神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか   作:さとう

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前回までのあらすじ
ペットショップに瞬歩で行った。



第十八話:「ぐっと尻に力入れて」と悩んだby狂犬

お母さんに降ろしてもらい正面を見ると、ペットショップが目の前にあった。瞬歩、恐るまじ。

何もなかったように前を行くお母さんを慌てて追って入店する。買う気もないのにふれあいコーナーだけ行くのは失礼じゃないかと思ったが、お母さんは大丈夫の一点張りだった。儂に良い案があるとは言うけど、お母さんの『良い案』は経験上行き当たりばったりの悪い案であることが多い。本当に大丈夫なのだろうか。一発で出禁になってしまった、なんてことにならなければいいが。

「で、良い案ってなんなの」

「いいから見ておれ」

「いらっしゃいませ〜! どんな子をお探しですかぁ?」

接客業のプロが甘ったるく語尾を伸ばして話しかけてきた。反射的に挨拶しようとする僕をお母さんが手だけで止める。

「こんにちは。犬を飼いたいのですがこの子は動物と遊ぶのが怖いみたいで……。ふれあいコーナーで練習させてもらっても良いですか?」

「は、はい! もちろんです!」

誰だこの人は。気品があってお淑やかで、穏やかな笑みを浮かべている。野性味あふれる顔立ちも、こうして見れば落ち着いた美しさを感じさせた。

さっきまで『服なんか着てなんの得があるんじゃ……。窮屈でしかたないわ、儂は脱ぐぞ!』って言って暴れていたとは思えない。もちろん必死に止めたおかげで、今はちゃんと上下ともに外に出られる服装になっている。

言い訳も完璧だ。ふれあいだけさせてもらうが、犬を飼う予定ではある。僕はたしかに犬と接するのが苦手だし、実際にふれあっているところを見られても問題ない。

しかし、いつこんな振る舞いを覚えたのか。僕の知る10年と少しの間、一度もこんなお母さんを見たことはない。

「儂も昔はお姫様だったんじゃよ」

お母さんは、言い訳は喜助に考えてもらったがの、と豪快に笑った。どこぞの令嬢かと見間違えるようなさっきの笑顔は見る影もない。長い付き合いらしいお父さんからは、昔からこんなのだったって聞いてるんだけど。嘘をついたとも思えないから、お父さんをも欺いたというのか。

「どうぞ、こちらです」

案内された柵の中では、可愛らしい子犬が駆け回っていた。数は五匹程度。内側に入るとみんながこちらを見る。目が合ったそばからこちらに来てのしかかられた。さっきの二の舞だ。

「……降りて!」

しかしさっきのように一方的にやられるわけにもいかない。すでに脚の半分地点にいる犬に目を合わせて命令する。どうだ、身体が勝手に動くだろう。

「わふ?」

効かなかった。

他の犬でも試したし、違う言い方もしてみたが、どうしても言うことを聞いてくれない。重しのせいで僕の身体はほとんど横になっている。例えるなら、子猫に乳を飲ませている母猫のような姿勢だ。このままでは子犬すら恐怖の対象になってしまいかねない。

「狂犬、なんかアドバイスないの……」

潰れかけた声で必死に助けを求める。するとようやく狂犬が言葉を発した。

「そんなぬるい言い方じゃ相手を従わせられないわよ。こっちのほうが上位の存在だってわからせないと」

具体的なアドバイスが出てきちゃうのかよ!

 

「伏せ」

「わん」

僕の言葉に素直に犬が身体を伏せる。他の犬にもいろんな命令をし、全てが成功した。

「で、できた〜〜!」

「万事解決じゃな」

狂犬のアドバイスをもとにやってみるとコツが掴めたようで、能力をきちんと使えるようになった。もう少し慣れたら能力を完全に使わないことも可能だろう。

軽く拍手してくれたお母さんに、ありがとうと素直な感謝を口にする。すると、お母さんは一瞬真面目な顔をして、ふざけたことを言った。

「犬にできるということは、儂にもできるんじゃろうか」

「……お母さんより僕が上位だと思わなきゃいけないんだけど?」

何を言い出すのかと思えば。もしできたとしても、自分の母親が命令に従うのは心理的に嫌だ。

「いいじゃない。やってみたら? 吸血鬼としては弱いようだけど、どの程度か知っておかないと」

「そうじゃそうじゃ! 試しにやってみろ」

「はあ……。わかったよ」

騒がしい二人に押し負けて頷いてしまう。雰囲気は違うけど、この二人は結構似ているところが多いのだと実感した。こんなことで実感したくはなかったが。

一呼吸置いて、心を落ち着かせる。相手は格下、相手は格下。じゃあ行くよと言って息を吸った。

「座れ」

「……え?」

果たして。お母さんは力が抜けたように座った。うそ、どうして。お母さんは強くて一生かけても勝てないと思っているのに。お母さんも理解が追いついていないようだった。

「あら、やっぱり輝夜の魅了の能力は弱いみたいね。死神を座らせる程度なんて」

僕たちが何も喋れないところに一人、狂犬だけがうんうんと納得したように呟いた。




吸血鬼には、人の血を効率よく摂取できるように人を魅了する能力があると言われています。特に狂犬はその力が強く、目だけで簡単に同族が殺せるほどでした。魅了の力の効きやすさは、強い順に人間→死神→吸血鬼です。狂犬は産まれたときから能力の制御が上手でしたが、怒るとうっかり発動してしまうこともあったので輝夜に教えることは躊躇っていた、ということです。狂犬の名前の由来は、目を見ただけで狂犬のように狂ってしまうことから。


夜一さん、輝夜相手だと雑なお父さんみたいな接し方しますね。よーしどこどこに連れてってやろう。みたいな。浦原さんも溺愛する娘への対応の仕方なので、やはりテッサイさんがお母さん役……。
次はあの人に会います。残念ながらオリキャラです。そしておうちの問題を解決しに行きます。ほんとかな? 嘘かもしれませんがなんとか頑張ります。本当だったらシリアスまっしぐらです。よろしくお願いします。
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