神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか 作:さとう
輝夜は吸血鬼の末裔だった。
「おー、よお来たな輝夜!」
「ひよ里さん! おはよ」
鞄を持って目的地のあたりを歩いていたら、いつもの赤ジャージを翻したひよ里さんに声をかけられた。財布を手にしているから、これから買い出しなのだろう。
「ハゲ真子、輝夜来たで! とっとと案内せえ!」
「おう! ってハゲちゃうわ!」
何もない空間から返事が返ってきた。真子さんのものだ。ドタドタと足音まで聞こえて、急がせて申し訳なく思ってしまう。
ひよ里さんは呼びつけるだけ呼びつけておいて、全く気にせずにどこかへ行ってしまったけど。
「ハイハイハイ〜っと、こないだぶりやな」
「うん。お邪魔します」
こっちや、と手を引かれて建物内に入る。結界のようなものが張られているらしく、入るにはこうするしかないそうだ。
「おー、輝夜ちゃんじゃねえか」
「『輝夜ちゃん』はやめてっていつも言ってるでしょ!」
「なんや、今日来るんやったんか。菓子あったっけ」
「あるよー、ここに酢昆布が!」
「酢昆布は小学生にやる菓子じゃねえよ」
僕が来たとわかると途端に騒がしくなる。頭を撫でてきたりお菓子を渡そうとしてきたり、親戚のおじさんおばさんみたいだ。親戚はいないから漫画の知識だけど。
お父さんといいここの人たちといい、周りの大人は頭を撫でるのが好きな人が多すぎる。子供扱いしないでほしいが、こう思っている時点で子供なのだろう。
「そういや聞いたで? 輝夜、前はカミサマやっとったらしいやんか」
「あたしも聞いたわ。血神やったっけ? 立場利用して民にあんなことやそんなことをしてたんやろ」
「してないよ!! なんでそうなるの!」
冗談や冗談。真顔で冗談言いなや、わかりづらいんやお前のボケは!
真子さんの話題に乗っかるようにしてリサさんが口を挟んで、本来話題の主役である僕そっちのけで話が進んでいく。
なんでその話を知ってるんだ。あの日から一週間しか経ってないぞ。どこから漏れたか考えて、あの胡散臭い帽子が過ぎった。僕になんの相談もなく教えるなんてまったくあの人は……!
でも、お父さんがわざわざこの人たちに教えたということは、この人たちは味方だということ。今まで仲の良かった人を疑うのは辛いから、そう考えるとありがたいとも言える。
……それでも勝手に話すのはあり得ないけど。
「私の輝夜を困らせないでくれるかしら?」
「うおっこれが狂犬かいな……」
僕の鞄から覗く扇子を見て真子さんが後ずさる。
あのあと、どうしても狂犬を持ち歩きたいけど刀を持ち歩くのは……と言ったらお父さんが扇子状にしてくれたのだ。どうやったのかはわからないが、狂犬が狂犬たらしめるのは刀と鞘をコーティングするように固まった血なので、それを扇子の形にするだけで良かったらしい。全部お父さんの言っていたことで、理解できないのが悔しい。
刀自体が元々脆く、網目状のひびの隙間にびっしり血が行き届いていたと言っていたから、『だけで良かった』という言葉とは裏腹にかなり難しかったのではないかとは思う。
何はともあれ、狂犬が持ち運びに適した大きさと形になって、僕は嬉しくてどこにでも持ち出すようになったのだった。
真子さんがビビりつつも狂犬に話しかけては辛辣に返されて撃沈しているのを眺めていると、いつのまにか奥の部屋に行っていた拳西さんが顔を出して言った。
「輝夜、昼メシできるけど食うか?」
「食べる!」
昼ごはんは家で食べたが、拳西さんのご飯も美味しいから仕方ない。育ち盛りの食べ盛りなのだ。
仮面の軍勢もたまに来る可愛い子供にはよしよししたくなっちゃうんです。構い倒す平子さん。とにかく食べさせようとする拳西さん。ダル絡みするラブさん。親戚のおじさん詰め合わせみたいな人たちですね。
本編のシリアスも終わり、書くのが楽しいギャグを書きました。楽しかった!
この小説は、八割大人に親戚のおじさんムーブさせるために書いています。この回が一番『神と呼ばれた少年は〜』を物語っているまである。
次回まで仮面の皆さんにわらわらされるのでお楽しみに。もう書き終わっているのですぐに投稿しちゃいますが。ではよろしくお願いします。