仕事だからやるとは言ったが、仕事だから真剣に取り組むとは言ってないんだよな。
そもそもこの世界で一番大事なのは血筋で、術式も血が関係している。
最優の子供は、いいところのお嬢様しか産めないのが道理である。
だから私は縛りを設けることを条件に子供を産むことにした。
私が五条家の子供を産む。産み終われば、その子供が最優であるかに関わらず、私は五条家から自由になる。子供の権利は一切主張しない。そんでもって、私を一級術師に推薦してね。
受け入れられるかは賭けだったが、予想を裏切って五条はきちんと縛りを設けてくれた。
優秀な子供さえいれば他はどうでもいいもんね。
権利を主張する邪魔な正妻より、大人しくいうことを聞く義理の妻の方がいいだろうから、万が一私の子供が最優でもいい教育を受けられるだろう。
提案しておきながら子供のことを道具としか思っていない最低の約束だが、呪術師の倫理観ってこんなもんである。
そもそもまったく愛していない男との間の子供に愛を捧げられるかと言われれば難しいし。
さすがに産みっぱなしもどうかと思うから多少は気にしようかな。
まっ、親としてじゃなく人生の先輩的なポジションで仲良くなればいいだけじゃんね。
一級術師になったら収入増えるから、資金的な援助もできるだろうしな〜。
というわけで妊娠して出産した。
つわりとかまったくないし、陣痛とかもよくわからんかった。
横になりながらジャンプ読んでたらいつのまにか産んでた。
産婆さんにも「こんなに元気で余裕な妊婦は初めてですよ」って言われた。
「元気だけが取り柄なんで」と言っておいた。
とりあえず子供産んだから高専に戻ってパイセンに出産祝いで呪骸をもらおう。
※ ※ ※
産んだ息子が六眼持ってる上に無下限呪術も持ってたらしい。
私はめちゃくちゃ笑った。
え!? 私が一等賞でいいんですか〜!?
非術師の家系出身で殴る蹴るしか能がない3級呪術師なのに〜!?
正妻の座いらねえ〜! 返品返品! 産んだからおうち帰る〜!
というのがまかり通らねえのがこの呪術界である。
問答無用で監禁された。いや何で?
普通に意味がわからなかったので、普通に聞いたらこう返ってきた。
「最優の子供は一人いれば十分だが、二人いれば十二分だ」
なるほどつまりスペアは多ければ多い方がいいということですねわかりました。
いやわかんねえよ、縛ったじゃん!
子供産んだ後には好きにさせる、という縛りを破ったらどうなると思ってんのさ。
いや知らないんだけどね私も、そうそう他者間の縛りなんてしたこともないし、破ったことも破られたこともなかったからな。
じゃあ縛りを破った人間がどうなるのかを初めて見れるのかなと思ったらそうでもなかった。
そもそも最初の時点で私と縛りを結んだのは影武者だったらしい。
え!? 今何時代だっけ!? 昭和だよな!?
影武者って何だよ! そのうち忍者も普通に飛び出してきそうだな!
侍みたいに帯刀してる呪術師は見たことあったけどそっかあ! 影武者とかいるんだあ!
なるほどね、最初から騙されてたってわけである。
私ってホントバカ。知ってたけど。殴る蹴るしか能がないんだから。
殴る蹴るしか能がないので、殴って蹴ってやった。
先に縛りを破ったのはそっちだからな。どうなっても知らんぞ。
何しろ私はそうそう死なない体である。
死ぬまで暴れまわってやれる。実際、五条の屋敷は半壊した。
仕事ならともかく、プライベートでは殺しはやらないので、襲ってくるやつらは半殺しで止めてあげた。
何人か九分九厘殺しになっちゃった人もいた気がしたがそこはごめん。
ただし、私も不死身ではない。
呪力の続く限りでしか自分の体を再生できない。
というわけでやっぱり捕まっちゃったのであった。監禁からの孕ませルート一直線である。
ヒュウ! この世はどこに行っても地獄だぜ、なあパイセン!
孕ませルートを回避する方法として、私が思いついたのはふたつ。
一、死ぬ気で抵抗する。
これはもう実行済みである。失敗したし、再チャレンジしたところで無理だ。
逃げ込める場所もないし頼れる人もいない。
暴れるだけ暴れて気持ちはスッキリするかもしれないので、まったくの無意味というわけではない。
けれど最終的にはもう一度捕まって、いたちごっこが繰り返されるだけだろう。
ということで消去法だ。
二、自分を孕めない状態にしてしまう。
こうすれば私の存在意義は失われ、監禁されることもない。
ただし私の術式は「自己の最適化」で、傷は勝手にすぐ治る。
つまり自分で子宮を破壊したところで、5歳の頃自分で首を掻き切った時のように再生してしまう。
マジで難儀である。こういう時自分の術式が心底憎くなるよね。
「自己の最適化」は全自動オートの術式だ。
正確には、私自身術式を完全な支配下に置いていないと行った方が近い。
だから勝手に自分の状態を最適の状態に保つ。
ただし、その「最適」というのが具体的にどういう状態を指すのかは、私自身よくわかっていない。
とりあえず五体満足で、人並み以上の膂力と感覚がある状態のことを最適としているっぽいことしか。
「最適」の状況を自分で思ったものに変えるためには、マニュアル操作をする必要がある。
これは私が死ぬ方法を研究していた時に気がついた。
マニュアル操作できるやんけ! いやそっか術式ってみんな自分で操作するんだもんねへえ〜! と思ったのは記憶に新しい。
なんで死ぬための方法を探しているのかといえば、まあ。
私は5歳の頃から11年、当然のようにまったく同じ姿形をしている。
「最適」とされているその体からまるで老けていないのだ。
このままだと完全な不老不死としてこの地獄に取り残されちゃうんじゃないかって不安だったのである。
今の所全然死ぬ気はないが、いざという時に死ねなかったら困るので、転ばぬ先の杖だ。
実際今役に立とうとしている。
ともかく子宮を破壊する方法だが、そのためには私の体にとって「子宮が破壊された状況」こそが最適なのだと、術式をマニュアル操作で上書きする必要がある。
それには私のおバカな脳みそだと処理が追いつかない。
つまり脳みそがオーバーヒートして焼き切れる。
だが私の術式で脳みそはオート復活。
しかしマニュアル操作を続けなければ子宮が復活しちゃうので、脳みそは何度でも焼き切れる。
というわけで、脳みそと子宮がぐちゃぐちゃになった私の出来上がりである。
フゥ〜! 最悪最低〜! 死んだ方がマシだけど死ぬ方法がわかんねえ〜!
私の研究が完成してれば死ねたんだけどな〜! 詰めが甘〜い!
研究の段階では、破壊する対象を子宮ではなく心臓にしていたのだが、マニュアル操作をやめた瞬間普通に蘇っちゃったので意味がなかった。
ただ心臓がぐちゃぐちゃになって脳みそ焼き切れてクッソ痛くて最悪な状況が延々と続くだけだった。
一応、私の呪力が尽きるとマニュアル操作が解除されるのだが、臓器の一部を絶え間なく破壊・修復し続ける程度のことであれば、呪力が尽きることがないためにずっと死に続けられる。
あのときは周囲から完全に死んだと思われて火葬された時に、全身を治そうと術式が発動して、ようやく呪力切れを起こしたのだ。
どうにもマニュアル操作の術式が解除されるタイミングが「最後に体を再生できるだけの呪力が残っている段階」であるがために、心臓程度の破壊ではそのまんま死ぬことはできなかったのである。
起きたら生きててがっかりした。その100倍パイセンに怒られたけど。
「火葬場で燃やしたはずが燃えてない死体、呪霊になったのかと思うだろうが」ってこんこんと説教された。
死ぬのって難しいな……生きるのも難しいけど……。
さて、このままだと前みたいに火葬でもされない限り永遠に眠ったままなので、マニュアル操作の終了条件だけは自動で組みこんだ。
五条家の跡取りの死亡である。
つまり私の夫(なのか? 書類上どうなっているかわからない)で、息子の父親の死だ。
あいつさえ死んでればまあ、状況はなんとかなっているに違いない!
正直希望的観測でしかねえ!
なんともなっていなかったらもっかい脳みそと子宮破壊しながら眠りこけるしかない。
まあ、起きてから考えよう。
人生行き当たりばったりである。おやすみ。
脳みそ焼き切れてるから寝てるというか気絶の無限繰り返しなんだけどな。