神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか 作:さとう
狂犬とお母さんに記憶の補完をしてもらった。
時は飛んで、次の朝。土曜日である。
テッサイさんが起こしてくれる時間は平日より遅めだが、僕はなんと平日よりも早く起きてしまった。昨日深夜にあれだけ長話した翌朝だから、それはもう遅起きの限りを尽くすものだと思っていたが。
しかたがないから顔を洗って寝癖を直し、居間を目指す。朝も早い、いるのはテッサイさんだけだろう。せっかくだからテッサイさんにも昨日話した内容を言ってしまうか。ジン太と雨にはまだ早いかもしれないし嘘だと馬鹿にされるかもしれないが、テッサイさんはちゃんとした大人だからきっと大丈夫だ。……見た目と口調だけは、ちゃんとしてるとは言いづらいけど。
「おはよう、輝夜」
「おお、早起きじゃのう」
「な、なな、なんで二人がもう起きてるの……!?」
全く予想していなかった人物が二人もいて、三歩後ろによろけた。そんな……。
眉をひそめたお母さんに「化け物でも見たような目をするな」とチョップを食らう。そういえばお母さんはそんなに寝坊常習犯じゃなかったことを思い出した。朝大抵いないからイメージがついていたのだ。
一方、お父さんは扇子で隠しながら笑っている。この時間に起きていることはまずないので、言われちゃった、程度なのだろう。
「おや、輝夜殿。おはようございます」
「おはよう、テッサイさん。うわ、それ今日の朝ごはん? でもなんでこんなに豪華な……?」
奥からテッサイさんが顔を見せた。手には皿が乗っており、いい匂いがしてくる。しかしそれはいつもの一汁一菜ではなく、しかも和風でもなかった。
レタスとトマト、卵にマヨネーズ、そして大きなトンカツ。それぞれが綺麗に挟まれたサンドイッチが並んでいる。それに、スクランブルエッグも。どれも、少し前に僕が食べてみたいと話した品だった。
「今日は輝夜殿の本当の誕生日だそうではありませんか」
どうやら、二人がテッサイさんにも話してしまったようだ。手間が省けたといえばそうなのだが、ちょっとした決意が勇み足になってつんのめる気持ちになる。
テッサイさんは僕の生い立ちを聞いたはずなのにいつもと全く変わらない。ほとんど動かない表情筋を、だけど少し緩ませている。普通の人ではない僕を、受け入れてくれたのだ。半分わかってたことだけど、僕だって未だ受け入れきれてないほどの過去をすんなり受け入れるなんて。
喜びのエネルギーを何かに変えたくてテッサイさんの持つ皿を代わりに運ぼうとしたら、後ろから手が伸びてきた。
「はいはい、今日の主役が働いちゃダメでしょ」
そのままお父さんがテーブルに置く。お父さん、いつもは箸より重いものなんて持てないとか言って全然手伝わないのに。そのままお母さんに肩を掴まれ、なすがままに座ってしまう。
「ダッセー、一人で座れもしないのかよ」
「気にしないでくださいね……。手伝わされてイライラしてるだけなので」
さらに台所からジュースを手にしたジン太とコップを持った雨がひょっこり出てきた。
みんな起きてたのか、僕を祝うために? 僕の本当の誕生日を知ったのは今朝だろうに。テッサイさんに起こされて寝ぼけ眼をこする二人を思い描く。
「あー! 笑ったなこの!」
「ジン太殿……!」
ジン太がテッサイさんにしばかれる。口が緩んでいたのがバレてしまった。今まで僕の誕生日は明日で、それで10年弱もやっていたのに。それなのになんで今日お祝いしてくれるんだろう。
「ほら、主役は笑って『ありがとう』っスよ」
「みんな……あ、ありがとう!」
あれから、昨日の隠しきれていなかったプレゼントをもらった。大きいから何かと思えば低めの本棚で、そういえばこの間本が入らなくなったと嘆いたことを思い出す。
しかし中身ではなく収納グッズかと少しがっかりした矢先、お母さんが持って来たのは10数冊の本だった。一ヶ月くらい前にあったアニメの原作だ。アニメ最終回よりあとの展開も載っていて、珍しく大はしゃぎした。
本棚は囮で、本命は小説だったらしい。せっかく演技までして驚いてあげようと思ったのに、素で驚いたし喜んでしまった。またこれでジン太あたりからいじられるのかと思うと憂鬱だが、『今日はすごく頑張ってた』と言う雨に免じて許してやろう。
ひとしきり騒いだあと、それぞれがやるべきことをするためにわかれる。ジン太と雨は掃除、テッサイさんは皿洗い。お母さんはいつのまにかいなくなっていた。僕も何かしようと自分の部屋に向かう途中、お父さんに呼ばれた。
「輝夜が頑張って秘密を教えてくれたので、アタシたちも秘密を教えます」
言える範囲でだけどね、とお父さんは緩く笑った。何度聞いても絶対教えてくれないだろうお父さんが、自発的に話をしてくれる。拾い子だということが判明する前から少し疎外感を感じていた僕にはとても嬉しいことだった。
どんな話をされるのか皆目見当もつかないが、たまにお父さんやお母さん、テッサイさんが暗い顔をして話しているところを見たことがある。もしかしたらそれを僕にも教えてくれるのかもしれない。そのときは、僕もみんなみたいに真摯に受け止めてみせよう。
今は持っていない狂犬が、よかったわねと笑った気がした。
輝夜はご飯派です。テッサイさんのご飯が美味しいので。でもたまにはパン派の朝ごはんも食べてみたいという欲張り心。
第九話は誕生日回でした。白蛇時代は狂犬にしか祝われなかったこともあって、例年より何倍もじーんときてしまったようです。
ジン太と雨は過去について知らされていませんが、輝夜が拾い子だということは知っていたので、『実は今日誕生日なんだって』と聞いても『そうなのか』くらいの反応でした。強い子たちだこと。
回を追うごとに後書きが長くなっている気がします。なので今回はこの程度で失礼しようかな。次は親の秘密を明かしてもらいます。秘密の多い家族だなあ。次回もよろしくお願いします。