Re:ゼロから始める救世主伝説   作:シ京

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前回からUAとかお気に入りとかが爆伸びしていてびっくりしました。最後の最後にちょろっと変身しただけなのに。

評価してくださったかた、お気に入り登録してくださったかた、お読みになっていただいているかた、ありがとうございます!今後もよろしくお願いします!


第6話『ファイズの男』

「……え?」

 

誰が放ったかその声は宙を彷徨って消えていった。ようやく止んだ光の中に立っていたのは茶色のロン毛男などではなく、全く別の人型だった。黄色く光る大きな目、銀色の光沢を放つ胸部、全身を走る血管のような赤いライン。宣言通り謎の男は謎の戦士に変身した。

 

「ま、マジかよ……」

 

 スバルは展開についていく事が出来ない。男が携帯電話をいじったと思えば眩い光に包まれて全く別の姿に変わってしまったのだから。まるでスバルが幼いころ夢中になっていたテレビの向こうのヒーローさながらのようだった。初めて会った時からずっと変わった人物だと思っていたがこんなことが起こるとは思ってもみなかった。

 

「へぇ、面白いわね。それは魔法?それとも加護?どちらにせよ腸を見るのが楽しみね」

 

「……」

 

全身を駆け巡る赤いラインと黄色い目は暗がりの中で煌々と輝いているが、その出で立ちとは対照的に戦士は寡黙を貫く。

 

「あら、変身しても無口なのは変わらないのね。まあいいわ、始めましょう」

 

 そういってエルザはククリナイフを構え戦闘態勢をとる。一瞬の静寂の後に、最初に仕掛けたのは戦士。ドタドタと床を鳴らしながら真正面から突っ込む。

 

「ハアッ!」

 

気合一閃、掛け声とともに放たれた拳をエルザは体をそらし回避する。続けざまに放たれる2発目、3発目の攻撃も涼しい顔で避けたと思えば、攻撃後に生まれる隙をついて鋭い斬撃を食らわせた。金属同士が激しくぶつかり合う音。戦士の胸部からは鮮血の代わりに眩い火花が散った。両者は再び距離をとって間合いを計る。エルザは笑みを浮かべる。

 

「成る程。それは鎧ってわけね。ちょっと時間はかかりそうだけど、それも料理のし甲斐があるってものだわ」

 

 あたかも殺すことが確定しているかのような言い草のエルザに戦士は意趣返しを込めて、自分の胸のあたりをまるで埃を払う様に軽く撫でてみせる。現に胸のアーマーには傷一つついていない。挑発の応酬にもエルザは心底楽しげ、もとい快楽を感じているような表情を湛えている。

 

「ふふ。重そうな鎧だけど、どこまで私のスピードについてこられるかしらね」

 

 そう言い残すと目にも留まらぬ速さで駆け出す。今度はエルザから仕掛けた。真正面から攻撃すると見せかけ、戦士の眼前で方向転換すると横に回り込み攻撃を放つ。戦士はそれを見切り攻撃を避ける。エルザは機動力を武器にあらゆる方向から攻撃を繰り出すもそれも躱された。そして先ほどと全く同じく攻撃後の隙をつき、今度は戦士がエルザの胴をめがけて蹴りを放った。しかしエルザはそれすらも見切り、懐に潜り込むと狙いすました一撃で戦士の腹を切りつけた。

 

「ぐあっ!」

 

 堅いアーマーに守られていない腹部への攻撃は戦士にうめき声を上げさせた。周りに比べ守りの薄い腹部のスーツ。それは引き裂かれることは防いだが痛みは伝わったようだ。それを聞いたエルザはより大きく頬を吊り上げる。

 

「痛ってぇな……」

 

戦士は自分の腹部を抑えながら苛立ちを見せる。

それを固唾を飲んで見守るスバル。常識はずれなアイテムで変身した男でも一方的に攻撃を食らっているなんて。握った拳がじんわり湿っていく。

戦士は態勢を整えると大きく息を吐き、―――右手を小さく下に振った。

 

「はあッ‼」

 

戦士は再び雄たけびを上げながら突進する。そして右腕を大きく振りかぶって拳を放つ。三度の激突なれどそれは一回目と全く同じ戦法だ。エルザは躱しながらため息をつく。

 

「それしか出来ないのかしら。身体能力はまあまあだけど戦いはまるで素人ね。まあいいわ。そろそろ仕舞いにしましょう」

 

 エルザはがら空きの腹にククリナイフを振るう。今度はスーツの上から腹ごと引き裂くように深く、力強く。

 

「ヤバい!」

 

思わず叫ぶ。スバルは隙に付け込むエルザの攻撃にかつて自分が食らった痛みと惨い自身の姿を戦士に重ね合わせた。スバルは決定的な凄惨な光景から目をそらした。

 

一瞬の静寂。両者の動きが止まっている。エルザの刃が戦士の腸を捉える―――ことはなかった。ナイフは何も捉えることなく戦士の体の寸前でぴたりと静止していた。

 

ナイフを持った右腕は戦士の左手によってがっしり掴まれていた。わざと一回目と同じ動きで隙を見せれば、エルザは間違いなく腹を狙う。いくら素早い動きでも狙いが分かっていればそこで待ち構えて捕えることは容易だった。戦士の仕掛けた罠にまんまと誘い出されたことをエルザが自覚するのには時間はかからなかった。掴まった腕を振りほどこうとしてもそれは空中に縫い付けられたかのように微動だにしない。

 戦士がエルザの手首を強引にねじり上げるとエルザは痛みで思わずナイフを手放した。エルザの顔から初めて余裕が消える。しかしすぐに笑みを取り戻す。隠されたもう一本のククリナイフに左手を伸ばす。相手は自分の機動力を封じたと思って油断している。その隙に首元を狙えば―――

 エルザはそこでハッと気づくとナイフに伸ばしかけていた左手を戻し、自分の顔の前で防御態勢をとる。その寸分後戦士の放った右拳をエルザの左腕が防いだ。

 攻撃が防がれたと見るや否や戦士はもう一発放つために腕を振りかぶり、真っ直ぐ打ち出した。

 エルザにとってその攻撃を防ぐことは朝飯前だった。軌道を変えることもしなければフェイントもない。ただ愚かなほど真っ直ぐなパンチ。自由な左腕一本でも楽々受け止めた。しかし―――

 

「ぐっ‼」

 

エルザの左腕はたった2発の攻撃で悲鳴を上げた。バキ、と腐った倒木を踏み抜いた時のように、いとも簡単に砕け散った。戦士の仮面はエルザが苦悶の表情を浮かべようが相変わらずただ無機質に光を放っている。

その時エルザの右手が不意に解放される。戦士が手を放したのだ。てっきり3発目を警戒していたエルザは虚を突かれ一瞬動きが鈍った。その一瞬の油断が決定的な戦局を呼びよせることになる。戦士はその場でくるりと回転すると、その独楽のように華麗な回転から鋭い回し蹴りを繰り出した。それがエルザの腹部に深く深く突き刺さりそのまま吹き飛ばす。蹴り飛ばされた先には先ほど少女とパックの魔法によって作り出された巨大な氷のオブジェ。その攻撃力の高さを表すようなとげとげしい形は激突したエルザをその場に留めた。オブジェに磔にされたエルザはさながら処刑を待つ罪人のようだった。

その処刑場の前に立つ正体不明の処刑人はベルトの左脇に携えたデジタルカメラを取り出し携帯電話の蓋についた小さな部品をカメラへと付け替える。

 

『Ready』

 

 デジタルカメラを変形させ拳に装着する。身近な家電製品は瞬く間に武器へと変貌した。戦士がベルトの携帯電話を開き、Enterキーを押す。

 

『Exceed Charge』

 

 戦士は見せつけるように右手を胸の前にかざす。ベルトから一層強い光の塊が赤いラインに沿って全身を這いまわった後、右手に装着したナックル型の武器に吸い込まれていった。甲高い断続的な電子音が鳴り響く。もはや戦局は決した。だんだん速くなる音は処刑までのカウントダウンを思わせる。次に放つ一手で決着をつけるであろうことはその場にいる誰の目にも明らかだった。戦士はゆっくりと迫る。

 

「はああああああっ‼」

 

間合いが詰まった後雄叫びを上げて必殺の拳をつき出す。その声に触発されたエルザは力を振り絞り攻撃が到達する寸前で脱出。そのまま戦士のパンチは氷のオブジェを捉え、轟音と共に砕き、砕かれた破片は高速の弾丸となって盗品蔵の壁に降り注ぐ。壁は一面破壊しつくされ夜の帳が下りた貧民街の風景がその向こうから顔をのぞかせている。

余韻を残しながら再び静寂が訪れる。エルザは戦慄する。もしもあれが直撃していたら流石のエルザもどうなっていたか分からない。戦士はゆっくりと振り向き、ひるんでいるエルザをその光り輝く双眼で射貫く。何にせよ必殺技は猛烈な威力を見せつけたものの不発に終わった。戦いの第二幕への緊張が高まる。

 

その時不意に戦士はベルトに手を伸ばし携帯電話を引き抜くとボタンを操作する。そしてあろうことか戦士の姿は瞬く間に解かれ元の仏頂面の男に戻ってしまった。その場にいる一同――エルザも含め――あっけにとられる。

 

「俺の勝ちだ。もういいだろ」

 

 そう吐き捨てるとエルザを素通りしてスバルたちのもとへ帰ってくる。巻いていたベルトを外し、そそくさとアタッシュケースに片付け始めた。死闘はあっけなく幕を閉じた。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!何してんだよ⁉」

 

「は?何が」

 

 我に返ったスバルは何食わぬ顔で帰って来た男に噛みつく。あれが当たっていたらエルザはおそらく死んでいたし、相手にそう思わせたこと自体が勝敗を決したと言いたいのだろうが現実にエルザはまだ生きているし、このままおとなしく引き返すとは思えない。スバルは受け入れることが出来なかった。対して男はスバルが何をそんなに必死になっているのか到底分からないような顔をしている。

 

「何って、とどめを刺さないと……!」

 

「別にいいだろ。勝負はついたんだよ」

 

「は⁉なにのんきなこと言ってんだ!だってあいつは人を襲うんだぞ!今やらなきゃ、どんどん被害が―――」

 

「だったらお前がやれ。なんだって俺がそこまでしなくちゃならない」

 

 男はいい加減スバルにいら立つ。核心を突かれスバルは返答に窮する。その時、

 

「彼の言う通りだ」

 

 この混沌とした状況を収拾せんと新手の声が響く。白い外套、赤い髪色、腰に差した剣。剣聖ラインハルトが崩れた盗品蔵の壁から現れた。ラインハルトは状況を確認しながら中へ入ってくる。

 

「一般人が手を汚す必要はない。この場の後始末なら僕に任せてくれないか。どうだい、腸狩り?」

 

 エルザを正面に見据えて言うラインハルト。その穏やかな口調の裏には脅しともとれる力強さがあった。首をすくめておどけるエルザ。驚くべきことにこの短時間で負わされた傷が回復しつつあった。

 

「精霊使いに鎧の坊や。そこに続けて剣聖まで現れたとなっては流石に分が悪すぎるわね。おとなしく退散させてもらいたいところだけど、そこの坊や」

 

 エルザは男に話しかける。

 

「敵に情けをかけるなんてやっぱりまだまだ詰めが甘いわね。そこのもう一人の坊やの方がよっぽどよく分かってるわ。私にとどめを刺さなかったことを必ず後悔させてあげるから、それまで腸を可愛がっておいてね」

 

 エルザは捨て台詞を吐き、崩れた壁の向こうへと姿を消していった。脅威が去り、その場はひとまずの安堵に包まれた。そして自ずと皆の視線はこの場を収めたラインハルトに向けられる。手負いとはいえエルザを退散させた言葉には実力が裏打ちされている。

 

「アンタ、なんでここに……?」

 

 スバルは改めてラインハルトがこの場に現れた理由を尋ねる。ラインハルトは優しく微笑む。

 

「君はさっき会ったね。質問の答えだが、それはまさに君に助けを求められていると思ったからさ。今日は生憎非番なんだが、これが僕の仕事だからね」

 

 一方で、先ほどまで激戦を繰り広げていた男がラインハルトに気を取られているフェルトの不意を突いて、徽章を握りしめていた手を捻りあげて徽章をふんだくった。そして「おい」とこれまたラインハルトを見つめる元の持ち主の少女に呼び掛け、光を放つ徽章を放り投げて渡した。少女は不意に声を掛けられ慌てるも徽章はなんとかその手に収まった。

 

「ほらよ。これでいいんだろ」

 

「あ、ありがとう……?」

 

 少女は戸惑いながらも素直に礼を述べた。この場所に来てから彼はフェルトの盗賊仲間だとずっと思っていたが、エルザによって窮地に陥ったときに助けに入りそのまま不思議な力で撃退してしまった。そして今、確かにぶっきらぼうではあるが、徽章を返してくれた。この少女もまた、この混沌とした状況においていかれつつあったのだ。

 これに納得がいかないのがフェルトだ。

 

「おい!それはアタシの物だ!勝手なことしてんじゃねーよ!返せよ!」

 

「寝言は寝て言え。今持ってる奴が正当な所有者なんだろ?そんなに欲しけりゃ金出して買い取るこったな」

 

 自分より幼いフェルトにも容赦なく、大人げない反論をかます。フェルトの苦虫を嚙み潰したような顔に溜飲を下げたのか機嫌良さそうに「じゃあな」と言い残して盗品蔵を出た。スバルたちもそれを追って外に出る。

 

「おいちょっと待てよ!さっきのはなんだったんだよ!アンタ一体何者なんだよ⁉」

 

「あれはファイズだ。じゃあな」

 

 シンプル過ぎる答えに思わずずっこけるスバル。あの眩き光を放つ戦士の名前はファイズであると知ったところではいそうですか、とはならない。隙あらばここを去ろうとする男にスバルは食い下がる。

 

「だからそのファイズがなんなんだよ!だいたいなんで本人の名前よりも先にその名前を知るんだよ。さあ観念しな、アンタ自身のことについていろいろ教えてもらうぜ~」

 

「だから嫌だって言ったろ。お前らとはここでお別れだ。俺は元の世界に帰る、その方法を探す。だから俺のことは忘れて、せいぜい達者に生きるんだな」

 

 一瞬スバルはこの男が持つ不思議な空気の本質の一端を垣間見た気がして、これ以上は何も言えなかった。具体的な何がとは言えないがとにかくこの男はスバルが今まで生きてきた中で会ったことのないタイプの人間であることは間違いなかった。その男と別れることにどうしようもない名残惜しさを感じていた。

 

「ねぇ、ちょっと待って。行ってしまう前にお礼をさせてくれないかしら」

 

 若干センチメンタルになっているスバルの後ろから少女が言う。バイクに搭乗しヘルメットを被ろうとした手を止める。

 

「はあ?いいよ別に」

 

「そうしないと私の気が済まないの。お願い」

 

「……変わってんなお前。だったらそいつに聞け。ここを突き止めたのはそいつだ」

 

 少女の変な願いに困惑しつつも、折り合いをつけるための提案にスバルを顎で指す。しかし少女は納得のいかない様子で

 

「勿論そのつもりだけど、そうしたら2つになっちゃうわ」

 

「何個でもいいだろ。お前も大概めんどくせーな」

 

 少女の生真面目さに辟易する男。その拍子にラインハルトが目に入ると何かを思い出したように話しかける。

 

「そうだ、お前に言っとくことがある」

 

「何かな?」

 

 ラインハルトは少し興味深そうに男の言葉を待つ。

 

「国を変えたいとか、理想郷とか、高すぎる理想は考え直した方がいいぜ。高ければ高いほどいつかでかいしっぺ返しを食らうからな。それだけ言っとく」

 

 二人は見つめ合う。ラインハルトはあっけにとられた様子だが男の方はどこか切実な目でラインハルトを見つめている。否、ラインハルトを見ているようで見ていない。まるで似たような誰かを重ね合わせているように見えた。

 

 男は今度こそヘルメットを被ると、バイクのエンジンをふかしてすぐさま貧民街の闇の中へ消えていった。けたたましいエグゾースト音が聞こえなくなった後は再び淋しい静寂が辺りを支配した。スバルがいつまでも見送っていると背後から少女が声を掛ける。

 

「ねえ、あなたも徽章を取り返すの手伝ってくれたんでしょ?お礼をさせてほしいの。さっきの彼の分も合わせて二つ」

 

「いやそんな図々しいこと出来ないよ!あいつの分は取っといてくれ。いつか、誰かのために使ってほしい。それならあいつも文句は言わないはずだ」

 

 スバルの提案に少女は納得したように深く頷いた。

 

「分かった。それにしてもあなたたち二人、すごーく仲が良いのね」

 

(本当は君を入れて三人なんだけどな……)

 

 スバルは心の中で呟く。三人の出会い、徽章を探す旅が順番に思い出される。しかし今はもう無い。

 

「よーし、そろそろお礼の中身言っていいか?どれどれ何にしよっかな~」

 

 スバルは心中を悟られまいと敢えてひょうきんに振る舞う。そんなことを知らない少女は頷いて少し緊張気味にスバルのお願いを待つ。

 

「俺の名前はナツキ・スバル!俺のお願いは……」

 

「……うん」

 

少女は唾をごくりと飲み込む。

 

「フッ、君の名前を教えてほしい……」

 

 スバルはありったけのキメ顔でささやく。これがスバルのこれまでの人生の中で蓄えられた中の最大限である。少女にとってはそれが可笑しかったらしくたまらず笑い出した。

 

「あははっ!エミリア。ただのエミリアよ!よろしくねスバル!」

 

 夜の闇が下りたこの場にあって眩しいほどの笑顔を見せるエミリアと名乗る少女。スバルは胸のあたりがジーンと熱くなった。氷の仮面をかぶったような今までの表情からでは想像もつかないような朗らかな笑顔。名前はそうだが、この笑顔を見れたことの方にスバルは満たされていた。二人の傍らにはラインハルトが立っていて、保護者のように見守りながらうんうんと満足そうに頷いていた。

 

「遅くなってしまったけれどラインハルトも来てくれてありがとう」

 

 エミリアはラインハルトにも礼を言う。ラインハルトはかぶりを振って、

 

「いえ、礼には及びません。ご無事で何よりでした。エミリア様」

 

 反対にラインハルトが頭を下げる。そしてスバルへ向き直る。

 

「ところでスバルはこの先どうするんだい?もしよければうちで客人として迎えることもできるけれど」

 

「どうするスバル?私と一緒に来てもいいけど」

 

 ラインハルトとエミリアから同時に誘われるスバル。急なありがたい申し出に頭を悩ませる。

 

「うーん。すまん正直言ってエミリアについていきたい!」

 

「おや、フられてしまったな。それではエミリア様、よろしくお願いします」

 

 ラインハルトは首をすくめておどけてみせる。エミリアはいたずらっぽく笑い、

 

「スバルは悪い子ね。結局お願い事2つ言ってるじゃない」

 

「えぇー⁉それもカウントされんのかい!」

 

「なんてね。冗談。スバルは私と行きましょ」

 

 スバルのオーバーリアクションを堪能した後で素直に謝るエミリア。生真面目なだけではない、お転婆な面はスバルにとって初めて見た姿だ。

 

「ではスバルはエミリア様のところで預かっていただくとして……、後は彼らの処遇ですが――」

 

 そう言ってラインハルトはフェルトとロム爺を見やる。ラインハルトは騎士。治安を守ることが役目である。対してフェルトとロム爺は盗賊。徽章を盗んだこともすでに知られている。

 

「まあ、彼らの行いは処罰に値するところですが、その前に一つ確認したいことがあるのです」

 

 ラインハルトはフェルトの手を引いてエミリアの前に連れてくる。フェルトはてっきり徽章を盗んだことに罰が与えられると思い、身構えているがラインハルトの言葉は違った。

 

「エミリア様、ご無礼を承知でお願いいたします。ほんの少し、徽章を貸して頂きたいのです。これはとても重大なことなのです」

 

 ラインハルトの何やら切羽詰まった口調に理解を示し徽章を差し出す。それをラインハルトは丁重に受け取ると、フェルトの手にそれを押し当てた。

 

「これは……!なんという事だ。やはり見間違いなどではなかった……。君、名前は⁉家名は⁉歳はいくつだ⁉」

 

「は、はぁ⁉なんだよ急に、意味わかんねぇよ!徽章を盗ったことなら悪かったって!だから放せよ!」

 

ラインハルトの剣幕にひたすら混乱するフェルト。スバルもラインハルトが何に慌てているのか分からなかったが、何やら重大な事実が発覚したようだ。

 

「君、僕と一緒に来てもらう。悪いが拒否は認められない」

 

「ふざけんな!そんなこと―――」

 

 一方的な命令に暴れるフェルトにラインハルトが手をかざすと、ふっと気を失い、おとなしくなった。それに黙っていないのがロム爺だ。

 

「貴様!フェルトに何をした!」

 

最愛の孫ともいえるフェルトが連れていかれるとあっては相手が剣聖だろうと譲ることは出来ない。しかしフェルトを取り戻そうとしてラインハルトに詰め寄るも、フェルトと同じようにラインハルトによってあっけなく気絶させられてしまうのだった。

 

「心配しないでくれスバル。一時的に気を失っているだけだ。フェルトに関しても別に何か危害を加えようというわけじゃない。ただ保護するだけ。それに値する人物かもしれないってだけさ」

 

 図らずも緊迫してしまった場面に困惑するスバルを宥めるラインハルト。まずその場に倒れたロム爺を盗品蔵の室中へ運び戻ってくる。そしてエミリアに徽章を返却するとお礼と別れの挨拶をして、フェルトをお姫様抱きしたまま盗品蔵を後にした。

 

「それじゃあ、私たちも行きましょう」

 

 スバルはエミリアの言うとおりにする。ふと空を見上げると雲の切れ間から月が覗いていた。スバルが月を眺めていると、この世界に来てからの様々な出来事が思い出される。死に戻りによって得たチャンスで、今こうして誰も死なずに済んだことに安堵を感じ、壮絶な『一日目』が終わったことを噛み締めていた。

 

 だがこれはほんの序章に過ぎない。いずれ襲い来る絶望と救世のための……。

 

 

 

 

Open your eyes, for the next φ's.

第7話『ロズワール邸』

 




結局名乗らずにどっかに行っちゃいました。どうなることやら。

それから今回で書き溜めがなくなってしまったので次回から更新のペースが鈍化します。連載自体は続くので気長にお待ち頂ければ幸いです。
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