神と呼ばれた少年は平穏な日常を夢見るか 作:さとう
気づいたら謎空間にいた。
第一章読んでからのほうがいいと思います。
※かっこいい藍染さんはいません。
「ええと……藍染さん、でいいんですよね」
「ああ。君は浦原喜助の娘の」
「息子です。浦原輝夜」
面倒がって髪をしばらく切ってなかっただけで会う人会う人に言われるけど、れっきとした男です。まさか本気で娘だと思ってもいないだろうが、冗談かわからないポーカーフェイスで言われるものだから我ながら凄い勢いで訂正してしまった。父を嵌めた男だと聞いていたが結構緩いというかなんというか、誰から見ても第一印象が『良い人』になるような人だ。
そもそもなんで藍染惣右介と普通に会話しているのかというと、実は僕もわからない。気づいたら僕はこの家具もない四方が白い部屋にいて、それは藍染さんも同じようだったのだ。藍染さんの能力については少し前に聞いているけど、始解を見たことはないから術中に嵌っているわけでもなさそうだ。
「どうしたんだい? 浦原輝夜くん」
「フルネームで呼ぶのやめてもらえますか……? そんな警戒される存在じゃないですし」
「ほう、面白いことを言うね。あの『狂犬』の血を引く者なのに」
「ええ……狂犬は関係ないですよ。僕ができることってほとんどないんですって」
「ちなみに、何ができるんだい」
「えっとですね、」
おっと。
そういえばお父さんに、他人に能力を教えてはならないときつく言われてたんだった。危ない、これが藍染惣右介の恐ろしさか。
なんとかして誤魔化さないと。
「えっと…………屈伸とか」
「それは……日常生活が大変そうだね」
同情された。しかし、屈伸しかできない人を前にしたら僕もそう言わざるを得ないので怒るに怒れない。藍染惣右介、話術が巧みすぎる。
「それで、かぐちゃん」
「急に砕けましたねそうちゃん」
「吸血鬼には眷属という概念はあるのだろうか」
「え、何それ知らない……」
いや知っているけれども。あれだよね、よく物語に出てくる吸血鬼がコウモリや人の血を吸って手下みたいにするやつ。だけど何故突然……?
「文句なくこの世界で最強の吸血鬼の末裔である君の眷属になれば、死神や虚という枠を超えた存在になるための助けになれるんじゃないかと思ってね」
「そんなのになりたいんですか……」
「私はね、天に立つべきなんだ」
なんか語り出したぞ……。真子さんの話ではもっと当たり障りない会話しかしない上辺だけの人だと思ってたんだけど。
「私は才能のある子供だった。当時から周りの大人など簡単に殺せるほどの力を持っていたんだ。この私以外に、誰が天に立つというのか」
「そ、そうなんですね……?」
「わかってくれるか。やはり、私をわかってくれるのはただ一人君だけだと思っていたよ」
ごめんなさいわかりません適当に相槌打ってただけです! そんな心の叫びは通じない。さてはこの人、表面だけ取り繕うのは得意ってだけのぼっちだな!? それなら僕が理解者になるのもわかるけど、それはそれで失礼な話だ。
「ああいや、この話はいいんだ。それより今は眷属の話をしようじゃないか」
「だからわかんないですって……」
『血をギリギリまで吸って自分の血を少し入れたらできるわよー』
「きょ、狂犬!? どこから声が……」
「そうなのか! どういう仕組みで眷属にできるのか、実に興味深い。吸血鬼の血を取り込むだけではいけないのだろうか」
めっちゃ強引だーー! どんだけ吸血鬼の眷属とやらになりたいんだよ……。知らないものに対する反応がお父さんとほとんど同じで怖い。でもその割には、突然謎空間に響き渡る狂犬の声には動じてないのが不思議だ。
『でも主人には絶対服従で主人より弱くなるから結構不便だと思うわ。主人になるほうも大変だろうから私も作ったことなかったしね』
狂犬もそのまま続けるんだね……。
「ふむ……。では眷属になっても私の望みは叶わないのか。ならばこちらが吸血鬼の血を摂取するというのはどうだろう」
「あ、それは多分何も起こらないと思います。怪我があったら治りますけど」
「試したことがあるのかい?」
「昔少し……うーん、説明が難しいので割愛しますけど、普通の人が血を飲んでも凶暴化するとか力が強くなるとか聞かなかったので」
「なるほど。まだ死神に使ったらどうなるかわからないんだね。ではあとで試すとしよう」
「えっ」
試すって自分で? それとも他人で? というか誰の血を使う想定なんですか……?
「もちろん君の血だよ」
「ギャー! 思考が読まれてるし僕の血が狙われてる!」
「はは、冗談さ」
「怖い、もう帰りたい……」
距離をとりながらめそめそしてる僕に気づいたかきづかないか(どうせ後者だと思うが)、その笑みは絶やさずにその目に捕獲者の光を灯している。なんと器用な……。
そう思っていたら、急にその光を潜めて目を丸くした。
「おや」
「ひい、な、なんですか……」
「こんなところに扉なんてなかったはずだが」
「へ?」
藍染さんの目線の先、僕のほぼ真後ろを見やると、たしかにさっきまでなかったはずの扉があった。よくわからないが、これで外に出られる……のか?
「そうだね。名残惜しいが、出るとしよう。外で何が起きているかきちんと把握しなければならない」
「また思考を……。まあ、そうですね。心配かけちゃってるかも」
「また会おう、かぐちゃん」
「それ定着させるんですね、そうちゃん」
ふざけた台詞でわかれたはいいものの、同じドアから出るのだから同じ場所に出るのでは? それってめちゃくちゃ気まずいなと思ったが、どうやら杞憂だったらしい。仕組みはまったくわからないが、謎空間から出た先に藍染惣右介はいなかったのだ。
扉は浦原商店の目の前に繋がっていた。
この不思議な出来事は、夢が現実かもわからないまま自分の胸にだけ残るだろう。それでも、何かが大きく変わるわけではない。これまで通りに僕にとっての普通の日常が続いていくばかりだ。起きて、ご飯を食べて、学校に行く。たまに真子さんのところに遊びに行ったり、黒崎家にお邪魔したり。そんな日常が。
変わるとしたらただ一つ。藍染惣右介の話題が出るたびに、『その人は僕のことをかぐちゃんって呼ぶんだよなあ』と思うようになるだけなのだ。
おまけ
「どうされたんです? 藍染隊長」
「ああ、少し……面白い子と話す夢を見てね」
「珍しいなあ、藍染隊長が夢やなんて」
「私もそう思うよ。私にわからないことはまだまだあるのだと気付かされた」
「はあ……? まあ楽しそうやからええですけど」
藍染さん、もしかしてギャグ要員じゃなかったりしますか?
こういう完璧なキャラクターほどボケさせたくなります。フルネームで呼ぶなと言われてあだ名で呼び始めるくらいボケてくれないとね。なんでそんなことに。
番外編なので自分の癖全開の文章と趣味マックスのネタです。めちゃくちゃふわふわしてる二人の会話、書くの楽しかった……!
次回は決まってません。また番外編かもしれないし、本編が進むかもしれません。そのときはまたよろしくお願いします。