神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか 作:さとう
川獺は三つ歳下の妹だった。
「お兄様弱い!」
「か、川獺が強すぎるんだって!」
あれから十数分。鞠でどう遊ぶのかも知らない僕はなんとか見よう見まねで川獺と遊んでいた。川獺はぴんぴんしているというのに、僕は体力が無さすぎてとうとうしゃがみこんでしまった。目の前で飛び跳ねられるのを見るだけでも疲れる。
というか、君は着物着てて動きもかなり制限されるはずでしょ!? なんでそんなに動き回れるんだ。
「ごめん、ほんと待って、少し休もう……」
「えー……はーい」
座り込んでいる僕の隣に川獺も腰掛けた。川獺の着物の裾は開いてるし土も飛んでいる。どうやったらそうなるのかわからないが、髪の毛にまで芝が引っかかっていたのにも本人は全く気づかない。
女の子でしょ、と言いながら取ってやると、川獺はあどけなく笑った。ちょっとお小言でもしようと思っていたのにそんなふうに笑われると、全身の力が抜けて何も言えなくなる。あの人も、こんな気持ちなのだろうか。
「あたしも、お兄様みたいに普通の名前がほしいです」
「普通の?」
「はい。他の子は寛太とか由紀子とか、川獺とはなんとなく違う名前ばかりなんです」
村の子供と遊ぶことが多いと他の子と自分との違いがわかりやすい。僕にはなかった経験だが、多感な年頃だ。『名前変だね』と言われたこともあるのだろう。
「じゃあ、僕がつけてあげようか? ちゃんとしたところでは使えないけど」
「いいんですか!? 嬉しい!」
さっきまでも散々暴れたのに、喜びを身体中で表そうとしてまたぐるぐる回る。そんなに喜んでくれると僕も嬉しいけど……。何も考えてなかったから罪悪感がすごい。
何が良いだろうか。川獺だから海……いや川か。それよりも、明るくて元気だから太陽とか。太陽……?
「
「春陽! はるひ、はるひ、はるひ……すっごくいいと思います!!」
「気に入ってくれてよか、おわあ!?」
何度も口に出して響きを確認しているのを見て僕まで頬が緩んでいたら、急に抱きつかれた。衝撃を受け止めきれずに倒れ込む。
「あたし、これからは春陽って名乗ります!」
川獺──春陽はすぐに起き上がって名前を言う練習を始める。しかし、すぐにその輝く目を曇らせた。
「みょ、名字がありません! どうしよう」
「たしかに……」
そういえば血神には名字がないんだった。正式には知上というのが名字に当たるらしいが、それをそのままつけるのは躊躇われる。だからといって浦原姓にするのもおかしいし……。
「あ、あの人と同じ名字にしたら?」
「お父様ですね! なるほど、それは良いあんですね」
僕はあの人の下の名前すら知らないけど、仲の良い春陽なら知っているだろう。
「ではお父様の話が終わるまでまた鞠で遊びましょう!」
「え、なんで?」
「あたし、お父様の名字を知らないので!」
知らないのかよ!
しかたない。妹のわがままを聞くのも兄の役目だと自分に言い聞かせ、僕はまた立ち上がるのだった。
妹ができてご機嫌な輝夜は、川獺改め春陽のわがままをたくさん聞きます。そのほとんどが遊んでなので体力のない輝夜には酷ですが。妹のわがままならどうってことないよ! うそ、もう無理……。
そんなこんなで輝夜パートは終わりです。次は浦原さんパート。殺伐としてるのか意外と穏やかなのか。真相はきっと明日くらいに明かされると思いますので次回もよろしくお願いします。