九条空の怪電波   作:九条空

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20201109 執筆


【鬼滅の刃】告白しないと出させない部屋/??【怪力主】

 

 彼女はどうしようもなく、浮世離れしている。

 

「鬼と内通していた疑惑があなたにかかっています」

「あー……まあやむなしですよね」

 

 しのぶが診察室で彼女を詰問すると、諦めたような態度であった。

 普通、鬼殺隊として不名誉な疑いをかけられたと憤るか、必死に否定する場面であろうに。

 

 今回の鬼のことで、しのぶが彼女に疑いの目を向けるようになったのは、かなり早い段階からだった。

 そのきっかけは、蝶屋敷で彼女と隠の雑談を小耳に挟んだことである。

 

 隠は最近現れた「部屋に閉じ込める鬼」の話をしており、その鬼が不思議なのは閉じ込められた人間が精神的に消耗し、口もきけないほど憔悴するのだというところなのだと。

 彼女はその話を聞いて思い当たる節があったのか、呟いた。

 

「……それセックスしないと出られない部屋では?」

「せっくすとは?」

「性行為」

「ブッファ!」

「いや冗談冗談、まさかそんなことがあるわけが……え? いやないよね?」

「知りませんよ! 確かめてきたらいいじゃないですか。確か巡回任務入ってましたよ、炎柱と合同で」

「は〜!? 嫌すぎるんだが〜!? 私さっき完全にフラグを立ててしまったんだが〜!?」

「ふらぐとは?」

「旗」

「すぐに意味わからない言葉で意味わからないこと言いますよね……」

 

 それからしばらくして、彼女は「セックスしないと出られない部屋」に閉じ込められたと、炎柱と共に帰って来た。

 まさに予言通り、である。

 

 彼女はその鬼のことを事前に知っていた。

 しかし事前にも事後にも鬼殺隊に報告していない。

 怪しむには十分な理由だろう。

 

 それから、彼女は鬼としか通じない暗号を使っている疑惑がある。

 そもそもセックスという単語をしのぶは知らなかった。

 調書によると、全く一般的な単語ではないという。彼女はどこでそんな単語を知ったのか。

 

 宇髄が報告するに、彼女は鬼に対してこう叫んだという。

 

『私に乱暴する気でしょう! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!』

 

「……エロ同人とは?」

「素人が書いた艶本だとさ」

 

 非常に独特な意味と言葉である。少なくともしのぶは聞いたことがなかったし、宇髄もそうだった。

 

「俺にゃ意味不明だったが、あの鬼は反応しやがった。明らかに動揺した。理由は知らんがな」

 

 それから、他の任務でも彼女はよく分からない発言を鬼に対して繰り返した。

 

『よーしよしよしよし! 私はムツゴロウさんだよ! ただし隣の人はばぁさぁかぁだよ!』

『東京ぐうるだと思ってた!? 惜しいな、やんぐじゃない方のじゃんぷなんだよここ!』

『でぃーあいおーからでぃおぶらんどーに戻る方法がないかって!? いずれできます! だからお前も悪くないすらいむになれ! ぷるぷるしろ!』

 

 我々としては全く理解できない言葉だったが、彼女と鬼はそれで意思疎通が図れているようであった。

 

「鬼の能力を知り、鬼しか知らない言葉で話す。怪しんでくれと言っているようなものではありませんか?」

 

 彼女は困ったように笑うばかりだ。

「一応弁明くらいは聞いてくれるんですよね」と前置きしてから、彼女は話し出した。

 

「あの鬼と故郷が同じなんですよね。だから故郷の言葉で話しましたし、文化を知ってるから血鬼術の抜け道も思いつきやすいかったというか」

「あなたの故郷は浅草でしょう?」

「心の故郷の方ですよ」

「それはどこにあるんですか」

「もう二度と行けそうのない場所に。だからあの鬼にはもう少し話を聞いてみたかったんですが、全然うまくいかなくてですね」

 

 眉を下げて笑う彼女の発言はどこまで信じていいものか。

 心の故郷とやらの具体名を挙げられない時点で、しのぶにとって疑いを晴らす情報ではなかった。

 

「あの鬼は干天の慈雨で首を斬った、と報告にありますがそれは本当ですか?」

「それは水柱に聞いてくださいよ」

 

 彼女は肯定も否定もしなかった。

 その態度がしのぶの疑いを増させるのだ。

 

「最初からこの鬼を殺す気などなかったのではありませんか。あなたはこの鬼が人を傷つけないことをもっと早い段階から知っていて、それを周知するために人を集めて合同任務に就かせ、戦いの中で証明させたのでは? 人を襲わず、傷つけず、屍肉だけを食らって生きる鬼もいるのだと」

「いや精神的にはズタボロに傷つけてたと思いますが」

 

 まただ。

 しのぶの問いに、彼女ははいともいいえとも言わない。

 

「首を斬ったと言う報告は嘘で、鬼をどこかで囲っているのではありませんか」

「いやいやいや。私はともかく、あの水柱も鬼と内通してたって言うんですか? そんなことないでしょう、だって柱ですよ。鬼なんか庇うわけないじゃないですか」

「誰もわかりませんよ、冨岡さんのことなんて。あなたが冨岡さんの弱みを握って脅したのかもしれないじゃないですか」

「やだなあ、しのぶさん。水柱に弱みなんかありませんよ。それに鬼を囲うってなんのためにですか? 人を食わなきゃいけない鬼をずっと放置なんかできませんよ。いくら弱い鬼であったとしても、天寿がないから死ぬまで面倒をみるなんてこともできませんからね。殺してあげるのが一番優しい方法です。しのぶさんだってそう思うでしょう?」

 

 それは、しのぶが自分の姉であるカナエに言い続けて来たことだった。

 鬼との共存を望み、しかし叶わず死んだ姉の夢を否定する言葉だ。

 だが不愉快ではない。しのぶも確かにそう思うからだ。

 ただ悲しくはある。この事実を覆せず、姉の夢を叶えてあげられないことが。

 

「まあ、鬼が人を殺さないでも生きられたり、鬼が人に戻れたりするってんなら話は別ですけどね」

「……鬼が、人に?」

「冗談ですよ」

 

 彼女は笑った。

 

「そんな展開が許されるのは少年漫画の中だけでしょ」

 

 それだけ言って、彼女はしのぶに背を向けた。一方的に会話を終わらせるつもりらしい。

 部屋から離れていく彼女を引き止めるのは難しい。

 

 力のないしのぶでは、腕の力だけでは不可能で、あるいは抜刀しなければならないだろう。

 そうなれば隊律違反だ。

 しのぶは彼女こそ隊律違反を犯したのではないかと思っているが、しかし証拠はない。

 

 離れていく彼女の背中を見送るしかなかった。

 何を考え、何がしたかったのか。どこまでが本当で、どこまでが虚言だったのか。

 しのぶには最後まで掴めなかった。煙に巻かれてしまった。

 

 彼女はずっと、ひとりだけ違う世界に生きているみたいだった。

 ふわふわ浮いて、地に足がついていないかのよう。

 

 彼女はどうしようもなく、浮世離れしている。

 




出られない鬼シリーズの時間軸は原作でいう3巻あたりです。
風柱と入れ替わったのはこの人のつもりですが、その出来事はこのあと起きます。
最初、完全にギャグで書き始めたのにいきなり台無しにしたくなっちゃってめちゃくちゃになりました。
セックスしないと出られない部屋でガチのシリアス書く気あると思うか? ないよ。
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