神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか 作:さとう
赤目の能力を制御できるようになった。
事件は、学校からの帰り道で起きた。
事件というのは些か大袈裟かもしれないが、少なくとも僕にとっては大事件だったのだ。
「それでね、お兄ちゃんがね、」
「ねえ、あの子。輝夜にそっくりじゃない?」
遊子の話に割り込むことなんか滅多にしない夏梨が、あそこと指を指す。十字路の向こう側だ。
そこには男と、同世代くらいの少女がいた。男のほうは人に隠れてよく見えないが、少女ははっきり見えた。
背丈は同じくらい。少し垂れた茶色の目は大きく見開かれていて、活発な印象を受ける。他の顔のパーツはほとんど僕そのままで、目を隠したら僕でも判断がつかなさそうだ。また、長い髪を腰あたりで一つにまとめて着物を身につけているからか、道行く人にちらちらと見られていた。
僕が白蛇だったころと、ほとんど同じ装い。違うといえば、着物が少し薄手で動きやすくなっているくらいだ。
「本当だ。輝夜くんって目が赤くないとあんな感じなのかな」
「こっちのほうがミステリアスっぽいね」
「服は向こうのほうが珍しいのにね」
驚きで声が出ない僕の代わりに、二人が喋る。こんな偶然ってあるのか? 同じような服装で、髪で、顔立ちで。
そこで、隣の男の姿が見えた。
「あッ!? ……う、ぐ」
「輝夜!?」
「すごい汗! 大丈夫!?」
聡明そうなキリリとした目は眼鏡で覆われている。背は高く、細身。服装は袴のようだ。
吐き気がする。過呼吸のせいか視界も霞んで役に立たなくなる。尻が冷たいと思ったら、知らない間にへたりこんでいたようだ。手にコンクリートの感触がある。大丈夫、と言いたくても口が満足に動いてくれない。
僕はそのまま、意識を失った。
目が覚めて最初に見えたのは、見覚えのない天井。病院、か?
「おう、起きたか」
首を動かすと一心さんが座っていた。そういえば医者なんだっけ。知ったときは驚いたけど、こうして見るとちゃんと先生なんだとわかる。
「ここに来るまでのこと、覚えてるか?」
「えっと、うん」
段階を踏んで思い出す。学校から帰っていたこと、僕に似た子を見かけたこと、隣にあの男がいたこと。そして、具合が悪くなったこと。
「心因性の過呼吸だろうけど、心当たりはあるか?」
「……うん」
「そうか。……浦原も呼んでるから来るまでもうちょい寝てろ」
心当たりを聞かれたとき、きっと内容も話さなくちゃいけなくなると思ったが。聞かずにそっとしておいてくれるところに優しさが見えた。ありがとう、と小さく呟く。
気絶した僕を運んでくれたのは、遊子と夏梨だろう。僕のほうが小さいとはいえ、小さな身体で人一人を運ぶのは大変だったはずだ。二人にも感謝しなくては。まったく、黒崎家にはお世話になりっぱなしだ。
「輝夜!」
「お父さん」
ドアが遠慮がちにノックされ、ゆっくりと開けられる。入ってきたのはお父さんで、知らぬ間に強張っていた身体から力が抜けた。
「やっと来たか。んじゃ帰っていいぞ」
一心さんがベッドから僕を起こしてくれる。ずっと横になっていたから少しふらつくが、問題なく歩けるようだ。
もう一度ありがとうございましたと言って、本来帰る時間より二時間も遅く家に帰ったのだった。
輝夜が見た男の人、一体誰なんですかね。隣には謎の子もいるし、輝夜は気絶しちゃうし。
でも、普通の学校の帰り道で倒れたって連絡が来たお父さんは気が気じゃないです。藍染来ちゃった!? 起きたらキャラ変わってたりしない!? 体調は大丈夫!? おちゃらけてるように見えて心労絶えません。微弱ながら吸血鬼補正で病気とかほとんどしてこなかったので、輝夜が倒れたってだけで血相変えて飛んできちゃう。
Q.お母さんはどうしたんですか? A.大抵の場合連絡つきません。
今回からの話はたぶん結構長い回になると思います。五話とか十話とか……。こう言っちゃうと三話で済んじゃったなんてことになりかねないのでもう黙ります。次もよろしくお願いします。