九条空の怪電波   作:九条空

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20210130 執筆


【呪術廻戦】寝て起きたら呪術界最強になっていたらしい息子と同い年だったんだが【3/5】

 

 目が覚めた。

 

 私は即座に身を起こして周囲を確認し、ここが病室であることを把握した。

 見渡す限り人はいないが、廊下に気配はある。おそらくただの医療関係者で呪術師ではない。

 

 五条は死んだらしい。

 理由は不明、謎解きの術式なんか持ってないからね。

 

 そんでもって、病室にいるということは私に対して入院費を支払ってる誰かが存在する。

 その誰かが味方である可能性は限りなく低いので、窓ガラス割って逃げた。

 

 あいつ死んでても五条家自体は残ってるだろうからやべーだろが!

 病院から猛烈ダッシュで遠ざかる。

 オートモードの術式は非常に優秀ですね足がはやーい!

 呪力も大して減ってないから戦闘になってもある程度対応できるだろう。

 

 よし、息子探さなきゃ! 五条家でひどいことされてるんじゃあないのか!?

 そもそも顔をいっかいこっきりしかみてねーんだよこちとら!

 

 私の術式「自己の最適化」では、普通の人間よりはるかに身体能力が向上している。

 パンチが強い、足が速い以外にも、五感がアホほど鋭い。

 だからこっちは産んだ際に「一度だけ嗅いでいた」息子の匂いを覚えてんだよ!

 そう、嗅覚の他に記憶細胞も活性化されてるからね。

 

 なんでか知らんけど病室から匂い続いてたからすぐにたどり着いた。

 場所は呪術高専東京校——私の高校じゃねえかどういうこと!?

 

 マッハ超えたんじゃないか、という勢いで高専の敷地内に着地する。

 当然、砲撃音にも似た轟音が鳴るが、そんなものに構ってはいられない。

 

「……は?」

 

 息子の匂いはするが目の前には知らない男。

 目には、未だ息子以外が持っていないはずの「六眼」。

 

 なるほどな、と思った。

 私は険しい顔で言った。

 

「私の息子、どこ行った?」

 

 ——数分後、私は「勘の悪い私(ガキ)は嫌いだよッ!」と頭を抱えてのたうちまわることになる。

 

「かあ……さん?」

「お前ような息子を持った覚えはないが!?」

 

 え!? キラキラお目目(六眼)の、よく見ると美青年にかあさんって呼ばれるって何プレイ!?

 デリヘル!? イメクラ!? 私そんなサービス頼んだ覚えないんだが!?

 というか走りこんでデリバリーしてきたのは私の方だしな!?

 

「なんの騒、ぎ……!? お、まえ、目が覚めたのか!」

 

 騒動を聞きつけてか、教員らしき男がやってきた。

 妙に見覚えのあるプロレスラーっぽい体格と顔、そして引き連れてきた見覚えのありすぎるかわいい呪骸。

 

「夜蛾パイセン!? 老けすぎィ! あ、いや元からそのくらい老けてたか」

「久しぶりに目を覚ましたと思ったら開口一番がそれか」

 

 手のひらで顔を覆ったパイセンがあんまりにもあんまりな顔をしていたので、私はぎょっとしてしまった。

 どんなギャグでもシリアスにしようとしてんのかなって喋りをするパイセンだが、今回のシリアスさはかなりマジだった。

 

「もしかすると私はタイムスリップをした感じ?」

「浦島太郎のような感覚だろうな」

 

 あるいはコールドスリープから目覚めたかのようなアレですか。

 私は頭を抱えた。

 

「私が寝てから何年経って……?」

「17年だ」

「ウワッ」

 

 この世界に私が誕生してから同じだけの時間寝てたってこと?

 

「じゃあ、もしかしなくとも、私の息子の匂いのする目の前の青年が私の息子という……?」

「匂いを覚えているならなぜわからん。そうだ」

「いや、だって」

 

 てっきり私の息子、私のいない間にバラバラにされて他人に人体移植でもされちゃったのかと思ったんだもん!

 六眼は生まれ持った人がいなかったけれど、無下限術式を持っている人間はいるというのが、眠る前の私の認識だったし?

 

 だから青年に殺意叩きつけちゃったけど、その青年が私の息子でしたァー!

 そうだよね何年も経ってておかしくないんだもんななんで失念してたんだろうなあ! 焦ってたからだよ!

 

 いやでも言い訳させて! 顔私に一切似てねえ〜!

 五条の血ってすご〜い! 確かにあいつも顔だけは良かった〜!

 

 感動の母子再会だったが、初手からかなり最悪だった。

 今から軌道修正できるだろうか……? 自信はないがやるしかなかった。

 

「そのう、ええと、ハジメマシテ」

「初めましてじゃない。いつも病院で顔見てたし」

 

 えっ見舞われてた!? やさしっ! 誰に似たの!? 私かァ〜!

 

「ううん、まあ一応私にとっても初対面ではないかな……産んだ時、血まみれの息子見てるからね……」

 

 逆に言えばそれだけだ。

 へその緒が切られたあとはとんと見かけなかった。

 産湯に浸かる姿すら見せてもらっていない。

 

「親子で交流しているところすまないが連絡が入った。至急の用事だ」

「はあ!? いまこれより大事なことあんのかよ!?」

 

 わっ、結構乱暴な口調で喋る系の若者なのか。

 あの家で育てられたならおしとやか〜で傲慢な差別主義者にでもなってるかと思ったけど……いや差別主義に関してはまだわからないか。

 

「お前の父親が死んだ。つまり、君にとっては夫ということになるが」

 

 ああ、それに関してはすでに知っている。

 

「驚かないんだな」

「そりゃもう知ってたんで」

「どういうことだ。お前に探知系の術式はないはずだが」

「簡単に言うと呪ってました」

 

 ぎょっとして振り返られた。パイセンと息子両方にである。

 私もなんかびっくりして「えっ?」とか言ってしまった。

 

「お前が殺したのか」

「いやいや、遠隔で人呪い殺す術式なんかそれこそ持ってないし。そもそもパイセンは私が人殺すのは好きじゃないって知ってるでしょう。いくらひどいことをされても 、仕事じゃないんなら殺しはやらない主義ですよ。アイツが死んだら目が覚めるように、自分を呪ってただけです」

 

 私の術式がマニュアル操作可能なことは私しか知らない。

 術式のことなんて人にペラペラしゃべるものでもないしな。

 

「それほどまでに、嫌だったのか」

「ん? 何が?」

「そいつが存在する世界では生きていられないほどに嫌だったのか」

「うわはは! 別にそういうわけじゃないけど」

 

 何もかもに嫌気がさして、眠りの世界に逃亡したと思われるのは癪だ。

 そもそも寝てたというより、脳みそを自分の術式で常に損傷し続けていただけだから、私は常に苦痛を感じていたわけだし。

 

 のんきに寝てただけじゃないんだぞ! セルフ拷問だからなあれ!

 自分の体を自分で痛め続けてまで寝ていたかった理由は、一つである。

 

「起きたまんまでいたら、誰彼構わず殺してしまいそうだっただけですよ」

 

 あのとき、柄にもなく私は怒り狂っていた。

 だがしかし、それでも。

 

 ――プライベートで殺しはやらない主義なのだ。

 

 

※ ※ ※

 

 

「さっきはごめんね、殺気向けちゃって」

「べつに」

 

 さっきと殺気をかけた親父ギャグは見事にスルーされた。

 あんまり冗談とかは解さないタイプなんだろうか。それとも反抗期? 不良? 人見知り?

 私のこと嫌いだからだったらどうしよう。

 首掻っ切って死ぬしかない。首掻っ切っても死ねないけど。

 あえて私のギャグがクソつまらなかったからという選択肢は見ないふりをしておいた。

 

「息子の匂いだったのに知らない男だったからびっくりしちゃって。息子、眼球だけ持ってかれて殺されちゃったのかと。だとしたら仇なのかなって……勘違いだったから非常に申し訳ない……」

「息子じゃない」

 

 ファッ!?

 

「サトル。五条サトルだよ。俺の名前」

 

 びっくりした、なんだ呼び方の話か。

 ここにきてまた息子勘違い事件のリバイバルが行われたらさすがに泣いてしまう。

 

「めっちゃいい名前じゃんセンスいいな」

「……あんたがつけたんじゃないのかよ」

 

 そうだったっけ?

 そういや子供産むときにつけたい名前を聞かれて適当に何個か言った気がするな。

 もしかするとその中の一つだったのかもしれない。やっべ覚えてねえ。

 私は曖昧に笑っておくことにした。

 

「ええと、じゃあ、悟……でいいのかな」

「なんとでも呼べば?」

 

 もし私がつけたんならきっと漢字は「悟」のはずだ。

 妙な当て字は好かないし、サトルと聞いてそれ以外に思いつく漢字がない。私はバカなのだ。

 

「悟、ごめんなさい」

「何に対する謝罪だよ、それ」

「母親として、ってのは変かな。君に対して、産んでから何もできなくてごめんね。憎いなら殺してもいいよ」

 

 それは本心だった。

 産んだ時、私は自分の利益のことばかり考えていたけれど、しかし完全に自分が産む子どものことを見捨てようと思っていたわけではないのである。

 ただ、結果的にそうなり、私はそれを非常に悔いている。

 

 息子になら殺されてもいい、と思うくらいには。

 

「こどもは生まれてくる場所を選べないから、子を産むからには、その子が生まれた場所を恨まないようにするだけの責任があると私は思っているんだけれど、その責任を果たせなかったからさ」

「あんたが俺の何を知ってんの」

「だね、何も知らない。もうそれが申し訳なくて。私がもっと強ければ、悟を守ってあげられたのに。もうきみは、私より強いみたいだしな」

 

 もともと最優のこどもだった。

 それから、私は女の中では結構いい線いっていた自覚があるが、総合的に見るとそれほどでもない呪術師である。

 

 なにも最後まで守りきれるとは思っちゃいない。

 けれど、最初すら守ってあげられなかったのは、なかなか悔しいのである。

 

「べつにいいよ。ガキの頃からあんたに守られるほど弱くなかったし、そんなのどうでもいい。それより本音で話せよ。あんた、俺のこと嫌いなんだろ」

 

 ファッ!?

 

「なんでそう思った?」

「憎い相手に無理やり孕まされて産んだ子供のことなんか嫌いだろ」

 

 いやそんなことはないけどね!?

 

 なんだか息子くんとの間に、非常にふかーい誤解があるような気がした。

 私はそれをなんとか正そうと、舌で舐めて唇を湿らせた。

 

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