ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

19 / 68
209番道路のBGMを聴きながら書いている作者です。

前回のアンケート、まだ受け付けているのでよければ投票お願いします。次回の更新まで受け付けますので。
ジラーチ、ルギア、アルセウスがかなり僅差ですね。
次点でルカリオ。そしてその下にデオキシスとシェイミです。
仮にルカリオやったらシロナのルカリオとカイムのルカリオとオルドラン城のルカリオと三人のルカリオが出てくることになりますね。


12話です。
そういえば私が書く話って全部一万字を超える長さなのですが、長いと読みづらいですかね。作者は長い方が好きなのですが。


12話 リュウラセンの塔

緑色の髪を束ねた青年、Nは穏やかな笑みを浮かべながら言った。

 

「また会えて嬉しいよ」

「お前、なんで…」

 

リュウラセンの塔に来ることは青年には伝えていない。そもそもここはシャガが管理しているためシャガの許可無しには入ることはできないはずだ。

それなのに青年は平然とそこにいた。まるで自分の家にいるかのように、平然と。

 

「ボクのトモダチが教えてくれたんだ。ここに来れば、キミに会えるってね」

「はあ?」

「ボクはキミと話したかった。今度はちゃんと、キミのトモダチとしてね」

「わけわかんねぇ…」

 

相変わらずマイペースに話を進める青年にカイムは頭を抱える。

 

「カイム、彼は…」

「前にサザナミタウンの浜辺で話してたのはこいつだ。言ったろ?ヘンな奴って」

「…まあ、そうね」

 

嫌な感じはしないが、今の会話からはどうにもマイペースな印象が強い。

 

「どうかな。一緒にリュウラセンの塔の内部を見て回らないかい?」

「なんでそうなる」

「ボクらはトモダチだ。トモダチ同士なら、別に不思議でもないだろう?」

「俺は別にお前とダチだろうがなんだろうがなんだっていい。お前、悪い奴じゃ無さそうだしな」

 

ブラッキーが警戒しなかった以上、この青年に悪意は無いのだろう。カイム自身もそれはわかっていたし、何よりポケモンを大切にしているのがよくわかる。

だがカイムは青年を友人とするためにどうしても知らなければならないことがある。

 

「俺と友人になりたいなら、まず名前からだろ」

「ああ、そうだった。ボクはキミの名前を知っているから、名乗ることを忘れていたよ」

「あ?」

 

カイムは青年に名乗っていない。なのに名前を知っているといった。

 

「ブラッキーが教えてくれたよ」

「ブラッキーちゃん?知らない人に何勝手に名前教えてんの?」

 

足元にいたブラッキーにジロリと視線を向けると、ブラッキーはそっぽを向いた。

 

「…ったく。まーいいや。で?お前名前は?」

「ボクはN」

「そうか。知ってるだろうが、一応名乗る。俺はカイム。こっちはシロナだ」

「シロナよ。よろしくね、N」

 

置いてけぼりになりそうだったが、カイムがシロナを紹介したおかげでそうなることはなかった。

シロナはじっと青年、Nを見る。Nはどことなく不思議な雰囲気を持っているが、どこか神々しくも思えるような空気を纏っていた。表情から考えを読み取るのは難しそうにも思えるが、同時に素直そうな性格にも思える。

 

「カイムとシロナ…うん、いい響きだ。ヨロシクね」

「ん。よろしく、N」

 

互いに(漸く)名前を知ったところで、シロナは切り出す。

 

「それでN。聞いてもいいかしら」

 

シロナの雰囲気はどこか真剣だ。それもそうだろう。カイムは以前話をしたため多少警戒心が薄れているが、シロナは初対面。

加えて本来なら誰も入れないはずのリュウラセンの塔に先回りしていたとなれば、何かしらの理由があるはずだと判断した。

 

「いいよ。ボクに答えられることならね」

「貴方、何者?」

 

シロナは核心を突く質問を投げかけた。

シャガが管理している以上、リュウラセンの塔に不法侵入することはそうできることではない。空を飛べるポケモンが塔の頂上に行き、そこから侵入することは一応可能らしいが、この塔の上部は強い風が吹き荒れているため並大抵のポケモンでは到達できない。アイリスのボーマンダならあるいは可能かもしれないが、それほどのレベルを持つポケモンがいて漸く可能性が出てくるほどの強さだ。

故に、どんな方法であったとしてもNが一般人ではないことは明らかだった。

 

「…そうだね。キミタチにはちゃんと話しておこう」

 

Nは柱から飛び降り、二人の前に着地する。

顔を上げると、語り始めた。

 

「ボクは、以前『プラズマ団』と呼ばれる組織で王をやっていた者だ」

「プラズマ団…って、確か前回のポケモンリーグを…」

「そう。ポケモンリーグを強襲して、ポケモンを人から解放しようとした組織のことだ」

「…そういえば、カトレア達からそんな話聞いたわね」

 

今回のリーグはアイリスがチャンピオンとなり終結したが、その前のリーグは大会そのものが乗っ取られそうになるという前代未聞の事態になったとか。

決勝トーナメント開催前にプラズマ団が襲撃してきたが、カトレアを含む四天王はプラズマ団の王に返り討ちにされ、加えてブランクがあったとはいえ当時イッシュ地方チャンピオンであったアデクまでもその王に負けた。

この王が訴えたポケモンを人間から解放することを阻止するために1人の少年がこの王に立ち向かった。この少年は伝説のポケモンに選ばれ、そして王だけでなく王を操っていた黒幕も倒すことで事態を収束させたと2人は聞いていた。

そしてその王は行方不明、黒幕は逃走を謀り現在は水面下でまた何かを企んでいるとか。

 

「その王がお前か」

「…うん」

 

Nの雰囲気から嘘をついているようには見えない。

 

「そうか」

「貴方は今でもポケモンは人から解放されるべきって思う?」

「…わからない。でもボクは、考え方は一つじゃないってことを学んだ。人それぞれ色んな考えがあって、人と歩むことを望むポケモンもいれば、誰にも頼らずオノレの力を高めようとするポケモンもいる。そんなたくさんの考えを持って生きているこの世界を、ボクはこの目で見たいと思って旅をしているんだ」

 

幼少期からNは親であったゲーチスの洗脳を受けていた。それ故に考え方はゲーチスの思想に染まっていたが、Nを止めた少年と対立したことでその思想から抜け出し、今は自分がどう生きていくかを決めるためにイッシュ地方を旅していた。

過去の己と決別し、未来への道を決める。これは今のカイムにとって必要なことだ。

 

「…そうか」

 

カイムはそれだけ言うと歩き出した。

Nは過去に大きな過ちを犯した自分を見限ったのかと少し落胆する。実際自分はそれだけの過ちを犯したため、こうして正体を明かすことで軽蔑されることは覚悟していた。しかし、カイムとはいい友人になれそうだと思っていたため、やはりショックではあった。

 

「ボクを軽蔑するかい?」

「しねーよ」

 

だがカイムから返ってきた言葉は意外なものだった。

 

「え?」

「お前が人を蔑めるためにそういうことしたって言うなら話は別だが、お前はその時本気でそれがポケモンのためだって思ってやってたんだろ?」

「…ああ」

「なら軽蔑する理由は無い。それがその時のお前なりの正しさだったんだ。俺がそれについてどうこう言う気はねーよ」

「……キミは」

「おら行くぞ。時間は有限だ」

 

さっさと歩いていき、自分なりに調査を始めたカイムをNは呆然と見ていた。そのNの隣にシロナは立つ。

 

「意外な反応?」

「…そうだね。カレはポケモンといることが好きみたいだから、トレーナーからポケモンを解放するという行為は、忌避すると思った」

「そうね。確かにカイムはポケモンが好きで、とても愛情を持って接しているし、ポケモン達もそれに応えている。でもカイムは自分が正しいとは思っていないの。『人それぞれ環境と立場がある。その立場次第でものの見方は変わるし、価値観も変わる。だからこうでなければならない、なんてものはこの世に無い。あるのは人それぞれの都合』。これはカイムの言葉よ」

「人それぞれの、都合…」

 

カイムがどうしてそのような持論に行き着いたのかはわからない。だがNにとってこの『都合』という言葉はとてもしっくりくるものだった。

 

「そうか…都合か」

「突き放したような言い方だけどね。でもきっとその通りだと思うわ」

「うん。これも新しい見解だ。この考え方は、きっと今後ボクに必要なんだと思う」

 

正解は一つではない。そうあの少年から教わり、そしてカイムからは人それぞれ正解は違うということを教わった。

カイムの考え方についてはまだ吟味する必要はあるが、Nはこのカイムの考え方を理解していきたいと思った。

 

「ところでN」

「なんだい?」

「私とは友達になってくれないの?」

「!」

 

シロナとしてもこの不思議な青年のことをもう少し知りたいと思った。かつては操り人形のように扱われていた青年が、その支配から解放され、そして今何を思い今後何を為すのかが気になったのだ。

もっと言えば、放置したらカイムのことを独り占めされかねないとも思ったという感情もあったが、これは誰にも言わないつもりだった。

 

「私も貴方のこと、知りたいわ」

「そうか…うん。ボクもアナタとトモダチになりたい」

「よかった。じゃあよろしくね」

「うん、ヨロシク」

「行きましょ。カイムを待たせてる」

 

シロナはNと握手を交わし、カイムの元へと歩いていった。

Nは二人の新たな友人ができたことを内心で嬉しく思いながらシロナの背中を追った。

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、結構荒れてるな」

 

現在、三人がいる階層は第二階層。Nと出会った階層の調査を続けているが、至る場所に瓦礫が存在するせいで動きづらく階層を端から端まで見渡せる場所が存在しないほどだった。

折れている柱を足場にするなどして次の第三階層へと向かうための階段の前で、第二階層を見下ろしながらカイムは言った。

 

「そうね。争った形跡というよりも、経年劣化や振動による崩壊が多いように見えるわ」

「いつから存在するかもわからん場所らしいしな。シャガさんが管理するようになるまで誰もこの塔に寄り付かなかったんだとか」

「Nはこの塔についてどれくらい知っているの?」

「キミタチが思うほどは知らないよ。ボクもこの塔がいつから存在するのかはわからない」

 

実際この塔についてはほとんどわかっていないらしい。いつ、誰が、何のために創ったのか何もかもが不明であり、イッシュ地方に伝わる英雄の伝説に何かしらの関係があるのではないか程度しか知られていない。

 

「ただ、この塔はゼクロムとレシラムにとって特別な場所なんだ。もしかしたら、ゼクロムやレシラムに認められた英雄をカレラ自身が迎えるために創られた塔なのかもしれない」

「伝説のポケモンに認められた存在を迎えるための場所…ね。説の一つとしてはあり得そうだな」

「どうしてそう思う?」

「まだこの階層しか見てないからなんとも言えんが、この塔で何か儀式や祭典をやっていた形跡がない。崩れてしまったってんなら何も言えないが、この塔自体に何かを祀るような対象が見当たらない。『リュウラセンの塔』って名前だからゼクロムとレシラムに何かしら関係はあるんだろうけど、今まで伝説に残ってきたポケモン達ってどんな形であってもそのポケモンを象徴する何かってのはあったんだ。なのにここには何もない。つまり、その二体を『祀る』のではなく、その二体にとって何か重要なことを行うために創られた塔なんじゃないのか?」

「うん、いい視点ね。90点」

「満点じゃねぇのかよ」

 

正直、今のカイムにとってこれ以上の説は出せない。元々情報がかなり少ないため半分近く推測ではあるが、少ない材料で出した説にしてはかなり論理立て説明できたと思った。

 

「今の貴方の話の中からさらに掘り下げられるわ。ね、N」

「うん。もう一歩、ボクタチが知っている伝説を元に仮説を裏付けられるものがあるよ」

「降参。すぐに思いつかん」

「リュウラセンの塔の名前とゼクロム、レシラムの司る思想よ」

「…名前…対となる思想……螺旋?」

「そう。思想同士が対となる思想が互いに絡み合い、螺旋がうまれる。カイム、太極図って知ってる?」

「太極図って確か…」

「異国の思想だね。全ての物事は陰と陽の属性に分けられ、そして互いに極めれば極めるほどもう片方の思想に近づくというものだ」

「……俺だってわかってたっての」

 

Nの早口に先を越され、カイムは少しだけ不貞腐れる。

 

「わかってるわよ。そのくらいで不貞腐れないの」

「…それで、その太極図がなに?」

「太極図の思想は、対となるもの同士で互いに高め合うっていうものなの。この対となるもの…これって、ゼクロムとレシラムの司る理想と真実に当てはまるの」

「互いに高め合うことで螺旋を成し、更に高みへと上り詰めることになるんだよね」

「そう。だから貴方のリュウラセンの塔という名前そのものの情報を扱った仮説を立てるなら、ゼクロムとレシラムが司るものについても触れるべきだったわね」

「でも、理想と真実って本当に対になるのか?理想が真実そのものになることもあるだろうし、真実が自分の理想として成り立つ可能性もあるだろ」

「だからこそこの太極図が重要になるの」

 

シロナはスマートフォンで太極図の画像を表示させ、それをカイムに見せる。

 

「この勾玉の中に互いに白と黒の小さな穴があるでしょ?これを両儀って言うんだけど、これは互いに異なる属性を必ず持ち合わせるというものよ」

「完全に両者を分断することはできないって感じのやつだな」

「そう。例えば男性が女性的思考を持ち合わせていることもあるしその逆もある。光の中に存在する影や、影の中に存在する一筋の光みたいに互いに異性的な属性を必ず含むというものね」

「この場合、理想としていたものそのものが真実である可能性や、真実そのものが自分の理想となる…たった今カイムが言ったことがその両儀になるんだね」

「その通りよ」

「なんでNが答えてんだよ…」

 

元々博識なのか、それともNの頭がいいのかはわからないが悉くカイムの発言する機会が奪われていく。

 

「ボクはキミの仮説という数式から導かれる答えに必要となる数字を埋めたに過ぎない。大元となる数式はキミが導いているから気にすること無いよ」

「ちょっと足りなかったとはいえ、かなりいい仮説ではあると思うわ。とは言っても、この塔そのものにそれを裏付けるだけのものがあるかはわからないけどね」

 

実際少し見た程度のカイムがこの仮説を出せるのだ。もしこれを裏付けられるような証拠があるのならば、既にイッシュ地方の考古学者が見つけているだろう。

 

「歴史を学ぶと共に当時の人たちの深層心理も学ぶ…か。うん、数学とは異なる魅力がある学問だね」

「さっきから数式がどうとか言ってたけど、お前数学が得意なのか?」

「そうだね。数式から導かれる答えを掴み取る…面白いとは思わないかい?」

「せいぜい受験に使う程度の勉強しかしたことないが、色々な分野に応用される学問だ。基礎となる学問と言っても差し支えないかもしれんな」

「いつかキミタチにも数学の面白さが伝わるといいな」

 

実際に勉強する機会かあるかはわからないが、きっとシロナが勉強したら相当なものになるんだろうなとぼんやり考えながらカイムはNのその言葉に適当に頷いた。

 

「さ、次の階層に行きましょ。まだ先は長いわ」

 

シロナの言葉にカイムは頷き、Nはその二人の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほー、こりゃまた随分凝ったもん創ったな」

 

壁に沿って創られた螺旋状の階段を上り、第三階層に三人は到達した。そこは段差によって一方通行しかできないような造りとなっており、道を間違えればいちいち戻らねばならないような仕組みになっている。

 

「しかも結構危ないじゃねぇか」

 

通路と通路の間は完全になにもなく、足を滑らせたら真っ逆様に落ちていくことになる。

 

「この先は大体こういう感じだよ。足元に気をつけてね」

「…N、やっぱお前頂上から下りてきたのか」

 

Nの言葉にカイムは反応する。

この先の階層のことを知っている、ということは一度この道を通ったことがあるということだ。この先を知るということは、以前にこの塔を登ったことがあるか頂上から下りてきたかの二択である。どちらかと言えば頂上から下りてきた方が状況的には考えやすい。

 

「そうだね。ボクは上から下りてきたよ。でもカイム、ボクが以前この塔に登ったことがあるという可能性は考えなかったのかい?」

「考えたよ。まあ、以前がどうだったかはわからんが、今回に限って言えば上から下りてきた方が確率高いかなって思っただけだ」

「じゃあキミの予想通りだね。ちなみにボクは以前この塔に登ったことがあるよ」

「へえ、そいつはどうしてだ」

「プラズマ団関連さ」

「そうか。じゃあ聞かねえ」

 

興味がないのか、触れない方がいいと思ったのか、カイムはプラズマ団でのNのことを聞こうとはしなかった。

だがNとしてもあまり語りたいものではないため、カイムの心遣いはありがたいものだった。同時にカイムがポケモンから慕われる理由の一端がわかったようにも思える。

 

「ここは少し危ない。この階層を見るなら、向こう岸に着いて階段の上から見る方が安全だよ」

「ならそうしましょう。あまり危険な場所に長居したくはないもの」

「今回は調査じゃなくてあくまで見学だしな」

「ボクが道を覚えているから、先導するよ」

「ありがとう」

「助かる」

 

Nは二人の了承を得ると段差を飛び越えて先に進んだ。

段差はこちら側から見ればなだらかな坂になっていて踏み外すこともそうないだろうが、反対側からはねずみ返しのようになっていて登ることは至難だ。加えて高さもカイムの背丈ほどあるため危険を冒してまで逆走しようとは思わない。

 

「俺が先に行く。危ないから手ェ出せ」

「ありがとう」

 

シロナはカイムの手を借りながら段差を乗り越える。

カイムが先に行き、向こう側にたどり着いたところでシロナも段差を飛び降りた。カイムが手を貸したおかげでシロナも難なく道を進んでいく。Nは二人の速度に合わせて道を進んでいき、そのNについていくことで二人も上の階層へと進むための階段へとたどり着いた。

 

「結局階段は螺旋状なんだな」

「筒状の塔だし、一番作りやすい構造は螺旋状になるのは必然ね。ただ気になるのが…」

 

シロナは視線を下に落とし、現在の階層を支えている柱を見る。

柱は眼下に広がる暗闇に続いているが、その先は見えない。単純な塔にも見えるが、明らかにいくつか不審な点がある。

 

「この階層、どうやって支えられているの?」

「……確かに。前の階層にこの階層を支えているらしい柱見えなかったしな」

「でもこの柱、下に向かって伸びているわよね」

「ああ」

 

下の様子を思い出すが、それらしいものはなかった時思う。何より上を見上げれば上から白い光が照らされている。その上に何か障害物のようなものは見られない。

 

「もしかしたら、ボクらが気づかないだけで全ての階層そのものが螺旋状になっているのかもしれないね」 

「そうか…そもそも階層を螺旋状に配置すれば柱が無くても不思議ではないわね」

「観測できるものはないから写真でしか記録残せないのが残念だな」

「そもそも見学だけの予定だったし、仕方ないわ」

 

写真を撮りその記録を見ながら議論を続ける二人のことをNはじっと見ていた。

その視線に気づいたカイムが僅かに訝しげな表情を浮かべる。

 

「…どうした」

「ああ、いや…少しね」

「なんかしたか?俺ら」

 

そうシロナに尋ねるも、シロナも心当たりはないらしく首を横に振る。実際先程までやっていたことは取った記録を見て他の記録と何か繋がるものはないかとカイムと議論していたに過ぎない。

 

「いや、キミらが何かをやったわけでないよ」

「じゃあなんだよ」

「…ボクはこの一年以上、色々な世界を見てきた。人とポケモン同士の繋がりだけでなく、人同士やポケモン同士の繋がりも」

「…それで?」

「キミらの信頼関係は、今まで見てきた中で一番温かく感じる。キミらを見ていると、心が温かくなるんだ。互いに信頼しているだけじゃない。お互いを認め、支え合い、補い合うことで、今よりもさらに上を目指していくような、そんな関係に見えたんだ」

 

互いに信頼しているだけではない。それよりも更に踏み込むことでより互いを知り、知ることで支え合うことができ、支え合うことで互いにできないことを補い合うことができる関係が成り立っている。

Nが見てきた人々は、互いに信頼している人が大半だった。中には上辺だけの関係であったり、悪意の上に成り立つようなものもあったが、大半は互いに信頼していた。

しかしシロナとカイムのように互いに信頼し、さらにそこから踏み込んでいるような関係性は初めてだった。人は必ず他者に対して一線を引いて接するが、この二人はそこを更に踏み込むことでより互いを知ろうとしていた。その中には『相手をもっと知りたい』という感情がある。だから議論の中でも両者の『異なる視点』についてよく話しているのだろう。

 

「そうね、私はカイムの師匠だから。バトルにおいても、考古学においても」

「うん、キミがカイムを教える立場なのはすぐにわかったよ。カイムに積極的に考えさせ、そしてそれを言葉にさせようとする場面がいくつかあったからね」

「………」

「でも師匠と弟子、という関係よりも遥かに親密に見えた。とても良い関係を築けているんだね」

「…そうね」

 

Nは純粋に二人の関係を美しく、そして尊いものだと思った。きっとこれほどの関係を築くことができる人はそういない。この約一年イッシュ地方で人とポケモンに触れ合ってきたNだからこそそう思えた。

 

Nには二人の関係を伝えていない。伝える必要が無いと思ったのもあったが、初対面のNにわざわざ伝えることもないだろうという判断だ。その上でここまで関係を褒められるとは思ってはいなかった。

少し気恥ずかしくもあるが、他者のNから見ても二人の関係が良いことがわかるほどなのだとシロナは納得して、同時に嬉しくもあった。それだけカイムとの仲が深まったということなのだから。

 

「ボクは、人とポケモンとの関係に多く目を向けてきたけど、キミタチを見ていたら今後は人同士、ポケモン同士の関係ももっと知りたくなったよ」

「なんのことかよくわからんが、褒めてくれてんのはわかる」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。でもねN、貴方も見て学ぶだけでなく、貴方自身も人との関わりを持って学んでいくといいと思うわ」

「うん、そうだね。きっとそれが、今後のボクのためになる。キミタチのおかげだ。ありがとう」

 

突如礼を言われてシロナとカイムは目を見合わせる。

 

「…礼を言われるようなこと、したか?」

「してないわね。でも、Nにとっては大切に思えることを私たちを見て感じ取ったのよ」

「なるほど、わからん」

 

カイムはよくわからないと言ったが、シロナにはNが何故礼を言ったのかなんとなくわかった。

だがそれをわざわざ口にすることもないため、シロナは特に何も言わずに二人を引き連れて上の階層へと歩いていった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

三人は上の階層へと足を踏み入れていった。

一つの階層内でも高低差がある場所や、階層そのものが円形になっている不可思議な階層を越えていき、とうとう頂上へとたどり着いた。

 

「ここが…」

「うん。リュウラセンの塔の頂上だ」

 

かなりの高さがあるからか、風の音が強い。しかし壁のようにそり立つ塔の外壁がその風を防いでいるためか、風そのものはあまり感じない。

フロアそのものには柱が何本か立っているが、全ての柱が折れており半分近くが風化している。

 

「…やりの柱みてーだな」

「少し似てるわね。この場所とシンオウ地方のやりの柱…何か繋がりはあったのかしら」

「多分無いって言ってなかったか?」

「繋がりがある材料は無いけど、完全に皆無だと断言する材料も無いのよ。やりの柱以上に私たちはこのリュウラセンの塔について知らないから仕方ないけど」

「二人の出身地にはここと似たような場所があるのかい?」

「構造が少しな。この柱が並んでいる見た目がちと似てるんだ」

「そうか。じゃあそれについて『聞いてみてあげるよ』」

「…誰に?」

「ボクのトモダチにさ」

 

Nは空を見上げる。

Nの視線の先には黒い影があり、Nが見つめるとその影はこちらにゆっくりと降りてきた。その影は目の前に降り立ち、三人にゆっくりと視線を向けた。

 

「……ねえ、貴方のトモダチって…」

「そう。カレがボクのトモダチ、ゼクロムだ」

「………」

 

目の前で弾けるオーラを纏いながら直立するゼクロムをシロナとカイムは苦笑しながら見上げた。

正直、そんな気はしていたがまさか本当にゼクロムだとは思っていなかったのだ。

 

「ゼクロムは、確か理想を追い求める英雄に付き添うポケモンだよな」

「そう言われているね」

「じゃあ、Nは英雄ってことだ」

 

カイムの言葉にNは少し表情を陰らせる。

 

「…ボクは、そんな大層なものじゃないよ。まだまだ未熟で、世界がどんなものかわかっていないからね」

「でもゼクロムはお前に付き添ってんじゃん。それって、お前がゼクロムに認められたってことだろ?」

「…そうだね。でもそれは、あくまで以前プラズマ団の王をしていた時のボクだ。今のボクは…」

 

視線を落とすNにカイムは何でもないように言った。

 

「今のお前がダメなら、ゼクロムはもうどっか行ってんじゃねえのか?確かに今のお前はいわゆる自分探し中なのかもしれんが、それにゼクロムが付き添っているってことは、『お前に付いていくべき』って判断したからじゃねぇの?」

 

Nはゼクロムを見る。

ゼクロムは、あの少年と対峙した時からずっと共にいる。そして以前のNが叶えようとしていた世界の実現のために協力してくれた。

結果としてはその少年…トウヤに負けてしまいNは自身の抱いていた理想も間違いであると悟った。しかしゼクロムはNの元を離れようとはしなかった。何度かゼクロムに聞いてはみたが、ゼクロムはそれについて答えることはせず、ただじっとNのことを見つめるだけだった。ゼクロムが何をNに伝えたかったのかはわからない。だが、ゼクロムと共に過ごす日々は楽しかったため、それ以上Nは何も言わなかった。

カイムの言葉が的を射ているかはわからない。しかし、伝説のポケモンであるゼクロムがただ無意味にNに付き添うとも思えない。

 

「…そうか。そうだといいね」

「ところでN」

「なんだい、カイム」

「その……ゼクロムと触れ合ってもいいか?」

 

そわそわしながら目を輝かせつつ言うカイムにNは僅かに驚愕するが、すぐにふっと笑うと笑顔で答えた。

 

「聞いてみるよ」

「頼む」

「ゼクロム、この人はボクのトモダチのカイムだ。カイムがキミと触れ合ってみたいって言っているんだけど、どうかな」 

 

ゼクロムは小さく唸り声を上げ、頷いた。

Nにはゼクロムがなんと言ったかわかるが、言葉はわからずとも頷いたことがカイムにもわかった。

 

「ゼクロムはいいって」

「本当か?じゃあ、遠慮なく…」

 

カイムはゼクロムに近づき、差し出された手に触れる。触れただけでもゼクロムが特別な存在だということがひしひしと伝わってきた。

 

「すげえ…」

「怖くないのかい?」

「ゼクロムが?」

「うん」

 

ゼクロムは、伝承の中には『雷で世界を焼き尽くすことができる』というものがある。その伝承をカイムが知っているかどうか定かではないが、ゼクロムは見た目にかなりの威圧感があるためそれだけで怖がる人は少なくないだろう。

 

「怖くない。目の前で人を殺してたりしたら話は別だが、そうじゃねえんだし。それにNと旅してきたんだろ?なら怖がる理由はねーよ」

 

だがカイムは『そんなもの知るか』と言わんばかりに答えながらゼクロムに触れていく。

 

「カイムは、ポケモンが本当に好きなんだね」

 

傍らに立つシロナにNは言う。

今までゼクロムを見てきた人は多かれ少なかれゼクロムに対して恐怖を抱いた。威圧感、伝承、そしてゼクロム本人が人に対して少々冷たい。

 

「今まで、ゼクロムの姿を見た人は大体恐怖を覚えていたんだけど、カイムはそんなこと少しも思わないんだね」

「そうね。カイムはポケモンという種族を愛している。だからポケモンを怖がると言うことはあまりないの。それに、いつも間違いを犯すのは人であって、ポケモンじゃない。だからカイムはどんなポケモンにも恐怖しないの」

「そっか。ボクはまだカイムのことはあまり知らないけど、カイムらしい。そう思える。ゼクロムはボクのトモダチだから、そのトモダチを怖がらないヒトがいるのは、やっぱり嬉しい」

 

ゼクロムの肩に乗せてもらい、普段とあまり変わらない表情だが明らかに目が輝いているカイムを見ながらNは笑う。

 

「ふふ、子供みたいにはしゃいじゃって」

「ゼクロムもカイムを気に入ったみたいだね。カレがヒトを自分の身体に乗せるなんて滅多にないよ」

「カイムはポケモンに好かれやすいからね。不思議なことではないわ」

 

シロナはなおもゼクロムと触れ合うカイムに近づいていく。

 

「楽しそうね、カイム」

「シロナ。だって、伝説のポケモンだぞ。そうそうお目にかかれん」

「そういえば、ラティオスの時も楽しそうだったわね」

 

アルトマーレではラティオスの背中に乗るという経験をした時は柄にもなくテンションが上がっていたこともあったな、とシロナは思い出した。

 

「本当にポケモンが好きなのね」

「まあな。あ、紹介するよゼクロム。こいつはシロナ。俺の相方」

 

カイムの言葉を受けてゼクロムはじっとシロナを見つめる。

鋭い赤い目に見つめられてドキッとしたが、その目に宿る光は優しい。

 

「シロナよ。カイムとNの友達。よろしくね」

 

シロナはゼクロムに向かって手を差し出す。

その手を暫し眺めたゼクロムはゆっくりとその手を取り、握手を交わした。

 

「わあ…大きい手」

「すごいよな。身体から出てるオーラからゼクロムのすごさがわかる」

「そうね。それにこのオーラ、ゼクロムは私たちのことを気遣って抑えてくれてるのね」

 

身体から迸るオーラは確かに凄まじいが、伝説と呼ばれるポケモンの纏うオーラが『この程度』のはずがない。人である二人がゼクロムの放つオーラに当てられる可能性もあるため、それを気遣ったゼクロムは消すことはできないにしろ、せめて抑えることで二人への影響が出ないようにした。

 

「ボクのトモダチは優しいだろう?」

「ああ。すごい奴だな」

「そうだとも。ゼクロム、シロナも肩に乗せてあげてくれるかい?」

「え?私も?」

「うん。どうかな」

 

Nが尋ねると、ゼクロムは小さく呻き、その大きな手でシロナを掴むとカイムの隣に乗せた。

 

「わっととと…」

「大丈夫か」

 

乗せられた際に準備ができておらず落ちそうになったシロナをカイムが抱き寄せることでことなきを得る。

 

「ありがとう」

「気ぃつけろ」

 

シロナは頷くとせめて最低限バランスを取りやすくするためにカイムの腕に掴まった。

それを見届けたNはゼクロムのもう片方の肩に器用に飛び乗ると、ゼクロムに言った。

 

「さあ、ゼクロム。二人にイッシュ地方を見せてあげよう!」

 

Nの声と共にゼクロムは飛んだ。

 

「うお!」

「わっ!」

 

突如飛んだゼクロムに驚いたが、上昇するスピードはあまり速くないためバランスを崩すことはなかった。

太陽の光に一瞬視界を奪われたが、光に目が慣れて目を開くと、眼下には広大なイッシュ地方の大体が広がっていた。

 

「…わあ」

「これが、イッシュ地方」

「そう。ボクが生きてきた、ボクが愛する大地だ」

 

広大な大地と海が広がる世界に二人は言葉を失う。シロナの生まれたシンオウ地方とも違い、そしてカイムの生まれたホウエン地方とも違う世界。住むポケモンも使う言葉も異なる。だがそれでも、同じ時の中に生きてきた存在だということは変わらない。

同じ時を、異なる大地で過ごしてきた世界。

それを目の当たりにし、二人は改めて世界の広さを知る。

 

「……この世界で、Nもゼクロムも生きてきたんだな」

「そうだ。ここでボクは生まれ、そしていつの日か死ぬ。他の地方に行くこともあるだろうけど、ボクの始まりと終わりはこのイッシュ地方だと決めているんだ」

「自分が生まれた場所を愛する気持ち…わかる気がするわ。私も、生まれたシンオウ地方が好きだもの。でも、こうして外の世界を知る経験は大切なものね」

 

シロナは隣にいるカイムの手を取る。それに気づいたカイムは一瞬シロナに視線を向けたが、何も言わずにその手を握り返した。

 

「トモダチのキミタチに見せたかったんだ。ボクが生まれたこの世界を」

「ああ、見れて良かった」

「N、ゼクロム。見せてくれてありがとう」

 

広大な世界の広さを胸に刻み、二人は友人の生まれた世界の光景を目に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腹、減らね?」

 

ゼクロムから降りたカイムは突如そう言った。

時計を見ると、ちょうど正午くらいの時刻になっていた。リュウラセンの塔に登ってからかなり時間が経過しているし、何よりこの高い塔を階段で登ってきたため鍛えているカイムや旅をしていて体力のあるNならともかく、女性であるシロナは多少なりとも疲れがあった。

 

「そうね。それに少し疲れたわ」

「リュウラセンの塔はかなり高いからね。ボクもさすがに疲れがあるね」

「だろ?このあとこの高さを下りることを考えると、ここでちと休んでいった方がいい」

 

カイムは背中のバッグを下ろすと中から箱を取り出した。

 

「それは?」

「弁当箱」

「もしかして、カイムの手作りかい?」

「そう。良ければNとゼクロムもどうだ」

 

カイムは階段に腰掛けながら小さなシートを広げ、その上に弁当箱を置いた。

Nはゼクロムと目を見合わせたが、すぐにカイムに返した。

 

「キミタチさえよければ」

「構わん。ダチ同士でメシ食うことはなんもおかしくねぇよ。シロナもいいだろ」

「ええ。もちろん」

「ん。よし、お前らメシだぞ」

 

カイムはボールを投げ、自分のポケモン達を出した。シロナもそれに続いてポケモンを出していく。

 

「この子達がキミタチのポケモンか」

「ええ。仲良くしてあげてね」

「うん、もちろん」

「シロナ、ポケモン達にポフィン配ってやってくれ。ケース渡してあんだろ」

「わかったわ」

「ゼクロム」

 

カイムはポフィンの一つを持ってゼクロムに近づいていく。

 

「よければ、食うか?」

 

そう言ってカイムはゼクロムにポフィンを差し出した。

ゼクロムはその手をじっと見つめると、大きな手でカイムからポフィンを受け取り、そして口に放り込んだ。もぐもぐとなにかを食べる伝説のポケモンの姿はとても珍しく思えた。

ゼクロムから大した反応はないが、少なくとも嫌いでは無さそうだと雰囲気からカイムは判断し、ゼクロムにさらにポフィンを与える。それらも受け取り一つ一つ丁寧に食べるゼクロムを見て僅かに笑うとカイムはNのもとに戻ってきた。

 

「キミ、笑えるんだね」

「あ?」

 

戻って早々によくわからない言葉を言われたカイムは顔を顰める。

 

「どんな人でも多かれ少なかれ、必ず表情が動くものだ。ポケモンだってそうなんだからね。でもキミはここに来るまでほとんど表情が動かなかった。ゼクロムの肩に乗っている時ですらそうだったからね」

「昔から表情筋が脆弱なんだよ」

「今キミがゼクロムにポフィンを与えていた時、キミは少し笑ってた。それでキミも笑えるんだなって」

「ほっとけ」

 

カイムは顔を顰めたままNにアルコール除菌シートを渡した。

Nが手を拭き終わると同時にシロナが戻ってくる。

 

「みんなに配り終わったわよ」

「ん、ありがと。俺らも食おう」

「そうね」

『いただきます』

 

弁当箱からサンドイッチやおにぎりを取り出して各々食べ始める。

Nがサンドイッチを一口かじると、驚きから目を見開いた。

 

「…おいしい」

「そりゃよかった」

 

作った本人であるカイムは何でもないようにおにぎりを食べ続ける。

 

「これ、カイムが作ったのかい?」

「ああ」

「すごいね。カイム、料理が得意なんだ」

「毎日やってりゃそれなりになる」

「カイムの料理はすごいのよ。どんなものでも大体作れるの」

「なんでシロナが誇らしげなんだよ」

 

カイムが褒められたのに何故かシロナが一番誇らしげにしていることにカイムは苦笑する。

 

「シロナは、カイムの料理をよく食べているのかい?」

「ええ。ほぼ毎日かしら」

「そっか。こんな美味しい料理を毎日食べられるなんて、羨ましいね」

「Nは普段何食ってんだ」

「買ったものやポケモン達からもらったきのみが多いね。旅をしているから自分で作ることはあまりない」

「旅してるとどうしても食うもの偏るからな。仕方ない部分もあるが、多少は栄養バランス考えて食えよ」

「栄養バランス?」

「きのみとかだけだと、ビタミンは色々と取れるけどタンパク質が不足しがちになる。卵でも肉でもいいが、定期的にタンパク質取った方がいい」

「でた、世話焼きカイム」

「変な名前つけんな」

「ふふ、カイムは世話焼きなんだね。優しいとは思っていたけど、これほどとは」

「おいコラ」

 

仲良さげに談笑を続ける三人の背中をゼクロムはじっと見つめ、そしてカイムに渡されたポフィンを口に放り込み、飲み込んだ。

そこでゼクロムの足元にカイムのブラッキーとシロナのグレイシアがいることに気づく。ブラッキーとグレイシアはじっとゼクロムを見上げて何かを訴えるような目をしていた。

何となく二匹の感情を悟ったゼクロムは二匹に手を差し出した。ブラッキーとグレイシアはパッと明るい顔をするとゼクロムの腕を伝ってゼクロムの肩に乗った。二匹はゼクロムに怖がる様子も見せず楽しそうにしており、ゼクロムも特別楽しそうでもないが、不愉快そうでもない様子だった。

 

そんなポケモン達を見て、Nは小さく笑い、そして食事を続けた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「ありがとう、美味しかったよ」

「そりゃよかった」

 

食事を終え、後始末を済ませたカイムにNは言った。言われたカイム自身は特に感慨も無くゴミを袋にまとめて綺麗に後始末を終わらせながら返事をする。

荷物をまとめたカイムの隣にNは腰を下ろした。

 

「ん、どうした」

 

食事を済ませたからもう塔から下りるものだと思っていたが、その考えに反してNは腰を下ろしたためカイムは不思議に思った。

ちなみにシロナは他のポケモン達と共にゼクロムと触れ合っていた。

 

「いや、キミの話を聞きたいなと思ってね」

 

カイムは首を傾げる。

 

「この前、サザナミタウンではボクの話はしたけど、キミの話は聞けなかったからね。せっかくトモダチになったんだし、キミの話を聞きたいんだ」

「俺の話つってもな…そんな話せるような面白い話はねーよ」

「別に面白い話じゃなくてもいいんだよ。例えば、今キミが抱えている悩みについてとかでもね」

 

カイムはハッとNの顔を見る。

N自身は真剣な顔でカイムを見ていた。

 

「この前会った時と比べて、今のキミの目には迷いがある。たった数日で何があったかはわからないけど、ボクは力になれるかもしれない。トモダチの力になりたいんだ」

 

数日前に会った時と比べて、カイムの表情はどこか憂いを帯びていた。この塔を観察し、そしてシロナと議論している時はあまりその憂いは感じられなかったが、ふとした時に悩んでいるような雰囲気になるのをNは見逃さなかった。

 

「まだ会ったばかりのボクにできることは少ないかもしれないけど、キミさえよければ聞かせてほしい」

「………」

 

カイムはNの真剣な表情を見て、観念したようにため息をつきながらNの隣に腰を下ろした。

 

「俺、そんなわかりやすい?」

「どうかな。この前会っていなかったら、多分気づかなかったと思う」

「そうかい」

「それで、何があったんだい?」

「…そういや、Nはチャンピオンに勝ってんだったな」

 

それだけ強いトレーナーならば、カイムの抱える悪癖を直すきっかけになることがわかるかもしれない。

 

「一応ね」

「Nはさ、バトルの時に自分の選択が間違いかどうか悩んだりしないのか?」

「え?」

「俺はいつも自分の選択が間違いじゃないのかって悩んじまう。瞬時の判断が命取りになるバトルでこれは致命的でな。この癖がどーしても直らんくて、悩んでんだわ」

 

気軽に言っているが、これ自体は相当深刻な問題だった。この悪癖はカイムの過去に起因するもののため、容易には直せない。少なくとも一朝一夕でどうにかなるようなものではないことは確かだ。

だがカイム自身はこれではいけないと考えている。いつまでも過去に囚われていることは良くないことであり、そしてそんな状態でシロナの隣にいることなどできないと思っているからだ。

シロナ本人はそんなこと思わないだろうが、カイムがそんな弱い状態の自分でいることが嫌だった。何より周囲が『カイムならできる』と言ってくれているのにこの程度の壁を乗り越えられないような状態でいたくないのだ。

 

「どうして、バトルの時に悩んでしまうんだい?」

「……まあ、一言で言えば自信がねえんだわ」

「何故?」

「今まであらゆることに負け続けてきた自分を信じられん。それだけよ」

 

今でも脳裏に焼きついた言葉がある。

 

 

『才能が無いんじゃ、どんなに頑張ってもたかが知れてるんじゃない?もっと別のことやれば?』

 

 

この言葉は幼い頃に言われた言葉だった。

この言葉を言った本人は、多分悪意は無かったのだろう。その後の態度を見る限り、悪意ではなく純粋に『できない者の気持ちがわからなかった』故に出た言葉だと推測できる。

しかしこの言葉は間違いではない。才能が無い以上、伸び代には限度がある。たかが知れてるというのも間違っていないのだ。

だからこそなのか、負けず嫌いのカイムはその言葉に静かに反発し続けた。その結果、あらゆる面で凡才なカイムは無数の敗北を積み重ね、そして己を信じることをやめてしまった。

 

「なるほど、そういうことか」

「それでNは何考えてバトルしてんのかなって」

「正直、ボクのやり方はあまりアテにならないと思うよ。ボクはトモダチの声を聞くことで成り立つやり方だからね」

「…お前、やっぱポケモンと話せんだな」

「そうだね。信じるかい?」

「ああ」

 

躊躇なく頷いたカイムにNは僅かに驚愕する。

 

「驚いた。そんな簡単に信じるなんて」

「今までのやり取りでそんな気はしてたから別に」

「ポケモンと話せることを知った人はボクを化け物と呼んだけどね」

「世の中いろんな奴がいる。ポケモンが多種多様なようにな。だから話せる奴がいても驚きはするが、疑いはしない。そういう奴がいてもおかしくはないからな。しかし、そうか…そうなるとあんま参考にはできんか」

 

今の話からすると、Nは間違いなく自信を持っているし、そもそもバトル中にそんなこと考えない人種なのだろう。そしてポケモンと対話ができるため自信が無くなることによる壁にぶつかったこともない、いわゆる天才に分類されるのかもしれない。

 

「カイムはどうして自信が持てないんだい?」

「今まで間違え続けて、負け続けてきた奴の選択肢だ。また間違えているんじゃねーかって思っちまう」

「じゃあ、なぜバトルを続けているんだい?」

「……負けず嫌いなんだよ。捻くれ者だから無理だって言われると余計やり通そうとしちまう。あとポケモン達がバトルにやる気出してんのに、トレーナーの俺が日和ってるわけにはいかねぇ」

「そうか…」

「それに、シロナのおかげで俺みたいな凡人でもここまでやれるってわかっちまった。だからここでやめたくない。そのためにも、俺はこの癖を直したいんだ」

 

カイムの言葉を聞いたNは一呼吸置くと話し始める。

 

「ボクはまだ、カイムのことはあまり知らない。でもこの数時間でカイムについてわかったことがある」

「ん、なんだよ」

「キミはとても優しくて、そして周囲を大切にしていることだよ」

「はあ?」

「キミはポケモンにもヒトにも優しい。自分を取り巻く環境をとても大切にしているんだ」

「……別にいいだろ」

「うん。ボクはとても素晴らしいことだと思うよ。でも、キミは何故周囲のヒトやポケモンを大切にするんだい?」

 

Nの言葉を受け、カイムはポケモン達の相手をするシロナに目を向けた。

 

「…俺が今、ここにいられるのは俺の力じゃない。運が良かったんだ。二年前にシロナが俺を見つけてくれなきゃ、今の俺はない。そのシロナとの出会いが今の俺をつくってる。シロナのツテで知り合った人達も、俺にとってはかけがえの無い存在なんだ。だからせめて、俺にできることは返したい。それだけだ」

 

今のカイムはシロナがあの時、大学でカイムのことを拾ってくれたことがなければなり得なかった。それはシロナにも言えることではあるが、きっかけを作ったのは他でも無いシロナだ。

そしてそのきっかけのおかげでカイムはトレーナーとしても学者としても何段階も成長した。それに至るまでの過程はシロナのみの力ではない。だからせめてカイムは周囲を大切にしようという心持ちは忘れなかった。

 

「カイムは、シロナも周囲も信じているんだね」

「当たり前だ」

「じゃあ、その周囲の人達やポケモンはキミに『諦めろ』って一度でも言ったかい?」

「……言ってない」

 

寧ろ言われなかったからこそここまで頑張れた。もし一度でも言われていたら、もしかしたらどこかでトレーナーは諦めていたかもしれない。

 

「みんな…みんな俺を信じて『カイムならできる』って言ってくれた」

「なんだ。じゃあ簡単じゃないか」

「は?」

 

カイムはNの言葉が理解できず首を傾げる。

そんなカイムにNは笑いながら言った。

 

「カイムは、キミの仲間達を信じている。そしてその仲間達は『カイムならできる』って言ってくれたんだろう?」

「ああ」

「ならまずはキミの仲間達がキミにかけてくれた『言葉』を信じてみたらどうだい?」

「!」

「仲間を信じられるなら、仲間の言葉も信じられるだろう?」

 

カイムは目を見開く。

今までカイムの周囲の人々は『カイムならできる』とカイムに言い聞かせてくれた。しかしカイム本人は『まだその段階ではない』と一蹴してきたためその言葉を真剣に取り合うことはしなかった。

だが先日アイリスとバトルした後にシロナは『今カイムに必要なのは技術でも体力でもなく、心だ』と言った。これはシンプルにカイムに心技体の心が足りていないという言葉だと受け取っていたが、逆に言えば技術と体力はすでに十分とも取れる。

 

つまり、カトレアやシキミ、アイリスがカイムに言った『カイムならできる』という言葉は未来への希望的観測ではなく、技術と体力は備わっているためあとは気の持ち様であると完全にわかった上で言った論理的観測からの言葉だったということだ。

 

「…なるほど」

「キミの話から察するに、今まで自分を責め続けてきたカイムが簡単に自分を信じ切ることは簡単にはできないと思う。でも、自分じゃなくて自分の仲間の言葉なら信じられるんじゃないかな」

「……はあ、そんな簡単なことだったのか」

「ボクから見ても、キミはとても恵まれた関係をポケモンともヒトとも築けていると思う。せっかく恵まれた場所にいるんだ。逃げたり腐ったりするくらいなら自惚れてしまってもいいんじゃないかな。だって、キミの信じる仲間達がキミのことを信じているんだ。自分は信じられなくても、仲間の言葉は信じられるだろう?」

 

霧が晴れたようにNの言葉はカイムの中に入ってきた。

こんな簡単なことだったのかと、カイムは内心で失笑した。だがそれは己の愚かさを嘲るものではなく、新たな自分への鼓舞するものだった。

 

「N」

「ん?」

「ありがとう。それなら、俺でもできそうだ」

 

過去との決別はまだできない。でも、今目の前にある壁を乗り越えるために重要な手がかりは掴めた。まさかNからきっかけをもらうとは思っていなかったが、身構えている時には重要な一時というのは来ないものなのかもしれない。

 

「力になれたかな?」

「めっちゃなった」

「ふふ、よかった」

「ただの変な奴かと思ったけど、相談してよかったわ」

「酷いな。ボクのことをそんな風に思ってたのかい?」

「お前な、ファーストコンタクト思い出してみろや。変人以外の何者でもねーよ」

「はは!そうかもね!」

「そうかもじゃなくてそうなんだよ」

 

カイムはNの腕を小突きながら薄く笑った。

そしてNも新たな友人との一時を『楽しい』と心から思えた。

 

 

 

 

 

 

「そうだ。カイムに頼みがあるんだ」

「ん?なんだよ」

 

一頻り笑った後、Nが改まったように言う。

そして一つのモンスターボールをカイムに差し出した。

 

「この子を、キミに託したい」

「は?」

 

言われた言葉の意味がわからずカイムは思わず聞き返した。

 

「なんだって?」

「だから、この子をキミに託したいんだ」

「いや…は?」

 

混乱するカイムを他所にNは続ける。

 

「前に言っただろう?またボクの話を聞く。そして、キミに頼みたいことがあるって」

「あ〜…言ってたような気もする」

「うん。だから」

「いや待て。了承した覚えはねぇ。それに急に言われてもそのポケモンも困るだろ」

「大丈夫。この子はキミの元へ行くことを了承しているから」

「俺の意思は?」

「キミの相談に乗った。これはその対価だと言ったら?」

「この野郎…」

 

それを持ち出されるとカイムは何も言えなくなる。なにせカイムとしては相当大切なことをNから教わった。時間にしては短い時間だが、カイムとしてはとても大きいものだ。

 

「…せめて訳を聞かせろ。じゃなきゃこっちも納得できん」

「それもそうだね。じゃあまずこの子の紹介からだ」

 

そう言ってNはボールからポケモンを出した。

出てきたのは、青い海牛のような見た目をしたポケモン…トリトドンだった。

 

「トリトドンか」

「うん。この子はボクがプラズマ団の王として動いていた時のトモダチなんだ」

 

ボールから出たトリトドンは目の前にいるカイムの顔を覗き込み、ペタペタする肌の手をカイムの手に置いた。

カイムはその手を取りながらNに尋ねる。

 

「…で、なんで俺に?」

「キミは、ポケモンを大切にするだろう。この子はプラズマ団が人々からポケモンを奪っていた時に、トレーナーと引き離された子でね。当時はカラナクシだったけど、プラズマ団で使われるうちにトリトドンに進化した。そしてプラズマ団が解散した後、路頭に迷っていたこの子を見つけたんだ」

「……解散と同時に、一部のポケモンは見捨てられたってか」

「…そうなる。ボクがこの子の親になるのでもよかったけど、この子がこうなる原因の一端を担っているボクにその資格は無い。それに、今のボクはまだ答えを出せない。そんな状態のボクと一緒にいるのもね」

 

今のNはゼクロムと共にいわゆる自分探しの旅の途中だ。そんな目的も曖昧でイッシュ地方内で捜索が続けられているNと共にいることはあまり良くないと判断したのだろう。

しかし先程のNの言葉からすると、元のトレーナーがいたはずだ。そのトレーナーに返す選択肢はないのかとカイムは考えた。

 

「こいつの本来のトレーナーは?」

「それが、この子はあまりいい扱いを受けてなかったみたいで帰りたがらなかったんだ。だから今までボクが連れていたけど、今まで辛い経験をしてきたこの子には幸せになってほしいんだ」

「そう…か」

「だからボクは、確実にポケモンを幸せにしてくれると確信できる人にこの子を託そうと考えていたんだ。それで、キミと浜辺で出会った時にキミにならって考えた」

 

最初声をかけた理由はなんとなくという非常に曖昧で感覚的な理由だった。しかし少し話しただけでカイムの人の良さがわかり、加えて共にいたブラッキーはカイムに対して全面的な信頼を寄せていた。

トレーナーと共にいることがとても幸福であることが目に見えてわかるものだった。だからNはカイムにもう一度会えて、そして信頼できる人だとわかったのならトリトドンを託そうと考えていたのだ。

 

「トリトドンも外の世界を見てみたいと言っている。どうかな?」

「……」

「いいんじゃないかしら」

「シロナ…」

 

いつの間にか側に来ていたシロナがNの頼みを受けることを勧めてくる。

 

「Nが貴方を認めた上で言ってくれていることだもの。受けていいと思うわ」

「……トリトドンはいいのかよ」

 

カイムの足元で首をゆらゆらさせていたトリトドンはカイムの言葉を聞くと肯定するように鳴いた。

 

「ほら、いいって」

「マジかよ。トリトドンがいいならいいけどさ」

「カイム、あと一匹どうするかで確か水タイプのポケモンって言ってたじゃない。それに、カイムのチーム構成的に地面タイプの技を使えるトリトドンは合っていると思うけど?」

「どうかな。断る理由は、キミの心だけになったけど」

 

完全に外堀を埋められ、逃げ道がなくなったカイムは小さくため息を吐く。カイム本人としてもそこまで拒否する理由もなかったし、そういう過去があるポケモンを引き取ること自体は抵抗はなかった。

だがやはり自分を信じきれない性格故に『もっと相応しい相手がいるのではないか』という思いがあった。才能がない自分の元に来てもこのトリトドンは幸福になれないのではないかと。

しかしカイムは先程のNの言葉を思い出した。

 

 

『自分ではなく、まず信じられる人の言葉を信じる』

 

 

これを実践し、そして今後変わっていくためにも、カイムはこのトリトドンを引き取ることで変わるための第一歩にしようと考えた。

加えて、シロナが言う通りあと一匹どうするかも決めかねていたため、正直Nのこの申し出は渡船でもあった。ここまできたらもう断る理由はない。

 

「降参。受けてやるよ、その頼み」

「良かった。キミなら安心して託せる」

「そーいうわけだ。これからよろしくな、トリトドン」

 

トリトドンは高らかに鳴き、カイムに頭を下げた。

 

「このトリトドン、東の海の姿なのね」

「シロナのトリトドンは確か西の海の姿だったな」

「ええ。技構成やトリトドンの得意な戦い方、教えてあげるわね」

「そいつは助かるな。予想外の出来事だったから何も考えてないんでね」

 

トリトドンに目を向けると、そこにはカイムのポケモン達が集まっており新たな仲間を歓迎するように触れ合っていた。

 

「うまくやれそうね」

「うちの連中は性格いいからな」

「トレーナーと同じね」

「ほっとけ」

「キミタチは本当に仲が良いんだね」

 

二人は顔を見合わせる。

そしてシロナは少しだけ困ったように笑い、カイムは肩を竦めた。別に関係を明かしてもいいが、聞かれてもないのにわざわざ言うのも違うなと思ったシロナは無難に受け流すことにした。

 

「まあね。信頼できない人を助手にはしないでしょう?」

「それもそうだね」

「話はこれくらいにして、そろそろ戻らんか」

 

カイムが腕時計を見ると、塔の探索を始めてからかなり時間が経っている。これ以上シャガとアイリスを待たせるのも悪いと考えたカイムは撤収を提案した。

シロナとしてもそろそろだろうとは思っていたため、それに同意した。

 

「そうね。戻りましょうか」

「Nは、どうするんだ」

「ボクはこのまま、またゼクロムと旅を続けるよ」

「そうか。またどこかで会えるといいな」

「会えるよ。トモダチだろう?」

「…ああ、そうだな」

「そうね。また会いましょう」

「あ、そうだ。ボクはこのままゼクロムと共にこの塔を下りるけど、キミタチも乗って行くかい?」

「え、いいのか?」

 

正直、この塔を下りるとなるとそれなりに時間を食う。それに危険もあるためゼクロムに下まで送ってもらえるというのは非常にありがたい申し出だった。

 

「うん。ゼクロムもキミタチを気に入っているしそれくらいなら構わないさ」

「…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらってもいいかしら」

「もちろん」

 

Nの了承を得ると、二人は先程イッシュ地方を一望した時と同じようにゼクロムの肩に掴まった。

それを確認したNもゼクロムの肩に乗り、言った。

 

「いくよ」

 

Nの声と共にゼクロムは飛んだ。

そして三人を伴って分厚い雲の中に飛び込む。雲の中は突風が吹き荒れる音がしていたが、ゼクロムの力が三人を守っているためほとんどその風の影響はなかった。

 

「ゼクロムが守ってくれてるのね」

「うん。ボクタチ人間にこの気候は堪えるからね」

「すげえな、伝説のポケモン」

 

そう話しているうちにあっという間にゼクロムは地上に降り立った。

三人はゼクロムから降りると、向き合う。

 

「ありがとう、助かったわ」

「いいんだ。トモダチだしね」

「そうだな」

「それじゃあボクはいくよ。あまり長居する気はないしね」

「あ、おい」

「ん?」

 

再びゼクロムの肩に乗ろうとしたNにカイムは一枚の紙を投げつけた。

Nはそれを難なく手で受け止めた。なんだろうと紙を見てみると、そこにはカイムの連絡先が書かれていた。

 

「お前が通信機器持ってるかは知らんが、今時ポケモンセンターでパソコン使える。たまには連絡してこいよ」

「いいのかい?」

「おいおい、ダチの連絡先知らない方がおかしいだろ」

「ああ、そうか。うん、そうだね」

「そんだけだ。もう行くんだろ」

「うん。じゃあ、サヨナラだ」

「…お前、人間のダチいなかったろ」

 

盛大にため息をつくカイムにNは少し困惑する。

何かまずいことを言ったとは思えないのにカイムの態度があからさまに不機嫌になったからだ。

 

「え?」

「俺らは友達なんだろ?なら、こういう時は『サヨナラ』じゃねーよ」

「じゃあ、なんて言うんだい?」

「またな」

 

たった3文字の言葉。しかし、その中にカイムのNとの再会の願いが込められた言葉だった。

また会いたい。そう言われたNは嬉しくて思わず笑ってしまう。

 

「なーに笑ってんだおめぇ」

「いや、キミに言われるとは思わなくてね」

「やかましい」

「うん。でも、そうだね。確かにボクらはもうトモダチだ。だからサヨナラじゃなくて……またね」

「ああ。またな」

「シロナも。また会おう。キミとはもっと話したい」

「ええ。私も貴方の話を聞きたいわ」

「…うん。ありがとう。じゃあ、また会おう!」

 

それだけ言ってNは飛び立っていった。

シロナとカイムはNとゼクロムの後ろ姿が見えなくなるまでその背中を見送った。

 

「行っちゃったわね」

 

残されたシロナは言う。

シロナとカイムは明後日、シンオウ地方に戻る。次にNに会えるのは(Nがシンオウ地方に来ない限り)早くても来年。そう思うとほんの少しだけ寂しく思えた。

 

「今生の別れってわけでもない。また会える」

「貴方のそういう割り切れるところ、好きだわ」

「てめぇのことは割り切れないのにな」

「でもNと話して何か掴んだんでしょ?」

 

カイムとNが何か話していたことは知っている。その内容まではわからないが、Nとの会話を終えたカイムはどこか吹っ切れたように見えた。

 

「まあな」

「どんなことを話したの?」

「簡単だよ。すぐにこの悪癖は直らない。だからまず周囲の人達を信じる。それだけだ」

「変わるための第一歩ってことね」

「そーゆーこと」

「きっとできるわ。貴方なら」

「その言葉を信じよう」

 

シロナはカイムの手を取り、カイムはその手を握り返した。

二人はアイリスとシャガが待つ場所まで歩いていった。

 

 

二人が去り、音が無くなったリュウラセンの塔は静かにイッシュ地方を見下ろすように佇んでいた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

リュウラセンの塔を下りてから二時間。

シロナ、カイム、アイリスはサザナミタウンへの帰還準備をしていた。

 

「今日はありがとうございました」

「いえ。このくらいであればお安い御用です」

 

リュウラセンの塔の管理人のシャガにお礼を言ってシロナは握手を交わす。

側にはカイムのムクホークとアイリスのボーマンダがスタンバイしておりいつでも飛び立てるようになっている。

 

「カイムくん」

「あ、はい。なんですか」

 

ムクホークの身体を撫でていたカイムにシャガは声をかける。

 

「君とまた会えることを楽しみにしているよ」

 

そう言ってシャガは手を差し出した。

シャガとしても同じポケモンジムに関わるトレーナーであるカイムは気にかかるらしい。

 

「はい」

「次に会う時は、是非バトルしよう。だからその時までに、己の迷いを断ち切っておいてくれ」

 

カイムは目を見開く。

シャガにはカイムの悩みは伝えていない。恐らくアイリスも言ってないだろう。アイリスは子供でおしゃべりな一面があるが、他者について許可無しにペラペラ喋るほどおてんばでもない。だからカイムにとって重要なことをそう簡単に話すとは思えない。

だがシャガはカイムの悩みを一目で見破った。さすが長年ジムリーダーを務めてきただけあり、鑑識眼もシロナ以上のものだった。

 

「……はい。きっかけは掴めました。あとはやるだけです」

「うむ。いい面構えだ。互いに精進しよう」

「はい」

 

カイムはシャガの手を取り、握手を交わした。

挨拶も済ませたところで帰ろうとした瞬間、アイリスは大きな気配が近づいてくるのを感じた。

その気配はすぐに他の三人にも伝わり、その方角に視線を向けた。するとそこには白い大きな影があった。

 

「レシラム…」

「え?」

 

アイリスの言葉を聞き返そうとした時、突風が吹き荒れ思わずシロナは顔を手で庇った。

そして次に目を開けた時、目の前には大きな白いドラゴンが佇んでいた。

 

「ええ…マジかよ」

「すごい…本当にレシラムだわ」

 

シロナとカイムが絶句している横でアイリスはレシラムに駆け寄り、声をかけた。

 

「トウヤさん!」

 

アイリスの言葉と共にレシラムの背中から一人の少年が顔を出した。その少年は赤と白の帽子を被り、青い上着を着た13〜14歳くらいの少年だった。

 

「久しぶり!アイリス」

 

トウヤ、と呼ばれた少年はレシラムから降りるとアイリスと仲良さげに話し始めた。

 

「びっくりした!急に来るんだもん」

「ごめんごめん。シャガさんもお久しぶりです」

「うむ。元気そうだな」

「はい!」

 

そこでトウヤはシロナとカイムの存在に気づいて歩み寄ってくる。

 

「えっと、突然来てすみません。ぼく、トウヤっていいます」

「丁寧にありがとう。確かにびっくりしたけど、大丈夫よ。私はシロナ。こっちは私の助手のカイムよ」

「ん、よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

「それでどうしたの?結構慌てて来たみたいだけど」

 

レシラムの最高速度を使ってまでこちらに向かって来たようだが、それほど急ぐ用事があったのか、それとも別の理由か。

 

「そう!さっきレシラムがゼクロムの気配を感じたっていうから飛んできたんだ!ゼクロム…Nがここに来てたと思うんだ!」

 

N。トウヤは確かにそう言った。

 

「N?なんでだ?」

「カイムさん、Nを知っているの?」

「知っているもなにも、友人だが」

「本当ですか⁈Nは今どこにいるか知っているんですか?」

 

平然と答えるカイムに対してトウヤはかなり必死の形相だった。

その形相に一瞬驚いたが、すぐにこのトウヤがプラズマ団の一件を終息させた少年だと察して、話し始める。

 

「悪いが、あいつがどこにいるかはしらん。ただ、連絡先はNに渡してある。まぁ向こうのは知らんからこっちからは連絡できんのだが…」

「そう、ですか…」

 

目に見えて落ち込むトウヤに少しだけ申し訳なくなったが、事実である以上仕方がない。カイムは続ける。

 

「ただ、南の方にゼクロムと向かったのは確かだ。会えるかは知らんが、あいつがここを去ってからそこまで時間は経ってない。もしかしたら見つかるかもしれんぞ」

「南ですね!わかりました!」

 

トウヤはすぐにレシラムに飛び乗って南に向かおうとした。

 

「おい」

「はい?」

 

そんな慌ただしくするトウヤにカイムは声をかけた。

 

「伝言があるなら伝えるぞ。いつ連絡くるかはわからんがな」

「あ、大丈夫です。自分で伝えますから!お気遣いありがとうございます」

「ん、そうか。なら頑張れ」

「慌ただしくてすみません!またどこかで!行こう、レシラム!」

 

それだけ言ってトウヤは去って行った。

滞在時間は5分にも満たない。なんというか、嵐のような少年だった。

 

「すげーな。ありゃ確かに英雄だわ」

「ふふ、そうね。すごい才能も秘めてるみたいだし」

「トウヤさん、すっごく強いんだよ!今のあたしで勝てるかなぁ」

「あの少年は凄まじい才能の持ち主だ。今でも彼とのバトルはよく思い出せる」

 

会話が途切れたところでカイムはゴーグルをつけてムクホークに乗った。それを見てアイリスとシロナもボーマンダの背中に跨る。

 

「さて、じゃあ帰るか」

「うん!おじーちゃん、またね!」

「うむ、気をつけてな。シロナさんとカイムくんもまたいつでも来てくれ」

「ありがとうございました。またいつかお会いしましょう」

「また」

「またねー!」

 

ボーマンダとムクホークは同時に飛び、そしてサザナミタウンに向かって飛んでいった。

残されたシャガは今後の世代を担う若者達の背中を見送り、そして手を振った。

 

 

その2日後。

半月弱ほどの滞在期間を終え、二人はシンオウ地方へと戻っていった。

 

 

カイムにとって、今までで最も高い壁を越える決意を胸に、新たな一歩を踏み出すのだった。

 

 

 




ゼクロム(肩の上でイチャつくのやめてくれんか?)
N(二人は本当に仲がいいんだね。まるで夫婦みたいだ)

これでイッシュ地方編は終了です。
次回からシンオウ地方に戻ります。
調整評価が8.99にまで上り詰めていました。
こんな作者の欲望のためだけに書かれた作品にここまでの評価をつけてもらって感無量です。

アンケートの方もかなり僅差なので、結果次第では何本か書くことも視野に入れます。
ちなみに作者の一推し映画は水の都の護神です。だから本編でアルトマーレ行ったんですけどね。

カイムの最後の一匹はトリトドンにしました。限界まで他のポケモンとも悩んだんですが、トリトドンはシロナの手持ちにもいて、そしてBW2のNの秋の手持ちにもいることが決め手になりました。
そしてたくさんの案をくださってありがとうございました。他に案として上がったポケモン達は何かしらの形で二人の物語に関わらせるつもりです。


シロナ
Nとの絡みをもう少し書きたかった。シロナさんなら英雄の資格的なものはありそうだなとか考えながら書いてました。

カイム
マイペースなNに軽く振り回されそうだけど普通に仲良くなれた一般人。英雄の資格は無い。
自分を信じることは未だにできないが、自分を信じてくれる周囲の人達の『言葉』を信じることで悪癖を払拭することをNに提案され、立ち止まるくらいなら自惚れろと自分に言い聞かせる。
次回、壁を乗り越えます。あまり長いことうだうださせてるのも良くないと思ったので。
ただ本当の意味で過去と決別するには実績が必要。

N
カイムの人の良さを瞬時に見抜いた数学の天才。カイムにトリトドンを託す。なお、このトリトドンは個体値かなり高め。

トウヤ
いつかNに会えるといいね。ポケマスでは会ったらしいけど。


感想・評価は励みになるのでよければお願いします。

チャンピオンズトーナメントで戦う相手

  • ワタル
  • ダイゴ
  • ミクリ
  • アイリス
  • カルネ
  • ダンデ
  • レッド
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。