ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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番外編です。

映画に沿って書きました。
安定の三万字超えどころか四万弱というポケモンリーグに届きそうなレベルの文字数です。


総合評価9000、お気に入り4500を突破しました。
ありがとうございます。

それと毎度毎度誤字報告してくださる方、ありがとうございます。


EX series
EX episode 『アルセウス 超克の時空へ』


『憎い』

 

 

 

力の渦巻く空間で、その存在はただ思いを募らせていた。

 

 

 

『何故、裏切った』

 

 

 

眠りにつく前に受けた最後の光景。その光景をひたすら夢として見続けていた。

 

 

 

『許さぬ…決して、決して許さぬぞ』

 

 

 

心の底から溢れ出る思い…憎しみが消えずに長い時間が経ってなお消えることなく渦巻いている。

 

 

 

『…時は満ちた』

 

 

 

胎動するかのように渦巻く力を纏い、長い時間閉じていた瞼に力をいれる。

 

 

 

『私を裏切り、滅ぼそうとする愚かな人間共…貴様らは、裁きを受けねばならない!』

 

 

 

その存在は目を開き、裁きを下すべく力が渦巻く空間で目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

シロナとカイムは自分達の身長よりも高く育ったとうもろこし畑の中を歩きながら目的地を目指して歩いていた。

 

「もうそろそろか?」

「ええ。ここまで来ればすぐそこよ」

 

シロナの言葉通り、畑の終わりを示すように光が漏れ出しているのが見える。

その場所に向けて足を進めていき畑を抜けると、そこには緑が豊かな街が広がっていた。

 

「すげえ。ここがミチーナか」

「ええ。歴史のある古い街よ。特徴としては、岩山に寄り添うように築かれた街並みね」

「なかなか珍しい造りだ。ここまで岩肌が露出している山にわざわざ街作るとは」

 

カイムの言葉の通り、ミチーナは岩石地帯が近くに広がっている場所であり、街の付近にのみ緑が自生している。尤も、街の付近のみとはいっても街そのものがかなりの広さであるため、緑がある地帯も相当な広さとなっている。

 

「岩石地帯が近いからあまり豊かそうには思えない印象だけど、植物がここまで自生しているのだから案外ベースが豊かな場所だったのかもしれないわね。だから人が住み着いたのかも」

「何にしても、さすがにちと疲れたな」

「そうね〜かなり歩いてきたもの。ちょうどいい川もあるし、少し休んでいきましょ」

 

シロナの提案にカイムは頷き、木陰に腰を下ろした。シロナもそのすぐ側に座り、ボールからポケモンを出す。カイムもそれに続いてポケモン達をボールから出した。

 

「ちと休憩だ。好きに遊んでていいぞ」

 

カイムの言葉にポケモン達は各々好きなように過ごし始めた。ほとんどが遊んだり組み手を始めている中、相変わらず昼寝を始めるムクホークにカイムは苦笑する。

 

「お前は本当に寝るのが好きだな」

 

ムクホークはカイムの言葉に小さく反応すると目を閉じて寝息を立て始める。

シロナはその横で靴を脱ぎスキニーの裾を折り曲げて足を出すと川に足をつけていた。

 

「冷たくて気持ちいいわね」

「いいじゃん。足の疲労回復には良さそうだな」

「カイムもどう?」

「ご一緒させてもらうかね」

 

カイムもズボンの裾上げを上げると、靴を脱いで足をつけた。程よい冷たさが足に広がり疲労が回復していく感覚が心地よかった。

 

「へえ、悪くない」

「でしょ?それにしても気持ちいい場所ね」

「ああ。随分と落ち着いた気候だから過ごしやすいな」

 

通り抜ける風は涼しく、湿気もあまりないためとても過ごしやすい気候だった。季節を考えればこれくらいの気温は普通だが、それ以上に風が気持ちよく感じられる。

 

「この街にある遺跡が今回の目的だよな」

「そうよ。何千年も前にできた遺跡。それが今回の目的」

「どんな場所なんだ?」

「珍しいわね。調べてきてないなんて」

「いきなり朝叩き起こして連れてきた奴はどこのどいつだっての」

 

今回、ミチーナに訪れるようになったきっかけはシロナが行きたいと思ったからという非常に突発的なものだった。たまたまここ数日はチャレンジャーの予約もなくジムトレーナー達もほとんど来ない予定だったからよかったものの、そうでなかったらわざわざ日程を調整しなければならない事態になっていた。

 

「ふふ、ごめんね。行ってみたかったし、ここ数日ジムはほとんど動かないことを知ってたから」

「もっと早く言えねーのかよ」

「思い立ったが吉日って言うでしょ?」

「先人の偉大な諺を盾にすんな」

 

呆れたように言いながらもついてくるあたり、シロナの行動力に慣れてきていることが窺える。

苦い顔をしながらも一度も『嫌だ』と言わなかった。つまりカイムもシロナと歴史ある街に来られること自体は嬉しいのだろう。元々興味はあったのかガイドブックに記載されていることはかなり熱心に読んでいる。

 

「ったく…ん?」

 

ふと水面を見ると、何かが流れてきていた。

よく見るとそれはスイカであり、水にぷかぷか浮いていたミロカロスとトリトドンがそのスイカを受け止めた。

 

「スイカ?」

「すいませーん!」

 

青い髪をした少年と少女が手を振りながら駆け寄ってくるのが見える。

 

「これ、貴方達の?」

「冷やしてたのが流れちゃったんです。すみません」

「そう。ミロカロス、拾ってあげて」

 

トリトドンと遊んでいたミロカロスはシロナの指示を聞くと流れてきたスイカを頭に乗せて少年達に渡した。

少年達はミロカロスに見惚れながらもスイカを受け取り、シロナに対して興奮気味に詰め寄ってきた。

 

「あ、あの!もしかしてチャンピオンのシロナさんですか⁈」

「あら、私を知ってるのね」

「もちろん!シンオウ地方でポケモンマスターを目指すなら貴女を知らない人はいません!」

「ふふ、嬉しいわね」

 

シンオウ地方チャンピオンなだけあり、やはりシンオウ地方でシロナのことを知らないトレーナーはほぼいない。現に旅に出る前のこの少年達ですらシロナのことを知っている。

 

「あの!よかったらバトルしてくれませんか⁈」

「え?」

「おれたち、来年旅に出るんです!だから今のおれたちがどこまでチャンピオンに通じるか試したいんです!」

「…そう」

 

真っ直ぐな眼差しに見つめられ、シロナは微笑む。

 

「いいわよ。相手してあげるわ」

「やった!あ、そうだ。こいつ、おれの妹なんですけど妹もトレーナー目指してるんです。そこのお兄さんと一緒にタッグバトルでやってもらえたりしますか?」

 

カイムは周囲を見渡すが、他に人は見当たらない。つまり少年は今の言葉をカイムに向けて言ったということだ。

 

「…そこのお兄さんってのは、俺のことか」

「はい!」

 

カイムは内心で苦い顔をした。どう考えてもパワーバランスがおかしい。片や旅に出る前のバッジを持ってすらいない少年少女。対してもう一方はチャンピオンに代理とはいえジムリーダーだ。手加減するにしても明らかにオーバーパワーだ。

 

「えっと…」

「いいわよ」

「おい」

 

手加減を考慮しても一方的なバトルになるのは目に見えている。それを危惧してカイムはシロナを止めようとするが、シロナは小さく笑いながら言った。

 

「大丈夫よ。手加減はするし、それに今のあの子達もまさか私に勝てるなんて思ってないでしょ?こちらからはほとんど攻撃しないから問題ないわ」

「…はあ、わかった。やるよ」

「うん。貴方とのタッグバトル、やってみたかったのよね」

 

シロナはカイムとのはじめてのタッグバトルができることが嬉しいのかとてもノリノリでバトルの準備をしていた。

 

「……振り回されてばっかだな、俺」

 

それを嫌だと思わない自分に少々呆れつつ、カイムもバトルの準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ始めましょう」

「お願いします!」

 

シロナはボールを手に取り、頭上へと投げた。

 

「お願い、ミロカロス!」

 

ボールからはミロカロスが飛び出し、美しい鳴き声と共に水を纏った。

それに続いてカイムもボールを投げる。

 

「いけ、トリトドン」

 

ボールからトリトドンが現れる。トリトドンはいつもと変わらない様子で頭をゆらゆらさせており、緊張感がまるでない。

 

「よし、いくぞヘラクロス!」

「いって!アゲハント!」

 

兄妹はそれぞれポケモンを繰り出す。どちらも虫タイプのポケモンだが、互いに自身のタイプでは弱点にはならないためタイプ相性はイーブン。だがそれ以上に互いのポケモンの練度に差がありすぎる。ここで仮にヘラクロスがインファイトをトリトドンに直撃させても残念ながら大したダメージにはならないだろう。

 

「ここまで差があるなら、逆にジムリーダーとしての腕の見せ所じゃない?」

「善処するよ」

 

どれだけ上手く手加減しつつ、相手の強いところを引き出せるか。これはそういうバトルだ。

そして兄妹にとってはどこまで食らいつけるか、という勝負になってくる。

 

「ヘラクロス、メガホーン!」

「アゲハント、銀色の風!」

 

同時に技が放たれ、ミロカロスとトリトドンに迫る。それをミロカロスが前に出て受け止めようとする。

 

「トリトドン、銀色の風に向けて水の波動」

 

水の波動が銀色の風を打ち消し、突破してきたヘラクロスのメガホーンをミロカロスがアクアテールで受け止める。本来ならそこで反撃するが、ミロカロスは反撃せずにヘラクロスを弾くだけで止めた。

 

「うわ!弾かれた!」

「こっちも消されちゃった!」

「まだまだいくわよ」

 

ミロカロスは水の波動を身体の周囲に纏うように展開し、そして相手の二匹に向けて放った。

 

「ヘラクロス!よけろ!」

「アゲハント、エナジーボール!」

 

水の波動を回避したアゲハントは空中からトリトドンに向けてエナジーボールを放つ。水・地面タイプのトリトドンには草タイプのエナジーボールは4倍の威力となるため妥当な判断だろう。

 

「冷凍ビーム」

 

トリトドンはエナジーボールに冷凍ビームをぶつけて相殺した。レベル差とタイプ相性を考えれば今の冷凍ビームは貫通してアゲハントに当たってもおかしくないが、空気を読んだトリトドンが上手く手加減をして相殺にしたのだろう。

 

「いっくぞー!ヘラクロス、インファイトだ!」

「ミロカロス、アクアリングを纏って受け止めて」

 

ヘラクロスのインファイトをミロカロスはアクアリングを纏った状態で受ける。タイプ一致の高威力技故にレベル差かなければ大きなダメージになるだろう。だが相手はレベル差が倍以上あるだけでなく耐久力に相当な自信のあるミロカロス。アクアリングの微々たる回復であってもすぐに全快してしまう程度のダメージだ。

 

「ええ⁈ダメージほとんど無し⁈」

「こっちも攻撃通らないよ!」

「ふふ、まだまだ相手できるわよ」

「ほれかかってきな」

 

シロナだけでなくカイム(知らない人)にも焚き付けるように言われた二人の子供はその言葉によりやる気を出し、二人に向かっていくようにポケモン達に指示を出した。

 

しばらく相手をして何をしても敵わないと悟り、少年達は疲れ切ってへたりこんだ。その間二人がヘラクロスとアゲハントに攻撃を加えることは一切なかった。

その後、冷やしていたスイカを共に食べて少年達と別れて二人は遺跡へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岩山を少し上り、湖のある場所についた二人は岩山の頂上にある遺跡を見上げた。

 

「あれが遺跡か」

「ええ、ミチーナの遺跡よ。神話ではアルセウスが目覚めて、そしてこの地に命を与えたことを讃えて建てられた神殿らしいわ」

「へえ、アルセウス関連か。アラモスタウンはディアルガとパルキアでここはアルセウスと。ギラティナだけねえな、こういうの」

「そもそもギラティナは神話にほとんど出てこないからね。まあ、その主な理由はギラティナ自身が反転世界…破れた世界で私たちの世界を支えてたからなんだろうけど」

「簡単に言えば、表に出てくることがほとんどなかったってことか」

「そういうこと」

 

頂上にある神殿は遠目にもかなり精巧な造りであることがわかる。だが長い年月が経っているが故か、かなり風化しているのがわかる。

 

「かなり風化してんな」

「場所が場所なだけにあまり修繕ができないんでしょうね」

「それもそうか」

「さ、行きましょ。あれが目的で来たんだし……ん?」

 

遺跡に向けて歩いていこうとしたところで違和感を感じる。先ほどまでと空気が変わったのだ。

ミチーナは全体的に柔らかくて過ごしやすい空気をしている。だが今この瞬間、空気が変わった。なんの前兆もなく、突然だ。それをカイムも察したのか周囲を見渡した。

 

「なんだ?」

「空気が、変わった」

 

突如、空間が歪み湖の水が吸い込まれ始めた。

 

「は⁈」

「何⁈」

「シロナ!」

 

空間に吸い込まれそうになったシロナの手を掴み、自分の元に抱き寄せる。そのまま空間の歪みの射程圏外に出てカイムはルカリオを出す。

 

「ルカリオ、波導弾」

 

歪みに向けて波導弾が放たれ、空間の歪みを打ち消した。一度そこで歪みは収まり周囲には静けさが広がった。

 

「…なんなんだよ」

「何かしら…でも、とても大きな力を感じた」

 

空間が歪む、ということはパルキアだろうかとシロナは考えたが、今感じた力はテンガン山で感じたパルキアの力とは異なるものだった。そうなると別の存在が関係していることになるが、それがなんなのかはわからない。

 

(パルキアよりも大きくて…それでなにか、怒っている?)

 

パルキアよりも大きい力となると、考えられるのは激昂したギラティナかアルセウスしか考えられないが、ギラティナがここで激昂する理由はないはず。そうなるとアルセウスしかなくなるが、神たるポケモンがそう簡単に姿を現すものなのかとシロナは疑問に思った。

 

「貴女達は…」

 

声が聞こえてそちらを見ると、金髪の女性と茶髪の男性が立っていた。二人とも似たような青い服を着ており、どことなく雰囲気が神秘的なように思える。

そしてそこで二人は抱き合ったままの状態だということを思い出し、慌てて離れた。二人きりの時は抱き合うなど日常的にやっているが、そういう恋人らしい行動は人前では『あまり』しないようにしている。

 

「まさか、チャンピオンですか?」

「え、ええ。そうです」

「……このタイミングでチャンピオンがミチーナを訪れるなんて…やはり運命か」

「えっと?」

 

事態がわからず混乱するシロナとカイムに二人は居住まいを正して向き直った。

 

「すみません、申し遅れました。わたしはシーナ。あの遺跡の守り人です。こっちはケビン。わたしと同じ遺跡の守り人です」

「ケビンです。お会いできて光栄です、チャンピオン」

 

シーナが差し出してきた手をシロナは握り返し、握手を交わす。

 

「はじめまして。知ってると思うけど、チャンピオンのシロナよ。こっちは私の助手のカイム」

「カイムです。一応トバリジムジムリーダーも兼業してます」

「ジムリーダー!腕が立つお二人なのですね」

「それで、さっきのは?」

 

挨拶を済ませたところでシロナは話を戻す。今は危うかったものの、カイムのおかげで事なきを得たが何かが起きていることは明白。シーナとケビンはそれを把握しているようだったため、まずは詳細を聞くことを先決とした。

 

「…今のは、恐らくアルセウスの力によるものです」

「アルセウス?なんで?」

「お二人は、以前シンオウ地方に起こった歪みについてご存知ですか?」

 

シンオウ地方に起こった歪み。それは恐らく、ディアルガとパルキアを使って世界を壊そうとしたギンガ団の行いについて言っているのだろう。

 

「あのテンガン山が起点となって、世界中に歪みが広がりかけた事件のことかしら」

「はい。その通りです。ご存知だったのですね」

「ご存知もなにも、私たちは現場にいました」

「ではあの一件を解決したのはシロナさんだったのですね!」

「うーん、私だけの力ではないけどね」

 

正確にはヒカリが一番の功労者だ。ヒカリの真っ直ぐな思いがギラティナに通じたからこそあの一件は解決できた。シロナ達だけでもどうにかなったかもしれないが、確実にヒカリが一番重要な役割を担っていたことは間違いない。

 

「…シーナ、お二人があの件の解決に関わっているってことは」

「ええ。やはりこの方が運命を変える人物なのかもしれないわ」

「えっと…?」

「すみません。ついてきてもらえますか?ちゃんと、詳しくご説明致しますので」

 

シーナの真っ直ぐな視線を受け、シロナとカイムは一瞬目を見合わせるがとりあえず詳細を知るためにもシーナとケビンについていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人に連れてこられたのは遺跡の地下だった。

この地下空間も遺跡とほぼ同じ時期にできたものらしいが、表にある遺跡と比較して壊れているところがほとんどなく、綺麗な状態で残っていた。

 

「遺跡の地下にこんな場所が…」

「ここは、一般公開されていないわたしたち守り人の階層です。だからガイドブックなどにも載ってないんですよ」

「そんな所に一般人入れていいのかよ」

 

チャンピオンとジムリーダーという組み合わせであるため一般人と言っていいのかは些か疑問ではあるが、少なくともこの遺跡に関わる人物ではない。だからそんな大切な場所に簡単に入れていいものかと心配したが、そもそも彼らの都合で連れてこられたためそんな心配は無用である。

 

「構いません。寧ろ、これからこちらがお願いする立場になるためこの程度安いものです」

「そのお願いとさっきの空間の歪み…関係があるのよね」

「…はい」

 

シーナが扉を開くと、中は簡素ながらも広い部屋になっていた。奥には何か祭壇のようなものがあり、更には小さな滝のように水が流れ落ちる泉のようなものまである。

 

「まずは、こちらをご覧ください」

 

シーナに示された場所を見ると、そこには五つの球体のようなものが吊り下げられたオブジェがあった。

 

「…なんだ、これ」

「これは、時空儀ね」

「さすが考古学者としても名高いチャンピオン。ご存知だとは」

「なんだよ、時空儀って」

「時空儀は、私たちの住む世界の時空の状態を読み取る測定装置よ。これを使えばシンオウ地方のどこに歪みが現れるか、そして何故歪みが発生したのかが大体わかる優れものよ」

 

以前、同じものをシロナは見たことがあった。シロナが見たのはレプリカであり実際に時空の測定を行なっているものではなかったが、原理と見た目は覚えていた。

 

「じゃあ2人がテンガン山での一件を察知したのは…」

「はい。この時空儀が、テンガン山で歪みが起こっていることを察知して、わたしたちもその場に向かったからです。尤も、あくまでテンガン山の外観が見える場所にいただけですが…」

「そういうことね、貴女達があの件を知ってたのは」

 

あの事件の詳細を知っているのは、シロナ、カイム、ヒカリの他にギンガ団幹部と国際警察のハンサムくらいのはず。だが二人があの事件を知っていたことにシロナは違和感を覚えていたが、時空儀で観測して現場を見に行ったということを聞いて納得した。

一方カイムはそんなことを気にする素振りを見せず、時空儀に見入っていた。

 

「…なるほど、この青い球体が『時間』…つまりディアルガの世界でこっちのピンク色のが『空間』、パルキアの世界。この小さめの緑の球体が破れた世界…ギラティナの世界を示していて、この一番下のが俺らの世界」

「神話を学んできただけあるわね。この時空儀が何を示しているかすぐに理解できたじゃない」

「色と位置関係を考えりゃ、察しがつく。そんで、この一番でかいやつが…」

「はい。アルセウスの世界です。そしてそのアルセウスが今、目覚めようとしている」

「平然と言ってるけど、あんたかなり突拍子もないこと言ってる自覚ある?」

 

神話では、アルセウスは宇宙の始まり、つまり全ての始祖となる存在だと記載されている。そしてその神ともいえる存在が目覚めるといきなり言われてもそれを『はいそうですか』と信じられる人間がどれだけいるだろう。

カイムもシーナの言葉が嘘だとは思っていないが、さすがに鵜呑みにできるほど簡単な話でもない。

 

「わかってます。なのでまず順を追って説明します」

 

シーナがケビンに視線を向けると、ケビンは頷いてリモコンを操作した。すると泉に注がれる水の形が変化し、壁のような形に変化した。その水の壁にプロジェクターで映し出されたのは、壁画だった。

 

「これは?」

「これからお話するのは、この街に伝わる言い伝えです」

 

シーナは街の言い伝えを話し始める。

遥か昔、このミチーナにむけて巨大な星のカケラが落ちてきたという。その星のカケラはとても大きく、世界の全てを滅ぼしかねないほどのものだった。

だがその星のカケラをアルセウスは自らの持つ力を使い、世界を守った。その代償としてアルセウスは力を使い果たし、死にかけてしまう。

そこでミチーナの街の男、ダモスが散らばったアルセウスの纏うプレートを捧げると、アルセウスはみるみる回復していき、息を吹き返した。

アルセウスは自分を救ったダモスへの恩返しとして、この荒れ果てたミチーナを自らの命を使って創り出した『命の宝玉』の力で豊かな土地へと変貌させた。この命の宝玉で土地を豊かにするが、その代償にアルセウスは限りある命となってしまう。だから太陽が月に隠れる日、命の宝玉をアルセウスに返すことを約束して、アルセウスはその日まで眠りについた。

 

そして来る日。

 

宝玉を返してもらおうとミチーナを訪れたアルセウスは、ダモスの裏切りによって攻撃された。

それに怒ったアルセウスは残された力を使ってこの神殿を破壊し尽くし、そして傷を癒やし力を蓄えるために長い眠りについた。

いつか来る裁きの日まで、その憎しみを絶やすことなく募らせながら。

 

「…これが、この街に伝わる言い伝えです」

「……そう」

 

この話を聞いて何となく先程の事態が何故起こったのかわかった。つまりはアルセウスの傷が癒え、力が溜まって目覚めたからこの土地を襲おうとしている。先程の歪みはその前兆というわけだ。

 

「アルセウスがこの土地…いえ、人間に対して憎しみを抱く理由はわかりました。ならまず、その命の宝玉をアルセウスに返却すればいい。そして返却するだけなら私たちの助けは必要ないはず。何故私たちを頼るのですか?」

 

アルセウスは人間に対して憎しみを抱いている。もしかしたら、命の宝玉を返すだけでは怒りが収まらない可能性は大いにあるが、何にしてもまずはその宝玉を返却しないことには始まらない。

そして返すだけならシロナ達の助けはいらない。もし命の宝玉の在処が不明で共に探して欲しいというなら話はわかるが、そういうわけでもなさそうだとシロナは考えていた。

 

「言い伝えの中に、予言にあったんです。『黄金の髪を携し強き人、その定めを変える人物也』という予言が」

「黄金の髪に強き人。なるほど、シロナが当てはまるな」

「私が…?」

「出会ったばかりのわたしたちにこんなことをいきなり言われても困惑すると思います。でも、それでも…わたしたちの街を救うために、力を貸して欲しいのです。お願いします」

 

真摯な態度で頭を下げてまで頼み込んでくる人を相手に断れるほどシロナは薄情な人間ではない。シーナの熱意に負けてシロナはその頼みを聞くことにした。

 

「わかりました。できる限りのことはしましょう」

「ありがとうございます!」

「それで、アルセウスはいつ現れるのですか?タイムリミットがどれくらいあるのかでできることも変わると思うの」

「予言では、アルセウスは次の皆既日食の時に現れると言われています」

「おいおいおいおい、正気かよ」

 

シーナの言葉を聞いてカイムは思わず声を上げてしまった。

 

「…まさか」

「その皆既日食、今日だよ。そろそろ始まるんじゃねえか?」

「じゃあ、私たちができることは」

「ほぼない。例の命の宝玉とやらを返す以外にできることは無いに等しい」

 

まさか今日がその日食の日だとは思ってもいなかったシロナは苦い顔をする。時間さえあれば何かしらの形で対策が取れただろうが、事態はそう上手くは運ばないらしい。

 

「…時間がないことを嘆いても仕方ないわね。シーナさん、その命の宝玉って今どこにあるかわかっていますか?」

 

まずは何にしても返すものが現存していなければ話にならない。

シーナはシロナの言葉を聞いて祭壇のような場所に近づき、その一番上の段に鎮座していたものを取り出してそれを開いた。

するとそこには、緑色に輝く美しい宝玉が納められていた。

 

「これが、命の宝玉です。私たち守り人は、これを代々守ることを務めとしてきました」

「代々?つまり、守り人は一族で受け継がれていくものなのね」

「はい。そして、私の先祖は言い伝えにあったダモスです」

「…なるほど、罪人の子孫か。肩身が狭そうだ」

 

この二人は遺跡の管理をしているが、ほとんど街には降りないらしい。単純に常に見張ってなければならないからだと思っていたが、先祖が言い伝えにある罪人であるなら街に出向きにくいのもわかる。

 

「私は、先祖の過ちを正して、胸を張って街にいけるようにしたい。だからこの返却を、必ず成功させたいんです」

「貴女の熱意、伝わったわ。私たちもできる限りのことを手伝うからなんでも言ってほしいわ」

 

過去がどうであれ、先祖の過ちを正したいというシーナの思いは本物。それを感じ取ったシロナは自分を頼ってきてくれたシーナの想いに応えたい。そう思った。

 

「…あー、すまん。さっきから茶々入れまくってるところさらに加えることになるんだが…」

 

いい雰囲気のまま行動に移ろう、と思った所でカイムが少し気まずそうに手を挙げた。

 

「どうしたの?」

「いや…その命の宝玉についてなんだが」

 

カイムはシーナの持つ命の宝玉を指差しながら言った。

 

「それ、本当に命の宝玉なのか?」

 

カイムの言葉にシーナとケビンは表情を歪める。

 

「…はい。これは本当に命の宝玉です」

「あーえっと…伝わってないようだからもっとはっきり言うな」

 

シーナの言葉にカイムは更に気まずそうな表情をして言う。

 

「あんたが持ってるその宝玉、本物の命の宝玉(・・・・・・・)なのか(・・・)?」

 

それを聞いたシーナとケビンは一気に表情を険しくした。

 

「何が言いたいんですか⁈これは私たちの一族がずっと、長い時間守り続けてきた大切なものなんですよ⁈それが偽物だとでも言うんですか⁈」

「シーナさん、落ち着いて」

 

激昂したシーナをシロナは手で制し、カイムに視線を向けた、

 

「カイム、どうしてそう思ったのか教えてくれる?」

 

カイムは卑屈で疑い深いが、それはあくまで自分の行いについてのみだ。他者に疑いを向けることはなにか確信がある時にしかしない。だからシロナは今回も何か確信があってのことだと考えた。

 

「…アルセウスは史実の通りなら、全てのタイプの力の元となるものを持ってて、それは各タイプのプレートだ。プレートはそれぞれのタイプのエネルギーが結晶化したものがプレート状に構成されたもの。俺が見たのは現存するプレートだが、アルセウスが持っているプレートは相当エネルギーの純度が高いはず。それを元に作った宝玉なら、結構なエネルギーを感じるはずだ」

 

カイムは大学在籍時代に炎タイプのエネルギーが結晶化した『火の玉プレート』の現物を目にしている。触れても大丈夫なものだったが、そのプレートからは確かにエネルギーを感じた。同様にシロナもプレートは何枚か目にしたことがあり、それらからはちゃんとエネルギーを感じた。

だが目の前にある宝玉はなんのエネルギーも感じない。言うなればただの宝石にしか見えない。何枚かのプレートを組み合わせて創り出したものからなんのエネルギーも感じないなんてことはあるはずがないとカイムは考えた。

 

「その宝玉からはなんのエネルギーも感じない。そんなものがミチーナという街を豊かにした命の宝玉ですと言われても、悪いが信じられん」

 

シーナは更に表情を歪めるが、ケビンははっとしたような表情になる。実際目の前の宝玉からはなんのエネルギーも感じない。彼らは先祖代々『これが命の宝玉』だと信じて守ってきた。酷なことを言っている自覚はあるが、これだけは必ず伝えなければならないと考えてカイムは言った。

 

「…わたしは、わたしの親族を信じます!わたしの一族は罪を犯しましたが、それを雪ぐためにこの人生を費やしてきた!この思いが貴方にわかりますか⁈どれだけわたしがこの日のために心身を費やしてきたのか!わたしは…これが命の宝玉だと信じ、アルセウスに返却します!」

 

シーナの激昂にカイムは苦い顔をして目を逸らし、内心で舌打ちをした。

その瞬間、外で轟音が響いた。一同はそれがアルセウスの攻撃であると瞬時に察した。

 

「アルセウスか!」

「ケビン、行きましょう!わたしたちが命の宝玉をアルセウスに返却するのです!」

 

シーナは命の宝玉(と思われるもの)を持って走り出した。

だがケビンはその場に留まり、シロナとカイムに目を向けた。

 

「…申し訳ない。シーナはこの務めに対して並々ならぬ思いを込めているんだ」

「わかってる。無礼を承知で言ったんだ。あの態度をされても仕方ない」

「……だが、実際カイムさんの言ったことは正しい。我々はあれが命の宝玉だと、盲目的に信じていた。返却せず、約束を反故にした過去がある以上、あれが偽物である可能性を考慮するのは至極真っ当なことだ」

 

どうやらケビンにも心当たりというほどのものではないが、合点がいくところはいくつかあったらしい。だからこそこの態度なのだろう。

また、シーナのカイムへの態度も仕方ない。

 

「俺への態度は別に構いません。今は…」

「シーナさんのもとへ急ぎましょう」

 

三人はシーナの元へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外では白いポケモンが隕石のようなものが降り注がせて遺跡を破壊していた。遺跡だけではない。遺跡の下に広がる街も巻き込まれて破壊されていた。

 

「アルセウス!止めてください!」

 

シーナの言葉にアルセウスは止まる。

 

『…お前は?』

「わたしは、ダモスの子孫です。わたしの先祖が貴方に酷いことをした……それを、今ここでお詫び申し上げます」

『ダモスの、子孫だと?』

 

シーナは手に持った器を開き、宝玉を露にした。その器を近くの柱の残骸の上に安置し、アルセウスに向き直る。

 

「命の宝玉です」

『なんだと⁈』

「これを、今ここで貴方にお返しします!」

 

シーナの手は震えていた。アルセウスの覇気による怯えではない。先ほどカイムが言っていた言葉の真偽が問われる瞬間であることに怯えていた。自分の両親だけでなく先祖代々守り続けたものが偽物だった場合、自分の先祖はアルセウスを騙しただけでなく子孫である自分達も騙したことになる。アルセウスを裏切っただけでも大罪だというのに、そこにさらに嘘を塗り重ねたことと、その大罪人の血が自分にも流れているということに対して怯えていたのだ。

 

(わたしは、わたしの先祖を信じる。これは、本物の命の宝玉だと!)

 

決意を固めてアルセウス向き直る。

 

「わたしたちは貴方にこれを返すために守り続けてきたんです」

 

先祖は大罪を犯したが、これ以上の罪は犯していない。そう信じてアルセウスに宝玉を差し出した。

だがこのシーナの決意は次の瞬間打ち砕かれる。

 

『これが命の宝玉だと?笑わせるな!』

 

アルセウスは前足を振り下ろして宝玉を粉々に砕いた。

 

「なっ…!」

『命の宝玉は私の分身。この程度で砕けるものか』

「そん、な…」

 

恐れていたことが、カイムの言っていたことが正しかったと証明されてしまった。その事実に絶望し、シーナはへたり込んでしまう。

 

『人間共には、もう騙されぬ』

 

アルセウスは破壊光線をシーナに向けて放った。

その瞬間、背後からモンスターボールが飛んできて中から黒い影が飛び出した。

 

「ブラッキー!まもる!」

 

ブラッキーが作り出したバリアが破壊光線の軌道をずらし、シーナに当たることを防いだ。

 

「シーナ!無事か?」

 

へたり込むシーナにケビンが駆け寄るが、シーナの目は絶望に打ちひしがれており、瞳は光を灯していなかった。

 

「ケビン…あの宝玉…偽物だったんです……そんな…わたしの先祖は…わたしは…!」

「偽物…カイムさんの言葉が、正しかったのか…」

「ケビン…わたしは、わたしはどうすれば…」

 

ケビンに縋りつき涙を流すシーナを再びブラッキーがまもるのバリアで防いだ。

 

「悪いけど!絶望するのは他所でやってくんない⁈」

 

なんとも空気の読めない発言ではあるが、これほどの威力を相手にするとなるといくら耐久力が凄まじいブラッキーといえど長くは保たない。せめて回避できればいいのだが、絶望で打ちひしがれるシーナを放っておけるほどカイムは薄情にはなれない。

 

「ルカリオ、波導弾!」

 

このままでは保たないと判断したシロナは、ルカリオの波導弾で破壊光線の軌道を変える。

そしてへたり込むシーナにシロナは背中を叩いて顔を見ながら言った。

 

「絶望は後!今は、アルセウスを鎮めないと!」

「で、でも…わたし…」

 

シーナは俯いたまま顔を上げない。見かねたシロナはシーナの顔に手を添えて自分の方に無理やり向けさせた。

 

「貴女が守ってきたのは宝玉だけじゃない。この遺跡と街も守ってきたのでしょう⁈それがこのまま無くなっていいの⁈本当に貴女がやってきたことが無駄になるわよ!」

 

シーナは眼下に広がるミチーナの街を見る。緑が広がる美しい街。そこに瓦礫や岩などが降り注ぎ、美しかった街を破壊していく。今ここで諦めたら、この街だけでなく全てが破壊され、そしてシーナがやってきた全てが無駄になってしまう。

それだけは嫌だ。そう思ったシーナに再び弱々しいが光が灯った。

 

「このまま終わっていいの⁈カイムに卑屈なこと言われたままで終わってもいいの⁈」

「俺のこと言う必要ある?」

 

攻撃の軌道を逸らさせながら僅かにカイムはツッコミをいれる。

そしてその背後でシーナは震える足に力を入れた。

 

「…それは嫌。わたしがやってきたことは、無駄なんかじゃない…わたしは、まだ諦めない!」

「なら立ちなさい!貴女の足で立って、アルセウスに向き合うの!」

「はい!」

 

シロナの言葉にシーナは立ち上がる。足は恐怖と消えない絶望で震えているが、それを気合と意地で抑え込みアルセウスと向き合った。

 

「わたしの心を、見てください!」

 

シーナは祈るように手を組み、自らの持つ異能を発動した。

 

「超克せよ、時空の定めよ!」

 

自らの心をアルセウスへと打ち明ける。

だがアルセウスからは凄まじいほどの怒りを感じた。そして怒りが強すぎてアルセウスはシーナの心を見ることはなく、シーナは弾かれてしまった。

 

「あっ!」

 

弾かれたシーナにケビンは近寄り手を貸して立ち上がらせた。

 

「シーナ、大丈夫か?」

「アルセウスの怒りが強すぎて…わたしの心を見てくれない…」

 

アルセウスは再び額に力を集め始めた。

 

『裁きを受けるがいい』

 

放たれた裁きの礫は空へと放たれ、そして隕石のように降り注いできた。

 

「やべえ、これは防げねえ」

 

咄嗟に退避に移ろうとしたが、破壊範囲を考えると良くて軽傷、悪ければ重傷になるだろうと頭の中で考えたカイムはシロナを庇うように抱きしめた。

だがその瞬間、空間に穴が空きそこから二体のポケモンが飛び出してシロナ達を守った。

爆煙が晴れてその姿を見ると、そこにいたのはディアルガとパルキアだった。

 

「え?」

「ディアルガ、パルキア…来てくれたんですね!」

「どーなってんだ?」

「彼らが、世界の危機にかけつけてくれたんです!」

 

そんな都合よく来てくれるものなのかと考えもしたが、実際来てくれているからそうなのだろうとカイムは納得した。

だが神と呼ばれるポケモンがいてなお、状況は悪いまま。アルセウスはディアルガとパルキアを生み出した存在。神であろうとさらに上位の存在には歯が立たない。

 

現にアルセウスはディアルガとパルキアの攻撃を完全に無効化し、二体に多大なダメージを与えている。

 

「ここも危険だ。一度下がらないと俺らも巻き込まれるぞ」

「二人でもダメなら、三人です!超克せよ、時空の定めよ!ギラティナ、力を貸してください!」

 

シーナが祈りを捧げると、突如空間が歪み影の中からギラティナが飛び出して四人に迫ってきていた攻撃を防いだ。

 

「…もう何も驚かん」

 

平然と伝説のポケモンを呼び出すシーナのことを苦笑しながらカイムは見た。

伝説のポケモン三体はアルセウスに向けて攻撃を行うが、アルセウスは命の源の力で全ての攻撃を防ぐ。 

 

「ギラティナを呼び出してアルセウスの足止めすることはいいけど、彼らでもアルセウスの相手を続けることは厳しいわ。結局アルセウスに命の宝玉を返さないと解決しない」

「…はい、その通りです。でも、本物の命の宝玉がどこにあるのか私にもわからない。どうすれば…」

「危ない!」

「やべっ⁈」

 

アルセウスの攻撃で吹き飛ばされてきたディアルガの巨体が近くに叩きつけられ、カイムはシロナの、ケビンはシーナの腕を引いて事なきを得た。

 

「あっぶな」

「彼らの力でもダメなのか?」

 

どうするか考えを巡らせたシロナは先程シーナから聴いた伝承を思い出す。

 

「…シーナさん。命の宝玉って確か草、水、土、雷、龍の力が込められた命の源を基につくったのよね?」

「え?あ、はい。伝説ではそう伝わっています」

「土…つまり地面タイプのエネルギー…その地面タイプのエネルギーを持たないってことは、もしかして」

 

シロナは何かを考えついたのか、ボールからトゲキッスを繰り出した。そしてアルセウスに向けてトゲキッスに指示を出した。

 

「トゲキッス、電磁波!」

 

トゲキッスの放った電磁波はアルセウスに直撃して身体の自由を奪った。ダメージこそないものの、アルセウスは麻痺して行動が鈍くなる。

 

「効いた⁈どうして…」

「やっぱりね。電気タイプの攻撃は、地面タイプには無効化される。けれど逆に言えば地面タイプ以外には無効化されないの。アルセウスはきっと電気タイプの技を地面タイプのエネルギーで無効化していたのでしょうけど、その地面タイプの技を司るプレートを命の宝玉に使っているから電気タイプの技が防げないんじゃないかって考えたの」

「頭の回転滑らかすぎんか」

「半分賭けだったけど、上手くいってよかったわ」

 

これで多少はディアルガ達がやりやすくなったはずだが、攻撃が効かない以上足止めにも限界がある。結局は根本をどうにかしないとこの事態は収束しない。

 

「時間は稼ぐ。悪いが、解決策をどうにか考えてくれ」

「頼むわ。トゲキッス、カイムの援護をしてあげて」

 

カイムはパルキアの元へと走り出した。正直、無謀もいいところだが、真正面からぶつかる以外の戦いをしていない彼らに知恵を貸すくらいはできるだろう。

残された三人は時間を稼ぐカイム達のためにも早急に解決策を見つけ出さねばならないが、シロナ達にもできることは限られる。

 

「結局、命の宝玉を返して誠心誠意謝罪する以外ないわよね」

「はい…でも、その肝心の宝玉がどこにあるのか…」

 

遺跡のどこかにあるのだろうが、遺跡そのものはかなり広大な敷地をほこる。故に今から手がかりもなく探すとなると相当な時間が必要になる。残念ながら今はそのような悠長なことをしている余裕はない。

 

「…カイム」

 

シロナは必死に走り回りながらパルキアとギラティナの援護を務めるカイムに目を向ける。今はカイムの機転とそれに応えるパルキアとギラティナのおかげでどうにか均衡を保てているが、それも時間の問題。どう頑張っても長くはもたない。

そこでシロナは倒れており立ち上がろうとしているディアルガに目を向けた。

 

「くそ…時間さえあれば、宝玉を探しだすことだってできたのに…」

(…時間?)

 

ケビンの言葉に反応したシロナは、立ち上がろうとしているディアルガに目を向けた。

 

「ディアルガは、時間を司る神……時間…過去……そうだ」

 

何かを思いついたシロナはディアルガに向けて声を発した。

 

「ディアルガ!貴方は時間を司る神なのよね⁈じゃあ、もしかして私たちを過去に飛ばす(・・・・・・)こともできるんじゃないの⁈」

「過去に?どういうことですか、シロナさん!」

「私たちの目的は『アルセウスに命の宝玉を返すこと』。でもその返却するのは必ずしも現代である(・・・・・)必要はないわ(・・・・・・)

「そうか!ディアルガの力で過去に行ければ、アルセウスに命の宝玉を返せる!」

 

今ここに無いのなら、過ちが起きる前の時間まで戻り、そしてその過ちをなかったことにすればいい。尤も、それはディアルガがいて初めてできることだが、ディアルガ達と心を通わせられるシーナがいればそれも可能だ。

 

「ディアルガ、お願いします。わたしたちを過ちが起こるよりも過…」

 

シーナがいい終わる前に轟音が響き、土煙が舞い上がる。

 

「きゃっ!」

「カイム!」

 

シーナ達のすぐそばにカイムは吹き飛ばされてくるが、それをバシャーモとルカリオが受け止めた。

 

「いっ…て…」

 

やはり人間の身で神々の戦いに首を突っ込むのは無理があったのか、既に限界なのが目に見えてわかる。

 

「カイム…」

「なんか、思いついた?」

「はい。過去に行って、過ちを正すんです」

「何言ってんのかさっぱりだが、とりあえずどうにかなりそうなんだな?」

 

カイムは出血している左腕をガーゼで抑え、布で固定することで止血を施すと立ち上がった。

 

「じゃあ時間は稼ぐから、それさっさとやってきてくれ。一応言っとくが、長くはもたんぞ」

「カイムさん…」

「あー…えっと、まあなんだ?頼んだ」

「いや、その役目は僕が引き受ける」

 

だがカイムを遮るようにケビンはアルセウス達に向き合った。

 

「ケビン⁈」

「この土地については、僕の方が詳しい。それにカイムさんはもうこの激しい戦いにいられるほど万全じゃない。だからより時間を稼ぐなら僕がこの時代に残った方がいい」

「でも…」

「シーナ、わかっているだろ。過去の過ちを正す前にこの時代が破壊され尽くしてしまったら、何をしようと詰みなんだ。だから少しでも長くこの時代で時間を稼ぐ必要がある。そしてそれができるのは、僕だ」

 

シロナでもできるように思えるが、パルキア、ギラティナとの連携を大事にするのであれば、土地の特色をよく理解しているケビンの方が適任だろう。

シーナもそれはわかっている。だがそれでも、相方に危険な目に遭ってはほしくなかった。

 

「……わかりました。でも、無理はしないで」

「わかってる。そっちも頼むよ、シーナ」

 

二人の話がまとまったところで、シロナはカイムに手を貸して立ち上がらせた。

 

「カイム。貴方も過去にいきましょう」

「ここにいるよりは役に立てるだろうし、いくよ」

 

最低限の治療を終えたカイムの手を取り、シロナはディアルガに向き直った。

 

「シーナさん、お願い」

「はい。ディアルガ、わたしたちを過去に送ってください!」

 

シーナの思いを受け取ったディアルガは頷くと、咆哮を上げて三人に時の力を纏わせた。三人はその力に身を任せ、過去へと飛んだ。

 

「頼むぞ」

 

残されたケビンは自分のポケモンを出すと、アルセウスを足止めするために走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時の回廊を渡り、三人がたどり着いたのは過去のミチーナだった。

 

「ここは、ミチーナ」

「遺跡が新しい…過去に辿り着けたのね」

 

周囲を見渡すと、遺跡そのものは綺麗に残っているがどことなく暗い。

夜なのだろうかとシロナは空を見上げる。そこには月に半分以上隠れた太陽があった。

 

「皆既日食!」

「じゃあこの時間は…」

「アルセウスに命の宝玉を返却する日か」

 

突如空に裂け目ができて、そこからアルセウスが現れた。アルセウスは遺跡に降り立ち、出てきた男を見据える。

 

『命の宝玉を返してもらう』

 

出てきた男は杖を掲げて、その杖の先端を開いた。するとそこには緑色に輝く宝玉が納められていた。

 

「あれは、命の宝玉!」

「なるほど、偽物とは偉く違う気配だが、偽物は偽物で相当上手く造られてたな。見た目だけはそっくりだ。騙されても仕方ないな」

「それで、どうするの?」

「このままいけば、歴史通りになってしまう。だからわたしたちが介入することで、歴史を変えないと…」

 

しかし今ここで飛び出していったとしても、向こうには衛兵もいる。不審者として捕らえられるのがオチだ。

 

「多分、あの杖を持ってた奴がダモスだよな?」

「恐らくそうかと。でも、どうすれば…」

 

そうこうしているうちに男はアルセウスを伴って遺跡内部へと入っていってしまった。

 

「とにかく追いましょう。ちゃんと現場を見て、どうしよもないと判断したらディアルガにもっと過去に連れて行ってもらいましょう」

「はい」

 

シロナの言葉に頷いたシーナは先導してアルセウス達を追った。

だがその中で一人、カイムだけは違和感を感じていた。

 

(あの男…なんだ?なんか変だったが…)

 

カイムはアルセウスを連れていった男にどことなく違和感を感じていたが、ここで考えてもわからないとその違和感を押し殺してシーナの背中を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

シーナに連れられて大広間の上部にたどり着くと、アルセウスが電撃による集中砲火を受けていた。

 

「ああっ!」

「アルセウスが…」

 

シロナが視線を巡らせると、二人の男が立っているのが見えた。片方は赤い髪に王冠のようなものを被っており、もう一人は杖を持っていた先程の男だった。

 

「宝玉はあそこね」

「だが今からじゃ…」

 

アルセウスは憎しみを目に滾らせた。

そして力を額に貯め始める。

 

『許さん、許さんぞ!人間共ォ!』

 

裁きの礫が神殿を破壊していく。その攻撃でアルセウスに攻撃していたポケモン達は逃げていき、二人の男も逃げ出した。

アルセウスの攻撃の余波はシロナ達がいる場所も破壊した。

 

「まずい!」

「やべえぞ!」

「ディアルガ、わたしたちをもっと過去に飛ばして!」

 

シーナは祈りをディアルガに捧げるが、その瞬間足場が崩れ落ちる。咄嗟にカイムはシロナを抱き寄せ、シーナの腕を掴んだ。

 

「ディアルガ!」

 

次の瞬間、三人は時の回廊へと飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

シロナは目を開くと、そこはミチーナの神殿だった。

空を見上げると太陽は欠けていない綺麗な状態で浮かんでいる。

 

「…太陽が欠けてない。さっきよりもさらに過去ね」

 

周囲を見渡しても神殿は綺麗な状態で残っている。アルセウスが暴れる前なのは確かだろう。まだどうにかできるくらいの過去なのはわかる。希望が見えてきたとシロナは少しだけ内心が明るくなる。

 

「過去なのはいいけど、そんな単純なものじゃ無さそうだ」

 

カイムの言葉通り、周囲には衛兵らしき人々が刺又を持って三人に近づいてきた。

 

「なんだお前ら!」

「怪しい奴らめ!手を上げろ!」

 

衛兵達は三人を囲んでジリジリと寄ってくる。

シロナはどうするかと内心で悩む。ここでガブリアスを降臨させれば、この場は切り抜けられる。だがそうした場合、下手したら死人が出る可能性がある。それだけでなく目的であるアルセウスを鎮めることに支障が出かねない。悩んだ末、シロナは大人しく手を上げた。

 

「何事だ」

 

声が丘の上から聞こえ、そちらに視線を向けると赤い髪の男がドータクンを伴って立っていた。

 

(あの男…!)

 

その男はアルセウスを連れてきていた男の側にいた者だった。

 

「ギシン様。怪しい者達が…」

「ふむ…確かにこの地の者では無さそうだ。お前たち、どこから来た。何が目的だ」

 

ギシンと呼ばれた男に対してシーナは答える。

 

「わたしたちは、未来からアルセウスを止めに来ました!」

(おいおいおいおい、馬鹿正直に言う奴がいるか?)

 

この時間軸の人間からしたら、『この瞬間』は『現在』であるため『未来から来た』などと言われても到底信じられるものではない。

加えてアルセウスのことを下手に言うと、場合によってはアルセウスの事件が起こるまで拘束される可能性もあるのだが、生粋の善人であるシーナはそういう可能性を考慮していないようだった。

だが生粋の善人だからこそ、説得するときの言葉に意思と説得力が生まれる。シロナとカイムはともかく、シーナだけでも事件の首謀者と思われるダモス、又はダモスに近しい者と話し合いの場につけることができれば勝機はある。

 

「未来から?」

「わたしたちは、これから起きることを全て知っています!お願いです。話を聞いて下さい」

 

ギシンは目を細め、僅かに思案する。その数瞬間の思案の後、ギシンは口を開く。

 

「……いいだろう、話を聞こう。ただし、お嬢さん。貴女だけだ」

「なっ⁈」

「ドータクン、催眠術」

 

ギシンの傍らに浮かぶドータクンがシロナとカイムの目の前に移動してきた。

ここで拘束されるのはまずい、と思ったシロナは咄嗟に腰のモンスターボールへと手を伸ばそうとしたが、カイムがその手を掴んで止めた。

カイムを見ると、カイムは何も言わずにシロナに視線を移した。言葉はなかったが、何かしら考えがあることを悟ったシロナは何もせずドータクンに目を向けた。

ドータクンの目から光が発せられ、それを見たシロナとカイムの意識は暗闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が戻ると、目の前にはカイムの顔があった。

 

「あ…カイム」

「大丈夫そうだな」

 

シロナは起き上がると、周囲を見渡す。岩壁に囲まれており、光が差し込んでいる格子を見てわかるようにここが地下牢だとシロナはすぐに察した。

 

「地下牢、よね」

「ああ。先客がいるみたいだが」

「え?」

 

カイムの視線を追うと、暗闇でわかりづらいが男が座っているのが見える。

その男にシロナは見覚えがあった。

 

「貴方は…あの時の」

 

アルセウスを伴い、広間へと導いた男だった。

 

「私を知っているのか?」

「ええ、まあ…ちょっと訳ありで」

 

シーナのようにいきなり未来から来た、と言うのも憚られたシロナは適当に濁した。

そのシロナの前に立ち、カイムは男に向けて話し始めた。

 

「こんな場所にいるんだ。互いに訳ありなのは百も承知している」

「ああ…」

「だがこちらも色々あってな。そっちの事情はある程度把握している。だからさっさと話を進めよう」

 

カイムは男の前に膝をついて視線を同じ高さにして話し始めた。

 

「あんたが、ダモスで合ってるか?」

「ああ、私がダモスだ」

「……そうか」

「やっぱり貴方がダモスなのね」

「君たちは、なにを?」

 

ダモスは二人が何を言っているのかわからず混乱したような声を上げた。だがそんなダモスを放置してカイムは話を続ける。

 

「こっちの話は後でする。まずはそっちの情報を聞かせてほしい」

「……そっちも、ちゃんと話してもらうからな」

「ああ。そんで次だが、あんたはアルセウスを裏切る気か?」

「私がアルセウスを裏切るなどあるものか!」

 

ダモスは怒りに満ちた声を上げながら立ち上がる。声と同様にその表情も怒りに染まっていた。

シロナはその様子を不安そうに見ていたが、カイムは動じることなく話を続ける。

 

「アルセウスは、私たちの恩人だ!裏切るなど…絶対にあってはならない!」

「伝説の通りなら、この地を荒野から豊かな土地に変えた。それを変える時に自分の命を使って宝玉を作ったんだったな」

「ど、どうして君がそれを…」

「何度も言わせんな。こっちの事情は後だ。あんたが裏切るつもりがないってことは、別の奴が裏切る気なんだな。その首謀者は…ギシンって奴か」

「っ⁈」

(当たりか)

 

正直首謀者については完全に直感だったが、ダモスの表情を見たところ当たりだったらしい。あのギシンという男からは嫌な気配を感じたためヤマカンを張ってみたが、『人を疑う』ということにおいてはやはりカイムは見る目がある。

 

「…なるほど、大体わかった。あとはどうするかだけど、まずはこっちの情報も開示するよ。とりあえず名前だが、俺はカイム。こっちはシロナだ」

「カイムにシロナ…君たちは一体何者だ?」

「何者、ね。信じるか信じないかは任せるが、俺たちは未来から来た」

「未来?」

「これを見てくれ」

 

カイムは腰からモンスターボールを取り、ボールからバシャーモを出した。

 

「な…魔獣が…」

「この時代にはないだろ。これだけで信じるかどうかは任せるけど、とりあえず証明にはなるはずだ」

「……にわかには信じがたいが、確かにこの時代にはない」

 

見せられたボールをダモスはまじまじと見つめて思案する。実際にこの時代にはないものを見せられては信じざるを得ない。

 

「ダモスさん」

 

シロナはダモスに一歩近づき話を始めた。

 

「先程紹介にあずかりましたシロナです。ダモスさん、貴方はアルセウスに命の宝玉を返却する気でいるんですよね?」

「ああ、そうだ。私は、私たちはアルセウスに助けられた。だから当然私たちはアルセウスの義理と人情に応えなければならない」

「…再三の確認、すみません。これだけはちゃんとはっきりさせておかなければならないので」

 

一応シロナ達が体験した過去もダモスが主犯で動いているように見えた。だから何度も確認をする必要があった。

 

(…先程のドータクンの催眠術。それで彼を操っていたと見るのが妥当ね)

 

眠らせる催眠術は一般的によくあるが、ここまで意識を落としたまま歩かせてきたところを考えると、相当練度の高い催眠術のようだ。それほどの練度なら可能だろう。

 

「…君たちは未来から来たと言ったな。未来では、ミチーナはどうなっている?」

 

シロナはカイムに視線を移す。カイムはシロナの視線に気づくと小さく頷いた。

 

「ミチーナは、とても豊かな土地として残っています。ただ同時に、貴方がアルセウスに命の宝玉を返却しなかったため、この神殿は荒れ果て、アルセウスは今まさにその復讐としてミチーナを襲っています」

「なん、だと……み、未来で命の宝玉はどうなっている⁈」

「偽物が保管されてただけだ。本物はわからん」

「そんな…」

 

絶望したようにダモスは座り込むが、すぐに顔を上げてシロナとカイムに詰め寄った。

 

「すぐに、すぐに動かねば。ギシンを止め、アルセウスに命の宝玉を返却するんだ」

 

ダモスの目は決意を固めた目になっていた。

こんな目をする人間がアルセウスを裏切るとは考えにくい。この目をみてシロナは完全にダモスのことを信用した。

 

「協力するわ。私たちはそのために過去(ここ)に来たのだもの」

「助かる。未来の若者達にまで負債を背負わせるようなことになってしまっただけでなく、そのツケを払わせる手伝いまでさせてしまい、申し訳ない」

「構わないわ。どんな形であれ、私たちの世界を守るためでもあるから」

「…ありがとう」

 

ダモスは二人に頭を下げた。

話がまとまったことを察したカイムは話を進めようと口を開く。

 

「アルセウスに命の宝玉を返却するのは、皆既日食の日だよな。それっていつなんだ?」

 

シロナとカイムは今この場が皆既日食よりも前の時間だということしか知らない。詳細の時間を知らないと今からどう動けばいいのか方針が立てられない。

 

「…私も地下牢に閉じ込められて少し時間が経っている。詳細の時間までは…」

「皆既日食は今日じゃよ」

 

突如聞こえた声の方向を見ると、地下牢の看守の老人がこちらを見ていた。

 

「今日⁈それじゃああまり時間は…」

「今は昼前じゃ。あと一時間もせずに日食が始まる」

「あんま時間ないな…急がねえと」

 

カイムが動こうとしたところ、ダモスがカイムの肩を掴んだ。

 

「急ぐってどうする気だ?」

「まずここを出なきゃならん。そのあと、広間まで行ってギシンとやらを締め上げてどうにかする」

「どうにかって…」

「じゃ、出るか。ご老体、一応聞くけどあんた鍵なんて持ってないよな」

「もっとらん。どこにあるかは知ってるが、わしは持ってこれんぞ」

 

ダモスは看守の老人の言葉を聞くと提案するように言った。

 

「今、私の仲間が鍵を取りに行ってくれている。うまくいく保証はないが…」

「それ、一人?」

「ああ」

「…無理はさせないで。一人でできることは限られているわ」

 

その仲間が誰かはわからないが、一人である以上不可能なこともある。ただでさえ人手が足りない状況である今、貴重な人手を失うわけにはいかない。そういう思いだけでなく、単純な心配からシロナはダモスにそう言った。

と、そこでタイミングよく地面と同化していたフタが開き、中からギザ耳を持つピチューが現れた。

 

「無事か?」

 

ダモスが駆け寄りピチューを抱き上げる。少し体に傷があるため、恐らく衛兵から追われたのだろう。

ピチューがしょんぼりしながらダモスの言葉に頷くが、どうやら鍵は取って来れなかったらしい。そのことをピチューはしきりに謝っていた。

 

「気にしなくていい。お前の無事が一番大事だ」

 

ピチューは小さく頷く。

ダモスの言う仲間はピチューのことだったらしく、ピチューの無事がわかって安心したと同時に鍵がないと行動に移せない。

 

「仕方ない…別の方法で鍵を取ってくるしかない」

「その別の方法って?」

「それは…これから…」

「時間がないわ。すぐにでも動かないと…」

 

シロナはカイムに視線を移すと、カイムはシロナの意図を察して出したままのバシャーモに指示を出した。

 

「ブチ破りゃいいんだろ。バシャーモ、ブレイズキック」

 

足に炎を纏わせたバシャーモが気合と共に一閃。

次の瞬間轟音が響き、地下牢の格子扉が吹き飛ばされた。土煙が舞い上がりその中からカイムとシロナが歩いて出てきた。

 

「派手にやりすぎたか?」

「派手すぎね。すぐに衛兵が集まってくるわよ」

「うーん、きりさくの方がよかったかな…」

 

平然と派手なことをやってのける二人にダモスと看守はぽかんとしていた。

だがすぐに我に返ると二人の後を追った。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

大広間の上部にある通路をシロナとカイムは進んでいく。道中、多数の衛兵に囲まれそうになったが、シロナのガブリアスが気迫だけで気絶させていったため、特に問題なく進行できた。

ダモスはやることがあると言って途中で別行動を取ったため、この場にはいない。

シロナは視線を広間に移すと、見知った人物がいるのが見えた。

 

「あれは、アルセウス!」

 

アルセウスが広間でシーナと対面している。

シーナは特に危害を加えられた様子もなく、無事であったが、見知らぬ杖を持っていた。

 

「あの杖は?」

「わからん。だが、やばそうだ」

 

シロナ達がいる通路よりも少し下の通路からは、多数のポケモンの気配がする。このままいけばまたポケモン達による集中砲火がアルセウスを襲うだろう。

どうするか思案しようとした瞬間、シーナは杖をアルセウスに掲げて先端を開いた。

だが杖の先端には何も入っておらず、空っぽだった。シーナはすぐに視線を広間上部に向けると、そこには勝ち誇った顔で宝玉を持つギシンがいた。

 

「やれやれ、やっぱ騙されたかあの嬢ちゃん」

「あの子は少し疑うことを覚えた方がいいわね」

 

これに関しては完全にシーナの確認不足と人の良さが出てしまった。シーナはギシンが本当にアルセウスに宝玉を返すものだと思い込んでいたため、杖に宝玉が装着されているものだと思い込んでいた。だから騙されてしまった。

 

「ともかく、放っておくわけにもいかねえ。あのギシンの場所まで行くか」

「ええ、急ぎましょう。アルセウスがここで死んだりしたら、文字通り世界は滅びるわ(・・・・・・・)

 

ギシンが腕を振り下ろすと、ポケモン達がアルセウスに向けて一斉に電撃を加えた。限りある命の状態であるアルセウスは電撃を受けて苦しみ、行動ができなくなる。

そこへ続け様に銀色の液体が降り注ぎ、アルセウスの身体を蝕んでいった。

 

「ありゃ水銀か?エグいことすんな、ギシンとやら」

「それだけ宝玉を返したくないのよ」

「なんでだ?返さなかったらどのみち死ぬぜ」

「…この国を、土地を愛するが故の行動かもしれないわね」  

 

深すぎる愛や想いは、時に狂気へと変わる。長い歴史の中で人々が犯した罪の多くは、深すぎる想いからくるものだった。

このミチーナは命の宝玉で栄えた。だが裏を返せば命の宝玉がなければ再び荒野へと戻る、とも取れる。

ギシンが恐れているのはそれだった。宝玉を返し、この地が再び荒野に戻ることを恐れてアルセウスに命の宝玉を返すことを躊躇った。

 

「想いすぎるが故、か。人の闇は怖えな」

「シーナも心配だわ。もしダモスさんと合流できていたら、ダモスさんが悪者のイメージしかないシーナは反発するかも」

「それはやばいな」

「カイム、シーナのもとへ向かってくれる?誤解が解けてなかったり、なにか武力が必要なことがあるかもしれない」

「わかった。シロナは?」

「私はギシンのところへ行くわ。できるだけ手荒なマネはしたくないけど、場合によってはやむを得ないわね」

「そうか。気ぃつけろよ」

「カイムもね」

 

シロナはギシンのいる上部へと走り出し、カイムはムクホークをボールから出し、シーナのいる下部へと飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電撃と銀の水を受け、地の底へと落ちていったアルセウスを見ながらギシンは呟く。

 

「…これでミチーナは、永遠に栄える」

「本当にそうかしら?」

 

突如聞こえた声に振り返ると、そこには長い金髪を携えた美しい女性がいた。

 

「なんだお前は」

「アルセウスに宝玉を返しに来たのよ。貴方が返す気無さそうだから」

 

女性、シロナはギシンに向けて手を差し出した。

 

「一応聞くけど、痛い目を見る前に宝玉を渡す気はある?」

「はっ!何を馬鹿なことを。返す気などない」

 

当然、余所者に急にそんなことを言われて返すような人間ならば初めから返さないという選択はしないだろう。わかっていた答えが返ってきて、シロナは差し出した手を下ろす。

 

「そう、残念ね」

 

シロナは目をすっと細めると、腰のボールを一つ取りそこからガブリアスを出した。

ガブリアスはなにをするでもなく、ただじっとギシンを見つめる。だがその鋭く凄まじいほどの気迫を放つ目に見られギシンは気圧されて一歩下がった。

 

「ド、ドータクン!催眠術!」

「ガブリアス、目を閉じて気配で動きなさい。ドータクンの目を見なければ術にはかからないわ」

 

ガブリアスはシロナの指示通り目を閉じる。これだけで普通なら戦力は半減以下になるはずだが、シロナのガブリアスは砂嵐の悪い視界の中で擬似的な砂隠れを行い気配だけで相手に迫れるほど気配感知を得意としている。故に、すぐ近くにいる敵の気配を察して動くことなど造作もない。

 

「くそ、ならヒードラン。火炎放射だ!」

「龍の波動」

 

炎と波動がぶつかり合い、相殺する。

だが明らかにシロナの方は余裕を残しており、実力差が明らかなものであることがわかる。

 

「手荒なマネはしたくないわ。早く渡しなさい。時間がないの」

「ああわかっているとも。このままではアルセウスは死ぬ。それまでに命の宝玉を返さねばならないものなあ!だからこそ、尚更返すわけにはいかん」

「外道ね」

「なんとでも言え余所者風情が。目先の利益しか見えない愚か者共に私の崇高なる考えは理解できん」

「目先の利益?」

 

ギシンの言葉にシロナは眉を顰めた。

 

「そうだ。お前もあの小娘も未来から来たのだろう?そして未来ではアルセウスが世界を滅ぼそうと攻撃をしかけてきている」

「そこまでわかっているなら…」

「だからこそ私はこうしているのだ!」

 

ギシンの声と同時にドータクンがラスターカノンで攻撃を仕掛けてくる。その攻撃をシロナはボールから出したミロカロスの水の波導で相殺した。

 

「私が今ここで、アルセウスを殺すことで未来でアルセウスが暴れることもなくなる!真の平和が訪れるのだぞ!」

「………」

「今、私がこうして自ら神殺しという泥を被っているのも、全てはミチーナの、世界のためだ!こうすることで世界が救われる。私は英雄になる存在だぞ!」

「黙りなさい!」

 

シロナの怒りに満ちた声がギシンを遮る。そして酷く冷たく、怒りの光を宿したシロナの瞳がギシンを捉えた。

 

「貴方は何もわかっていない。アルセウスという存在が、どれほどこの世界において重要なのか」

「アルセウスが重要だと…?笑わせるな!確かに奴は特別な力を持つが、所詮ただの魔獣だ!それが一匹消えたところで、何になると…」

「その薄汚い口でそれ以上アルセウスを語らないで!」

 

シロナの怒りの言葉と同時にガブリアスの咆哮が神殿内に響き渡る。その咆哮を間近で聞いたドータクンとヒードランは完全に萎縮してしまった。

同時にアルセウスに攻撃を仕掛けていたポケモン達の攻撃が弱まり、そして次第に攻撃が止まった。ガブリアスの咆哮に恐れて止めたのではない。もっと別の外的要因によって止まった。

 

「な…!」

「シーナが止めてくれたのね」

 

シロナが神殿下部に視線を向けると、互いの手を取り合っているダモスとシーナ、そしてその後ろに控えるカイムの姿があった。

 

「カイム、シーナ!ダモスさんも…よかった」

 

二人で腕を組んでいるところを見る限り、ダモスもシーナと同じポケモンに心を見せる能力を使えるらしい。

 

「さあ、どうする?」

 

シロナはガブリアスと共にギシンに視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

カイムはシロナの言う通りダモスとシーナのもとへ向かっていた。

 

「お」

「あっ!」

 

着地した場所でちょうどダモスとシーナと出会った。

 

「無事だったか、カイム君」

「おかげさまで」

 

カイムはダモスからシーナへと視線を向ける。カイムに見つめられたシーナは悲痛な表情へと変わり、頭を下げた。

 

「すみません、カイムさん…わたし…」

「反省も後悔も後。今は無駄な時間だ」

 

カイムは通路に視線を向ける。通路の奥からは僅かに音が響いており、何かが流れてくるような気配が感じられた。

カイムはボールからルカリオとバシャーモを出し、通路に向けて二匹に指示を出した。

 

「ルカリオ、通路の床に向けてはっけい。バシャーモは脆くなった地盤に向けてフレアドライブ」

 

ルカリオが力を溜め、その力を一気に地面に向けて穿ち、バシャーモは炎を纏いながら脆くなった地盤に向けて踵落としを放った。バシャーモの攻撃の衝撃で地盤は崩れ、流れてきた銀の水がカイム達のもとへ迫ることを防いだ。

 

「とりあえずこれでいいだろ。あとはそちらの仕事だ」

 

ダモスは頷くとシーナに視線を向けた。

 

「シーナ、力を貸してくれ。私たちの力で、攻撃しているポケモン達とアルセウスを鎮めるんだ」

「は、はい!」

 

ダモスが差し出した手を取り、二人は祈りの言葉を上げる。

 

『超克せよ、時空の定めよ』

 

二人の祈りは攻撃を続けるポケモン達に向けて捧げられた。アルセウスがこの土地を救ってくれたという事実、そしてその恩人に向けて自分達が攻撃しているということをポケモン達に伝えた。自分達を救ってくれた恩人をこれ以上攻撃しないでほしい。その真摯な思いと心をポケモン達に曝け出す。

初めはギシンへの恐怖からか、聞こうとしなかったポケモン達だが、ガブリアスの咆哮が聞こえるとその恐怖心が揺らぎ、二人の心を見ることになる。その思いが通じたのか、徐々にポケモン達は攻撃を止め、ついには完全に攻撃は止まった。

 

「すんげえ…」

 

感嘆の声を漏らすカイムを他所に、二人はアルセウスへと意識を向ける。アルセウスにことの真実を伝え、命の宝玉を返却するために。

だがアルセウスから感じられる気配は恐ろしいほどの怒り。その怒りはダモスとシーナ、二人の力を以てしても心が伝わらないほど凄まじいものだった。

その怒りに気圧されたシーナとダモスは弾かれてしまい、シーナは尻餅をついた。

 

「シーナ!」

「だ、大丈夫…です」

 

シーナは前を向き、再び祈りを捧げようとするも、反動が大きくすぐには動けない。

それを見たダモスは自分一人でアルセウスに向けて祈りを捧げ始めた。二人の様子を見てここは問題無さそうだと判断したカイムはシロナに視線を向ける。シロナはガブリアスを伴ってギシンに迫っている。だがシロナもガブリアスも人に対して攻撃することに慣れていないため詰めを誤ったり加減を間違える可能性がある。

そちらの方がまずいと判断したカイムはボールからムクホークを出し、神殿上部へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロナはガブリアスと共にギシンを追い詰めた。ギシンの配下であるドータクンとヒードランは既に戦意を喪失しており、とても戦える状態ではない。

 

「もう貴方を守る者はいない。早く渡しなさい」

 

シロナは手を差し出すが、ギシンは一向に渡そうとしない。

その状態にシロナは少し焦る。アルセウスの命がどれだけもつかわからないだけではない。シロナは人間に対する攻撃手段を持っていないためこのままギシンが自発的に渡さなければ最悪時間切れになりかねないからだ。取っ組み合いになれば、女性のシロナに勝ち目はない。ガブリアスにやらせれば、最悪殺しかねない。

 

「黙れ…これはもう人間のものだ…絶対に渡さない!」

 

拉致があかないと判断したシロナは、最悪のことを覚悟しつつガブリアスに命令を下そうとした。

だがその命令が下されることはなかった。

 

「はいちょっと通りますよ」

 

神殿下部からムクホークに乗って飛んできたカイムが、ムクホークから降りる勢いを利用してギシンにドロップキックをお見舞いした。

 

「ぐぼぉ⁈」

 

ドロップキックを受けたギシンは威厳のかけらもない声を上げながら転がっていく。だがそのドロップキックを受けてなお、宝玉を放さない執念は中々のものだと、カイムは僅かに感心した。

 

「カイム…」

「あっちは平気そうだったからこっち来た。やばかったろ」

「…ええ、正直助かったわ」

 

こういった手荒なことはシロナは耐性がない。バトルという競技においては無類の強さを誇る彼女も、一人の女性だ。暴力沙汰に縁がないのは至極当然なことだ。

無論カイムにとって日常的というわけではない。ただ格闘タイプのジムリーダーとして格闘技を修めている彼はシロナよりは遥かに耐性がある。

 

「ぐっ…」

「さっさと取っちまおう。これ以上ここで時間を使うのは無意味だ」

「ええ。ごめんなさい、貴方に汚れ仕事を任せるようで…」

「いい。シロナの手は『そういうこと』に使うものじゃねえから」

 

カイムはギシンに近づいていく。それを見たギシンは歯を噛み締めながら声をあげた。

 

「渡してなるものか!私は、私は世界を救うのだ!」

 

ギシンは近くにあった棒で反撃を試みてカイムに向けて振り回す。それをカイムが腕で防いだ瞬間、ギシンの視界からカイムが消える。

 

「消えぶっ⁈」

 

カイムは膝抜き、と呼ばれる予備動作を無くす技術を用いて滑らかに体勢を低くすることでギシンの視界から消えた。そしてその低い動作から繰り出された蹴りはギシンの顔を捉えた。

その蹴りに怯んだギシンの腕をカイムは続けて蹴り上げた。その蹴りによって宝玉は宙を舞う。

 

「シロナ!」

 

カイムの声に即座に反応したシロナは宙を舞った宝玉をキャッチした。宝玉はシロナの手の中で輝いており、こうしてみると偽物と随分違う光を放っているように思える。

 

「ナイス。そんじゃそれ、さっさとアルセウスのとこに届けてくれ」

「ええ、必ず」

「ま、待て!それはもう人間のものだ!返すなどふざけたことをっ⁈」

「はい黙って」

 

シロナに迫ろうとしたギシンに足払いをかけ、転んだギシンの腕を拘束し関節を極める。

 

「き、貴様…!」

「あんま動くなよ。下手に動くと、自分の動きにやられて腕折れるぞ」

 

完全に腕の関節を抑えられ、ギシンは身動きが取れない。

それを確認したカイムはシロナに視線を向け、シロナは頷いた。

 

「必ずアルセウスに返すわ」

「頼む」

「トゲキッス、お願い!」

 

ボールから出したトゲキッスに跨り、シロナはアルセウスのいる神殿の地下へと降りていった。

それを見てギシンは忌々しそうに吐き捨てる。

 

「くそ!どいつもこいつも私の偉業を理解できない愚図ばかりだ!」

「本当に偉業を成し得た人は自分のやったことを偉業だなんて思わんだろうがな」

「黙れ!私はこの土地だけでなく、世界を救おうとしているのだぞ!目先の利益しか見られない愚か者共に、私の行いの偉大さがわからないのか⁈」

「…お前、シロナから何も聞いてないのか」

 

カイムの言葉にギシンは眉を顰める。

 

「どういうことだ」

 

ギシンがシロナから言われた言葉は、宝玉を返せということとアルセウスについて語るな、ということだけ。それ以上のことは聞いていない。

何も知らないことを察したカイムはギシンに語る。

 

「この俺たちがいる世界は、四つの異なる空間によって支えられている。ディアルガの空間、パルキアの空間、ギラティナの破れた世界、そして…アルセウスの空間」

「それがなんだ」

「その中で最も重要な役目を果たしているのが、アルセウスの空間だ。アルセウスの空間は、全ての空間を維持するための要石のような役割をしている。この要石がなくなればどうなると思う?答えは台無し。全てが無に帰す」

「!」

 

確信しているように言っているが、この説はカイムが時空儀の姿とシロナの言葉を聞いて立てた仮説に過ぎない。実際アルセウスが世界維持にどのような役割を果たしているか、カイムにはわからない。

だが神話ではアルセウスは無からこの世界を生み出したという。それほどの存在が消えれば世界にどのような影響が出てくるか。まず間違いなくテンガン山での一件よりも遥かに大惨事になることは想像に難くない。

 

「だが、アルセウスは一度その身を犠牲にして隕石を止めた!その際自らの死も厭わなかったのだぞ!ならば奴が消えたところで、世界に影響など出ない!」

「間抜け。全ての攻撃を無効化できて永遠の命を持つアルセウスが死にかけるほどの隕石だったんだぞ。そんなものが落ちてきてみろ。アルセウスの空間の次に大きい空間である俺らの世界が揺らぎ、他の空間にも影響を出しかねないことくらいちょっと考えりゃわかるだろ」

 

無論これもこじつけだ。実際どうだったかなんてカイムはわからない。だがわざわざアルセウスが身を挺してまで止めた、ということはそれくらいの意味はあるだろうと考えた。

 

「…黙れ。そんなのデタラメにすぎん。それらしいことを言って私を騙そうとしても、そうはいかんぞ」

 

割と説得力あると思ったんだがなー、と状況に反してかなり気楽に構えているカイムはそう考えながら腕をさらに締め上げていく。

 

「ぐぅ!いっ…!」

「あんたが信じるかどうかなんぞ関係ねえ。ここで事が済むまで大人しくしててもらうぞ」

 

カイムはシロナが降りていった神殿の最下層部へと視線を向ける。

 

(…無事でいてくれ)

 

シロナの無事を願いながら、カイムはさらにギシンの腕を締め上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルセウス!」

 

シロナが地下に到着した時、既にアルセウスの半身は銀の水に沈んでいた。

 

「アルセウス、聞こえる?命の宝玉を持ってきたわ!受け取っ…」

 

シロナは最後まで言えなかった。アルセウスからは激しい怒りの気配と消えつつある命の気配しかなかった。

 

「アルセウス…」

 

命の宝玉を持ってくるまではよかった。しかし、アルセウスは人間に騙されたと考えているため人間であるシロナから宝玉を受け取ろうとしない。

しかも銀の水は絶えることなく流れてくる。シロナもその水に巻き込まれないようにするため下がることを余儀なくさせられた。

 

「どうすれば…」

 

アルセウスの意識が戻らない以上、宝玉を返すことはできない。

どうするか思案し始めた時、近くにいるトゲキッスが突如声を上げた。何事かとトゲキッスを見ると、トゲキッスの身体が消え始めていた。

 

「これは…⁈」

 

その答えはすぐに思いついた。

 

 

 

時間切れ

 

 

 

アルセウスの命が尽き、シロナ達がこの時代に来たという事実そのものが無くなろうとしているのだ。

 

「間に合わなかった…?」

 

己の力の無さ、そして決断を遅らせてしまった意思の弱さを悔いた。

 

 

 

 

同時刻

 

カイムの身体も消え始めていた。

 

「これ…」

「ふっ…どうやら私の勝ちのようだな」

 

組み敷かれたままギシンは勝ち誇ったような表情をカイムに向けた。

 

「アルセウスが、死んだのだ。だから貴様らがこの時代に来るという事実も消え、歴史が修正される」

「そうか」

 

その勝ち誇った表情にイラッとしたカイムはギシンの顔を思いっきり蹴り上げた。

 

「ぼっ!」

「どうせこのまま消えるんだ。お前が下手なこと二度と考えないように痛めつけておくのもありかなって」

「そ、そんなことをしても、歴史は変わらんぞ!」

 

顔を抑えながら後ずさるギシンにカイムは無表情で詰め寄り、胸ぐらを掴む。

 

「ごもっとも。俺が今からできることは何もない。シロナと、ダモスさんがどうにかするしかない。だから俺が今からあんたにすることは、ただの八つ当たり。これが今俺にできること。ほら、何もおかしなことはないだろ?」

「おかしなことしかないだろ!」

 

ギシンのツッコミは尤もだが、そのツッコミでやめるようならそもそも手出ししていない。

再びカイムはギシンの顔に向けて蹴りを放った。ギシンの間抜けな叫びが神殿に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

カイムがギシンに八つ当たりをしているのと同時刻。

ダモスはアルセウスの精神世界にいた。

 

「ぐっ…」

 

アルセウスから放たれる凄まじいほどの怒りの気迫。

気を抜けば再び弾かれてしまうほど強い気迫になかなかアルセウスの心に辿り着けない。

だがその激流の如き覇気に負けることなく一歩ずつ、着実にアルセウスに近づいていく。

 

「アルセウス…!」

 

ダモスはアルセウスの目の前まで迫る。だが近づくほど、覇気は強まり近づくのが困難になっていく。

 

(負けるものか!アルセウス、私を…私を見てくれ!)

 

一層強い覇気を乗り越え、アルセウスの額に触れようとする。

その瞬間、今まで以上に強い怒りがアルセウスから発せられ思わずダモスは弾かれそうになってしまった。

 

「ぐっ…うう……アルセウス!」

 

ダモスは渾身の力を使ってアルセウスに触れた。

その瞬間、触れた場所から光が溢れる。光が収まると、怒りの気配はなくなっていた。

 

『…ダモス』

「アルセウス!」

『…そうか。お前では、なかったのだな』

 

アルセウスは目を閉じると、ダモスに頭を下げた。

 

『すまなかった。お前を、私は誤解していた』

「いや、元はと言えば私がギシンの裏切りに気づかなかったから」

 

ダモスの言葉を受け、アルセウスは首を横に振る。

 

『もうよい。お前の心はわかった』

 

アルセウスは顔を上げ、近くにある気配に意識を向けた。

 

『あの人間、お前の仲間か』

「人間…シロナさんのことか」

『命の宝玉を返却しにきたようだ。良き友人を持ったな』

 

アルセウスはダモスに再び視線を向けると現実へと意識を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

シロナの手に持つ宝玉が光を放った。

 

「えっ⁈」

 

光を放つ宝玉はアルセウスの元へと飛来していき、アルセウスの真上で止まった。そして宝玉は光と共に分裂していき、次第に五つのプレートへと姿を変えてアルセウスの元へ吸い込まれていった。それと同時に消えかけた身体が戻っていく。傍らでは身体の九割が消えていたトゲキッスの身体も戻ってきた。

 

「トゲキッス!よかった…」

 

トゲキッスの頭を撫で、アルセウスに視線を移した。

プレートを取り込んだアルセウスは光を放ち、光と共に銀の水からアルセウスが現れた。

光に包まれたアルセウスはシロナに視線を向け、話し始める。

 

『…お前が、シロナか』

「え、ええ。そうです」

 

元の時代で聞いた怒りに満ちた声ではない。とても落ち着いており、荘厳だが、優しさが感じられる声がシロナに向けて話続ける。

 

『命の宝玉、確かに受け取った。ここまで運んできてくれたこと、感謝する』

「いいえ。感謝は私ではなく、ダモスさんに」

『……人間、愚か者もいるが、其方やダモスのように聡く、強い人間もいるのだな』

 

その瞬間、大量の銀の水が溢れ出し、地下空間に流れ込んできた。

 

「まずい!」

 

咄嗟にトゲキッスに飛び乗り飛ぼうとしたが、上から降ってくる銀の水を避けられる場所がない。

避けきれない。そう考えたシロナは目をぎゅっと閉じた。だがいつまで経っても痛みは感じない。

目を開くと、シロナとトゲキッスは光に包まれていた。そして目の前にはアルセウスの姿。アルセウスが助けてくれたことをシロナは察した。

 

「わあ…」

『私を救ってくれた恩人を、見捨てたりはしない』

 

シロナはアルセウスと共に浮かんでいき、ダモスとシーナの元へと着地した。

ダモスはアルセウスを目の前にすると、酷く申し訳無さそうな表情に歪め、心からの謝罪をアルセウスに言った。

 

「アルセウス…本当に、本当にすまなかった」

『お前の心は伝わった…もうよい』

「ありがとう…ありがとう」

 

ダモスはアルセウスの心が戻り、そして恩人であり友人であるアルセウスに許されたことが嬉しくて涙を流した。そんなダモスの背中をシーナは優しく支える。

そこでシロナ達の背後で何かが倒れる音がした。振り返ると、顔がギャグ漫画のごとくボコボコにされたギシンが倒れており、そのギシンの足を掴んで引き摺るカイムの姿があった。

 

「どーも。みなさんご無事で」

「カイム!よかった、無事だったのね」

 

カイムが無事に戻ってきたことにシロナは歓喜の声を上げて駆け寄り、思わず抱きしめた。カイムは驚いたが、すぐに対応し、シロナを受け止めてその身体に腕を回す。

 

「こっちのセリフだ。お前の方が危険な場所にいたんだし」

「私は大丈夫。アルセウスが助けてくれたから」

 

シロナはアルセウスに視線を向けた。カイムもそれに続いて視線をアルセウスへと移す。

 

『お前は…』

「ども。シロナのツレ、カイムです」

『そうか…お前もこの土地の者ではないな』

「余所者ですね」

『…世話をかけたな』

 

アルセウスはシロナ、カイム、ダモス、シーナに視線を向け、目を閉じた。

次の瞬間、銀の水が溢れ出る衝撃で神殿が崩れ始めた。シロナ達がいる場所だけでなく、アルセウスを攻撃していたポケモン達の場所も崩れていく。

 

「やべえ!」

 

カイムはシロナを抱き寄せ、脱出できそうな場所を探すが、それらしい場所はない。

ここまでか、と諦めかけた時、再びアルセウスが光を発した。その光はシロナ達だけでなく、落下してきたポケモンも包んだ。

アルセウスの光は、落下してきた瓦礫を消し去り、そして神殿を元の姿へと戻していった。シロナ達も元いた場所へと戻され、神殿にいたポケモン達の拘束具が外されていく。

 

「おお…すげえ」

 

カイムは思わず感嘆の声を上げた。

神殿が完全に戻るとアルセウスは外へと出ていき、シロナ達もそれに続いた。

アルセウスは青空に浮かんで集まった人々、その中でもボコボコにされ縛られて転がされているギシンに目を向ける。

 

『その者か、下手人は』

 

アルセウスの目がすっと細められる。

だがそのギシンの前にダモスは立ち、アルセウスに言った。

 

「この者は、我々で処分を下します。二度と裏切らないように、この地を豊かにすることに全力を費やさせます」

『…そうか』

 

アルセウスは目を閉じ、ダモスに目を向けた。

 

『私は力を使い果たした。これから眠りにつく』

「本当にありがとう、アルセウス」

 

アルセウスは首を横に振り言った。

 

『良い。愛する者たちのためだ』

 

アルセウスは異空の回廊を開くと、その空間に向かって飛んでいった。

 

『さらばだ、私の愛する者たちよ』

 

アルセウスは異空間へと消えていき、周囲は静寂に包まれた。

これでいち段落、とシロナが息をついたところで、突如シロナ達を青い光が包んだ。

 

「この光は…」

「ディアルガです」

 

シーナはそう言うと、ダモスと向き合った。

 

「もう、行くのか?」

「はい。ディアルガが呼んでいますから」

 

元よりシロナ達がこの時代に来たのはアルセウスを鎮めるため。それが済んだのなら、元の時代に戻るのは道理。

 

「そう、か。そうだな。できればもっと話をしたかった」

「ええ、私もです」

 

考古学者として過去に出向き、その時代を直接体感することがどれほど貴重で素晴らしい経験なのかわかっている。また、それを抜きにしてもダモスという人物ともっと言葉を交わしてみたいとシロナは思った。

 

「カイム君」

「ん?なんですか」

「ありがとう、私を信じてくれて」

 

カイムはダモスのことを初めから悪者だと決めつけることなく、まずは対話することをしてくれた。それはつまり、ダモスが最初から悪者だと決めつけることなく、善人である可能性を考慮していたということだとダモスは考えていた。

そしてそれはカイムの考えそのものであった。

 

「いや…そんな…」

「君が決めつけることなく、その可能性を信じてくれたことに私は救われた。ありがとう」

「…し、仕事なんで」

 

褒められ慣れていないカイムはむすっとした表情で視線を逸らした。その様子がおかしくてシロナは小さく笑う。

 

「シーナ」

「は、はい!」

「未来を、頼んだ」

 

ダモスの言葉にシーナは目を見開くが、すぐに真剣な表情となり力強く頷いた。

 

「はい!」

 

シーナの返事を聞くと、ダモスは頷き別れを告げた。

 

「さらばだ。未来の若人達。君らの未来に多くの幸福があることを願っているよ」

 

光に消えていく三人にそう告げ、ダモスは手を張る。

三人はそれを見届け、そして未来へと帰っていった。

残されたダモスはピチューを撫でながら、神殿の下に広がる豊か大地に目を向ける。

 

「…未来、か」

 

この時代を救ってくれた若者達。彼らのためにも、この土地を人の手で豊かに育み、そして繋いでいくことをダモスは誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロナ達は時の回廊を通り、元の時代へと戻ってきた。

 

「元の時代に戻った…?」

 

周囲を見渡すと、神殿はボロボロに破壊され、そして神たるポケモン達が力なく倒れていた。

 

「ディアルガ、パルキア、ギラティナ!」

「アルセウスは?」

 

シロナが空を見上げると、アルセウスはまだ神殿にむけて攻撃を続けていた。

 

「歴史が…」

「変わってない」

 

確かにシロナ達は過去でアルセウスに命の宝玉を返し、アルセウスはそれを受け取った。だが目の前にいるアルセウスは今もなお攻撃を続けている。つまり歴史は変わっていない。

 

「歴史の修正力がまだ追いついていないの?」

「時間を司るディアルガがあの様だ。すぐには働かないのかもしれない」

 

アルセウスは額に力を溜め、空に向けて裁きの礫を放った。礫は空に打ち上がり、隕石の如き威力を持って神殿に向けて落ちてくる。

これ以上、この神殿を破壊してほしくなかったシロナはアルセウスに向かって叫んだ。

 

「やめて!アルセウス!」

 

その声につられてアルセウスは声がした方向を見た。そこには長い金髪を携えた女性、そしてその背後にいる男性と女性が目に入る。

 

『お前達は…』

 

その瞬間、アルセウスの脳裏に溢れ出した先程までは『存在しなかった記憶』。

その記憶の中には、シロナ達が誠意を尽くし、アルセウスに命の宝玉を返したことが刻まれていた。

 

『これ、は…』

 

怒りに囚われたアルセウスを恐れることなく、自分達が犯した罪を誠心誠意謝罪し、そして宝玉を返却した。その事実がアルセウスの中に上書きされていく。

 

『シロナ…カイム…』

 

アルセウスは全てを思い出した。

神殿に落下しそうだった礫は消え、破壊された神殿も元の姿へと戻っていく。アルセウスの記憶が修復されたことにより、アルセウスが世界を襲うという事実が消え、歴史が急速に修復されていった。破壊された神殿だけでなく、神殿の下に広がるミチーナの街も綺麗に修復されていき、完全に元の状態へと戻った。

加えて傷を負って倒れていたディアルガ、パルキア、ギラティナの傷も回復していき、元の状態へと戻った。

 

「歴史が、修復されていく」

「修復というより、もはや改変だな」

 

この改変がどんなことを引き起こすことになるかはわからない。歴史を変えるなど、世界の危機だったとはいえ本来ならあることではない。何かしら歪みが起きる可能性があるが、今はこれでいいと、そうシロナとカイムは思えた。

 

「そういや命の宝玉返したけど普通に豊かな土地のままだな」

「ギシンの言う通りなら、この土地は荒野に戻っているはずだったわね」

「アルセウス…これは…」

 

アルセウスは神たるポケモンを率いながら言った。

 

『私の力ではない。お前達の先祖が育み、そして未来まで繋げて守ってきたものだ。この土地は、人とポケモンの力で豊かな土地になったのだよ』

「そう…良かったわね。シーナ」

「はい」

 

先祖の汚名を雪ぐだけでなく、この土地を守り続けてきた文字通りの守り人になることができ、シーナは胸が熱くなるのを感じた。

 

「シーナ!」

「ケビン!無事だったのね!」

 

そこで一人、この時に留まったケビンが走ってきた。ケビンも疲労はあるようだが、歴史が修復されたことによって彼が負っていた傷も修復されたのか、健康そのものの状態であることがわかる。

そしてそのままケビンはシーナと抱擁を交わした。

 

「あらあら、お熱いわね」

 

それを見てシロナが小声でカイムに言うが、カイムはそんなシロナに半笑いしながら返した。

 

「お前も俺と合流した時、同じことしてたぞ」

 

それを聞いて自分も同じことを思わずしていたことを思い出したシロナの顔にさっと赤色が走った。

 

「あっ、あれは…その……無事で嬉しかったのよ!危険な役目をやらせたわけなんだし」

 

顔を少し赤くしながら言うシロナにくつくつと笑いながらカイムは頭を軽く叩いた。

 

「お前の方が危険な役目やってたんだ。気持ちはわかるよ」

 

実際、カイムもシロナが心配だった。シロナはカイムよりもはるかに危険な場所へと赴いていた。だから無事だとわかったとき、思わず駆け寄りそうになったが、シロナの方が駆け寄ってきたためそうすることはなかった。

身体が消えかけた時、シロナに何もできないことが腹立たしくてギシンをボコボコにしていた、というのはカイムが墓まで持っていく秘密にするつもりだ。

 

「カイムも同じ気持ちだったの?」

「まあ、な。不安ではあったよ。信じていても、心配なもんさ」

「……そっか。でも、私も心配だったのよ」

「そうかい。なら、なんか一つわがまま聞いてやろう」

 

互いに心配をかける形になったが、想像以上に心配してくれたためそれで手打ちにしようと考えた。シロナも珍しい機会を逃す手はないと思ったため、少し考えて言った。

 

「……じゃあ、帰ったら膝枕して」

「へーへーわかったって」

 

ブラッキーかお前は、と内心だけでツッコミを入れつつ、カイムはシロナの願いを聞き入れた。

 

 

数時間後、全てが片付いたのを見届けたディアルガ、パルキア、ギラティナはそれぞれの空間へと帰っていき、シロナ達はそれを見送った。

そしてケビンが歴史が修復される前にはなかったという石碑の前にシロナ達を連れてきた。その石碑にはアルセウスに命の宝玉を返却する四人の人物の姿が描かれていた。

 

「これ…私達?」

「だな。ダモスさんが作ったんだろ」

「なにか、書いてあるわ。『信じる心を教えてくれた、未来の若人達。君たちの未来がもっと素晴らしい場所になるように祈る。君たちのいる未来は、今この文を記している時よりも、幸福に満ちた世界である願いを今ここに記す』」

 

文章を読み終わったシーナは思わず涙を流した。自分の行いが、世界だけでなく、未来と、そして先祖を救った。その事実がたまらなく嬉しかったのだ。

 

『シロナ』

 

突如シロナはアルセウスに声をかけられる。

シロナはアルセウスの隣に立つと、アルセウスは話し始める。

 

『お前達の世界は、美しいな』

 

夕日が沈み始め、赤く照らされたミチーナの街を見渡しながらアルセウスは言った。

シロナはアルセウスの言葉に頷く。

 

「はい。貴方が創ったこの世界に生きる者として、この世界で生きられることを誇りに思います」

『そうか。うむ…この世界は、素晴らしいのだな』

「私達は、貴方のように永遠に生きることはできない。でも、その限られた時間を、この世界で、愛する人と共に過ごせることはとても幸運で、素晴らしいこと。貴方のおかげで私は今、こうしていられるんです」

『……人とポケモンの一生は短い。だが、その人々とポケモンが繋ぎ、残したものがこうして世界を変えていくのだな』

 

アルセウスはふわりと浮かび空に舞い上がった。

 

『…私も、私が創り上げたこの世界の一部であると、ようやく気づけた』

 

そう言ってアルセウスは自分の空間へと帰っていった。

それを見届けたシロナは振り返り、夕日に背を向けながら言った。

 

 

「さあ、帰ろう」

 

 

シロナの笑顔は夕日の光で陰になり、うまく見えない。

でもそれがきっと美しいことは、カイムが誰よりもわかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満月が浮かぶ夜空の下、シロナはカイムのブラッキーを伴ってダモスが建てた石碑の前にいた。

あの後帰ろうとしたが、ミオシティ方面の公共交通機関は全て終わってしまっていた。空を飛ぶで帰ることもできたが、トゲキッスもムクホークもかなり疲弊していたためミチーナで一泊することにした。また、その際に遺跡内部にある客人用と思われる部屋を使って欲しいとシーナから言われ、二人はその言葉に甘えた。

 

「………」

「シロナさん」

 

声がした方向を見ると、シーナがいた。シーナはパーカーにロングスカートという比較的ラフな格好をしており、オフの状態なのがよくわかる。

 

「あら、どうしたの?」

「少しお話したくて。カイムさんが多分ここだろうって教えてくれました」

「え、そうなの?」

 

まさか予想されているとは思っていなかったシロナは意外そうな声を上げる。

 

「はい。この遺跡の中で一番空が大きく見えるのはここだってケビンがカイムさんに教えたみたいで。ブラッキーを連れているなら一番空が見える場所にいるだろうって」

「そういうことね」

 

シーナはシロナの隣に並び立ち、石碑を眺める。遥か過去、ダモスがシロナ達に感謝を伝えるために残した石碑。自分達がなし得た未来へと大地を繋ぐための行いが認められた証を前に、シーナは再び目頭が熱くなる思いに駆られた。

 

「シロナさん、改めてお礼を言います。ありがとうございました」

「気にしないで。成り行きで手伝ったけど、私がやったことは返却だけ。おいしいところを持っていっただけよ」

「いいえ。シロナさんがいたから、わたしはここまで来られたんです」

「私、そんな大事なことしたっけ?」

 

覚えのないシロナはうーんと頭を捻るが、何も思い出せない。

そんなシロナにシーナは話し始めた。

 

「最初、わたしが偽物の宝玉をアルセウスに差し出して砕かれた時です。あの時、カイムさんの言う通り盲目的に信じてきたことが否定されて、それが事実だったことに絶望しました。わたしの十六年が否定された気持ちになって、立てなくなってしまったときです」

「ああ、あの時ね」

「わたし、あの時にシロナさんが叱ってくれなかったらきっと立てませんでした。完全に心が折れていたんです」

「私程度の説教で持ち直せるなら完全には折れていないわよ。でも、そっか。そう言ってもらえたら私も叱った意味があるわね」

 

シロナとしては必死だったため、そこまでのことをした覚えはないのだがシーナにとってはとても大きなことだったらしい。

 

「ごめんね。カイムの言葉、ちょっときつかったでしょ」

 

本人も厳しいこと言っている自覚があったのか、夕食時などもシーナに対して少々気まずそうにしていた。

 

「…そうですね。確かに少しきつい言葉でした。本人なりにオブラートに包んでくれたのはわかりますが、それでもわたしの人生を否定する言葉ではあったので。でも大切なことでした。何においても、全て正しいものなどない。それを教えてくれる言葉でした。あとで改めてカイムさんにお礼を言っておきます」

「口下手なの。多分、本当ならもっときつい言葉になってたと思うけど、相手が歳下の女の子だったからあのくらいで済んだのね」

「あれ以上か…耐えられた自信ないです」

 

苦笑するシーナにシロナは笑いかける。

 

「でも、ちゃんと立てたじゃない」

「はい。シロナさんとカイムさんの言葉、そしてケビンがいてくれたからです」

「いい相方ね」

「シロナさんも」

 

互いに自慢の相方なのか、お互いの相方を褒め合い二人して笑った。

 

「そのブラッキー、カイムさんのですよね」

「ええ、そうよ」

 

シロナはブラッキーを抱き上げ、シーナの視線まで持ち上げた。シーナに撫でられてブラッキーはくすぐったそうに目を細める。

 

「ふふ、目を細めるとカイムさんそっくり」

「ポケモンはトレーナーに似るのかしらね。でもブラッキーはあんなに目つき悪くないわよ」

「あはは!そうかもしれませんね」

 

二人の笑い声が夜の遺跡に響き渡る。ブラッキーはぷるぷると頭を振って嫌じゃない旨を二人に伝えた。

仲良さげに話を続ける二人をカイムとケビンは遺跡の上部から眺めていた。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

翌朝

早朝

 

遺跡の最上部にシロナとカイムはいた。

 

「お姉さん。朝っぱらからなんでこんなことしてるんですか」

「約束したじゃない」

 

日の出を見ながらシロナはカイムに膝枕されていた。

確かにそういう約束をしていたが、まさかこんな場所でするとは思ってもいなかったカイムは苦情を呈した。

 

「そういう約束でしょ?」

「昨日、夜にもしてやったろ」

「一回だけとは言ってません」

「はあ…もういい。好きにしろ」

 

諦めたカイムはされるがままになっていた。

シロナはご機嫌でカイムの膝に頭を乗せたまま空を見上げる。右手を空に掲げた。指にはまった赤い指輪が朝日に輝く。

 

「…すごい経験だったわね」

「まさか自分達が歴史そのものになるとはな」

「ふふ、歴史研究を長いことしてるけど、こんな経験は初めて」

「そうだな」

 

カイムもシロナのように空を見上げる。鳥ポケモンが数羽飛んでいるのが見えた。

 

「とんだ観光になったもんだ」

 

今回はどちらかといえば観光のためにミチーナに来た。その観光がまさか世界を救う戦いになった。予定変更というにはあまりにも過ぎたものだった。

 

「ほんとね。巻き込まれた形にはなるけど、結果としていい方にいって良かった」

「まーな。経験としては確かに貴重だった」

「この経験、貴方とできてよかった」

 

掲げた腕をそのままカイムの頬に添える。

カイムは膝に頭を乗せるシロナに目を向けた。

 

「シロナは、こうなることをわかってたのか?」

「そんなわけないわよ。どうしてそう思ったの?」

「あまりにもタイミングが良かったからな。それにシーナが言ってた予言もあるから」

「予言?」

「最初に言ってたろ。『黄金の髪を携えし強き人』云々ってやつ。今回のことを含めて考えたら、お前が知っていてここに来たと考えてもおかしくないだろ」

 

シーナが言っていた予言は明らかにシロナのことを指していた。

そもそも今回の観光は予定にはなくシロナが突然言い出したこと。加えて訪れてすぐに起きたこの事件。何かしら関連があってもおかしくないとカイムは考えた。

 

「相変わらずの疑い癖ね」

「どうなんだ?」

「本当に何も知らなかったわ。ミチーナに来たのも、行きたいって突然思ったから」

「……全部偶然にしちゃ、できすぎてる気もするがな」

「本当のことよ。でももしかしたら、何かしら作用していた可能性もあったかもしれないわね」

 

時間を飛んで歴史を改変した経験があった以上、もしかしたら『シロナ達が失敗した時間軸』が存在したのかもしれない。

その時間軸のシロナかカイム、またはそれ以外の誰かが何かした可能性はある。

 

「予言、か。なんだったんだろうな」

「さあね」

「…何でもわかったように言うんだな」

「不満?」

「別に。お前といると退屈しねえ」

 

頬に添えられた手を取りカイムは続ける。

 

「シロナについていくさ。俺がそうしたいからな」

「…そうしてくれると、私も嬉しいわ」

 

シロナは起き上がり、立ち上がった。

 

「これからもきっと色々あると思う。その時、貴方に隣にいて欲しい」

「俺も隣にいたい。俺自身のためにも」

 

朝日を受けながらカイムは立ち上がり、シロナが差し出した手を取る。

 

「帰りましょ。私たちの家に」

「ああ」

 

朝日を受けて赤と青の指輪が輝いた。

 

 

 

 

 




初の番外編でした。

楽しんでいただけたら幸いです。

ずっと今まで匿名設定にしてましたが、匿名設定解除しました。
匿名にしてた主な理由は、当初連載する気がなかったから匿名にして、そのまま設定を解除しわすれてたってだけです。断じて他のサボっているのがバレたくなかったわけではありません。断じて。


なのでメッセージなども送れるようになってます。もしリクエストなどがありましたら、お送りください。アンチコメでなければ全て返信します。
あと感想についてですが、全て読んでます。返信してなくともとても励みになっています。いつも下さる方、単発でも下さる方、本当にありがとうございます。


シロナ
サトシポジとして事件解決に奔走した。映画では冒頭でクロツグとバトルしている時でしか出番はなかったが、今回はバリバリ主人公。やっぱこういう主人公はカイムよりもシロナさんの方が合ってるなって書いてて感じました。アルセウスよりもカイムの方が大事。

カイム
頭脳派に見せかけた脳筋。ちょっと嫌な役やってもらいました。汚い大人から見たポケモン映画のツッコミをしてもらっただけでなく、CV山寺宏◯のキャラを軽くボコした。ごめんね。

シーナ
遺跡の守り人。勝手に16歳くらいにしたけど実年齢不明。

ケビン
映画のラストでシーナと抱き合っていたから多分シーナと付き合ってる。正直映画だと見せ場ほぼ無し。

ダモス
いい人。こういう大人好き。

ギシン
ボコられてギャグ漫画みたいに転がされた人。


感想、評価は励みになりますので、よければお願いします。
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