神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか 作:さとう
番外編:参観日→地獄
これは、輝夜が小学校3年生のときの話である。
今日は土曜日。普通は授業がない休日のはずだが、輝夜は教室にいた。後ろにはたくさんの大人たち。そう、三ヶ月に一度の授業参観日である。
科目は算数。苦手な科目だったが、幸いにも輝夜は先生に当てられることなく45分を終えた。
しかし、地獄はここからだった。
「あれお父さん? す、すごいんだね……」
「あっちは遊子ちゃんと夏梨ちゃんのパパだよね……?」
「えへへ、そうなんだ……」
「……さあ、知らない人だよ」
輝夜の父、浦原喜助と黒崎姉妹の父、黒崎一心が非常に目立っていたのだ。もちろん、悪い意味で。
二人とも、バッチリ決めたジャケットに革靴を着用している。それだけでこれでもかと主張しているのだが。
「はあ!? いくら一心サンでも許せません! 世界一可愛いのは輝夜でしょうが!!」
「なんだとこの野郎! 宇宙一可愛いのはうちの遊子と夏梨に決まってるんだよ!!」
「うるっせえよバカ親父!」
二人は、あろうことか狭い教室で言い争っていた。
「はあ……」
輝夜は、父親が大声で自分の名前を叫んだせいで他人のふりもできず悩んでいた。迷惑な二人に蹴りを入れに行った夏梨を見届けた遊子も憂鬱そうだ。
輝夜と遊子、夏梨は特段仲が良いわけではない。お互いに苗字で呼び合うし、同じクラスになったこともなかった。父親同士が顔見知りらしい程度の認識しかしていなかったのだが。
3年生になって同じクラスになると、二人は授業参観のたびにこのような言い争いをするようになってしまった。夏梨が他人の父親も関係なく制裁を加えてくれるのが唯一の救いだ。
「ねえ、浦原くん。なんとかできないかな……?」
「できるならなんとかしたいけど……あ、そうだ! 耳貸して」
遊子に耳打ちする。解決策が予想外のことだったのか、遊子はぱちぱちと瞬きしてそれから嬉しそうに笑った。
「すっごくいい案だね!」
「でしょ。これを言ったら絶対喧嘩やめてくれると思うよ」
「遊子と夏梨が一緒に寝てる写真を見ろ! 天使以外の何者でもないだろうが」
「あなたこそ見てくださいよ。あの愛くるしい瞳、素直になれない性格! クラスの子と話すのに恥ずかしそうに笑うんですよ!?」
作戦会議を終えて騒がしい中心に来てみると、さっきより悪化していた。最後の良心、夏梨はトイレに行ったようだ。
輝夜は遊子とアイコンタクトをする。呼吸を合わせて同時に口を開いた。
「「それ以上喧嘩するなら黒崎(浦原)さんちの子になるよ!」」
我が子の言葉を理解した二人は思った。
こいつにだけはこの子を渡しちゃいけない。
こうして、浦原喜助と黒崎一心のはた迷惑な口喧嘩は幕を閉じ、二度と行われることはなかったのであった。そして、輝夜と遊子、夏梨はお互いを下の名前で呼び合うことになった。
実は黒崎姉妹と同い年でした。親バカ二人が授業参観にジャケットを着て参加、しかも我が子がいかに可愛いかを熱く語られるなんて、子供からすると地獄な空間ですよね。しかも、二人とも髭を剃って来ています。本気度が違います。しかし次からはきっといつもの格好で来てくれると思います。柄シャツ白衣と羽織に下駄で……? それはそれでやめてほしい。
本編が行き詰まっちゃったのでやっぱり書きました。この連載を始めると決めたときから絶対書きたかったやつ。本来の文体はどちらかというと今回のように軽めなのですが、始まりで気取りすぎて本編では地の文多めです。自分で自分の首を絞めるだけなのでなんとか軌道修正したい……。でも本編は次回もシリアスになっちゃいます。もうちょっと頑張ります。