ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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シロナ好きの皆様へ作者からのメッセージ。
この作品は作者の欲望と妄想から成り立っています。
細かい設定はかなぐり捨ててることもありますので了承できる方だけお読みください。
アルトマーレに今回来ましたけど、アルトマーレの詳細な部分とかだいぶ曖昧なので、映画でのものと異なるかもしれません。
また、今回の話は今まで以上に長く、普通なら二話構成にしてもおかしくないほどの長さであるのにもかかわらず筆が進んでしまったからという理由で死ぬほど長くなってます。ご了承ください。


ちなみに二人ともほとんど夏仕様の服でアルトマーレに来てます。
皆様の脳内でシロナさんを好きにコーディネートしてください。




3話 アルトマーレ

ヨシノシティ付近の港からフェリーで約三十分。

 

シロナとカイムの目的地である街が見えてきた。

 

「あ、見えてきたわね」

「あれが、アルトマーレ」

「そう。水の上に存在する街。世界で一番美しい街とも呼ばれているわ」

 

アルトマーレ

 

ジョウト地方にある水の上に存在する歴史ある街。街の中には水路が通っており、街中をゴンドラで移動することができる。

見た目が非常に美しく、人気が高いため、多数の観光客で常に賑わっている。

 

「思いの外、でかい街だよな」

「水の上にあるとはいっても、ベースは島だもの。島を人工的に拡張した結果、今の姿になったのでしょうね」

 

フェリーが街中に入っていく。入り口のところにいくつも柱が立っており、その頂上にはポケモンと思わしき彫像があった。

 

「……この街は、ラティアスとラティオスの信仰が深い街だったな」

「ええ。伝承では、『この街を襲った邪悪なものをラティアスとラティオス達が追い払った』と伝えられているわ」

「へえ…」

「あら、興味ない?」

「いや。ただ、その邪悪なものってのがなんだったのかなって。そんな抽象的な表現をしなきゃならんほどのことなのか、それとも『抽象的な表象をせざるを得ない』存在だったのかが気になってな」

「それは博物館で聞けばいいわ。ここには歴史的な遺物がたくさん展示されてる博物館があるの」

「そいつは興味深いな」

 

会話をしているうちにフェリーが港へと到着する。

荷物を下ろして予約したホテルへと向かう。

チェックインまでかなり時間があるため、ホテルのカウンターに荷物だけ預けて二人は街の散策へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に綺麗な街ね」

 

水路を跨ぐ石造りの橋を渡りながらシロナはそう言った。

普段の黒いコートではなく、水色のノースリーブにサンダルという身軽な服装で楽しげに歩き回っている。

対してカイムは黒い半袖のパーカーを紺色の半袖のシャツの上から羽織るという出立ちで、普段とあまり見た目に変化はない。

 

橋の下を流れる水は、人が住み着いている街の割に澄んでおり、水ポケモンが泳いでいる様子も見られる。

 

「他の街と随分様子が違うな」

「たとえば?」

「まず家の構造がかなり違う。マンションをすし詰め状態にしたって感じがするけど、多分この街ではそれが俗に言う『一軒家』扱いなんだろうな。古き街並みがそのまま残ってる」

「そうね。この街はジョウト地方に区分されているけど、本当のところはほぼ異国みたいな感じなのかもしれないわね。ここで発展した文化と、ジョウト地方の文化。かなり異なっているわ。共通しているのは多分、ジョウト地方のポケモンが生息していることくらいじゃないかしら」

 

街ごとに文化が異なるというのはどこの地方でも大なり小なりある。その土地ごとに生活の様式が変化するのはどこの地域でもかわらない。シンオウ地方は雪が多く降る地域であるため、雪の対策を済ませた上での生活となることが多い。発展の度合いは各街で異なるが、全体的な『雰囲気』とでも呼べるような空気はどこも似た感じになる。

しかしこのアルトマーレはジョウト地方のどことも異なる空気を持っている。建物の建築様式、食べ物、生活風景どれを取ってもジョウト地方のどこにも当てはめることはできない。

 

「でもいいわね。他の地域の空気を感じるのって」

「ああ。自分の過ごしている生活とは全然違う生活を送ってるのを間近に見るのって、こう……うまく言えねえけど、いいな」

 

水路を覗くと、チョンチーが数匹泳いでいくのが見える。

 

「せっかく来たのだもの。色々見て回りましょ」

「そうだな」

「そういえばね、私たちが泊まるホテルなんだけど、あそこゴンドラで送り迎えできるようになっているんですって」

「ゴンドラで?面白いな」

「だから帰りはゴンドラに乗ってみない?」

「いいんじゃねーの?せっかくだし、乗ってみようや」

 

 

 

 

 

海が一望できる広場に来た。

 

「わぁ、良い眺めね」

「この街で一番広い広場らしい」

 

広場には数々の出店が並んでおり、人で賑わっている。

広場の中心には柱のようなものが立っており、その頂上にはやはりラティアスとラティオスの像がある。

 

「あそこ、バトルでもやってるのか」

「盛り上がってるわね。ちょっと覗いてみる?」

「……まあ、いいか」

 

一瞬、チャンピオンのシロナが覗きにいったら大勢に囲まれてすごいことになるんじゃないかと考えたが、地方が違うし、ジョウト地方に来てからはほとんど話しかけられることもなかったため、カイムは特に問題ないだろうと判断した。

 

盛り上がっていた集団はやはりバトルをしていた。片方は地元民で、もう片方は恐らく旅行客だろう。

 

シロナ達が集団に到着して間もなく決着が付いた。

勝者は地元民らしき男だった。二人は健闘を称えて共に握手をしている。

 

「ちょうど終わったみたいね」

「間が悪かったか」

 

終わってしまったため、退散しようかとしたところで、勝利した地元民の男がシロナに向かっていった。

 

「そこの綺麗なお姉さん!あんた強そうだな!どうだい、一勝負していかないか?」

 

視線から自分に言われたと判断したシロナは優雅な笑みを浮かべながら集まっている集団の一歩前に出る。

 

「私のことでいいのかしら?」

「もちろんさ。で、どうだい?一勝負してくれるか?」

「貴方のポケモン、さっきのバトルで傷ついていない?」

「それはもう回復させたさ。こいつらもボルテージ上がっちまってる。もう一回くらいなんてことねぇよ」

 

男のポケモンであるオーダイルは肯定するように吠えた。

 

「なるほどね。受けてあげたいけど、私は一応立場のある人間なの。簡単に受けてはあげられないわ」

「へぇ、どうすりゃ受けてくれるんだい?俺もポケモンリーグに参加する資格を持ち合わせる程度の実力はあるんだが」

 

好戦的な笑みを浮かべる男に対してシロナは優雅に笑いながら言った。

 

「私の弟子に勝てたら、相手をします。カイム、出番よ」

「指名されたのお前だろうがよ……」

 

小言を吐きながらシロナの横へとたつ。

正直こうなることは予想できた。シロナが『立場のある人間』という言葉を聞いた時点でカイムは自分がやらされる未来がはっきり見えてしまった。

 

だがシロナに言われた以上、断る気はない。

 

「いいところ、見せてちょうだい」

「師匠の前で無様を見せるつもりはねーよ」

 

前に出ながらカイムは腰に吊り下がってるボールのうち一つを手に取った。

 

「頼んだ、ブラッキー」

「いけ!オーダイル!」

 

ブラッキーがボールから出た瞬間、オーダイルが前に出てきてバトルが始まった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「メガニウム!葉っぱカッター!」

「ブラッキー、回避してシャドーボール」

 

ブラッキーは放たれた葉っぱカッターを紙一重で回避すると、シャドーボールを放つ。

相手のメガニウムは直撃は避けたが、蓄積していたダメージがあるため動きが鈍く、僅かなダメージでもきつそうにしている。

 

「いけ!突進だ!」

 

最後の力を振り絞り、メガニウムはブラッキーに突進を仕掛ける。

 

「ブラッキー、ギリギリで回避して、トドメのしっぺ返し」

 

ブラッキーはメガニウムの突進を回避すると、その顔面に強靭な足蹴りを叩き込んだ。

突進の勢いで避けることができなかったメガニウムはモロにそれを受け、ダウンした。

 

「メガニウム!」

「もう立てねーよ。顎にダメージ入ってるからしばらく目ぇ回してるだろう」

「あーくそ!負けた!」

 

メガニウムのダウンと同時にカイムの勝利が決定し、周囲は大いに盛り上がる。

バトルが終わったと判断したブラッキーはカイムに歩み寄り、褒めてくれと言わんばかりにカイムの足に顔を擦り付けた。

 

「ありがと、おつかれさん」

 

ブラッキーを抱き上げ、労いの言葉をかける。

 

「くそー、まさかブラッキーで3タテされるとは思わなかったぜ」

「鍛えているからな」

 

男が歩み寄ってきて、悔しそうにそう言う。

男はオーダイル、バクフーン、メガニウムの三匹をブラッキー一匹で倒されている。悔しさは相当だろう。

 

「俺だってジムバッジ全部ゲットできるくらいはやれるんだがなあ」

「レベル上げて殴るしかできないなら、俺には勝てない」

「ああ、そうだな。こんなんでポケモンリーグなんて出ようもんなら、間違いなく予選落ちだろうよ。もっと頭使うべきだな、俺は」

 

男が差し出した手をカイムは握り返す。

 

「良い勉強になった。ありがとうよ」

「そうかい」

「次会った時は、お前を倒してあのお姉さんとバトルさせてもらうぜ?」

「やめとけ。あいつ、俺よりも遥かに強いから」

 

なにせシンオウ地方のチャンピオンで、公式大会では未だに負けなしの存在だ。この男がどれだけ鍛えても、正直勝てる見込みはない。

 

「はは!そいつはいい!なんにしても次は負けないぜ?」

 

じゃあなー、とカイムに手を振って男は去っていった。

ようやく群衆の目から解放されたカイムは大きく息をつく。

 

「お疲れ様」

「無茶振りはスケジュールだけにしてくれねーか?」

 

背後から声がかけられ、振り返るとシロナが優雅に微笑んでいた。

 

「貴方なら、レベルを上げて殴ることしかしてなかった人には負けないでしょ?」

「ポケモンのレベルをちゃんとあげられるだけ、まだマシなトレーナーだと思うけどな」

 

ポケモンは育て方次第ではレベルは簡単に上がるが、ポケモンバトルとはそもそもスポーツの一種。レベルはあくまで勝敗を決するための一因でしかない。だからポケモン自身が『戦い方』を覚える必要がある。ただ闇雲に力を振るうだけでは、到底勝つことのできない領域というものが存在することをカイムは知っている。

実際、ジムバッジを全て集めるだけならばレベルを上げてゴリ押すことだけでどうにかなる。しかしポケモンリーグとなると、そうはいかない。本戦に参加できるような猛者達は『レベルを上げたうえで、戦い方を確立させてきた』トレーナーなのだ。そしてそれは本気のジムリーダーも同様。自分の相棒達がどのようなスタイルが得意なのかを見極め、そしてそれにあった技構成をしている。

カイムはまだスタイルを確立させた段階。それを実践で扱うにはまだまだ経験不足。だからシロナは少しでも経験を積ませるために、カイムにバトルを投げた。

 

「でもよかったわよ。スタイルが染み付いてきたわね」

「教える人がいいんでね」

「ふふ、嬉しいこと言ってくれるわね」

 

シロナはボトルを差し出し、カイムはそれを受け取ると中身を勢いよく飲んだ。

 

「ブラッキーもいい動きだったわよ」

 

シロナに撫でられ、くすぐったそうにするブラッキーを見てカイムは僅かに笑う。

 

「カイムは、及第点ね」

「え?マジ?」

「もっといい指示、出せたはずよ」

「例えば?」

「最後のしっぺ返し、あれはカウンターを狙うよりも追撃で追い打ちを使った方が良かったわ。その方が反撃のリスクが減るからね」

「なーるほど。確かにそうだな」

「でも成長してたのは本当よ。そこは誇っていいわ」

「どーも」

 

昔と比べたら随分強くなったが、それでもやはりチャンピオンから見ればまだまだ伸ばせるところはあるらしい。

 

「さ、いきましょ。まだまだ見たいところはたくさんあるんだから」

 

上機嫌で先導するシロナの背中をカイムとブラッキーは追った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

街をある程度回ったところで、二人は食事を済ませ、そして博物館へと足を踏み入れた。

 

「アルトマーレの博物館、ね」

 

アルトマーレは非常に古くからの歴史がある街。故に、博物館の展示物も歴史的価値の高いものが多い。

中は荘厳な雰囲気で、古い建物の多いアルトマーレの中でも一際古く見える。

 

「すごいな」

「ええ、私もここは初めてだからとても興味深いわ。この街の成り立ちから現在まで、どうやって人々が生きてきたのかを学べる良い場所ね」

 

アルトマーレは『水の都』とも呼ばれている。それ故に、展示されている機械は水を制御するためのものが多い。

歴史の中には記録的大災害の記事もある。どの程度被害が出たのか、原因はなんだったのかなど、細やかな記載がされている。

 

「水の都って、聞こえはいいけど、多分生きていくのは結構難しいみたいだな」

「この街は海に面している街だから、水と共に生き、そして水に殺される街でもあるのね」

「海の気候一つで、簡単に沈みかねないだろうな」

「そうね、大きな嵐があった日は、きっととても大変だったでしょう。でもまだこの街が残っているということは、これまで街のみんなで協力しながら乗り越えてきたのでしょうね」

「この街の存在そのものが、努力の証なんだな」

「そういうことね」

 

博物館を進む。

展示されているものの中には化石となったポケモンもあった。

 

「へえ、カブトプスか」

「化石ポケモンね。大昔にはこういうポケモンもいたのよね」

「化石ポケモンは地方によって結構違うよな。ホウエン地方にもいたけど、ここに展示されてるポケモンはいなかった」

「地方ごとに違う生態系が築かれているからね。ホウエン地方の化石ポケモンは、確かリリーラとかがいたわね」

「ああ。そんでシンオウ地方はズガイドスとかだったな」

「今は化石ポケモンを復元する技術も確立してきたからね。時々、化石ポケモンを使ってるトレーナーもみるわ」

「革新的ではあるが、いいものかどうかはわからんな」

 

技術とは、使い方次第では善にも悪にもなる。どんな技術であっても、それは使う人次第ではその技術は『最悪の技術』へと変貌し得る。

カイムも未熟なりに歴史を学ぶ者。過去に革新的技術を間違えた使い方をした結果、大災害に繋がった事例をいくつか知っている。

 

「私もそれがいいものなのかはわからない。でも、それがどんなものなのか、どんな危険性があるのかを考えることは私たちが考えることではないわ」

「わかってる」

 

 

 

 

 

 

「大きな機械ね」

 

博物館の中で最も大きい広間には、とても古いが大きく、壮大な機械が展示されていた。

 

「ここ、博物館ってよりなんか大聖堂って感じだな」

「そうみたいよ。もともと大聖堂として使っていたみたいだけど、建物をそのまま博物館として利用するようにしたみたい」

「へえ……」

 

展示された大きな機械の説明文を読む。

どうやらこの装置が外からやってきた『邪悪』を祓うために使われた装置らしい。

 

「これは、一種の防衛機構なのか」

「みたいね。外から来た『邪悪』から街を守るための機械。どうやって守るかは……さすがに書いてないわね」

「………」

「カイム?」

「いや、なんでもない」

 

一瞬苦い顔になったカイムに心配そうにシロナは顔を覗き込むが、カイムはすぐに普段の表情に戻り、歩いていった。

 

「………」

 

カイムが何故苦い顔をしたのかはなんとなくわかったが、シロナはそれを口に出すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

博物館を出て、再び街を散策していると、ふと背後から視線を感じ振り返る。だがそこにはなにもなく、ただ細い道が広がっているだけだった。足元にいるブラッキーもなにかを感じたのか、耳をピコピコ動かしながら背後を見つめる。

 

「どうしたの?」

「いや、なんか見られてる気がして…」

「あら、ゴーストタイプのポケモンでもいたのかしら」

「んー…わからん」

 

気のせいだったのだろうと結論付け、カイムはシロナの隣に並ぶ。

 

「もしかしたら、ラティアスとかがいたのかもしれないわね」

「ラティアス?なんでだよ。この道にラティアスが隠れられるスペースなんかあるか?」

「伝説のポケモンって、透明化できたりする個体が結構多いのよ。下手に姿を見せて、その力を悪用されないようにするためにね」

「へえ…そうなのか」

 

今までカイムは伝説と言われるポケモンに出会ったことがない。故に伝説のポケモンに対する知識はあるが、生態についてはほとんど知らない。もともといたホウエン地方のグラードン、カイオーガ、レックウザやレジ系のポケモンについては多少知識があるが、それもせいぜい伝承にあり、子供でも知っているようなものだ。また、シンオウ地方の伝説についてはシロナの助手として活動するようになってから学んだため、ある程度の知識はあるが、伝説のポケモンに遭遇自体はしたことがない。

 

「シロナはあるのか?伝説のポケモンに遭遇したこと」

「私?ええ、あるわよ。結構前だけど、満月島に行った時にね」

「満月島……シンオウ地方北部の孤島か」

「ええ。そこでクレセリアに遭遇したわ。とても綺麗なポケモンだったわ」

 

月を司るクレセリアにシロナはかつて遭遇したという。

カイムが知らないことと、そしてシロナ本人の口からかなり前ということから、もしかしたらシロナがチャンピオンになったくらいの時期なのかもしれない。詳しいことは聞かないが、口ぶりからして遭遇しただけなのだろう。バトルもせず、ただ『会った』。伝説のポケモンはその土地を守ったりすることが多々ある。故に、そこからいなくなればその土地からポケモンの加護が消えることに繋がる可能性もある。だからシロナは捕獲もバトルもしなかった。

ポケモンという種族を愛する彼女らしい行動だとカイムは思った。

 

「特になにもしなかったけど、会えてよかったわ」

「そうか。俺もいつかそういうポケモンに会ってみたいもんだな」

「興味あるの?」

「トレーナーなら誰でも興味あるだろ。捕獲しようとは一切思わんけど、一度会ってみたいとは思うよ」

 

伝説のポケモンというのは尽く強大な力を秘めている。カイム本人に伝説のポケモンを捕獲したい、という思いはカケラも存在しないが、それでも存在そのものには興味がある。

 

「いつか会えるわ」

「なんでそう言い切れんだよ…」

「貴方はとてもポケモンに好かれやすいから」

「それだけで会えるもんでもないだろうが」

 

やれやれといった様子でシロナから視線を逸らし、ふと前を見ると、壁に一枚のチラシが貼ってあるのが見えた。

近づいてみてみると、『水上レース エキシビションマッチ参加者募集』と書いてあった。

 

「なんか貼ってあるな」

「ああ、水上レースね」

「水上レース?」

「そう。アルトマーレの街中の水路をコースとして行うレースのことよ。水ポケモンに小さなボートを引いてもらって、トレーナーは水ポケモンの手綱を操ってゴールを目指すものよ」

「でもこれって、夏しかやってないんじゃ…?」

「エキシビションって書いてあるから、毎年やってる大会とは別物なのかもしれないわね」

「参加資格は、水ポケモンの所持ね」

「興味あるの?」

「いや」

 

思いの外熱心に読み込んでいたからてっきり興味があるのかと思ったが、違うらしい。

 

「まず俺、水ポケモン持ってねーし」

「貸してあげるわよ?」

「いくらシロナのポケモンでも、ぶっつけ本番でまともな成績出すのは俺にはきつい」

「熱心に読むからてっきり興味あるのかと思ったのだけれど」

「単純に見せ物としては面白そうだと思っただけだ。開催日も滞在期間と被ってるしな。せっかく名物なんだし、見ていきたいと思っただけだ」

 

開催日は滞在期間の中にちょうど被っており、見ていくには丁度いい時間だった。

 

「景品は、アルトマーレ名産のガラスを使ってるメダル、ね」

「あら、すごく綺麗ねこれ」

「なんだ、お気に召したのか」

「そうね。でも当たり前だけど、景品は優勝者だけみたいね…」

 

そこでカイムの頭に一つの策が浮かんだ。

博物館に行く前にバトルを丸投げされたことを思い出し、ちょっと意趣返ししてやろうと企んだ。

 

「おいおい、シンオウ地方のチャンピオンがこんなことに怖気付くのか?もっとでけぇ舞台で戦ってきたシロナが」

「バトルとレースは違うわよ。それに私、ミロカロスに乗ることはあってもボートを引かせることなんてしたことないのよ」

「そりゃそうだろ。でもシロナなら、どうにかできるだろ?」

「どうしてそう言い切れるの?」

「世界で一番の、俺の師匠だから」

 

何において一番なのかは言わない。言わなくとも伝わるから。

 

「それに、さっき俺は成長してるとこをバトルで見せたぜ?」

「むう…さっきの意趣返し?」

「それもあるが、別の理由が一番強い」

「どんな理由?」

 

 

 

「俺は、シロナのかっこいいところが見たい」

 

 

 

普段滅多に人に向けて笑わないカイムが、僅かに口角を上げるだけではあるが、シロナに向けて挑発的な笑顔を向けた。

その表情にシロナの心は射抜かれ、僅かに残っていた抵抗の心もなくなり、両手を上げた。

 

「降参。貴方にそう言われちゃ、私としても引き下がるわけにはいかないわ」

「安心しろ。ちゃんと応援してやっから」

「当たり前でしょ?応援してくれなかったらレースの途中で不貞腐れるわよ」

「お前が不貞腐れると面倒だから勘弁してくれ」

 

カイムは苦笑しながらチラシをスマートフォンで写真を撮った。

 

「受付は、ネットでもできるみたいだが、このゴンドラ修理場でやってるみたいだな」

「あまり距離はないわね。観光に来たのだし、行ってみましょう」

 

地図を頼りに二人は歩き出した。

 

ブラッキーも二人に続いたが、足を止めて背後をじっと見る。やはりなにもいないが、『なにか』がいるのをブラッキーは感じていた。

 

「ブラッキー」

 

カイムの声に振り返り、ブラッキーはカイムの元へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませーん」

 

博物館近くのゴンドラ修理場に二人は訪れた。

 

「はいはい、いらっしゃい」

 

声を上げると、恰幅のいい老人が奥から出てきた。

見たところ、ここの店主だろうか。

 

「どうなさいました?ゴンドラの修理でしたら受けますが…」

「ああいえ、今度の水上レースに参加したくて」

「おおそうですか!ちょうどあと一人足りなかったのでよかったです」

「あら、滑り込みセーフね」

「お名前を伺ってもよろしいですかな?」

「シロナよ」

「シロナ……もしや、シンオウ地方の?」

 

老人はシロナのことを知っていた。

尤も、名前のみで姿までは認識していなかったらしい。

 

「ええ」

「これはこれは、随分と有名な方が」

「お忍びってほどではないけれど、あまり騒がれるのも良くないから一応黙っててもらっても大丈夫でしょうか」

「問題ありませんぞ。そこはご安心ください」

「良かったわ」

「申し遅れました。私はボンゴレと申します。この街でゴンドラの修理を生業としてます」

 

老人はボンゴレと名乗ると同時にカイムに視線を向けた。

 

「そちらの御仁は?」

「ああ、私の助手」

「カイムといいます。よろしくお願いします」

「カイムさんですな。よろしく頼みます」

 

朗らかにボンゴレは笑いながらシロナに一枚の紙を手渡した。

 

「参加に当たりまして、スケジュールと注意点をお伝えしておきます」

 

ボンゴレは一枚の紙をシロナに手渡した。そこには水上レースのスケジュールと注意点が書かれていた。

カイムは後ろからその紙を覗いたが、見たところ特別ルールが厳しいということも無さそうだ。

 

「まぁ年寄りが長ったらしく話すようなことは特にないです。毎年やってるので観光客も多く参加してますし、気楽に参加してください」

「わかったわ。でも今年はなぜ少し早い時期にエキシビションなんてやることになったのかしら」

「主催者の思いつきらしいです。この街は祭り好きが多いのでなにもない時期にこうして誰かの思いつきでなにかをやることもあるのですよ」

 

確かにこの街は全体的に陽気で明るい人が多い。街全体が辛気臭いよりははるかにマシだが、思いつきでちょっとした祭りをやるという行動力にも驚かされる。

 

「まぁ実際は夏にある水上レースの練習みたいなものでしょう。景品もつければ参加者も集まるだろうとでも考えたんじゃないですかね」

「ふふ、面白いじゃない。そういう突発的なことは嫌いじゃないわ」

「そうですか。しかしシロナさんはさすがにこの水上レースは初めてですよね?」

「そうね」

「明日の午前中にいらしてくれたら、水上レースで使うボートの試乗くらいはさせてあげますよ。さすがに練習は無理ですけど、ボートに乗る感覚くらいは掴めるはずです」

「あら、それはありがたいわ。じゃあ、明日の午前にまたきます」

「是非いらしてください」

 

それでは、と言ってシロナは修理場から出ていく。

だがカイムは追うことはせず、その場に留まりボンゴレに目を向けた。

 

「どうなさいました?」

「すぐ終わります。ちょっと聞きたいことがあります」

「はい、私に答えられることであれば」

 

にこやかにそう答えるボンゴレに対して、カイムの表情は僅かに硬い。

 

「……この街を守る防衛機構の機械を博物館で見ました。あの装置でアルトマーレを守ってきたんですよね」

「伝承ではそうなっておりますな」

「…じゃあ、あの機械の『原動力』ってなんですか」

 

その言葉を聞くとボンゴレは大きく目を見開いた。

 

「…何故、それをお聞きになりたいと?」

「……あれだけ大きな機械、動かすとなると相当のエネルギーが要る。それが単純に電気で動くというのなら、特になにも聞く気はなかった。でもあの装置、構造上なにかを『収容』する部位があった。つまり、あの装置は……」

 

カイムはそこで言葉を切る。

できることなら、自分の解釈が違うものであってほしいと思っていたからだ。

しかしカイムはボンゴレの表情を見て確信した。自身の解釈が正しいものであったと。

 

 

正解を引いてしまったと。

 

 

「…すみません。こんなこと聞いて」

「いいえ。むしろ、私は『その答え』にたどり着いた貴方が、そのような表情をしてくれる人で良かった」

「………」

「カイムさん、貴方は優しく、そして己の力の限界を知る者なのでしょう。だから、その思いは……貴方の大切な人に向けてあげてください。貴方がどんなに心を痛めても、この事実は変わらない。だからせめて過去に囚われず、共に歩む人たちにその優しい『こころ』を、向けてあげてほしい」

「…失礼します」

 

俯いたままだったカイムは顔を上げ、真っ直ぐとボンゴレを見るとその場を後にした。

 

 

ボンゴレはカイムを優しい人だと思った。自分達の一族がひた隠しにし、守ってきた秘密を知ってあのような顔ができる人はそういない。大体の人は知ったとしても所詮他人事だと捉えて終わる。なのに彼は心を痛めた。その痛みはきっと憐れみではなく、覚悟の重さを想像して現れたものだろう。

ボンゴレは悲しげに笑いながら、なにもないはずの空間に語りかけた。

 

「彼らならいいよ。好きにしなさい」

 

空気が揺れ、『なにか』が飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れた」

「一日中歩き回ったからねー。流石に疲れたわ」

 

夜、一通り街を周り、食事を済ませて二人はホテルへと戻ってきた。

一日中歩いていたこともあり、足にはかなりの疲労感がある。

 

「でもさすが臨海部ね。海の幸は別格に美味しかったわ」

「そうだな、普段あまりお目にかかれないような素材もあったし、なかなかだった」

 

アルトマーレは海に面していることもあり、海の幸が有名であった。

特にシロナは自身で頼んだ海の幸をふんだんに使ったカルパッチョをいたく気に入っていた。

 

「でもいいわね。ミオシティとは違う海。潮風の感じも違う。同じ海なのにここまで違うものなのね」

「地域が異なるってのもあるんだろうけどな」

「そこに住み着いた人々の空気もあるからね。私たちの知らないところではこういう風に過ごしていた人たちがいる。それを考えると不思議な気持ちになるわ」

 

窓から吹き込む潮風を浴びながらシロナはそう言った。

カイムはぼんやりその後ろ姿を見ていたが、唐突にシロナは振り返り、真面目な顔でカイムに問いかけた。

 

「ボンゴレさんのとこで、なにを聞いてたの?」

 

シロナの問いかけに、カイムは大きくため息をつく。

 

「……大体予想ついてんじゃないのか?」

「あの大聖堂にあった大きな機械のことであってる?」

「…ああ」

「あの機械は街を守る防衛機構よね。その機械の『なにについて』カイムは聞いたの?」

「……俺は、あの機械の『原動力』についてボンゴレさんに聞いた」

「なんて答えたの?」

「なにも答えなかった。でも、俺の予想が当たっていたことがわかった」

 

カイムは目を伏せる。

 

「……あなたの予想、聞かせてもらえる?」

 

シロナはカイムの正面に座り、カイムの手を取った。

 

「…俺、タマムシ大学にいた時に他の学部にも結構知り合いがいたんだ。そいつらの話を聞いてたから、考古学以外にも機械や薬剤に関する知識も俺は一般人と比べて多い。だからなのか、あの機械を見た時にまずどうやって防衛機構として働くのかよりも、『原動力』がなんなのかを考えちまった」

「それで?」

「あの機械にはなにかを収容できるような構造があった。そこになにかを入れることで、あの機械は動く。じゃあその入れるものがなんなのかを、予想した」

 

カイムの手に僅かに力が入る。

 

「……もうここまで言えば大体わかるだろ」

「…ええ。あの機械の原動力、それは……ラティアスやラティオスね」

「恐らく、な。あの機械は、ラティアスかラティオスを『生きたバッテリー』として使い、動かすものだ」

 

恐らく、伝説と言われるだけのポケモンの生体エネルギーを利用して動かすのだと予想できる。だが恐らく、あれを十全に動かした暁には、生きたバッテリーとして利用されたラティアス、またはラティオスは無事ではない。

 

「……ボンゴレさんは否定しなかった。多分、あの人の親族かなにかであの機械の秘密を守っているんだろう」

「そう…」

「ここは資源も豊富だし、外界から狙われることもあったのかもしれない。それらから身を守るための装置だ。生半可なエネルギーじゃ動かないだろうよ。だからポケモンをバッテリーにした」

「カイムは、その事実を知ってどう思ったの?」

 

シロナの言葉に、カイムは視線をあげてシロナを見る。その瞳には悲しみの光が宿っていた。

 

「ただ、悲しかった。これだけ壮大な機械だ。多分、作る時に相当苦労しただろう。そしてラティアス達をバッテリーとして使うしかないことも、きっと苦肉の策だったはずだ。今まで共に生きてきた仲間だからな。だからこそ、この街はラティアス達の信仰で溢れてる。文字通り『護神』としてこの街を救ってくれたんだからな」

「そうね」

「悲しむことではあっても、疎ましく思うような歴史じゃない。こういう歴史は人類が生きてきた中でも似たような話は、多分他にもある。公表できるような歴史でもないこともわかる。ただ、それを隠して、その罪を一身に背負っている人たちのことを考えると、やるせない気持ちになる」

 

アルトマーレの防衛機構であるあの機械はボンゴレの一族が管理している。カイムがそれを知る由はないが、『誰かが今までずっとその罪を背負ってきた』ということを考えると、どうしようもなくやるせなく思ってしまう。

 

「罪を背負う覚悟をした人たちも、自らを原動力としてでも街を守ろうとするポケモン達の覚悟も、讃えられるべき覚悟だ。それを声を大にして広めることなんてしないが、それでも、この美しい街のために身を捧げた存在があったことを、俺たち考古学者は忘れちゃいけない。そう思った」

 

以前、シロナはカイムに言った。『考古学を学ぶということは、人々とポケモンの歩みを学ぶということ。そしてそれは、必ずしも輝かしいものだけではない。血生臭いものや、後ろ暗いものもある。でもそれらのために身を捧げた存在がいるということを、私たちは知らなければならない。忘れてはならない。後世にその記録を残していかなければならない。それが、私たちの存在意義よ』と。

その教えはカイムの中で考古学を学ぶ時、基盤となる教えだった。その教えがあったからこそ、カイムはこのアルトマーレの歴史を知り、そしてそれに身を捧げた存在のことを考えて、心を痛めた。

 

そんなカイムにシロナは語りかける。

 

「私は貴方のそういうところを認めているの。ただ学び、そして記録に残すだけなんて誰でもできるの。でもね、そのかつてあった事実に対して『どう思うか』をちゃんと口に出すことができて、そしてその人達に思いを馳せることができる。これは、誰にでもできることじゃない。だって結局他人事なのだもの。見ず知らずの過去の誰かのために思いを馳せるのって、案外みんなできないの。でもね、貴方はできる。いい歴史からも、悪い歴史からもね。そしてそれを心に刻む。きっと貴方は悪いことばかりすぐ頭に浮かぶと自分を卑下したのでしょう。でもね、後ろ暗いものでもちゃんとそれを『悪いこと』だとわかり、受け止めることができる。これは、貴方の美徳よ」

 

どんな歴史であっても記録し、受け継いでいく。それが考古学を学ぶ者の務め。たとえそれが負の遺産であろうとも、かつて『そういう』ものがあったということは忘れてはいけない。

だが記録する側もただ記録するだけではいけない。その記録を知り、それを教訓にしていく。それができないものは考古学者たり得ないとシロナは考えている。

その点カイムは初めからそれができていた。才能が無く、本能で察することはできない分、他から与えられたものには敏感だった。

 

 

ただ、敏感過ぎる気質があった。

 

 

だから時々、痛ましい歴史を知り、心を痛めていた。行ったことではなく、それを行うまでの経緯とそれを行った人たちの思い。それを考えてカイムは心を痛める。

過去に囚われ、心を壊しかねないほど危ういと思いながらも、シロナは止めない。

 

「存分に過去に想いを馳せていいの。貴方が過去に囚われ、歩を止めた時は私が貴方の手を引いてあげるから」

 

シロナはカイムの手を優しく撫でる。

たとえカイムが過去に囚われ、日々研鑽していくための足を止めたとしても、シロナが手を引き歩き出させる。

振り返るのもいい。過去に想いを馳せるのもいい。でも、どんなに遅くとも歩みを止めることだけはさせない。自分の弟子になるというのはこういうことだと、シロナは伝えた。

 

「…ああ」

「わかったならよし!」

 

シロナはカイムの額を指で小突くと立ち上がり、再び部屋の窓からアルトマーレの夜景を眺める。潮風が彼女の長い髪を揺らす。

カイムは小突かれた額をさすり、シロナに顔を向ける。

 

「シロナ」

「ん?」

 

 

普段シロナ以外の人間が見ることのないくらい穏やかな表情でカイムは告げる。

 

 

「ありがとう」

「ええ」

 

 

その表情が見れただけ、シロナは役得だと思った。

 

 

 

 

 

 

「なかなか新鮮な感覚だったわ」

「たった数十分で慣れるとかお前なんなん?」

 

翌日、朝食を済ませた二人はボンゴレの元に出向き、水上レースで使うボートに乗る感覚を掴む練習を行った。(本来カイムはいらないが、シロナが一緒にやろうというからしぶしぶやった。)

しかしシロナはものの数分でボートに乗る感覚に慣れた。長年水上レースを見ているボンゴレでもこれほど早く慣れる人は見たことないという。

なお、カイムは全くできなかった。

 

「こればかりはセンスかしらね」

「まーいいけどさ。ただ俺もやらされたせいで俺のセンスの無さが露見したじゃねぇか」

「ふふ、面白かったわ」

 

思い出してくすくす笑うシロナをジト目で見ながらカイムはため息をつく。傍らを歩くルカリオが慰めるように背中を軽く叩いてくる。

 

「ったく……なんでもいいけど、そのかわり良いところ見せてくれよ?」

「任せなさい。優勝を狙う気でいくから」

 

自信に満ちた表情でシロナは宣言する。

 

「で、そろそろ良い時間だが昼飯はどうするよ」

「そうね……近くにいいお店はないかしら」

 

スマートフォンを取り出し、シロナが周囲の店を調べようと操作をし始めた。

その瞬間、ルカリオが振り返る。

 

「ルカリオ?」

 

ルカリオの視線を追うが、そこには人だかりがあるだけ。

 

「……?」

 

シロナもつられて視線を向けるが、特に変わった様子はない。

 

「……あの子」

「カイム?」

 

雑踏の中で、唯一カイムに視線を向けている少女の姿を認める。

茶色い髪で、緑色の服を着て白いタイトスカートを穿いている。雰囲気はどことなく、不思議な感じがする。

 

「…ルカリオ」

 

ルカリオは頷くと目を閉じる。

 

視界が閉じられると同時に、周囲の存在の波導がルカリオの脳内に映し出される。

そしてその中でも一際強い波導を発している存在がいた。

ルカリオは目を開け、カイムに頷く。

 

「なるほど、やっぱりか」

「カイム、もしかしてあの子…」

「ああ、間違いない」

 

再び少女に目を向けると、少女は手招きし、路地裏へと入っていった。

 

「ふふ、誘ってるわね」

「行くか」

 

 

 

 

 

 

少女を追いかけ、二人は走る。道は細く曲がりくねっているため見失わないように建物の上をルカリオが走り先導する。

 

「ここを右だ」

「あの子、足速いわね」

「速いが、まぁそういうことだろ」

 

もくもくと少女を追ううちに水路に差し掛かる。少女はその水路を難なく跳び越え、その先で手招きしている。

 

「あまり広くないから跳べそうだな」

「カイムはそうかもしれないけど、私はちょっと自信ないわよ」

 

水路は広くないが、カイムと比べて普段から身体を鍛えているわけではないシロナがこの広さを跳べるかといったら、少し厳しいかもしれない。加えて今はサンダル。走る程度ならギリギリどうにかなるが、跳ぶとなるとあまり適している履き物とは言えない。しかし付近に橋もないため、回り道するとなるとそこそこ時間を割いてしまう。

 

「俺が先に跳ぶ。向こうで手を引いてやるから、全力で飛んでこい」

 

そういうとカイムは軽く助走を付けて水路を跳び越えた。

難なく着地すると、カイムは振り返りシロナに向けて手を差し伸べた。

 

「大丈夫だ」

「…頼むわよ」

 

シロナもカイムのように助走を付ける。

そして出せる最大の速度で走り、跳んだ。カイムと比較してやはり勢いが僅かに足りなかったため、このままではギリギリのところで届かない。

 

だがカイムはシロナの伸ばされた手をしっかりと掴み、そしてシロナを抱き止めた。

 

「大丈夫か?」

「ええ、ありがと」

 

シロナが無事であることを確認したカイムはシロナを離した。

 

「よし、行くぞ」

 

カイムは再び走り出し、シロナもその後を追った。

 

 

シロナの少し嬉しそうな表情に、カイムが気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

少女を追って数分、シロナの息が切れ始めたところで少女は人目に普通ならつかないような場所で曲がり、そして奥へと進んでいった。

ルカリオは上からはこれ以上追えないと判断し、カイムのもとに降りてくる。

 

「上からは無理か」

「ここを進むしかないわね」

 

目の前の道は薄暗く、とても細い。人一人がギリギリ進める程度の細さだ。

 

「いきましょ」

「だよなあ」

 

ここまで追ってきて帰るという選択肢はない。

カイムを先頭に一行は進み始めた。道は薄暗いが、地面は見える。また、湿気などもほとんど感じられないため、暗い以外には特に問題なく進める。

 

そして少し進むと開けた場所に出た。

 

植物がアーチのような形になっており、先程までの道と異なりとても明るく、暖かい光に満ちている。

 

「ここ、は?」

「すごいわ……とても綺麗に手入れされた庭園ね」

 

足を進めると、そこはシロナが表現したようにまさしく庭園だった。手入れされた植物に咲き乱れる花、噴水から流れる水の音が僅かに聞こえる。

 

「すげえ」

「本当ね。でも誰もいないわ…さっきの女の子も」

 

いない、と続けようとしたところでシロナは人影を視認する。キャンバスの前で筆を動かす少女だった。そしてそれは、先程カイム達が追っていた少女と同じ見た目をしている。

 

「あの子……さっきの子じゃ、ない?」

「雰囲気が違う。なんとも言えないが、多分別人だな」

「とりあえず他に人もいないし、話しかけてみましょ」

「そうだな」

 

二人は絵を描く少女に近づき、声をかける。

 

「ねえ貴女、ちょっといい?」

「え?わっ!あなたたちは⁈どこから入ったんですか⁈」

「どこから……うーん、ちょっと説明が難しいけど、誘われてここに来たのは確かね」

「誘われて?」

「ええ、貴女と同じ姿をした子に」

「私と同じ?あ、まさか!」

 

少女は振り返ると、木の陰から顔を出す少女と同じ顔をした存在の姿があった。

 

「もう、また私に変身してたの?ラティアス」

 

そう少女が言うと、少女と同じ姿をした存在は光と共に姿が変化し、戦闘機のような見た目の赤いポケモンへと変化した。

 

「ラティアス…」

「この子がラティアスなのね」

「ここにあなたたちを招待したのは私に変身したラティアスみたいですね。もう、あの子すぐに私に変身して街中を彷徨くから」

 

やれやれといった様子の少女は二人に向き直る。

 

「もうし遅れました。私はカノンです。ここの庭園の管理者の一人」

「私はシロナ。ポケモントレーナーよ。それでこっちは私の助手のカイム」

「カイムだ。よろしく」

「よろしくお願いします。で、二人はあの子に誘われてきたってことでいいんですよね」

「ええ、そうね」

「ならいいです。本当はここ、人が来ちゃいけない場所なんですけど」

「なにか、理由があるんだよな」

 

カノンは頷くと、噴水に歩み寄り、手招きをした。

二人が噴水に近づき中を覗き込むと、そこには宝石のように輝く玉があった。

 

「きれい…これは?」

「『こころのしずく』と呼ばれるものです。これはアルトマーレが平和に過ごせるように守ってくれるものなんです」

「ただの宝石ではないようだな」

「ええ。悪用しようと思えば、恐ろしい事態を引き起こすことも可能なものです。これのおかげでアルトマーレは世界一美しい街と呼ばれるにまでなりましたが、逆に言えばこれを悪用されれば、一瞬で滅びます。それだけ危ないものなんです。だからここにはラティアスとラティオスが認めた人しか入れない。ここがあることすらみんな知らないんです」

「俺らはいいのかよ」

 

いくらシロナがシンオウ地方のチャンピオンとはいえ、アルトマーレでは部外者。そんな重要な機密情報を知ってしまっていいのかという思いからカイムはカノンに聞いた。

 

「はい。ラティアスは遊び好きでとても人懐っこいですけど、人の悪意には敏感です。ラティオスも人を見る目はあるので、ラティオスが止めてないということは大丈夫だと思います」

「ラティオスもいるのか?」

「はい。今カイムさんの真後ろに」

 

勢いよく振り返ると、そこには鋭い目つきをした青色のポケモン、ラティオスがカイムをじっと見つめていた。

 

「うお⁈」

「二人がここに人を招き入れたのなんて、いつ以来でしょうね。かなり長いことボンゴレさん以外に人は来ていませんよ」

 

久々の新しい人にラティアスはすぐにでも遊びたいとうずうずしている様子だった。

 

「よければ、二人と遊んであげてください」

「ええ、喜んで。さ、みんな!新しい友達よ!」

「わーったよ。こんな機会滅多にねぇ。満足いくまで遊び倒してやるよ!」

 

シロナとカイムは手持ちのポケモンを全て出した。

 

「ほれ、遊びてぇんだろ?付き合ってやんよ」

 

そうカイムが言うとラティアスは嬉しそうに目を輝かせ、飛び回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れた」

 

ラティアスやポケモン達とのおにごっこに散々付き合わされたカイムは息も絶え絶えになり、ベンチに腰掛けた。

カイムがいくら鍛えているとはいっても、ポケモン達の身体能力と比べたら敵わない。それでもかなり頑張っていたが、とうとう限界が来た。

 

「あらあら、ふふふ」

 

そしてその当のラティアスはすっかりシロナに懐いたようで、シロナのグレイシアやカイムのブラッキーを背中に乗せて飛び回り、それを見せてシロナに褒めてもらおうとしていた。そんなラティアスを愛おしいものを見る目でシロナは見て、顔を近づけてきたラティアスに抱きつき、撫で回している。

美人と可愛らしいポケモンのコンビはなんとも眼福なものであり、ずっと見ていたいと思わせるほど平和なものだった。

 

「んお?」

 

ムクホークと速さ勝負をしていたラティオスがカイムの隣に来た。カノンの話では、ラティオスが兄、ラティアスが妹らしい。

 

「ラティオスも大変だな。元気すぎる妹がいるってのは」

 

ラティオスは『それはそちらもだろう?』とでも言いたいような目で見てくる。カイムは苦笑しながらそれに答える。

 

「まーな。俺は俺で、なかなか強い相方だからな。大変ではあっても、嫌だと思ったことはないけど」

 

ラティオスは頷く。

シロナの方に目を向けると、シロナはロズレイド、グレイシア、ブラッキー、ラティアスと共に花の冠を作っていた。シロナの作った冠がいたく気に入ったのか、ラティアスはとても嬉しそうにしており、シロナはそれを見て微笑んでいる。

 

「お互い、大事な人を守るために頑張ろうや。俺の方は、守る必要はあんまないかもしれんがな」

 

その言葉を聞くと、ラティオスはカイムに顔を近づけて、その頬を舐めた。

 

「うお⁈な、なんだよ、くすぐってえよ」

「ラティオスが人の頬を舐めるのは、親愛の証ですよ」

 

背後から声が聞こえてきたので振り返ると、そこにはカノンがいた。

カイムの隣にカノンは座り、言った。

 

「なんだ?ラティオスがシンパシーでも感じてくれたのか?」

「かもしれませんね」

「喜んでいいのかわからんな」

「ラティオスに好かれるなんて、才能だと思いますよ?」

「ま、なんでもいいよ。こうして伝説と呼ばれるポケモンに出会えたんだ。こんな経験、そうねーだろうしな」

 

顔を近づけてきたラティオスをカイムは優しく撫でながらいった。

 

「普段は、あんた一人か?」

「いえ、私だけでなくボンゴレさんというゴンドラの修理屋をしてる方と共に管理してます」

「ああ、あの人」

「ご存知ですか?」

「ああ。シロナが今度ある水上レースに参加するから、それ関連で」

「へえ!シロナさん参加するんだ」

「みたいだな」

 

興味なさげにいっているカイムだが、シロナが参加する要因を作ったのは他ならないカイムだ。実はシロナ以上に水上レースを楽しみにしていたりする。

 

「カノンは、絵描いてたけどいつも描いてるのか?」

「はい。趣味でして、普段からよく描いてます」

「見せてもらってもいいか?」

「構いませんよ。どうぞ」

 

カノンの手から渡されたスケッチブックを受け取り、それを開く。

そこには色々な絵が納められていた。アルトマーレの街並みや、この庭園の景色、そしてラティアスとラティオスをはじめとした数々のポケモン達の絵がそこにはあった。

 

「すげえ、上手いな」

「小さい頃から描いてたので」

「好きこそものの上手なれ、って言うしな」

「カイムさんはなにか続けてきたことってあるんですか?」

「んー…」

 

続けてきたこと、と言われるとカイムは答えられるものはあまりない。バトルは続けているが、本格的にバトルを学んだのはシロナの元で考古学を学び出してからだ。考古学も正直学生時代は誇れるほどやっていない。それこそシロナの助手になってからの方が遥かに濃密に学んでいる。

 

「カノンの絵と比べたら、続けていると言えるほどのものはないな。ただ考古学とバトルは、シロナの助手になってからはずっと続けてる」

「そうなんですね。……ところで、お二人ってお付き合いしたりしてるんですか?」

 

会った時からシロナとカイムの仲の良さを見てカノンは二人が付き合っているのではないかと思っていた。シロナはカイムのことを助手としか紹介しなかったが、実際のところはどうなのか年頃女子のカノンは知りたかった。

 

「ええ…そんなこと気にすんの?」

「気になるんですよ〜」

「ちっ、色気付きやがって」

「私はまだまだ子供ですけど、でもそういうことが気になる時期でもあるんです!」

「そーかよ…」

 

面倒くさそうにカイムは立ち上がって、伸びをする。

 

「で、実際のところどうなんですか?」

「うるせーな……助手だよ、助手。あとは好きに想像しろ」

 

それだけ言ってカイムはシロナ達の元へと歩いていった。

 

残されたカノンとラティオスは目を見合わせる。

カイムは『付き合っているのか?』という問いに対して明確な答えは言っていない。否定も肯定もしなかった。つまりどちらとも取ることのできる答えだということだ。

どうあっても答えるつもりはないらしい。カイムがこれなら、シロナも言うつもりはないのだろう。

 

「大人ってずるーい!」

 

頬を膨らませるカノンの頭をラティオスは優しくなでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

水上レース当日

 

「やれやれ、思った以上に人が多いな」

 

参加者受付前でカイムは感心したような声を出す。

観客はカイムが想像していた以上の数の客が集まっていた。ボンゴレがいっていた祭り好きという話は本当らしく、普段以上に盛り上がった空気が辺りを満たしている。

 

「この街の名物だもの。特例的なものとはいえ、みんな興味があるのでしょうね」

「で?優勝できる見込みは?」

「さあ?でも負ける気は全くないわ」

 

初出場のシロナにどれくらい勝機があるのか素人のカイムはわからない。だがそれでもシロナなら優勝できてしまうのではないかと、そう思ってしまう。シロナが今浮かべている好戦的な笑みがそんな気にさせてくる。

 

「まあいいや。期待してるぜ?」

「ええ、ゴールで待っててね」

「それだとスタートを見られないんだが?」

「んー、それもそうね。とりあえず、私の勇姿を見ててね」

「はいはい」

 

それだけ言ってシロナは参加者の集まりに交ざっていった。

 

「さて……俺は、と」

 

スマートフォンをカイムは取り出し、スタートの位置からゴールの位置までの最短距離を調べ始めた。

 

 

カイムが背後から見つめる視線に気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

スタート位置に出場者全員が集い、各員水ポケモンに手綱をつけてボートに乗り、待機している。

中でも異彩を放つのはやはりシロナだった。なにせ、ジョウト地方では非常に珍しいミロカロスを使っているからだ。美人が最も美しいポケモンを操るという目立つ要素しかないシロナにカイムは苦笑する。

 

開始の時刻が近づき、タイマーが起動する。

 

そして3カウントの後、破裂音と共に出場者が一斉にスタートした。

 

橋の上にいるカイムに一瞬だけシロナは目配せをし、コースである水路をシロナは手綱を操りながら走り去っていった。

 

「さて…」

 

シロナの後ろ姿が見えなくなった瞬間、カイムはルカリオとバシャーモをボールから出し、走り出した。

 

「ゴールまで最短でいく。悪いが、頼む」

 

ルカリオとバシャーモはカイムの言葉の意図を理解し、カイムに続いた。

少し走ったところで、カイムは二匹に声をかける。

するとバシャーモはカイムの前に踊り出し、手を踏み台のように組み合わせた。ルカリオはカイムの背中に飛び付く。

 

「せー、のっ!」

 

掛け声と同時にバシャーモはカイムとルカリオを打ち上げた。打ち上げられたカイムとルカリオは屋根の上に着地する。バシャーモはその後に壁を蹴りながら建物を登り、カイム達に追いついた。

 

「サンキュ」

 

二匹に声をかけながら再びカイムは走り、水上レースのゴールを目指す。

カイムはゴールでシロナを出迎えるために、本当の意味で最短距離を行き、シロナよりも先にゴールに辿り着くことを考えた。そのためにパルクールを使おうとしたが、アルトマーレの建物は全体的に高い。故に鍛えたカイムといえども最短距離を行くのは不可能だと判断し、かくとうタイプの二匹にその援護をしてもらうことで、それを可能とした。

 

だがそれでもやはり水上で泳ぐみずポケモンは速い。

 

レースの様子はラジオを通して聞いているが、正直このペースだと厳しい。今回はエキシビションということで普段のレースよりもかなり長いコースが設定されているが、それでも人間の足で出せる速度などたかがしれている。

 

「やっべ、間に合わねぇかも」

 

足場の悪い屋根上というだけでなく、高度的にも全力の速度は出せない。最短距離とはいってもレースのコースと比べて多少短い程度だ。全速力でギリギリくらいだろう。

やりたくはないが、バシャーモに担いでもらうことも考慮にいれたところで、突如横に気配を感じた。

 

「……?」

 

なにもない。だが、なにかがいる。

そのなにかがなんなのか、カイムは先日の出来事ですぐに答えを出す。

 

「ラティオス?」

 

その言葉とともにラティオスはわずかに透明化を解除。ラティオスの姿が半透明だが現れた。

ラティオスは走るカイムの横を飛びながら、なにも言わずに目を向けてきた。

 

「お前……ああ全く、まさかこんな機会があるとはな!」

 

ラティオスの意図を理解したカイムは素早くルカリオとバシャーモをボールへと戻し、ラティオスに飛び乗った。

 

「ゴールまで頼むわ」

 

そういうとラティオスはカイムも周囲から見えないようにし、速度を上げる。

そして唐突に目を光らせた。

 

「なんだ⁈」

 

突如、カイムの視界が移り変わる。

 

 

 

 

 

 

一方シロナは少々苦戦していた。

レースも中盤に差し掛かった。現在シロナは2位。1位の男との差はほとんどないが、一向に抜ける気配がしない。

 

(恐らく経験者ね。手綱の操作が私よりもはるかに上手い。直線の速度はミロカロスが勝ってるけど、カーブのところでスピードをほとんど落とさずに曲がれる技術がある。この人の技術を残りで超えることは不可能。なら、別のところで仕掛けるしかない)

 

カイムに大見得切った以上、師匠として諦めるという選択肢は存在しないが、それでも勝てるかどうかは現時点では五分以外。一度抜かせればそこから引き離すことは恐らくできる。

 

(どこで抜かすか……ん?)

 

シロナのすぐ横に気配がする。なにも見えないが、それでも気配と視線を感じる。

そしてそれがなにかすぐにシロナはわかった。

 

「ラティアス?」

 

そうシロナが呟くと、その気配はさらに近づき、そしてシロナに触れた。

僅かな光と共に視界には信じられないものが写されていた。

 

「カイム?」

『シロナ?これ、どうなってんだ?』

 

そこにいたのはラティオスに乗ったカイムの姿だった。だがその姿は半透明でその場にいないことだけはわかる。

 

「これは、ゆめうつしね!」

『ラティアスとラティオスの特性か』

 

ラティオスとラティアスはゆめうつしを応用してシロナの視界のみに現在進行形でラティオスに乗ってゴールを目指すカイムの姿を見せ、共にゴールへと向かっているような光景を見せていた。

 

「あらあら、粋な計らいね」

『変な感じだ。だがお前の見てる光景が見えるのは悪くねえ』

「貴方はボートに乗れないものね」

『うるせえ。俺をいじる余裕があんのか?』

「あるわよ。見てなさい!」

 

その言葉と共にミロカロスはスピードを上げた。

1位の男はそれを察知し、スピードを上げたが、やはりシロナの鍛えられたミロカロスの方が速い。徐々に差が縮んできたが、そこでカーブに差し掛かる。

 

シロナにスピードを落とさず曲がり切る技術は無い。

だが弟子の、『大切な人』の前で格好つけたいという思いがシロナにはあった。

 

「ぶっつけ本番、上等よ!」

 

速度を落とすことなく、曲がり角を曲がる。遠心力にボートを持っていかれそうになるが、それを持ち前のバランス感覚とミロカロスの泳ぎでカバーしつつ、残りは根性で曲がり切った。

 

技術なんてものではない。言うなればただの力押しだ。

泥臭くて結構。その過程がどんなものであったとしても、カイムの前では負けたくない。その思いがシロナを踏ん張らせた。

 

コーナーでもスピードを落とさずに曲がり切ったことでシロナは1位に躍り出る。

 

レースも終盤。ラティアス、ラティオスを除けばシロナしか見えないカイムに不敵にシロナは笑った。

 

「どう?」

『さすがとしか言えないな。だがゴールには俺が先に着く』

「それはそうして。私を出迎えて欲しいの」

『任せな、といっても飛んでるのラティオスなんだけどな』

「締まらないわね」

『ほっとけ。じゃあゴールでな』

 

カイムはそう言って消えた。

ラティアスはまだ隣を飛んでいるから恐らくラティオスの方からゆめうつしを切断したのだろう。

 

「さあミロカロス!ラストスパートよ!」

 

ラストの直線でミロカロスはさらに速度を上げる。

元より最高速度ではシロナのミロカロスの方が上。最後のカーブでシロナが抜かした時点でほぼシロナの勝ちは確定している。

 

ゴールが見えた。

ゴールのアーチがある場所には、ラティオスに跨ったカイムの姿が見える。尤も、ラティオスの力でシロナとラティアスにしかカイム達の姿は見えていないが。

 

カイムが右手を掲げる。

シロナはその意図を理解し、手綱を握る手を片方手放した。

 

 

そしてゴールを潜ると同時にカイムとシロナの手は重なり、乾いた音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波の音が響く港にシロナは佇んでいた。

 

「気持ちいいわね」

 

夜風が心地よく感じられ、空を見上げる。満天の星空に月が輝いており、海は月の光を受けて宝石のように輝いている。

 

「いい夜だな」

 

背後からカイムが言う。

そしてカイムの傍らにはブラッキーを背中に乗せたラティアスとラティオスがいた。

 

「あら、二人もいたの」

「ずっと付いてくるんだよ。ブラッキーがラティアスとやたら仲良くなったみたいでな。遊びたいんだと」

「ふふ、いいわね」

 

嬉しそうにブラッキーを背中に乗せて飛ぶラティアスを見てシロナは笑う。

 

「つーか、お前らこんな堂々と姿晒してていいのか?バレたら割と面倒だろ。夜とはいえ、人がいないわけでもあるまいて」

「大丈夫よ。それはこの子達が一番わかってるわ」

 

実際、ラティアスとラティオスの姿はシロナとカイムにしか見えていない。伝説と謳われるポケモンであるラティアスとラティオスならば特定の人物のみに姿が見えるようにするなど大したことではない。

 

「それ、随分気に入ってんな」

「ええ。だってとても綺麗なんだもの」

 

シロナは優勝景品であるアルトマーレ名産のガラスでできたメダルを空に掲げる。青いガラスはよく見るとラティアスとラティオスの形が刻まれている。

メダルは月明かりを受けて美しく輝いている。

 

「これ、こいつらの形が刻まれているんだな」

「そう。この子達を祀っている街だもの。不思議なことじゃないわ」

「よかったなお前ら。大人気だぞ」

 

カイムの言葉がよくわからないのか、ラティオスは首を傾げる。ラティアスはシロナの持つメダルが気になるのか、シロナに顔を近づけてメダルを興味深そうに見ている。

 

「伝説のポケモンがこんな近くにいるのはちと実感わかねーな」

「近くにいるどころか乗って飛行を楽しんだのに?」

「まぁ、な。でもあれは飛行ってより、どちらかといえばシロナと一緒にレースに出てる感じがした。お前らのおかげでな」

 

カイムは傍にいるラティオスの首を優しく撫でる。

 

「そうね。私も、あなたと一緒にレースに出てる感じがしたわ。とても楽しかった」

「そうだな」

 

シロナは港の桟橋に腰掛け、カイムもその隣に座る。

ブラッキーはラティアスの上から降り、カイムの膝に乗った。ラティアスはシロナの傍らに浮き、シロナに撫でてもらい気持ちよさそうにしている。ラティオスはカイムのブラッキーに近づき、なにか意思疎通をしているようだった。

 

「……綺麗ね」

「…ああ、そうだな」

 

なにが綺麗かは言わない。

言わなくとも伝わるから。

 

「カイム、手を出して」

 

突如言われたシロナの言葉の意図はわからないが、カイムは言われた通りに手を出した。出された手にシロナはなにかを置いた。

よく見るとそれはイヤリングと指輪だった。

 

「これは?」

「カノンちゃんにオススメのアクセサリーショップを聞いて、買ってみたの。あなたに似合うと思って」

「へえ」

 

カイムは今までアクセサリーなどほとんどつけたことはなかったが、シロナに渡されたこれらは気に入った。イヤリングはとても小さく、青いガラスでできたもの、そして指輪も青いガラスでできたもので、よく見たらラティオスの形をした模様が入っている。

 

「アクセサリーなんてこれまで縁はなかったが……これは、なんかいいな」

「私も同じ形のやつを買ったわ。これ」

 

シロナもイヤリングと指輪を買っていたが、シロナの方は色が赤く、ラティアスをイメージした色となっているのがわかる。イヤリングについては既に装着していた。

 

「嬉しいけど、なんでだ?」

「あなたがバトルでも、考古学でも、そして人としても成長してるところを見せてくれた。そのご褒美よ」

「ありがたいねぇ全く」

「付けてみて」

「はいはい」

 

カイムはイヤリングを左耳につけた。初めてつけるから手こずり、少しラティオスに手伝ってもらったが、ちゃんと付けることができた。

 

「うん、似合うわね」

「指輪はペンダントでもいいか?」

「そういうと思って、ペンダント用のチェーンも買ってきたわよ」

「用意がいいことで」

 

苦笑しながらもチェーンを受け取り、カイムは指輪をペンダントとして首から下げた。

 

「うん、似合うわ」

「どーも」

「ねえカイム」

「ん」

「私に、ペンダントをつけてくれる?」

 

先ほどカイムに渡したチェーンと同じものと赤い指輪をカイムに手渡し、シロナはカイムの顔を覗き込んだ。

 

「……はあ、わかった。いいとこ見せてもらったし、それくらいはやろう」

「ありがと」

 

カイムはシロナの背後に回り、シロナにペンダントをつけた。

ペンダントは月明かりを受けては光り、ラティアスはシロナが自分と同じ色のものを付けてくれているのが嬉しいのかシロナの目の前でぴょんぴょんしている。

 

「うふふ、『お揃い』ね」

 

それはラティアスに言った言葉か、それとも『両者』に言った言葉か。

 

「アクセサリーなんて初めてだよ」

「そうね。あなたは結構堅物だからそういうのは付けないでしょうから。どう?」

「どう、と言われてもね。まぁその、なんだ?」

 

 

 

 

「悪くない。シロナと同じってのは」

 

 

 

月に照らされたカイムの顔は青白く映されているが、僅かに耳が赤く見えるのは錯覚ではないだろう。

そんなカイムを見て、シロナは微笑み、ラティアスを撫でながら空を見上げる。

 

 

 

赤と青の指輪が、傍にいるラティアスとラティオスのように二人の胸の上で星のように輝いた。

 

 

 

 

 




水上レースは夏しかやってない?

そんなものは知らない。
だってみんな見たいでしょ?ミロカロスで水上レースを美しくぶっちぎるシロナさん。私は見たい。

秘密の庭にはほとんど人は入れない?

そんなものは知らない。
だって私がラティアスと戯れてるシロナさんを見たいのだから。
そう、このアルトマーレ回は完全に作者の欲望から成立した回なのです。

今回、ちょっとだけ重い話も入れてみました。水の都の護神はポケモンの映画の中でも珍しく『死』について取り上げている映画だったので、その部分をリスペクトしてみました。まったりしてませんね。すみません。

後悔はしていません。

感想は全て読ませていただいてます。
とても励みになります。
発狂しながらブリッジの状態で部屋の中を駆けずり回るくらい喜んでます。

なにかストーリーに関する質問などは感想でお答えします。
匿名設定なのでメッセージなどは送れないでしょうが、そこはご了承ください。

シロナとカイムの関係性
シロナが走りすぎたらカイムが止め、カイムが立ち止まればシロナが引っ張る。こういう相互作用する関係性が作者はとても好き。

今回本当にこんな死ぬほど長くて申し訳ありません。25000字も書くとか我ながらアホなのかと思いました。
次回からジョウト地方を色々巡ります。
まずはウバメの森です。
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