音柱にこの鬼を狩ってほしいとは思ったが、音柱と私を同行させてほしいとは一切思ってなかったんだよな。
案の定音柱とともに閉じ込められた私は、音柱が私に突きつけてきた紙に書かれた文字を読んだ。
『子作りしないと出られない部屋』
「しゃあねえ、やるぞ」
「やるぞじゃねえわ」
「紙に書いてあることやらなきゃどうしても出られねえ部屋なんだろうが。ならとっとと済まして出るぞ」
さ、さすが元忍! 無情〜!!
「責任なら取ってやる」
「派手に男前ですが待ってください」
元々いる3人のお嫁さんの誰ともまだ子供作ってないのに先行して子供作れるかよ!
いやすでに子供がいたとしたらもっと嫌だよ!
「人間の子どもとは指定されてませんよね?」
「されてねえけど」
「なら私は今からカエルになってたまごを産みます」
「何言ってんだお前」
いつも意味のわからないことを言っている男からの、意味のわからないものを見るような視線、心にくる。
私はしばらく、岩の呼吸から派生させてカエルの呼吸を産み出せないか試行錯誤したが不可能だった。
「フー……ちょっとカエルになれないので別の方法考えていいですか」
「もっと早く気づけ」
だって水の呼吸から蛇の呼吸派生してるもん!
カエルの呼吸、壱の型 産卵! で脱出できるもん! いままでの感じだったらァ!
「さてはお前地味に混乱してるな」
「いえ、私は派手に冷静です」
クッソ! なんで今回はセックスじゃなくて子作りなんだよ!
日本語翻訳に対応するな! エキサイトしろってか! しねえよ!
そうじゃなくとも音柱は頭がいいんだから言葉遊びで言いくるめるの無理があるだろ。
この場合は音柱じゃなくて、私が私を強引に納得させる方法を考える方がいいな。
「子作りっていうのは! 子どもをつくろうとする行為のことを言いますね!?」
「おう」
「子を作ろうとする意思のある行動はすべて子作りって言えますよね!」
「あん?」
「ということはですよ、子作りをしようって申し込むこと、それ自体も既に子作りの一環だということですよ!」
お前変な宗教でもやってたのか? と言いたげな目になっているのには気づいているが私も追い詰められているので許してほしい。
「というわけで音柱! 子作りしましょう!」
「お前は俺になんて答えて欲しいんだよ」
「私が子作りしましょうと問いかけた時点で! 子作りの一部は行われている! 子作りを完遂せよとは書いていないのだから、子作りの一部を行うことで条件は満たされるはずだ!」
私のテンションは逆転裁判の裁判パートみたいになっていた。
一体誰に異議ありしてるんだ。鬼なのか。部屋なのか。
とりあえずもし音柱が裁判長だったら絶対に判決は覆っていない。
しばらくの沈黙の後、ドアの方から鍵の開く音が聞こえた。
「っしゃあ! 勢いで勝った!」
「お前は何と勝負してんだ」
この世の理かな……。
「へへ、そもそもこの部屋に入った時点では子作りした私と子作りしてない私が同時に存在するシュレディンガーの私だったんだ……」
音柱はしばらく無言で私を眺めたあと、担ぎあげた。
「胡蝶のとこいくか」
この後めちゃくちゃ入院した。
※ ※ ※
「あなたがここまで追い詰められるとは思ってませんでした。精神的にかなりお強い方だと思っていたので」
「私よりも音柱の方が強かったのでぶつかり合って私の心にヒビが入りました」
「なるほど」
「なるほどじゃねえよ俺が悪りぃみてえな言い方すんな」
三度目の診察である。しのぶさんも慣れたものだった。
もはや診察というより雑談、いや意見交換会に近い。
「悪いですよ、何ためらいなく浮気しようとしてるんですか?」
「お前も妻になったら浮気じゃなくなるだろうが」
「異次元の発想やめてくれます?」
私の倫理観がおかしくなるからやめてほしい。
もうこの出られない鬼の対処全部この人でいいんじゃないか。
「でも今回が一番早く部屋から出られたかもしれません」
「お前がカエルになるとか言いださなきゃもっと早く出れてた」
「私がカエルにならなかったらお前の妻になってんだろうが!」
カエルも音柱の妻もどっちも嫌だよ。鬼殺隊士でいさせてくれよ。
「こんな派手な男前捕まえて贅沢言いやがるぜ」
「音柱が派手かつ男前であることは否定しませんが、本当に勘弁してください。身重で剣士はできないんですよ」
「だから避妊薬を持てと言ったじゃないですか」
しのぶさんの発言に音柱が興味深そうにした。
「堕胎薬より体に負担がありません」
「もうセックスしないと出られない部屋には入らねえよ!?」
なるほど初回にしのぶさんが私に避妊薬を持って行けと勧めたのは、これが一回きりじゃないと踏んだからだったのか。
普通に下ネタだと思ってスルーしてしまった。
「そう言いつつこれが3回目でしょう」
「うるせ〜!!!!!!!!」
「お前3回もカエルになったのか?」
「それは初犯だよ!」
しまった、相手は2人とも柱だというのに完全に敬語を忘れていた。
「よしわかった胡蝶。避妊薬は俺が持っといてやる」
「一緒に部屋に入る気なのやめろ!!!!!!!!」
敬語を使おうという気持ちを一瞬で吹き飛ばすな。
だいたい避妊薬飲んだら子作りじゃねえだろ!
「あの鬼、逃げ足がクソ速えから適任は俺だっつったのお前だろ」
「それと避妊薬は関係ないだろ! そしてあんたは嫁と組め!」
「その手があったか。戦力としては数えらんねえが、あの鬼は血鬼術が厄介なだけで雑魚だからな。調査と陽動は嫁に頼むか」
「よし!」
よし! と内心でもう一度ガッツポーズしておく。
「そもそも霞柱と一緒になった時は子作りじゃなかったですからね」
「他の隊士からの報告を読むと、霞柱の時の方が例外と言えますよ」
「知りたくなかった」
20歳以上じゃないとアダルティなことはできないというCEROでも設定されているのだろうか。
いや私も未成年なんだが。精神年齢はともかく。
「そもそも血鬼術の内容が割れているのに、任務を男女で組ませるのがおかしいのでは?」
「意外とウブなんですね」
「えっ」
「こういった行為に異性同性は関係ありませんよ」
「えっ」
しのぶさんは大層美しく微笑んだ。
「そう報告書に書いてあります」
「ひええ……」