神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか 作:さとう
お父さんが送り迎えしてくれることになった。
あれからきっちり一ヶ月。
僕たちは一度も、彼ら──僕の血の繋がった父親と隣にいた僕に似ている子供──を見かけることはなかった。毎日の登下校には宣言通りお父さんがついていてくれて、それでちょっとした騒ぎになりもしたけど、特に問題も起きなかった。
彼らと会わないように道を変えたことが功を奏したのだろうか。兎にも角にも、一安心だ。最初は夜も眠れなかったが、今はすんなり寝付けるようになった。
今日帰ったら、お父さんにもういいよと言おう。学校でそう決めて、靴箱からお父さんの姿を探した。
「ほんとに居たんですよ!」
帰り道もあと三分の一になったくらいのこと。近くで女の子の声がした。振り返る前に、別の声も聞こえることに気づく。
「こら、街中では静かにな。……別に疑っているわけじゃない。世界には似た人が三人いると聞くからね」
初めて聞く声音。だけどこの声質、喋り方は。
「……大丈夫だよ」
息が荒くなった僕を見てお父さんが察したのだろう、そう呟いて二人の壁になってくれた。しかしほっとしたのも束の間、相手が僕を見つけてしまう。
「この人です!」
女の子が大声で叫びながら僕のところに駆け寄る。突然のことで驚きすぎて、近くで見てもそっくりだな、なんて関係ないことしか考えられなかった。
「やっぱり! あたしたちすっごく似てると思いませんか? あたしに兄弟がいたらこんな感じなのかな。一人っ子だから兄弟欲しいんですよね、村の子には兄弟もたくさんいるのに!」
「え、えっと」
「でも妹とか弟が産まれたらあたしがたくさん我慢しなくちゃダメなんですよね。それはちょっと困るかも」
戸惑ってまともに言葉を発せない。横を見ると、お父さんも珍しく圧倒されて口をつぐんでいた。今までこんなに元気な子と接したことはない。クラスにだっていないだろう。
その後も、凄まじいエネルギーを持つ少女は反応が返らなくても喋り続けていた。
「外の人に話しかけては駄目といつも言っているだろう。すみません、……ッ!」
少女を追いかけてきた男は、僕たちを見て目を見張った。さっきはお父さんで見えなかったのだろう。やっと僕に気づいて、口に手をやって動揺を抑える。
僕も自分を殺そうとした男を目の前にすると手が震えるが、前回ほどのショックはなかった。事前に一応の心構えをしていたのが良かったらしい。
「……お久しぶりです」
「……ああ、そうだな」
また会えるなんて思ってなかったよ。少女の手前そう言うしかないのだろうが、とんでもない皮肉だ。貴方が会えなくしたのだから。
少女は『お父様、お知り合いだったんですか』と一層騒がしくなる。明るくて元気でわがままで、全く僕とはえらい違いだ。そして、お父様と呼んだということは、やはりこの子も血神か。
「ここで話すのもなんだから、村まで着いてきてくれないか」
「アタシ抜きに話を進めるのはやめてもらえますかねえ。現在この子の保護者はアタシなんで」
「貴方は……! そうか、そういうことか」
村に招かれるとは思わず狼狽える。しかし、お父さんが冷静に間に入って話を繋げてくれた。相手はお父さんを見て何か気づいたようだけど、自己完結するだけしてこの話を掘り下げる気はないらしい。
「明日は土曜日だ。予定がなければぜひ、うちの村に来てくださいませんか。もちろん、二人で」
「……わかりました。いつかはそちらに伺わなければと思ってたところっスから」
どうやら、明日村に行くことになったようだ。お父さんのことは信用しているが、本当に大丈夫なのだろうか。相手は我が子を手にかける男なのだ。
不安な気持ちが伝わったらしい。ゆっくり背中をさすってくれる。ちらと見上げると、お父さんはいつものように微笑んだ。
輝夜の『絶対こいつをお父様やお父さんとは呼ばないぞ』という意思のおかげで地の文が大変です。名前とか出たら言いやすいのにと思うでしょう。輝夜、彼の名前知らないんですよ。お父様と呼ぶことだけ知っておけば事足りるので、教えていなかったんですよね。野兎(お母様)との会話を聞いていればあるいは知っていたかもしれませんが、残念ながら一緒にいるところを輝夜は見たことがありません。なんちゅう人生送ってるんだ。
毎回『毎日更新できなくなるかも』と言っているのについやってしまう。今の話は当社比頭使って練らないといけない話なので、さすがに毎日更新するわけにはいかないんですけど……。次こそは明日ではない日に更新すると思います。代わりに質を高めるつもりです。ハードル上げちゃった……。