ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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今更エメラルドのバトルフロンティアを全て金シンボルにできた作者です。もう二度とやりません。

調整評価が…9.00を超えた……だと?

これはもう番外編もう一本書くしかないですね。
今回の更新から3日後にアンケート締め切ります。よければ最後にアンケート回答お願いします。

今回はカイムメインです。シロナさんはあまり出てきません。
でも次回はシロナさんメインです。許して。


13話 トバリシティ

シンオウ地方

ミオシティ近辺にあるシロナの自宅。

その自宅の側にあるフィールドでシロナとカイムは向き合ってバトルを繰り広げていた。

 

「しっぺ返し!」

 

ブラッキーのしっぺ返しがシロナのルカリオに直撃した。

ルカリオはそのダメージを受け、なんとか堪えたと思ったが、ダメージが許容量を超えてしまい膝をついた。全身に力を込めて立ち上がろうとするも、それも叶わず膝を屈することになる。完全に倒れないのは執念なのかもしれない。

 

「ここまでね」 

 

シロナはルカリオを労いながらボールに戻す。シロナと相対する場所に立つカイムは大粒の汗を流しながら息を切らせていた。

必死だったためか、シロナの言葉の意味がよくわからず思わず聞き返してしまう。

 

「はっ…はっ…はい?」

「ルカリオはもう戦えないわ。貴方の勝ちよ」

「……俺の、勝ち…?」

「そういうルールでしょ?私はルカリオだけ、貴方はブラッキー、バシャーモ、ルカリオ、ムクホークで戦うっていう」

「俺、の…勝ちか」

 

手持ちをルカリオ単体で縛った以上、ルカリオが戦闘不能になればカイムの勝利である。なお、トリトドンはまだ戦えるほど訓練を行っていないため今回は参戦していない。

だが実感が湧かないのか、カイムは呆然としている。

 

「どうしたの」

「いや…その……実感がわかない」

 

今までシロナと手合わせしてきてシロナのポケモンを落とせたことは一度もなかった。そのため、シロナのポケモンをこちらは全戦力を注ぎ込んだとはいえ下せたという事実をまだ受け止めてきれていなかった。

 

「言ったでしょう?その悪癖を改善すれば、貴方は伸びるって」

「……ああ」

 

まだまだ改善点は多い。

だが確実にカイムは一つ上の段階へと至った。でないとシロナのポケモンを一体落とすなど到底できるはずもないのだから。

 

「今まで貴方は、私の教えたバトルの基礎のみで戦ってきた。その基礎に私のやり方を上乗せすることもあったけど、それだけで倒せる相手はせいぜいバッジを集め終わったレベルのトレーナーくらいよ。私のやり方はあくまで私と私のポケモン達に合ったやり方であって、貴方のポケモン達に合ったやり方はまた別にあるのだから」

「合わない武器と身一つで戦ってたって感じか」

「そう。実際、いつもよりやりやすく感じていたんじゃない?」

 

シロナの言う通り、カイムはいつも以上にゲームメイクがやりやすいと感じていた。自分なりの考えを瞬時に出す。これを徹底して行なっていただけなのにこうも変わるものなのかとカイムは実感した。

 

「まあ、そうだな」

「今のカイムなら自分なりのやり方を見つけられたはずよ。だけどそれを信じないで私や色々な人たちの方針に沿って指示(オーダー)をしていたせいでポケモンもカイムも十全に実力を発揮できなかったのよ」

 

トレーナーもポケモンもそれぞれ『個性』がある。故にトレーナーとポケモンごとに合っているやり方というものは異なるし、全てのトレーナーにおいて使われる戦法は存在しない。

また、基礎力だけではどうしても越えられない壁というものがある。その壁は心技体の全てが一定のレベルに達することで越えられるものであり、どれかが欠けていては越えられることはない。カイムがぶつかった壁とはまさにこれのことだった。

だがNの助言により、悪癖を完全とは言えないまでも直すことに成功したカイムはこの壁を乗り越えた。その実感はカイムにもあった。

 

「こんなに変わるんだな」

「言ったでしょう?心技体の『技』と『体』は備わっているって。それを縛っていたのは貴方の『心』。だからその心さえ解決できれば、貴方はすぐに上の段階へと至れるってわかってたわ」

「…すげーな。そんなこともわかってたのかよ。俺と二つしか変わらないのに、ここまで違うとはな」

「人には向き不向きがあるからね」

「シロナの家事が壊滅的なこととかな」

「こら」

 

軽口を叩くカイムの額をシロナは指で小突いた。

素直に喜べないカイムを内心でしょうがなく思いながらシロナは腕を組んだ。

 

「わかっていると思うけど、今の貴方は確かに一つ上の段階へと至って、ジムリーダーレベルの実力になったわ。でも、貴方が本当の意味で壁を越えたと実感するためには、負け続けた相手を超えることが必要になるわ」

「…スモモか」

「そうよ。今の戦歴は?」

「引き分けを除けば49敗」

「それだけバトルしている相手に今の貴方のスタイルは不意打ちになると思う。でも、それだけで倒せるほどジムリーダーは甘くない。だから貴方の全力をもって超えるしかないわ」

 

カイムの悪癖の根底にはやはり『敗北の常在』という現状が問題となっている。故にまずはその負け続けた相手に対して一度でも『勝利』を得る必要がある。最も根底にあるものの原点はカイムの姉のため不可能だが、真剣にバトルを学んでからの場合はスモモに対しての黒星が非常に多い。だからこそ、カイムはスモモに勝たなければならない。

 

「わかってる」

「大丈夫よ。貴方はちゃんと積み上げてきた。だからその積み上げてきたものが、今の貴方の武器になる」

 

カイムの持つものは少ない。だがその少ない武器も使いようによっては実力の高い相手にも通じることが証明された。シロナのポケモンを一体でも落とすことができる以上、それは疑いようもない。

 

「…俺のできることは、多分周りを見ても誰と比べても確実に上位互換はいる。『俺にしかできない』ものっていうのは、多分ない。シロナのポケモンを倒せたけど、やっぱ自信はできねぇわ」

「そうね。二十年の時を費やして染み付いたその思考は簡単には抜け出せないでしょう」

「うん、自信はない。でもまあ、信じてくれている人がいんだ。その人達を信じるってのは簡単にできたよ」

「Nに感謝しなきゃね」

 

この考え方はNから言われてたどり着いたものだ。

シロナとしても少しずつ直していくしかないと考えていたため、カイムがここまで早く壁を乗り越えるとは思っていなかった。

 

「…ああ。感謝してる。Nだけじゃない。カトレア、アイリス、シキミにもな」

「いつか恩返ししないとね」

「まずシロナにな。もらった恩が大きすぎてどう返せばいいかわからんが」

「見返りがほしくてやったわけじゃないからいいのに。でも気持ちは嬉しいわ。ありがとう」

 

自分だけの力でないことをカイムはよく自覚しており、そして義理堅いカイムは受けた恩は返すのが普通であり、与えられた者の義務だと思っている。

そしてシロナもそんなカイムの性格はよく理解しているため無下にする気はないが、見返りが欲しくてやったわけでもないため素直に受け取ることもしない。尤も、カイムから贈られるもの次第では内心で大喜びしたりすることもあるのだが、それにカイムは気づいていない。

 

「ジムには次いついくの?」

「明日。チャレンジャーの予約が何人か入っているから、それが終わり次第スモモにバトルしてもらう」

「そう。今の貴方なら勝てるわ」

「その言葉を信じよう」

 

ブラッキーを抱き上げ、シロナと肩を並べて自宅へと戻った。

その後はいつも通りの生活を送り、夜は共に眠った。イッシュ地方から帰ってきて以来、シングルベッドで二人で寝ることがデフォルトになってきたが、もう慣れたためカイムも突っ込むことはしなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

トバリジム

 

「あ、カイムさん」

 

ジムに到着するやいなや、入り口で受付嬢と話していたスモモはカイムの存在に気づくと声をかけてきた。

 

「ん、おはようございます」

「はい。おはようございます」

「それでどうしました?」

「今日のチャレンジャーについてです。本日は三人のチャレンジャーが予約されているので、そのうちの二人のバトルをお願いしたいです」

 

ポケモンジムは、まず挑戦の予約を行い、その予約時間にジムを訪れると挑戦できる。そしてそこからジムトレーナー三、四人(ジムごとに異なる)とバトルを行い、トレーナーに勝利するとジムリーダーに挑戦できるようになる。各バトルごとにポケモンを回復させる時間も与えられるため、チャレンジャーは万全の状態で全てのバトルを行うことも可能だし、あえて回復せずにバトルを始める者もいる。

そしてジム側はチャレンジャーのバッジ取得数に応じて相手をするトレーナーやポケモンを変えるなど準備も必要となる。

 

「わかりました。俺が相手するチャレンジャーのバッジ取得数は?」

「一人は4つで、もう一人は7つです」

「なるほど、チャレンジャーの中でも割と高レベルだ」

「片方はうちが最後のジムみたいで、かなりハイペースでバッジを集めているみたいです。あまり手を抜かなくても大丈夫でしょうね」

「…そうですね」

 

ジムバッジを集めるだけなら、正直ポケモンのレベルを上げるだけで事足りる。ジムトレーナーもジムリーダーもチャレンジャー相手には決して本気は出さない。もし本気でやればまず間違いなくチャレンジャーは負けてしまうからだ。

だがスモモはジムリーダーに就任してからまだ比較的日が浅い。彼女自身がまだ若く、そして天才肌故に力の加減が下手な部分がある。少し手を抜けば格段に弱くなるし、本気で挑めばかなりの強さになる。無論チャレンジャーが勝てるくらいの力加減にすることはできるが、ムラがあるのだ。もしかしたら、今日来る7つのバッジを集めたチャレンジャーはスモモの(ジムチャレンジにおける)本気とバトルすることになるのかもしれない。もちろん決して悪いことではないためカイムは言うつもりはない。ただ少しだけチャレンジャーを気の毒に思うだけだった。

 

(今日のチャレンジャー、勝ててもかなり苦労するだろうな)

 

内心で苦笑するが、顔には出さず話を進める。

 

「それで、チャレンジャーが来る時間は?」

「10時、12時、15時です。カイムさんのお相手は10時と15時なのでお願いしますね」

「了解しました」

「では、お願いしま…」

「スモモ」

 

立ち去ろうとしたスモモをカイムは呼び止める。スモモは立ち止まり、振り返った。

 

「はい?」

「朝飯は食べましたか?」

「うっ…」

 

スモモは言葉に詰まる。

スモモの家は貧乏で、父親はスロットで朝から晩まで遊び呆けているためほとんど家にお金がない。故にスモモは食事を一日一回しか摂らない。

そしてそんな不健康な食生活を世話焼きが服を着て歩いている男のカイムが見過ごすはずもなかった。

 

「…すみません。わかってはいるんですけど…その…」

 

食べられるのならスモモも食べている。常に空腹がついて回るのはスモモとしてもいい気はしない。だが家にお金も食べ物も無い以上、食べられないのだから仕方ない。

 

「わかってます。これ、どうぞ」

 

無論カイムもそのくらい察している。どうしてもできない事情があることを知ってなお、矯正させようと思うほどカイムも鬼ではない。

だからジムに来る時はいつもカイムはスモモのために食事を作ってきている。バッグの中から大きめのタッパーを三つ取り出してスモモに渡した。

 

「おにぎりとサラダチキン、卵焼きと煮物を作ってきました。あと生野菜も必要だからサラダも作ってきてます。比較的日持ちするから三食分用意してますけど、早めに食べてください」

 

栄養バランスまで考えられた食事をいつもカイムはスモモに持たせている。シロナもスモモの事情は知っているため、カイムがスモモに食事を作ることは快く了承した。

スモモに食事を作り続けて一年以上経過しているが、スモモの父親は今もなおそのことを知らない。尤も、カイムは見返りが欲しくてやっているのではないためそのことについてどうこう言う気はない。世話を焼いているのは結局、彼のお人好しな性分が出ているだけだ。

 

「あ…すみませんいつも」

「こちらも世話になっているのでお気になさらず」

「本当に助かってます」

 

恐らくカイムの食事がなければスモモはいつも腹ペコ状態だっただろう。カイムのおかげで存分にトレーニングもできているし、何より食費が浮く。最初は食費を払おうとしていたが、カイムはそれを断固として受け取らなかった。

その分、何度もバトルをしてもらうことでカイムは帳尻を合わせている、と言っていたが、スモモとしてはもらっている恩の方が大きい。いつか受けた恩を返せたらと内心で考えていた。

 

「そいつはお互い様です」

 

実際、スモモが何度負けても挑戦を受けてくれるおかげでカイムは強くなれた。格上とのバトルというものはたとえ敗北しても大きな経験値を得られる。

 

「ありがとうございます。今日もよろしくお願いしますね」

 

タッパーを手にスモモはトレーニングルームへと去っていった。

時計を見ると、9時前。最初のチャレンジャーが来るまであと約一時間ほどだった。

 

「さっさと着替えて、ポケモン選ぶか」

 

ジムトレーナーは相手のバッジ取得数に応じて使用ポケモンを変える。故にジムトレーナーとしてバトルするときはジム所属のポケモンを選んでバトルを行う。

自身のポケモンだけでなく、他のポケモンで戦い、かつ相手ごとに力加減を調整する必要があるジムトレーナーやジムリーダーはバトルを専門に行う職業の中ではかなり特殊で応用力のいる職業となっている。

 

「最初はバッジ4個だっけか。となると、レベルは30前後かね」

 

リストを眺めながら二匹のポケモンをピックアップする。

最初のチャレンジャー相手にはゴーリキー(Lv.29)とニョロボン(Lv.30)を選んだ。二匹のボールを手に取り、ボールから出した。

 

「今日はよろしくな」

 

カイムの言葉に二匹は気合十分な声を上げた。

この二匹はジム所属だが、ジムトレーナーとしてのカイムと何度もバトルをしてきているため息は合っている。

 

「よし、じゃあまずアップからだ」

 

カイムは二匹を伴ってトレーニングルームへと歩いていった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「ルカリオ、波導弾です!」

「ドダイトス!耐えろ!」

 

波導弾を受けたドダイトスは、トレーナーの指示通りに波導弾を受けるが、身体の硬い部分に当てることでダメージを軽減させた。

 

「地震でトドメだ!」

 

ドダイトスの地震がルカリオを襲い、その衝撃でルカリオはダウンした。

 

「そこまで。勝者、チャレンジャーのオサム!」

「よっし!」

 

審判の声と共にチャレンジャーの少年はガッツポーズをした。

 

「お疲れ様でした、ルカリオ」

 

スモモはルカリオをボールに戻し、チャレンジャーに歩み寄る。

 

「素晴らしい腕前でした」

「へへ、まーね。結構ギリギリだったけど」

 

チャレンジャーの言う通り、結果はかなりギリギリだった。ドダイトスの体力もあと一撃受ければ恐らくダウンしていたくらいしかなかった。

 

「では、その腕前を認めてこのコボルバッジを差し上げます」

「やった!これでおれも次回のポケモンリーグに出れる!」

 

バッジを受け取り喜ぶ少年を見ながらカイムは昔を思い出す。何度もジムに挑み、そして負け続けた日々を。

何度も何度も挑み、相手のやり方を覚え、それに対して自分なりに戦略を組んでようやくバッジを手に入れていた。そんな時間がかかるやり方をしたせいで4年もバッジを集め終えるのに時間をかけてしまった。

そしてそんな自分が、今やジムバッジを集める若い才能を試す側に回っている。大学時代のカイムからは考えられない光景だった。

 

「お疲れ様でした」

 

物思いにふけっていると、傍にスモモが来ていた。

 

「そちらもお疲れ様でした」

「チャレンジャーの方は先程帰られました。今日のチャレンジャーはこれで終わりです」

「そうですか」

 

時刻は4時前。帰宅するには、まだ早い時間だ。

それにカイムは、今日必ずやらなければならないことがある。

 

「スモモ」

「はい?」

「今日、この後バトルできますか」

 

カイムはスモモの目を見て言った。

そのカイムの目つきに一瞬スモモは驚いたが、すぐに答える。

 

「はい。大丈夫です」

「ありがとうございます。では15分後にフィールドで」

 

カイムは立ち上がり、ロッカールームへと歩いていった。

その後ろ姿を眺めていたスモモにジムトレーナーの一人であるジロウが声をかける。

 

「どうしたんですかい。カイムの後ろ姿をじっと見て」

 

声をかけられたスモモはジロウに対して真剣な表情で言った。

 

「…ジロウさん。お願いがあるんですけど」

「ん、珍しい。なんですかい」

 

元々礼儀正しいため普段の口調は丁寧かつ柔らかいスモモだが、この時の声はどことなく硬さと真剣さを帯びていた。

 

「今日この後、カイムさんとバトルするんです」

「ああ、今日もですか。カイムの奴もよくやるな毎度毎度」

「それで、今日のバトルをバトルレコーダーに記録しておいてほしいんです」

「え?」

 

今まで幾度となくスモモはカイムとバトルをしてきたが、スモモは一度もカイムとのバトルを記録はしてこなかった。元々彼女にその習慣がないため記録しないこと自体は不思議ではない。むしろ今回、記録するという方が珍しいことだった。

 

「そいつは構いませんが、珍しい。どういう心境の変化で?」

「いえ…その、説明しづらいんですけど…今日のカイムさん、何か違う気がして」

「そうですかね。俺は何も感じませんでしたけど」

「…とにかくお願いします」

 

いつになく真剣な様子のスモモにジロウは頷き、そして歩いていくスモモの背中を見送った。

この時彼はこの意味を理解できなかったが、すぐにこの意味を知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールドを挟んでカイムとスモモは向き合った。

カイムは紺色のウェアにハイネックの半袖インナー、黒いハーフパンツという代わり映えしない出立ちだったが、纏う空気が休暇前と異なることにスモモだけは気づいていた。

 

「では、始めましょうか」

「お願いします」

 

互いに礼をし、モンスターボールを手に取った。

 

「今回もシングルバトル、使用ポケモンは4体、道具無し、制限時間無しで大丈夫ですか?」

「はい」

「じゃあ始めましょう!今回も負けませんよ!」

「今回は、勝ちます」

 

カイムの言葉にスモモが若干驚く。

カイムは今まで『勝つ』と一言も言ってこなかった。自信の無さから勝つという言葉を無意識に避けてきたカイムが『勝つ』と断言した。その事実がスモモが感じた違和感の原因の一端だとすぐに察した。 

だからこそスモモは知りたかった。もしかしたら、自分が理解できていない『強さ』というものをここで学べるかもしれないと思ったからだ。

 

「いってください、ゴウカザル!」

「頼む、バシャーモ」

 

カイムは先鋒としてバシャーモ、スモモはゴウカザルを繰り出した。互いに炎・格闘タイプであるため、タイプ相性による勝敗は無い。互いの実力が先鋒同士の結果を決める。

 

「先手必勝です!ゴウカザル、マッハパンチ!」

 

ゴウカザルの高速の拳がバシャーモに迫る。

それを見据えたカイムはバシャーモに指示を送る。

 

「かわさなくていい。ニトロチャージで受けろ」

 

炎を纏ったバシャーモはゴウカザルの拳を腕で受ける。僅かにダメージが入ったが、支障はない。

ニトロチャージの状態でバシャーモはゴウカザルと組み合う。バシャーモの拳を避けたゴウカザルはカウンターで蹴りを放つが、バシャーモはそれを読み切り身体をズラすことで回避。体勢が崩れたところに全力の正拳突きをゴウカザルに向けて放つが、ゴウカザルは背後に跳ぶことでダメージを最小限に抑えた。そもそもニトロチャージは威力が低く炎タイプの技であるためゴウカザルにはほとんどダメージにならない。

だがニトロチャージの真髄はダメージではなく、炎を全身に巡らせることによる身体能力の上昇。バシャーモはニトロチャージの効果で素早さが一段階あがった。

 

「ビルドアップ」

「止めてください!アクロバット!」

 

ゴウカザルは身軽な動きから跳躍し、その勢いを伴ってバシャーモに突撃した。

ビルドアップによる能力向上よりもアクロバットによるダメージの方がデメリットが大きいと瞬時に考えたカイムはバシャーモに即座に指示を出した。

 

「中止!下がれ!」

 

咄嗟に下がったことによりゴウカザルのアクロバットは地面を穿つだけになった。

 

(以前より確実に指示が早くなってる!)

 

以前のカイムと比較して指示を出す速度が格段に上昇していることにスモモは気づいた。以前は何を思っていたかは知らないが、カイムの指示を出す速度はワンテンポ遅かった。そのワンテンポの遅れがいつも勝敗を分けていたのだが、その遅れがなくなっている。

より強くなった。強さを理解できていないスモモだが、これだけはわかる。少し楽しくなってきて思わず頬が緩むのを感じた。

 

「ゴウカザル、かわらわりです!」

「流せ!」

 

振り下ろされたゴウカザルの手刀をバシャーモは蹴りで横に流す。そして隙ができてゴウカザルにスカイアッパーを放った。

ゴウカザルは回避できず、スカイアッパーが直撃した。レベル差はあまりないため少なくないダメージが入り、ゴウカザルの身体が僅かに宙に浮いた。

 

「畳みかけろ!鬼火!」

「横に回避です!」

 

至近距離でバシャーモは鬼火を放つが、空中で体勢を立て直したゴウカザルは身を捩って鬼火を回避した。

 

(さすがに身軽だな、クソ)

 

今のタイミングで発動された鬼火を回避できるのは素早さや身軽さに相当自信のあるポケモンでないと無理だろう。シロナのトゲキッスやルカリオならば回避できるだろうが、比較対象が高すぎる。

だが隙はできた。ここで能力向上を行なっておこうとカイムは考えた。

 

「ビルドアップ」

 

バシャーモは攻撃力と防御力を上昇させる。

これでバシャーモの能力は特殊以外全て一段階上昇したことになる。ゴウカザルとの若干あるレベル差もこれで無意味。

 

「アクロバット!」

「燕返し」

 

互いに飛行タイプの技を放ち、ぶつかり合う。両者とも効果は抜群であるため、ダメージは少なくない。しかし攻撃力、防御力共に上昇させているバシャーモに入るダメージはゴウカザルよりも少ない。

 

「ゴウカザル、剣の舞です!」

 

このままでは押し切られると考えたスモモはゴウカザルの能力強化をするために剣の舞で集中力を高めさせた。攻撃力は二段階上昇し、素の素早さと相まってより強力になった。

 

(ここからだな)

 

素早さは僅かにバシャーモが上回るが、ゴウカザルの身軽さならこちらの素早さをものともせずに回避、攻撃してくるだろう。

バシャーモの体力は五割、ゴウカザルは四割といったところだが、この程度スモモならひっくり返してくる。

 

(長引けば、不利。手数も技術も向こうが上。なら速度で潰す)

 

素早さの種族値はあちらが上だが、バシャーモはニトロチャージで素早さを上げられる。ゴウカザルも素早さを上げる技は覚えられるが、スモモは覚えさせていないことをカイムは把握していた。

 

「ニトロチャージ」

「マッハパンチ!」

 

互いの拳が互いの顔面に突き刺さる。

それで止まることなく両者は殴り合っていく。ゴウカザルの拳を腕で止め、その腕でゴウカザルの腕を極めにいこうとするも引き抜かれて回避される。引き抜いた拳を再び突き出すが、その拳はバシャーモの蹴りによって軌道を逸らされる。ゴウカザルが飛び上がり、バシャーモに回し蹴りを放ち、バシャーモはそれを腕で防ぐ。

この組み手は技として確立したものではないため直撃しても大きなダメージにはならない。しかし確実にダメージは蓄積していくのも確かであるため断じて無意味ではない。

しかしやはり防御の技術がまだ未熟なバシャーモの方が受けているダメージが多くなる。ゴウカザルにもダメージは入っているが、剣の舞による攻撃力の上昇は技として確立されていない攻撃も無視できない程度のダメージをいれてくる。

 

ゴウカザルと殴り合いながらバシャーモはこのバトルが始まる前にカイムが言った言葉を思い出す。

 

 

『バシャーモ。俺はこれからお前が苦手としていることを頼む。誰が相手だとしても、俺が出せる全部の中でこれを使わないでスモモに勝てるゲームメイクはまだ俺にはできない。だから、やってくれるか』

 

 

バシャーモはカイムが好きだ。

幼い頃から共に過ごし、そして旅をしてきた。バッジを集め終わるまでに多数の敗北を積み重ねたりしたが、カイムは共に旅をするブラッキーと自分(あと姉のジュカイン)のことを第一に考えて動いてくれていたし、なにより才能が無いとわかった上で懸命に努力を続ける姿を見て、その努力に応えたいと思っていた。

だがいつもどこか卑屈で、自信がないことが玉に瑕だった。バシャーモは自分のトレーナーは優しくて弱いとわかってなお頑張れるすごい人なんだと、ずっと証明したかった。自分の強さ以上に、カイムというトレーナーのすごさを周囲にも認めさせたくてバシャーモも努力を続けた。

 

バッジを集め終わると同時に一度バトルを諦めたが、今までポケモン第一で過ごしてきてくれたカイムのやりたいことをやってほしくて、カイムの進路を尊重した。

だがシロナと出会ったことでカイムは再びバトルの道に戻ってきた。シロナを師事とすることで格段に心身共に強くなるだけでなく、バシャーモやブラッキーも強くなった。そして新たな仲間も増えたことでよりバトルの楽しさを知ることができた。

 

それがバシャーモの抱いていた『カイムのすごさを周囲に認めさせたい』という思いはより強くなった。

だがそれでもカイムは自分を信じず、己を過小評価し、自分の選択を信じられずにいた。だからバトルの方針もポケモンの良さを活かすやり方とシロナを模倣した選択を取っていることもわかっていた。

バシャーモはカイムが自分を認めさせることができるほどの戦果をあげられない自分を恨むこともあった。同じような思いをブラッキーやルカリオ、ムクホークもしていただろう。

 

しかし、そのカイムが誰かの真似ではなく、『己で立てた方針』を基にバシャーモを信じ、そして苦手であることを頼んできた。

 

 

 

ならば、応えねばなるまい。

 

己のために、そして信じるカイムのために。

 

 

 

「マッハパンチです!」

 

ゴウカザルのマッハパンチを顔面に受け、バシャーモはのけぞる。

これを好機と捉えたスモモはここで一気に決めにきた。

 

「ここです!インファイト!」

 

ゴウカザルの乱撃がバシャーモを襲った。いくらビルドアップで防御力を上げたとはいえ、ゴウカザルは剣の舞で攻撃力を上げている。加えて体力は既に四割を切っていた。その状態でゴウカザルのインファイトを受けたらどうなるか言うまでもない。

連続して放たれた拳は全て的確にバシャーモの身体を穿った。これでバシャーモは戦闘不能になるはずとスモモは判断した。

だがインファイトが直撃し、本来なら倒れているであろうバシャーモは目の前に立ち塞がっていた。

 

「うそ⁈」

 

何故立っていられるのかわからなかったが、すぐに答えは浮かんだ。

 

 

こらえる

 

 

インファイトが放たれるギリギリの所でバシャーモは既にこらえるを発動していた。その効果により、体力はギリギリのところで踏み止まり、インファイトを受けてなお立っていられた。

 

 

『バシャーモ、お前の防御の技術はまだ未熟だ。だから至近距離での殴り合いになったら、多分お前はまだ勝てない。だから敢えてどこかで隙を作れ。そこまでは全力でやっていい。だけどその隙を作った瞬間にこらえるで耐えろ。お前が受けることが苦手なのはわかる。だけど、俺と仲間たちのために最初の相手をお前に倒し切ってほしい』

 

 

真っ直ぐと向けられた目には確固たる意志と、そして僅かな不安の光が宿っていた。

信じるトレーナーがそこまで言ってくれたのだ。ここで耐えきれなくていつ耐えるのだと、全霊を以てバシャーモはゴウカザルの攻撃を受け切った。

先鋒たる自分がやれることは、ここで相手の先鋒を倒し切ること。カイムがやってきたことは無駄ではないことを証明するためにも、この一撃に魂を込めてバシャーモは放つ。

 

「起死回生!」

 

インファイトを受け切られた動揺、そして2回のニトロチャージによって上昇したバシャーモの敏捷力をゴウカザルは振り切れない。

力強い踏み込みから放たれたバシャーモ全霊の一撃は的確にゴウカザルの身体を撃ち抜いた。

 

吹き飛ばされたゴウカザルはフィールドを転がり、スモモの目の前で漸く止まった。その時には既にゴウカザルは目を回しており、戦闘不能に陥っていた。

 

「ゴウカザル、戦闘不能!」

 

先手を取ったのはカイムだった。

今まで先手を取られ続けてきたため、この先手はカイムにとってもバシャーモにとっても大きなものだった。

だがバシャーモがギリギリ立っていられる現状なのも事実。一度ボールに戻し、次のポケモンを出すことにした。

 

「戻れ、バシャーモ」

「…今日は、違いますね」

「そうか?大して変わらんよ」

 

実際技術や体力については最後にバトルした時と変わっていない。変わったとしたら、それは心の持ち様。これだけで劇的に変わるわけではないが、それでも変化していることは間違いない。

 

「かもしれません。でも、もしかしたら今日カイムさんから私の知りたい『強さ』というものを学べるかもしれないって思ってます」

「ジムリーダーにそんなこと言われるとは、光栄です」

「なので、もっと全力でいきます!お願いします、ドクロッグ!」

「頼む、ルカリオ」

 

スモモはドクロッグ、カイムはルカリオを繰り出した。ドクロッグの毒タイプの技は鋼タイプを有するルカリオに無効だが、ドクロッグは格闘タイプも有するためタイプ相性は悪くない。対してルカリオは主に格闘タイプの技を使うため、ダメージが半減される。タイプのみで考えれば不利だろうか。

 

「かわらわり!」

 

ドクロッグは飛び上がり、ルカリオに向けて手刀を振り下ろしてきた。

鋼タイプを持つルカリオに格闘タイプの技は効果抜群。普通ならばここは回避するのが得策だが、カイムが出した指示は違った。

 

「流せ」

 

ルカリオはドクロッグの手刀を手の甲で優しく触れ、流れる水のように受け流した。続け様に振われるドクロッグの腕を的確に捌き、大振りの一撃を流した瞬間にできた隙を突いてはっけいをドクロッグに穿った。

入った、とルカリオは思ったが、ドクロッグはその柔軟な身体で背後に身体を引くことではっけいのダメージを最小限に抑えた。

ドクロッグは一度距離を取り、ルカリオの射程圏外に出た。

 

「さすがに直撃は無理、か」

 

ルカリオは波導を感知し、相手の動きを読むことを得意としている。故に技の『見切り』の精度は非常に高く、持続時間も他のポケモンと比較して少し長い。また、相手の動きを読んで攻撃の軌道を逸らしたりダメージを軽減したりとかなり守りを得意としている。

対して攻撃の技術はまだ発展途上であるため、技の威力はともかく防御から攻撃への切り替えがまだ甘い部分がある。尤も、この甘さもジムリーダーレベルを相手にするときでないと隙にはならない程度のものではあるが。

 

「大丈夫、お前なら読める。相手の攻撃には必ず意志がある。それを強く感じ取れ」

「前のようにはいきませんね。手強いですよ、ドクロッグ。油断せず確実にいきます!」

「ルカリオ、剣の舞」

「ドクロッグ、悪の波動です!」

「避けなくていい。受けながら剣の舞だ」

 

ドクロッグの悪の波動を受けるも、ドクロッグの特攻は高くない。加えてルカリオに悪タイプの技は半減のため、受けたダメージは微々たるもの。悪の波動は時折ポケモンを怯ませることがあるが、ルカリオは精神力によって怯むことはない。

剣の舞によって攻撃力は格段に上昇したルカリオは再び構える。ルカリオの手から出る波導は水のように滑らかであり、同時に力強さもあった。

スモモのエースであるルカリオの波導は力強く、炎のように立ち上るものだった。波導ポケモンであるルカリオだが、その個体ごとに波導の使い方も変わる。スモモのルカリオは肉体を強化し、相手を倒すことに特化させているが、カイムのルカリオは相手の動きを見切り、そして力を無駄なく使うために波導を利用している。元々見切りが得意だったが、波導の利用を知ったことでより磨きがかかった。

 

現に今もドクロッグの攻撃を全ていなし、確実に見切ってダメージを受けることなく捌ききっている。

だがどんなに読みきれたとしても、身体がついてくるかどうかはまた別である。読まれるのなら読まれても対応できないくらいの速度で潰す方針にスモモは切り替える。

 

「ドクロッグ、クロスチョップ!」

 

両腕から放たれる攻撃をルカリオはバックステップで回避。

しかしドクロッグはさらに追撃を加えていく。手刀、掌底、蹴りと続け様に繰り出される攻撃を捌いていくが、徐々に手数が足りなくなってくる。直撃する攻撃はないものの、少しずつ体力を削りにきている。

 

(…一発じゃなくて、少しずつ削りにきてる。毒タイプらしいな)

 

鋼タイプを持つルカリオには毒タイプの技は無効。だがこの徐々に削りにいくスタイルは、まさに毒タイプの常套手段。

 

「削り合いに付き合う気はねぇよ。ルカリオ、神速」

 

ドクロッグのチョップを流した瞬間、ルカリオは目にも留まらぬ速さで移動し、その瞬間にドクロッグに連続して打撃を加えた。突如加えられた連撃に反応しきれずドクロッグは体勢を崩した。

 

「そこだ、地震」

 

その隙をついてルカリオは力を溜め、その力を地面にむけて放出。衝撃波がドクロッグに迫る。

だがこれをドクロッグの特性『危険予知』によって悟ったドクロッグは咄嗟にジャンプし、地震のダメージを軽減した。

 

「ま、それくらいするわな」

 

だがカイムはこうなることを読んでいた。ルカリオはまだ攻撃の技術が未熟だ。それ故に格闘タイプの技はともかく、タイプが不一致の技は溜めの時間が長く、発動までに隙がある。元々タイプ不一致の技はどんなに鍛えているポケモンであっても溜めが必要になり、隙が生じてしまうものであるため、致し方ない部分もある。

だが護るための技術を重点的に磨いたルカリオは攻撃の溜めがより大きくなってしまっている。尤も、これはルカリオだけでなく、カイムが格闘タイプの技を重点的に鍛えてきたからという理由もある。

だからいくら体勢を崩したとはいっても、これほどの溜めがある技を使えば回避、最低でも軽減くらいはされるだろうと踏んでいたし、ルカリオもそれは事前に伝えられていた。

 

 

『ルカリオは誰が相手でも的確に守れ。相手が格闘タイプメインだからやりやすいはずだ。だがお前の守りも盤石ではない。だからどこかで不意をつく。その瞬間、誰が相手でも地震で攻める』

 

 

ルカリオはまだ自身が未熟であることを自覚している。弱いことを恥じることはないが、弱いままでいたくはない。そしてカイムも同じ思いを抱いていることをルカリオは知っていた。

己の弱さを自覚する主人と共に戦いの最中で共に成長し、そして今の強さを証明したいと思っていた。

だからこの戦い、負けるわけにはいかない。

その思いがルカリオの纏う波導をより大きくした。

 

ドクロッグは地震を軽減させるために跳んだため、まだ空中にいる。そこにルカリオは渾身の波導弾を叩き込んだ。

ドクロッグに波導弾のダメージは半減。しかし、いくら半減といっても何度もダメージを受ければ肉体にダメージは蓄積していく。また、ルカリオを削るためにかなりハイペースで攻撃を打ち込んでいたため、疲労も溜まってきている。既に体力は四割を切ろうとしていた。

しかしそれはルカリオも同じ。ルカリオも直撃はなかったためダメージは抑えられているが、削られた体力は大きい。次の一撃を直撃させた方が勝つという確信があったルカリオはドクロッグに肉薄する。

 

波導弾が直撃したドクロッグは波導弾の煙を払うと、目の前にルカリオが迫ってきていた。

 

「コメットパンチ!」

 

ルカリオのコメットパンチが直撃する。

『勝った』、とルカリオは確信した。手応えはあったし、防がれた感触もない。剣の舞による攻撃力上昇効果を鑑みれば、ドクロッグは倒しきれた。そう思ってしまった。

 

「まだです!」

 

ドクロッグの目は死んでいなかった。

 

「かわらわり!」

 

勝ちを確信してしまったルカリオは気配を感じとるのが遅れ、かわらわりが胴体に直撃してしまう。鋼タイプのルカリオに格闘タイプの技は効果抜群。

体力が一気に持っていかれ、完全に尽きようとした瞬間、ルカリオは最後の力でコメットパンチをドクロッグの体に叩き込む。威力としては万全ではないが、ドクロッグの体力が少なかったこともあり、ルカリオとドクロッグは同時に倒れた。

 

「お疲れ様でした、ドクロッグ」

「十分だ。よくやったルカリオ」

 

互いにポケモンをボールに戻す。

ルカリオとしては倒しきれなかったのは不本意かもしれないが、ドクロッグの毒タイプの技は非常に相手をしづらいものであったため、相打ちにできただけでもゲームメイクとしてはカイムの想定内だった。

これで二対三。だがバシャーモは満身創痍のためどれだけ戦えるかわからない。最悪道連れにすればカイムの勝ちではあるが、その勝ち方はカイムとしてはあまり納得いかない。

シロナほど優雅に、凄まじくなくていい。だが、あの背中に憧れを抱いた以上、その戦い方に少しでも近い戦いをして、勝ちたい。それで自分はようやく自信をつけられる。そう考えた。

 

 

 

『どうせお前はまた失敗する』

 

 

 

何度も自分に言い続けた言葉が脳裏を過ぎる。

 

「……ふう」

 

形勢は一見有利に見えるが、残りのカイムの手持ちはムクホークとブラッキー。ムクホークはともかく、ブラッキーは格闘タイプ相手にかなり不利。断じて有利な形勢とは言い難い。

だがカイムは今回、今までとは違い『絶対に勝つ』と決めてここにいる。

カトレアの言葉、アイリスの言葉、シキミの言葉、Nの言葉。

 

そして、シロナの思い。

 

色々なものをもらって今カイムはこのフィールドに立っている。

ポケモン達も自分を信じて、スモモに勝つために全力を尽くしてくれている。

この全てを、カイムは信頼していると言える。

だがただ一人、信頼してこなかった奴がいる。

 

「さて…」

 

相手は強敵。

自分の全部を出し切らないと勝てる相手ではない。

 

自分(てめえ)と戦っている余裕はないぞ)

 

うまく指示が出せなかった罪悪感、あれだけ尽くしてもらったのに負けるのではないかという恐怖心。

 

(そんなもん、あって当然か)

 

人間なら誰でも持つ感情だ。誰でも間違いは怖い。

シロナですらそうなのだから。なら『それら』をわざわざ忌む必要はない。

 

(信用できんならせめて、味方になってやらないと)

 

ムクホークのボールを手に取り、決意を再確認したカイムはボールをフィールドに向かって投げた。

ボールからはムクホークが飛び出し、高らかに鳴いた。

対してスモモはチャーレムを繰り出した。飛行タイプを持つムクホークが有利に思えるが、飛行タイプ対策として冷凍パンチやがんせきふうじといった技も習得しているため油断はできない。

 

ムクホークの特性『威嚇』によってチャーレムは怯み、攻撃が一段階下がる。だがチャーレムの特性『ヨガパワー』は攻撃時に攻撃力を高めるというもののため、攻撃する瞬間のチャーレムの攻撃は剣の舞を積んだルカリオにも匹敵する。

 

「チャーレム、思念の頭突き!」

「ムクホーク、燕返し!」

 

チャーレムの思念の頭突きとムクホークの燕返しがぶつかる。チャーレムに燕返しは効果抜群だが、チャーレムのヨガパワーの効果でムクホークにも少なくないダメージが入る。

 

(耐久の低いムクホークじゃ殴り合いは不利だな。できればどうにかしてルカリオにまで繋げたいが…)

 

ムクホークは自分にバフをかけることよりも相手にデバフをかけることを中心とした技構成だ。できることなら、スモモのエースであるルカリオにもデバフをかけておきたいが、そんな余裕はない。

 

「がんせきふうじです!」

「避けろ!」

 

降り注ぐ岩石をムクホークは左へ右へと回避していく。空を飛べるムクホークは元々機動力が高い。しかしその分ダメージを受ければ耐久性の低さから大きなダメージを負ってしまう。

その分『どこで攻撃に切り替えるか』が特に大事になる。そしてその指示はトレーナーの技量を試されるものであり、成功すれば大きなチャンスを作れるものだ。

しかし失敗すればポケモンは大きなダメージを負う。故に見極めは非常に重要だ。

なおも降り注ぐ岩石を回避しているが、徐々に回避しきれなくなってきている。加えてチャーレムはうまく岩石を使ってムクホークが自分に近寄らないようにしている。ムクホークが飛行タイプである以上、接近戦が不利であることをちゃんと自覚しているのだ。

 

「多少無理やりでも突破するぞ。ムクホーク、鋼の翼!」

 

硬化させた翼を使ってムクホークは降り注ぐ岩石を砕いていく。岩タイプの技であるがんせきふうじは鋼タイプの技である鋼の翼に相性が悪いため、岩石はどんどん砕かれていく。

ムクホークは鋼の翼を纏ったままチャーレムに肉薄するが、スモモもこうなることは読んでいた。

 

「チャーレム、サイコキネシス!」

 

チャーレムのサイコキネシスはムクホークを捉え、地面に叩きつけた。

ムクホークはダメージを受けたが、すぐにサイコキネシスを打ち払い空中に戻る。

 

「フェザーダンス!」

 

チャーレムの真上でムクホークは舞い、ムクホークの羽毛がチャーレムの体に纏わりついて攻撃力を下げる。

チャーレムの特性『ヨガパワー』があるとはいえ、攻撃力が下げられるのはかなり厳しい。特にカイムの手持ちで随一の硬さを誇るブラッキーを相手にした場合、効果抜群の格闘タイプの技でもロクなダメージが与えられない可能性がある。

ならせめてムクホークだけでも早急に倒さねばと考えたスモモは一気に攻勢に出た。

 

「チャーレム、瞑想です」

 

チャーレムは高い攻撃力がウリのポケモンだが、威嚇、フェザーダンスとここまで攻撃力を下げられたのならば特攻での攻撃の方が高くなる。ならば特攻を上昇させて叩く方がムクホークを落としやすいと考えた。

 

「ちっ…いけ!ムクホーク」

 

その考えを読むことはできたが、阻止することはできないと悟ったカイムはムクホークに次の策を命じた。

すぐにそれを察したムクホークはチャーレムに向けて突っ込んでいく。

しかしチャーレムは既に瞑想を終えて特攻と特防を上昇させた。いつでもムクホークをサイコキネシスで迎え撃つことが可能。まだ少し距離もあるため、チャーレムのサイコキネシスの展開速度であればムクホークが届く前にサイコキネシスを当てられる。

 

スモモはカイムが勝負を焦ったと考えた。チャーレムの特攻の種族値であっても、瞑想を一段階積んだタイプ一致のサイコキネシスならばムクホークを落とせる。残りのブラッキーはルカリオとチャーレムで格闘タイプの技で落としてしまえば、最後のバシャーモは満身創痍であるためどうとでもできると考えていた。

この考えは正しい。ほとんどのトレーナーならこの状況でそう判断するだろうし、その通りになる。

 

 

だが相手はシロナというシンオウ地方最強のトレーナーの師事を受けたカイム。

 

 

才能は無いが、頭は良く、無数の敗北から得た知見と経験は伊達ではない。加えて今のカイムは今まで弱点であった思考の澱みがない。

故に、相手からどう見られているかも計算にいれられる。

次のカイムの一手はスモモにとって想定外だった。

 

「とんぼ返り」

 

突如加速したムクホークはチャーレムへと突撃し、そして即座にカイムの元へと戻っていった。そしてすかさず出てきたのは、エースブラッキー。

既にサイコキネシスの発動態勢に入っていたチャーレムはなすすべもなくブラッキーにサイコキネシスを放つが、悪タイプのブラッキーにサイコキネシスは無効。故にブラッキーは隙だらけのチャーレムに攻撃を加えられる。

 

「不意打ち!」

 

ブラッキーの腕がチャーレムの体を穿つ。

チャーレムは腕をクロスしてブラッキーの攻撃を受けたが、ダメージは少なくない。

 

(やられた!今までとんぼ返りなんて使ってこなかったのに…やっぱり、今日のカイムさんは今までと違う!)

 

今までほとんどポケモンを交換してくる技は使ってこなかった。互いに手の内はほとんど割れていると思っていたため、まだ知らない策を持っているとは思いもしなかった。

 

(ここ最近で身につけた?いや、それにしてはやり慣れてる感じがあるし…今までは使ってこなかっただけ?)

 

どういう理由で使ってこなかったのかはわからないが、何にしてもこのままブラッキーとチャーレムを戦わせるのは不利。チャーレムの攻撃力は格段に下げられている現状ではブラッキーに『のろい』を積ませて強化させる時間を増やすだけだ。

ここは大人しくルカリオに代える方がいいだろうと考えたスモモはチャーレムをボールに戻そうとする。

 

「チャーレム、戻ってくださ…」

「追い討ち!」

 

チャーレムがボールに戻る寸前、ブラッキーはチャーレムに追い討ちで追撃を加えた。これもチャーレムはなんとか直撃は避けたが、かなりダメージが蓄積してしまった。

スモモのチャーレムが一方的に戻されたのを見てバトルを見ているジムトレーナー達は息を呑む。

今までカイムとスモモのバトルは何度も見てきた。そのほとんどがスモモが優勢で勝利するパターンで、時折引き分けになることもあったが、カイムが優勢になることなどほぼなかった。

だがそのカイムが、今スモモを追い詰めている。崖っぷちというような状況ではないが、明らかにカイムの方が優勢だ。カイムの纏う空気と集中力にトレーナー達は圧倒された。

誰が見ても才能は凡庸。そのカイムが、もしかしたら本気のジムリーダーを倒せるかもしれない。そう期待が高まってきている。

 

「すごい相手です。全力でいきますよ、ルカリオ!」

 

だがカイムの集中力が上がることで、スモモの集中力も上がってきた。今までスモモがバトルしてきた中で今はかなり高いコンディションとなってきており、胸中は高揚してきている。

 

(今のカイムさんを倒せたら、きっとあたしは『強さ』ってなんなのかを知れる!そんな気がする!)

 

強さを理解できずにジムリーダーになれるほどの才能を持っていたスモモは本当の強さというものが何なのかを知りたかった。

才能だけでは超えられない絶対的に必要な何か。それがきっとカイムに勝つことで見つけられる。そんな確信があった。

 

「いきますよルカリオ!波導弾!」

 

甲高い音と共にルカリオの手に波導が集まり、そして弾丸となって放たれる。波導弾は基本回避しきることは不可能な攻撃。障害物などを盾にすれば回避はできるが、このフィールドに障害物はない。

 

「悪の波動で軽減させろ」

 

故にカイムは迎え撃つことにした。回避できないならせめて技をぶつけてダメージを軽減することで、今後の選択肢を増やせるようにした。

ブラッキーの放った悪の波動はタイプ的にも波導弾を撃ち破るほどの威力はない。結果的にブラッキーは波導弾を受けたが、軽減した上にブラッキーの特防は高い。効果抜群といえど、大きなダメージには至らない。

 

「ルカリオ、はっけい!」

「ブラッキー、バークアウト」

 

ルカリオの掌底を背後に跳んで威力を軽減し、その瞬間にブラッキーは叫び声をルカリオにぶつけた。

悪タイプの技であるバークアウトはルカリオに対して半減。元々威力は高くないバークアウトだが、相手の特攻を下げる効果がある。

ルカリオは攻撃、特攻どちらも得意とするポケモン。故に技の範囲も広いが、デバフをかけてしまえば問題ない。そこにブラッキーの硬さが加われば勝ち筋は見える。

 

「なら剣の舞です!」

「させるか、不意打ち!」

 

剣の舞を舞おうとした瞬間、ブラッキーの不意打ちがルカリオの足を襲い剣の舞を阻止する。ダメージはあまり無いが、それでも阻止されたことはスモモにとって痛手だった。

 

「はっけい!」

 

ブラッキーは不意打ちを的確にルカリオにぶつけたが、元々素早さが低いブラッキーはその後距離を取ることができなかった。

素早さならルカリオが勝るため、ルカリオのはっけいがブラッキーに直撃した。

 

「ブラッキー!」

 

ブラッキーは難なく立ち上がった。元々威力の高い技ではないため、硬さがウリのブラッキーはまだ耐えられる。

しかしここで異変に気づく。ブラッキーの身体が痺れ始めていた。

 

(はっけいの追加効果か。こうなっちまうとは、運がねぇ)

 

はっけいは身体の内部に衝撃を送り込む技。故に直撃すると衝撃が全身に行き渡り、麻痺に至る場合がある。確率としてはそこまで高くはないが、引き当てられてしまったのなら嘆くだけ無駄だとカイムは切り替えた。

それに、ブラッキーに限って言えば状態異常は完全にデメリットだけとも言えない。

 

「ルカリオ!」

 

ルカリオの身体が突如痺れる。

何かされたわけでもないのに突然身体が痺れだしたため何事かと思ったが、すぐにスモモは答えを導き出す。

 

(しまった、シンクロ!)

 

ブラッキーの特性『シンクロ』によってルカリオにも麻痺が伝染したのだ。互いに麻痺によりスピードが落ちただけでなく、時折痺れによって動けなくなる。これは耐久性が高くのろいで素早さを下げるブラッキーにはそこまで痛手ではないが、動き回るルカリオにはかなり厳しい展開になった。

 

「なら速攻で片付けるまでです!ルカリオ、剣の舞!」

「阻止は無理だな…ブラッキー、のろい」

 

互いに積み技でステータスを上げにかかる。ブラッキーはさらに速度が落ちたが、硬さがさらに上がり、ルカリオは高い攻撃力がさらに上昇する。

 

「ルカリオ、神速!」

 

目にも留まらぬ速さでルカリオはブラッキーに連続攻撃をしかける。のろいで防御が上がっているとはいえ、ルカリオも攻撃力を上げている。ダメージは少なくない。

ブラッキーはルカリオの連撃に反撃することができず苦悶の表情を浮かべた。

 

「そのまま接近してはっけい!」

 

ルカリオは最後に一撃与えると同時に右手に力を集め、咆哮と共に掌底を繰り出した。

 

「騙し討ち」

 

しかしその掌底を回避したブラッキーは先程の苦悶の表情が嘘だったかのような顔でルカリオの顔面に足を叩き込んだ。

ダメージは半減だが、体勢を崩すのには十分な一撃だった。

 

「追い討ち!」

 

追撃を加えようとしたが、ブラッキーは身体が痺れて動けず攻撃ができなかった。

 

「バレットパンチ!」

 

その隙を見逃すはずもなく、ルカリオのバレットパンチがブラッキーに突き刺さる。

身体が痺れて動けないブラッキーは避けることができず、モロにバレットパンチを受けてしまった。フィールドを転がるブラッキーに今度はルカリオが追撃を仕掛ける。

 

「ここで仕留めます!いってください、ルカリオ!」

 

体勢を立て直す前に倒し切ることをスモモは選択した。

 

「ブラッキー、のろい」

 

迫り来るルカリオを前にブラッキーは更にのろいで防御力を上げる。

だが高い耐久力を持つブラッキーといえども、効果抜群の技を何度も受けてきたため体力はかなり削られている。いくら防御力を上げたとしても、次の攻撃を耐え切ることができるかはわからない。

 

「これで倒し切ります!ルカリオ、インファイト!」

 

ルカリオの連撃がブラッキーに迫る。

体勢は立て直したが、目の前に迫るルカリオの攻撃を避けることはできない。

インファイトは格闘タイプの中でも最高峰の威力を持つ技。加えて悪タイプのブラッキーには効果抜群。普通に受けてはまず耐えきれない。

ならばどうするか。上昇させた防御力とブラッキー自身の身こなしでどうにかするしかない。

今までカイムはずっと辛い修行を耐えてきた。ならば、その相棒である自分が耐え切らなければ示しがつかない。

ブラッキーにとって最愛にして最高のトレーナーであるカイムの思いに応えたい。そう覚悟を決めてブラッキーはインファイトを受けた。

連続してぶつけられる拳を身体の位置をずらしたり軌道を僅かに逸らすことで直撃を避けていくが、入るダメージは大きい。このままではやられると判断したブラッキーは咄嗟に方針を切り替えた。

 

 

 

こらえる

 

 

 

耐久力の低いバシャーモがこのこらえるで耐え切ったのだ。エースである自分が耐えずしてどうするのかと己を鼓舞し、ルカリオの攻撃を全て受ける。

 

無数の攻撃を終えたルカリオの目の前には、ギリギリで耐え切り、そして未だに死んでいないブラッキーの目があった。

そのすさまじい気迫にルカリオもスモモも一瞬圧倒された。

 

「…よく耐え切った、ブラッキー」

「まさか耐えるとは…」

 

だが虫の息なのも確か。ここであと一撃でも受ければ、間違いなくブラッキーは落ちる。

 

「ルカリオ!バレットパンチです!」

 

出がとても早いバレットパンチでブラッキーにトドメを刺そうとする。だがそうなることは、カイムもブラッキーもわかっている。

 

「右に二歩」

 

ブラッキーはカイムの指示通りに右に二歩ズレる。その瞬間、先程までブラッキーがいた場所をルカリオはバレットパンチを放った。

 

(技のキャンセルが利かないタイミングで確実に避けられる瞬間に指示!シロナさんの回避技術⁈)

 

シロナがよく行う回避指示。これは相手の技がキャンセルできないかつギリギリで回避できるタイミングで的確な距離を指示するものだった。この指示はうまく使えれば最小限の体力で相手の技を回避し、そして技を出したばかりの相手は隙だらけになるという破格のメリットがあるが、失敗すれば技は直撃し逆にこちらが不利になるというかなりシビアなもの。故にこれを的確に行えるトレーナーは少ない。

これをカイムはやってのけた。つまり、彼とそのポケモンには既に『それを行えるだけの技術がある』ということだ。

 

回避を完璧にされてしまったことで、ルカリオはこの一瞬完全に無防備。その隙を見逃すほどカイムは『もう』弱くない。

 

「ルカリオ、下がってください!」

 

ブラッキーが攻撃態勢に入ったことを確認したスモモは即座にルカリオに回避を命じる。

しかしルカリオは動かない。いや、動けなかった。

シンクロによって麻痺が伝染したルカリオは身体が痺れ、数瞬間動けなくなっていた。

 

「しっぺ返し」

 

その隙を突いてブラッキーの足がルカリオの胴体に突き刺さる。タイプ的に威力は半減だが、ブラッキーの攻撃は二段階上昇しているだけでなくルカリオはインファイトの反動で防御力が下がっている。いくら技の威力が半減しているとはいっても、元のダメージもあるためブラッキーの攻撃を耐久力の低いルカリオは耐えられない。しっぺ返しが直撃したルカリオは地面に叩きつけられ、完全にダウンした。

 

「ルカリオ、戦闘不能!」

 

審判がそう言った瞬間、ブラッキーの足元がふらつきそのまま倒れる。意識はあるが、体力があまりない状態からの『こらえる』はさすがに無理があったようでルカリオを倒せたという気の緩みから気力で保っていた力が抜けてしまった。

 

「ブラッキー、いけますか?」

「いや、これ以上やらせる気はない」

 

意識はあったため戦闘が不可能ではないのだろうが、これ以上無理をさせる気はなかった。大人しくカイムは審判に戦闘不能であることを伝えフィールドに足を踏み入れてブラッキーを抱き抱えた。

ブラッキーは最後に気を抜いてしまったことを悔いて表情を歪めていたが、カイムとしては十分すぎるほど戦ってくれた。

 

「十分だ。よくやった」

 

定位置に戻りブラッキーを足元にそっと置く。

正直、カイムの中ではブラッキーはルカリオを落とすことはできないと踏んでいたため、想像以上の働きをしてくれたブラッキーに内心で感謝した。

そしてその思いを無駄にしないためにも、最後まで油断せず戦い抜くことを再び誓った。

 

「いくぞ、ムクホーク。ブラッキーがここまで気張ったんだ。気合いいれろよ!」

「お願いします、チャーレム!」

 

互いにダメージを受けているが、不利なのはタイプ相性的にもデバフ的にもチャーレム。

だがこの程度の逆境を越えられないような生半可な実力ではジムリーダーは務まらない。寧ろ追い込まれているからこそ、より気を引き締めなければあっという間に逆転される。

 

「チャーレム、がんせきふうじ!」

「鋼の翼で砕け!」

 

投げつけられた岩石を硬化させた翼で砕いていく。

 

(チャーレムにはフェザーダンスと威嚇のデバフが効いているから長期戦になれば不利。なら、短期決戦で決めます!)

 

即座に方針を決めたスモモはすぐに指示を出す。

 

「チャーレム、サイコキネシスで岩石をぶつけてください!」

 

フィールドに転がる岩石をチャーレムはサイコキネシスで持ち上げ、そしてムクホークに向かって投げつけた。

 

(岩石をぶつけることによる攻撃、そして岩石が砕かれたらその念力をそのままムクホークにぶつけて攻撃の二段構えだな)

 

互いにダメージは受けているが、このままいけばムクホークが有利。だがムクホークは物理技しか基本使わない。故にこのまま特殊技で削られれば逆転される可能性は大いにある。

 

「乗ってやるよ。鋼の翼で砕け!」

 

その二段構えをわかった上でカイムは岩を砕くことを選んだ。

翼を硬化させ、念力によって操られている岩石を砕く。カイムの読みではその念力でムクホークを捉えに来る、と踏んでいたがその読みは外れていた。

砕いた岩のすぐ背後に、もう一つ岩があった。

 

「マジか⁈」

 

完全に予想外であった手法に虚を突かれたムクホークは回避ができず岩石が直撃する。サイコキネシスによってぶつけられたものであるため、これ自体はエスパータイプだがダメージは大きい。

 

「畳み掛けてください!思念の頭突き!」

 

力を頭に溜めてその頭をムクホークにぶつける。

咄嗟に鋼の翼でガードしたが、ダメージはある。

 

(勝てる!)

 

攻撃力は下がっているが、このまま追撃していけば耐久力の低いムクホークなら落とせる。そう確信して更に追撃を加えた。

 

「がんせきふうじ!」

 

投げつけられた岩石を飛び回り回避するが、進路を岩石により封じ込められる。当たりはしないが、逃げられる道が上空以外なくなってしまった。

 

「サイコキネシス!」

 

逃げた先でサイコキネシスに捕まりそうになり無理やり身体を捻って回避しようとするが、回避しきれず翼を念力に掴まれてしまった。

 

「叩き落として!」

 

そのままムクホークは地面に叩きつけられる。

これを好機と見てスモモは一気に決めにきた。

 

「これでトドメです!とびひざげり!」

 

ムクホークに向かって助走をつけてチャーレムは走り出す。

叩きつけられたムクホークは鋭い視線を勢いよく迫り来るチャーレムに向けた。

 

ムクホークは、他のポケモンと比べてバトルに積極的ではない。

バトルそのものは嫌いではないし、身体を動かすこと自体は好きだ。だが痛いのは好きじゃないし、寝ていたり、だらけている方がムクホークとしては心地がいい。

カイムのポケモンとなり、進化を経て強くなれた。これはとても喜ばしい。バトルに勝てたら嬉しいし、負けたら悔しい。他のポケモンと比べて希薄かもしれないが、それでもその感情はある。

だがムクホークは自覚していた。自分は性格的にもあまりバトル向きではないことを。わざわざ向いていないことにそこまで熱心になるほどムクホークはバトルに魅力を感じていなかったし、カイム自身もあまり優秀なトレーナーではなかったため、多くの黒星を積み重ねた。

 

しかし、カイムは決して諦めなかった。

 

ムクホーク同様、己の才能と無さを自覚していながらもそれと向き合い、泣きそうになりながらも歯を食いしばって努力を続けていくその姿をムクホークは目の当たりにし、魅せられた(・・・・・)

這いつくばり、何度負けても足掻き続ける泥臭い姿はとてもかっこよく見えた。そんなかっこよく足掻くトレーナーのポケモンである自分がこんな中途半端でいいのかと、己の在り方をムクホークは見つめ直した。

そして、今まで以上にトレーニングに真剣に打ち込んだ。未だにバトルそのものはそこまで好きではないが、カイムの努力に応えるためにも真剣に打ち込むことにした。

だらける時は徹底的にだらけ、トレーニングをする時は100%の集中力をつぎ込むことで、自身のスタイルを曲げることなく、着実に強くなれた。カイムのように泥臭くやることはできないが、信頼するトレーナーの努力に応えるためにそうすることを選んだ。

 

今相対しているのは何度も負け続けたいわば目標。そして今現在、カイムは勝利を手にしようとしている。

カイムの努力に応えるためには、今ここで自分が目の前の敵を倒すことが恩返しになる。

覚悟を決め、立ち上がったムクホークは視線のみをカイムに移す。ムクホークの目が死んでいないことを確認したカイムは、迫り来るチャーレムを見据える。

 

「ムクホーク」

 

チャーレムが跳ぶ。

全速力からの跳躍によって放たれるとびひざげりは、今のムクホークの体力を消しとばすのには十分すぎる威力だ。

目の前に迫ったチャーレムを視界に捉え、ムクホークは動く。

 

「燕返し」

 

チャーレムのとびひざげりとすれ違うようにしてムクホークは二連撃を叩き込んだ。

的確に着弾地点を予測した上で、素早く技を繰り出す技術があって初めて可能となる身のこなし。シロナのトゲキッスの動きを見て密かにバシャーモ相手に特訓していた動きだ。

 

効果抜群の燕返しが直撃したチャーレムは、着地した時にはもうダウンしていた。

 

「…チャーレム戦闘不能!よってこのバトル、カイムの勝ち!」

 

観戦していた数名のジムトレーナー達が声をあげる。

今まで幾度となく二人のバトルを見てきたが、これほど白熱し、そしてカイムが勝つというバトルは今までなかったからだ。

そんなトレーナー達を他所に、カイム自身は肩で息をしながら呆然としている。

 

「お疲れ様でした、チャーレム」

 

スモモはチャーレムをボールに戻すと、未だに呆然としているカイムに歩み寄った。

 

「カイムさーん。大丈夫ですかー?」

 

スモモの声にカイムは薄く反応する。

 

「あ、ああ」

「珍しいですね。ここまで動揺するカイムさん、なかなかレアです」

「いや…まあ、実感がなくて」

「何言ってるんですか。正真正銘、あたしの本気に勝ったんですよ」

 

今までも手を抜いていたわけではないが、ここまで本気でやったバトルはなかった。そしてそこまでの力を出し切ったのに、負けた。

 

「…今まで負け続けてきたんです。ようやくとった一勝が実感湧かなくても仕方ないでしょう」

「それもそうかもしれませんね」

 

にこやかに笑いながらスモモは続ける。

 

「本当に強くなりましたね。もう、あたしじゃ勝てそうにないです」

「スモモがバトルに付き合ってくれたおかげです。今までのバトルがあったから、俺はここまでこられました」

「決して諦めず、粘り続け、ひたむきに勝利に繋がる道を探す。それがカイムさんの持つ強さなんですね」

 

カイムのポケモン達は皆、相手の攻撃を受け粘り続け、そして粘った先で掴んだ一瞬のチャンスを必ずものにしてきた。

これはカイム自身が負け続けても諦めず、弱さと向き合うことでトレーナーとして成長してきたからこそのスタイルなのだとスモモは思った。

 

「…負けず嫌いな上に、聞き分けが悪いんでね。でも、それだけじゃここまで来られませんでした。シンオウ地方に来て、俺と関わってくれた全ての人が、今の俺を創っているんです。一人じゃここまで来られません」

 

シロナを筆頭に、様々な人々がカイムを変えた。そして此度、スモモに勝利することで己を否定し続けた自分を本当の意味で『受け入れる』ための第一歩を踏み出すことができた。

 

「一人じゃなかったから、か…」

 

スモモはカイムの言葉を自分の中で反芻し、そして一つの決意を固めてカイムに向き直った。

 

「カイムさん、お願いがあります!」

 

突然のスモモの言葉にカイムは驚くが、散々世話になったスモモの頼みでもあるため聞くことにした。

 

「なんでしょう。俺にできることなら」

「はい。あたし、ジムリーダーになってからほとんど外の世界というものを見ていないんです。シンオウ地方内は色々行きましたけど、他の地方には行った経験がほとんどないんです」

 

嫌な予感がした。

 

「今のあたしがカイムさんとバトルしても、多分百回やっても百回負けます。カイムさんは自分なりの『強さ』を見つけた。でもあたしは自分の強さがなんなのか、まだわからない。だからそれを見つけるためにも外の世界を見てみたいんです!」

「…それで?」

「あたし、他の地方に留学したいです!この前ポケモンリーグから通達があったんですが、トレーナーの留学制度というものがあるみたいなんです。それに参加したい。それで色んな世界を見て、あたしなりの強さを身につけたいんです」

「…具体的に、俺にどうしろと?」

「はい!カイムさんには、あたしの代わりにトバリジムのジムリーダーをやってほしいんです!」

 

カイムは頭を抱えた。そう来ることは全く予想だにしていなかった。

たしかに、本気のスモモに勝ったカイムはジムリーダーとして就任することに何も問題はない。ジムリーダーは当人の都合で代わることがある。主にポケモンリーグに認められた者しかジムリーダーにはなれないが、ジムトレーナーはジムに所属する際にリーグに名前が登録されるためジムリーダーの『代理』になることは可能だ。ジムリーダーがそのトレーナーを認め、リーグに通達することでジムリーダーの代理をそのトレーナーは務められるようになる。

 

つまり、カイムはジムリーダー(代理)になることができるということだ。

 

「…………」

「リーグの方でちゃんと申請しないと正式にジムリーダーにはなれませんが、代理ならすぐになれます。だからあたしが留学にいっても問題ありませんよね」

「…はあ、そうですね」

 

カイムとしては気乗りはしない。だがスモモには散々バトルしてもらった恩があるため、断ることはできない。

それに自分は散々人の力を借りて強くなってきたのだ。スモモという若く素晴らしい才能を持つ少女が強くなりたいと言っている。ならその一助となることくらい、どうってことない。

 

「わかりました。ジムリーダー代理、承ります」

「ありがとうございます!」

「ま、散々世話になったんでこれくらいやりますよ」

「じゃあもう一ついいですか」

「?」

「この瞬間からトバリジムのトップはカイムさんです。だからもうあたしに敬語使わなくていいですよ」

 

ずっと勝てず、立場も上という理由から敬語を使っていたが、この時点でカイムの方が立場は上になる。

元々スモモは年上だから使わなくていいと言っていたが、なんのプライドか敬語を使い続けた。だがカイムが勝ち、ジムリーダー代理となった以上敬語を使う理由はない。

 

「…ああ、わかったよ。これでいいか?」

 

特に断る理由もないため、カイムは大人しく敬語をやめた。元々ぶっきらぼうで口が少し悪いのがカイムだ。敬語が無い方がやりやすい。

 

「その方がカイムさんらしいですよ」

「そりゃどーも」

「カイムさん、ありがとうございました」

「こっちのセリフだ」

 

差し出された手を取り、二人は硬く握手を交わした。

 

 

 

そしてカイムはジムリーダー(代理)になった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

ポケモン達を回復させ、カイムは帰宅した。

手にはちょっとした土産を抱えた状態でカイムは家の鍵を開けた。

 

「おかえりなさい」

 

扉を開けると、シロナが玄関に立っていた。穏やかな笑みを浮かべ、カイムを出迎える。

 

「ただいま」

 

ムクホークをボールに戻してカイムは家に入る。

 

「悪い。ちと遅くなった」

「大丈夫よ。連絡してくれたでしょ」

 

あの後、リーグの方に申請のメールを出したり最低限引き継ぎ作業などをしていたら普段と比べて少し遅くなってしまった。

尤も、几帳面なカイムはこんな時でも連絡は忘れなかったが。

 

「どうだった?」

 

手を洗い終えたカイムにシロナはそう聞いた。

カイムは少し悩んだのちに口を開く。

 

「…初めて、バトルを心から楽しいって思えたかもしれん」

 

負け続けてきたカイムは今まであまりバトルを楽しいと思ったことはなかった。当然だ。負け続けているのにそれを楽しむことができる人間などいない。

 

「そう。前に言ったわね。勝負事を楽しむには本当の強さがいるって。貴方は、本当の強さをもう持っているのだもの。楽しめるのは当たり前よ」

「かもな」

「他には?」

「…ああ。えっと…そうだな…」

 

カイムはなかなか言葉を出さない。何か伝えようとしているのはわかるが、それを口にしない。

 

「どうしたの?」

「いや……初めて、初めて『勝てた』実感が湧いた気がする。この二十三年間で、初めて。だからさ、色々と思うところはあるんだが…多すぎてどう言えばいいかわからん」

 

今のカイムの胸中には色々な感情が渦巻いていた。喜び、疑問、不安、興奮。様々な感情が入り混じってそれをどう言葉にするか迷ってしまっていた。

 

「そう。じゃあ質問を変えるわね」

 

シロナはカイムの頬に手を添え、真っ直ぐ見つめた。

 

「嬉しい?」

 

ただ一言。そう聞いた。

その言葉にカイムは僅かに頬を緩めて、言う。

 

「ああ」

 

それを聞いたシロナは満足そうに微笑んだ。

 

「ならいいわ。それが聞ければ、十分よ」

「…そうか」

 

そこでシロナのグレイシアがカイムの裾を引っ張る。どうやら空腹が耐えきれなくなってきたようで、腹の虫が鳴っているのが聞こえた。

 

「っと、悪い。すぐに飯作る」

 

カイムがキッチンに入りエプロンをつけキッチンから見える食卓に目を向けると、そこには既にセッティングされた状態の食卓があった。

ランチョンマットの上に箸置きと箸がきちんと並べられ、洗われて綺麗なグラスが置かれていた。

 

「…あれ、シロナが?」

 

カイムは出かける前にこのようなセッティングはしていない。故にこれをやったとしたら、シロナ以外いない。

しかしシロナは家事全般が壊滅的。このような些細なセッティングですら大惨事に変えることができるある意味で天才。

だというのに、今食卓は非常に綺麗に整っている。

 

「ええ。今の私じゃ、これくらいしかできないけどね」

 

照れ臭そうに笑いながらシロナは続ける。

 

「貴方は私の下で成長した。トレーナーとしても、学者としてもね。私は貴方が成長するのがとても嬉しかった。でもね、貴方は変わり続けているのに私はあまり変われていない。私は、カイムと一緒に成長していきたい。だからね、私にできることを考えたの。それが、これ」

 

シロナの中で最も苦手とするものが家事全般だった。今まではほとんどカイムに任せっきりだったが、自分が成長していくためにもこの苦手とすることをカイムほどでなくとも『最低限』できるようになりたかった。

 

「今までは私がずっと貴方に教えている立場だった。それは多分これからも変わらない。でもね、ずっと教えているだけじゃなくて、私も教わりたいの。貴方のことを知るためにも、私自身のためにもね。正直、これをやるだけでもポケモン達に手伝ってもらわなきゃまともにできないくらい私の家事の腕は酷い。でもね、苦手だからといってそれがやらない理由にはならないと思うの」

「だから俺に家事を教わりたい、と」

「ええ。一つずつできることを増やしていきたいと思っているの。どう?お願いできる?」

 

照れ臭そうに笑いながら言うシロナにカイムはいつも通りの表情とトーンで言った。

 

「才能の無い俺をシロナは見捨てなかった。だから俺も、どんなに酷い腕だろうとできるようになるまで教えてやる」

 

この程度で恩を返し切れるなどとは思っていないが、大きすぎる恩を受けたのだ、少しでも返せるのならそれでいいとカイムは考えた。

 

「ふふ、じゃあ今度お願いね」

「言っとくが、妥協はしない。ちゃんと厳しくやるからな」

「ええ。でも今日はお祝いしましょ。カイムの記念すべき日なのだもの」

「どーも。っと、そろそろ作らねえとみんな腹ペコになっちまう」

 

下拵えは済ませてあるため、あとは調理のみ。故に調理が終わるまでそう時間はかからなかった。

そしてカイムの作った料理をポケモン達と共に二人は食べた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「ふう…」

 

カイムが洗い物を済ませている間にシロナはポケモン達の面倒を見て風呂を済ませた。

風呂から上がり、髪を乾かしてダイニングに向かうと、ソファーに座り一人でグラスを傾けるカイムがいた。

 

「珍しいわね。自分から飲むなんて」

「かもな。ま、今日くらいいいだろ」

「そうね。私ももらえる?」

「ああ」

 

もう一つ用意してあったグラスに黄金色の液体を注ぎ、シロナに手渡す。グラスを受け取ったシロナは香りを一通り楽しむとグラスに口をつけた。

 

「美味しい」

「ちょいといいとこのやつだ。この前、デンジに聞いたやつだ」

「あら、いいもの知ってるわねデンジくん」

 

チーズをかじりカイムは再びグラスを傾ける。

そこから暫し、雑談を交わしながら酒を飲み進めた。

風呂上がりで暑さを感じていたためか、冷たい飲み物がシロナには心地よく普段よりも早いペースで飲んでいた。

 

「美味しくて飲みやすいからすぐ酔っちゃいそうね」

「一応炭酸水とかも用意してるが、ロックが一番美味い」

「大丈夫?カイム、弱いんだから」

「俺は水割りしてる」

 

そもそも今はイッシュで飲んだ時のようにペースは早くない。このペースならカイムでもあまり酔うことはないだろう。

対してシロナは風呂上がりに飲んだためか、普段と比べてあまり飲んでいないのにも関わらず酔いが回ってきているのを感じた。

 

「ペース早くね?」

「ん〜…そうね。暑くて」

「暑いなら水飲め」

 

渡された水をシロナは素直に飲む。

だが風呂の熱とアルコールの熱で頭が少しふわふわしてきていることは変わらなかった。

 

「ねえカイム」

「ん?」

「す、き」

 

突如言われた言葉に一瞬固まるが、すぐにカイムは返す。

 

「そうか。どーも」

「俺もって言いなさいよ〜」

 

唇を尖らせながら水を飲むシロナにカイムはため息をつく。

 

「お姉さん、酔ってらっしゃいますよね」

「ん〜…酔ってるわね」

 

酔っている自覚はあるという珍しい酔っ払いを前にカイムは苦笑した。シロナは潰れることはないが、酔っ払うことはある。しかしその酔っ払う量もその日のコンディションによって左右される。今日は少し疲れたのか、酔うのが早い。

 

(…食卓のセッティングで疲れたか?)

 

カイムから見れば大したことはしていないが、シロナからすれば大仕事だろう。ポケモンにも手伝ってもらったと言うくらいだから、疲れていても仕方ない。

 

「で?カイムはどうなの?」

「うるさ」

「俺も好きっていいなさいよ〜」

 

しなだれかかってきて頬を突いてくるシロナにカイムは顔を顰めるが、引き剥がそうとは一切しない。

 

「私が好きな貴方なんだから、ちゃんと自分のことも愛してあげてって話よ〜」

「あ、そういう話ね」

 

てっきりカイムにも好きと言うことを強要してきたのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「貴方はちゃんとできるようになっているの。だから、自分のことも認めてあげて」

 

肩に頭をぐりぐりと押し付けてくるシロナの言葉にカイムは小さく息をつく。

 

「大丈夫だ。少なくとも前よりは、好きになれそうだ」

「……ならいい」

「で、そろそろその頭突きやめてくれます?割と痛いんだが」

「それで私のことは?」

 

上目遣いでシロナはカイムにそう聞いてくる。

酔っているのか照れているのかはたまた両方かはわからないが、その頬は赤みを帯びている。

そのシロナの今は赤い頬をカイムは軽くつまんだ。

 

「いひゃい」

「おお、よく伸びるな」

「ごまかひゃないの〜」

 

駄々っ子のように言うシロナに盛大にため息をついたカイムは、シロナの頭をぐしゃぐしゃと撫でるとぽつりと言った。

 

「好きに決まってんだろ」

 

その言葉はシロナの耳に確かに届いた。

 

「よかった」

 

上機嫌になったシロナはカイムの隣に座り、その肩に頭を乗せた。

カイムはやれやれといった表情をしながらもされるがままになっていた。

 

 

 

 

己の弱さと強さを知り向き合うことで青年は過去と決別し、そしてその青年とともに成長するために女性は己に足りないものを学ぶことにした。

 

 

 

そんな二人を見守るように、月は窓の外で静かに輝いていた。

 

 




カイム、ジムリーダー(代理)になる。

戦闘描写ってとても難しいです。頑張りましたが、現在の私ではこれが限界です。

カイムをトバリジムのトレーナーにした理由として、スモモが貧乏で一日一食しか食べてないだけでなく、服も一着しかないとかいう設定があったので、世話焼きカイムと相性良さそうと思ったからです。


次回はアラモスタウン。ちょっとだけ映画に触れます。


手持ち紹介
ブラッキー Lv.63
特性 シンクロ
よく使う技 しっぺ返し のろい 悪の波動 こらえる バークアウト
カイムの手持ちのエース。性格はずぶとく、普段とバトル中で性格が違いすぎるためもしかしたら多重人格なのかもしれない。オフの時はいつもカイムに甘えたり他のポケモンと遊んでいるのに、バトル中は普段の態度からは考えられないようなゲス顔で相手をボコることがある。身体の使い方がカイムのパーティで最も上手いため、のろいで素早さを下げてもうまく身体を使って直撃を避けたりできるためかなり硬い。対格闘タイプとしてサブウェポンにサイコキネシスを覚えているが、力加減が下手であまり使わない。得意技はしっぺ返し。実は4V。

バシャーモ Lv.61
特性 猛火
よく使う技 ニトロチャージ ビルドアップ フレアドライブ 鬼火 スカイアッパー
ブラッキー同様初期メンバー。ようきな性格をしており、身体を動かすことが好きなためバトルにかなり積極的。戦闘技術はかなり攻撃に偏っているため攻める力はかなりのものだが、元の耐久性の低さも相まって守りに関してはあまり能力は高くない。その自覚があるのか、最近シロナのルカリオに守りの技術を教わっているのをよく見かける。得意技はニトロチャージ。3V

ルカリオ Lv.60
特性 精神力
よく使う技 インファイト 剣の舞 神速 見切り 波動弾 はっけい
トバリジムに入会してから加入したメンバー。寡黙で性格は非常に真面目。バシャーモのように身体を動かすというより自己鍛錬を好んで行う傾向がある。真面目な性格だが、バシャーモとの気は合うようでよく手合わせをしている。自身の耐久性の低さを補うために磨き上げた守りの技術は一級品であり、相手の攻撃をいなし、受け流すのが非常に上手い。一方攻撃の技術はまだ未熟な部分も多いため、現在は守りから攻めへの転換を修行中。得意技はインファイト。3V

ムクホーク Lv.60
特性 威嚇
よく使う技 インファイト フェザーダンス 燕返し 鋼の翼 
トバリジムに入会してから加入したメンバー。おっとりした性格で昼寝をよくしており、ブラッキーやシロナのグレイシアに布団にされがちだが本人は全く気にしてない。オンオフの切り替えが最もうまく、バトルになった瞬間一気に目つきが鋭くなる。威嚇とフェザーダンスによるデバッファーの役目を持つ。得意技は燕返しと鋼の翼。2V

トリトドン Lv.42
特性 よびみず
よく使う技 濁流 とける 水の波動 地震 影分身
Nから託され、メンバー入りを果たした。まだ加入したばかりだが、プラズマ団に使われていた時代にレベルだけは多少上がっている。まだバトルの基礎が備わっていないためバトルには参加しない。おっとりした性格でムクホークとシロナのトリトドン、ロズレイドと仲が良い。育成途中のため得意技はまだない。3V


シロナ
カイムの師匠であり、カイムの人生を劇的に変えた人。得意な戦闘スタイルは、相手の一番強いスタイルを引き出した上でそれを上からねじ伏せていく魅せプレイ。攻撃、守り、絡め手もかなり高水準でまとまっているが故に可能なやり方。

カイム
努力する才能だけは誰よりもある凡人。戦闘スタイルは相手の能力を下げて勝利に繋がる一撃を探し求めるやり方(ブラッキーとムクホークメイン)と敵の攻撃を見切りつつ真正面から殴り合っていくやり方(バシャーモとルカリオメイン)のやり方を得意とする。前者はカイムに合ったやり方で、後者はシロナのスタイルを一部受け継ぎ自分でもできる形にしたもの。

スモモ
強さというものを理解せずにジムリーダーに上り詰めた天才。正々堂々とした真正面からの戦いを得意とする。多分修行から帰ってきたらカイムは勝てなくなってる。そして世話を焼かれる。


格闘タイプジムトレーナーでホウエン地方出身のカイムとフロンティアブレーンの見た目完全格闘少女のコゴミをどうにか絡ませたいなと思っている作者です。何気に格闘タイプメインの女性キャラってコゴミが初でしたね。

感想、評価は励みになるので良ければお願いします。

チャンピオンズトーナメントで戦う相手

  • ワタル
  • ダイゴ
  • ミクリ
  • アイリス
  • カルネ
  • ダンデ
  • レッド
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