グラップルデュエル-忘却されし街の機士-   作:EXIA00Qt

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ヴォルター、起動

それからしばらく経ったある日。コノハとユウリはリョーヤに呼び出されていた。

「どうしたんだ?急に俺たちを呼んだりして」

「おお、来てくれたか。まあこっちに来てくれ。下層に降りる」

そう言ったリョーヤの目は心なしか輝いていた。

「下層…?ここにいつのまに地下ができたの?」ユウリは不思議そうに尋ねた。

「できた、というか正確には秘匿区画だ。技術者陣にしか立ち入りを許可していなかったし存在を認知させもしてなかったから知らなくて当然だ。」

「そこに俺らを…?まさか」

「そのまさかだ。…完成したぞ。恒星機関搭載型デュエロイド試作初号機"ヴォルター"だ」そう言って彼は、その空間の一角の天井のライトを点灯した。

 

そこに顕れたのは、青みがかった白を基調として所々が青と赤、紺で彩られた、優美な流線型のフォルムをした機体ーその巨体は圧倒的な存在感を放っていた。

 

「…これが、ヴォルター…」コノハは魅せられたようにそう呟いた。

 

「そうだ。こいつに…コノハ、君が乗るんだ」

 

これが、今後数多の戦いを共に駆け抜けることとなる相棒との最初の邂逅であった。

 

 

*****

 

それから数週間。コノハは地下に用意された訓練スペースでヴォルターを乗りこなすべく実践練習を重ねていた。

とはいえ機体に搭載するOSが完成した時点でコクピットブロックを取り出したシミュレーターによる訓練はかなり積んでいる。そのため彼は途中から完全に遊び始めたのだ…具体的には、自分でOSを弄りヴォルターに乗ったままバク転してみせたり、各所に設けられたバーニアの推力を利用してウォールランを十数歩にわたりやってのけたのだ。

 

 

そしてこの日もいつもと同じく地下訓練場にはヴォルターでの遊びに勤しむコノハの姿があった。辺りは暗くなっている。暗所でどれほど動けるかを試していたようだ。

 

突如として通信機が着信を知らせた。自動通話設定がされていたそれから聞こえてきたのは、珍しく狼狽したリョーヤの声。

 

「コノハ、聞こえてるな!?今すぐランチャーにそれごと乗れ!説明は後だ、所属不明のデュエロイドの襲撃に遭ってる!」ランチャーとは機体を格納庫から緊急発進させるために作られた射出機である。

「はあ!?なんだよそれ!」

「いいから早くしてくれ!防衛システムはおそらく長くは保たん!」

「ああもうわかった!」

ウォールランで時短しつつランチャーに向かい機体を固定した。すぐにランチャーが地上へと動き出す。

「でも装備は1パターン分しかできてないんだろ!?しかもぶっつけ本番かよ!」

コノハは急速に上昇するランチャーの勢いに多少驚きつつそう答えた。

 

「それはどうしようも無い!あとさっき量産タイプ試作1号が完成したからとりあえずユウリに慣熟運転させてる、それまで一人で持ち堪えてもらわないと…本当にすまない」

「わかったわかった、なんとかするよ。っと、どうやらハッチまですぐみたいだ。通信はつけっぱにするからなんかあったら言ってくれよな」

「了解した。防衛システムの3割がもう潰されてるからまじで頼んだぞ」

いきなりの襲撃に3割の損害で耐えている防衛システムも防衛システムである。

 

同時にオペレーターが装備パターンDの着装と発進タイミングの譲渡の完了を告げる。

「わかった。コノハ・ヤシャカタ、ヴォルター/D、所属不明機の迎撃に移る」

 

***

 

そして双剣を持つ白亜の機体は地面から飛び出した。その琥珀色の双眸に映るのは、防衛システムの機銃を破壊しつつ向かってくる漆黒の機体。

「コノハ!その機体…生体反応がない。要するに破壊してもらって構わん!」リョーヤは通信機を介しそう告げた。

「そいつぁありがてえ…存分にやらせてもらうぜ!」

謎の機体から間断なく放たれる光弾を躱しながらそう言葉を発したコノハは機体を突っ込ませる。多少の被弾は無視だ。

 

回避に徹していた相手が急に攻めに転じたのに怯んだのか一瞬謎の機体の動きが滞る。

そしてコノハは直進すると見せかけ瞬時に相手の左側へ機体を滑り込ませ、勢いのままに右手の得物で切り上げた。そのまま剣を反転して切り下ろし、そのまま横に一回転、左手の逆手に持った剣を頭部に突き刺した。その間僅か2秒。

数瞬漆黒の機体から火花が迸り…そのまま小さな爆発と共に煙を上げ停止した。

 

ヴォルター、ないしコノハの初陣はこうしてあっけなく幕を閉じたのだった。

 

*****

 

再び研究所内。

 

「なあリョーヤさん、どうだったんだそいつの解析結果は?」

濃紺と白に彩られたパイロットスーツを身に纏ったコノハが興味津々といった様子でそう言った。

 

「フレームは俺たちが渡された設計図のと同じものだ。ただこの機体はバッテリー駆動で、またコンクリートフォレストはおろかFORGOTTEN CITYで建造された形跡すらない。確実に"あっち側"の機体だ。そして操縦を担うAIはそこそこ高度だったから基礎プログラムは拝借した」

「ちゃっかりしてんなまったく。それはそうと、グラップルデュエルの参加表明集めたリストにはこの機体見当たらなかったよな?なんかめっちゃ真っ黒なカラーリングしてるし左腕に武器固定されてるし」

「ねえ、それってリョーヤさんたちの技術を狙ってるあっちの裏組織とかじゃないの?」

ワクワク、といった風にユウリが言った。先ほどまで彼女の専用機ーヴィーダと呼称されることとなったらしいーの慣熟運転を行っていたため機嫌がいいのだ。

「そんな馬鹿な…と言いたいところだが可能性としては充分にあり得る。どちらにせよ現時点ではなんとも、だ。もともとデュエルに出場するときは俺たちがあっちに出向くことになる。だからそれに合わせて諜報部についてきてもらってその事を探ってもらうのもありだな」

 

彼らの団体はいくつかの業務を分担する部に分かれており、リョーヤ率いる技術部をはじめとして多数が存在している。その中の諜報部は文字通り裏工作や秘密裏の情報収集に特化していてこのような時には適任だ。

ただし諜報部が出向く時点でそれが物騒な事であるのは確定であるため、デュエルのためにNCCへ出向く彼らとしては誉められたことではないのだが。

 

*****

 

結局この時は、謎の機体の出所は掴めないままであった。

その機体はやがて全世界を脅かすことになる闇の軍勢のその尖兵であったのだが、それが彼らの知るところとなるのはかなり後であるー




読んでくださりありがとうございます。楽しんでもらえたら嬉しいです。

お知らせですが、現在既に書き溜めが切れかかってます。
よってここからは相当な亀更新になってしまうと思います。それでもいつかは完結へ持っていく所存ですので、その時までよろしくお願いします。

また、本作ではこの欄にて作中に登場した一部機体の設定を公開します。本編に直接関わる訳ではないので、興味のない方は飛ばしていただいて結構です。

ヴォルター/D
DはduelのD。その名の通り一対一の近接戦闘を想定して構築された装備パターン。両肩にヴァイパルを装備して防御力と小半径旋回性能を強化、両腕にヴォルター用に開発された片手剣「ユニコーン」を装備する。ユニコーンには小型の恒星機関が搭載されており、刀身を高周波振動させるのに用いる。
また両肩後部のハードポイントに推進ユニットしても機能する片刃の剣「タスク」を予備兵装として装備する。
また射撃兵装は装備していない。総じてとにかく近接特化仕様であり、一対一以外の状況なら僚機との連携が必須である。

※タスクは英語で「(象や猪の)牙」
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