九条空の怪電波   作:九条空

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20201006 執筆


【hpmi】生き別れの父親と思しき男に娼婦として買われた話【2/4】

 起きたらまだ生きてたし、ベッドに札束積まれてた私の顔どんなんだったと思う?

 私も知らない。でも絶対面白かっただろうから見たかったな。

 

 その後も私は疑心暗鬼を続け、父親(仮)は私の他にもたとえば双子のきょうだいがいないか探るために泳がせているのだとか、あのとき私の髪を採取していて本当に親子関係なのかDNA鑑定してからちゃんと殺すんだとか、色々と考えていたが何も起きなかった。

 

 だから私は貰ったお金をちまちまと使い、細々やって食いつなぎ、私自身父親(仮)のことを忘れかけていた頃――そしてそれは私がちょうど完全な金欠になり、娼婦をもう一度やろうと街にたった頃でもある――おじさんは再び現れた。

 

 また私を札束でビンタし、ホテルに連れ込んで、今度は宅配ピザを頼んだのである。

 

 さすがの私でも思った。

 この人、実はすげーいい人なんじゃね?

 

 見た目に完全に騙されてたけど、よく考えたら体を売ろうとする小さな女の子にご飯食べさせてお金だけあげて去っていくあしながおじさん(実際に足はクソ長い)だもんな?

 

 絵面がヤクザと誘拐された少女だったからその線で考えてなかったな……。

 

 相変わらず札束がどっから出てくるのかはわからないし、私がピザ好きだって情報もどっから手に入れたんだかわからんくてクッソ怖いが、たぶん命をとることはないんだろう。

 

 そう思うと、前回よりは気が楽だった。

 だから色々聞いてみようとしたのだ。

 

「お兄さん、名前は?」

「名乗るほどのもんじゃねえよ」

「なんでお金だけくれるの?」

「お前の一晩を買うって言ったろ? 今のお前は俺のってことだ。俺が好きにして構わないってことだぜ」

 

 一度おじさんをあしながおじさんだと認識してしまうと、悪い大人ぶってるだけのいい人にしか見えなくなってきた。

 好きにした結果ピザ食わすってなんなんだよ、どんな性癖だよ。

 

 とにかく素性は明かさないつもりのようだ。

 父親だと明かして、無駄な責任を負うのが嫌なんだろう。親権とかめんどいしね。

 金だけ渡すのが1番楽よね。その金どっから来てんのか知らんけどね。

 絶対やばい金だよな、マネーロンダリングとかちゃんとされてんのかな。今私捕まってないってことはセーフかな?

 

 おじさんについて何を聞いてもはぐらかされるだけだろう。

 だから私はこれだけ聞いた。

 

「また会える?」

「ああ、必ずな」

 

 パトロン、ゲットだぜ!(OPが流れ始める)

 

 そんなわけで不労所得を得た私だったが、それで人生順風満帆とは行かない。

 この不労所得はいつもう一度得られるのかわからないので日々節約しないといけないし、そもそも口約束だから信用しすぎるわけにもいかない。

 ヤクザなんていつ死ぬかわかんないだろいい加減にしろ! 私もいつ死ぬかわかんねえけど!

 

 私は体が子供なのでできることが限られている。

 

 現在はストリートチルドレンの1人だが、徒党を組むことができないというのが1番の痛手だった。

 共同体に属せないのは、路上生活者において致命的である。

 いろんな情報をとり逃がすし、ハズレものとして迫害されるかもしれない。

 

 どっかの集団に所属したいができないのは、人とつるめば持っている金の出処を必ず聞かれるからである。

 そうなれば父親(仮)を金のために襲おうという計画が立てらてしまうかもしれないし、結果死ぬのはまずこっち側だ。嫌すぎる。

 

「最近困ったことはねえか?」

 

 だからおじさんに、珍しくストレートに心配するような言葉をかけられて、こう言ってしまったのだ。

 

「ひとりがさみしい」

 

 一匹狼は死亡率が高い。

 そもそも死んだことすら誰にも気づかれないかもしれないと思うと、そんなことを続けるメリットなんて私には無い。

 

 まあそんな弱音吐いたっておじさんがどうにしてくれる訳じゃないんですけどね〜!

 金だけ持ってる一匹狼が群れようとしてもカモにしか進化できないんですよ。

 なんでもない、と続けようとしたところ、先に口を開かれた。

 

「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」

 

 私は唖然としておじさんを見上げた。

 かんっぜんにそんなこと言うタマじゃないからである。

 おじさんは私と違って、金以外にも富も名声も持ってるタイプの一匹狼だろうからだ。

 

 札束ビンタが必殺技の身長2m近い大男が私のようなガキにさみしいよ〜って言うわけないだろ! そういう文脈でもなかったぞ!

 

「俺と来るか?」

 

 そんなこと言うタマじゃないのに、そう言ったのは、たぶん私のためなんだろうなと思ったらその手を取っていた。

 

 おじさんは天谷奴零と名乗ったが、そのあとに「偽名だけどな」と続けた。

 言うんかい! っていうツッコミ待ちかと思ったが、偽名しか名乗れないことの表明かと思えばつっこむのもためらわれたので黙った。

 

 私は天谷奴零の養子として戸籍登録された。

 いや、天谷奴零は偽名のくせにその名前で戸籍あんの? 怖すぎない?

 戸籍偽造できるなら私の戸籍も偽装して養子じゃなくて実子にすればよくない?

 と思ったが、このデカさの子供がいるというのが嫌なのかもしれない。

 でけえ子供いそうな見た目してるけどな。世間体を気にするようなタイプじゃないことも数年の付き合いでわかってるけどな。

 

 一緒にいるようになっても相変わらずおじさんが何をしている人なのかわからないし、何を考えているのかもわからない。

 ただ私は不労所得が安定して手に入るようになったので万々歳だった。

 

 結局いつおじさんがいなくなるかわからないという状況は変わらないので、私は高校卒業の資格を取って、将来何になるかな〜とぼんやり考えていた。

 

 自分が娼婦になる未来しか見えていなかったので、いざちゃんとした職業につけそうだと思うと逆に困る。

 この世界、治安の悪いところは紛争地帯のスラムもかくや、というかまさにそうなんだが、治安のいいちゃんとしたところだと私の知っている現代社会と同等なのである。

 

 やりたいことと言って思いつくのは親孝行だろうか。

 人生二週目ともなってくると、自分のために生きるより人のために生きてやってもいいかなって余裕が出てくるものである。いや、この余裕の出所は不労所得がもたらすそれかもしれないが。

 

 私の親は2人いる。それは人間だったらみんなそうなんだけど。

 母が私に望んでいたのは、お金持ちになることだ。

 遺伝子に刻まれたお金持ち因子なんぞ信じる愛嬌のある人だったが、私は彼女を愛していたので、頑張ってお金持ちになりたいと思う。

 

 ただお金の稼ぎ方というのはたくさんあるので、問題は父の方である。

 娼婦をやろうとするたびにふらっと現れては札束ビンタをかましてきたので、私に娼婦をやって欲しくないのだろうことは推察できるが、逆に言えばそれ以外何もわからない。

 

「おとーさん」

「なんだ?」

 

 現在私は彼をおとーさんと呼んでいる。

 おとーさん、とはお義父さんという体裁でいつも語りかけているが、まあお父さんということで私の中では確定しているので、もはや漢字はどっちでもいい呼び名である。

 零さんと呼ぶのはどうにもためらわれた。だって偽名っつってるし。

 

「どっか就職しようと思うけど、おすすめある?」

 

 私は人生の方向をいつも自分で決めてきた。

 つもりになってるだけのような気もする。度々おとーさんに邪魔されてる感じもするしな。

 

 おとーさんは裏での手回しが上手なので、私にそうと悟らせないうちに私を好きなように操れるだろう。

 そう思ってあえて彼の言うことを積極的に聞く姿勢は今まで見せてこなかったが、せっかく親孝行をしようと思い立ったことだし、直接聞いてみたのだ。

 

「あるぜ。とびっきりいいのが」

 

 一瞬にしてその選択を後悔しそうな悪どい笑みを浮かべられたが、この人悪ぶってるだけのいいパパなので、私は特に心配せず言われるがままにしたのだ。

 

「アンタ、何が目的だ?」

 

 その結果がこれだよ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 私は特に怪しいところのなさそうな輸入会社に就職し、イケブクロディビジョンとかいう池袋と何が違うんだかよくわからん地域に住むことになった。

 おとーさんにはご近所付き合いはしっかりやっておけよ、とだけ釘を刺されていたので、引っ越し蕎麦を周囲に配ったのである。

 

 ただ、近所にあった孤児院にだけは、蕎麦だけじゃなく菓子折りも追加した。

 まあガキに優しくするのは大人の義務だからな? 孤児院っていいよなほんとな? 私も近くに欲しかったな?

 

 子供が飢えてるのが地雷だから、私はその孤児院に定期的に食料を配りに行っていたのである。

 なんせ自分を思い出すからな。路地にいた頃は基本的に腹をすかせてたので。

 

 そんな私の地雷を避ける行為が、彼にとっての地雷だったらしい。

 

 赤と緑のオッドアイ、泣きぼくろ付きの青年が私を睨みつけている。

 今日も孤児院にと思い、大量のプリンを抱えた私を通せんぼして、威嚇するように肩を怒らせ拳を握りしめているのだ。

 

 多分年下の男の子だが、自分よりタッパのある男にそんなことされたら私もビビる。

 ビビるはずだが、今はそれどころじゃなかった。

 

 似すぎだから!!!!!!

 おとーさんに似すぎだからこの男の子ォ!!!!!!!

 

 男前の遺伝子が確実に次世代へと受け継がれちゃってるからァ!

 

 これ隠す気ないだろオイ天谷奴零! お前! 腹違いの兄弟いるとか聞いてねえし!

 会わすなら会わすで心構えくらいさせろよ!!

 

 ご近所付き合いはしっかりとなじゃねえんだわ! ご近所にご親族いらっしゃるじゃねえか!

 自宅から200m圏内に二親等いるんだが〜!?!?!?!?!?!?

 つかもっと早く会いたかったな! スレる前に会わせろよ可愛い盛り知りたかったな〜!!

 

「なんとか言ったらどうだよ」

「ナントカ」

「ふざけてんのか……?」

 

 頭がワニワニパニックだったが、私はすぐに気を取り直した。

 

「君名前は?」

「知らねえのか」

「知らねえよ、有名なの?」

「……山田一郎」

「草」

「あ?」

 

 名前の付け方おざなりすぎねえか天谷奴零〜!?

 お前の偽名こんな中二病なのに実子につける名前それでええんか〜!?

 

「一郎くん、これ重いから孤児院に届けてよ」

「はあ? なんで俺が」

「別に君が食べてもいいけど、量が多いから誰かと分けなよ。あ、そうだ君、兄弟いる?」

 

 その質問をした途端に再び顔が険しくなったので、ウン、これはいるな。

 腹違いの兄弟何人いるんだ私〜????

 アッ、一郎二郎三郎って感じでいっぱいいるのかもしかして!?

 そんで自分は零ってか!? 洒落てんねじゃねえんだよ、何郎までいるんだよ勘弁しろよ。

 てかもしそうならお前は零郎に改名しろ。

 

「またね。二郎くんたちによろしく」

「おい!」

 

 声をかけられたが直接止めにかかってはこなかったので、早々に立ち去った。

 

 あのリアクション的に一郎くんは私との血の繋がりは感じていなさそうだった。

 そりゃそうだ、彼と違って私は天谷奴零とは目の色以外ほとんど似ていない。

 母の方の容姿にクリソツだからね、美人だからいいんだけど。

 

 さて、こっから私どうするのが正解なんかな。

 私をここに送り込んで「ご近所付き合い」を推奨したってことは、一郎くん以下兄弟たちを守るってのが私に与えられた使命なんだろうか?

 わかんねーんだよなあ、ほんとあの人の考えていることがわかった試しがない。

 

 そもそも一郎くんが私に食ってかかってきた理由だが、順当に考えれば兄弟が孤児院にいるってことだよな。

 何が目的だって聞いてきたのは、何が目的で孤児院に近づくのかってことだろうし。

 

 何度目かの差し入れの時に、私は今まで断り続けてきた孤児院の院長に勧められたお茶を飲みながらそれとなく探りを入れた。

 そうしたらやっぱり一郎くんには二郎くん三郎くんという兄弟がいたので笑うしかない。

 四郎五郎もどっかにいるだろこれ。それかこれからできるだろふざけんな。

 

 一郎くん本人についても聞いてみたら、なんでもフダ付きの不良らしかった。草。一周回り切って古いわ。

 不良だからいろんな危ないところに突っ込んでいきそうで、おとーさんもみてらんなくて私を派遣したのかもしれない。

 

 しかし、これからの私の身の振り方はかなり考えないといけない。

 彼らが孤児院にいるということはおとーさんは彼らを認知してないってことだし、そうなると私も彼らを認知するわけにはいかない。

 

 子供って立場は一緒なのに、私だけ偽の戸籍とはいえ認知されて不労所得でぬくぬくしてたら恨みで殺されても文句言えんのだわ。勘弁しろ。自分の子供なんだから平等に接しろや天谷奴零このやろう。

 

 ということで、私の立ち位置は決まった。

「近所のお節介焼きのおねーさん」である。できるかどうかは別として、やれるのはそこしかない。

 おれぁおせっかい焼きのおねーさん! と言っては颯爽と登場しスッと退場し続けるしかない。

 

 そしてあわよくば好感度を上げて、いざ私だけ認知(仮)されて不労所得を得ていたことがバレても恨みで刺されないラインまで持っていきたい。

 

 幸い、二郎くんに関しては懐柔が簡単だった。餌付けで全部なんとかなった。

 顔は一番天谷奴零に似ている気がするが、性格は一番似てないな、可愛いぞ。

 

 三郎くんに関しては、初め一郎くんと同じかそれ以上に警戒されていたので、これは刺殺ルート一択かなと諦めも入っていたが、トランプゲームをしながら話していたら徐々に仲良くなれた。

 三郎くんは多分性格の不一致、というより知能が高い故に同世代と話が合わなかったのだろう。

 子供扱いせず、大人同様の対応をして敬意を払えば、すぐに懐いてくれた。今では一緒にボードゲームをする仲である。

 

 肝心の一郎くんであるが、二郎くん三郎くんと仲良くなればなるほど警戒を強められた。

 完全に正しい反応ですね。私も刺されないためとかいう下心があって彼らに良くしてるんでね。

 

 というわけで私が恨みで刺されるなら一郎くんになりました。

 腹違いの兄弟に殺人罪を犯させるのは流石に地獄に落ちるんだが?

 

 困った私は天谷奴零に電話した。

 

「零さん、相談があるんだけど」

「おいおい、おとーさんって呼んでくれねえのか?」

「実子差し置いて呼べるか!」

 

 孤児院の院長だが、アレは完全に小悪党である。

 それがわかっていたので今まですり寄って来られても無視していたのだが、一郎くんたちについて調べたかったので、そのごますりに乗ってやったのだ。

 

 ちょっとつつけばすぐ情報を漏らしてくれた。

 一郎くんたちの父親の名前は「山田零」である。

 

 おい! 偽名の付け方雑すぎるだろ! なんだ天谷奴零って!?

 アナグラムするにしたって名字だけってそりゃないだろ!

 下の名前に至っては漢字さえ変わってねえじゃん! 隠す気あんのか!? ないんだろうなあ!

 

「なんのことだ? 俺は天谷奴零で、お前は俺の娘の天谷奴アイだろ」

「はーっ、あくまでそういう?」

 

 とぼけ方も雑だった。

 

 てっきり一郎くんたちが嫡子で、私が庶子だと示したいのかと思った。

 いやそうなのかもしれないが、少なくともそれを口に出して言う気は無いらしい。

 

 山田零が偽名か本名か、戸籍上生きているのか死んでいるのかは知らないが、少なくとも山田一郎、二郎、三郎は、戸籍上山田零の実子だ。

 対する私は天谷奴零——これは偽名と申告済み——の養子。

 そもそも養子にせずとも、偽名の戸籍で私を認知すれば親子関係にはなれたはずなのにそれをしなかった。

 

 明らか待遇違うでしょこれ。

 なにどういうこと? 私とどんな関係を望んでんだかわからなすぎるだろ。

 おとーさんと呼ばれたいと言うくせに、実の父親の立場を拒否するのはなんなんだ。

 

 まあ、なんでもよかった。

 彼が私にそう呼んでほしいというのなら、そうするのが親孝行というものである。

 

「相談に戻るよおとーさん。全然仲良くなれない男の子がいるんだけどどうしたらいいと思う?」

「ハッハッハ。そういうのはちょっとしたすれ違いが起きてんだよ。なんかの拍子に誤解が解けりゃ、自然と仲も良くなるだろ」

 

 は? めちゃくちゃまともなこと言われて草なんだが?

 てっきり一回どっかに監禁して吊り橋効果でも狙えとか言われると思っていたので拍子抜けである。

 

「そういや、お前アイス好きだったろ。駅前にうまいアイスの屋台が出てるらしいぜ」

「へー。行ってみる」

「おう。カバン忘れんなよ」

 

 私は無言で通話を切って、真顔でスマホ画面を見た。

 話の流れが突然すぎたんだよな。アイスの屋台て。

 行ったら確実になんかあるそれなんだよな。スパイとかのやりとりじゃん。

 

 でもおとーさんが思わせぶりなのはいつものことだしな、と思いつつ駅前に行ったらめちゃくちゃ乱闘が起きていた。スマッシュブラザーズもかくやである。

 は? なに? 私に何して欲しいのかわかんねえんだよなあはっきり言えよなあ!

 

 カバン忘れんなしか言ってないんだよなあ!

 そんで以前言ってたのはカバンにはいつもヒプノシスマイク入れとけよってことなんだよなあああ!!

 

 この世界、ただ第三次世界大戦が起きた未来の世界線だと思っていたら違ったようで、ラップで精神攻撃をできるとかいう面白世界だったのである。

 だからさっき言った乱闘も殴り合いではなく、ラップバトルである。草だよこんなん。

 

 私はおとーさんにラップを仕込まれているので普通に戦える。

 つまり戦えってことですか? 何と?

 おとーさぁあああん私指示待ち人間だからわかんねえよおおお!!!!

 

「すいません、チョコミント一つ」

「え? え、あ、はい、かしこまりました」

 

 わかんねえからもうなんでもいいや、と思った私は乱闘をスルーしてアイスの屋台に向かった。

 乱闘をビクビクと眺めていた店員は一瞬困惑したようだが、プロ意識ですぐにアイスを作ってくれた。

 

 うーんこの歯磨き粉味がたまんねえんだよな。

 うめえ歯磨き粉って最高だもんな。よく歯磨き粉そのまま食べたくなるけど、チョコミントは食える歯磨き粉だから最高。

 難点といえばチョコミント食うと歯磨きした気分になってその後の歯磨きが面倒臭くなることくらいなんだよな。

 

 ボケーっと乱闘騒ぎを眺めていると、その中に一郎くんがいるのを見つけた。

 確実に偶然じゃねえんだよな。そんでちょっと苦しい顔してるんだよな。

 あー、あーね、なるほどね。

 

 おれぁおせっかい焼きのおねーさん! ってやるタイムというわけだった。

 

「ごめん、ちょっとアイス持ってて」

「は!? アンタ、なんでここに、いや何して……!」

 

 一郎くんにチョコミントアイスを持ってもらう代わりに、カバンから出したヒプノシスマイクを起動する。

 多分だけど、敵だと思ってたやつが味方してくれてちょっとアイツいいやつなんじゃねって一郎くんに思ってもらう作戦だからねこれ。

 

 いやこっわァ、この一郎くんを襲っている敵全員おとーさんの配下だったらどうしよう。

 さすがに笑えないんだが。

 

「はい、持っててくれてありがと」

 

 アイスが溶ける前に全員ラップでぶっ倒した私は、また歯磨き粉味を堪能していた。

 ラップやってるとなんでそれでぶっ飛ぶんだろうって無性に草生やしたくなるんだが、それがこの世の理ならば受け入れる以外にない。

 

「アンタ、戦えたんだな」

「んー、護身程度? 君は普段から正当防衛以上にやってそうだね」

 

 フダ付きの不良だしな。

 

「オイ一郎、誰だよこの激マブのネーちゃん。お前のコレかァ?」

 

 これまた古いハンドサインをしながらやってきたのは、見た感じザ・悪ガキだった。

 喧嘩漫画やってるなあ一郎くん……激マブとか初めて言われたぞ。

 

「ちげーよ。この人は……そういや名前、知らねえな」

「はァ? 聞いとけや!」

「ははは、アイちゃんって呼んでよ。そっちの君は?」

「拙僧は波羅夷空却」

「空却くんね。アイス好き?」

 

 この後私は空却くんと、空却くんに押し切られた一郎くんにアイスを奢って家に帰った。

 仲良くなったのかはわからないが、今まで一度も私の差し入れに手をつけたことのない一郎くんにものを受け取らせたのは今日が初めてであることだけは確かだった。

 

 おとーさんすげーわ。何もかもなんとかするなあの人。

 今度から神様仏様に祈る前におとーさんに祈っておこう。

 

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