対に人違いだから話を聞け!」

 

 飛んできた拳を右腕で弾き、一歩少女に近づくとそのまま襟ぐりを掴む。

 ええい、ままよ! 俺は柔道の要領で少女をぶん投げた。

 コンクリートの道路に叩きつけられた少女だったが、綺麗に受け身を取ったようでピンピンしている。

 ピンピンしたまま俺に目潰しをかけてきたので、「うおっ!」と仰け反った拍子にするりと距離をとって行った。

 

「あの日のことは忘れたことがない……月夜に照らされた新月の晩だ……」

「月があるんだかねえんだかわかんねえなオイ!」

 

 何かの回想シーンに入ったかと思いきや、少女は足を振り上げて蹴りを繰り出す。

 これはやばい軌道だとすぐに悟った俺は、股間を閉じた。そのため、少女の蹴りが俺の未来を潰すことはなかった。

 

「クッ、油断しないとはさすがだな」

「よーしそんな卑怯な攻撃ができるほど落ち着いてんなら話を聞け、まずお前の父の仇の名前を教えろ、絶対俺じゃないから」

「父の仇の名はバルザック!」

「オイ絶対日本人じゃねえだろ!」

「黒髪黒目が特徴だ!」

「いやそこに関しては日本人かもしれんけど」

 

 構えこそ解かないものの、話自体はしてくれるようだったので俺は必死に、この少女に股間を潰されない方法を考えた。

 

「他の特徴は?」

「以上だ!」

「てめー日本人全員に父の仇って殴りかかるつもりか!」

「お前で284人目だ!」

「結構な規模の被害者の会結成できるぞオイ!」

「ハッ! あそこにも黒髪黒目が……父の仇ィ!」

「そんなこんなしてる間に285人目の被害者が!」

 

 道を通りかかった人に、少女が殴りかかる。

 俺の時のように殴られてしまうと思いきや、通行人の男は少女の拳をしっかりと、片手で握り込むようにして止めた。

 

「フッ……あの時の娘が大きくなったものだな」

「貴様の罪を数えろォ!」

「いやこんな低確率のガチャでよく当たり引いたな!?」

 

 男と少女の攻防戦は、さっきの俺がやったものと比べると月とスッポンである。

 俺は彼らの拳を目で追うのも難しいくらいだった。

 

「……帰ろ」

 

 俺は少女に殴られた鳩尾をさすりながら、家に帰った。

 




『明太フランスパン』
制限時間15分。登場人物3人という指定だったので一人かなり脇役寄りにしてしまった。

『父の仇』
制限時間15分。アクションシーンの必須、恋愛の禁止というお題。
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