神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか 作:さとう
輝夜の本当の誕生日を祝った。
「来たか」
集合場所はお父さんの部屋。入ったことは数えるほどしかない。狂犬を握りしめながらもう片方の手で扉を開けると、お母さんが人間の姿で脚を組んでいた。奥の椅子にはお父さんも座っている。家の中でも被っていることの多い帽子を、いつもより目深に被っていた。
「あの、秘密って、」
「その前に、これを飲んでくれ」
「えっと、これは……血?」
「うむ、狂犬の話も聞きたいからの」
差し出されたのはコップ。中には暗い赤色の液体が半分ほど入っていた。この10年間で血を飲むのはおかしいという常識が確立されていたにも関わらず、僕はすんなりそれを手に取り口を当てた。
久しぶりに飲んだ血は、美味しかった。当時は味など関係なく義務として飲んでいたけど、10年も飲んでないと身体が欲しがるのか?
「狂犬サン、喋ってみてもらえます?」
「ええ。私が狂犬、初代血神『狂犬』よ」
聞こえるかしら、という問いに両親は頷いた。
どこから話しましょうか。そう言って切り出したのは、あの世に住む死神という存在の話。同じ神でも、死神は現世の平穏とバランスを守るための神らしく、虚という悪霊を倒すことが主な仕事だそうだ。
「アタシも夜一サンも、死神だったんです」
「テッサイさんも?」
「あやつも似たようなもんじゃ」
物語のなかの出来事としか思えないが、全て本当のことなのだろう。こういうところでふざける人ではないし、自分自身が作り物じみた過去を持っている。なにより、名前は知らなかったが悪霊のようなものを見たことが数回あったのだ。信じないわけにはいかない。
そこで、狂犬が初めて口を挟んだ。
「バランスをを守る、ね……。死神って黒い袴を着てたりするのかしら」
「はは……さすが狂犬サン。察しがいいっスね」
お父さんの話を先読みしたのか。あの意外と切れるお父さんの、しかも秘密の話を。まさに、さすが狂犬だ。……あれ、お父さんは狂犬と話したことがないはず。どうして『さすが』なんだ?
頭にハテナが浮かんでいたのが見えたのだろう、お父さんはその話はあとっスよ、と帽子を被り直した。狂犬もそれ以上追及するつもりはないようだから、大人しく聞くことに徹することにしよう。
「では気を取り直して、秘密のひとつ目。実はアタシたち、罪人なんです」
「100年ほど前のことじゃ。ある男の策略によって犯罪者に仕立て上げられ、儂らはあの世から追放された」
「放っておくと被害は確実に増えていく。それを防ぐために、100年経った今でも真犯人を捕まえる対策を練っています」
少し笑ってしまったのがバレていないだろうか。馬鹿にしているわけではない、似ているからだ。親子とも住む場所を追われていたなんて。顔も性格も似ていないくせに、変なところで似なくていいのに。
「ふうん。そんなこと教えて、私たちに何をさせたいの? 引きこもりの輝夜に戦闘員はお勧めしないわよ」
「せ、戦闘員? そんな物騒な……」
なぜかずっと機嫌の悪そうな狂犬が言う。たぶんお父さんと相性が悪いんだと思うけど、それは僕にもダメージが行くからね?
狂犬の言う通り、僕は引きこもりだ。幼稚園の頃はお絵かきばかりし、小学生になったら本を読みゲームをする。白蛇時代も部屋からほとんど出たことがなかったのもあって、おかげで今では立派な運動嫌いの運動音痴になってしまったのであった。
「大丈夫じゃ。輝夜にそんなことさせんでも儂らでなんとかする」
「物騒なのは否定しないんだ……」
「あっそ。輝夜に危ない真似させたらただじゃおかなかったけど、今のままでいいのね」
僕もそうだけど、両親にもあまり怪我するかもしれないことはしてほしくないんだけどなあ。でも100年の努力を無駄にもしてほしくない。
なら、狂犬が言うとおり僕にできることは今までと同じように普通に生活するしかないらしい。あとは、敵に見つからないように目立つことは避けるくらいならできそうだ。
「あと、できれば知らない人と話さないようにしてくれる?」
「は、話さないよ! 学校でも言われてるし」
「いつ輝夜に手を出すかわからないんだよ、手段なんか選ばないだろうから」
僕を子供扱いしてるのかと思ったが、真剣に言っているらしい。
知らない人とは話さない。学校で耳にタコができるほど聞く話だけど、今はお父さんの敵が僕を人質にするかもしれない。浦原商店のみんな以外の人たちは基本疑ってかかってもいいくらいだ。
僕が頷くと、お父さんは眉を下げて笑った。
お父さんは息子が心配なんです。ジン太も雨も戦闘能力を持っているけど、輝夜は同級生に比べても弱いので。
徒競走は常に下から二番目だし、重たいものは持てないし。頭は良いけど常識の範囲内です。回復能力だけはあるけど血をちゃんと摂取してないと満足に発揮されません。今回血を飲む前だと、たんこぶとか擦り傷とかは20秒で治るくらい。地味だ……。
とんでもない文字数になりそうだったので(当社比)、キリのいいところで切りました。結果なんと秘密ひとつ目で一話使ってしまうことに。お父さん、早くふたつ目も教えてくださいよ! とかいって狂犬がペースを乱している気もします。
ふたつ目のほうもほとんど書き終わっているので早めに投稿できそうです。次もよろしくお願いします。