神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか 作:さとう
ショッピングモールでご飯を食べた。
腹ごしらえも終わり、僕たちはようやく服屋に向かった。
「すげー! これ全部服なのかよ!」
「このショッピングモールの目玉っぽいね」
店に入る前から、視界全部が服ばかり。冷静なふりをしているが、僕も圧倒されてテンションが上がる。興味のないものでもこんなに多いと楽しいんだな。
「どんなのがいいと思う? 雨」
「えっと……可愛い色が、似合うと思うよ」
雨が手にしたのは、ピンクと水色のトレーナー。僕が可愛いらしいのはいろんな人から言われて知っているが、ピンクと水色ときたか……。深緑ばかり着ていた僕に、明るい色はハードルが高い。
次に見せてくれたのは藤色のシャツ、その次は薄い青緑のパーカー。そういえば雨はいつも『浦原商店』と書かれた白いTシャツに淡いピンクの膝丈スカートを着ているんだった。おしゃれとかそうじゃないとか以前に、服をそれ以外知らないのかもしれない。
「ごめん、やっぱ自分で考えてみるね」
「ううん……! 役に立てなくて、ごめんね」
雨が傷つかないように気をつけて言ったつもりだが、どうやらまた傷つけてしまったらしい。そうじゃないよとフォローしてから別れる。
雨は、僕と同い年のわりに腰が低い。それに、下手なことを言ったら泣いてしまうこともある。きつい言葉を使うことの多い僕は特に気をつけるように、とテッサイさんに言われているのだ。もちろん、そうでなくてもわざわざ優しい雨を泣かせたいなんて思わないが。
「これ……は派手すぎるかな」
適当に目についたものを手に取ってみる。側面しか見えなかったからわからなかったが、表に大きなワッペンが五つも付いていた。急いで戻して、近くをうろつく。
良いと思うものは既に持っているようなものばかり。脳内の遊子と夏梨が首を振って哀れなものを見る目で見てくる。どうせなら二人にも来てもらえば良かった。
「あれ、輝夜くん?」
悩んでいると、後ろから声をかけられた。高い声、幼い喋り方にこの呼び方は。
「遊子!」
振り向くとそこには、やはりというか、黒崎遊子がいた。
「ねえねえ、輝夜くんがいるよ!」
「わ、ほんとだ」
しかも隣の棚の陰からは夏梨まで出てくる。噂をすればなんとやらとは言うが、本当にそんなことがあるのか。
「服選んでんの?」
「うん。でも全然わかんなくて」
だから選ぶの手伝ってほしい、と恥を忍んで頼んでみたら、二つ返事でオーケーされた。
ついでにメモに連絡先を書いて手渡された。これで服を買うときは電話で一緒に来てほしいと頼むことができる。携帯電話を持っていないから家からかけないといけないが。……からかわれる未来が見えた。しばらくはこの番号を使う機会はなさそうだ。