「この足誰のだ?」
荘園の談話室に入ってきたナワーブは、片手で人間の足を持ち上げて問いかけた。
「イヤァーーッ! お前なんてもの持ってきてんだよこっちはクッキー食ってんだぞ!」
「悪い。でも落ちてたから」
「足が落ちてるって何!?」
クッキーを吹き出しかけながら叫んだウィリアムは、血まみれでいかにも”もがれた”という様の足を恐る恐る眺めた。
「ウワッ……足が履いてるズボンの切れ端、ノートンのじゃねえ?」
「ノートンのか。わかった」
「待て待て待てどこ行く?」
「届けに行く」
「足を!?」
「なくて困ってるんじゃないのか」
「なくて困ってるかもしれねえけど届けられても困んねえかなあ!?」
2人が問答をしていると、談話室にノートンとエミリーが入ってきた。
「あ、あったあった、僕の足。なくて困ってたんだよね。見つけてくれてありがとう」
「本当に困ってる!」
「ああ。玄関に落ちてたぞ」
足を渡すと、ナワーブはすぐに日常に戻っていった。なぜ足を落としたのか、何も気にならないのが彼のすごいところであるとウィリアムは思った。
血まみれの足の受け渡し現場を見てしまったウィリアムは、そっと皿の上にクッキーを戻した。
もう食べる気にならなかったからである。
「ノートンはどうやって足落としたんだよそんなとこで」
「……? 持ってたから……?」
「そうだよなまず手に持ってないと落としようがないもんな。まず足を手に持てるような状態にするな」
ノートンはウィリアムの必死の説得を無視し、自分の足を無造作にエミリーに差し出した。
「じゃあ、エミリーどうぞ」
「ええ、いただきます」
「えなに何でエミリーに自分の足渡してんのノートン!? そんで何でエミリーはそれに金払ってんの!? どういうこと!?」
作りすぎた肉じゃがを隣人に渡すかのような気軽さで行われた人身売買であった。
「こないだリッパーとの試合でハッチ逃げした時、いい感じに足が切断されたものだからさ」
「いい感じに足が切断されるって何?」
「持って帰ったんだよね。前にエミリーが欲しがってたの覚えてたし」
「お土産にすんな! そもそも欲しがるな! 何なんだよもう!」
エミリーはシーツに受け取った足を包むと微笑んだ。
「荘園に戻ってくるとたいていの傷が治るのが不思議だったから、色々いじってみたかったのよね。献体ありがとう」
血まみれの足の受け渡し現場がリバイバルされるところを見てしまったウィリアムは、そっと皿の上からクッキーをつまんだ。
一周回ってどうでもよくなったからである。
足について、最初「もがれた」って書いたのに後半で「切断された」になっちゃってる矛盾に気づいて俺も「イヤァーーッ!」って叫んだ。