九条空の怪電波   作:九条空

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20191106 執筆


【鬼滅の刃】転生したら九尾になったアホの子が鱗滝左近次を妖怪仲間だと勘違いする話【4/5】

 

 たまえは奇妙な女だった。

 長年付き合って尚、謎の多い存在だ。

 

 

 たまえは強い。

 初めて出会ったあの時、鬼殺隊に所属する者だと勘違いしたほどには、戦いに慣れている。

 

 たまえは優しい。

 不殺を掲げ、全ての命を守ろうとする。

 自分の命を狙ってくる鬼であっても、彼女は慈愛の目を向けるのだ。

 

 たまえは美しい。

 朝日に照らされて、初めて顔を見た時には、鱗滝も絶句した。

 およそ人間だとは思えないほどの整った容姿だった。

 

 

 名前を持たなかったり、人との関わりをほとんど絶っていたりしたのは、浅からぬ事情があるのだろう。

 ある日鱗滝がそう思い、尋ねてみると、あっけらかんとたまえは答えた。

 

「この顔が厄介ごとを引き連れてくるのです。人里では生きられません」

 

 そう言わしめるまでに一体何があったのか。

 そこまでは聞くことができなかった。たまえから悲しいにおいがしたからだ。

 

 だから鱗滝は面を作った。狐の面だ。

 

 彼女は初めて出会った時、狐と呼んでくれと言った。

 名前とは認められなかったので鱗滝は別の呼び名を要求したが——呼んでくれとまで言うのだ。

 きっと狐は、彼女にとって大事な生き物なのだろう。

 

 だから狐の面を作って贈った。

 たまえは大層喜んだ。

 

 面をつけて、時折人里にいる鱗滝を訪ねてくるようになった。

 ずっと人の目から逃れるように生活してきたと聞いていたから、良い傾向だと思った。

 

 

 たまえとの交流は、鱗滝が柱を退き、育手となってからも続いた。

 

 鱗滝が現役だった頃は、ひょっこり現れては瀕死の鱗滝を担いで逃げる、などということもしてみせたたまえだったが、育手となってからは手紙でのやりとりに留まっていた。

 

 鱗滝は、弟子に厄除けの面と称して、狐面を贈るようになった。

 

 狐面を贈ったたまえに、鱗滝自身が何度も救われてきた。

 生きたまま柱を引退できたのも、たまえのおかげだろう。

 

 狐面はたまえの、ひいては強さと優しさの象徴だ。

 

 

 

 

 

 

 ある日、義勇と錆兎が少女を連れて帰ってきた。

 

「さこんじ!」

 

 舌足らずな幼い声が名を呼ぶ。

 

「……たまえ」

 

 違うとわかっていた。彼女であるはずがない。

 しかし口は勝手にその名を呼んだ。

 

 背格好が違う。年齢が違う。

 しかし鱗滝の目が、そして何より鼻が、あまりにもこの少女とたまえが似通っていると訴えてきた。

 

「さこんじ、あのね、これ」

 

 少女が懐から取り出したのは、かつて鱗滝がたまえに与えた狐面だった。

 ——正確には、その破片だった。

 

「これは……どうして」

 

 あまりにバラバラだった破片を見るに、面が自然に壊れたものとは到底思えなかった。

 

 鱗滝は肝が冷える思いがした。

 まさか、そんなことが、あるはずがない。

 

「鬼がね、強くてね、ばーんって割れた」

 

 眉を下げながら言う幼子に罪はなかったが、鱗滝の語気が荒くなってしまうのは抑えられなかった。

 

「たまえはどこにいる」

 

 一瞬、少女は何を問われているのかわからないといった顔をした。

 しかしすぐに笑顔になると、トントン、己の胸をつついて見せた。

 

「ここにいるよ?」

 

 己の胸の中で生きていると、そう言いたいのか。

 いや、この幼子にそこまでの思慮があるとは思えない。

 

 であれば——たまえがそう言ったのだ。

 

 我が身は死にゆくが、胸の中で生き続けていると……自分の娘にそう言ったのだ。

 そう言ってたまえは、鬼と戦い死んだのか。それが死に際の言葉か。

 

「そうか……そうか」

 

 鱗滝は幼子を抱きしめ、頰を伝う涙をそのままにした。

 

 たまえは強かった。

 鱗滝より先に死ぬとは思えなかった。

 

 だが、そう思った強い命が、鱗滝の目の前からいくつもこぼれ落ちて行くのを見てきた。

 いくら強くとも、死ぬときは死ぬのだ。

 

 だからたまえも死んだ。

 受け入れたくない真実だったが、鱗滝は、彼女の娘を抱きしめることで、なんとか嗚咽を噛み殺した。

 

 

 

 しばらくして、鱗滝は少女に問うた。

 

「名は」

「さこんじ、たまえの名前わすれたの?」

 

 あまりに純粋に聞いてくるので、鱗滝は面の下で困惑の表情を浮かべた。

 

「たまえはお前の名ではないだろう」

「でもさこんじにはそう呼ばれたいよ?」

 

 それは——それは、亡きたまえと己を重ねて見よと言うことだろうか。

 

 娘は生き写しのようにたまえに似ている。

 幼い頃のたまえはこうだったのであろうと、想像に難くない。

 

 しかし、別人だ。

 たまえはもう帰ってこない。

 

 この少女にだって、たまえからもらった名前があるはずなのだ。

 

「いいのか。お前は、それでいいのか?」

「うん、いいよー」

 

 他ならぬ少女が言うのであれば、鱗滝はそれ以上の追求はできなかった。

 いくら幼いとはいえ、何もわかっていないわけではないだろう。

 

 彼女は自分の意思で自分の名を名乗らず、母の名を継ぐと言うのだ。

 鱗滝は少女——たまえの意思を尊重することにした。

 

 

 

「さこんじ、お面ちょーだい」

 

 せがんでくる少女に、面を与えるのはためらわれた。

 再びたまえの面が粉々にされる日が来たら、鱗滝は正気でいられるかわからない。

 

 それに、面を渡せば幼いたまえがどこかに行ってしまうような気がした。

 厄除けの面と言って、弟子の旅立ちのときに面を渡してきたが故の感覚なのかもしれなかったが。

 

 まだ、鱗滝はたまえを側に置いておきたかった。

 少なくとも、鱗滝の体が動き、彼女を守ってやれるうちは。

 

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