神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか   作:さとう

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前回までのあらすじ
輝夜は自分の心配をする一心に気づかない。



第四十一話:知上村、再来!

「お、お……せわに、なり……ま、」

「無理しなくていい。苦手なものはそうすぐには克服できないものだからね。……って、僕が言うことでもないな、すまない」

「いえ、そんなことは……!」

僕の目線の先には血の繋がった父、千樹郎さん。その距離は3メートルは離れていて、僕の情けない腰の引けっぷりに千樹郎さんは困ったように笑っている。

ああ、なんでこんなことに。

 

発端はつい2時間前、黒崎家でのことだった。何ヶ月と見てなかったお母さんが久々に顔を出したのだ。やっと帰れるのと聞こうとしたとき、お母さんはこう言った。

「お主が見つかるとまずい。これから別の場所に移るぞ」

次の瞬間にはもう知上村にいた。

以前経験したことがある、瞬歩だろう。前とは距離も速さも段違いで、あのときは加減してくれていたことを今更ながら知る。いや、今も加減してこれなのかもしれない。

……冷静ぶっているが、ただ驚きが一周回って変に頭が回っているだけだ。『久しぶり、元気してた?』みたいに大して仲良くなかった人とするような会話すらなく連れ去られたのだ。

しかしお母さんは全くそんな心の機微を感じさせない表情で口を開く。

「ここじゃったら安心じゃ。流石のあやつも空座町で手一杯じゃろう。じゃが万一もある、できれば斬魄刀の能力で緊急避難できるよう練習しておくように」

「え、ちょ、ちょっと!?」

「大丈夫、村には儂らが話してある。妹もおるんじゃろ? たまには水入らずで過ごしてこい」

「ねえ待ってって! ちょ、ふざけんなーー!!」

お母さんは、そのまま言いたいことだけ言って去っていった。

水入らずって言ったって、僕とあの千樹郎さんでは『よく来たね、大変だっただろ』『いやいや。最近帰れなくてごめんね父さん』みたいな会話はできないって知ってるだろうに。それに、どちらかというとその会話はさっきしたかったよ僕は。

 

そして今に至るわけだけど……。

向こうにも気を遣わせているようだからなんとかしたいが、それができたら苦労しない。いくら元々住んでいたとはいえ現在は他人の家にそんなに気軽にホイホイ入れるものでもなく。

そもそも僕はこの人が苦手なのだ。前は普通に話せたような気がするが、お父さんがいたからまだ安心できただけだったらしい。

せめて、誰かこの空気を壊してくれたら。そう思った瞬間、バタバタと大きな足音がした。

「お兄様! 遊びに来てくれたんですね!」

「は、春陽!?」

ぐえ、くるし……と息も絶え絶えに伝えると、千樹郎さんが引き剥がしてくれた。しばらくぶりに見た妹、32代目血神『川獺』は、おてんばが服を着たみたいに着物は着崩れ髪はぼさぼさで、全然変わっていなかった。

「だ、大丈夫かい……?」

「はー、はー……はい。ありがとうございます」

「お父様、お兄様がいます!」

「今日からしばらくうちで暮らすことになったんだ、今の親御さんの都合でね」

「あ、うん。いつまでかわからないけど、お世話になるよ」

「そうだったんですか!? また一緒に遊びましょうね!」

「まあ、ほどほどにね……」

春陽との鞠遊びを思い出してげんなりしたのを顔に出さないように笑う。あれは……大変だったから……。できればお兄ちゃん、家の中で大人しく遊びたいな……。

我ながら情けないことに、春陽に身体を揺らされて既に疲れてしまっている。どんどん遊ぼうね! とは言えないのが辛いところだ。

「では、輝夜くんの部屋を案内しよう」

「え、あの部屋じゃないんですか」

10年弱過ごしていたあの書物しかない部屋ではないのか。今では窓が一つもなく家具もほとんどないというのは珍しいと思えるが、あれはあれで慣れれば過ごしやすかったのに。

「いやいや、客人を書庫に泊まらせるわけにはいかないだろう。ちゃんと部屋もあるんだから、そっちで寝なさい」

「……あれ、書庫だったんですか」

「う、うん……。ごめんなさい」

「あ、そういう意味で言ったのではなく、ただ驚いただけで……」

「お二人とも、仲良くしてください!」

10年越しの事実を知りまた変な空気になってしまった僕たちに気づき、春陽が背中を叩いて喝を入れる。

まだ幼いくせにその手のひらはとても力強く、しばらく息ができなくなってしまった。それは千樹郎さんもそうらしく、変な姿勢で10秒ほどうずくまっていた。

変な空気になるたびこれを食らうなんて、この先やっていけるんだろうか……。僕は年末の笑ったら痛いお仕置きが待つテレビ番組に思いを馳せながら、案内を再開した千樹郎さんの後ろを歩き出した。





知上村はお隣の空座町の住人のほとんどが知らないような隔離された村なので、緊急避難には良いかもしれません。でも輝夜的には地獄ですよね。自分を殺そうとした父とおてんびすと(おてんばの最上級)な妹、自分は死んだと思っている母に囲まれて暮らさなければならないなんて……。ご両親とはこれから仲良くなっていってほしいです。


まさかの知上村編パート2。まだやっておきたいことがあったので、もうちょっとだけ続くんじゃ……。
今回悩みに悩んだので、次回もまた更新に時間がかかるかもしれません。でも頑張る! のでよろしくお願いします。
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