ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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ライモンシティです。

前回描写はカットしましたが、シロナとアルティメットアイリスってどっちが強いんでしょうね。シロナさん、基本ポケモンに道具持たせてないからアイリスな気もしますけど、道具無し、またはシロナさんも道具を使えば互角な気もします。

今回は書いてていつも以上に楽しかったです。カイムくん、いじりがいがあるから。

お気に入りか4000超えました。やったー!
ありがとうございます。
記念に何か書きます。次の更新時にアンケート取るのでよければ次回もよろしくお願いします。

10話です。
ブラックコーヒーをご用意ください。


10話 ライモンシティ

ライモンシティ

ギアステーション

 

列車から降り、ギアステーションから出ると多数の人で賑わっていた。

訪れたのはライモンシティ。街全体に人々が楽しむ設備が揃っているまさに楽しむための街。

一行は観光としてライモンシティに訪れていた。

 

「すごいわね…こんなに賑やかな街初めて」

 

感嘆の声をシロナは思わず漏らしてしまう。

シンオウ地方にはこれほど『楽しむ』ことに特化した街はない。イッシュ地方自体が観光名所として有名なため、このように街そのものを観光地にしてしまうという発想も生まれるのかもしれない。

 

「ジョウトのエンジュシティとは別の方角で観光に特化してるな」

「半分以上が遊園地みたいな街です…歴史によって発展した街とは別の方角で発展しています」

 

街そのものが非常に広く、スタジアムやコンサートホール、遊園地にあるようなジェットコースターや観覧車まであるというのに他の設備も備わっている。

 

「さて、時間も有限だから早速動きましょ。私とカトレア…あとカイムは服を見に行くけど、アイリスとシキミは遊園地ゾーンに行くのよね」

「はい!ジェットコースター乗りたーい!」

「アタシも普段来れない場所なので、アイリスちゃんと楽しんできます」

「わかったわ。じゃあお昼頃に合流しましょう。そうね…とりあえず、このギアステーション前に集合で」

「はーい!シキミさん、いこ!」

「あ、ちょっと待ってー!じゃあみなさん、後で!」

 

アイリスを追って慌ただしく駆けていくシキミの後ろ姿を見送ると三人は移動を開始した。

 

「それで、どこにいくの?服を買うって話だったけど私たちこの街の服屋がどんな感じかよく知らないわよ」

 

二人はイッシュ地方は初めてではないが、ライモンシティは初めてだ。故に土地勘はなく、下調べも調査などであまりできていない現状だった。買い物程度だしその場で決めても問題はないというのもあるが、カトレアが調べておくから問題ないと言っていたことが大きい。

そう言っていた当のカトレア本人はカイムに持たせた鞄からタブレットを取り出した。

 

「ご心配なく。リサーチ済みですので」

 

ドヤ顔をしながらタブレットを見せつけるカトレア。

画面を見ると、いくつかの服屋が映し出されており、カトレアなりにピックアップしたものが表示されているようだった。

そしてカトレアはカイムにタブレットを差し出した。

 

「ではカイム、案内を頼みます」

「え、俺?」

「当然ではなくて?私は勝者で、貴方は敗者なのですから」

「へーへーわかったよ。くっそ、なんで俺がお守りせにゃならんのだ」

 

ぶつくさ言いつつカイムはため息を吐きながらタブレットを受け取り、移動を開始した。

なお、コクランは『カイム様とシロナ様にならカトレア様をお任せできます』と言って職務放棄し、カイムは内心でため息をついていた。

 

街中を移動中、シロナはともかくイッシュ地方の四天王であるカトレアは目立つかと思ったが、案外気づかれることもなくすいすい移動ができた。シロナも知名度は低いが、容姿は抜群であるため何かしら騒ぎが起こるかと思ったが、そんなこともなかった。

その考えが顔に出ていたのか、カトレアはカイムに尋ねる。

 

「注目の的にならないのが不思議ですか…?」

 

そんなカイムの内心を読み取ったようにカトレアはそう聞く。

 

「ああ。シロナはイッシュ地方じゃ知名度そこまでだろうけど、お前は違うだろ。正直、ちょっとしたパニックになりかねんと思ったが…」

「そうでしょうね。普通なら」

「普通なら?」

「アタクシが今、超能力で人の視点に留まりにくくしているからです…」

「便利なことで」

「できるようになるのに相当苦労いたしましたけどね…」

 

ポケモンバトルを禁止されるほど強力な超能力。それを制御するためにどれほどの苦痛を伴ったのかは想像を絶する。世界には超能力を持つ俗に言うサイキッカーはザラにいる。しかしカトレアほど強力なサイキッカーは数えられるほどしかいないだろう。

 

「この力の制御にもシロナさんに一役買っていただいたの…」

「そうだったわね。今となっては、懐かしいわ」

 

カトレアの能力は自身の感情に反応して暴走していたため、まずは感情のコントロールから始めていた。彼女自身が非常に負けず嫌いなこともあり、それも簡単にはいかなかったが、シロナとコクランの献身的な協力もあり能力制御の鍵となるものを見つけることができたのはいい思い出だった。

 

「アタクシの方が、シロナさんとの付き合いは長いかしら?」

「そうね…カイムに出会った時にはもう知り合っていたわね」

「だそうですよ、カイム」

「…え?なに?」

「アタクシの方が少しシロナさんとの付き合いが長い、ということです」

「いや…だからなんだよ…」

 

その程度のことで闘争心を燃やすほどカイムは負けず嫌いではない。カトレアの煽りもカイムには通じなかった。

 

「人と人の繋がりは時間の長さじゃないだろ。その人と何を為したか、どういう関係でいるかが大切だ」

 

表情を変えずに言うカイムにカトレアは目を丸くし、シロナは微笑む。シロナと出会う以前のカイムなら何も言わなかっただろう。三年近いシロナとの付き合いがカイムをトレーナーとしてだけでなく人としても成長させた。それがわかるような言葉だった。

 

「…驚きました。貴方からそんな言葉が出るなんて」

「ええ…?」

「以前の貴方ならそんなこと思ってても言わないでしょう?口に出せるということは、とても大切なことですから…」

 

溜め込まず、ちゃんと言葉にする。それはカトレアが感情を制御する上で大切にしていることだった。それもただ言うのではなく、『信頼できる相手』に言う。これが大切だと考えていた。

人は近しい人に対して言葉が少なくなることもある。全ての人がそうではないが、そういう人間も一定数いるのだ。そしてカイムとカトレアはそれに当てはまる人間だった。だからこそ、カトレアはちゃんと言うことを言えたカイムのことを評価した。

 

「……そうかもな。無論なんでも言えばいいわけじゃないんだろうけど、人っていついなくなるかわかんないからさ。言葉にしていいことはすべきだと思っただけだ」

「いいことよ。時間は有限だということをよく理解してるわね」

「さて、な」

 

三人はそのままデパートへと向かった。

デパートの中には服だけでなく靴やアクセサリー、本やレストランまで幅広く存在していた。

 

「で?まずはどこにいくんだ」

「アタクシとシロナさんの服を買いに行きます。夏物と秋物を新調したいので」

「うふふ、カトレアとのお買い物…楽しみだわ」

「アタクシもです」

「カイム、ちゃんとついてきてね」

「へーへーわかってますよ」

 

楽しげに歩いていく二人の背中をカイムは苦い顔をしながら追った。

 

最初の店にたどり着くと、二人は早速物色を始めた。

 

「カトレアはどんな服がいいかしら」

「そうですね……このトップスとか良さそうです」

 

カトレアが取ったのは薄いベージュのトップスだった。ゆったりとした雰囲気はカトレアによく合っている。

 

「うん、カトレアのイメージによく合うわね。あ、このボトムスと合わせたらいいんじゃないかしら」

 

シロナは白いボトムスを手に取り、二つの服をカトレアに合わせて見る。

 

「あら、いいわね。この色合いなら……このロングスカートもいいんじゃない?」

「いいですね…アタクシ、ロングスカート好きです」

「あ、この色もいいわね。普段カトレアが着てるものよりちょっと派手だけど、たまにはこういうのもいいんじゃない?」

「アタクシに似合うでしょうか…」

「きっと似合うわよ。カトレア、可愛いから何着ても絵になるわ」

「恐縮です…」

「あとこういうちょっとビシッとしたのもいいわね。カトレア、ゆるふわなイメージ強いからたまにはこうカッコいい感じもいいと思うわ」

「それはシロナさんの趣味では…?」

「うふふ、そうかも。私がそういう服が好きでよく着てるものね」

 

楽しそうにシロナは服の物色を続ける。カトレアに服を持ってきては合わせ、持ってきては合わせを繰り返していた。カトレア本人は嫌そうな様子も見せず、シロナにされるがままになっているためそこそこ楽しいのかもしれない。

一方カイムは女性モノの服屋ということもあり手持ち無沙汰になっていた。だがここでスマートフォンでもいじり始めようものなら確実にカトレアから何かされるので大人しく二人の様子を見守っていた。

 

「これとこれ…あとこの組み合わせで試着してみたら?」

「ええ…是非」

「じゃ、着替えてみて」

 

カトレアは服を持って試着室へと入っていった。

カトレアの着替えを待つ間、シロナはカイムに視線を向ける。カイムはいつもと変わらない無表情で突っ立っているだけだった。

 

「どう?」

 

手持ち無沙汰なのが目に見えていたシロナはカイムにそう話しかける。

 

「どう、とは?」

「女性の、私以外の買い物に付き合うって」

「女の買い物が長いことは知ってる。特に服はな。予想はしていたことだし、そこまできつくない」

「少しはきついんだ?」

「女性モノの服屋で楽しめる男の方が少ないと思うんだが」

 

付き添いとはいえ、場違いであることに変わりはない。

そもそも男向けのものが売っていない場所なのだ。基本服に拘らないカイムからすれば退屈になるのは仕方ないことである。

 

「嫌とまでは言わんが、居心地は良くない」

「まあ、そうよね。でも女性の買い物って大切なの。貴方が身体を鍛えるように、女性は自分を美しく着飾る。いつになっても女性っていうのは綺麗に見られたいからね」

「そういうもんか」

「そういうものよ」

「…そうか」

 

カイムとしてもシロナの言っていることは理解できるし納得もできる。カイム自身にその感情が無くとも、それはわかるのだ。

 

「となると、シロナもそう思うのか?」

「もちろん。そのために日々努力しているわ」

「……そうか」

 

『ずっと綺麗だけどな』という言葉が出てきそうになったが、カトレアがいるこの場で言うことではないなと考えて飲み込む。

 

「貴方には、ずっと綺麗な姿を見ていてほしい。そう思ってるわ」

「家での様子を見てるととてもそうには思えんがな」

「む、それ言う?」

「はは」

 

むくれるシロナに対してカイムが僅かに笑う。シロナにしか見せない、穏やかな表情。その表情が見れただけでシロナの溜飲は下がる。

そこで試着室のカーテンが開いた。

 

「どうでしょう…?」

 

カトレアが着ているのは白いトップスに黒のボトムスを合わせ、ベージュのロングスカートを穿いているコーディネートだった。

カトレアの白が基調とされたイメージから外れることもなく、それでいて普段のお嬢様っぽい服装とは異なりカジュアルな雰囲気となっている。

 

「あら、いいわね。お嬢様よりも女の子って感じになってる」

「…そうですか。アタクシもこういう服はあまり着ないので新鮮です」

「よく似合ってるわ」

「じゃあこれを一式買います」

 

ブランド品というわけではないが、平然と値札も見ずに一式買うと言っているあたり、庶民と金銭感覚が違うなとカイムは内心で苦笑する。

 

「では次の服を…」

 

そう言ってカトレアは次々とシロナが見繕った服を着ていく。

カトレアのイメージに合ったふわっとした服から、シロナが着てそうな黒くてビシッとしたまで様々な服を試着した。

 

「こんな服…今まで着たことないです…」

 

黒のスキニーを穿き、白いヘソだしのシャツの上に黒い革ジャケットを着たカトレアは少し恥ずかしそうにしている。

 

「似合う…似合うわね。なかなかカトレアのこういう姿はお目にかかれないからとても新鮮だわ。カトレアもそこそこ身長あるからこういう服似合うと思ったのよ」

「で、ですが…アタクシこんな服着たことなくて…」

「着たことないからといってこれからも着ない理由にはならないわ」

(楽しそうだなぁ〜シロナ)

 

妹分であるカトレアを着せ替え人形のように色々な服を着せるシロナはとても楽しそうで、そこにいるのはシンオウ地方チャンピオンとしてではなく、一人の女性である『シロナ』としての一面が垣間見得ていた。

カトレアも名家の御令嬢やイッシュ地方四天王としてではなく、一人の女の子としてシロナとの買い物を楽しんでいたように見える。

 

(……こういう姿が見れるなら、悪い気もしないな)

 

楽しげに服を物色する二人を後ろから眺めながらカイムは内心でそうつぶやき、僅かに頬を緩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい…」

 

数時間後、カイムは先程の言葉を内心で撤回した。

 

「あら、まさかもうへばったのですか?鍛えているというのは口先だけかしら?」

「まず俺の姿を直視してから言え」

「女性の買い物に付き合うのですから、荷物持ちをするくらいの覚悟はしていたのでは?」

「限度があんだろ限度が!」

 

両手に大量の買い物袋をぶらさげたカイムがキレる。

服だけでなく靴や雑貨といったものもカトレアは買い揃えており、当然その荷物を全てカイムが持つことになっていた。

 

「久々だったからつい楽しくて…」

「途中わざわざいらないものまで買おうとしていたよな」

「………なんのことでしょう」

「おい、今の間はなんだ」

 

カイムのジト目を涼しげにスルーするカトレアを見てシロナは苦笑する。

 

「まあまあ。落ち着いてカイム」

「シロナ…」

「カトレアも。『お兄ちゃん』に構ってほしいのはわかるけど、ほどほどにね」

「あ?お兄ちゃん?」

 

シロナの言葉にカトレアは顔を赤くし、シロナに詰め寄る。

 

「なっ!そ、それは言わないって…!」

「うふふ、あまり人の彼氏を弄りすぎるからこうなるのよ?」

 

ウインクをしながらシロナは人差し指をカトレアの唇に当てる。

少し赤くなりながら呻いていたが、カイムがなんのことか全くわかっていない様子だったため視線を逸らして唇を尖らせる。

 

「なんだお兄ちゃんって」

「わからなくていいのよ。特にカイムは」

「余計気になるんだが」

「…行きましょう。次の目的地の道中にコインロッカーがあります。そこに荷物を預けていきましょう」

 

耳まで赤くしつかつかと歩いていくカトレアの背中をシロナは笑いながら追い、カイムは釈然としないがとりあえず二人のあとを追った。

 

(…カトレア、兄貴なんていたのか?)

 

案外鈍いところもあるカイムだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてやってきたのは、男物の服屋だった。

 

「さ!はじめましょ!」

「はい」

「………………」

 

とても楽しそうにするシロナとカトレアに対して、カイムの目は腐りきっていた。

 

「ほらほら、そういう約束だったでしょ?」

「………………」

「せっかくなんだし、楽しみましょ!」

「…善処する」

 

楽しめるかどうかはともかくとして、間違いなく疲れることになるだろうとカイムは内心で覚悟を決めた。

 

「でも私たちだけで好き勝手にやるのもあまり良くないわよね。カイム自身が服を選ぶ力が身に付かないのだし」

「それもそうですね……最低限、要望を聞くくらいはしないとですね」

「そうね。というわけで、なにか要望はある?」

 

要望、と言われても正直カイムは服を見た目よりも機能性重視で選ぶ。動きやすさだったり、速乾性がある素材だったりが優先事項の上位になるため、見た目は二の次だった。

 

「…要望」

「流石に何かしらあるでしょう?自分が身につけるものなのだし」

「…とりあえず、派手じゃないやつだな」

「派手じゃないやつ、ね。見た目は多分シンプルなものの方が好きよね」

「ああ」

「色は…暖色でも落ち着いた色がいいわね。寒色ならちょっと暗めの方が合わせやすいかしら」

「このグレーのスキニーなどどうでしょう。明るめのグレーなので、派手ではありませんが、明るくはあります」

「あ、いいわね。この色なら…このシャツとジャケットが合うんじゃないかしら」

「いいと思います…」

「というわけで、はいこれ。試着してきて」

 

満面の笑みで服を一式押し付けられたカイムは腐った目でそれを受け取る。

とりあえず逆らう気などないため、大人しく試着室で渡された服に着替えた。カーテンを開くと、二人が新しい服を持って待っていた。

 

「あ、いいわね。清潔感もあるし、ちゃんとかっこよく仕上がっているわね」

「だいぶ良くなりましたね…」

「そんなに前の服ダメか?」

「悪くはないの。ただ地味なのよ」

「清潔感はあります。デザインもシンプルなものなので良し悪しは無いですけど、地味でしたね」

 

二人から地味呼ばわりされてカイムは軽くショックを受ける。

 

「でもほら、ちゃんといい服を着ればカイムはもっとかっこよくなれるのよ」

「…そうか」

 

平凡なりに努力をすれば腕は磨かれる。バトルを通してそのことを学んだカイムにとって最も説得力のある言葉だった。

 

「鏡を見て。以前の貴方とは違うわ」

 

鏡を見る。

七分袖の紺色のロングカーディガンに白い半袖のシャツ、そしてグレーのスキニーを身につけたカイムは、以前と比べてかなり逞しく見えるようになっていた。

カイム自身が鍛えただけでなく、纏う雰囲気そのものが大人びており、引き締まった感覚を覚える。目に宿る光はまだ弱いが、大学生時代のカイムと比べたらはるかに逞しくなっている。

着ている服だけではない。ちゃんと自身が成長していることが鏡に映された自分から読み取れた。

 

「どう?」

「…凡庸な俺でも、服をまともにすれば多少マシになるんだな」

「素直じゃないわね」

「全くです」

「聞こえてんぞ」

「聞こえるように言ったの。もう少し素直になればいいのに」

 

カイムは肩を竦める。

 

「努力を積み重ねるだけでなく、自身のことを見つめ直すことも大切よ。内面も外見もね」

「…みたいだな」

「じゃ、そういうわけでこれも試着しましょ!」

 

真面目な空気から一転、シロナは手に持った数着の服をカイムの目の前に突きつけた。カトレアもそのシロナの後ろからちゃっかり服を追加している。

 

「……え?これ全部?」

「もちろん。ちゃんと選んで買うから大丈夫よ」

「…そういう問題じゃねえよ」

 

カイムの受難は続く。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

着せ替え人形にされ、最終的に三着ほど服を購入したころにはカイムは疲れ切っていた。

現在はギアステーション前のベンチに座り込み死んだ目で空を眺めていた。そんなカイムにお茶を飲みながらシロナは言う。

 

「お疲れね」

「当たり前だ。散々着せ替え人形にしやがって」

「でもおかげで似合う服が見つかったじゃない。服の選び方も少しはわかるようになったんじゃない?」

「……それは、そうだが」

 

実際、カイムのファッションに関する知識や姿勢はこれを機に変わった。だがその代償(?)としてシロナとカトレアの二人におもちゃにされたのは正直いただけない。

 

「アタクシとシロナさんのおかげでいい服に巡り会えたのですから、感謝はされど小言を言われる理由にはならないかと」

「お前はもうちょい限度を学べ」

「失礼。負けず嫌いなので」

「何と競ってんだ」

 

呆れながらカイムは自身が身に纏う服を見つめる。

黒いハイネックのインナーの上に襟付きの紺色のシャツを着ており、明るいグレーのスキニーを穿いている。どことなく昨日会った青年の服に似ている気がしてならないが、実際この服が似合っているしカイムとしても気に入ったから下手なことは言わないでおいた。

 

「でも本当によく似合ってるわよ。今までの服と比べたらとてもオシャレだし」

「服に関しては脳筋もいいところだってのがよくわかりました…」

「ほっとけ」

 

前がテキトーだったが、これからはそういうこともなくなるだろう。自分で買い足すことはしないだろうから、デートがてらカイムの服を見るのもいいだろうとシロナは考えた。

そこでアイリスとシキミが歩いてくるのが見えた。アイリスは三人を確認すると手を振りながら走ってきた。

 

「お待たせしましたー!」

「時間通りね。どうだった?遊園地ゾーンは」

「とっても楽しかった!シキミさんはジェットコースターにちょっと怖がってたけど」

「だって…あんなに暗い場所であんな速度出されたら誰でも怖がるでしょう…」

「あはは!それが楽しいのに」

「そちらはどうでした?いいお買い物はできましたか?」

「ええ…アタクシと、あとカイムの服を買いましたの」

「ほうほう…あ!ほんとだ!カイムさん服良くなりましたね!」

 

シキミに褒められたカイムは難しい顔をする。その間にあった着せ替え人形扱いされた時間のことを考慮すると、どうしても素直に喜べない。

 

「いいですね!良い男度が上がりましたよ!」

「なんだその度合い」

「言葉の通りです!」

「………」

 

シキミの不思議ちゃんぷりにカイムは内心で首を傾げた。

 

「それでこの後はどうする?とりあえず良い時間だからお昼食べに行かない?」

 

時計を見ると、時間は正午前を指していた。朝も早めに食べたため、そろそろ空腹になってきた頃だろうとシロナは判断した。

 

「さんせー!」

「そうですね…」

「いいと思います」

 

シロナの考えは的中していたようで、三人は昼食の誘いに好意的に乗ってきた。カイムだけは返事をせずに、ただむすっとしている。

 

「じゃ、いきましょ。そろそろお店も混むだろうから。ほらカイム、いつまでも不貞腐れてないでいくわよ」

 

上機嫌でカイムをずるずると引き摺っていくシロナの後ろ姿を三人は笑いながら追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「午後、どうしよっか」

 

ガパオライスを頬張りながらアイリスが言う。

アイリスは目的だった遊園地ゾーンの新しくなったアトラクションは堪能したため、とりあえず遊園地ゾーンに用はない。リーグ前はずっと修行をしていたからこの期間は思いっきり楽しむつもりでいる。だが自分だけ楽しむなんてことはアイリスはしたくないので、午後は誰かの目的に付き合う気でいた。

 

「アタクシは……とりあえず目的は果たしました。どこにでもお付き合いします」

「じゃあ、アタシの行きたいとこ行ってもいい?カフェと本屋が一緒になってるお店があるんだって。そこに行ってみたいの」

「あら…そんな場所があったのですね。行ってみましょうか。アイリスはどうします?」

「じゃああたしもそこ行ってみる!」

「お二人はどうなさいます…?」

 

ランチセットを食べていたシロナとカイムに話が振られる。

シロナの今日の目的はカイムのコーディネートだったため、シロナ自身はもう目的を果たしている。カイムはそもそもただの付き添いゆえに目的などない。正直、カイムのことだしシキミの行きたい店に行きたがりそうな気もする。

だがシロナは自分の買い物も少ししたいと思っていた。無論誰と行くことになっても構わないし、一人でも問題はないのだが、欲を言えばカイムと行きたいと思っていた。だがこの場でそういう私情を出したくないのもまたシロナの本心だった。

どう答えるか悩んでいるシロナを見て、カイムは言う。

 

「なんか欲しいものでもあるのか」

「え?」

「午前中は俺とカトレアの買い物に付き合ってたから自分の買い物してないだろ。なんか見たいものでもあるなら、付き合うぞ」

 

シロナは目を丸くする。

シロナは『自分の買い物もしたい』とは一言も言っていない。それを状況証拠とシロナの表情だけでシロナの考えを読み取ったのだ。

 

「あー…じゃあ、付き合ってもらおうかな」

「ん」

「三人は、本屋にいくの?」

「はい。ずっとそことは限りませんけど、とりあえずは」

「そう。ならまた別行動ね」

「別行動……じゃあ二人にとってはデートですね!」

 

アイリスの言葉にシロナは固まり、カイムは遠い目をした。

 

「デートですね…」

「デート!素敵です!」

「二人とも楽しんできてね!」

「これは…第三回女子会の必要がありそうですね…」

「もう勘弁して…」

 

わいわいと騒ぎ始めた女性達の会話を、カイムは水を飲みながら限界まで存在感を消してただ時が過ぎるのを待つしかなかった。仮にここでカイムが介入したとしても、シロナをいじるネタを増やすだけだ。正直、カトレアがここまでドSだとは思っていなかった。

この場では無力な己を申し訳なく思いつつ、シロナが早めに解放されることを願うばかりだった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

「で、結局なにが見たいんだ?」

 

昼食を済ませ、シロナとカイムは街中を歩く。三人と分かれてとりあえず移動したはいいものの、ショッピングモール内を当てもなく歩いている現状だった。

 

「正直あまり考えてないのよね」

「ないのかよ」

「ええ。カイムと一緒にいたかっただけだから」

「…そうかい」

 

実際、これといって欲しいものもない。せっかく別の地方の大きな街に来たのだし何かしら買うつもりではいるが、何を買うかまでは考えてなかった。

 

「午前中でカイム、ちょっと服に飽き飽きしてそうだからとりあえず小物とか雑貨でも見ようかなって」

「それはありがたいね。実際、ちょっと飽きてた」

「元々そんな興味のない分野だもの。仕方ないわ」

「とりあえずどの店見るかくらいは決めた方がいいんじゃないか?」

「そうね。あそこに地図があるからあれを見て決めましょ」

 

シロナはカイムの手を取り、地図へと向かう。

ざっと地図を見て、興味がありそうなものの売ってそうな店に当たりをつけた。

 

「この店、とりあえず行ってみましょ」

「ああ」

 

早速移動しようとした矢先、シロナは足を止める。

何事かとカイムも足を止めると、シロナはおずおずとしながら聞いてきた。

 

「どうした」

「…手、繋ぎたい」

「いいぞ」

 

カイムは手を差し出す。その差し出された手をシロナは見つめる。

 

「…え?」

「え?何?」

 

シロナの反応がよくわからずカイムは混乱した。

シロナが手を繋ぎたいと言ったから手を差し出したのに、シロナは一向にその手を取ろうとしない。

 

「いいの?」

「いいから手ェ出してんだろ。なんか問題あんのか?」

「てっきり、断ると思ってたから」

「付き合ってんだし、これくらい普通だろ。ほら、行くぞ」

 

カイムはシロナの手を取り、歩き始めた。

一瞬引っ張られる形になったが、すぐに歩調をカイムに合わせて隣を歩く。

前と比べて逞しくなったカイムの横顔を見て、シロナは少しだけ笑う。繋がれた手の指を絡めて、目的地へと共に歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、これとかどう?」

 

二人がまず立ち寄ったのは本来の目的地である店……ではなく、道中にあった帽子屋だった。

何故ここにいるのかというと、完全にシロナの思いつきである。たまたま目に留まった。それだけの理由だが、女性からすると立ち寄るには十分な理由だった。

シロナは手に取った緑色の帽子を手に取り、カイムの頭に載せる。

 

「ん〜…イマイチね。ならこっちは…」

 

シロナは次々と手に取り、どんどんカイムの頭に被せては替えるを繰り返している。

 

「…俺は結局着せ替え人形になるのかよ」

「今は帽子だからいいでしょ?」

「服よりは楽だな」

「でしょ?じゃあ次はこれ」

「容認した覚えはないんだが」

 

カイムの話を聞くことなくカイムに帽子を被せるシロナはコロコロと笑う。

鏡に映った自分の顔をぼんやりと眺めていると、自分の顔の隣にシロナの顔が映る。二人の身長差はあまりないため、顔が並ぶ。そこでカイムは自身に被せられている帽子とシロナが被っている帽子が同じものであることに気づく。

 

「この帽子、ペア売りだったの。どう?」

 

シロナが被せてきたのは黒地に白い月の模様が描かれているものだった。『月』はカイムの相棒であるブラッキーの象徴でもあるため、カイムは気に入った。対してシロナは太陽の模様が描かれている。

 

「へえ、悪くないな」

「でしょ?これにサングラスつけたら、シンオウ地方でもバレないんじゃないかしら」

「無理だな。シロナは髪長いし、なにより存在感が大きいから」

「そうかしら。ほら、顔の大半はこれで隠せるわよ」

 

シロナは一緒に展示されていたサングラスをかける。それだけでどこのセレブかと思わせるような容姿になるのだから不思議だ。 

 

「普段とは別ベクトルで目立ちそうだ」

「ええ〜だめ?」

「そもそも美人は何しても目立つもんだ。諦めろ」

「そっか、残念」

 

シロナはサングラスを取り、棚に戻す。

さりげなく『美人』と言われたことはとても嬉しかったが、付き合う前も時々言っていたからあえて突っ込むことはしないでおいた。

 

「でもデザインいいわね。カイムとしてもあんまり派手じゃないから好きなんじゃない?」

「ああ。ブラッキーを連想させるし、良いと思う」

「ふふ。太陽と月で対照的だけど、互いに支えながら存在してる。いいわね」

「気に入ったのか?」

「そうね」

 

そのシロナの言葉を聞いたカイムは自身に被せられた帽子とシロナが被っている帽子を取ると、レジに向かって歩いていった。

 

「え?買うの?」

「ああ。気に入ったから。太陽のはシロナにやるよ」

「いいの?」

「いいから買うんだろ」

「…じゃあ、半分お金…」

「いらんいらんいらん。シロナほどじゃないがそこそこ稼いでんだからこんくらい買えるわ」

 

シロナを押し切ってカイムは帽子をレジへと持っていき、会計を済ませた。

 

「ほれ」

 

カイムは買った帽子の太陽の模様が描かれた方をシロナの頭に被せる。黒ベースの帽子であるため、黒いノースリーブのカットソーと黒いスキニーを穿いている全身黒のシロナには良く合っていた。

 

「いいじゃん。シロナは黒の印象強いから良く合ってんぞ」

「…ありがとう。嬉しいわ」

「喜んでくれたなら何より」

 

いつもと変わらない口調でカイムは言う。

被せられた帽子を優しく撫で、シロナはカイムの隣に並ぶ。

 

「もしかして、何かお揃いが欲しかったの?」

「さて、な」

 

カイムは答えない。間違いでは無さそうだが、この様子では真意がどこにあるのかはわからない。

 

(ま、いいか。私も指輪(これ)以外で何かお揃い欲しかったし)

 

右手の薬指に付けられた赤い指輪を撫でながらシロナはそう心の中で呟く。この指輪はシロナがアルトマーレに訪れた際にカイムに相談することなく、似合いそうだからという理由で買い与えたものだ。結果的にカイムが気に入ったとはいえ、二人で買ったものではない。今は恋人の証のような形で右手の薬指に付けているが、どちらかと言うと旅の思い出の品に近い。

そう考えると、だいぶあっさり決めたが二人で一緒に買ったはじめてのものとも言える。

 

「お揃い、はじめてね」

「リングがあんだろ」

「このリングは私が勝手に選んだもの。でもこの帽子は、二人で決めたものでしょ?」

「ああ…そういう意味か」

「少しずつ、貴方と共有できるものを増やしていきたいわ。ものでも、心でも」

 

付き合いが長くなり、親密な関係になったとはいえ、互いに互いの全てを知っているわけではない。そもそも元は赤の他人。家族や自分自身ですら自身の全てを把握できていないことがあるのに全てを知ることなどできるはずはない。

だが互いに理解し、共有できることは増やせる。認識のズレをお互い修正し、そしてわかりあう。これを繰り返していくことが円満な人間関係を作るコツなのだとシロナは考えている。(尤も、そういう理屈抜きでシロナはカイムのことをもっと知りたいと思っているが)

 

「そうだな」

「ええ。だからできるだけ長い時間を貴方と共にしたいわ」

「ああ」

(……いつか、このリングとは別の『ちゃんとした指輪』を二人で選びたい)

 

それがどういう意味の指輪かは明言しないし、言葉にもしない。そもそもまだ二人の親密な関係は始まったばかり。今はこの関係を大切にしていくことの方が大事だ。

だがそれでも、いつの日かそういう関係になれたらいいなとシロナは思っている。

願わくば、カイムも同じ思いでいてほしいとは思っているが、今言うべきことではない。それを理解しているシロナは言葉にしないかわりに、カイムの腕に自身の腕を絡めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

目的地であった雑貨屋についた二人は店内を見て回った。

雑貨屋ということもあり、日常的に使うものからちょっとしたアクセサリーや食べ物まで売っている品揃えのいい店だった。

 

「あ、このマグカップかわいい」

 

シロナが手に取ったのは、ミロカロスがモチーフとなっているマグカップだった。白地にミロカロスの鱗の色である赤や青が鮮やかに刻まれている。

 

「へえ、ミロカロスモチーフか」

「よくない?とても綺麗だし」

「ああ、いいと思う」

「でしょ?買っちゃおう」

 

上機嫌でシロナは同じ品が入っている箱を手に取った。

 

「イッシュ地方でもミロカロスは人気なんだな」

「最も美しいポケモンって言われてるもの。イッシュ地方自体に生息もしてるし、人気でも不思議ではないわ」

「へえ、イッシュに生息してるんだな」

 

ミロカロスの主な生息地はホウエン地方が有名である。加えてその主な生息地というのも、あくまでミロカロスの進化前であるヒンバスの生息地だ。ミロカロスは野生ではかなり貴重な存在であり、進化させるためにはレベルアップだけでなく条件が存在するため、手持ちに加えるトレーナーは少ない。

ミロカロスを手持ちに加えるためにはヒンバスを根気よく育てる必要があるのだが、ヒンバス自体はコイキング同様ほとんど戦う技を覚えない。故にヒンバスの育成は非常に難しく、ミロカロスを手持ちに加えているシロナの育成力と愛情は並大抵のものではないことがよくわかる。

無論その地方が主な生息地だからといって他の地方にいないという道理はない。ミロカロス自体は数は少ないながらも野生で確認されている。だが個体数が少ないだけでなく、知能も高いため警戒心が強くなかなか遭遇できない。

 

「イッシュ地方はドラゴンタイプの信仰がある地方なの。ミロカロス自体はドラゴンタイプじゃないけど、見た目も龍に近いから『龍』として扱われているのかもしれないわね」

「かもな。見た目は海蛇とかより龍の方が合ってるし。ところで、ドラゴンタイプの信仰ってのは、イッシュに伝わる伝説のポケモンのことか?」

「そうよ。イッシュ地方はゼクロムとレシラムという二柱のポケモンが信仰されているの。それぞれ理想と真実を追い求める英雄に仕えるらしいわ」

「理想と真実、ね」

 

どんなモノを追い求めたのかはわからない。だがきっと、その『英雄』に認められた人間は心から成し遂げたいことがあった。それだけはカイムにもわかる。

 

「それでか?イッシュ地方、結構モノクロのものが多いのは」

 

イッシュ地方には白黒のものが多い。無論そればかりではないが、所々に存在しており他の地方と比べたら多い印象を受けた。

 

「そうかもしれないわね。伝承だとゼクロムは黒、レシラムは白いポケモンらしいから」

「なるほどな」

「あ、ほら。だからこういうのもあるのよ」

 

シロナはちょうど目に留まった商品を手に取る。シロナが手に取ったのは黒いチョーカーだった。そのすぐ側には白いバングルが展示されている。

 

「これもペアのものね。白と黒で対照的に作られてるみたい。ゼクロムとレシラムモチーフのアクセサリーかしら」

「信仰があるってことは、その二柱が祀られてる場所があるってことだよな」

「ええ。確か…『リュウラセンの塔』って名前の場所よ」

「リュウラセンの塔…」

「興味ある?」

「…ああ。行ってみたい」

「そう言うと思ったわ。イッシュに滞在している間に行ってみましょう」

「どんな場所なのか今から楽しみだ」

 

リュウラセンの塔がどんな場所なのか、柄にもなく楽しみにしている自分にカイムは少し驚いた。

その思いは胸中にしまい、目の前にあるアンクレットを手に取る。白く、何やら白い石のような装飾がつけられていた。

 

「『ライトストーンバングル』、ね。レシラムを象徴するライトストーンのアンクレットだとさ」

「こっちのチョーカーは『ダークストーンチョーカー』。ゼクロムのイメージアクセサリーね」

「結構みんな伝説とか知ってるものなんだな。こんな商品あるってことは結構みんな知ってるってことだろ?」

「伝説や伝承をその地方の人々がどれだけ知ってるかって地方毎に違うわよね。私たちのシンオウ地方はディアルガとパルキアの神話は結構知られてるけど、カントー地方の伝説の三匹の鳥はあまり有名じゃない。やっぱり、街中とかにそのポケモンの信仰を象徴するものがどれだけあるかじゃないかしら」

「身近にあれば、歴史について知る機会も多くなる。結果、神話が普及していくって感じか」

「きっとね」 

 

実際、イッシュ地方ではリュウラセンの塔だけでなく、アイリスの故郷であるソウリュウシティというドラゴンを信仰する街がある。街そのものが信仰を象徴するものでもあるため市民にも伝説が普及しているのかもしれない。

 

「このバングル、いいな」

「あら、カイムが自分からアクセサリーを気にいるなんて」

「見た目が割と好きだ。色も地味じゃないけど、派手でもないシンプルな白。気に入った」

「買うの?」

「ああ」

「なら私もこのチョーカー買おうかな。色も黒だし、普段からつけられそう。あ、さっきは帽子買ってもらったから私が買うわ」

「いや、俺が金を出す。そもそもこのリングとイヤリングはシロナの金で買ったものだ。この帽子とアクセサリーを買って、それでチャラ」

「そんなこと気にしてたの?」

「俺はシロナとは対等でいたいんだよ。お前には、一生かけても返せないくらいの恩が既にあるんだし」

 

今のカイムがあるのは、全てシロナのおかげだ。

あの日、あの時にシロナが助手に誘ってくれなければ今のカイムにはなりえなかった。ポケモン達だけでなく、自分の成長も促してくれたシロナには感謝してもしきれない。それほどまでの恩義をカイムは感じている。

 

「私も貴方に感謝してる。だから、これでおあいこじゃない?」

「だとしてもだ。まあ、半分俺のわがままと言っても差し支えないんだがな」

「本当、真面目よね」

 

これは折れそうにないなと判断したシロナはカイムの言う通りにしようとチョーカーを渡そうとした。

そこでシロナは一つ思いつく。

 

「あ、じゃあこういうのはどうかしら」

「ん?」

「私がこのバングルを買って、カイムに贈る。逆にカイムはこのチョーカーを買って私に贈る。どう?」

「…ああ。いいな、それ」

「決まりね!」

 

シロナとカイムは互いに持っているアクセサリーを交換し、会計を済ませる(シロナはついでにマグカップも買った)。

そして店を出ると、買ったアクセサリーを互いに交換し合った。

 

「じゃあ、このバングルつけてあげる」

「ん」

 

モール内のベンチに座り、カイムは腕時計のついていない左手を差し出す。渡されたバングルをカイムの鍛えられた腕に取り付けた。

 

「…悪くないな」

「いいじゃない。似合うわよ」

「じゃ、次は俺の番か。つけてやるから貸せ」

 

チョーカーをカイムに渡すと、カイムは座ったシロナの長い髪を一度シロナの身体の前に流し、頸を露にさせた。そして手に持ったチョーカーをシロナの首に取り付け、長さを調整した。

 

「苦しくないか?」

「ちょうどいいわ。大丈夫」

「ん。OK」

 

髪を元に戻し、持っている携帯型手鏡で確認する。ダークストーンの見た目をしたレプリカを中心にチョーカーは作られており、現在の服装によく合っている。これなら普段の黒コートを着ている時につけても違和感はないだろう。

 

「似合う?」

「ああ、よく似合う」

「ありがと。買ってよかった」

「ん」

「ね、記念に一緒に写真撮りましょ」

「写真?」

「ええ」

「……わかった、付き合おう」

 

カイムの了承を得たシロナはスマートフォンのインカメラを起動させ、カイムを引き寄せると液晶パネルを押した。

撮られた写真は優雅に笑うシロナの顔と、そのすぐ横にいつも通り無表情のカイムの写真だった。

 

「もう、写真撮る時くらい笑顔にしたら?」

「表情筋が昔から脆弱でな」

「ふふ、そうね。出会った時からだもんね」

「…ほっとけ」

「カイムらしいわ。そういうところも好きだけど」

 

シロナの言葉にカイムは肩を竦める。

スマートフォンに表示された二人の写真を見て、シロナは嬉しくてまた笑うのだった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

その後、二人はモール内を散策し、シロナは服を一着買った(カイムに選ばせた)。

しばらく散策をしていたため少し歩き疲れたということもあり、シロナは今ベンチに一人で座っている。カイムはすぐ近くにあるコーヒーのチェーン店で飲み物を買ってきている。

 

(今日も楽しかったな)

 

リーグや研究をしている時とはまた違う俗な楽しさを今日は味わえた。シロナはバトルや研究を心の底から楽しんでやることができる。だから今まで続けられてきたし、そしてここまで極めることもできた。

だがシロナとて人間。うまくいかないこともあったし、いくら楽しくても肉体的にも精神的にもいつかは限界がくる。正直、シンオウリーグが終わり、その後もチャンピオンとしての活動や研究関連でやることが多かったため、かなり疲れていたし、何よりせっかく付き合えたカイムとの時間があまり取れなかった。だからイッシュ地方に来てからは(いじられることもあるが)カイムとの時間も取れ、ただのポケモントレーナーとして過ごすことができてとてもリフレッシュできている。

調査もしたが、それはそれで貴重な経験だったからシロナは大切にしているし、現場で直接現物を見ることの大切さは経験からもよく知っている。

 

カイムもなんだかんだで楽しそうにしている。カトレアやアイリスに振り回されており、小言は言うが『嫌だ』とは一言も言わないため言うほど悪くは思っていないのだろう。恐らく手のかかる妹が二人できたようなものなのかもしれない。シキミからの取材にも少し答えているあたり、あの三人にカイムは感謝していることがわかる。

明日の予定は決めていないが、きっとまたいい経験ができる。シロナはそう確信していた。

 

「お姉さん〜」

 

だがそんなシロナの楽しい気持ちに水を差すような言葉がかけられた。

声をかけられた方を見ると、スキンヘッドの男と体格のいい男がいた。いかにも柄が悪そうな風格をしており、チャラついた雰囲気をしていた。

つまりナンパである。シロナは美人だから仕方ないといえば仕方ない。

 

「………」

「お姉さん、一人?オレらと遊ばない?」

「お断りします」

 

男達の言葉をシロナは一蹴する。

だがこの程度で屈するなら男達もわざわざナンパなどしない。

 

「まーまーそう言わずに。一人なんでしょ?遊ぼうよ」

「連れがいます。一人ではありません」

「なんだ一人じゃないのかよ。まーなんでもいいよ。その子も交ざって遊ぼう。いいところに連れて行ってあげるからさ」

 

シロナとしてはせっかく楽しい気分だったのに水を差されてかなり不愉快な気持ちになっていた。

カイムとの時間を存分に楽しむためにも、ここで無駄な時間を使うのは避けたい。さっさと済ませるために一番手っ取り早い方法を使うことにした。

 

「モンスターボールを持っているということは、ポケモントレーナーですね?」

「おうよ。結構強いぜ?バッジもいくつか持ってるんだ。惚れてもいいんだぞ?」

「私とのバトルに勝てたら、貴方方について行きましょう」

 

トレーナー相手ならバトルで黙らせればいい。バトルに負ければすぐに帰るだろうとシロナは判断し、バトルを申し込んだ。

 

「いや、いいよ。お姉さんじゃ勝てないだろうし?行く気があるならすぐに行こうよ」

 

だが男はバトルを拒否した。

 

「オレら結構強いからさ。お姉さんのポケモン傷つけるの忍びないし?」

「そーそー。それに、オレら二人とのバトルなんてさすがに結果わかりきってんじゃん?ほら、もう行くことを認めたようなもんだし行こうよ」

 

明らかに暴論であるし、仮にこの男二人を同時に相手をしたとしてもシロナなら瞬殺できる。だがそもそもバトルにならなければそうも言えない。いくらシロナといえども、男二人を相手にできるほどの力はない。

 

「ほら、行こうよ。楽しませてあげる」

 

男がシロナの手を掴もうとした瞬間、別の手が男の手を掴み、シロナに触れることを防いだ。

その手の主は、シロナが最も大切にしている人だった。

 

 

 

 

「俺の連れに何か用か」

 

 

 

 

いつもより無機質で、冷たい声。

明らかに怒気を含む眼光。

そして、刺すような殺気。

 

「なんだ、連れって男かよ」

「悪いなあんちゃん。このお姉さんはこれからオレらと楽しいことをする予定なんだ。この手を離してくれねぇか?今なら痛い目を見ずにすむぜ」

「断る」

「そうかい…ならちょっと痛い目……な、に?」

 

男は掴まれた手を力づくで振り払おうとするが、カイムの手を振り払うことができない。それどころかギリギリと音を立てながらカイムの手は男の手首を締め付けていく。

 

「て、てめぇ…」

「痛い目が、何だって?それより大丈夫か?お前の手、震えてんぞ」

 

カイムが腕を締め付けるため男の手は締め上げられ、感覚がなくなり始めていた。

 

「は、離せ」

「離してもいいけど、離したらお前らなにするかわかんないじゃん」

「チョーシに乗んなチビ!」

 

もう一人の男が振り上げた拳をカイムに向けて振り下ろすが、それをカイムは掴んでいた男の手を動かして防ぐ。

 

「なっ…」

「いで!」

「で?痛い目がなに?」

「てんめぇ!」

 

男は腰につけたモンスターボールを手に取り、投げようとするがカイムがそれを止める。

 

「まぁ待て。ここでのバトルは騒ぎになる。俺としてもバトルは全然構わないが、騒ぎになって無駄に拘束されるのは避けたい。バトルなら外でやろう」

「…いいぜ。こっちも騒ぎは面倒だからな。さっさとてめえをぶっ倒して後ろのお姉さんと遊ばせてもらうぜ」

「こっちは二人いんだ。今謝れば許してやる」

「二人じゃなきゃ勝てないのか。随分残念な腕してんな。ポケモンが可哀想でならねぇよ」

「ああ⁈」

「舐めてんのかてめえ!」

 

怒り狂う男達をカイムは更に冷たく見る。

 

「舐めてんのはお前らだ。貴重な時間をお前らに割いてやるだけありがたく思え」

 

カイムはそう言ってシロナの手を取ると、外に向かって歩き始める。男達の声で周囲の注目を集め始めていたため、騒ぎになる前に外へと出た。

男達は素直にカイムの後ろに続いて外に出た。広場に出るとカイムは男達と向かいあう。

 

「さて、これ以上無駄な時間使いたくないんでな」

「イキってんじゃねえよチビが」

「イキってんのはどちらかね。時間の無駄だ。まとめてかかってこい」

「ああ⁈舐めやがって!」

「あとで吠え面かいても知らねえからな!」

 

男達はペンドラーとギガイアスを出した。

カイムもボールを二つ手に取る。そして背後にいるシロナに視線だけ向けて言った。

 

「すぐに終わらせる」

 

カイムはボールを投げ、バシャーモとルカリオを出した。

 

「速攻で片付ける」

 

カイムの言葉にバシャーモとルカリオは応じるように吠えた。

 

 

 

そしてその数分後、バシャーモとルカリオにボコボコにされてポケモンが男達の前に倒れ伏している光景が広がっていた。

 

「そ、そんな…」

「オレたち、バッジ6個も持ってんのに…こんな…」

 

項垂れる男達の前にカイムは立ち、一言言った。

 

「失せろ」

 

人を殺しそうなほど冷たい眼光に当てられながら言われたその一言に男達は完全に怯え、そして走り去っていった。

残されたカイムは盛大にため息をつく。

 

(……無駄な時間使わせてやがって)

 

内心で舌打ちをし、カイムはシロナに向き直る。

 

「大丈夫か?」

「ええ。ありがとう」

「何もされてないか?」

「うん」

「よかった…」

 

実際、シロナは男達に指一本触れられていない。仮にあそこでカイムが止めてなかったら触れられていただろうが、それは防がれている。

 

「悪い。俺が一人にしたから」

「いいの。助けてくれたでしょ」

「だとしてもだ。ごめん」

「謝らないで。貴方のせいじゃないわ」

 

シロナはカイムの手を包みこみそう言った。

 

「私一人でさっさと追い払えればよかったんだけど…」

「あの手の輩は中途半端に知恵が働く。正攻法じゃどうにもならない時もある。でも単細胞だから挑発したらすぐに乗ってくるから」

「まるで経験があるみたいね」

「さてな」

 

カイムは肩を竦める。

答える気は無さそうだが、何にしてもシロナが助かったのは事実だ。追求するのは今じゃなくていいと考え、シロナはカイムの手を取る。

 

「かっこよかったよ」

「そりゃドーモ」

 

カイムはいつも通りの口調で答えながら首を軽くかいた。カイムが首をかくのは決まって照れている時か隠し事をしている時だ。この現状で隠し事とは考えにくいため、照れているのだろう。

 

「照れなくていいのに」

「…………」

「さ、いきましょ。ポケモン達を労ってあげなきゃ」

 

人だかりができ始めてきたためシロナはカイムの手を引き、屋内へと戻っていく。カイムはそれに大人しく続いた。

 

「…へえ、いい腕してるわね」

 

その二人の後ろ姿を褐色の肌と青い瞳を持つ美女が人混みの中から見つめていたことに二人が気づくことはなかった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

夕方

真夏故にまだ日は長く、日は傾いてきたがまだまだ明るい。街灯もまだ必要ないくらいの明るさだ。

集合時間が近くなってきたため、荷物を持って集合場所へと向かう途中、シロナのスマートフォンが振動する。画面を見るとそこには『アイリス』の文字があった。

 

「どうした」

「アイリスちゃんから電話。もしかしたら、ちょっと遅れるのかもね」

 

集合時間が近いこともあり、このタイミングで連絡ということは少し遅れる連絡だろうとシロナは当たりをつけた。

だがこの予想は外れていた。

 

「もしもし、アイリスちゃん?」

『あ!シロナさん!今電話大丈夫?』

「ええ、大丈夫。それでどうしたの?」

『あのね、お願いがあるの!』

「お願い?」

 

話の流れとしては遅れたりなにかトラブルがあったわけでも無さそうだ。このタイミングでお願いというのも少々不自然なように感じられるが、わざわざシロナをいじるためだけになにかお願いをするようなことをするメンバーでもない。何にしても聞いてみないとわからない。

 

「何かはわからないけど、私にできることなら言ってちょうだい」

『ホント⁈』

「ええ。言ってみてくれる?」

 

 

『あのねあのね!モデルになってほしいの!』

 

 

「………え?」

 

シロナの目が点になった。

 

 

 

 

 

 

 

ライモンジムに来て欲しいとのことだったので、二人は言われた通りの場所に二人が向かった。中に入り受付に声をかけると、すぐにスタッフルームに通された。

スタッフルームにはアイリス、カトレア、シキミだけでなく黒い長髪に白い肌をしたヘッドホンをつけている美女と、もう一人褐色の肌を持ち青い瞳の女性がいた。

 

「あ!シロナさん、カイムさん!」

 

二人に気づいたアイリスが駆け寄ってくる。

 

「来てくれてありがとう!急なお願いでごめんね」

「話は少し聞いたけど、もう少し詳しく説明が欲しいわ」

「私が説明します」

 

黒髪の美女、ライモンジムのジムリーダーであるカミツレがアイリスに並ぶ。

 

「まずは自己紹介ですね。私はライモンジムのジムリーダー、カミツレです。お会いできて光栄です、シンオウ地方のチャンピオン」

「丁寧にありがとう。知ってると思うけど、シンオウ地方チャンピオンのシロナよ。隣は私の助手のカイム」

「急なお願いで申し訳ありません。とりあえず、説明いたします。このライモンジムは以前使っていた設備をそのままアトラクションとし、今現在我々のいるこの建物にジムを移動させました。その新設ライモンジムのお披露目として、ファッションショーとエキシビションマッチをやる予定になっています」

「そこまではアイリスちゃんに聞いているわ」

「そうでしたか。それで本題ですけど、このファッションショーに出て欲しいのです」

「どうして、私に?」

 

正直シロナの容姿であればファッションショーに出ることは誰も疑問に思わない。しかしいきなりそうなった理由がわからない。 

 

「本来、このエキシビションマッチは私とガラル地方のジムリーダー、ルリナさんで行う予定でした。そこで先程、アイリスちゃんが訪ねてきてこのことを話したら出てみたいとのことでして…」

「…何故出たいと思ったのかを話せ」

「えへへ…実はこのジムであたしのチャンピオン衣装が作られてるって聞いて、それで見てみたらすっごくかわいくてすぐにでも着たい!ってなっちゃったの。それでどうせお披露目するなら大きい舞台がいいけど、あたしのためだけに時間取らせるのもアレかなって」

「要するに、新しい服が着たかったと」

「うん!」

 

カイムはやれやれといった様子でため息を吐き、シロナの方を見る。シロナ自身は特別気にした様子もなく、アイリスを微笑ましく見ていた。

 

「というわけなんです。時間自体は問題ありませんが、シロナさんの意思次第なので」

「いいわよ」

「え⁈即答ですか⁈」

「ええ。アイリスちゃんのチャンピオンの衣装は気になるし、そんな舞台に呼んでくれるっていうのならありがたい限りよ。モデルは多い方が一人あたりの負担も軽くなるでしょう?何より楽しそうじゃない。簡単ではないことはわかる。だからこそ燃えるわ」

「本当にいいんですか?」

「ええ。こんな貴重な体験、そうそうできないでしょ?無理にとは言わないけどやらせてくれるっていうなら是非」

「ありがとうございます。じゃあ早速打ち合わせに入りましょう」

 

差し出されたカミツレの手を取り、しっかりと握手をすると一同は打ち合わせに移った。

 

 

 

 

 

 

 

「お隣、いいかしら」

 

カミツレとシロナ、そしてアイリスが舞台で実際どう動くかを確認しているのを舞台袖の椅子から眺めながらパソコンをいじっていたカイムに声がかけられる。

そちらを見ると、先程ルリナと名乗った褐色の肌を持つ美女がいた。

 

「何か御用で?」

「少し、貴方が気になって」

「そいつは随分物好きですね」

 

並の男なら狂喜乱舞していただろうが、生憎カイムは皮肉屋かつシロナ一筋の男であるため全く反応しない。尤も、ルリナもそういうつもりで声をかけたわけではないので特に気を悪くすることもない。

 

「貴方、さっきショッピングモールでバトルしてたわよね」

 

ルリナは休憩時間にモールを散策していた時にちょうどカイムがチンピラとバトルをしているところを目撃していた。

 

「げ…見てたんすか」

「たまたまよ。でも中々いい動きをしてたわね。もしかして、シンオウ地方のジムリーダーだったりするのかなって思って」

「いや、俺はただのジムトレーナーです」

「ジムトレーナー?あれほどの動きができて?」

 

ルリナの目から見てもカイムのポケモンは非常にいい動きをしていた。並のジムトレーナーではあれほどの動きはできない。ジムリーダーであればあのレベルまで動けるのは当然だが、ジムトレーナーでこれほどのレベルはそういない。正直、ジムトレーナーに留まっているのは勿体ないと思えるほどだった。それはジムリーダーをやっているルリナだからこそよくわかる。今のカイムとルリナがバトルをしても勝敗自体はともかくかなりいい勝負になるだろう。

 

「ええ、まあ」

「じゃあ次期ジムリーダーって感じかしら?」

「どうですかね。俺は本職が考古学なんでいつまでジムに所属しているかわかりませんし」

「あら、本職がトレーナーじゃないの」

「バトルは、ちと苦手でね。俺にはあんま向いてないと思う。考古学の方が俺には合ってる」

「…そう」

 

ルリナは何か言いたそうだったが、それ以上バトルについて追求することはなかった。

 

「ところで、ルリナさんはガラル地方のジムリーダーって言ってましたけど、カミツレさんとは前から知り合いだったんですか?」

 

話が途切れたところで、カイムはモニターから目線を離さずにルリナにそう聞いた。

 

「ルリナでいいわ。そんなに歳も変わらないでしょうし、敬語も使わなくていいよ。私もカイムくんって呼ぶから」

「そうかい。じゃあ遠慮なく」

「それで、カミツレとの関係だったわね」

「ああ」

「知り合ったのはPWTね。昨年出場して、トーナメントで当たったの。それでお互いジムリーダーとモデルを兼業してるってことで意気投合して、それ以来連絡を取るようにしてるんだ」

「なるほど。それなら他の地方で知り合いなのも納得するわ」

 

世界の名だたるトレーナーが出場するPWT。最低出場条件がジムトレーナー以上という区切りがあり、さらにそこから出場者ごとにランク分けされて行われるトーナメントだ。世界的にも有名であり、他の地方のジムリーダーや四天王まで参加しにくるかなりのハイレベルの大会となっている。

 

「それでゲストか。納得した」

「以前、ガラルにカミツレが来てくれたからね。今度は私が来たの」

「ほう」

「人の縁は大切にしたいからね。ところでカイムくんはさっきからなにをやっているの?」

 

先程からカイムは作業を進めながらルリナと会話をしている。直接ショーには出ないカイムがやっていることがなんなのかルリナは気になった。

 

「シロナとアイリスが出ることになったから、その部分の映像及びエフェクトの編集。既存の素材だけでどうにかせにゃならんし、他のスタッフも忙しそうだからジムリーダー二人のものと比べたらクオリティは下がる。まぁ飛び入りのゲストだし十分だろ」

 

二人が飛び入りで参加することになったため、シロナとアイリスの映像がなかった。普通に無難な背景を映し光で乗り切る予定であったが、シロナが『カイムは映像の編集とか上手よ』という(いらない)情報をだしたことにより何故か働かされることになった。

 

「すごいわね…助手はそんなこともできるのね」

「半分趣味だ。全ての助手がこうだと思わないでくれ。それより、ルリナはいいのか?」

「何が?」

「打ち合わせ。ショーに出るんだろ?」

「ええ。でも私はもう午前中に完璧にしたから。四人で出る場所については私も行くけど、今はシロナさんとアイリスちゃんだけの場所だから私が行く必要はないわ」

「おお…さすがモデル」

「私一人の力じゃない。色んな人の協力があるから私は今こうしてモデルをやってられるの」

「……そうか」

 

人は誰しも、一人で生きていけるものではない。どんなことであっても、人やポケモンの助けがあって生きていける。ルリナはそれをよくわかっているのだろう。

そこでカイムのバッグに入ったボールの一つが勝手に開いた。そのボールからはブラッキーが飛び出し、作業をするカイムの膝に飛び乗った。

 

「あら」

「あー…今日あんま構ってやれてないからな」

「懐かれてるのね」

「まあ、な」

 

カイムの顔をくんくん嗅ぐブラッキーを好きにさせながらもカイムは作業を続け、ルリナはそれを微笑ましく眺めていた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「はいOKです!これでリハーサル終了です」

 

チーフスタッフの声が響き、リハーサルは終了する。

その声にシロナは一息つき、周囲を見渡す。アイリスは楽しみで仕方ないのかハイテンションのままカトレア、シキミ、ルリナと話をしていた。カイムはスタッフと何か話をしており、平然とスタッフに紛れ込むあたり、彼自身のコミュニケーション能力の高さと有能さがよくわかる。

 

「シロナさん」

 

声をかけられ振り返ると、カミツレがいた。

 

「ああ、カミツレさん。リハーサル、お疲れ様」

「シロナさんもお疲れ様です。とても初めてには思えないくらいスムーズに進んだので感謝してます」

「人前に立つのは慣れてるからかもしれないわね」

「頼もしい限りです。飛び入りだったので、どうなるかと思いましたけど、リハーサルでこんなにいいものができてるので本番はもっと良くなると思います」

「プロにそう言ってもらえると、自信が出てくるわ」

 

流石にファッションショーとなるとシロナも経験が無い。故に表には出さなくとも多少の不安はあった。だがカミツレという現場の最前線に立つ存在に『良いものになる』と断言されると安心感と自信がわいてくる。

 

「四天王のお二人も、と思いましたけど流石に無理ですね」

「私とアイリスちゃんだけでもかなりイレギュラーですから…これ以上は時間が足りないでしょうね」

「そうですね。でも、私は嬉しいです。新設したこのジムのお披露目に二人もチャンピオンが来てくださったのですから」

 

カミツレとしてはルリナが来てくれただけでも良かった。ルリナはガラル地方以外でも有名であるためイッシュ地方でも知ってる人は多い。単純な知名度に関しては大差ないだろうが、カミツレ本人から見ればルリナの方がバトルの実力は上であると思っているためルリナのことを尊敬している。ジムのお披露目にわざわざ友人であり尊敬する相手であり、そして良きライバルでもあるルリナが来てくれただけでもとても嬉しかったのに、そこにさらにチャンピオンが二人も加わるなどカミツレからすればまさに青天の霹靂だった。

 

「モデルもできるなんて…何でもできちゃうんですね」

「そんなことないわ。私にもできないことくらいあるわよ」

「想像できませんね…シロナさんができないことなんて」

 

謎の完璧超人視をされているようなのでシロナは少し恥ずかしそうにしながら話し始める。

 

「…実は私、家事が全くできないの」

「……え?そうなんですか?」

「ええ。だから、家事全般はカイムに任せちゃっているのよ」

 

苦笑しながらシロナは言う。

実際シロナが家事をやることはほぼない。なにせシロナが下手に家事をやろうとするとそれ以上に事態が悪化し、後処理をするカイムの手間が増えるからだ。カイムからは一切家事はするなと言われてしまっている。

無論初対面のカミツレにそこまで話す気はないが、それでもなんでもできるイメージからは抜け出すことはできただろう。

 

「そうなんですね…全く想像できません」

「私も人間よ。できることとできないことがあるわ」

「そうですね…当たり前のことでした」

 

カミツレ本人も外見からはクールな印象を受けがちだが、本人はとても優しくそして駄洒落好きと意外な一面もある。カミツレ自身は周囲の要望に応えてクールな姿を見せているが、それだけが彼女ではない。クールな外面もカミツレという人間を構成する一部ではあるが、それだけが彼女ではない。人には外に見せていない一面というのが必ず誰にでもあるということをカミツレはよくわかっていた。

 

「とても、魅力的だと思います」

「そうかしら…いつもカイムに小言言われてるわよ」

「私は、完璧な人よりも欠点や苦手なことがある人の方が魅力的に感じられます」

「ふふ、嬉しいわ」

「できることなら、シロナさんとバトルしたかったわ。きっと、クラクラさせてくれるようなバトルをしたのでしょうから」

「きっと、貴女が気にいるバトルができると思うわ」

「いつか必ず、お願いしますね」

「喜んで受けて立つわ」

 

シロナはカミツレが差し出した手を取り、しっかりと握手をしながらカミツレの目を見る。しっかりとシロナを見据えており、たとえチャンピオンが相手であろうと負ける気は無いという意思を感じた。その眼光を受け、シロナは笑う。

不敵な笑みを浮かべる二人にルリナが歩み寄り、声をかけた。

 

「シロナさん」

「ルリナさん。ごめんなさいね、飛び入りで参加して貴女にも多少無理強いをさせてしまって」

「いいえ。むしろ他の地方のチャンピオンと同じステージに立てて光栄です」

「…そう言ってもらえると気が楽になるわ」

「ところで、一つお聞きしても?」

「え?ええ、私で答えられることであれば」

 

なんだろう、とシロナは疑問に思いながらルリナに質問を促した。

正直カイムとの関係かな、と思っていたが、ルリナの口から出た言葉は予想外のものだった。

 

「カイムくん、どうしてバトルに苦手意識を持っているんですか?」

 

シロナは驚く。

先程ルリナはカイムと話していたため、その時に何かを聞いたのかもしれないがわざわざそれを聞いてくるとは思っていなかった。

 

「…カイムが、苦手って言ってた?」

「ええ。実は、ショッピングモールでバトルをしているところを見かけたんです。とてもいい指示をして、ポケモン達の動きもちゃんと洗練されたものでした。あれほどの動きをできているのに『苦手』っていうのは違和感があって」

 

ジムリーダーと匹敵するほどの腕を持ちながら苦手という認識はルリナにはよくわからなかった。なにせ、世の中の大半のトレーナーがどんなに努力してもその領域に手をかけることさえできないのに、ジムリーダーの領域に手をかけているカイムはバトルを苦手と言う。嫌い、とは言っていないからバトルそのものは好きなのだろうが、それでも本当に苦手だったらジムリーダーレベルになるのは相当の努力と精神力が必要になる。

 

「ああ、そのことね…」

「あ、もちろんカイムくんのことだしシロナさんが言えないっていうなら無理して聞く気はないんです。でも、ジムリーダーとしてちょっと気になってしまって」

「そう、よね」

「カイムさん、やっぱり強いんだ」

「そうなの。とてもいい動きしてたのに、バトルは苦手って言ってたから」

 

カミツレもルリナもバトルは好きだ。好きだからこそ、ジムリーダーになるまで続けてこれたし、モデルの仕事とも両立できている。

カイムも同様だろう。好きだから続けられているはずだ。なのに、彼は苦手だと言う。好きと得意は必ずしもイコールにはならないし、嫌いと苦手もイコールにはならない。好きだが苦手なものがあることは不思議ではないが、ルリナにはどことなくカイムの『苦手』という言葉が本心でない気がしてならなかった。

 

「カイムは、なんて?」

「何も。でも…こう、うまく言えないけど…決めつけてる?感じがしたので」

「そうね…」

 

シロナはアイリスに世話を焼くカイムを見ながら言う。

 

「カイムのバトルへの苦手意識は、昔のカイムが多くの敗北を積み重ねてきたことに起因しているわ。ジムバッジを全て手に入れるまでにもジムリーダーに何度も負けていたみたいだし…最終的にはジムバッジも8個ゲットできたみたいだけど、そこまでに積み重ねた黒星の数はカイムの心に苦手意識を植え付けるには十分だったみたい」

「何度も何度も負けてきた結果、ってことですか」

「多分ね」

「でも今のカイムくんの動きは…」

「私が鍛えましたから」

 

胸を張って言うシロナにカミツレとルリナは納得する。チャンピオンに鍛えられれば誰でもある程度動けるようになるだろう。

 

「でもね、いくら私が鍛えてカイムが努力をしたとしても、最後はカイム自身が『一番大切なこと』に気づかないとあれ以上にはなれないわ」

「一番…」

「大切なこと…?」

「私たちには当たり前で、意識をしなくてもできてることよ」

 

カミツレとルリナは顔を見合わせて首を傾げる。

トレーナーとしての心得は二人も理解しているため言われればわかるはずだが、この場合のシロナの言う『一番大切なこと』が何なのかはわからなかった。

 

「こればかりは、私が言ってはいけないの。自分で気づかないと意味がない」

「…でもシロナさんはカイムさんが自分で気づけると信じているのですね」

「無論よ。カイムなら必ず壁を乗り越えられるわ。師匠が弟子を信じないわけないでしょう?」

 

この言葉にカミツレは二人の並々ならぬ信頼関係を感じた。

 

「ふふ、とてもいい信頼関係ですね。クラクラしちゃいそう」

「いつか、カイムくんともバトルしてみたいわ」

「簡単には負けないわよ。私の弟子なんだから」

 

シロナの優雅な笑みにカミツレは痺れるようなオーラを感じた。アイリスの無邪気で、そして凄みのあるオーラとは違う熟練された強さを感じた。 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

煌びやかな音と光に包まれながら登場したカミツレがショーの始まりを告げた。

舞台袖のはじっこでカイムはせかせか動くスタッフの邪魔にならないようにしながらショーを見ていた。

 

「すごいわね」

 

ぼんやりしているカイムに一人の女性が声をかけた。

声のした方を向くと、シロナが白い衣装を着て立っていた。オフショルダーの衣装であり、首元はレースで覆われている。下は白いスラックス、靴も白いヒールに履き替えられていた。

 

「…そうだな、すごい綺麗だ」

 

カイムは平然と返事をする。

 

「すごいわよね。ファッションショーなんて今まで見たことなかったからこんな間近で見られるなんて思ってなかったわ」

「今まで縁はなかったからな」

「しかも自分が出るなんて思いもしなかったわ」

「そうだな。出ること自体は驚いたが、出てることに違和感はないな」

「そう?あまりイメージないと思うんだけど」

「美人だからな」

 

平然と言われた言葉に一瞬目を丸くしたが、すぐにふっと笑いながらシロナはカイムの隣にパイプ椅子を持ってきて座った。

 

「あら、そんなこと言ってくれるのね」

「事実だ。少なくとも、俺はそう思っている」

「嬉しいこと言ってくれるのね」

 

カイムは耳を赤くすることなく平然としている。初心な反応も良かったが、こういう大人びた態度も成長を感じられて師匠としては嬉しいものがある。チョーカーを外したことで開放感がある首元を撫でながらシロナはそう思った。

そこでカイムは唐突にバングルを外し、シロナに渡す。

 

「え?」

 

何事かと首を傾げると、カイムはシロナの手にバングルを握らせた。

 

「今の衣装には白がいいだろう。貸してやる」

「いいの?」

「さっきからちょいちょい首元触ってたろ。チョーカーは今無理だから、それで我慢しろ」

 

握らされたバングルとカイムを交互に眺める。

カイム本人は何でもないようにスマートフォンを突いていて、本人からすれば大したことではないようだった。

 

(…ヒカリちゃんも言ってたけど、私ってもしかしてわかりやすい?)

 

数人に考えてることを見破られたシロナは内心でそんなことを考えた。尤も、別段シロナがわかりやすいというわけではなく、ヒカリは元々他者の気持ちを察することが非常に得意であり、カイムは『シロナに対しては』非常に鋭い感性を持っているだけである。

ともあれ、シロナとしてはありがたい申し出であったためバングルを素直につけた。

 

「本番近いんだろ。こんなところで油売ってていいのか」

 

そんなシロナにカイムは心配とも取れる言葉を言う。

ショーは着々と進んでおり、現在はカミツレとルリナがステージで対照的になる服を着て観客の前に立っていた。

 

「大丈夫よ。私のやるべきことはもう完璧だから。あとは早着替えくらいね」

「何着か着るんだったな」

「ええ。今はモデルですから」

「そうか」

「私が色んな人に見られるのは、嫌?」

 

シロナの懸念はそれだった。サザナミタウンでは水着姿を衆目に晒すことを嫌がるほどではないにしろ、複雑そうな感情を抱いていた。今回は水着ではないが、それでも多くの人の目に入る。このファッションショーはシロナが独断で出ることを決めたものだ。だからカイムの意思は反映されていない。案外独占欲の強いカイムが嫌な思いをしないかが心配だった。

だがこのシロナの心配は杞憂に終わる。

 

「ん、いや別に」

「あら、そうなの?やっぱり水着がダメなのかしら」

「いや、そうじゃない。ここならシロナのことを『チャンピオン』と認識してシロナのことを見る人がほとんどだ。だから『そういう』視線でシロナのことを見る人はほぼいない。それだけだ」

 

サザナミタウンではシロナを『チャンピオン』として認識したうえでシロナのことを見ている人はほぼいなかっただろう。あくまで『女性』として見られていたにすぎない。カイムはそれが嫌だったのだ。

だがこの場では既にシロナがシンオウ地方のチャンピオンとして公開されたうえで登場する。故に、シロナに向けられる視線も畏敬や憧憬などのものが大半になる。

 

「そういうことなのね」

「細かいことを気にする性格でね。だがシロナが色んな人に見られること自体は誇らしく思ってる。それだけお前が世間に認められているってことだからな」

「ふふ、嬉しいわね」

「シロナさん!そろそろ出番なので準備をお願いします!」

 

スタッフがシロナに呼びかけてくるのが聞こえる。

 

「ほら、出番だ」

「ええ。行ってくるわ」

「ああそうだ。行く前に一つ」

「え、どうしたの?」

 

カイムはシロナの耳に顔を近づけ、言った。

 

 

 

 

 

「この場でシロナが一番綺麗だ」

 

 

 

 

 

カイムの言葉にシロナは少し驚いたような顔をするが、すぐに笑顔になった。

 

「ありがと。嬉しい」

「はよ行け」

「ええ。行ってくる」

 

カイムの言葉を胸に抱き、シロナは呼ばれた方に歩いていく。

観客達がどう思うかはわからない。だがそれでも、一番大切な人にそう言ってもらえたシロナはなんでもできるような気持ちになれた。

 

そしてショーに出たシロナは今まで以上に美しく、シロナのことをほとんど知らなかった観客ですら虜になるような美しさをポケモンと共に披露した。

最初の衣装だけでなく黒いスリットの入ったドレスを着て肩に毛皮のコートをかけた衣装や赤いドレスなども着こなして観客達を魅了した。

 

 

カイムはただそれを見ているだけだったが、その顔はとても穏やかであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショーが終わり、狙ったかのようなタイミングで迎えにきたコクランの車で一同はサザナミタウンの別荘への帰路についていた。

アイリス、カトレア、シキミ、そしてカイムは疲れてしまったのか、今は眠っている。起きているのはコクランを除けばシロナのみだった。

 

「わざわざ迎えにきてもらってすみません」

 

シロナの言葉にコクランは笑って返す。

 

「構いませんよ。遅くなる可能性についてはカトレア様から事前に連絡を受けていました。なのでショーが終わり、ゲストが解散になるであろう時間に合わせて出れば良いだけですから」

「平然とそれができるのがすごいわ」

「恐縮です」

 

ここまで有能なのもカトレアにこき使われたからなのか、元々有能なのか、それともその両方なのかはわからないが、何にしてもコクランは執事として非常に優秀だということを再認識した。

 

「シロナ様、ファッションショーに出たのは初だと言ってましたが、どうでしたかな?」

 

コクランの問いかけにシロナは数時間前の記憶を呼び起こす。

煌びやかなステージでポケモンと共に普段着られない衣装を着て観客達を魅了したあの時間。今まで経験することがなかったこの体験は、シロナにとって新鮮なものだった。

 

「とても、とても楽しめたわ。こんな経験させてもらって、カミツレさんやルリナさん、それにアイリスちゃんには感謝してる」

「とても良い経験ができたようですな。若いうちは様々な経験をしておくことが大切ですからな」

「そうね。これからも色々やってみたいわ」

「良い心がけです。しかしシロナ様も初めての経験でお疲れではないのですかな?着いたら起こしますので眠っていても構いませんが」

「大丈夫よ。確かに初めてのことをやって疲れてはいるけれど、とても楽しめたから目は冴えているの」

「そうでしたか。とても良い思い出になりましたな」

「ええ。それに……」

 

シロナは隣で項垂れて眠っているカイムを抱き寄せて、月の模様が描かれた帽子を被っている頭を撫でながら言う。

 

「今日のことをちゃんと覚えていたいの。カイムだけじゃなくて、色んな人との思い出ができたから、それをちゃんと覚えているためにも今はその記憶を私の中で反芻していたい」

 

カイムはもちろんのこと、今日は色々な人達のおかげでたくさんの思い出ができた。それをちゃんと自分の中で大切にするためにも、シロナはその記憶を夢の中ではなく、自分の意思で思い返したかった。

 

「なるほど。良い一日でしたな」

「ええ。とても」

 

カイムの寝顔を見ながらシロナは言う。

 

 

穏やかな寝息と車の走行音のみが響く空間でシロナは眠ったカイムの手に自分の手を重ねる。

意識が無いはずのカイムがその手を少し握り返してくるのを感じながら、シロナは視線を窓の外に向けた。

 

 

窓に反射したシロナの顔は、僅かに綻んでいた。

 

 

 

 

 




シロナさんにはずっと黒いチョーカーをつけてほしかったから満足。
そしてカイムは両利きです。理由は特にない。

今回はちょっと微妙な出来かもしれません。ポケモンもあまり出せなかったし。すみません。

カイムのポケモンのレベルについて知りたいとの感想がありましたので時期ごとに記載しておきます。
初期(シロナと出会った直後)
ブラッキー Lv.39
バシャーモ Lv.38

大学卒業時(オンラインで修行)
ブラッキー Lv.42
バシャーモ Lv.40

ジムトレーナー就任
ブラッキー Lv.45
バシャーモ Lv.43
リオル(加入) Lv.10
ムックル(加入) Lv.10

物語開始
ブラッキー Lv.53
バシャーモ Lv.50
ルカリオ Lv.48
ムクホーク Lv.48

現在
ブラッキー Lv.59
バシャーモ Lv.56
ルカリオ Lv.54
ムクホーク Lv.54

ちなみにスモモなどのジムリーダー(本気)は全員レベル60程度を想定しています。
最近はシロナの教えが身について自分なりに昇華させたためかなり実力が伸びてきています。ジムリーダーに勝ち越すまで後一息。

カイムのあと一匹について色々と案を下さった皆様、ありがとうございました。
現在候補はラプラス、ランターン、ギャラドス、ガマゲロゲ、トリトドン、キングドラとなっています。タイプ相性なども考えてはいますが、実際にレート戦などをやるわけでもないので正直最後は直感で決めようかなと思っています。展開などを考慮するとキングドラが良さげですが、Nとの絡みを考えるとランターンも捨てがたい(BW2でランターンが手持ちにいるから)。シロナのポケモンを考慮するとミロカロスの対となるギャラドスもいいし、トリトドンの東と西で揃えるのもいい。また、トバリジムトレーナーであることも考えたらニョロボンも悪くない。悩みどころです。

でもよくよく考えたらシロナさんポケモン六匹以上持ってますよね。手持ち作品によっては少し入れ替えてるし。
ジムトレーナーとしてのポケモンとただのトレーナーとしてのポケモン分けるか…?いや、でもそれをしたら凡人のカイムじゃうまく育成できなくなるんじゃ…?と葛藤してます。いいポケモンが多すぎて悩んでます。

今回、モデル仕事ということでガラル地方からルリナさんに来てもらいました。ガラルに行くかどうかはともかく、ガラルのキャラは少し出したいのが数人います。研究者繋がりでソニアとホップもどうにか出したいなぁ。

また、前回の話を受けてレベルの上限設定についての質問を受けたので、各役職ごとの6Vポケモンを限界まで育てた時のレベル上限をまとめておきます。

チャンピオン レベル100
四天王 レベル95
ジムリーダー レベル90〜80
エリートトレーナー及びジムトレーナー レベル80〜70
一般トレーナー レベル65前後(70に到達不可)

カイムはジムトレーナーに含まれますが、シロナの指導と本人の努力もあり、ジムリーダーに片足突っ込んでます。
繰り返しますが、あくまでレベルの上限です。チャンピオンでもレベル80超えてたらすごいです。そう考えると、レッドのピカチュウのレベル88ってもはや修羅ですね。


シロナ
存分にデートでイチャつき、ハプニングすらもイチャつく要因に変えた。本当はルリナとタッグを組んでカミツレとアイリスのコンビを相手にエキシビションマッチをやる予定だったけどちょっと無理でした。

カイム
メンタルが鋼タイプになった男。近いうちに厳しい言葉が言われることが決定している。

カトレア
この作品だとドS要素が強い気がする。

シキミ
もうちょっと活躍させたい。

アイリス
平常運転。子供だけどシロナと同等レベルに強い。カイムじゃまず勝てないおてんば娘。

カミツレ
もっと活躍させたかった。なんかの機会にまた絶対出す。

ルリナ
モデルコンビということで勝手にカミツレの友人にさせられた。実はシロナだけではなくカイムとも連絡先を交換した。

今回の話書きながら新たな書きたいシチュエーションができたのでメモ書きとして残しておきます。
・カイムに料理などの家事を教えてもらうシロナさん
・キャンプをしてカイムと一緒に星空を眺めるシロナさん
・なんやかんやで最果ての孤島に辿り着き、ミュウと仲良くなるシロナさん
・なんやかんやでガラルスタートーナメントのエキシビションとして参加するシロナさん(またはシンオウ地方のスタートーナメントに参加するシロナさん)
・なんかの大会で色々と壁を乗り越えてジムリーダー以上四天王未満の実力を身につけたカイムと共にタッグバトルトーナメントに参加するシロナさん

思いつくシチュエーションを書き切ったら一度この作品は終わらせます。
終わらせたあとに色々思いついたら番外編で更新することもあると思いますけど。

次回は…多分リュウラセンの塔。
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