しがない転生者である私は、生きるために鬼殺隊に入り、死なないために鬼を斬っている。
崇高な理想などなく、成したい目標もない。
ただひとつ信じていることがあるとすれば。
筋肉は裏切らない。
これに尽きる。
今回の任務は風柱との合同だった。
筋肉がある人はみんないい人なので、目つきの悪さで周囲からビビられている風柱であっても、私にとってはいい人だ。
順調に索敵をして、鬼を見つけて戦闘に入ったところだった。
一瞬視界が暗くなったかと思うと、次の瞬間、目の前に鬼と私がいた。
「……はァ?」
「うわっ」
正しくは目の前に鬼と風柱がいるはずなのだが……ちらりと視線を下に移す。
刀を握る自分の腕が傷だらけなのがわかる。
傷だらけなのはいいのだが、どう見ても普段の私の細腕ではなく、ムキムキの男の腕なのが問題だ。
目の前にいる「私」が、風柱ばりの目つきの悪さで睨んでくる。
風柱ばりっていうかこれ本人だな。
ええと、つまり。
私たち、入れ替わってる〜!?
はい、テンプレ回収。
なにこれご都合血鬼術じゃん。ギャグパートでありそう。
でも真面目な戦闘中にやられたんじゃ普通にしんどいな。
普段と腕の長さとかのリーチ違うし、なにより肺が違うからか呼吸法が合わない。
やりにくっ、このご都合血鬼術なかなか強いぞ。
まあでも私みたいなポンコツオペレーターが使っても風柱の機体が強いから殺せるんですけど。
実弥、いっきまーす!
「風の呼吸、壱の型――」
一回使ってみたかったんだよなァ、風の呼吸!
※ ※ ※
「しばらく薬を服用して日光を浴びたら治りますよ」
鬼の頸を斬っても体入れ替わり現象が治らなかったので、これやべえんじゃねえかと風柱と2人で蝶屋敷に駆け込んだらこの診断だった。
すごいなしのぶさん、治せないものないのかよ。
「治るらしいですよ、良かったですね風柱」
「俺の顔でなよっちい敬語つかうんじゃねェ、気色悪ィ」
そうか? 敬語喋ってる風柱って我ながらかっこいいけどな。
「良かったですねって、随分他人事ですね」
「私はこのままでもそんなに困りませんし。風柱は二枚目だからこの体での人生も楽しそうです」
「うふふ、楽観主義で羨ましい限りです」
へへ、しのぶさんのやたらトゲのある言い方嫌いじゃないわ。
「俺が困ンだよ」
「風柱からしたら私の体なんて脆弱ですもんね〜。あ、だもんな?」
「変な口調になるくらいなら敬語喋ってろ」
おとなしく敬語で話させて頂こう。
ざっと診察が終わり、ひとまず蝶屋敷にて療養、となった。
「色々不便だと思いますが、どうぞ私の体は気遣わず好きなようにお過ごしくださいね」
「お前……それでいいンかよ」
どうぞどうぞお好きなように。
妊娠されたら困るけどそれ以外特に気をつけて欲しいことなんかないな。
まさか風柱がTS雌落ちとかしないだろ……しないよな? えっこれフラグ?
風柱が思い出したかのように質問してきた。
「なんで風の呼吸を使えたんだ?」
「ああ、私今でこそ岩の呼吸を使っていますが、昔は風の呼吸を使う師匠のところにいましたので。才能ないので使えませんでしたが、憧れてたんですよね〜。使えて嬉しかったです壱の型。ありがとうございます」
笑ってお礼を言ったら「あんまヘラヘラすんじゃねェ」って怒られた。
顔引き締めないといけないのか……しんどいな。
私は常に脳天気な顔をしていることがチャームポイントなのに。顔だけでなく頭も能天気だとよく言われる。
真顔、真顔……と心の中で唱えながら廊下を歩いていると、すれ違った少年に声をかけられた。
「顔に傷のある人!」
「ん?」
額に炎のようなアザのある少年、つまり主人公ですね。竈門炭治郎くんだ、はじめまして。
「頭突きさせてください!」
「すごいこと言ってくるなこの子」
仮にも私が今入っているこの人、柱なんだけどな。
「イヤァアアアア! 炭治郎なにそんな怖い人に突っかかってんだよぉおおお!!!」
炭治郎くんの後ろから走ってきて彼に抱きついたのは金髪のざんばら頭――我妻善逸くんだろう。
原作にはまともに関わっていないので、今がストーリーのどの辺に当たるのか分からないけれど、たぶん柱合裁判が終わったあとなんだろう。
禰豆子ちゃんの敵討ちか、立派な兄ちゃんだ。
しかし、頭突きしていいよ、とは言えない立場なんだよな私。
「悪いけど、この体は今ひとりのものじゃないから」
「妊娠してんのォオオ!?!?!?!?」
言い方ミスった。
それにしても反応いいな善逸くん。
君は根っからのツッコミ要員らしい。
「まあ確かに中に女がいるんだけど……」
「女の子ですか! おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
「なに普通に祝福してんだよ炭治郎ぉおおおおお!!!! この人ヤバいって! 顔もヤバいけど頭がヤバいって!!!」
顔ヤバいってなんだよ失礼だな、イケメンだろが。
「想像妊娠してる四白眼の男とか怖すぎるよぉおおお!!!!」
「なにそれ怖っ」
「アンタのことだよ!?!?!?」
ものすごい汚名を風柱に着せちゃったんだけどこれ殺されるかな?
「それはそれとして禰豆子を刺したのは許せません!」
それはそれで置いとける君すごいな。
「えっと、その先の病室に目付きと口の悪い女がいると思うので、そちらに掛け合ってくれませんか」
「なぜですか!」
「風柱の窓口は現在そちらになっております」
「なるほどわかりました!」
一体何が分かったんだろう。
ハキハキ答えて病室に向かっていった炭治郎。
大丈夫かな……私の頭が万が一、石頭の炭治郎くんに頭突きされたら、割れるんじゃなかろうか。
ま、なるようになるか。
風柱がなんとかしてくれるだろう。
もうぶん投げだぶん投げ、面倒なことは上司に押し付けるに限る。
※ ※ ※
「風柱が行方不明になったんですけど!」
しのぶさんのいる部屋に検討つけて勢いよく開けたら音柱がいた。やっべ。
「なに派手にふざけたこと抜かしてんだ、不死川」
「あらあら。どうしちゃったんですか?」
運悪く、音柱を治療中のところに乗り込んでしまったらしい。軽傷っぽいし少し待ってから出直せばいいだろう。
「出直しま〜……」
「お待ちくださいな」
後ろ向いて出ていこうとしたらしのぶさんに肩を掴まれた。
「はい、状況をキリキリ吐いちゃってくださいね〜」
「え〜ん風柱に殺されそ〜」
「気持ち悪……」
え〜んって言っただけでこの仕打ちかよ。
音柱は状況知らないからしょうがないか。
「どうも音柱ははじめまして、血鬼術で風柱の体に入ってしまった一般隊士です」
音柱様は私を上から下まで眺め回した。
「確かに不死川本人だが、本人がこんなこと言うわけねえからマジで中身違うのか」
理解が早い。
「一般隊士である私の体がこちらです」
うっかり3分クッキングみたいなテンションで指し示してしまった。
「うー?」
「うーしか言わないんですよ〜これ絶対風柱じゃないですよね」
うーうー言っているのは目付きが悪くない私である。
目付きが悪くない時点で中に風柱が入っていないことは明白。
私の中身が今誰になっているのかも気になるが、一番の問題は鬼殺隊最高戦力の風柱がどこにいっちゃったかである。
「ふむ、遅延性の別の毒でしょうか……診察しますね」
診察しようと、しのぶさんがうーうー言う私の手を引いて座らせようとした所で、部屋の扉がバンと開いた。
「大変ですしのぶさん! 禰豆子の目付きがすごく悪くなりました!!」
全然大変じゃなさそうなことで駆け込んできたな竈門炭治郎。
禰豆子と呼ばれた方を見ると……たしかに猛烈に目つきが悪い。
私はパチンと手を打った。
「風柱じゃないですか〜! よかった見つかって! なんで鬼の女の子と入れ替わっちゃったんですか?」
「むうぅ……むう……」
「頭突きされたら入れ替わった? へえ〜そんなアホなって言いたいけど血鬼術ならなんでもありですかね〜」
しのぶさんがにっこり笑った。
「なんで何言ってるか分かるんですか?」
「雰囲気です」
正確には口枷の下で動く筋肉で母音を読み取ってニュアンスを把握しています。私は筋肉には詳しいんだ。
この無駄技能をわざわざ説明する必要も無いだろうと思ったので省略。
てか風柱、禰豆子ちゃんに頭突きされたのなんで?
私の体どうしてもいいとは言ったが、まさか知らぬ間に美少女(鬼)と頭部同士でコミュニケーションをとっているとは思わんだろ。
「頭突きして入れ替わったってんなら、もっかい頭突きしたら戻るんじゃねえの」
「音柱天才では?」
禰豆子ちゃんに頭突きをするのは躊躇われるということで、とりあえず私の体と風柱の体のおでこをぶつけ合うことにした。
私の体の中身としては禰豆子ちゃんなので実質禰豆子に頭突きすることになるんだけど、ほら見た目がね。
風柱が禰豆子ちゃんに頭突きする図をつくるとまたお兄ちゃんが怒るからね。
というわけでレッツ頭突きです。
「なんでこうなンだよ!」
「俺が聞きてえわ」
なんでか知らんけど、音柱が私の体に、風柱が音柱の体に入ってしまったようだ。
なんで私は風柱の体に固定なんだよ。
禰豆子ちゃんは元に戻ったけど。
「あははは、はははやっば」
音柱が完全にとばっちりでウケてしまう。
「てめェ俺の顔で笑ってんじゃねえぞ」
「ふふふ、申し訳なぶふふっ音柱顔怖っ」
完全に蚊帳の外で面白いこと起きてんな〜って静観してた音柱が理不尽に巻き込まれたのが面白すぎてツボに入ってしまった。
「不死川こそ俺の顔で女脅すな」
「今女なの音柱ですけどねあっはははやっべ笑い止まらん」
「これ以上変なことしないでくださいね」としのぶさんに念を押されて、私と風柱と音柱の3人で病室に閉じ込められた。
下手にうろついて被害をまき散らしたら困るからだろう。
既に柱2人巻き込んでるのでものすごい大事だけどな、これ鬼殺隊にとって大変な痛手なのでは?
ご都合血鬼術すごいな……普通に困る。
「暇だな」
「暇ですね」
私の中に入ってる音柱は、ベッドの上で胡座かいて頬杖ついてるだけなのになんか色っぽい。やっぱ中身が違うだけで色気が違うんだな。
「なあ胸揉んでいいか?」
「なにアホ言ってんだ宇髄てめェ」
「揉み返していいならいいですけど」
「お前もなに言ってンだ」
許可出したら音柱は躊躇いなく自分の、というか私の胸を揉んだ。
すげえ、男気かこれが。据え膳食わぬは男の恥ってやつか。知らんけど。
「お前着痩せするんだな」
「感想いらねェんだよ!!」
「はい! 揉まれたので揉みます!」
立ち上がって音柱の胸を揉んだらぶん殴られた。
「痛ァーッ!!」
「なんで俺なんだよバカがァ!」
「だって今音柱の胸持ってるの風柱じゃないですか!」
「不死川、自分の体なのに容赦ねえな」
たんこぶ出来たらどうするんだと思って殴られた場所を触ってみたが大丈夫だった。
すごい丈夫だな、それとも風柱は自分の体だからたんこぶのできない殴り方の加減を完璧に把握してるんだろうか。
「風柱も揉みます?」
「何が悲しくて自分の乳揉むんだよォ!」
「いや、私の体の方」
「は? 俺様は揉まれんの嫌だけど」
「男同士なんだからいいじゃないですか」
「頭痛くなってきたなァ……」
3日したら元に戻った。
主人公
風の呼吸に憧れる岩の呼吸使い。
すべては筋肉で解決できると思っている脳筋。
筋肉の動かし方で人間を判別しているので入れ替わった人間が知り合いならすぐに分かる。
入れ替わりネタ、好きだけど書いている方ですら混乱するから3人以上は難しい。