ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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プラチナストーリー編。
最近カイムくん伝説のポケモンに出会いすぎでは?
本当にモブ上がりですか君。








6話 テンガン山

「つ、ぅ…」

「よし、ノルマ達成!」

 

ベンチに腰を下ろし、タオルで汗を拭う。

組み手に筋トレ、体力作りの有酸素運動と今日決めていたノルマを全てこなしたカイムは滝のように汗をかいていた。同様に疲れた表情のトレーナーが周囲には大勢いる。

かくとうタイプのジムではよくあることだが、ジムではポケモンだけでなくトレーナーも共に体を鍛えている。当然カイムも鍛えており、その身体能力はジム内でもトップレベルだった。尤も、単純な筋力では他のトレーナーの方が高いが、カイムはスモモ同様、体の使い方がうまく、パルクールなどの全身運動を得意としていた。

 

「今日のトレーニングはここまでです。お疲れ様でした」

 

スモモの言葉にトレーナー達はポケモンをボールに戻し、各々挨拶すると更衣室へと向かっていった。

残されたのはスモモとカイムだけとなり、スモモはカイムに声をかける。

 

「カイムさんは帰らないんですか?」

「更衣室が空くまで待ちます」

 

プロテインをシェイカーで作りながらカイムはそう答えた。

 

「トレーニング後のプロテインっていいですよね。ポケスロン協会がこの前出した新作のプロテイン、結構美味しかったですよ」

「へえ、何味?」

「ナゾの実味です!」

「それは、本当に美味いんですかね」

 

さすがにナゾの実の味がそのままするわけでもあるまいが、オレンの実やオボンの実のように味が保証されているきのみと比較してナゾの実は味の評判はそんなに良いものは聞かない。故にカイムはスモモの味覚が音痴なのではないかと疑ってしまった。

 

「個人の好みはあると思いますけどね」

「違いないですね」

「そういえばカイムさん、ジョウト地方はどうでした?」

「一言で言うのはなかなか難しいが、いい場所だったよ。いつか行ってみるといい」

「そうですか、それは気になりますね」

 

オレンジジュースで作ったプロテインを飲み干し、カイムは立ち上がる。

 

「あ、そういえば」

 

そこで以前、シロナが言っていたギンガ団の話を思い出した。

 

「ギンガ団って知ってますか」

「ギンガ団?ええ、もちろん。あの服と髪型が独特な人達ですよね」

「そう。それであの集団が、どうもここ最近動きが活発になってきているらしいんです」

「ああ、みたいですね。この前谷間の発電所を占拠していましたからね」

「一応宇宙エネルギーの開発を謳ってはいますが、どーも最近動きがキナ臭い。ジムリーダー同士でもその情報を共有した方が良さそうです」

「…そうですか。わかりました、ジムリーダー達にこの話は通しておきますね」

「助かります」

「私の方でも、少し調べてみますね。ジムリーダーやってるとツテも多くなるので」

「お願いします」

 

そう言ってカイムはスモモに会釈して更衣室へと向かっていった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「…なるほど、じゃあジムリーダー達もみんなギンガ団については把握しているのね」

 

シロナの自宅にあるカイムの部屋でシロナとカイムは話をしていた。尤も、カイムはパソコンに向かってなにか作業をしながらではあるが。

 

「一応、スモモ伝で他のジムリーダーにも話を通しておくように頼んだ。頭に入れておくくらいはしてるだろうよ」

「助かるわ。やっぱり最近ギンガ団の行動は過激になってきてるの」

「つまり、また奴らがなにかやったのか」

「ええ。シンオウ地方にある湖は知ってる?」

「普通に考えたら、三湖のことだろ?」

「そう。そこに住むポケモンのことは?」

「生態についてはなんとも。幻のポケモンがいることくらいは把握してるがな」

「その幻のポケモンをギンガ団が捕らえたらしいの」

 

カイムの作業をする手が止まる。

ブルーライトカットのメガネを外してシロナに視線を向けた。

 

「…そのポケモンを使って、なにかしでかすと」

「私はそう考えてるわ」

「…まず、そのポケモン達について教えてくれるか?あまりそいつらについて詳しくないんだ」

「わかったわ」

 

湖に住むポケモンは、ユクシー、アグノム、エムリットの三匹。それぞれエイチ湖、リッシ湖、シンジ湖に住むポケモン達であり、知識、意思、そして感情を司るポケモンとも言われている。

シンオウ地方の神話にはほとんど出てこないが、この三匹の存在もシンオウ地方の成り立ちに関係しているのではないかと考えられている。

 

「人の心に関係するポケモン、ってことか」

「その認識で間違いないわ」

「ふむ……そのポケモン達をなぜ捕らえたのか。それがわからないと」

「ええ」

 

三匹のポケモンは神話には残らない程度しか力を持っていないが、幻のポケモンとして存在する以上、何かしらの役目がある。ジョウト地方で空をホウオウが支配し、そして海をルギアが司っていたように、伝説に残るポケモンには何かしら役目がある。この三匹は神話にはあまり登場しないが、それでも湖に留まっているということは何かの役目があると考えていいだろう。

問題はギンガ団がその三匹をどういった理由で捕らえたか。この三匹は人の心に関係する力を持つとシロナは言っていたが、ギンガ団が人の心をどうこうしようとすることが目的なのかがわからない。

 

「……何をするために捕らえたかは流石に現状ではわからん」

「そうよね…」

「今わかるのは、『三匹が揃う必要があった』ってことくらいだ」

「どういうこと?」

「わざわざ三匹を同じタイミングで捕らえたってことは、三匹が揃って初めて何かができるんだろう。それ以上はわからんが、それはまず間違いない」

「確かにそうね…」

「聞いてる限り、その三匹の個々の能力は高くないみたいだが、三匹揃うとなると話は変わってくる。そいつらに詳しくないから断言はできんが、もしかしたら三匹揃うと何かしら力が共鳴するとかもあるやもしれん」

「……それは、ありそうね」

「だろ?」

 

共鳴した結果、どうなるかまでは予想がつかないが、もしその共鳴がなにか恐ろしいことの引き金になる可能性も否定できない。幻のポケモンの能力は人知を超えたものも多々ある。それがきっかけで世界が滅びる可能性もないわけではない。

例えばシンオウ地方に伝わる時を司るディアルガと空間を司るパルキア。この二匹が世界を壊そうとしたら、まず間違いなく人に為す術はない。

 

「本格的に調べた方が良さそうね」

「ポケモン達の歴史については任せる。シロナの方が早いからな、調べるの」

「カイムは?」

「ギンガ団の動向を探る」

「どうやって?」

「相手のデータベースに潜り込む」

「そんなことできるの?」

「事前準備がちと面倒だが、できる」

 

学生時代の友人にPCに非常に詳しい人がいたため、話を聞いてるうちにカイムもPCをいじるようになり、全く知らない人のデータベースにアクセスすることもやりようによってはできるようになっていた。尤も、それはプライバシーの侵害であるためカイムは基本やらないが。

 

「どういうことをやるつもり?」

「なにも。ただ中身を覗くだけだ。それで奴らの狙いが多少絞り込めるだろうよ」

「じゃあ、お願いしてもいい?」

「ん、わかった」

 

軽く返事をすると、カイムはメガネをかけなおし、作業に戻る。

 

「ところで、今カイムはなにしてるの?」

「サーバーの整理。書類の資料もいいけどデータベースで管理できるものはしておく。バックアップの管理もしておく必要があるしな」

「サーバーなんて作ってたの?」

「作ったのはつい最近。今まで貯めてきた貯金を使っていいPCを買ったからな。処理能力も申し分ない」

「それくらい、私の研究経費で出してあげるのに」

「趣味の部分もある。そんなことに経費使うのは、どうもな。サーバー用のPCも用意してある。後でシロナのPCから接続できるようにしておく」

「あら、私も使えるの?」

「使ってるネットワークは同じだからな。接続くらいなら大したことない」

 

シロナはあまりPCに詳しくないため、そういうことはよくわかっていない。論文を書いたり読んだりするためや、資料の取り寄せ等々でPCは使うが、その程度であるためWi-Fiや回線の管理はカイムに一任している。カイムが来たことにより、自宅でのネット環境は非常に良いものとなり、シロナは快適に使うことができている。

 

「私はユクシー達の神話や言い伝えについてもう少し調べてみるわ。何かわかることがあると思うの」

「わかった」

「じゃ、よろしくね」

 

そう言ってシロナはカイムの部屋を出ていった。

部屋に残されたカイムは思考の海に落ちる。

 

(…ギンガ団は湖のポケモン達を捕らえて何をする?伝承には語られないが、重要な役割を持つポケモン、俗に言う『準伝説ポケモン』の持つ力が必要なのはわかるが、それを何に利用するのか。それが一番重要だ。恐らく、湖のポケモン達を捕まえたのはあくまで準備段階。それを利用することで、何か大きなことを成し遂げようとしていると考えるのが妥当だろう)

 

カイムは机に置いてあるシンオウ地方の神話が記された本を手に取る。

 

(普通に考えれば、ディアルガパルキアのどっちか、もしくは両方使って何かしでかすとかが思いつきやすい。だがそれで何ができる?時間と空間を支配して新たな世界を作るとかいうわかりやすい悪役がやるようなことか?流石にわからんな…)

 

何にしても情報が足りない。

直接ギンガ団のアジトやビルに忍び込んでもいいが、そういうのは警察に任せればいい。それに、シロナに無許可でやったら烈火の如く怒り狂いそうであるため、忍び込む選択肢は消える。

そうなると、カイムのできることは限られる。彼自身には大した権限は無いため、警察から情報を引き出すことも恐らくできない。シロナの使いといえばくれる情報もあるだろうが、シロナに任された以上、期待以上の成果を上げたいという思いがカイムにはあった。

 

「……ギンガ団のネットワークに不正アクセス。やり方はわかるが、俺のやり方だと足がつきそうだな」

 

やるからには敵からも悟られないように情報を引き出すことが重要となる。だが今カイムの持つ機材だけでは、それは中々厳しいものだった。

 

「詳しい奴に協力を求めるか」

 

そう判断して、カイムはスマートフォンに登録してある一人の連絡先に電話をかけた。

 

『おう!珍しいな、どないしたん』

「ちと頼みがあるんだが、今大丈夫か?」

『ええで、今ちょうど手ェ空いたとこや。それに、カイムから頼まれ事なんて珍しいからな』

「受けてくれるか?」

『ええで、同じ大学のよしみや。で?どないしたん?』

「助かるよ、マサキ」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

二日後

マサキの助けもあり、ギンガ団のネットワークに忍び込む準備を整えることができた。

 

「…有能すぎるのも考えものだな」

 

大学で色々と世話を焼いた礼ということもあったが、まさか二日で要望以上の環境を整えることができるとは思わなかった。

マサキは今カントー地方のナナシマにいるらしく、こちらに向かうことはできなかったため、足りない機材をポケモン預かりシステムを応用させたシステムを使って送り届けてきただけでなく、完璧に証拠を残さず、かつスムーズに侵入する環境を作り上げた。やろうと思えば相手のサーバーに対して過剰に負荷をかけて落とすこともできると笑っていたが、カイムはそこまでするつもりはない。

 

「さて…」

 

早速システムを立ち上げ、指定のコマンドを入力していくと、ギンガ団のネットワークに侵入することができた。

 

「もう侵入できたのか?実感ねーな」

 

すぐに出てきたフォルダには基本下っ端達が上げている日報や当たり障りない連絡がある程度だった。

それよりさらに下の階層のデータを見ていく。

 

(……宇宙エネルギー開発関連のレポートか。さすがに機密情報にはプロテクトかかってるし、下手に侵入するのは無理だな。湖のポケモンに関する報告は…お、これか?)

 

怪しげなファイルを見つけたため、プロテクトがかかっているか検証したところ、特別閲覧制限はかかっていないドキュメントだったため、開いてみることにした。

 

「…これだな。作成者は、『プルート』。エンジニアか?いや、普通に研究者か」

 

プルートという男が書いたであろうレポートは、湖のポケモンの力によって生成される物質について概略が書かれていた。

 

「……これはプロテクトかかってないし、大したこと書かれてないな。もう少し潜るか」

 

更にネットワークを色々見ていくと、研究用のサーバーにたどり着いた。しかしあまり長居をすると足がつきかねないため、カイムは早急にサーバーを見て回る。

 

「宇宙エネルギー、支給ポケモン分配、『ロトム』について、湖のポケモン…これか」

 

フォルダを開いて中を見ていく。中は、研究レポートがいくつも保存されており、その中で最も新しいレポートを開く。

 

「…湖のポケモン達の力を使うことで、赤い鎖の生成に成功。この鎖は……あー、やっぱりそういうやつね」

 

レポートの中身をざっと見たところ、ギンガ団の幹部が何を企んでいるのかが何となく察することができた。

 

「典型的な悪役じゃん。下っ端達絶対こんなこと知らんだろ」

 

レポートの文面をスクリーンショットで保存すると、カイムはギンガ団のネットワークから切断した。念のため、外部からの侵入を拒否するファイアウォールの確認をすると、先程のスクリーンショットをシロナにメールで送信した。

一息つき、カイムは天井を見上げた。とりあえずシロナにやると言ったことは終えた。どう判断するかはシロナに任せることにして、カイムはPCの電源を落とした。

 

「…しかし、ロトムとやらについての研究もあったが、ロトムってなんだ?ポケモンか?」

 

彼がロトムについて知るのは、まだ先の話であった。

 

 

 

 

 

 

「カイム、警察から情報が入ったわ。ギンガ団がテンガン山に集結しているみたい」

 

数日後、シロナは警察のハンサムから情報を得て、ギンガ団の動向を知った。

ギンガ団は幹部だけでなく下っ端も大勢動員してテンガン山で何かを始めるつもりらしい。

 

「…数は?」

「多数としか。かなり多くて警察も把握できていないみたい」

「……やっぱ目的は」

「やりの柱でしょうね。あそこで伝説のポケモンに何かをする気なのでしょうね」

 

赤い鎖で恐らく伝説のポケモン、ディアルガとパルキアを操作し、何かをするのだろうとあたりをつけていたが、ものの見事にその予想が的中した。なにをするつもりかはわからないが、ロクなことではないだろう。

 

「すぐに行きましょう。何をしでかすかわからないわ」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

テンガン山に二人は到着すると、山の内部に入れる洞窟の入り口にコートを着た男がいた。

 

「おお、シロナさん!来てくださいましたか」

「お待たせしました、ハンサムさん」

「いえいえ、応援に感謝いたします」

 

いた男は国際警察のハンサム。かつてロケット団のボスのサカキを追っていた男だ。

 

「状況は?」

「奴らはやりの柱への道を塞いでいた壁画を破壊し、やりの柱へと強行しました。私一人ではどうすることもできず…」

「すぐに向かいます。カイム、行くわよ」

「ああ」

「そちらの方は?」

「私の助手よ。有能だから心配ないわ」

「そうでしたか。お任せすることになってしまい、申し訳ない」

「いいえ。これもチャンピオンとしての務めよ」

「あ、そうだ!シロナさん、先程ニット帽を被った少女がテンガン山に入りました。ジムバッジを全て入手するくらいの実力があるのであまり心配していませんが、もしもの可能性もあります。その少女のこともお願いいたします」

「ニット帽…ああ、ヒカリちゃんね。わかったわ」

 

シロナは納得したように頷くと、カイムを引き連れてテンガン山へと入った。

中は暗く、カイムの持つランタンと懐中電灯で周囲を照らす。フラッシュを使えるポケモンがいれば良かったが、生憎二人の手持ちにフラッシュを使えるポケモンはいない。

 

「シロナ、ヒカリってのは前に話してたやつか?」

「ええ。破竹の勢いでジムバッジを集めていた子のことよ」

「そうか」

「気になる?」

「子供一人でこんな所に来る度胸に驚いただけだ」

「正義感の強い子だったからね。あの子も貴方と同じ、ポケモンを大切にする子よ」

「それに関してはお前もだろ?」

「そうね」

 

しばらく進むと、壊された壁画が散らばり、その先に穴が空いている場所にたどり着いた。

壁画の破片を見ると、精巧に作られたものであることがよくわかる。

 

「……この壁画も、歴史的価値はとても大きいのに」

「だろうな。だが、奴らにとって価値は感じられないものだったようだな」

「行きましょう」

 

進むと、ギンガ団の下っ端達が伸びているのが見えた。既に誰かにバトルで敗北した後のようで、バトルの余波でやられたのか、ほとんど全員目を回している。

 

「派手にやったな」

「あの子らしいわ」

「おかげで俺らは楽できる」

「追いかけましょう。いくら強くても、ポケモンもヒカリちゃんも体力は無限じゃないわ」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

岩陰に身を隠し、ヒカリはバッグから水筒を取り出して水を飲んだ。

ポケモン達をぞんざいに扱うギンガ団のことが許せず、警察の反対も押し切って突撃したが、思いの外ギンガ団の下っ端の数が多く、頂上にたどり着くのに苦戦していた。

下っ端一人一人は大して強くはないが、一撃で一掃できるほど弱くはない。多少強い下っ端も時々紛れているため、中々難しい。

 

「うーん、一人だとちょっと厳しいなぁ」

 

回復アイテムにも限りがある。旅をしているため、普段から多めに持っているとはいえ、バッグにいれられるものには限度がある。このままではポケモン達の体力が尽きてしまうのが早いだろう。

岩陰から少し顔を出して周囲を見る。すぐ近くにはいないが、遠くに下っ端達が自分を探しているのが見えた。そのまま持ち場を離れてくれれば目を盗んで上に向かうこともできるが、下っ端達は持ち場を離れない。

仕方なく強行突破を行おうとボールに手をかけた瞬間、下っ端達がばたりと倒れた。

 

「えっ⁈」

 

驚いて顔を出すと、下っ端の背後にはルカリオが立っていた。そしてその傍らには、無表情の男。

 

「お前がヒカリか?」

 

ヒカリは無言で頷く。

 

「なるほど、いい目だ。あいつ(・・・)にそっくりだ」

「貴方は?」

「俺はカイム。シロナの助手だ」

「シロナさんの?」

「ヒカリちゃん、大丈夫?」

 

カイムの後ろから金髪の美女が顔を出してきた。

 

「シロナさん!」

「遅くなってごめんなさい。よくここまで一人で頑張ったわね」

「勇敢は結構だが、もう少し考えて行動した方がいい」

 

カイムは持ってきた道具でヒカリのポケモンを回復させる。

 

「ほれ、これでまだ戦えるだろ」

「あ、ありがとうございます」

「派手に暴れてたからな。ここまでの道のりを見れば、お前のポケモンが疲労していることくらいわかる」

 

恐らく、シロナのポケモンであっても同レベルの暴れっぷりを披露すれば少なからず疲弊していた。それをトレーナー経験がせいぜい一年程度の少女がやれば、どうなるかは目に見えている。

どんなに才能があろうとも、積み上げてきた経験を簡単に抜かすことはできない。バトルに限定すれば覆ることも多々あるが、ルール無用の今回ではそれは通じない。

 

「えへへ、ちょっとやりすぎましたかね」

「ふふ、貴女って結構豪快よね」

「あまり考えてなかったけど、そうかもしれません」

「悪いとは思わんが、今回に限れば悪手だったな」

 

倒した下っ端も含め、増援が集まってくる。

下っ端達はポケモンを出し、一つの壁になって頂上へ行く道を塞いだ。

 

「シロナ、ここは俺が引き受ける。道を作るからすぐに上に行け」

「わかったわ」

「道を作るって、どうやって?」

「簡単だ」

 

カイムはブラッキー、バシャーモ、ムクホークをボールから出した。

 

「ルカリオ、波導弾。ブラッキーはルカリオの波導弾に悪の波動を混ぜろ。バシャーモは大文字。ムクホークは大文字を風起こしで火力の底上げだ」

 

カイムの指示通りにポケモン達は動き、そして放たれたブラッキーの悪の波動が混ぜられた波導弾と風起こしで火力を底上げされた大文字がギンガ団の下っ端達を襲った。

轟音と共に煙が立ち上り、下っ端達は吹き飛ばされ塞がれていた道は開かれていた。

 

「ほれ、行け」

「ありがとうカイム。いきましょう」

「は、はい!」

 

二人はそのまま頂上へと登っていった。

カイムはその道を塞ぐように立ち塞がり、ギンガ団達を見下ろす。いくら高火力の技を放ったからといって、一撃で全員を倒せるほどの威力ではない。破壊光線レベルの火力を底上げしたのならともかく、少なくとも波導弾は一対一ならそれなりの威力にもなるが、制圧には向いていない技であるため、吹き飛ばされただけで戦闘不能になった下っ端は少ない。

だがシロナとヒカリの仕事を邪魔させないためにも、ここを通すわけにはいかない。恐らく頂上には幹部、そしてボスがいるだろう。幹部達は下っ端よりも遥かに強いはずだ。幹部達に集中するためにも、下っ端はここで足止めさせる必要がある。

 

「さてモブ共」

 

カイムは無表情の目を細め、下っ端達を見下ろす。

 

「悪いがこの先には行かせられん。モブはモブ同士」

 

 

 

 

 

「仲良くしようや」

 

 

 

 

 

凄まじい圧と共に言い放たれた言葉は、酷く冷たいものだった。

そしてこの時のカイムの顔は間違いなく悪タイプのそれだったと言えるだろう。

 

 

 

ーーー

 

 

 

テンガン山頂上

やりの柱

 

既にそこには幹部及びボスが集結しており、何かの準備をしていた。

 

「ギンガ団、そこまでよ」

「チャンピオン!こんな所まで!」

 

幹部の一人、ジュピターが忌々しげに言い放つ。

 

「…マーズ、ジュピター、時間を稼げ」

「はっ!」

「承知!」

 

ギンガ団のボス、アカギが幹部にそう言うと、幹部の二人はモンスターボールを手に取った。

 

「…戦うしかないようね。ヒカリちゃん、いける?」

「大丈夫です!カイムさんに回復させてもらいましたから!」

「そう。じゃあいくわよ」

「はい!」

「アカギ様の邪魔はさせない!」

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな…」

 

幹部二人のポケモンはシロナとヒカリに一方的にやられてしまった。

この結果にはやはりシロナのポケモンの功績が大きい。主力として戦うだけでなく、タイプ相性次第ではヒカリのポケモンを上手くサポートし、戦いやすいようにしてくれた。しかもほとんどその指示を出していない。シロナが指示するまでもなく、ポケモン達は自身で判断して戦っているのだ。

 

(これが、チャンピオン…!)

 

来月開催されるシンオウ地方ポケモンリーグにヒカリも参加する。そしてそこには当然チャンピオンであるシロナも参加する。

一年近く旅をしてきたが、やはり公式戦無敗のチャンピオンは今まで戦ってきたどんなトレーナーよりも強い。ヒカリはそれがよくわかった。

 

「お疲れ様、貴女のポケモン大丈夫?」

「あ、大丈夫です!シロナさんのおかげでほとんど無傷なので」

「そう。なら良かった」

 

ヒカリに向けていた笑顔を鋭い目つきに変えてアカギに向ける。

 

「…でも、少し遅かったかしら」

「その通りだ、チャンピオンよ。ここに新たな宇宙を作る全ての準備が整った。今、全てが終わり、そして全てが始まる」

 

アカギはシロナ達の方を向くことはせず、語り続ける。

 

「湖の三匹から作り出したこの赤い鎖、そしてそれを元に作り出したもう一つの赤い鎖。これらを使い、異次元の扉を開く。そして私のためだけに力を使え」

 

アカギの手元にある赤い鎖が怪しげに光り始める。

 

「時間を操る神話のポケモン、ディアルガ。そして空間を司る神話のポケモン、パルキアよ」

 

空間が歪む。その歪みは二つ存在しており、その歪みの中から青いポケモンと薄桃色のポケモンが姿を現した。

ディアルガとパルキア。神話に登場する伝説のポケモンだった。

 

「あれが……ディアルガとパルキア」

「神話のポケモンね。凄まじい威圧感だわ」

「と、止めないと!」

「残念だけど、無理ね。あのアカギがいる場所、二匹のポケモンの力で近づくことができない」

「そんな…!」

 

ディアルガの力かパルキアの力かわからないが、シロナ達の目の前には不可視の壁がある。この壁はシロナのガブリアスであったとしても壊せないほどの強度がある。内側で何らかの事態が起きない限り、破ることはできない。

 

「この時を待っていた。この宇宙を形作るのは時間と空間の二重螺旋。ならば私はお前たちの持つ力を我が物として使い、そして新しいギンガを!新しい宇宙を誕生させる!今の不完全で醜い世界は消えるがいい。全てを一度リセットするのだ。究極の世界、完全な世界を創るために、心などという不完全で曖昧なものなどなくなれ」

 

不意に上空で気配がする。上空では三つの光が円を描くように回っており、何かを抑えるように動いていた。

 

「…ふ、やはりな。知識の神ユクシー、意思の神アグノム、そして感情の神エムリット。この三匹の力があれば、神の力を抑えることも可能だったというわけだ。尤も、『どちらか片方であれば』だがな」

 

現にこの三匹は神たるポケモンの力を抑えようとしているが、抑えることができていない。

 

「二匹同時に現れては、どうすることもできまい」

 

そこでアカギはようやくシロナ達の方を向いた。

 

「チャンピオンといえど、この状況ではどうすることもできないだろう。今、ディアルガとパルキアの力でこの不可視の壁を創り出している。どんなに攻撃しようと、時間は巻き戻り修復される空間を隔てた壁だ」

「………」

「隣の少女、確か名はヒカリといったな。君は散々我々のやることに楯突いてきたが、それも許そう。何しろ今から全ての心が消えるのだからな。君自身はもちろん、君の大事な人から!そして君のポケモンから消え去るのだ!ああ、ようやく私の願いが叶う時が…」

 

ヒカリか反論しようとした瞬間、凄まじいほどの威圧感がやりの柱全体を覆う。

 

「これ、は?」

「なんだこの気配、何者かが怒り狂っている?」

「…まさか」

 

次の瞬間、アカギの目の前に『影』が広がった。

そしてそこから巨大な『影』が出現し、アカギを見下ろしている。

 

「…ほう」

「まさか、ギラティナ?」

「ギラティナ?」

「神話でほとんど語られることのない、ディアルガとパルキアと同等の力を持つポケモンよ。神話では裏側の世界に住むと言われていたけど…」

 

シロナとしてもギラティナの出現はある程度予想していた。しかし、この登場の仕方は予想していなかった。ギラティナは現世、つまりこちら側の世界にはほとんど干渉しない。故にこの事態も静観しているか、何かしらの形で妨害はしてくると思っていたが、まさか影として出現するのとは考えていなかった。

 

「面白い、影でしか出てこれないポケモンがいるとは。しかし愚かな。いくら貴様自身が神たる力を持とうと、ディアルガとパルキアの力を操る私に…」

 

影は翼と思われる部分の形を変形させ、アカギに狙いを向ける。

 

「このアカギにさかららららら」

 

次の瞬間、世界は影に覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、どうなってやがる」

 

下っ端達を平和的解決(一方的殲滅)で帰らせることに成功したカイムが頂上に出ると、事態はかなり悪い方向に向いていた。

まず空の色はおかしくなり、そして柱は歪んでいる加えてシロナとヒカリの目の前には謎の歪んだ空間が広がっていた。幹部二人はわけがわからずへたり込んでいるため、放置していいだろう。

 

「カイム」

「シロナ、どうなってんだこれ」

「ギラティナよ。アカギが赤い鎖の力でディアルガとパルキアの力を操ろうとしたことに怒り狂って、アカギのことを飲み込んだの」

「……で、この空間は?」

「恐らくギラティナの住む裏側の世界へ続く道。ギラティナの世界と私たちの世界は基本干渉することができない。でもこの空間で二つの世界が繋がってしまったことで、この世界に歪みが広がる」

 

実際世界は歪んできている。やりの柱にある石造の柱は本来ならありえないような曲がり方をしており、しかもその歪みはその範囲を徐々に広げている。

 

「この空間を閉じなければ、シンオウ全体に歪みが広がり、そして世界が崩れてしまう」

「止めるには?」

「ギラティナの怒りを鎮めるしかない。そのためにはヒカリちゃん、貴女が必要よ」

「私?」

「ええ。貴女のポケモンとの強い絆を見せれば、ギラティナはきっとわかってくれるわ。だからいきましょう」

「はい!」

「貴方もよ、カイム」

「わかってるよ」

 

 

 

ーーー

 

 

 

歪んだ空間を抜けると、そこは異次元の世界が広がっていた。

 

「……わあ、すごい」

「なんだここ」

 

シロナ達の目の前に広がる空間は、明らかに現実のものとはかけ離れたものだった。建物や植物、そして水などが存在しているが、どれも歪なものだった。足場は水色の結晶のようなもので作られており、それが島程の大きさになり無数に浮いている。

水が流れる方向もおかしくなっており、下から上に水が流れ落ちる場所もある。建物は明らかに人工物のように見えるが、歪になっているせいで人がいるようには見えない。

 

「…物理法則も何もかも通じない掟破りの世界、さしずめ『破れた世界』ってとこかしら」

「生き物の気配がしませんね」

「時間も流れず、空間も安定しない世界だもの。生物がここで生きていくならともかく、生まれることはできないわ」

「で?ギラティナを追うんだろ?」

「そうね。ギラティナの気配はあの一番大きな島からするわ」

 

シロナ達が今いる場所から見える一番大きな島の最上部。そこから影から感じた気配と同じものがする。

 

「進むしかないか」

「ええ。いきましょう。ヒカリちゃん、足元に気をつけてね」

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

「よっと」

 

進むのは案外難しくなかった。

まず重力が現実世界と比べて弱く、軽く跳ぶだけで大きく跳躍することができ、ヒカリのように身体をあまり鍛えていない少女であっても楽々足場を移動することができる。最も身体能力の高いカイムが先行し、足場や重力の状態を確認しながら進むことで比較的安全に進むことができている。

 

「しかし変な世界だな」

 

人工物に見えるものがあるが、この世界に人はいない。唯一存在しているポケモンもギラティナだけ。

 

「この世界がどういう仕組みかはわからないけど、人工物があるのを見る限り、現実世界の影響を受ける世界なのかもしれないわね。だから現実世界でなにか壊れれば、こちらの世界のものも壊れる。逆にこちらで壊れたものがあれば、現実でも何かが壊れるのかも」

「お互いに支え合ってる世界、みたいな?」

「その解釈でいいと思うわ」

 

この破れた世界があるから現実世界は存在でき、そして現実世界があるからこの破れた世界は存在できるのだろうとシロナは結論付けた。

 

「本来は互いに干渉することのない世界だけど、ディアルガとパルキアの力を不正に使ったから時間と空間が歪んで繋がってしまったのね」

「現実世界は大丈夫でしょうか」

「どうかしら。歪みの原因がギラティナの怒りだとしているけど、その保証もない。でもこの歪みを止められるのは、ギラティナしかいないわ。早めにギラティナの元に向かいましょう」

 

一行が破れた世界を進んでいくと、道中を黒い霧が塞いでいた。

 

「これは?」

「良い予感はしないわね」

「…見たところ、毒か」

「まさかギラティナが?」

「いや、多分違うわ。見て」

 

シロナの視線を追うと、そこは空間が歪み、その場所から黒い雲が溢れ出ている現場だった。

 

「なにあれ」

「時空の乱れがこの世界にも影響しているのかも。何にしても良いものじゃないわ」

「早くギラティナの元に行かないと!」

「そうしたいが…」

 

ムクホークが霧払いで黒い雲を取り払った先は、道が続いていなかった。辛うじていくつか岩が浮いているが、道とは言い難い。

 

「どうやら親切な世界ではないらしい」

「じゃあ他の道を…」

「時間が無い。最短ルートでいく」

 

カイムは足元の小石を蹴り飛ばし、重力の状態を確認する。この先の重力は非常に弱く、蹴られた小石はそのままの方向に飛んでいった。

 

「重力が弱い。このまま突っ切る」

「貴方は行けるかもしれないけど、ヒカリちゃんはちょっと厳しいんじゃない?」

「それはお前もだ。ヒカリ、飛行タイプのポケモンは?」

「あ、すみません。今手持ちには…」

「じゃあムクホークに頼む。ただ重力の状態が不安定な世界で飛ぶことにムクホークは慣れてないから、完全に安心とは言えんが。シロナにはトゲキッスがいる。先に渡ってくれ」

「…迷ってる時間が惜しいわね。行きましょう」

 

この場において、先に進む必要があるのはシロナとヒカリ。カイムはせいぜい護衛程度の立ち位置故に向こう岸に渡る優先度は低い。

 

「…いくか」

 

渡れそうなルートを確認すると、カイムは飛んだ。

通常の世界ならばまず飛ぶことができない距離を飛んだが、その先にある岩を足場にし、さらに飛ぶ。

 

(この重力ならウォールランとかできるんじゃね?)

 

本来なら命が関わるような状態でありながら、カイムはそんなことを考える。

パルクールの要領で岩から岩に飛び移り、平たい岩をウォールランで走り抜ける。

 

「うお、行けたよ」

 

そのままどんどん飛び移り、最後の岩を蹴り、飛び上がった。

その先にはシロナとヒカリがこちらを見ており、二人の目の前に着地した。

 

「どうにかなった」

「…貴方、そろそろレンジャーとかに転職した方がいいんじゃない?」

「助手とジムトレーナー辞めれば可能かもな」

「じゃあダメね」

「はっ」

「???」

 

二人のやりとりがよくわからず、ヒカリは首を傾げているが、カイムは肩を竦めるだけだった。

 

「進もう。ギラティナが待ち侘びてるだろうよ」

「そうね」

「それ以上進む必要はない」

 

突如聞こえた声に全員が振り返る。

この先に続く道を塞ぐように立っていたのは、アカギだった。

 

「…先に来ていたのね」

「あの影に飲み込まれて、ここに至った」

「…そう。それで?ここで私達を止めるの?」

「そうだ。このまま世界が歪めば、この世界は崩れ去り、新たな世界が生まれる。そのために、貴様らをこの先には行かせられん」

「何故世界を壊そうとするの?この世界が憎いなら、貴方一人で誰もいない場所に行けばいいだけじゃない」

「何故この私が世界から逃げるようにして暮らさねばならないのだ」

 

シロナとアカギは言葉をぶつけ合う。

しかし、互いに引くことはない。各々が抱える絶対的に譲れないものがそこにはあるからだ。

 

「私は心などという不完全で曖昧なものを消し去り、完全な世界を作る。それが私の正義!誰にも邪魔はさせない!」

「……意思は堅いようね。ヒカリちゃん、私がアカギを抑えるわ。ギラティナの元へ向かって」

「は、はい!」

「ほう?あのポケモンと向かい合うと。無駄だ。あのポケモンに通じるものなどありはしない。少なくとも、心などという曖昧なものが通じるような相手ではない」

「それを決めるのは貴方ではないわ」

「ほう?」

「ヒカリちゃん、貴女を信じるわ」

「はい!」

 

シロナの言葉に返事をすると同時に、ヒカリは走り出し、アカギの隣を走り抜けた。

 

「…止めないのね」

 

いくらトレーナーとして優れていたとしても、ヒカリはまだ子供。成人しているアカギの力に敵うわけはない。やろうと思えば、今ここでヒカリを無理やり押さえ込むこともできただろう。

 

「なに、無理やり力で抑え込むのは私の流儀に反する。それに、力づくでやったら、確実にその傍の男が私を取り押さえるだろう」

「バトルなら勝ち目があるとでも?」

「やり方次第では可能だと考える。力なき者が力を持つ者に勝てない道理はない。科学と同じだ。やってみるまでわからん」

「…そうね。その通りだわ」

 

シロナは腰に付けたモンスターボールを投げ、ルカリオを出した。

 

「互いに譲れないものがある。なら、戦うしかないわね」

「私は負けない!あの影のポケモンにも!このくだらない世界にも!」

 

アカギが出したのはヘルガーだった。

悪・炎タイプのポケモンのため、鋼タイプを持つルカリオには強い。だが、悪タイプを持つため、格闘タイプのルカリオに弱いのも、また事実。

 

「カイム、手出ししないでね。これは私の戦いよ」

「…ああ」

「ヘルガー!火炎放射!」

「波導弾」

 

ヘルガーの炎とルカリオの波動がぶつかり合い、爆発する。

 

「剣の舞」

 

爆煙が晴れないうちにルカリオは剣の舞で集中力を高め、攻撃力を上昇させる。

 

「悪の波動!」

「大股3歩左。すぐにグロウパンチ」

 

悪の波動をギリギリで回避したあと、すぐにヘルガーに距離を詰めたルカリオはヘルガーの身体にグロウパンチを叩き込む。

しかしヘルガーは背後に飛ぶことで威力を軽減、すぐに火炎放射で反撃してきた。

それを読んでいたルカリオは瞬時にその場を離脱。

 

「神速」

 

着地と同時にヘルガーの視界から消えたように見えるほどの速度で動く。

神速は、凄まじいほどの敏捷性により、0から最高速度に瞬時に到達させるだけでなく、視線で追うことができないような身体運びをすることで敵の意識の死角に入り込むことが真髄となる。シロナのルカリオはこれを完璧にしており、ルカリオの神速に反応できる者はほとんどいないほどの熟練度となっている。

神速の速度でヘルガーに攻撃をしかけ、ヘルガーの背後を取る。

 

「インファイト」

 

ルカリオの拳がヘルガーの身体に何度も叩き込まれる。

格闘タイプの高威力の技を叩き込まれては、悪タイプのヘルガーはひとたまりもない。

 

「……さすがに、一筋縄ではいかんか」

「貴方がこの世界を壊そうとするなら、私はこの世界を守る。そのために、全力で貴方を倒します」

 

シロナは世界を守るために、全力で戦うことを選んだ。

その後ろ姿は、まさしくチャンピオンそのものだった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「……やはりチャンピオン、素晴らしい腕前だ」

 

アカギの手持ちはマニューラのみ。そのマニューラも体力を半分ほど減らされて肩で息をしている。

対してシロナはルカリオとトゲキッス以外は万全の状態で残っている。どう見てもシロナの方に分があるのは間違いない。

 

「降参しますか?」

「戯言を」

「…そう。なら仕方ないわ」

 

そう言ってシロナが出したのは、シロナの絶対的エースであるガブリアス。

 

「ガブリアス、ドラゴンクロー」

「マニューラ!冷凍ビーム!」

 

放たれた冷凍ビームをガブリアスはドラゴンクローで撃ち破る。だがドラゴンタイプのガブリアスに氷タイプの技はよく効く。少なくないダメージがガブリアスに入ったが、それで止まることはなかった。

強化されたガブリアスの爪がマニューラを切り裂く。レベル差も相まって、マニューラは瀕死一歩手前まで追い込まれた。

 

「氷の礫!」

「龍の波動」

 

技同士がぶつかる。

爆煙の中からマニューラが飛び出し、ガブリアスを襲った。

 

「不意打ち!」

 

マニューラの爪がガブリアスを切り裂いた…と、思ったが、ガブリアスは鍛え上げられた動体視力と爪でマニューラの腕を抑え、爪が当たるギリギリの所で止めていた。

 

「なっ!」

「いい不意打ちだったわ。相手がガブリアスでなければ、防げなかったでしょうね」

「くっ、ならばゼロ距離で冷凍ビームを…」

「遅いわ。ドラゴンダイブ」

 

ガブリアスはマニューラを掴んだまま、ドラゴンダイブでマニューラを地面に叩きつける。

ほぼ瀕死であったマニューラはそれで完全に力尽きた。

 

「終わりよ」

「………」

「これ以上、貴方に戦う術はない。もうやめなさい」

「おのれ……新しい世界、新しいギンガ。全て見果てぬ夢だというのか」

「貴方が何故、心を否定するのかは知らない。でも、この世界で私は生きていきたい。だから貴方の野望を止める」

「それは、貴様らの『都合』でしかない!心などという脆く、矛盾だらけな曖昧で不完全なものがある限り!この世界は不完全なままだ!そんなものを消し去ることになんの不都合があるというのだ!私は負けぬ、負けぬぞ。必ずや私の望む世界を実現してみせる!」

 

アカギが叫んだ瞬間、倒れ伏していたマニューラが起き上がり、氷の礫をガブリアスに向けて放った。残っていた力を振り絞ったのか、それとも火事場の馬鹿力というやつなのか、威力は先程のものよりも遥かに高く、鋭い。

もう起き上がらないと思っていたガブリアスは咄嗟のことで反応が遅れたが、直撃を避けることはできた。しかし、咄嗟の回避であったため、氷の礫の射線上にシロナがいることを失念していた。

シロナも突然のことで反応ができず、直撃を受けると覚悟し、来るであろう衝撃と痛みに備えた。

しかしその痛みはいつまで経っても来なかった。目を開けると、目の前にカイムが立っており、シロナを氷の礫から庇っていた。

 

「あぶな」

「か、カイム!私を庇って…」

「リーグ前に怪我なんかされちゃ困るんでね」

 

服についた氷を払いながらカイムは普段と変わらない調子で話す。だが身体の至る場所に擦り傷や打撲、果てには尖った氷が刺さったであろう刺し傷もあった。 

 

「流石に痛えな」

「何をやってるの!」

「リーグ前に怪我されたら困るって言ったはずだが」

「でも、こんな…」

「阿呆、下がれ」

 

さらに突貫してきたマニューラの爪をカイムは握って止める。鋭い爪がカイムの手を切り裂き、血が伝う。

爪を素手で止められたことに驚愕したマニューラは一瞬動きを止める。その隙にガブリアスが背後から攻撃を仕掛けるが、マニューラはすぐに下がり、アカギの横に着地した。

傷の具合から見て、マニューラはすでに瀕死。なのにあれだけ動けるのは、アカギの望みを叶えたいが故なのかもしれない。

 

「もうやめろ。それ以上は、マニューラの命に関わる」

「…マニューラ、もういい」

 

アカギはマニューラをボールに戻し、シロナ達に向き直った。

 

「…私が思うに、あの影のポケモンはこの世界そのものだ。あのポケモンの怒りを買えば、この世界は歪み、その歪みは現実世界にも広がる。あの小娘だけでどうこうできるものではない」

「本当にそうかしら?」

「なに?」

「気づいてない?この世界に溢れていた歪みから来る黒い雲が出なくなったのよ」

 

アカギは周囲を見渡す。毒素を含む黒い雲はバトルを始める前は絶えず色々なところから吐き出していた。しかし、今は吹き出していない。雲そのものは残っているが、新たに追加されることがない。

 

「馬鹿な!あのポケモンを鎮めたというのか⁈」

「あの子にはそれだけの力がある。甘くみたわね」

「あのポケモンを鎮めることで世界を残した。ということは、新たに赤い鎖を作ったとしても、新しい世界を創ることはできないのか!」

 

仮にまたアカギが同じことをしてギラティナの怒りを買おうとも、ヒカリが鎮めることができるのならば、アカギの目的は達成できない。ヒカリそのものをどうにかしてしまえばあるいは可能かもしれないが、シロナがいるのなら恐らくそれも叶わない。

 

「諦めなさい。貴方の野望はここで終わりよ」

「何故だ!何故貴様らはこの世界を残そうとする!そんなに心とかいう不完全で曖昧なものが大事なのか⁈」

 

シロナは血を流すカイムの手を取る。

 

「生まれた場所、生まれてから過ごした時間、話す言葉…みんな違うけど、隣にポケモンが、大事な人がいてくれたから。大事な存在がいてくれたことが嬉しいから、知らない人同士でポケモンを戦わせたり、交換することができる」

「黙れ!!!」

 

アカギは激昂する。

今まで見てきたアカギの中で、最も感情を露わにしている。感情というものを忌避してきたアカギが見せる、はじめての激昂。

 

「もういいたくさんだ!だから心が大事だと言うのか⁈そんなもの、今まで幸せに生きてきたと思い込んでいる人間の戯言、都合でしかない!今私が感じている憎しみ、憤りも…全て心が不完全なものだから感じているに過ぎない!貴様らの都合で、私の望む世界を阻むというのか!」

 

これほどまでに心を否定するアカギの過去に何があったのかはわからない。しかし、彼にとって心というのは存在してはならないもの。そういう固定観念に囚われていた。

 

「……アカギ」

 

ずっと沈黙を貫き通していたカイムが一歩前に出る。血はほとんど止まっているが、手の傷は痛々しく残っている。

 

「お前は、科学者でもあるんだよな」

「…それがどうしたというのだ」

「そうか。それで、お前が望むのは心の無い完全なる世界と」

「そうだ」

「……完全であることを、望むんだな」

「それがなんだというのだ!」

「完全を、完成を望むのなら、お前は科学者じゃないよ」

 

カイムの言葉にアカギは目を見開く。

 

「どう言うことだ」

「俺は科学者じゃなくて、あくまで考古学者だ。ヒヨッコだけどな。だが知り合いに死ぬほど優秀な科学者がいてな。そいつの言葉なんだが、『科学者にとって完全とは絶望に等しい』らしい。なんでだと思う?」

「その科学者が狂っているにすぎん。科学者とは、完全を追い求めるものだ」

「いや、科学者ってのは、『発展を追い求める者』だって言ってた」

「それと完全を成し遂げることになんの矛盾がある」

「完全、つまりはそれ以上がない。すなわち、『それ以上発展することが叶わない』ということだ」

「!」

「それ以上の発展がないのなら、科学者は存在価値を失う。つまりは絶望だよ。お前が完全を望むのなら、お前は科学者ではない」

「黙れ!貴様らに何がわかる!」

「……アカギ、貴方は本当に心なんて無くなればいいと思っているの?」

「そうだ!心などというものがあるから、この世は醜く、そして不完全なのだから!」

 

その言葉にシロナは悲しげに目を伏せる。

 

「…それを、貴方のことを思うポケモン達にも同じことが言える?」

 

シロナは気づいていた。

アカギは心というものを否定しているが、決して悪いトレーナーではないことを。戦ってわかったが、アカギのポケモンはアカギのことを信頼している。そして、アカギの願いを叶えたいと思っていると。

アカギの手持ちにクロバットがいた。クロバットは、トレーナーへの最大限の信頼が無ければ進化することはできない。つまり、クロバットはアカギに対して心の底から信頼を向けていたということになる。その信頼は全て心があるからこそのものであり、心無くして信頼は生まれない。それに、マニューラが瀕死の身体に鞭打ってまでシロナに襲いかかったのも、アカギのためである。

その手持ちのポケモン達から向けられた信頼と愛情すらも否定するのかと、シロナはアカギに聞いた。

 

「………」

「アカギ、お前の言う通り心は不完全で、曖昧なものだ。だがそれを消し去ることで、人もポケモンも『可能性』というものが無くなる。不完全で曖昧だからこそ、俺たちは上を目指せるんだ。不完全だとしても、より良くしていくために努力する。この積み重ねをお前は無価値だと言えるのか。科学者であるお前が」

「……もういい、黙れ」

 

アカギは二人の横を通り過ぎる。

 

「貴様らの都合に合わせるのはもううんざりだ。私の正義を、私は信じる。世界とは、完全でなければならないのだ」

「こうでなければならないなんてものは、本来この世には無いわ。ただ私たちの目線で、その価値観が変わるだけ。私がこの世界を守るのも、貴方が世界を壊そうとするのも、全て私たちの中だけの都合(正義)でしかない。それを貴方はわかっているの?」

「所詮、貴様らとは分かり合えん。私は負けない。いつか必ず、この世界の秘密を解き明かし、そして私の目指す完全な世界を実現してみせる。それが、私の正義(都合)だ」

 

そう言ってアカギは何処かへ去っていった。

この破れた世界は物理的な時間が流れていない。故にこの世界にいる間は他者から干渉される以外に肉体に変化はない。この世界にいる間は歳を取ることもなく、食事などの生命維持活動も必要ない。どれだけの時間が流れようと、死ぬことはない。

もしかしたら、アカギが求めた世界はこういうものだったのかもしれない。

 

「…怒りや悲しみを感じられるから、喜びや楽しさをより強く感じられるのに」

「人の心は良くも悪くも移ろいやすい。そんな心を、アカギは許容できなかったんだな」

「……そうね」

「哀れには思わない。あいつにはあいつなりの正義(都合)があった。それを貫き通すことを選んだんだ」

「わかってるわ。それよりカイム、傷は大丈夫?」

「ん、ああ」

 

右手を開くと、手のひらが血だらけになっていた。思ったよりも傷は深い。止まっているが、痛みは引いていない。

 

「思ったよりも酷いな」

「ポケモンの爪を素手で受け止めるなんてするからよ。応急処置だけするわ。こっちに来て」

 

シロナは治療道具を使ってカイムの手を治療し始めた。尤も、手元にある道具だけではできることに限界があるため、これ以上悪化させないようにするための応急処置だが。

 

「リーグが近い。ここで下手に怪我されちゃ、な」

「…ありがとう、感謝してるわ。でももうこんな無茶しないで」

 

シロナは包帯が巻かれたカイムの手を取り、そう言う。

守ってくれたことは素直に嬉しいし、リーグ前に怪我をする事態を防げたことにも感謝している。だがそれでも、大事な人が傷つくのは見たくない。

 

「…善処しよう」

「…そう言っても、きっと貴方はするのよね」

「無茶でどうにかなるレベルならな」

「ええ、なら私も貴方に無茶させないようにするわ」

「普段無茶しまくってる奴が言う言葉じゃないな」

 

苦笑しながらカイムは立ち上がる。

 

「行こう。ギラティナの怒りは鎮まった。もう世界は大丈夫だろう」

「そうね、ヒカリちゃんがうまくやってくれたのね」

「随分信頼してるな」

「そう?うーん、でもそうね。そうかも」

「何か根拠でも?」

「女のカンだけど、あの子はきっと世界が待っていた存在。世界はあの子が生まれてくるのを待っていた。そんな気がするの」

「そうか、そうかもな」

 

遠くでヒカリが手を振っているのが見える。

二人はそこに向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「シロナさーん!カイムさーん!」

「ヒカリちゃん、大丈夫だった?」

「はい!一生懸命戦ったら、ギラティナはわかってくれました!」

「そう、よかった。ありがとうね」

 

ヒカリはすごく楽しかった、とでも言い出しそうなくらいはしゃいでいた。それもそうだろう。伝説のポケモンなんてそうそうお目にかかれるものではない。出会えただけでも相当幸運だというのに、バトルまでできたとなれば、興奮も相当だろう。

 

「それで、どうやって帰るんだ?」

 

結局問題はそれである。

この破れた世界に留まり続けるわけにはいかない。

 

「多分、ここから帰れます」

 

ヒカリが指さしたのは、自分の背後。そこには白い歪んだ空間が広がっており、破れた世界に来た時の空間と良く似ている。

 

「ぽいな」

「きっとこれね」

「ギラティナが残してくれたんです。だから多分ここです」

「随分親切だな」

「ギラティナ、優しい子でしたから!」

 

あんな恐ろしい形相のポケモンを優しい子と言うあたり、シロナが認めただけあるなとカイムは苦笑する。

その当のギラティナはこの場にはおらず、遠くで鳴き声が響くのが聞こえた。

 

「挨拶でもしてんのか?」

「きっとそうね。さぁ、帰りましょう」

「はい!」

 

三人は目の前の空間に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ってきた〜」

 

目を開けると、そこはやりの柱だった。

ギンガ団の幹部、ジュピターとマーズはそのまま残っていたが、下っ端達は撤退したようだった。

 

「……柱が元に戻ってる」

 

破れた世界に行く前には歪んでいた柱が元の形に戻っており、空も晴れ渡っていた。

 

「ギラティナを鎮めたのだもの。もう世界に歪みが広がることはないわ」

「そうか」

「お、お前たち!アカギ様はどこだ!」

 

黙っていたマーズが声を上げる。

 

「影のポケモン、ギラティナの世界に残ったよ」

「なっ⁈」

「貴様ら!アカギ様を置いてきたというのか⁈」

「そうだ。あいつが選んだことだ」

「そんな…」

「ならこれから我々は…ギンガ団はどうすれば…」

 

二人は頭を抱える。

アカギは悪いことをしたが、決して悪人だったというわけではない。無論悪いことはしてきたが、それもアカギなりに世界というものを考えた結果である。そして彼らギンガ団はそれについてきた。アカギはアカギなりにカリスマがあったからこそできたことだ。だからアカギがいなくなれば、ギンガ団は混乱するだろう。

仮にアカギがここに戻ってくる時にあの場にいたとしても、共に来ることはなかった。それほどまでにカイム達とは考えが違う。

 

「あと一歩で、新たなギンガが生まれたというのに…」

「お前らが思い描いていたものと、アカギが思い描いていたものが同じかは知らんがな」

「………」

「行こう」

 

項垂れる幹部二人を残して、三人はテンガン山を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、今日はありがとうございました!」

 

テンガン山を後にし、ポケモンセンターでポケモン達を回復させている間に三人は喫茶店で休憩していた。

 

「いいえ、むしろこっちがお礼を言うべきだわ。ギラティナを鎮めてくれてありがとう」

「いいんですよ。楽しかったし」

「うふふ、面白い子ね」

「貴重な経験だったので、楽しめました」

 

朗らかに笑うヒカリにカイムは苦笑する。一流のトレーナーというのはどこかしら頭のネジが飛んでいるものなのかもしれない。

 

「あらカイム、今失礼なこと考えなかった?」

「滅相もない」

「二人は仲がいいんですね!」

「なんだかんだ長い付き合いよね」

「もう、三年くらいか」

「あっという間ね」

「そういうお前は?旅に出てどれくらい経つ」

「この前一年を過ぎました」

「たった一年の経験でポケモンリーグに出れるのかよ…」

 

カイムからすれば考えられない。今なら出ても本戦に出れるか出られないかの瀬戸際くらいだろうが、ヒカリはまず間違いなく予選を突破してくる。そう思えるだけの強さがヒカリにはあった。

 

「シロナさんはチャンピオンだから当然として、カイムさんはポケモンリーグには出ないんですか?」

「出ねーよ。俺の実力じゃ、本戦に出れてもすぐに負ける」

「ふーん。でも今度バトルしてくださいね!」

「機会があればな」

 

そこでヒカリのスマートフォンに呼び出しが入った。ポケモン達の回復が終わったらしい。

 

「回復、終わったみたいです。それじゃ、行きますね」

「ええ。今日はありがと」

「いえいえ。ではまた!ポケモンリーグで!」

 

手を振ってヒカリは去っていった。

 

「あの歳でギラティナを鎮める、か。望まれて生まれてきたっていうシロナの言うことがよくわかるよ」

「でしょ?才能なら、私よりもきっと上ね」

「俺は比べるまでもねーな」

 

カイムはちゃんと治療された右手を開く。傷は深かったが、縫う必要はない傷だったため、ガーゼと包帯で完全に塞がれている。

 

「…ごめんね」

 

怪我をした手をシロナが触れる。

 

「さっきも言ったろ。リーグ前に怪我されちゃ、困る。俺はシロナがリーグで戦うのを見たいんだから」

「わかってる。だからこれ以上は言わないわ」

「それでいい」

 

カイムは窓の外に目を向ける。

 

「…アカギは、なんで心が憎かったんだろうな」

「わからない。完全であることを至高としていたことが、今回の件の鍵にはなるのでしょうけど、一番は彼の過去が関係してるでしょうから」

 

楽しげにポケモン達と戯れるトレーナーの姿が見える。

その顔は、喜色に染まっており、ポケモン達もトレーナーといることに喜びを感じているように見える。

 

「……アカギのポケモンさ、アカギのことをきっと心から信頼してたし、きっとアカギのことが好きだったんだと思う」

 

マニューラの行動を見れば、それはほぼ間違いないことがわかる。マニューラは瀕死の傷を負いながらもアカギの夢を阻もうとするシロナを排除しようとした。生命にも関わりかねないレベルの行動だというのに、マニューラはそうした。つまりそれだけの思いがあったということだ。

 

「だからあそこまでしたんだと思う」

「そうね。マニューラだけじゃなく、他のポケモンもきっとそう。アカギのことを信頼していた。その信頼が消えたとしても、心を否定したアカギが夢見た世界を実現しようとした。そして私たちはそれを阻んだ」

「悪いとは思わない。シロナは、俺は、俺たちの中ではきっと正しいことをした。だが全ての人間がこの世界で生きていたいと思っているわけじゃないことを、ちゃんと理解しておく必要がある」

「…そうね。人それぞれ望む世界は違う」

 

そこで一度シロナは言葉を切る。

 

 

 

「でも私は、この世界(貴方の隣)にいたい」

 

 

 

シロナは怪我をしたカイムの手を包みながらそう言った。

 

「……そっか」

 

カイムはカップに入った冷めかけたコーヒーを飲む。

 

「…酸化してきて酸っぱいな」

「帰ったらコーヒー飲む?」

「コーヒーだけはシロナの方が淹れるの上手いから任せた」

「ふふ、いいわよ。この前豆をもらったの。アローラ産の豆よ」

「そいつはいい。楽しみだ」

「じゃあ、帰りましょ。私たちの家に」

「ああ」

 

カイムは机に代金を置いて立ち上がる。

ポケモンセンターに預けていたポケモン達を受け取ると、二人は家に帰っていった。

 

 

 

 

日差しが暑い季節。

シンオウ地方で最も熱い闘いが始まろうとしていた。

 




カイムがシロナさんを庇って怪我をするシーンが書きたくてわざとマニューラを暴走させた作者です。なんならマニューラの爪をカイムの腹にぶっ刺して致命傷に近い状態のカイムをシロナさんが応急処置して肩を貸しながらギラティナを鎮めたヒカリの元にいくっていう構想にしてたけど、それやるとポケモンリーグに影響出そうなのでやめました。

マサキの実年齢がよくわからなかったので勝手にカイムと同期にしました。ポケモン預かりシステム作れるくらいだし、カイムと同年齢くらいでも問題ないよね?
破れた世界は映画ベースにしました。単純にあっちの方が好きと言うだけ。
実はカイムくん、レッドくんに会ったことがあるという裏設定もあったりする。学生時代に調査でカントー地方を色々巡ってた時に出会いました。

カイム
スーパーマサラ人に次ぐ身体能力の高さを見せつけたモブ上がり。家事全般においてはシロナの遥か上をいく腕前だが、唯一コーヒーだけはシロナの方が淹れるのが上手い。紅茶はカイムの方が上手く淹れるが、そもそも二人ともコーヒー派なのであまり紅茶は飲まない。着ている服が黒系統が多いのは、汚れが目立たないことと、シロナの色に無意識に合わせているから。無難なジャケットやパーカーを着ることが多い。

シロナ
唯一できる家事はコーヒーを淹れること。研究の合間にコーヒーを淹れることだけは上手くなった残念美人。カイムがいないと生活レベルが恐ろしいことになるが、免疫力とバイタリティは元々凄まじいため体調を崩すことはほとんどない。本編ならヒカリが戦うけど、アカギと今回戦ってもらった。ちなみにカイムがアカギと戦ったらうまくいけば相打ち、大体敗北。

ヒカリ
ゲームのポケモンの主人公。この世界線では空気になりがちだが、バトルはカイムよりも強い天才肌。シロナのことを頼れるかっこいい大人の女性と思っているが、それはシロナの私生活を知らないだけ。そして今後も知ることはない。次回のポケモンリーグで戦います。

シロナさんの自宅
公式でシロナさんの自宅は公開されていないため、作者が勝手に創り出した自宅。二階建ての一軒家で、ミオシティ付近のどこかに存在するが、未だにパパラッチ達は見つけることができていない。外観は白く、清潔感があり、一階にはリビング、キッチン、ダイニング、トイレ、風呂、シロナの研究部屋がある。二階にはカイムの部屋とシロナの寝室、そして資料部屋がある。また、屋外にはトレーニングのためのバトル場もあるため、普通の一軒家と比べたら結構大きい。チャンピオンと考古学者やってるし、結構稼いでるだろうからこれくらい家が大きくてもいけると作者は考えてる。シロナさんが一括で購入したため、ローンとかは無いが、カイムはただで使わせてもらうのは申し訳ないという理由で水道代、ガス代を払っている。食費と光熱費は二人で折半。はよ結婚しろ。

カイムの部屋
元々は物置部屋だったが、シロナさんがカイムと同棲したいばかりにポケモン達の手を借りながらめっちゃ苦労して片付けた部屋。今はカイムの手によって常に綺麗に保たれている。あまり物が無く、あるのは机とデスクトップPC、3枚のモニターとベット、ゲーミングチェア、本棚とダンベルくらい。服はウォークインクローゼットに収納されている。2階の一番奥に位置する。資料はデジタルで保存するタイプ。バックアップも完備。

シロナさんの部屋
カイムとは異なり、結構物が多い。カイムが卒業する前は床一面に書類や研究資料が散りばめられていたが、匠の手によって全て綺麗に仕分けされて、今では以前とは比べ物にならないくらい綺麗になった。机とデスクトップPCとモニター、高級なオフィスチェアと本棚がある。以前はこの部屋にベットも置いていたが、研究資料が大量にある部屋は気が休まらない気がして、寝室を2階に移す。一階に位置する。

シロナさんの寝室
基本寝るだけの部屋だが、それでもカイムが定期的に掃除をしないとあっという間に散らかる。あるのはベットと小説等が並べられた本棚、机くらい。寝室だけならカイムの部屋よりも質素。空き部屋に近かったが、(研究部屋では気が休まらないという名目にしているが)カイムの隣の部屋に行きたかったからわざわざこの部屋を寝室に変えた。なお、そのことにカイムは気づいていない。

資料部屋
元々資料を保管するための部屋をカイムが完璧に整えた部屋。資料がそれぞれ区分分けされ、探しやすくなっている。なお、デジタルでも資料は保存さらているため、あまりカイムはこの部屋を使わない。

次回はポケモンリーグ。バトル以外でしかカイムは活躍できません。

番外編に訪れる場所(対象作品)

  • アーシア島(ルギア)
  • グリーンフィールド(エンテイ)
  • 千年彗星が見える荒野(ジラーチ)
  • ラルースシティ(デオキシス、レックウザ)
  • オルドラン城(ルカリオ)
  • アクーシャ(マナフィ)
  • グラシデアの花畑(シェイミ)
  • ミチーナ(アルセウス)
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