Re:ゼロから始める救世主伝説   作:シ京

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仮面ライダー50周年おめでとうございます!
913もいつかアニメ化しないかな~なんて


第4話『死と再生』

日はすでに落ちかけている。夕陽の残光だけが街を照らす光となり、ましてや古ぼけた盗品蔵の中はほとんど暗い。盗品の交渉をするにはおあつらえ向きではあるが。

蔵のテーブルにスバル、フェルト、ロム爺、そして本来の依頼者である女――エルザが一堂に会する。

 

「なるほど、事情は呑み込めたわ」

 

エルザはちょうど飲み終わったグラスをテーブルに置きながら唇についたミルクをゆっくりと舐めとってそう言った。

 

「値段のつり上げって話だったけど、そちらのお兄さんはいくら付けたの?」

 

エルザから話を振られ、スバルはとっておきのミーティアをかざして見せる。エルザの写真を撮って見せつけた。ミーティアの説明も忘れない。

 

「そこの爺さんの話じゃ聖金貨20枚は下らないってお墨付きだぜ」

 

「ミーティア……実は私も依頼主からある程度余分なお金を渡されているの。少しの上乗せも考える意味でね」

 

 スバルはミーティアを見せつければあっさり引き下がると思っていたがエルザは案外食い下がって来た。それよりも気にかかるのはエルザの発言だ。

 

「依頼主ってことはアンタも頼まれただけってことか」

 

「そうなるわね」

 

 エルザはあっさりと認め、懐から布の袋を取り出し、中身をテーブルの上に一気に出す。それはコインだった。用心棒でもあり交渉の見届け人でもあるロム爺が数えたところ、エルザが依頼人から渡されたのは聖金貨20枚。

 

「私が依頼主から渡されているのはこれで全部。少し厳しいかしら」

 

 聖金貨20枚。それはスバルの携帯の価値に匹敵する。しかしロム爺曰く携帯にはそれ以上の価値が付く。つまりこの交渉はスバルの勝ちだ。スバルは今日一日の努力が報われたことの喜びを噛み締める。エルザは負けを認めたようでそそくさと持ってきた聖金貨を全て袋に戻し、席を立ちあがった。それに気を遣いスバルは声を掛ける。

 

「あぁ、悪いなエルザさん。たぶん怒られたりしちまうよな」

 

「仕方の無い話よ。雇い主が支払いを少なく済ませようとしたのが悪いのだし。それじゃ、交渉は残念だったけど私はこれで失礼するわね」

 

少しは機嫌を損ねていると思っていたが案外平然としていたエルザ。淡々と負けを認めてその場を立ち去ろうとする。エルザはふと思いついたようにスバルに質問を投げかけた。

 

「そういえば、あなたはその徽章を手に入れてどうするつもりなのかしら」

 

「あぁ、元の持ち主探して返すんだよ」

 

 なんとはなしにそう答えた。正直に。

 

 その瞬間、その場の空気が一変した。目の前にいる女の纏う雰囲気がみるみる変わっていく。いや、ベールを脱ぎ正体を現したというべきか。

 

「なんだ。関係者なのね」

 

酷く底冷えのする声。さっきまでのエルザとは別人の様だった。特段見た目が変わったわけでもない。ただその女の出す雰囲気がその場を支配しただけだ。そのあまりの変わり様にスバルは理解が追い付かない。自分が何を言ったのか、なぜエルザの様子が変なのか。頭の中がぐるぐると渦巻き、ただ何となく背筋が冷たい。

その瞬間スバルはいきなり横から飛びつかれて床に倒れた。

 

「何だよ……」

 

「バカ!死ぬ気か‼」

 

状況に追いつけないスバルに怒鳴るフェルト。そう言われてエルザの方を見ると切っ先の鋭い、湾曲した刃、所謂ククリナイフと呼ばれる刀を構えたエルザがこちらを見下ろしていた。もはや殺意を隠そうともしない。

 

「うぉぉぉぉぉ‼」

 

 一線を越えたエルザにクロムウェルは特大の棍棒を振りかざして襲い掛かる。エルザはそれを飛び越えることで躱す。しかしクロムウェルの猛攻は止まらない。エルザを周りのテーブルや椅子ごと破壊せんと攻撃を繰り出す。どんどんと荒れていく蔵の中は一瞬にして戦場と化した。

 

「巨人族と殺し合うのは初めてよ」

 

「ぬかせ小娘!ひき肉にして大鼠のエサにしてやらぁ!」

 

クロムウェルはエルザめがけて棍棒を振り下ろす。しかしエルザは身軽な跳躍でそれを意ともしない。全力の攻撃がことごとく躱されていく戦況に見守っていたスバルは焦る。しかしフェルトは対照的だ。

 

「大丈夫だ。ロム爺がやられるはずがねぇ!」

 

クロムウェルに全幅の信頼を置くフェルトはそう言うが、焦っているのはクロムウェルも同じだった。狭い室内にもかかわらず先ほどから一向に攻撃が当たらないことに業を煮やす。

 

「食らえぇぇぇぇい!」

 

そして気合を込めた渾身の一撃で決着を狙う。当たればどんな敵もひとたまりもない。

 

しかし―――

 

クロムウェルの目の前で鮮やかな銀の軌道が一瞬走る。その直後渾身の一撃を放った腕は勢いをそのままに―――宙を舞った。

 

「ロム爺!」

 

フェルトの悲痛な叫び声。切断された腕からは水道を開けたようにドバドバと血が流れ落ちる。

腕を片一本失った。その間にも血は容赦なく体から流れ落ち力が抜けていく。そんな体だがクロムウェルにはフェルトを守り抜く使命とプライドがあった。それを胸に己を奮い立たせ、せめて道連れにしようと特攻を仕掛ける。

 

「言い忘れていたけど―――」

 

クロムウェルの足が止まる。その喉には割られて鋭利になったグラスが突き刺さっていた。

 

「ミルク、ごちそうさまでした。」

 

クロムウェルの巨体から繰り出される突進を涼しい顔で受け止めとどめを刺したエルザ。この女の前に家族の使命も、男の意地も、渾身の攻撃も、最後の悪あがきさえもついに届くことはなかった。ズシンと音を立てて倒れる巨体。すでに事切れていた。

 

「てめぇ……よくもやってくれやがったな……」

 

エルザが絞り出すような声に振り向くと、今までスバルをかばったまま戦況を見守っていたフェルトはゆらゆらと立ち上がると怒髪天を衝くほどの怒りを露わにした。

 

「あら、あなたの方が勇気があるのね。だけど手向かうと痛い思いをするかもしれないけど」

 

「反撃しなくても殺す気だろうが……このクソ異常者が‼」

 

 怒りを込めた啖呵もエルザは涼しげな笑みを崩さない。

 

「悪かったな……巻き込んじまって……」

 

フェルトはスバルにそう言い残すと、スバルの答えを聞く間もなく床を踏みしめ一気に足を踏み出した。一瞬で加速すると目にもとまらぬスピードでエルザとの距離を詰め翻弄しようとする。

 

(風の加護……)

 

 エルザがフェルトの持つ力に驚いている隙に背後に回り、一気に手持ちのナイフを振り下ろした。しかしこれも当然のように躱されてしまう。

 

「素敵。世界に愛されているのね。あなた。妬ましい」

 

攻撃を躱され無防備になったフェルトを振り向きざまの一太刀でまっすぐに切り落とす。小さな体から容赦なく飛び散る真っ赤な血。そのまま倒れ込み動かなくなった。

ゆっくりと振り向くエルザ。残るはスバルだけとなった。

 

「お爺さんと女の子は倒れ、なのにあなたは動かない。諦めてしまったの?」

 

悪夢だ。目の前で二人もあっけなく殺されて次は自分の番だと自覚した。勝てっこない。それでもスバルは震える足と引ける腰で無理やり立ち上がった。どうせ何もしなくても殺される。スバルは考えるのをやめ、大声を上げながらエルザに突っ込んでいく。

 殴りかかるスバル。しかしエルザはそれをいともたやすく往なしスバルの腹に蹴りをいれる。もんどりを打って倒れ込む。たった一撃で意識が飛びそうなほどのダメージを負ってしまった。

 

「全然ダメ。見たまま素人で動きは雑。加護もなければ技術もなく、せめて知恵は絞れるかと思えばそれも無し」

 

「うるせぇな……意地があんだよ……こんだけやられりゃあな……!」

 

「飛びぬけた気骨だけは認めてあげる。それがもっと早くできていればこの子たちも少しは違ったかもしれないけど」

 

 あたりには惨たらしい死体。それも2つ。それを見た瞬間、スバルは驚く。この光景は見たことがあると。まさにこの場所で、徽章を探しに、3人で突き止め、死体を見つけ、サテラとともに殺された。理解した。あれは夢ではなかった。まさにここで殺されたのだ。相手は勿論、エルザ。

 

「終わりにするとしましょう。天使に会わせてあげるわ」

 

 自分たちを殺した相手がエルザだったと知った今、不思議と焦りは消え覚悟を決めることが出来た。こちらへ向かってくるエルザをしっかりと見据え、大地をしっかりと踏みしめる。

 ククリナイフを振るうエルザ。それを躱す。躱した勢いのまま攻撃した後の隙を狙って回し蹴りを繰り出す。それはエルザの体にクリーンヒットし弾き飛ばす。

 

「あぁ、今のは……とても感じたわ」

 

 恍惚の表情を浮かべるエルザ。殺し合うことを楽しんでいる。まだ勝ったとは言えないが、それでも捉えた。スバルはこの悪夢に一縷の希望を見出す。

しかし―――

「ん?」

 

ふと下腹部に違和感を感じたスバルが自分の腹を見下ろすと白いジャージは赤く染まっていた。

 

「驚いた?すれ違いざまにお腹を開いたのよ。これだけは私得意なの」

 

 やられた。スバルはカウンターを仕掛けたがそこからさらにカウンターを仕掛けられたということだ。引き裂かれた腹からは血が溢れてくる。たちまち力が抜け倒れ込む。まるであの時の再現だ。結局何も変わらなかった。

 

「あぁやっぱり、あなたの腸はとてもきれいな色をしていると思ったの」

 

倒れ込むスバルの傍らにしゃがみ込むエルザ。何やら話しているがもうスバルの耳には届かない。次第に意識が混濁する。それに従って頭の中も痛みだけに支配される。

痛くなくなった。次に襲い来るのは死への恐怖。いつ死ぬのか。まだ生きているのか。分からない。怖い。怖い。死んだらどうなる?死にたくない。死にたくない。死に―――

 

そしてスバルは死んだ。

 

 

 

『お掛けになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていません』

 

「……チッ」

 

 男は舌打ちをして天井を見上げるとため息をついた。諦めて握りしめた携帯電話を折り畳んでポケットにしまう。ちょうどそのタイミングでラインハルトが部屋に入ってきた。

 

「やあ、気分はどうかな。君の分の夕食を持って来たんだが食べるかい?こんなものしか用意できなくて申し訳ないが」

 

そう言ってラインハルトは椅子に座る男の目の前のテーブルに簡素な料理の皿を数枚並べた。

 

「悪いな、何から何まで。何の見返りもないってのに」

 

「気にすることはないよ。ここは衛兵の詰所の一室で君と同じような人たちにたまに貸しているんだ」

 

「俺と同じ……⁉」

 

「ああ。職を失ったりしたことで家も追い出され路頭に迷う人たちだよ。君もそんなところじゃないのかい?」

 

「……あぁ、そういう事か。まぁそんなところだ」

 

 自分と同じ異世界に迷い込んだ人間が他にもいるのかと男は一瞬期待したがただの早とちりだった。こっちは世界から追い出されてるけどな。さすがにそうは言えないので何となく話を合わせてお茶を濁した。

 

「それに僕は個人的な見返りを求めてやっている訳じゃない。君を助けることで社会が少しでも良くなればいいと思っている。理想の国に近づくためにね」

 

「理想?」

 

「いや、理想は少し大げさだったかな。でもとにかく僕はこの国を変えたいと思ってる。君は知っているかい、貧民街のことを」

 

「まあな。少しは」

 

 スバルとサテラと行った時のことを思い出す。控えめに言ってもみすぼらしい家が立ち並び、木も草も井戸もそこに住まう人たちも枯れかかっているような極限の貧困環境という印象を持っている。そういえばあの2人は今頃どうしているだろうか。2人にとっては突然半ば逃げ出すようにして別れたことが少しは気になるが、いつの間にか一晩明けてしまったしあまり大きな騒ぎにはなっていないようだから今頃は無事に徽章を見つけてサテラの家でスバルは恩人としてもてなされているのかもしれない。男はそう思った。

 

「あの貧民街にしろ王都の治安にしろ問題は山積みだ。誰もがより幸せな暮らしができて明日のことにも困ることはない、そんな風に作り変えることが出来れば良いんだけどね……。剣の腕には多少自信はあるけどそんなものはちっとも役に立ちそうにない。自分の未熟さを痛感する日々だよ」

 

「……」

 

ただ困惑する。深刻な悩みなのは分かるが男には相手を納得させるような答えを出す自信がない。気の利いた言葉も浮かばずただ黙りこくってしまう。その様子に気付いたラインハルトは慌てる。

 

「あぁすまない。つまらない話を聞かせてしまったね」

 

「いや……でもまぁ、諦めなければいつかは叶うんじゃないのか」

 

 2人きりの部屋の中が静寂する。男は恥ずかしくなった。何か言おうとするあまり、思わずありきたりで無責任な言葉を吐いてしまった。ラインハルトの顔を直視できない。

 

「そうか……ありがとう。君にそう言ってもらえて少し勇気が出たよ」

 

「えっ?」

 

男はラインハルトの顔を見上げる。その表情は隠し事や邪なものなど一切ない心の底からの笑顔に見えた。口から出まかせに近い発言でも真正面から受け止めて、しかも礼を言うなんてこの男は本当に肩書通りの器を持つのかもしれないと男は思った。

 

「君はいい人だな。出来れば今後も良い関係でいたいと思ったよ」

 

そう言ってラインハルトは男に手を差し出す。

 

「改めて、僕はラインハルト・ヴァン・アストレア。よろしく。君の名前もぜひ聞きたいな」

 

男は迷う。自分の名前はそう易々と人に教えないのが性分だがラインハルトには恩もあるしこの男はおそらく信用してもいい人間だ。そして何より―――

 

(この男はあいつに似ている)

 

もう一度やり直すために。名を名乗るべきなのかもしれない。

 

「俺は―――」

 

 その時、頭の中に激痛が走る。視界がぼやけ耳鳴りが起こる。まただ。昨日と全く同じ症状だ。男は思わず椅子から転げ落ちる。異変を察知したラインハルトは慌てて駆け寄る。

 

「どうした、大丈夫か!」

 

 男はぼやける意識の中、心配をかけまいと手のひらをかざして制止する。しかし症状は悪化するばかりで一向に収まらない。

 

「誰か!救護員はいないか!―――おいっ、しっかりしろっ」

 

必至に男を介抱するラインハルトの顔すらぼやけてよく見えない。しかし朦朧とする意識の中、男は見えないはずのラインハルトの顔を見てわずかに驚愕する。そんなはずはない。

 男は意識を失う寸前、うわ言のようにつぶやいた。

 

「木場……!」

 

 

 

 

 ナツキ・スバルは自分の目をもはや疑いはしなかった。日は高く昇り周囲は道行く人波の喧騒に満たされている。そして目の前には八百屋の店主・カドモンが怪訝な顔でこちらを見ている。

 

「おい兄ちゃん、どうしたよ急に呆けた面しちまって」

 

「あ……」

 

 死を待つ恐怖、痛み、極度の緊張から一気に解放されたスバルは声にならない声を発し、その場にへなへなと倒れ込み再び気絶してしまった。

 

 

突如頭から水を浴び、スバルは覚醒する。

 

「おい大丈夫か、もう金は要らねぇ」

 

 ゆっくり瞼を開くと目の前にカドモンがこちらを見つめている。いきなり店先でぶっ倒れたスバルを心配してリンガを差し出してくる。スバルが今いる場所も日陰になっていて気絶している間にカドモンが移動させてくれたようだ。そんなカドモンの気遣いよりもスバルの頭の中は未だに混乱が支配していた。強烈な死の感触。それは確かにある。そのはずなのに今はまた見慣れた平和な商店街の中にいる。その矛盾の迷宮がスバルの思考を雁字搦めにしていた。頭がうまく働かないうちに言われるがままリンガを受け取ろうとする。

 その時カドモンの肩越しからあるものが目に入る。銀色の髪、とんがったエルフの耳、一つのくすみもない真っ白な衣服。今までぼんやりしていた頭も一気に動き出す。その姿はサテラに間違いなかった。運命的な出会いをし、彼女の徽章を取り戻すために2度も命を落としたのだ。他でもない彼女のために。スバルは思わずカドモンを突き飛ばしサテラへと駆け出した。

 

「サテラ‼」

 

 スバルはありったけ大声で彼女の名前を呼んだ。気付いてほしくて、言いたいことがたくさんあって、また会えたことが嬉しくて……。

 声に立ち止まる少女。スバルの呼びかけに呼応するようにゆっくりと振り向く。しかしこちらを見る双眸は氷よりも冷たかった。

 

「あなた……どういうつもり……誰だか知らないけど人を嫉妬の魔女の名前で呼んで、どういうつもりなの‼」

 

「え……」

 

 返って来た反応は想像とは真逆のものだった。再会の喜びを分かち合うつもりが今はただすさまじいほどの敵意を向けられている。ふと気づき辺りを見回すと異様な雰囲気に包まれ、周りの人々からも冷たい視線を浴びせかけられていることを知った。この異世界で彼は何故か、ひとりだった。

 その時建物の陰から何かが高速で飛び出してくる。その影は人の群れの間を縫うように駆け抜け、スバルに気を取られていた少女の脇をかすめるとそのままあっという間に人波の向こうへ消えていってしまった。その場にいる者は何が起きたか全くわからないままあっけにとられていたが、

 

「徽章が無い……!このための足止め、あなたもグル⁉」

 

「ち、違……」

 

 スバルの弁明も聞く間もなく少女は盗んだ犯人を追いかけて走り去っていった。スバルは立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 

 ぼんやりとした意識がやがて雲が晴れていくような感覚で覚醒し始める。男はうっすらと目を開ける。横倒れの景色。視界の片隅に石畳の地面。そこで自分が地べたに這いつくばるような態勢であることに気付いた。本調子ではない体に鞭打って急いで体を起こす。辺りを見渡すとそこには椅子もテーブルも夕食もラインハルトの姿もない。あてがわれた部屋から野外に投げ出されていた。高い建物に挟まれて薄暗い路地。そこは男にとって三度目。もはや見慣れた景色だった。相変わらず何が起こったかは分からない。ラインハルトが自分で誘っておいて寝ている間に外に放り出すなんて真似をするとは考えにくいし、いくら寝相が悪くても布団どころか部屋から飛び出すなんてどう考えてもあり得ない。結局また男を襲う不可解な現象には答えは出そうになかった。

 男はそばに同じく倒れていた自身のバイクをなんとか立て直す。まだ頭が混乱する中次に何をすべきかを考えていると、路地裏の向こうから人影がこちらに向かってくるのが見えた。

 

「おいお前、痛い目見たくなかったら出すモン出しな」

 

「お前ら……!」

 

 姿を現したのは3人組のチンピラだった。流石に男も驚きを隠せない。デジャヴどころかほぼ同じ展開がこれで3度目だからだ。どんな馬鹿でも同じ相手から2回も痛い目を見ればさすがに学習するはずだが、そんな様子はちっとも見受けられず、少しの躊躇もなく肩で風を切って歩いてくる。

 

「なんなんだお前ら。マジでいい加減にしろよ」

 

「ああん?随分生意気じゃねぇか、こいつ。俺たち3人に勝てると思ってんのか?さっさと金だせよ!」

 

チンピラ3人組の真ん中、細身の男は懐からナイフを取り出し軽く振ることで威嚇する。

 

「ああそうかよ」

 

男は平行線の話を打ち切ると隣に停めてあるバイクを見る。そして男のバイクのシートの前方のタンクの部分に付いている黄色のボタンを苛立ち交じりにたたきつけるように押した。

路地裏には3人分の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 結局、少女を追いかけざるを得なかったスバルは徽章を盗んだ犯人は十中八九フェルトであると断定した。そして追いかけながら頭の中を整理する。謎は山ほどあるがまずは先の出来事だ。あの少女はサテラと呼ばれたことに猛烈に激怒していた。サテラとは嫉妬の魔女という存在の名前であることも言っていたからこの世界において禁忌の名前なのかもしれない。しかしそれ以上に気になるのはスバルの顔を見ても何の反応も示さなかったことだ。それもただ忘れているのではなく全く知らない人間に対する反応だった。2度死んだ記憶があるにも関わらず現状五体満足で歩いていることを加味して考えるとスバルはある突飛で馬鹿げた結論に達した。それは―――

 

(時間が巻き戻ってるのか?それも俺が死ぬたびに……)

 

 異世界召喚ものなら特殊能力の習得がお決まりだが、それがまさかそんな難儀なものだとは夢にも思わなかったスバルから大きなため息が漏れる。スバルが命を落とすたびに時間が巻き戻ってやり直しになる能力―――死に戻りといったところか。考えれば考えるほど厄介が過ぎる。つまりスバルが死ねば、死ぬ前に起こった出来事が無かったことになり出会った人物の記憶からも消えるということになる。というか実際そうなっている。それを裏付けるものがもう一つ。スバルは自身の手に握られたビニール袋の中身を確認する。そこには未開封のスナック菓子の袋があった。これは確かエルザに殺される前にロム爺が全て平らげたはずだったものだ。この現象が死に戻りの説を強めていた。

 自分の能力を把握したところでスバルはある路地裏にたどり着いた。初めて来たときここでチンピラに襲われたことを思い出す。今となってはそれが遠い昔の出来事のように思えた。

 その時、路地裏に誰かが佇んでいるのに気づく。薄暗い中を進んでいくうちにはっきりと見えていく。銀色の光沢を放つバイク。それにもたれるように腰掛けるのは、細身で茶色い長髪の男。スバルはこの男を知っていた。光の中から現れスバルをチンピラから助け出してくれた男。最初のループで共に徽章を探した男。

 同じ異世界召喚者であり同じ運命へと巻き込まれた2人は始まりの場所で再び出会ったのだった。

 

 

 

 

 

Open your eyes, for the next φ's.

第5話『三度目の正直』

 

 

 




本来第3話と第4話は同じエピソードだったんですがあまりにも長くなってしまったので2話分割となりました。
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