助けておとーさんって言ったら仕事でオオサカディビジョンに飛ばされてめちゃめちゃ草生えた。
助け方雑すぎねえか? 距離取ればなんとかなるんですかこういうのって。
だったら遠距離恋愛は存在していないのでは? 確かに破綻しやすいとは聞きますが。
大丈夫? これから数年後に再会してあの頃から好きだったんですって告白されるやつじゃないの?
問題を先送りにしただけじゃない?
頼むからこの間に最愛の恋人を見つけておいてくれよ山田一郎〜!
そうしたら数年後の再会の時、もし初恋だったんですとか言われても実は血の繋がったきょうだいなのって言ってことなきを得られるから。
本命の相手がいるなら、初恋相手はラブストーリーのエッセンスにしかならないからね、ほんと頼むよ。
かませ犬役も喜んでやるから。頼むから近親相姦ものは始めるなよほんと。
ピンポン、とチャイムが鳴る。
今日はおとーさんがオオサカに来ると言うことで、久々に会おうということになったのだ。
私は来たのはおとーさんだろうとすっかり油断して扉を開けた。
それ以外に訪ねてくる人、宅配便しかいないので。
「ンァ? だれ?」
「こっちのセリフや」
全く知らないメガネの人がいたのでめちゃくちゃびっくりしてしまった。
キレキレのツッコミから言って関西人なのは間違いないが、だからってマジで誰なんだ。
「待て盧笙、よく見ろ!」
「な、なんや?」
「艶やかな黒髪、色っぽいグリーンアイ、グラマラスなシルエット……これは違法マイクで女体化した天谷奴零に違いあらへん!」
「なんやてーッ!?」
目の前でコント始まったし、なんなら私もコントに参加させられてて草。
てかメガネの人だけじゃなくて簓くんもいて意味がわからん。
「まさかそんなことあるわけないやろ」
「よく俺だってわかったな簓」
「マジなんか!?!?!?!?!?!?!?!?」
よくわかんなくて考えるのが面倒くさくなったので乗っかっておいた。
「いやおかしいやろ! 女体化はまだしもなんで目まで治っとんねん!」
「それも違法マイクだ」
「年齢若返りすぎやろ!」
「それも違法マイクだ」
「違法マイクって言えばなんでもありちゃうぞ!?!?!?!?」
え? このメガネの人、投げたボール全部打ち返してくれるな、本職か?
「マ、ここじゃなんだし上がってけよ」
「ええのん? 女性の一人暮らしに男2人あげたら怖いでェ」
「女性ゆうてもうてるやん! おっさんちゃうんやん!」
簓くんがオオサカにいたのはテレビで見て知っていたが、再会突然すぎてビビる。
あと結局メガネの人誰?
「簓くん知らん間にコンビ組んでたの? ファンになりました、テレビ出演いつ? 録画するね」
「せやねん、盧笙めっちゃおもろいねんな」
「さっきのは漫才ちゃうぞ!?」
ちゃうの!? って顔で見たらもっかい「ちゃうぞ!」って叫ばれた。
うーん、既にかなり好感度が上がってしまったな。私は面白い人が好きだ。
「自己紹介しておきます? どうも、アイです。簓くんをいつもお世話しています」
「いやそれは俺や! 簓くんがいつもお世話になっていますやろ!」
本当に世話してて草。
簓くんピン芸人だって聞いてたけど、もしかして本当にコンビ組んだんだろうか。
「嫌やなあ盧笙、俺かて盧笙以上に世話してもらっとる女の子いたっておかしないやろ?」
「は!?」
「まあ会うの1年ぶりやけど」
「なんでやねん!」
本場のなんでやねんはキレが違うわー。
「簓くん久しぶりー」
「アイちゃん元気そうで何よりやなあ! 可愛さに磨きかかったんとちゃう?」
「簓くんは面白さが据え置きだね」
「なんで突然言葉のナイフで殺しに来たん!?!?!?!?!?」
いやちょっと黙って欲しかったので……。
漫才は面白いんだけど話が進まないんだよな。
「そんで盧笙さんはなんでここ来たの?」
「知らんのか?」
「知ってると思ってたのか?」
「思っとったけど!?」
「思っとったのかー。まあそれで困ることないけどなー」
「今俺が困っとるわ!!!!」
私オオサカのことめちゃめちゃ好きになってきちゃった。
でも話は全然進まないんだよな。
簓くんじゃなくて盧笙さんなら話せるかと思ったけど全然ダメだったな。
優秀なツッコミってそんなにボケてなくてもツッコミを成立させられるんだな……すげえ……関西のことなめてました。
「天谷奴零に用事なんだったら代わりに受け付けるけどどうします?」
「……は? アイさんはおっさんのなんやの?」
「コールセンターです。天谷奴零への相談窓口はこちら。不当に搾取されたお金の返却に関しては受け付けておりません」
「詐欺師のおっさんゴラァ!」
詐欺師呼ばわりで草。いやその通りなんだろうけれど。
「失礼、ちゃんと名乗ってないの忘れてた。改めまして、天谷奴アイです。天谷奴零は父です、詐欺師でごめんね」
「ハァアアアアア!?!?!?!?」
いまいちどこに驚かれたのかわからなかったが、簓くんの方は平然としていた。
「おっさんの名字聞いてから薄々感づいてはいたけど、アイちゃんの父親があれとはなー。似んくてよかったでホンマ」
「血繋がってないからね」
「そうなん?」
「ということに書類上なってるからね」
「なんやそれ家系図めっちゃ複雑やん。ジョジョか?」
まあ実質ジョジョみたいなところある。
「結局おとーさんになんの用事?」
「それがチームの仲深めよゆうて、向こうから飲み会に誘って来たんよな」
「飲み会? チーム?」
「そうそ。俺ら今度チーム組んでディビジョンラップバトルやるんや」
「マジ? 聞いてね〜! あははおもしろ! 負けないかなおとーさん」
「いや俺らの前で言うなや!」
衝撃から復活したらしい盧笙さんがつっこんで来た。
「父親と仲悪いんか?」
「え? めっちゃ仲良いよ」
「じゃあなんで負けろ言うねん!?」
「面白いかなって……」
「どんな感性なんや怖いわ」
怖いは草。
「いつも飄々としてて全てが予定調和って態度の男が無様に膝ついてるところ見たくない?」
「いや怖い怖い怖い」
「あれ???」
詐欺師とか言って嫌ってるっぽかったから同意を得られるかと思ったのだが、当てが外れてしまった。
「何飲む? 大抵なんでもあるけど、チューハイとかはないかな。足りなければ買ってくるよ」
「普通に飲み会やるんかい」
「天谷奴零への用事、飲み会なんでしょ? 肩代わり肩代わり」
「それでええんか……」
よしとするしかないんだよな。
簓くんたちにこの場所を教えて、私に家に待機するよう言ったってことは、この状況を望んでるんだろうし。
本当よくわからんわ目的が。
私が漫才コンビと酒飲んでおとーさんが得することあるのか?
じゃ、俺は今回のディビジョンラップバトルでヨコハマを勝たせなきゃいけねえからこれで失礼するぜ。