「判断間違っちゃったわ……」
「純粋に足が遅くて血鬼術を避けられなかったことをここに謝罪します」
ドアしかない部屋の中で、私と蜜璃ちゃんはうなだれて反省していた。
敗因はなんと言ったらいいのだろう。
これと言って決定的な原因はなかったが、なんだか全てがうまくかみ合わず、最終的に失敗した。
おかしい。
私は蜜璃ちゃんと一番長く共闘して来たし、そもそも比較的人と一緒に戦うのは得意な方だし、出られない鬼も、こちらが女2人で油断していたはずなのに。
しかし後悔先に立たずである。
早急に外に出て鬼を追いかける、というのを諦めてはいけない。
たとえ今まで一度もそのパターンで追いつけたことがなくとも。
私は決意とともに、部屋に落ちていた紙に書かれた文字を読んだ。
『恋話しないと出られない部屋』
に、二番煎じ〜!!!!
もう見た〜〜!!! 蛇柱とやった〜〜〜!!!!!!
どうした出られない鬼、もうネタ切れか。
お題箱でも設置した方がいいんじゃないのか。マシュマロ焼いて食うか。
それとも前回蛇柱が部屋滞在時間の最高記録叩き出したおかげで、これは有効だと思ったか。
とりあえず私たちを舐めてかかっているというのはわかった。
今回鬼に血鬼術をかけられたのは至近距離、かつそれなりに長時間追いかけ回したあとだったので、えげつないお題の血鬼術が発動する条件として距離と時間は排除である。
「ええと、難しい問題が書いてあったのかしら……?」
「いや全然! 蜜璃ちゃんの得意技!」
「あら! じゃあ柔軟かしら!」
えっかわいっ。
自分の得意技を怪力でも大食いでも剣術でもなく柔軟だと思っている甘露寺蜜璃、最高。
あまりの可愛さに数センチのけぞってしまった。
「恋話だって。蜜璃ちゃん最近どう?」
「きゃあ! やだそんな話、キュンキュンしちゃうわ! いけないわ、血鬼術の中なのに」
「いいじゃんね〜! だって最近お話しできてなかったしさ〜!」
蜜璃ちゃんは顔を真っ赤にしてもじもじした。
「いいえ、それよりせっかくだからあなたの話を聞きたいわ。だって私が話すと長くなっちゃいそうだし」
「なるほど一理ある」
私は前回の蛇柱の無限甘露寺タイムを思い出した。
自分のタイミングで切り上げられる以上、私が恋話をした方がいいかもしれない。
とはいえ、私は恋をしていないので話す内容がない。
だが、恋話とは、必ずしも自分の体験を話さなくてもいいのである。
「これは私の友人の話なんだけどね」
「うんうんっ」
「好きな子がいてね、その子の好きなところを言葉で表現できないほどに好きなんだって」
「とっても素敵!」
目を輝かせる蜜璃ちゃんが可愛すぎてやばい。
許されるならこの蜜璃ちゃんを写生して出来上がったそれをモナリザの隣に飾りてえ。
「どういうきっかけで好きになったのかしらっ」
「笑顔と笑い声が素敵なんだって。大変な思いをして来たはずなのにいつも笑ってるその人に勇気をもらったって」
「まあ〜!」
いやあなたのことなんだけどな。
ついでに、そのうち蛇柱に強制連行されそうな、蜜璃ちゃんへの贈り物を選ぶ買い物のための情報収集をしておこう。
「その友人が最近悩んでて。贈り物をしたいけど何をあげたらいいかわかんないんだってさ。蜜璃ちゃんどう思う? 何もらったら嬉しいかな」
「自分を好きになってくれる人からの贈り物なんて、どれもキュンキュンよ!」
そうなんだよな、蜜璃ちゃんならそういうんだよな。
「形に残るものの方がいいと思う? それともお花とか、食事の方がいいのかな」
「どれも素敵すぎて選べないわ〜。困っちゃう」
「じゃあ蜜璃ちゃんの体験談は? もらってどれが嬉しかった?」
「ええ〜……ッ!?」
蜜璃ちゃんは瞬間、ぽぽ〜っとのぼせ上がった。
「ぜ、全部……」
やるな蛇柱。全部贈ったことあんのかよ。
そうなってくるとなおさら私が困る。何贈ったらいいんだよ……。
「贈り物って難しいよなあ〜。あ〜困る」
「んんっ! あの、あのね、私、いくらでもお手伝いするわ!」
「蜜璃ちゃんありがとう〜」
「ええ、友達のためですもの! 買い物にだっていくらだって付き合うわ!」
いや蜜璃ちゃんに贈るものを蜜璃ちゃんと買いに行ってどうするんだ。
あれ? 待て、そもそも私は私の友達の話だって言って会話始めたんだが。私自身の話ではないんだが。
……冷静に考えると「私の友達の話なんだけどね」から始まる恋話、大抵全部自分の話だな!
テンプレ少女漫画みたいなこと言ってしまった。
私は恥ずかしさから両手で顔を覆った。
「待って蜜璃ちゃん、マジで私の話ではない。本当に私の友人の話であって」
「ええ、わかってるわ! 友達よねっ!」
「絶対わかってない時のや〜つ!」
蜜璃ちゃん、完全に「あの色恋に興味のなかったこの子にもついに春が!」みたいな顔をしている。
この顔をさせた後に期待を裏切ってしまうのがもうやだ。罪悪感で死ぬ。
「いや蜜璃ちゃん……私はね、結婚しないで一生を独身で過ごすから……」
「そんな悲しいこと言わないで。きっと運命の人が見つかるわ。いえ、もう見つかってるのかしら? きゃあ!」
「み、蜜璃ちゃーんッ!!」
やめろ、蜜璃ちゃんの頭の中で私の想い人になってるの蜜璃ちゃんだから!
蜜璃ちゃんに惚れてることになってるから私!
焦りで冷や汗が止まらない。心臓もドッドッと妙な音を立てている。
待って待って、鬼狩りでも最近こんな緊張したことない。
かと言って正直に話したら蛇柱に殺される。
しかし蜜璃ちゃんは結構思い込みが激しいタイプなので、ここで違う違うと言い連ねても効果はないだろう。
「蜜璃ちゃん……この話はまた今度、時間のあるときにしよう」
「それもそうね!」
秘技、誤魔化し。
焦りによって気がついていなかったが、ドアはすでに開いていたため外に出ることができた。
出られない鬼を追ったものの、やはり追いつくことはできなかった。
鬼に関してはもはやしょうがないと諦めていた私だったが、それよりも蜜璃ちゃんの勘違いをどうしようということばかりで頭がいっぱいになっていた。
蛇柱のことを一切話さずに蜜璃ちゃんの勘違いを正す方法とは。
思いつくまで眠れない気がした。
この後めちゃくちゃドキドキした。
※ ※ ※
「蜜璃ちゃんあのね」
「どうかしたの?」
手汗が止まらない。
結局うまい言い訳が思いつかなかった私は、とにかく、一緒に贈り物を買いに行くことだけはできないと断りを入れようとしていた。
「あの、ほら、贈り物の話なんだけどね」
「あの話ね!」
「ちょっとその、贈りたいと思ってた相手にね、贈れなくなっちゃったというか……」
「まあどうして!?」
それはね蜜璃ちゃん、蜜璃ちゃんに探りを入れようだなんて考えた私がバカだったからだよ……。
どうしてなのかわからず不思議そうな顔をする蜜璃ちゃんを直視できず、私は顔を俯かせた。
「き、聞かないで……」
「!! ごめんなさいっ! 私、ひどいことを聞いてしまったわ!」
あやばいこれまた新しい勘違いを生んだ気がする。
蜜璃ちゃんの顔を見れば、瞳にうるうると涙をためていた。
それは完全に、「友達の思い人が不慮の事故で亡くなったことを悲しむ顔」である。
違うんだよな〜!!!!!!! 誰か助けて〜!!!!!!!!!!!
「み、蜜璃ちゃん、違うんだよ、いや、気にしないで! 本当に何も! 私は本当に何もないから! 恋とかしてないし何もないんだよッ!」
「もう恋なんてしないだなんて言わないでッ! 今は辛くとも、きっとまた恋ができる日が来るわ!」
「もう恋なんてしないなんて!? 言わないよ絶対!?!?」
そもそも恋なんてしてないからね!?
「蜜璃ちゃんごめんねえ〜! わ、私が不甲斐ないばかりに……! 蜜璃ちゃんを無駄に悲しませてるもう無理人生やめたいよお〜!」
「ううん何も悪くないのよ! 安心して、私がいるわ!」
蜜璃ちゃんは半泣きの私を、同じく半泣きのまま、その豊満な胸に抱き込んだ。
わっ柔らかっ。私の胸もそう小さくはないが、蜜璃ちゃんと比べると全くないと言っても過言ではない(過言)。
※ ※ ※
「というわけで、架空の私の想い人が勝手に死にました。今思うとめっちゃ面白いです」
「それは正直面白いですね」
私の笑いのツボを度々否定して来るしのぶさんだったが、今回は面白さに賛同してもらえた。
「ただし蜜璃ちゃんを泣かせたことが蛇柱にバレると殺されるので内緒にしてくださいね」
「それは私ではなく、蜜璃さんに釘を刺しておくべきだったのでは?」
「本当にそうだな! もう手遅れだ! 私は終わりだ! さよなら!」
蜜璃ちゃんのことだから、蛇柱に私の恋話もするだろう。
それは特に悪意なく、「こういうことがあったから励ましてあげて!」と涙ながらに蛇柱に訴えるに違いない。
そうなったら「甘露寺を泣かせるなど」とネチネチ拷問されるに決まっている。
「さようならはできませんよ。まだ鬼を殺してないでしょう」
「イヤーッ! 私が殺されるのと鬼武辻無惨が殺されるの、どっちがなの!?」
「どちらも
「うま〜い! 山田くん座布団一枚!」
「誰ですか、山田くん。それに要りませんよ座布団なんて」と笑点を知らないしのぶさん。
「ともかくこの、出られない鬼です。油断させて無理ならば、純粋に力で叩くしかないでしょうか」
「そんな脳筋思想でいいんですか? それで解決できているならもう私がなんとかしてるんですが?」
「勝手に脳筋を代表しないでください」
脳筋以外代表できそうなものがないのでできれば代表させていただきたい。
「あなたより力が強い人がいるでしょう」
「私、音柱と腕相撲拮抗するんですけど……」
「それに関しては本当に化け物じみていると思いますが」
しのぶさんは容赦がない。
「あなたよりもっと、化け物じみて力の強い方がいるじゃないですか」