九条空の怪電波   作:九条空

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20191106 執筆


【鬼滅の刃】転生したら九尾になったアホの子が鱗滝左近次を妖怪仲間だと勘違いする話【3/5】

 

「天狗さん天狗さん」

「うろこだきさこんじだ」

 

 浮かれて天狗さんと連呼していたら(話しかける内容は思い浮かばなかったので天狗さんbotと化した)、突然名乗られた。え、多分名前だよなこれ?

 うろこだきさこんじ……全然脳内で漢字変換できないけどいい響きの名前だな!

 ちなみにどっからが苗字でどっからが名前なんだこれは? 天狗の命名って独特だな!

 

「なんて呼べばいいでしょうか」

「好きにしろ」

「では天狗さん」

「それはやめろ」

 

 前言撤回早すぎるでしょ天狗さんって呼ばれるのそんなに嫌だったのか。

 確かに人間に人間さんって言ってるようなものではあるけど、狐の私は狐さんと呼ばれても何ら不愉快じゃないんだけどなあ。

 っていうか、どこからが苗字でどこからが名前なのかがわからないから呼び方がわからないのだが。

 

「あ、そうだ、名前の漢字を教えてください」

 

 天狗さん改め『鱗滝左近次』さんは丁寧に字を教えてくれた。なるほど。

 多分鱗滝で区切るんだよな。ってことは名前が左近次か。

 さこんじ。全然聞いたことのない響きだな。

 この時代の名前といえば何とか右衛門とか何とか太郎とかじゃないのかよ今何時代か知らんけど。

 

「では鱗滝さんとお呼びしても?」

「構わない。お前の名は?」

 

 真顔でスゥーーッと息を吸った。

 

 やっべ!! 私自分の名前覚えてねえ!!!!

 は? ちょっと長く生きてるからと言って痴呆がすぎるのでは?

 

 でも言い訳させてもらいたいんですけど、平安時代とかって名前がめっちゃ大切で基本的に本当の名前って呼び合ったりしないんですよ! 字とか何とかいうよくわかんないもので呼ばれたりとか……いやあれは戦国時代だっけ? あれ??

 

 そもそも私、めっちゃ名前持ってるんだよ。

 人のふりして生きるにはそりゃ何百年もおんなじところにおんなじ姿でいるわけにいかなかったので、度々いろんな名前をもらった。もらったけどそのどれも覚えてないの本当にやばいな。

 

「……すみません。何と呼ばれていたのか思い出せなくて」

 

 なんだったかな。

 

「名がないのか」

「うーん……親につけてもらった名前はないですね」

 

 私の親ただの狐だったからな。

 人語喋れないんだからそら名前なんぞつけてくれんわ。

 

「会話するのも久方ぶりです」

 

 最近の人との交流といえば、そうだな迷子を案内したな!

 その時は山に住んでる神様ムーブしたので、迷子は私に大変感謝してくれた。

 あれは気持ちよかったな……こっそり徳を積む活動をしてると感謝の言葉など聞く機会が滅多にない。

 

「そうか」

 

 鱗滝さん、これはあっさりスルー。

 まあいいよな、陰陽師でもなければ名前になんて大した意味はない。

 

「何と呼べばいい」

 

 おっと、私がさっき言った言葉を打ち返して来ただと。やるなこの天狗。

 そうかあ、名前がないなら今自分で考えちゃえばいいっていう寸法ね。

 

 私ネーミングセンスないから困るな。

 

「狐でいいですよ」

「……それは名前か?」

「名前ではないですね。でも呼ばれて不快じゃないですし」

 

 私は種族名で呼ばれても平気なタイプです。

 

「別の呼び名はないのか」

 

 狐はダメですか。

 ええ? 何だったかな、なんて呼ばれてたかなあ。

 貴族みたいなことしてた時代には何とか御前とか呼ばれてた気はするけど、肝心の何とか部分が思い出せない。

 

「あ! 確か……たま……たま、え? みたいな感じで呼ばれてたような」

「たまえ。わかった」

 

 なんか微妙に違う気もするけどいいや!

 鱗滝さんがふと足を止めたので、私も止まることにした。

 

「におうな」

「においますね」

 

 鼻先をかすめるこれはいつもの人食い鬼のソレだ。

 今まではいなかったのに。入山してきたのか。

 

 しかしうっわくっさマジで無理だわ本当に。鱗滝さんも臭いと思いますよねこれ?

 

 って話しかけようと思ったら鱗滝さんが猛然と走り出した。

 えー!? 急に何!?!?

 

 しかもそっち人食い妖怪がいる方向じゃん何でですか!?

 とりあえず付いて行くけども!!

 

「グゥウ……」

 

 私の耳はうなり声をとらえた。

 いやだわ理性がなさそうなタイプだわお近づきになりたくないわ。

 

 何で鱗滝さんはダッシュで会いに行こうとしてるんですかね!?

 妖怪と見ると見境なくお友達になる天狗なんですか!?

 私というものがありながら!? 嫉妬しちゃうわよ!?

 

 鯉口を切る音がした。

 

 は?

 

 今まで気づいてなかったけど鱗滝さん帯刀してんじゃん!

 刀抜いて……殺気出してるし……狙いは人食い妖怪か!

 

 臭いものは即殺する問答無用スタイルですか!?

 

 ちょっ、それは、それは私、無殺生を貫く身としてどうしても見過ごせないのですが!

 

「何をする」

「こちらの台詞なのですが」

 

 あのままだとそれはもう綺麗に、スパンと妖怪の首が落とされそうだったので、私は鱗滝さんに先行して妖怪に接近し、首根っこを掴んで後ろに放り投げた。

 背中に妖怪を庇う形だ。

 

「殺しは良くないですよ」

「それは鬼だ」

 

 鬼だったら殺しても許されるの!?

 何その思考怖いわ、えっ? 天狗と鬼って仲悪いの? 私そんな逸話知らないんだけど。

 

「なぜ鬼を庇う」

「なぜ鬼を殺すのですか」

 

 質問に質問で返すなって怒られそう。

 でもごめん、鱗滝さんの殺気かなり切れ味よくて怖いんだわ。

 まずその殺気納めてから会話しようよ、ねえ。落ち着こ?

 

「おれがきさつたいだからだ」

 

 What is きさつたい?

 初めて聞くワードなのですが。

 

 きさつ……鬼殺隊!? えっめっちゃ鬼殺してそうな集団の名前じゃん!?

 

 鱗滝さんは鬼絶対許さない派閥なんですか! マジですか!

 

「鬼は人を食う。滅さねばならない」

 

 そ、そこまでいう!?

 確かに人は食ってるだろうよ。でもそんなの食物連鎖じゃんねえ!?

 そこいらの肉食獣が獣食ってるのとおんなじようなことなんじゃないんですか。

 

 いや一応もと人間としては人に肩入れしたい気持ちあるけどね!

 あっ鱗滝さんもそういう? 人と仲良ししたいから、人の敵はおれの敵理論?

 だったら仲良くできそうだな!

 

 でもそれはそれとして殺気が怖いんだよ!

 

「ガァアアアア!!」

「危ない……!」

 

 ちょっと今私鱗滝さんと話してるんだから黙りやがれください!

 そして鱗滝さんは隙を見ては鬼殺そうとしないで!

 

 私の背中から襲いかかってきた鬼を、回し蹴りで吹っ飛ばす。

 今にも斬りかかりそうだった鱗滝さんは、鬼が激しく木にぶつかった音を聞いてか、その場から動かなかった。

 

「非常に身勝手で申し訳ないのですが、私は無殺生を貫く身です。目の前で命が失われるのを見過ごすわけにはいかないのです」

「それがお前を食い殺そうとしていてもか」

「できないからいいんですよ。まだやっていないことは罪ではありません」

 

 この程度の鬼に私が食われるわけないじゃん。

 

「お前は鬼殺隊ではないな」

「はい。殺しと名のつく集団に身を置くことはありません」

 

 え、鱗滝さんは私のこと鬼殺隊の仲間だと思ってたの?

 そんなに鬼って妖怪界隈から嫌われてるんですか。ヘイト買いすぎじゃん何したの。

 

 嘘……もしかして鬼殺隊に入らなきゃ妖怪のお友達はできない……?

 もしかして鬼殺隊じゃないからって鱗滝さんも私のこと嫌いになる? は? いやすぎる。

 

「お前は鬼か」

「違いますよ」

 

 狐ですけど。さっきも言ったじゃん。

 

 いや待って!? 嫌いな奴のこと全員鬼って呼んでるわけじゃないよね!?

 私鬼認定ですか!? 嫌われましたか!?

 

「ニク……ニクゥウウ!!!」

「うるさいな」

 

 性懲りも無く飛びかかってきた鬼をもう一度吹っ飛ばす。

 私は今鱗滝さんと話してんだよ! すっこんでろ!!

 

 鬼の骨が折れる音がしたが、多分すぐに回復するだろう。

 強くないくせにやたら頑丈なんだよな彼ら。

 

 吹っ飛ばすだけじゃだめか。

 芸もなく飛びかかってきた鬼を、今度は地面に叩きつけた。

 そんでその上に乗っかる。これで動けないだろう。

 

「鬼を殺さずして、目の前で命が失われていくのを防ぐなど不可能だ」

「そんなことありません。できますよ」

 

 今の所はやってきた。

 少なくとも私の目の前に限った話で言えば。

 

「私はきっとそのために強くなったのです」

「お前は……」

 

 ねえ鱗滝さんずっと名前呼んでくれないんだけどやっぱもうお前は友達じゃねーもんな認定されましたか?

 悲しすぎる……もういっそ私も鬼殺隊に入る?

 いやダメだよ〜無殺生頑張って来世に期待してるんだからできないよ。

 

「イッ……ギヤァアアア!!」

 

 いや鬼うるせえ!!

 鱗滝さんが何か言いかけてるのに聞こえないでしょうが!

 

 木の棒かなんか口に突っ込んで黙らそうか、と辺りを見渡すと、地平線から太陽が昇ってきているのが見えた。

 あ、もう朝? 時が経つの早いね〜やっぱり人とコミュニケーション取ってるとそう感じるのかな。

 

「イヤダ……イヤダァアアシニタクナイィイ!!」

「だから殺さないと……は!?」

 

 朝日から鬼に目線を戻すと、私はぎょっとした。

 鬼がサラサラと砂のようになって消えかけている。

 

 は!? 何これ!?

 

 思わず鬼の背中から飛び降りて距離をとる。

 やっべ、後ろ跳びに距離とったからこのまま鬼が鱗滝さんに襲いかかったら……いや逆か、鱗滝さんが鬼に斬りかかったら防げないわ!

 

 しかしそれは杞憂に終わった。

 

 私も、鱗滝さんも、動かなかった。

 ただ鬼だけが苦しみにもがいて、そのまま全身が砂のようになって、何にもなくなってしまった。

 

 私は呆然とするしかない。

 

「知らなかったのか。鬼は陽の光を浴びると消滅する」

「……知りませんでした。朝まで彼らと一緒にいたことはなかったので」

 

 何その特性。聞いたことないよ。

 それ鬼じゃなくて吸血鬼とちゃうんか。

 アッ吸血鬼も鬼なの!? 嘘!? これ人食い鬼じゃなくて吸血鬼!?

 

 ということはあれか!?

 天狗vs吸血鬼! 東洋妖怪vs西洋妖怪の図!?

 だから憎々しげに殺し合っているということ!?

 

 どっちにしろ私関係ないよ! そりゃ分類するなら東洋妖怪だろうけど西洋妖怪に何の怒りもないもん!

 日本のこと自分の縄張りだとも思ってないし、来るならどうぞって感じだし。

 

 外来生物はそりゃやって来るでしょうよ貿易してんだったら。

 ん? してるよね? もう黒船やってきた後だよな?

 

 ハッ! 違う、今大事なのは日本が鎖国してるかしてないかじゃない。

 

「私……私、殺してしまった……? もう、二度と、この手で何も殺さないと決めたのに……」

 

 嘘だろ。

 無殺生を貫き始めて……ウン百年くらい? 覚えてないけどかなり長い間やってきたことだったのに。

 

 殺しちゃったのか。私は。

 ただの狐だった頃のように、野生本能のまま兎を狩るような、そんな生き物に戻ってしまったのか。

 

 膝をついて、手のひらを見つめるばかりだった私に、鱗滝さんが言う。

 

「鬼を殺したのは陽の光だ。お前ではない」

 

 それって詭弁じゃない!?

 私が鬼を押さえつけていたせいで、鬼は陽の光から逃げられずに死んだのだったら、それは私が殺したのと同じことじゃないか。

 

 あ、やばい泣けてきた。

 ていうかもう泣いてるね!? 私涙っぽいんだよあ〜ん悲しすぎる!

 

「鬼の弱点が日光であることを知らなかったのだろう。ならば事故だ」

 

 や、優しいかよ!

 えっ……鱗滝さんは鬼を殺したがってたのに、何でそんなこと言ってくれるのか。

 私が勝手に言ってるだけの不殺生を守れなくて勝手に落ち込んでるだけなのに!?

 

 ああだめだ自己嫌悪が止まらないわ。

 私もう1000年も生きてるんだぞ多分、うん多分1000年くらいは生きてるはず。

 それなのに人前で泣くって! お前それでも大人か!

 鱗滝さんをみてみろよ何だこの懐の広さと余裕! 私全然こんな余裕ないよね!

 

「嫌いになりましたか。なりましたよね。鱗滝さんの邪魔だけして、それで、勝手に泣いて、ハハ、何してんだろ、私、私は……」

 

 なんか言わなきゃと思って言ってみたけど言わないほうがよかったな。

 情けないことしか言えないわ。何が嫌いになりましたかだよもう嫌いになってるに決まってんじゃんか。

 は〜もう帰りたい、家なんかないけど帰りたいよぉ。

 

「不可能だと断じたが、その信念自体は尊敬すべきものだと思う」

「は……」

「何者をも殺さずに幸福が掴めるのなら、それ以上はない」

 

 めっちゃフォローしてくれるじゃん。

 

「なぜさらに泣く」

「う、鱗滝さんがやさしいから」

「優しいのはたまえだろう」

 

 名前呼んでくれた。

 こんな私でもまだ仲良くしてくれるんですか。この人天狗じゃなくて神なんじゃないのか。

 

 もう絶対親友になるわ、というか私が勝手に親友って呼ぶ。

 

 ズッ友だよ鱗滝さん!!!!!!!!!

 

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