神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか   作:さとう

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前回までのあらすじ
川獺に春陽って名前をつけた。

※バトル要素はありません。



第二十五話:バトルはバトルでもレスバトル

吸血鬼『狂犬』とは、恐れられている吸血鬼の中でも特に力が強いとされている個体です。

回復能力や具現化の力など全体的に他の吸血鬼よりも高い能力を持っていますが、特筆すべきは全てを思い通りにできる力でしょう。触れずに殺したい相手だけを殺すこの力によって、多くの死神が犠牲になりました。推定ではその数百五十人とも言われています。

狂犬は現在、技術開発局にて厳重に保管されています。

 

何百年も前の真央霊術院の教科書には、吸血鬼についての記述が載っていた。朽木ルキアは知らないようだったから今は教えていないらしいが。

狂犬は唯一名前まで教科書に載っていた吸血鬼だった。いかに残虐で残酷な存在かを知らしめるために。

実際の彼女が人間と共存していたと知らない者は、教科書で綴られていた極悪非道な化け物として認識しているだろう。

「尸魂界で謀反でもしようとしているんですか、あの化け物を連れて」

「あの子は化け物なんかじゃないっスよ。貴方の子でしょう」

千樹郎は、何の躊躇いもなく輝夜を『化け物』と言った。吸血鬼の末裔であることは確かだが、曲がりなりにも自分の血を継いだ子供だというのに。輝夜の親として怒るより前に、千樹郎の異常さに気持ち悪くなる。

「違いますよ。貴方も見たでしょう、あれは狂犬です。私の息子の身体を依代にして蘇った、化け物だ」

ああ、この人は。輝夜が白蛇として産まれたときからずっと、狂犬だと思って生きてきたというのか。人間を殺し、死神を殺し、同族すら殺せるという噂の正真正銘の万物の王だと。命を脅かすとされる存在だと思って10年も。ずっと赤目の魅了を受けながら、殺す機会を伺って?

「だから殺したんです。このままでは世界が滅びる。なのに、生きていたなんて……」

「……あの子は狂犬じゃありませんよ」

そう思って生きていたなら、輝夜を殺そうとしたのもわかる。しかし、あの子は狂犬とは違う。

それに、恐れられている狂犬だって実際は、人間と共存するために己の血を与えていたのだ。自分も当時直接会ったことはないが、噂のほとんどが嘘や誇張だということはわかる。

「刀はどう説明するんスか。刀の状態の狂犬サンと喋ったって聞きましたよ」

「きっと基本は白蛇本来の性格なんです。刀に封印されていた奴がそれを乗っ取って姿かたちまで自分そっくりにして、許せない」

「いい加減にしてください! あの子に、同族すら視線ひとつで殺せるあの力はない」

「でも、あの赤い目は……」

何を言っても千樹郎は頑なに認めない。証拠もないのにあの10年間を否定することを信じろと言っているのだから、無理もないか。

だけど、ここで真実を知ってもらわなければ、ここに来た意味がなくなる。

「見てください、本当のあの子を」

ボクは、二人の影が映る障子を開け払った。

 

そこに見えるのは、ぐったりした輝夜とまだまだ元気そうな少女。手には鞠を握っていて、それで遊んでいたことがわかる。

「ぜー、はー……うう、もう無理だって」

「ええー! やです、もっと遊びましょうよう」

無理と言いながらも、少女が日向に連れて行くと『じゃあもう一回だけね』と鞠をつき始めた。その姿は、見た目を除いても仲の良い兄妹のようだ。

 

「こんなになるまで遊んであげる優しい子が、人を殺すなんてできませんよ」

さっきまで苦しそうに眉根を寄せていた千樹郎は、その光景を見て初めて憑き物が落ちたように目を見開く。自分が我が子を手にかけなければあったかもしれない未来に想いを馳せているのだろうか。

「ああ、私は実の息子になんてことを……。白蛇、すまなかった。本当にすまなかった……」

「あの子、今は浦原輝夜っていうんスよ」

「そうか……いい名前だ。輝夜、輝夜か」

名前を噛み締めるように数回呟いて、初めて頬を綻ばせて笑った。その目には涙が溜まっており、目を細めたのを合図にこぼれ落ちる。

それからしばらく、千樹郎は輝夜から目を離さずに涙を流し続けた。まるで、あの10年間で凍った気持ちを解かすように。




白蛇が産まれてすぐ『あ、あれ? 顔のパーツが死ぬほど昔習った危ない化け物に似てる気がするんだけど?』となる千樹郎パパ。育っていくにつれて『いかん、こりゃガチだ……』となることを、当時の彼は知るよしもなかったのでした。教科書通り、接してると変な感じになるし……。千樹郎さんもかなり不幸な方でした。
ちなみに、輝夜が狂犬にそっくりなのは偶然です。赤目なのは死神の血が吸血鬼の血を呼び起こした結果かもしれませんが。適当なことを言ってます。
狂犬が大量虐殺したような表現もありますが、真っ赤な嘘です。狂犬はむしろ他の同胞に比べて人間と良好な関係を築いてるくらい。
代わりに死神は殺されかけたりかわいい子孫をいじめるし(千樹郎さん)、あんまり好きじゃないです。だけどそれも浦原さんたちのおかげで持ち直しつつある。よかったね。


誤解が解けた! 血の繋がった我が子への計20年と少しの誤解……。世界にはいろいろあるからねしかたないね。
ということで、書き溜めたのもこれで終わりです。知上村編はあと少し続くのでもうちょいお付き合いよろしくお願いします。
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