ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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更新するたびに平均文字数が千文字増えてます。
読者の皆様に『長くてもいいよ!むしろばっちこい!』みたいなことを言ってくれる方々がいたので長さに関してはかなり好き勝手やってます。大目に見てほしいっす。今回も三万字超えです。

いつも感想、評価を下さる皆様。
ありがとうございます。励みになってます。
前回はちょっと重めだったので今回はまったり。

ダイゴ多めです。


17話 トクサネシティ

早朝

ミナモシティ砂浜

 

「悪いわね、シロナちゃん。こんな姉弟喧嘩に巻き込んで」

 

イサナがポケモンの入ったモンスターボールをぽんぽん手で弄びながらシロナに言った。

 

「大丈夫です。二人のバトルは、私も気になるので」

「………」

 

カイムはいつも通りの無表情だが、カイムの中での力の象徴とも言える姉と対峙していることに若干の緊張が顔に出ていた。

 

「ちょっと、あんたジムリーダーでしょ?アタシ程度相手にするのに緊張してんじゃないわよ」

「…ああ」

「ま、昔と違って加減してあげる必要も無さそうだし?久々のバトル、全力でやらせてもらうわ」

「当たり前だ。手加減されるほど落ちぶれちゃいねーよ」

「じゃあ、準備はいいですか?」

 

シロナの言葉にカイムとイサナは頷き互いにモンスターボールを持って向き合った。

 

「イサナさんが今の手持ちが二体なので、二対二の試合。道具の使用は無し。時間は無制限です」

「おっけー」

「ああ」

「じゃあ、試合開始!」

 

カイムはボールを先に投げて、ブラッキーを出した。

 

「一応現役だ。タイプアドバンテージくらいのハンデはやるよ」

「へえー、いうようになったじゃん。じゃ、遠慮なく。いくわよ、ゴリランダー!久々のバトルよ!」

 

イサナが繰り出したのはゴリランダー。草タイプのポケモンで、今回のバトルでカイムの使うポケモンはブラッキーとバシャーモ。バシャーモはタイプ相性が悪いため、ブラッキー相手にゴリランダーを出すのは妥当な判断だ。

 

「ゴリランダー、かわらわり!」

「サイコキネシスで止めろ」

 

振り下ろされた拳をブラッキーは止める。

だがブラッキーの特攻は高くない。元より防御寄りの育成を施しているためタイプ一致の技でなければ大した威力はない。レベル差によってダメージは入っているが、それも微々たるものだ。

 

「打ち破りな!」

 

イサナの声と共にゴリランダーはサイコキネシスを咆哮と共に破る。

 

「ドラムアタック!」

「左に3歩。すれ違い様にしっぺ返し」

 

ゴリランダーの攻撃はカイムの指示によって的確に回避され、ゴリランダーの身体にブラッキーの足が叩き込まれる。

 

「さすがジムリーダー。簡単にはいかないね」

「代理だ」

「同じ同じ。んじゃ、本気でいくよ!ゴリランダー、グラスフィールド!」

 

ゴリランダーの力が地面に広がり、草のフィールドが展開された。

 

(この野郎、本当にバトル引退してんのか?)

 

フィールド展開系の技を使うトレーナーは少ない。その主な理由としてフィールド展開系の技は多大な集中力が必要であり、加えて扱いが難しいからだ。フィールドを展開している間、ポケモンはそのフィールドを展開しながら他の技を出す必要があるため生半可な鍛え方では扱うことは不可能。それにそのフィールドを使った戦い方をちゃんと確立させないと足枷になりかねない。

 

(…姉貴なら不思議じゃないか)

 

真剣にやらなくても、真剣にやっている人以上の結果を出せてしまう人だ。凡人が努力して会得するものをイサナは片手間に終わらせる。それだけの才覚がある。

 

「ゴリランダー、剣の舞!」

「ブラッキー、のろい」

 

互いに能力上昇の技でステータスを上昇させるが、ゴリランダーの攻撃力はブラッキーの防御力の上をいく可能性がある。元々物理攻撃が得意なポケモンであるため、剣の舞の攻撃上昇はかなりの強みになる。

 

「ほらいくよ!ドラムアタック!」

 

ゴリランダーの攻撃がブラッキーにあたり、地面に叩きつけられる。

 

「騙し打ち!」

 

だが防御力を上昇させ、うまく直撃を避けたブラッキーはダメージで動けないふりをした状態から一転、素早い動きでゴリランダーに攻撃を直撃させた。

 

「うっそ今の食らってすぐ動く⁈」

「鍛え方が違えんだよ。不意打ち!」

 

騙し打ちのダメージから立ち直る前にブラッキーはゴリランダーの頭に不意打ちを放った。ギリギリで直撃は避けたが、ダメージは入り地面が僅かに抉れる。追撃としては十分だろう。

 

「そんなら〜もっかい剣の舞!」

 

ゴリランダーは剣の舞でさらに攻撃力を上昇させる。四段階も攻撃力を上昇させた状態ではさすがに防御力に自信のあるブラッキーでも耐えきれない。

 

「………」

 

だがカイムは動じない。寧ろこれによってカイムの勝ち筋が整った。

 

「考えてる余裕あんの?」

「ある」

「言ってくれんじゃん!ゴリランダー、かわらわり!」

 

ゴリランダーが迫り、ブラッキーに攻撃を仕掛けようとする。

カイムはフィールドの状況を素早く確認し、ブラッキーに指示を出す。

 

「3歩下がれ」

 

ブラッキーは指示通り3歩下がった。だがこの程度でゴリランダーから逃げられはしない。ブラッキーはのろいの影響で素早さも下がっているため避けきることは不可に近い。

ゴリランダーが踏み込みと共に大きな腕を振り下ろす。

 

「えっ⁈」

 

だがゴリランダーの腕はブラッキーの顔を僅かに掠っただけで当たらなかった。

何事かと足元に視線を向けると、先程ブラッキーが不意打ちの影響でえぐれた地面に足が取られていた。踏み込みの瞬間、抉れた地面に足を踏み込んだため狙いがズレてブラッキーへの攻撃が当たらなかった。

だがブラッキーの攻撃力では急所にでも当たらないとゴリランダーを落とせない。イサナはそう考えてすぐにゴリランダーの体勢を立て直させようとする。それはカイムもわかっていたが、その油断が命取りになった。

 

「イカサマ」

 

ブラッキーの技がゴリランダーに突き刺さる。咄嗟にゴリランダーはガードしたが、あまりの攻撃力の高さに吹き飛ばされイサナの目の前まで転がってきた。

 

「ゴリランダー!」

 

イサナがゴリランダーに駆け寄った時、既にゴリランダーの意識はなく目を回していた。ゴリランダーが意識をなくしたためグラスフィールドも解除される。

 

「お疲れ様、ゴリランダー」

 

ゴリランダーをボールに戻してイサナはカイムに視線を向けた。普段の可愛らしいブラッキーとはかなり雰囲気の異なるブラッキーといつも通り無表情のカイムが視界に入った。

 

「最後の技、イカサマね」

「ああ。相手の攻撃力を技の威力に換算して放つ技だ」

「なるほど…二回も剣の舞してんのをぼさっと見てたのはそういうことね。その前のかわらわりは狙ったの?」

「地面が抉れたのはたまたまだが、ブラッキーの歩幅とゴリランダーの攻撃の際の歩幅がうまいこと噛み合っていたから使ったにすぎん。あれがなければシャドーボールで威力を殺してから受け流させてた」

「つまり狙ったってことね」

 

イサナは苦笑しながらボールを腰のホルダーに収めた。最後に会った時よりも逞しくなっていると思っていたが、これほどまでになっているとは思っていなかった。

 

(…もう、子供の頃のカイムとは違うのね)

 

それがわかって嬉しいという気持ちと同時に少し寂しさを感じた。あのまだ純粋で弱々しくも歯を食いしばり泣きそうな目で努力するカイムはもういない。

 

(あーあ。ちゃんと話しておいて、もっと可愛がっておけばよかったな)

 

その寂しさを胸の内に抑え、イサナはポケモンを出した。

 

「強敵よ。お願い、サメハダー」

 

ボールからサメハダーが飛び出し、口を大きく開いた。このサメハダーはイサナが旅をしていた時から手持ちにいるサメハダーだ。故にゴリランダーと比較してレベルが高い。

 

「サメハダーか。じゃあこっちは…」

 

カイムはブラッキーを戻し、もう一つのボールからバシャーモを出した。

サメハダーは水・悪タイプ。バシャーモは炎・格闘タイプであるため互いに弱点を突ける状態になる。

 

「あら、わざわざタイプ相性不利にしてくれるの?」

「不利?互いに弱点突けるんだ。この程度で不利にはならん」

「物理寄りのバシャーモが鮫肌持ちのサメハダーに挑むなんて悪手じゃない?」

「かもな」

「生意気になっちゃって。じゃあいくよ!サメハダー、アクアジェット!」

 

サメハダーは水を噴出してバシャーモに突進していく。

それを正面から見据え、バシャーモは的確に回避し、サメハダーの背鰭を掴んで地面に叩きつけた。技として確立した行動ではないためダメージは小さいが、体勢を崩すには十分だ。

 

「マッハパンチ!」

 

バシャーモの拳がサメハダーに直撃する。格闘タイプの技はサメハダーには効果抜群であるため、大きなダメージが入った。

だが同時にサメハダーを攻撃した拳は鮫肌によって傷つき、ダメージが入る。直撃した瞬間、サメハダーが身体をずらして鮫肌の効果を少し増やしたため通常の鮫肌よりも効果が高くなっていた。

 

「レベル高いだけあるな。身体の使い方がうまい」

「三ヶ月でジム制覇したときからいるからね。単純なバトルの練度はゴリランダーよりもかなり高いわよ。その拳、もうまともに使えないでしょ」

 

イサナの言う通り、バシャーモの拳はボロボロになっておりとてもまともに使えるようには見えない。それだけうまくサメハダーが身体を使ってバシャーモを傷つけたということだ。

 

「かもな。バシャーモ、ニトロチャージ」

「アクアブレイク!」

 

炎を纏ったバシャーモと水を纏ったサメハダーがぶつかる。だがタイプ相性もあり、バシャーモはアクアブレイクに撃ち破られた。

レベル差はあるが、効果抜群の攻撃はダメージとしてはかなり大きい。

 

「追撃するよ。たきのぼり!」

「これはやべえ。バシャーモ、正面から受けるな。流してブレイズキック」

 

水を纏って突撃をしてくるサメハダーに傷ついた手の甲で触れたバシャーモは、流れる水のような滑らかさでサメハダーの力を利用して進行方向をずらし、その回転の力を使ってブレイズキックで蹴り上げた。

 

「うっそそっちの手使えんの?」

「そのままスカイアッパー」

「くるよ!サメハダー、水の波動!」

 

反撃が致命の一撃になると判断したカイムはスカイアッパーの体勢に入っていたバシャーモに瞬時に指示を変更する。

 

「中止!左に飛べ!」

 

バシャーモは振り上げようとした腕を無理やり止め、転がるように左に飛んだ。

 

「サメハダー、重力の力を利用してアクアブレイク!」

 

バシャーモが体勢を立て直す前に重力の力も利用して威力を上げたアクアブレイクがバシャーモに襲いかかる。

だがカイムとバシャーモは動じない。しっかりとサメハダーの軌道を把握し、的確なタイミングと場所に攻撃を加える瞬間を見極める。

 

「ガブリアスのドラゴンダイブの方が速い。お前なら見切れる。ブレイズキック」

 

バシャーモはサメハダーのアクアブレイクを見切り、ギリギリのところで回避して突っ込んできたサメハダーにブレイズキックを叩き込んだ。炎タイプの技であるため威力は半減だが、確かにダメージにはなる。同時に鮫肌でさらにダメージを負うが、続け様にカイムは指示を飛ばす。

 

「鬼火」

 

飛ばされたサメハダーに追撃として鬼火を放つ。火傷を負ったサメハダーは攻撃力が半減し、持ち前の高い攻撃力を発揮できなくなった。

だがこうなることをイサナは読んでいた。

 

「ジムリーダーなんだし、こんくらいやるわよね。サメハダー、アクアジェット」

 

水を噴出してバシャーモに迫る。だが攻撃力が半減した今、効果抜群技でも大したダメージにはならない。

それがわからないほどイサナがバトルに対する知識が無いはずがない。つまりこれは何か策があった上での攻撃。

 

「バシャーモ、何かあるぞ。下手に受けるな」

「そう、何かあるわよ!」

 

回避行動に移ろうとしたバシャーモをサメハダーは追尾して突っ込んできた。

 

「追尾⁈」

「こちとら一応チャンピオンロード踏破してんのよ!」

 

アクアジェットはかなりの速度が出る。そのため先制攻撃として使われることが多い。だが速すぎて制御できず直線にしか進めないというデメリットもある。これは神速にも言えることだが、先制攻撃として速度重視となるためそれの軌道を制御することは難しい。シロナのルカリオのように卓越した動体視力と鍛え上げられた肉体があれば可能だが、そこに至るまで鍛えるのは並大抵の努力では不可能。現にカイムのルカリオは完全には制御できていない。

アクアジェットは神速ほど制御は困難ではないが、ポケモンが指示を聞いてから進路を変えられるようになるためにはかなりの努力が必要。それをバトルにあまり興味のないイサナが平然とやるあたり、イサナの才覚の高さがわかる。

 

(すごいわね、イサナさんのサメハダー。あのタイミングで回避したバシャーモの動きを完全に読んでいた。並のトレーナーどころか、エリートトレーナーでもあそこまでの動きができるトレーナーは少ないわ)

 

シロナの目から見ても、とてもバトルを引退した人間には思えないほど的確で素早い指示だった。これほどまで動けるトレーナーとポケモンなら今前線に復帰しても大体のトレーナーなら勝てるだろうと思えるほどだ。

だがいくら天才といえども普段からバトルを生業としている人間との実力差は大きい。事実、ブラッキーはゴリランダーを苦戦することなく倒している。今もバシャーモ相手に善戦しているサメハダーだが、この程度でやられるほどヤワな鍛え方はしていない。

 

「止めろ。しんくうは」

 

しんくうはでアクアジェットの威力を軽減させ、突っ込んできたサメハダーをバシャーモは両腕で受け止めた。ダメージはあるが火傷によって半減した攻撃力ではバシャーモを仕留めきることはできなかった。

だがこれはイサナにとって予想通りの動き。

 

「まー止めるよね!」

「わかってたってか?」

「ジムリーダーのポケモンでしょ?威力半減の技くらい止めるでしょ。狙いはこっからよ!からげんき!」

 

止められたサメハダーはバシャーモに向かって暴れ回る。からげんきは火傷を負っている状態では威力が倍になる。さすがに倍の威力となればかなりのダメージになる。

 

「ニトロチャージ」

 

咄嗟の事態であったため見切りで回避することは不可能と瞬時に判断したカイムはニトロチャージで炎を身体に纏わせ、威力を軽減することを選んだ。バシャーモもそれに応じて炎を纏いサメハダーの攻撃を軽減、受け流すことを実行する。まだ防御の技術がルカリオほど熟達していないバシャーモでは完全に受け流したりすることはできず少なからずダメージはある。だがこれほどの攻撃を受けてなお立っていられる事実に、イサナは成長を感じずにはいられなかった。

 

(成長したわね)

 

ジムバッジを制覇してからも一度バトルしたが、ブラッキーはともかくバシャーモは脳筋もいいところだった。突っ込んで攻撃するしかしてない頃と比べ、相当修練を積んだことがわかる。

 

(攻撃は上手かったけど防御はド下手だったもんね)

 

今もなおダメージを最小限に抑えつつサメハダーを捌くバシャーモを見てイサナはそう思った。

 

「バシャーモ」

 

一瞬の隙ができた瞬間、カイムの掛け声と共にバシャーモはサメハダーに拳を振り下ろし動きを止める。

 

「水の波導!」

「インファイト」

 

サメハダーが水の波導を出した瞬間、水の波導を打ち破ってバシャーモは拳を連続で叩きつける。悪タイプを持つサメハダーに格闘タイプの技は効果抜群。元々ダメージのあったサメハダーが耐えられるはずもなく、吹き飛ばされたサメハダーは目を回してダウンしていた。

 

「サメハダー、戦闘不能。このバトル、カイムの勝ち」

「あー、負けたわ〜」

 

朗らかに笑いながらイサナは砂浜に尻餅をつく。そして倒れたサメハダーの頭をポンポンと軽く叩いた。それで意識を取り戻したサメハダーはやれやれといった様子でため息をついた。バシャーモはバシャーモでかなりギリギリであったため、疲れたようにその場に座り込んだ。

 

「すっかり強くなっちゃって」

「まあ、な。一応、ジムリーダーなんでな」

「最後にやった時と比べて随分強くなったわねえ。いやーもう勝てそうにないわ。驚いちゃった」

 

イサナは手を抜くことなくちゃんと今出せる全力でカイムと戦った。だがそれでも歯が立たないというほどではないにしろしっかり負けた。現時点で何度挑もうがカイムに勝つことはできないだろう。

 

「そりゃこっちのセリフだっての。本当にバトルから退いた人間かよ。エリートトレーナーレベルは普通にあったぞ」

「えーそう?さすがに買い被りじゃない?」

「いいえ、そんなことないです。イサナさんのポケモンとイサナさんの指示は、並のトレーナーより遥かに卓越したものでした」

「チャンピオンがそう言うなら、そうなんかもね〜」

 

苦笑しながらイサナはサメハダーとゴリランダーに治療を施した。その手つきは手慣れておりバトルを生業にしているトレーナーと遜色ないほどだった。

 

「治療、手慣れてますね」

「んーそう?普通じゃない?」

「姉貴の普通は大抵の人にとってはすごいことなんだよ」

「そっか、そうかもね。あ、ブラッキーとバシャーモもおいで。治療したげる」

 

イサナの言葉にブラッキーは反応してイサナの元へと駆け寄る。バシャーモもそれに続いてイサナの元へと歩いていった。

 

「二人とも強くなったねー。アタシは嬉しいよ」

 

ブラッキーとバシャーモをわしゃわしゃと撫でながらイサナは二匹に治療を施す。ブラッキーとバシャーモはイサナのことは知っているため大人しく治療されており、ブラッキーに至ってはイサナに少し甘えている。

 

「もう、まだ甘えん坊なんかあんたは」

「ずっとだ」

「強くなっても、根っこは変わらないもんだね」

 

からからと笑いながらイサナは二匹の治療を終わらせた。

 

「よし、終わり」

「助かる」

「いーのいーの」

 

イサナはブラッキーを抱きしめてわしわしと撫でる。ひとしきり撫でて満足したのかブラッキーを解放するとイサナはカイムに視線を向けた。

 

「ね、カイム」

「ん?」

「あんた、今のバトルどうだった?」

「そうだな…正直、バトルから退いた人間には思えないほどいい動きだった。姉貴が相手ってことで俺もちと警戒しすぎてたが…」

「あー違う違う。そうじゃないって」

 

イサナは苦笑しながらカイムの言葉を遮り、ブラッキーを砂浜に下ろした。

 

「今のバトルしながら、あんたはどう思ってたのって話よ」

「どうって…」

「昔のあんたはさ、バトルしてる時もただ必死でとても楽しくやってるようには見えなかったの。でも今はそんなこともなかったからさ、どうなのかなって」

 

シロナはカイムに対してずっと言っていたことがある。

 

 

『バトルを楽しめ』

 

 

どんなことも楽しくやれなければ絶対どこかで折れる。だから努力を続けたいなら、まずは楽しくやれるようになりなさいとシロナは日頃から言っていた。なぜそれをシロナが再三言っていたかというと、カイムがバトルに対して全く楽しさを感じていない状態でトレーニングをずっと行っていたからだ。

 

楽しむ余裕がなかった。だから楽しむことができなかった。だが今は相応の実力をつけた。だから今なら楽しめるのではないか、とカイムは考えて力の象徴のような存在であったイサナとバトルすれば変わった実感が得られるのではないかと思った。

 

「そう、だな」

 

カイムは砂浜を歩いて近寄ってきたブラッキーを抱き抱える。

そして一度シロナに視線を向けた後、イサナに目を向けて言った。

 

「…ああ、楽しかったよ」

 

ほんのわずかに口角を上げてカイムは言った。

それを見てイサナは歯を見せて笑う。

 

「はは!相変わらず表情は動かないけど、でもあんたがそうやって笑えているならアタシは安心だ。シロナちゃんのおかげね」

「そんな、私は…」

「いいや、シロナちゃんのおかげよ。この子がここまでなれたのも、貴女が出会ってカイムを導いてくれたから。そして、アタシ達姉弟をこうして引き合わせてくれたのも、偶然だとしてもシロナちゃんのおかげ。だから、とても感謝してるわ」

 

何にしてもシロナがいなければ今ここでカイムとイサナが向き合うという現在はなかった。カイムを変え、そしてここまで導いてくれたシロナにイサナは心からの感謝を送った。

だがそれはシロナにも言えることだった。

 

「…確かに、カイムをここまで強くしたのは私です。でも、今の私があるのもカイムのおかげなんです。カイムが私を支えてくれたから、今もチャンピオンと名乗ることができる。カイムがいなかったら、きっと今の私はチャンピオンとは名乗れなかった」

 

今年のポケモンリーグの決勝で戦ったヒカリは、そう思えるくらい強かった。カイムが支えてくれたおかげでシロナは更に強くなれた。この強さがなければヒカリには勝てなかったと、シロナは断言できる。

カイムを導いたのはシロナだ。だが同時にシロナを更に高みへと押し上げたのはカイムの支えがあったから。互いに形は違えど足りないところを補い合い、より上へと至ることができた。だからシロナはカイムに感謝している。

 

「そっか。よかったねカイム。こんないい子、そういないわよ?」

「…ああ」

「あら、やけに素直じゃん」

「ほっとけ」

 

砂浜に腰を下ろしたままのイサナに向けてカイムは手を出す。

イサナはその手を素直に掴み、カイムの手を借りて立ち上がった。

 

「姉貴」

「ん?」

 

砂を払ったイサナにカイムは言う。

 

「ありがとう。姉貴がいなかったら、俺はここには至れなかった」

「大袈裟よ」

「大袈裟じゃない。俺は姉貴っていう大きくて身近な『目標』がなかったら、きっと自分ができることしかやってなかった」

 

カイムは己が凡人であることに自覚的だ。弱さを認める、という面では大切ではあるが、カイムだけでは自分の限界値を自分で定め、そこで終わりにしていただろう。

だがイサナがいたため、カイムは自分の限界以上を求めるようになった。そしてそれがなければカイムはシロナには出会わなかっただろうし、出会ってたとしても認められはしなかっただろう。

 

「だから、ありがとう」

「…へへ、直接言われると照れるね」

「言わないと、だめだったんだ。俺も姉貴も。姉弟といっても結局は他人だから」

 

結局互いが互いに抱いている感情を誤解していただけだった。その誤解が解けずに気がつけば十五年近く経過していた。もっと早く向き合っていれば、きっとカイムがバトルに対して過剰な苦手意識を持つこともなく、イサナもカイムを結婚式に呼ぶことができただろう。

今更それを悔いても仕方ない。だからせめて、これからはいい関係でいようとイサナとカイムは考えた。

 

「そうね。うん…良かった」

 

にかっと笑ったイサナの顔に朝日が照らす。

 

「さ、帰ろ。そろそろお母さん達も起きてくるし」

「ああ」

 

イサナは先に歩き始め、シロナとカイムもそれに続いた。

 

「あ、そーだ。忘れる前に…」

 

急に足を止めたイサナは振り返り、二人に名刺を渡してきた。

 

「これは?」

「アタシの連絡先と、仕事用のメールアドレス。ユニフォーム以外にもスタイリング関連で頼みたいことあれば言って。アタシが直でできなくても知り合いとかウチの店の子に出張させるから」

「へえ。まあ頼むことはそうねえよ」

 

シンオウ地方はガラル地方とは異なりバトルの時にわざわざユニフォームを着る習慣はない。だからイサナがしているようなスタイリングとはそうそう縁はないだろう。

だがそのカイムの考えとは異なる解答をイサナは答えた。

 

「あら、そう?遠くない未来、あると思うけど?」

「え?」

 

イサナは怪しい笑みを浮かべるとシロナの元に近づき、耳元でカイムに聞こえないように言った。

 

「アタシ、ウェディングプランナーとかも兼業でやってるから。その時が来たらアタシを頼って。シンオウ地方でもオーレ地方でもどんなとこでも行くから」

「っ!」

 

顔を赤くしてイサナの顔を見ると、イサナはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。

 

「?」

 

そしてイサナの言葉が聞こえなかったカイムは疑問符を頭に浮かべているだけで事態を理解していない。自分は揶揄われたのにそんなことを知らずにきょとんとしているカイムが少しだけ憎らしくてシロナはカイムにデコピンを食らわせた。

 

「いてっ」

「もう、イサナさんったら!」

「姉貴への文句で、なんで俺に当たるんだよ」

「カイムは知らなくていいの〜」

 

カイムの意見は尤もだが、それを聞き入れる人間はここにはいない。

 

「はあ?なんでだよ」

「ほらほら帰るよ〜」

 

楽しそうに鼻歌を歌いながら歩き始めるイサナの背中をカイムは訳もわからず眺め、どういうことかを教えてほしいとシロナに視線で訴えたがシロナは答えることなく顔を赤くしたままイサナの後を追った。

 

「…なんなんだよ」

 

訳がわからず肩を落とすカイムを慰めるように足元のブラッキーがカイムの脚に頭をこすりつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イサナとのバトルを終え、朝食を済ませたシロナとカイムはミナモシティから船で数十分のところにある街、トクサネシティに訪れた。

 

船を降りて港を見渡すと、一人の男性が手を振っているのが目に入った。

 

「カイムー!」

「よ、久しぶりだな。ダイゴ」

 

男性の名はダイゴ。ホウエン地方の有名会社であるデボンコーポレーションの御曹司であり、同時にホウエン地方のチャンピオン。そしてカイムの親友でもある。

 

「急に帰ってくるなんていうから、びっくりしたよ」

「実際急に決まったことだから」

「そっか。でもまた会えて嬉しいよ。最後に会ったの、もう四年くらい前だろう?」

「俺が大学いる時だからな。もう少し早く帰れればよかったが、こっちも色々あるから。ああそうだ、紹介する必要はないだろうが一応紹介する」

 

仲良さげに話す二人を前にシロナは話に入ることができずにいた。そこでシロナのことを思い出したカイムは背後で静かにしていたシロナをダイゴに向けて紹介する。

 

「シンオウ地方チャンピオンのシロナ。俺の師匠」

「知ってるよ。それに、はじめましてでもないからね」

「ええ、そうね。かなり前にPWTのゲストとして呼ばれたから、はじめましてではないわね」

 

互いに好戦的な笑みを浮かべながら握手を交わす。

 

「随分、腕の立つトレーナーみたいですね」

「あら、チャンピオンにそう言われるのは嬉しいわね。貴方もそうみたいだけど」

「はは、そうですね。少なくとも今のホウエン地方ではボクが一番強くてすごいですから」

 

互いにすぐにでもバトルを始めそうな空気だったが、ダイゴはふっと笑い好戦的な空気を収めた。

 

「ここで立ち話もアレですから、ボクの家に来ませんか?大したおもてなしもできませんけどここよりは落ち着いて話せると思います」

「ええ、ダイゴ君さえよければ」

「じゃあご案内します」

 

ダイゴは二人を連れて自宅へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイゴの家は普通の一軒家だったが、ものが少なく簡素なものだった。だがリビングには石マニアのダイゴらしくコレクションした石を飾るショーケースが置かれていた。

 

「相変わらず簡素な部屋だ」

「はは…趣味が石集めとバトルくらいだからね。バトルが仕事にもなってるし、どうしてもものが増えなくて。というか、そういうカイムの部屋はどうなんだよ。キミのことだし、シンプルな部屋なんじゃないか?」

「……まあ、そうだな」

 

実際カイムの部屋もかなり質素だ。部屋にあるのはベッドと机と本棚、あとはデスクトップPCくらいだ。簡素な度合いでいえば、正直二人とも大差ない。

 

「カイムの部屋、質素だもんね」

「おめーはもう少し部屋を片付けろ。研究室毎度毎度恐ろしいことにしやがって」

「ごめんね」

「ははは!仲が良いんですね!」

 

ダイゴは笑いながら二人にお茶を出した。シロナとカイムの関係が助手であると同時に恋仲であることはダイゴはすでに知っている。そのため二人の仲の良さに違和感を感じることもない。そもそも恋仲になる前から二人が同棲してとても仲良くしていたことは知っていたからなにも不思議なことはない。

 

「ありがとう」

「悪いな」

「いや、構わないよ。この程度のもてなししかできなくて悪いね」

 

ダイゴはお茶を一口飲むと、話を切り出した。

 

「色々と雑談したいところだけど、まずはカイムの頼み事を済ませようか」

「助かる」

「頼み事…ああ、メタグロスの件ね」

 

カイムは手持ちの最後の一体をメタグロスにしようと考えていた。そこで手持ちにメタグロスがおり、なおかつトップトレーナーであるダイゴにメタグロスの進化前、メタングかダンバルが捕まえられないか頼んでいた。シロナも事前にそのことを聞いていたためすぐに合点がいった。

 

「実はこの前、流星の滝に行った時に偶然メタングと遭遇してね。捕獲しておいたよ」

「え、マジ?わざわざ捕獲までしてもらうなんて…悪い。手間取らせたな」

「構わないよ。それで、これがそのモンスターボールだ」

 

ダイゴはショーケースの中に入っていたボールをカイムの前に置いた。カイムはボールを受け取るとすぐにボールからメタングを出した。

 

「このメタング、結構上昇志向が強くてね。でもボクの手持ちにはもうメタグロスがいるから、強くなりたいならおすすめのトレーナーがいるってことを話したら、会って決めるって」

 

実際に話したわけではないだろうが、とりあえずメタングはカイムを見てから決めるということを了承したらしい。

 

「俺がおすすめのトレーナー?」

「ボクから見たら、おすすめできるトレーナーだよ」

「チャンピオンから勧められるたぁ光栄なこった」

 

メタングはカイムの周辺をふわふわと浮きながらカイムのことを観察しており、カイムのそのメタングに対して真っ直ぐに視線を向けていた。

そしてカイムの正面で止まると、メタングはダイゴに視線を向けた。このメタングはダイゴに勝負を挑んでボロクソに負けたことをジェスチャーで伝えてきた。だから勝てるとまでは言わなくとも、もっと食らいつけるようになりたい。そういう熱意がメタングから伝わってくる。

 

「…お前、ダイゴと勝負できるようになりたいのか」

 

カイムの言葉にメタングは頷く。

見たところ、メタングはあまりバトルの才能はない。ムクホークと同レベル程度の個体値だろうか。ダイゴのメタグロスの才能は、正直ブラッキー以上。故に普通にやれば、まず勝てる見込みはない。それにダイゴとカイムでは、トレーナーとしての腕は相当違う。

 

「お前、自分の才能のレベルわかってる?」

 

メタングは頷く。自分に戦う才能がないことくらい自覚しているが、圧倒的な力を見せられ、それに憧れてしまった。同じ種族でありながらここまで違う。ならせめて、それに近づきたいとメタングは思った。

 

「そっか…なら、とりあえずお試しで一緒にやってみよう。それでお前が俺と合うって思えたら、俺の手持ちに加われよ。合わないって思うんなら別のとこに行けばいい。それでどうだ」

 

いくらシロナに鍛えられたとはいえ、カイム自身は凡才。強くはなれてもトップにはなれない。

カイムはメタングがどうしてダイゴに勝ちたいと思ったのか、その詳細はわからない。そしてメタング単体の個体値を鑑みると、まずダイゴに勝つことはできない。カイム自身が最大限に腕を高めても、恐らくこのメタングだけではダイゴに勝つことはできないだろう。

だからまずはお試しで互いを知ってからにしようとカイムは提案した。カイムは確かに上を目指しているが、トップの器ではないことくらい自覚している。先刻の姉、イサナとのバトルで勝利したことでカイムの心の奥底にある自信の無さも無くなった。だがだからといってメタングとの相性がどうかはわからない。そこでお試しで手持ちに加わることをカイムは提案した。

 

メタングはそのカイムの意図を知ってか知らずかはわからないが、その提案を受け入れて頷いた。

 

「そっか。じゃあよろしく」

 

カイムはメタングに手を差し出し、メタングはそれに応えた。

現時点では仮だが、カイムの手持ちの最後の一体が加わり、パーティが完成した。

 

「うん、話はまとまったみたいだね」

「きっとカイムのこと気に入ると思うわ」

「そもそもカイムはポケモンに好かれやすい。腕がついてくれば、間違いなくいいトレーナーになれる」

「大丈夫よ。カイムは既にいいトレーナーになれてるから」

 

シロナの言葉を聞いてダイゴは思い出したように指を鳴らしてカイムを見た。

 

「ああそっか!もうカイムはジムリーダーになったんだったね。どうしても昔の印象が強くて」

 

ダイゴの中ではどうしてもバトルが拙いカイムのイメージが強いため、カイムのことを未熟に思いがちだった。連絡は取っていたが、カイムがシロナと出会ってからは直接会う機会がなかったため、そのイメージが消えてないのも無理はない。

 

「とりあえずよろしくな、メタング」

 

カイムの言葉にメタングは頷き、そして知らぬ間にボールから出ていたブラッキーとなにかコミュニケーションを取り始めた。

 

「はは!相変わらずなんだね、ブラッキーは」

「まあな」

「うん、ジムリーダーになってもカイムはカイムだね。安心したよ」

 

ダイゴは相変わらず素っ気ない返しにどこか安心感を覚えた。

カイムはダイゴに向き直ると、カバンを開いてその中を漁った。

 

「ん?どうしたんだい?」

「今回の礼だ。ミクリさんに話をつけてくれたことと、メタングのこと。色々と世話になったからその礼を持ってきたんだ」

 

カイムはカバンの中から拳大程度のサイズの物体を取り出した。それは三つあり、全て新聞紙に包まれている。

 

「これは?」

「お前の趣味に合わせたものだ」

 

カイムは新聞紙を取り、包まれていた綿を取り除くと、中からは薄い水色と薄い桃色、そして僅かに金色に輝く石が出てきた。

 

「こ、これは…!」

「金剛玉と白玉、あと白金玉だ」

「すごい!ホウエン地方じゃ取れない石だ!」

 

ダイゴは手袋をつけると石を観察し始めた。夢中で観察を続けるダイゴを目の前に、シロナは小声でカイムに聞いた。

 

「ねえ、カイム…これどこで手に入れたの?」

 

金剛玉、白玉、白金玉は伝説ではディアルガ、パルキア、ギラティナを象徴する石だ。一説によると、テンガン山にその三体を呼び出す時の触媒になるというものがあるが、当然その触媒になる石はディアルガ、パルキア、ギラティナの加護を受けた非常に純度の高い石でなければならない。

カイムがダイゴに渡した石は当然触媒には成り得ない。シンオウ地方では金剛玉、白玉、白金玉が採集できるが、それらは基本純度が低く加護も受けてないため触媒にはなれない。とは言っても、他に採集できる玉と比べたら価値は高い。だからシロナはカイムはいつの間にとってきたのだろうと疑問に思い聞いた。

 

「ヒョウタと一緒に掘った」

「ヒョウタって、ジムリーダーの?」

「ああ。代理になってからちと話す機会があってな。シロナが学会でアラモスタウンに行っている間に掘った」

「私が学会に行っている間にそんなことしてたのね…」

 

サザナミタウンで最後の一体をメタグロスにすることは決めていた。だから先んじてダイゴにもしいたらでいいから、と頼んでおいたのだ。しかしいくら親友といえど頼むだけでは心苦しいため、ヒョウタに頼んで地下での採掘をさせてもらっていた。ジムが終わった後の夜にやっていたため、慣れていないカイムには中々ハードだったが無事に目的の石を採掘できた。

 

「すごいな…この金剛玉系統の石はどういうわけか、採掘はシンオウ地方でしかできない。ボクも興味はあったんだけど、中々シンオウ地方に行く機会がなくて手に入らなかったんだ。まさかカイムが持ってきてくれるなんて」

「色々と世話になった。このくらいどうってことない」

「いやいや、世話になってたのはボクの方だ(・・・・・)。それを考えたら、キミからの頼み事に応えるのは当然さ」

「さてな」

「それにしても、採掘するの大変だったんじゃないか?これ、結構貴重だよね?見たところかなり純度も高いみたいだし」

 

カイムが持ってきた玉は全てそこそこの大きさで比較的純度も高いものだったためとても綺麗だった。このサイズと純度はそうそう出てこないとダイゴは知っていたためカイムにそう言った。

 

「苦労はした。俺はダイゴと違って採掘なんてしたことなかったからな。でもいい指導者がいて、運もよかった。俺がすごいわけじゃない」

 

ヒョウタに『採掘をしたい』と言ったらとてもやる気を出して非常に親身になって指導してくれた。ヒョウタは『趣味だから』と言っていたが相当いい指導をしてくれたように思う。運が良かったこともあるが、そのおかげでこうしてダイゴへの礼ができたのでとても感謝している。

 

「シンオウ地方は地下の坑道が発達してるからね。採掘が趣味のボクからしたら、とても羨ましい環境だよ」

「いつか来ればいい。その時は泊めてやる」

「いやいや、お二人の空間を邪魔しに行くほど野暮じゃないよ」

「阿呆。いらん気を使うな」

「冗談さ。もし行く機会があれば、お世話になるよ」

 

ダイゴに弄られるとは思っていなかったカイムは僅かに眉を顰めるが、特に気にした様子もなくお茶を啜った。

 

「でも改めて考えるとすごいね」

「なにが」

「二人の地方のチャンピオンがこの場に集って、そこにさらにジムリーダーもいるなんて。下手な悪の組織なら壊滅させられそうだ」

 

笑いながら言っているが、実際かなり珍しい光景ではある。チャンピオンが同じ場所にいるということはそうあることではない。チャンピオン同士で交流、ということはほとんどないためチャンピオンは互いに名前を知っていても直接会ったことはないというパターンが多い。ごく稀にシロナとアイリスのような事例もあるが、それもかなり異例なものだ。

 

「一応シロナさんとはPWTでお会いしたことはありますが、話もあまりせずバトルもできませんでしたからね」

「そうね。あの時ダイゴ君はゲストだったし、私はたまたま近くにいたから見に行った程度だったから」

「次お会いしたら是非バトルしたいと思っていたんです」

 

ダイゴの身体から殺気のような気迫が放たれる。ダイゴもダイゴでかなりのバトル好きであるため強い相手を見つけるとつい挑発してバトルしたくなってしまう。

その気迫を受けてシロナは僅かに目を細め、シロナ自身も負けないくらい強い圧力を放つ。そしてそれに挟まれたカイムは遠い目をしながら突っ込む。

 

「気迫で挑発し合ってんじゃねーよバトル馬鹿共。やるなら外でやれ」

「ああ、ごめん。つい、ね」

「私は受けてもいいわよ。この子達はみんな、いつでもやれるから」

 

腰につけたモンスターボールを撫でながらシロナは言う。

ダイゴは一瞬だけ目を輝かせたが、すぐに首を振った。

 

「いや、今はいいです」

「あら、そう?」

 

シロナはこれだけ言えば乗ってくると思ったが、ダイゴは乗ってこなかった。意外に思っていたところにダイゴは続けて話す。

 

「そう遠くない未来にバトルする機会があるから、それまでお互い手の内を晒さないようにした方がいい」

「え?」

 

遠くない未来にバトルする機会があるとダイゴは言った。どういうことかわからずシロナはダイゴに聞き返す。

 

「どういうこと?」

「この前、ホウエン地方のポケモンリーグがあるサイユウシティに行ってきたんです。その時リーグ運営委員長から面白い話を聞きました」

「なにを聞いたんだ?」

「実は今、ポケモンリーグ運営委員とPWT運営委員が協力して大きな大会を開こうとしているんです。その大会のレベルは、これまでのポケモンリーグやPWTよりも遥かに高いものとなる」

 

そこまで聞いてシロナは一つの可能性を見出した。

 

「…まさか」

「さすがシロナさん。もう察したようですね」

「なんだよ。どういうことなんだ」

「まだ開催時期は未定ですが、その大会は確実に過去最大のものになる。大会のレベルも、過去例を見ないほどの高さになる。ここまで言えばどう?」

(規模と、レベル…?それらが過去最大…)

 

カイムは少しの間考えると、一つの答えにたどり着いた。

 

「おい、そんな大会あり得るのか?」

「だから二つの委員会が協力しているんだ。過去に例がない初の試みだからね」

「他の地方のジムリーダーを集めてやった大会ならあるけどね」

「やっぱり、その機会って…」

 

シロナの言葉にダイゴは好戦的な笑みを浮かべながら頷いた。

 

「そう。今度いくつかの地方のチャンピオンだけを集めて行われる大会…『チャンピオンズトーナメント』が開催される」

 

世界中からジムリーダーを集めて行われる『ワールドリーダーズトーナメント』であれば、過去に少ないながらも何度か開催されている。

だがチャンピオン、その地方最強のトレーナーを集めて行われる大会は未だかつてない。

 

「主催はPWT運営委員で行われるのよね」

「はい。リーグ運営委員と連携してやるみたいです」

「規模が恐ろしいことになりそうだ」

 

まず各地方のチャンピオンは大体相当数のファンがいる。そのチャンピオンが集まり戦うというのだからそれだけでチケットを取ろうとする者はかなりの数になる。

また、ファンだけでなくこれから名を挙げようと励んでいるトレーナー達も見にくるだろう。生でチャンピオン達の戦いを見る機会などそうそうありはしない。その機会を逃すようなヘマをするトレーナーはいない。

 

「そんな大会、私はまだ聞いてないんだけど…」

「そうでしょうね。まだやることと会場を決めた段階です。詳しい日程やどの地方のリーグが関わるのかもまだ決まっていませんから」

「でも会場は決めてるんだな」

「みたいだよ。誰が出るかはわからないけど、会場がなかったら話にならないしね」

「それでその会場って?」

「セキエイ高原。ポケモンリーグ本部です」

 

セキエイ高原。

ポケモンリーグ発祥の地であり、ポケモンリーグの本部がある高原。地方ごとに存在するポケモンリーグの中でも本部なだけあり、参加トレーナーの数は常にトップであり、同時に大会そのもののレベルも相当の高さになっている。故に名を挙げようとするトレーナーは誰でもこのセキエイ高原ポケモンリーグを一度は夢見る。

 

「セキエイ高原!すごい場所でやるのね」

「リーグ運営と協力するならこれくらいできてもおかしくは無いでしょうね」

「カントーでやるのか。ならあいつも…」

 

カイムの脳裏に赤い帽子を被った無口な少年の後ろ姿が過った。大学時代に滞在していたカントー地方で出会った少年。カイムが大学を卒業する年のポケモンリーグで圧倒的な力で決勝まで勝ち上がり、グリーンとの戦いに勝利してチャンピオンの座を勝ち取った。

今年のポケモンリーグには参加していなかったらしく、現在のチャンピオンはドラゴン使いのワタルになっている。だがカントー地方でやるのなら、きっとその少年も参加するだろう。

 

「あいつ?」

「レッド」

「そういえば、カイムはレッド君に会ったことがあるのよね」

「まだあの時は旅の途中だったみたいだがな」

 

当時のカイムはバトルから離れ、学業にのみ力を入れていたためわからなかったが、今思えばかなりの才能を秘めていた少年だということが今ならわかる。

 

「リビングレジェンドとまで言われるくらいだ。彼のバトルはボクも見たことがあるけど、凄まじかったよ。かなりちゃんとした対策をしないとボクでも一方的にやられかねない」

「ダイゴがそんなに言うなんてな」

「たしかにボクは自分の実力に自信を持っている。でも無敵だとは思っていない。一度勝てた人でも次やる時には負けることだってある。自信を持つことは大切だけど、自惚れることは違う。常に自分のことを客観視して、上を目指すための努力を怠らないようにしなければ、チャンピオンを続けるなんてできないからね」

「耳が痛い話だ」

 

ついこの前まで自信を持つことができずに壁に当たっていたカイムからすれば今のダイゴの話は少し刺さるものであった。結局それも強くなれた自分の強さを認めず、客観視することができなかったが故の壁だった。

 

「でもカイムは随分変わったよね。昔ほど卑屈じゃないみたいだし、ジムリーダーにまでなってる。なにかきっかけがあったのかい?」

「…ああ、まあ」

「そっか。キミがここまで強くなれたことが、友人として誇らしいよ」

「……そうか」

 

ダイゴの言葉にどう答えていいかわからず、カイムは腕を組んで視線を逸らした。その様子を見てダイゴはクスクスと笑う。

 

「本当にキミは昔から褒められることに慣れないね。素直に受け取ればいいのに」

「やかましい」

 

そっぽを向いたカイムの目の前にメタングとその上に乗るブラッキーが来た。メタングがカイムの手を引いて外に出ようとしている。

 

「ん、外行きたいのか。悪いダイゴ、ちと出てくる」

「うん、行っておいで」

「んじゃチャンピオン同士、テキトーに話しててくれ」

 

カイムはそれだけ言ってメタング達に連れていかれた。

残されたシロナとダイゴはその後ろ姿を見ながらつぶやく。

 

「相変わらずだなぁ。もう気に入られてる」

「やっぱり昔からポケモンによく好かれたの?」

 

シロナはカイムが旅をしていた時代のことをあまり知らない。カイムの両親から聞いた話はあくまで彼が家にいた時の話。旅では実際どんな風にしていたのかを知っているのはダイゴと本人くらいだろう。その当の本人はあまり自分の話をしないためこの機会にシロナはカイムのことを聞いてみようと考えた。

 

「そうですね…全てのポケモンではありませんけど、結構好かれてましたね。なんでかはボクもわかりませんが、ゲットすることはせず最後までブラッキーとバシャーモだけでバッジを制覇することに拘ってましたけど」

「確かに、カイムは出会った時に手持ちはブラッキーとバシャーモだけだったわ。その二匹だけでバッジを制覇したのよね」

「レベルを上げてゴリ押してただけみたいですけどね。二匹以上手持ちを増やさなかったのは、多分お姉さんに張り合ってたからだと思います。カイムのお姉さんは一つのジム戦は一匹だけで乗り切ってたらしいから」

「納得。本当にカイムは自分のこと話さないから」

 

だからこうして他者から聞くしか過去のカイムについて垣間見える瞬間はない。こうしてカイムのことを色々と知ることができただけでも、シロナとしてはこのトクサネシティに来た価値はあった。

 

「もう少し話してくれたらいいんだけど」

「はは、それはボクも思います。口下手なのはわかりますけど、ボクもカイムのことはもっと知りたいですから」

 

ダイゴは一口お茶を飲むとシロナに向き直る。

 

「どうです?ボクの知ってるカイムの昔話を教えるのでシロナさんもカイムの話を聞かせてくれませんか?」

「ええ、喜んで」

 

ダイゴの提案にシロナは快く乗った。

 

「じゃあまずボクからお話しましょう。そうだな…どこから聞きたいですか?」

「カイムとはどこで出会ったの?」

「出会ったのは…流星の滝です。採掘をしていて、疲れて寝落ちしている時にカイムに助けてもらいました」

「寝落っ…⁈」

 

洞窟で寝落ちする人間がいるとは思ってもおらずシロナは思わず変な声を出してしまった。

 

「いやあ、採掘は楽しくてついつい熱中しちゃうんです。それでふと集中力が切れると寝落ちする悪癖がありまして…」

「それじゃあ、初めて会った時は随分小言言われたんじゃない?」

「あはは!されましたされました!あの時の顔、今でも思い出せますよ。すっごく変なものを見る目をしてました」

 

目を覚ました時、目に入ったのは焚き火をしながらスープを作っているカイムの姿だった。カイムはダイゴが目を覚ましたのに気づくと、まず第一声が『お前は馬鹿なのか?』と言った。

 

「ふふ、カイムらしい」

「普通ならムッとするでしょうけど、ボクも自覚はあったから何も言えませんでしたけどね」

「そのあとはどうしたの?」

「ボディシートを渡してきて、そのあと小言を言われながらスープをもらいました」

「あー…昔からなのね」

 

あまりにもカイムらしい行動にシロナは少しだけ安心した。

 

「そのスープを飲みながらカイムと話して、仲良くなったって感じですね。聞けば言葉不足なところもありますけど、ちゃんと真摯に受け答えしてくれるんです。話を広げることもしてくれますから、仲良くなるのにそんなに時間はかかりませんでした」

「真面目よね〜そういうところ。なににでも真摯に向き合ってくれるから、こっちも応えたくなるのよね」

「はい。多分、ポケモンによく懐かれる要因の一つがそれでしょうね」

 

真面目だが、不器用で口下手。ちゃんと見てくれる相手からは好かれるが、残念ながら誰もがカイム相手に真摯に向き合っているわけではない。それ故に誤解されたり嫌われたりすることも多々あったが、シロナとダイゴはちゃんと向き合う人だったためカイムの人の良さを知ることができた。

 

「昔のカイムは、真面目だけどどうしても空回ってました。ポケモンの育て方もかなり変なやり方してましたし。それはシロナさんもわかっているんじゃないですか?」

「そうね…ポケモンは基本能力を向上させるトレーニングをするけど、その能力向上トレーニングも『限度』がある。その基礎能力の鍛え方が間違ってたものね」

 

ポケモンの育成は大体『得意な場所を伸ばす』ことが基本となる。例えばガブリアスは攻撃力と素早さが高いため、その二つの能力を重点的に鍛え、その後スタイルに合わせて他の能力を鍛える。能力値でどうにもできない場所は技術でカバーすることがほとんどである。

だがカイムは鍛える際に得意な部分ではなく、『種族値の低い部分を重点的に鍛えてオールラウンダーにする』ような鍛え方をしていた。だがそのやり方はロクなことにはならない。結局は器用貧乏に成り果てるのがオチだ。

 

「実際、私もカイムに最初に指導したのは基礎のやり直しだもの」

「でしょうね。ブラッキーもバシャーモも個体能力だけみれば悪くない。ちゃんと鍛えれば一流になれるくらいの素質はあったのに、それを活かしきれないような育成をしてましたから」

「不器用よね、本当に」

「昔のボクじゃちゃんとした指導はできなかった。あの時ボクにカイムを指導するだけの能力があればって今は思います」

 

大学に行くと聞いた時、少しだけダイゴはショックだった。ずっと頑張ってきたことを知っていたが、それでも諦めることをカイムが選ぶしかなかったことが少し悲しかった。ダイゴにカイムを指導する能力があればと悔やんだ。

 

「仕方ないことよ。その時の私にもきっと指導する力はなかった。当時はみんな子供だから自分のことしかわからないわよ」

「…ですね。はは、シロナさんと一つしか違わないのにな。カイムの指導をしてきただけあって、やっぱり言葉の説得力が違いますね」

「まだまだよ。今でも私生活はカイムに頼りっぱなしだもの」

「カイムが相手じゃ、誰でもだらしなくなりますよ。すごく几帳面だから」

「そうね」

 

尤も、シロナはカイムが相手でなくとも私生活は非常にだらしないが。

 

「もっと昔のカイムのこと、教えてくれる?」

「いいですよ。じゃあ次は…」

 

その後しばらく二人は過去のカイムについて話の花を咲かせていた。

なお、戻ってきていたが自分の話で盛り上がっている現場に入ることができず、ブラッキーとメタング、トリトドンと共に扉の前で座り込んでいたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

「ふう、ごちそうさま」

 

食べ終えた丼を台所に下げ、ダイゴは洗い物をしているカイムに言った。

 

「美味しかったよ」

「どーも。それよりお前、なんだあの冷蔵庫。なんもねえじゃん」

「ごめんって。普段あまり帰ってこれないから」

 

普段からチャンピオンとしての責務やデボンコーポレーションでの仕事、そして趣味の採掘とやることの多いダイゴはあまり家にいない。そのため冷蔵庫はほぼ空っぽであったため、カイムは小言を言った。

 

「冷食くらい突っ込んどけや。マジで空っぽじゃねえか」

「勘弁してよ、お母さん」

「誰がお母さんだ誰が」

 

顰め面をしながら小言を言うカイムにダイゴは笑う。

 

「ありがとうね、わざわざ昼食まで作ってもらって」

「はいはい」

「いいなあシロナさん、毎日カイムのご飯食べられるなんて」

「ふふ、いいでしょ」

「だからなんでシロナが誇らしげなんだよ」

 

何故か胸を張るシロナにカイムは苦笑する。

 

「さて、昼食が済んだとこで…二人に紹介したい人がいるんだ」

「私たちに?」

 

思い当たる人が全く思い浮かばず、シロナは首を傾げた。少なくともトクサネシティに二人が来ていることを伝えている人物はダイゴ以外にいないはずだ。

カイムが他に誰か伝えたのかもしれないと思い、視線をカイムに向けるがカイムは知らないというように首を横に振った。

 

「うん。ボク、結構ジムリーダーや四天王のみんなと連絡を取ってるんだ。それで今日、この話をしたら二人に会いたいって言う人がいたんだ」

「まあ、チャンピオンが来るなら会いたいだろうよ」

「キミにも会いたいって言ってたよ、カイム。キミのこと知ってるみたいだったし」

「物好きがいるな」

 

大会経験もないカイムのことを知っていて、しかも会いたいという物好きがいることにカイムは少々驚いた。

 

「で、それは誰?」

「トクサネジムのジムリーダー、フウとランだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トクサネジム

 

「フウ!ラン!」

「ダイゴさん!」

「お待ちしてました!」

 

ダイゴについていき、トクサネジムを訪れるとそっくりな顔をした双子、フウとランが出迎えた。

 

「カイム、シロナさん。紹介します。トクサネジムのジムリーダー、フウとランです」

「フウです」

「ランです」

「なるほどわからん」

 

あまりにも声と顔が似ているためどっちがどっちなのかわからずカイムは声を上げた。

 

「そっくりだもね。最初わからないのは仕方ないよ。青いボタンの方がフウでピンクのボタンの方がランだ」

 

よく見ると、二人は同じような服を着ているがボタンの色が異なる。ダイゴの言う通りなら、フウが青いボタンでランがピンクのボタンらしい。

 

「それでこちらはシンオウ地方チャンピオンのシロナさん」

「シロナよ。よろしくね」

「はじめまして!」

「お会いできて光栄です!」

 

元気に応えるフウとランが微笑ましくてシロナは思わず笑顔になった。その様子を見て、ダイゴは次にカイムを紹介する。

 

「こっちはカイム。トバリシティのジムリーダーだ」

「カイムだ。一応ジムリーダーだが、代理だから正式なものじゃない」

「ダイゴさんから聞いてます」

「代理だけどとても腕が立つって」

 

双子の言葉にカイムはダイゴをジト目で睨みつけた。カイムのジムリーダーとしての実力は現状そこまで高くはない。スモモに勝てたのは何度もバトルして、スモモの癖や弱点を知り尽くしていたからこそだった。初見の相手に限定すればカイムの実力はジムリーダーの中ではそこまで高くない。

だがそんなカイムの考えをダイゴは知ってか知らずか、平然としている。

 

「ダイゴ君から、私達に会いたかったってことを聞いたんだけど…」

「はい」

「あたしたち」

「ぼくたちのコンビネーションが」

「どこまで通じるか試したいんです」

 

双子はホウエン地方のジムリーダーの中で最年少。この年でジムリーダーになった以上、才能はかなりのものだろう。個々人の能力はもちろん、双子のコンビネーションはホウエン地方でかなり有名だ。

だから初見の強者相手にどこまで通じるか試したかった。ダイゴが相手でもかなりいい修行になるが、ダイゴとのバトルは何度かやっているためどうせなら初見の相手がいいと双子は考えた。

 

「ジムリーダーとチャンピオン」

「相手にとって不足はありません」

「シロナはともかく、なんで俺も?」

 

カイムはジムリーダーだが、所詮リーグに正式には認められていない代理。ジムリーダーの代理は瞬間的なものなら事例は多くある。カイムのように長期間代理を務める者は珍しいが、注目されるほどのものではないだろう。

 

「ダイゴさんから聞いたんです」

「カイムさんは、努力でジムリーダーまで上り詰めた人だって」

「自分でいうのはアレですけど…」

「あたしたち、才能はある方です」

「だから自分たちとは違う形で同じ場所まで上り詰めた人と」

「ダイゴさんの話を聞いて、戦ってみたいって思いました」

 

努力とは、正しく継続できれば才能を凌駕できることは今朝のイサナとのバトルでカイムは証明した。そのおかげでカイムは己の最大の壁を乗り越えることができ、それによりさらに腕に磨きがかかった。

そういう人間にフウとランは会ったことがなかった。まだ十年足らずしか生きておらず、トクサネシティからもあまり出たことがないため当たり前といえば当たり前だが、そういう努力で壁を乗り越える人と是非手合わせしてみたかったのだ。

 

「…そう、か」

「よかったじゃない」

「…………」

「カイムさん?」

「どうしたの?」

 

突如黙り込み苦い顔をするカイムに双子は不安そうに顔を覗き込むが、そんな双子にシロナは優しく声をかけた。

 

「気にしないで。照れてるだけだから」

「昔から困ったり照れたりすると黙り込むんだ」

「…うるせえ」

 

カイムは小さくため息をつくと、双子に向き直る。

 

「こちらとしても現役のジムリーダーにそう言ってもらえるのは光栄だ。だから手合わせすること自体は全く問題ないが…」

「なにかあるのかい?」

「俺、あんまダブルバトルしたことない」

 

今までやってきたバトルは基本シングルバトルだった。シロナに鍛えてもらったのも主にシングルバトルのトレーニングであるため、ダブルバトルの経験値は低い。基礎ができているためある程度対応は可能だが、それでもシングルバトルと比べたら実力は落ちる。

 

「そっか。でも確かに案外ダブルバトルする機会って少ないかもね」

「ああ。まあそれでもよければ相手するよ」

 

シロナは双子に視線を向ける。そしてその双子と向かい合うカイムに視線を移すと、いいことを思いつき声をあげた。

 

「じゃあ、タッグバトルにしない?」

「はあ?」

「フウ君とランちゃんは二人でバトルするんでしょ?なら私とカイムが組んでバトルするのでもいいんじゃないかしら」

「…俺、タッグバトルにいたっては初めてなんだが?」

「なにもできないほど軟弱な鍛え方はしてないはずよ。それに、私のやり方は熟知しているカイムなら合わせられるでしょ?」

 

実際、カイムは誰よりもシロナのバトルスタイルを理解している。シロナのバトルスタイルにおいて強い点と弱点、そしてどうサポートすればより強くなるかまで考えついている。だからシロナの言うように、このままタッグバトルをしても本人が思っている以上に動けるだろう。

そしてシロナにこう言われてはカイム自身、乗らない手はなかった。

 

「…わかったよ」

「決まりね。二人はそれでもいい?」

「願ってもないです」

「あたしたちのコンビネーションが」

「お二人の力を上回れることを」

「証明してみせます!」

 

双子はボールを構え、闘志を剥き出しにした。子供ながら纏う覇気の強さにカイムは少しだけ圧倒される。だがそのがの肩にシロナは優しく手を添えた。

 

「大丈夫」

 

その一言で気圧されていた感覚が消える。我ながら単純すぎるなと内心で苦笑しながらも、カイムは双子に視線を移して言う。

 

「コンビネーションに関してはそちらが先輩だ。胸を借りる思いでいかせてもらう」

 

胸を借りる、と言いつつも負ける気は全くしない。シロナが相手ならともかく、今は相方。なら負ける道理はないと、カイムの目はそう言っていた。

そんなカイムの様子を見てダイゴはとても嬉しく思った。

 

(もう弱さを嫌うキミじゃないんだね、カイム)

 

フィールドに移動するカイムの背中を見て、ダイゴは逞しくなった友人がとても誇らしく思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タッグバトルで各自使用ポケモンは一体。道具の使用は無しのルールで行います」

 

フィールドを挟んでシロナとカイムは双子と向き合う。各自ボールを一つ手に取り構えた。

 

「それでは、はじめ!」

 

審判の掛け声と共に全員が一斉にボールをフィールドに向かって投げた。

 

「いけ、ソルロック!」

「いって、ルナトーン!」

「お願い、グレイシア」

「任せた、ブラッキー」

 

各自のポケモンがフィールドに現れる。それぞれ進化系統や象徴するものなど、関わりがあるポケモンだった。

 

「いくよ、ラン!」

「任せて、フウ!ルナトーン、いわなだれ!」

 

ランの指示でルナトーンは無数の岩石をブラッキーとグレイシアの頭上から降らせた。グレイシアに岩タイプの技は効果抜群。比較的グレイシアの防御種族値は高いが、ブラッキーと比較して耐久性は低い。

 

「グレイシア、左に回避」

「ブラッキー、後ろだ」

 

二匹は互いに異なる方向に移動することでいわなだれを回避した。いわなだれによる土煙が視界を遮るが、その土煙を破ってソルロックがグレイシアに攻撃を仕掛ける。

 

「アイアンヘッド!」

 

グレイシアは回避しない(・・・)。入った、とフウは確信したが、グレイシアの背後から飛び出してくる黒い影の存在にその確信は破られる。

 

「不意打ち」

 

ソルロックのアイアンヘッドとブラッキーの不意打ちがぶつかり合い、互いに弾かれる。

 

「さすがに読まれたね」

「このくらいの不意打ちじゃダメージにはならないね」

 

フウとランとしてもこのくらいなら破られると予想していた。むしろこの程度防げないようなら、ジムリーダーとして力不足とまで考えている。

シロナとカイムとしてもこのくらいの不意打ちはやってくるだろうと予想はしていた。だがカイムはあの場面でグレイシアが回避しないことに一瞬肝を冷やした。

 

「おい」

「なに?」

「回避、できたよな」

「ええ」

「このやろう」

 

軽口を叩きつつ、向き直る。

ソルロックはルナトーンの前に立ち塞がり、攻撃体勢に入った。

 

「グレイシア、バリアー」

「ソルロック、ストーンエッジ!」

「不意打ち!」

 

ストーンエッジを阻止するためにブラッキーはソルロックに腕を振り下ろそうとするが、ソルロックの目の前に現れた壁に遮られる。

 

(リフレクターか!)

 

ソルロックの背後に控えてきたルナトーンがリフレクターでブラッキーを遮った。

その隙に地面から突き出してきたストーンエッジがブラッキーを襲う。

 

「ブラッキー!」

 

ブラッキーのダメージは少なくないが、元より耐久性は随一であるため問題ないとでも言うように立ち上がり鳴き声を上げた。

 

「よし…」

「今の動きは悪手だったわね。後ろでどう見ても意図的に控えていたでしょ?」

「…ああ、そうだな」

 

バトルをしながらも試されている。悪手だと言われるまで気づかなかった。至らないことがまだ多いことにカイムは顔を顰める。

実際、一対一での腕は上がったが、まだ処理能力が追いつかない。

 

(相手が多いと、頭が追いつかないな…さてどう乗り切るか)

 

ブラッキーの技と残り体力、グレイシアの行動と敵の行動。それらを全て考慮した動きをする必要がある。

無論それを待ってくれるような相手ではない。

 

「ルナトーン、げんしのちから!」

「ブラッキー、サイコキネシス」

 

投げつけられた岩石の軌道を念力で逸らした。

そこでルナトーンの隣にいるソルロックが炎を纏うのをカイムは視界の端に捉えた。

 

「やべ」

「フレアドライブ!」

「カイム、グレイシアに合わせて」

 

咄嗟のシロナの言葉にカイムは頷いた。

 

「グレイシア、冷凍ビーム!」

 

グレイシアの冷凍ビームがソルロックに直撃するが、フレアドライブに打ち破られる。タイプ相性的に打ち破られるのは自明だが、カイムはその冷凍ビームによってソルロックの回転が僅かに遅くなったのがわかった。

 

「シャドーボール!」

 

勢いが衰えたところにブラッキーのシャドーボールが直撃し、大きなダメージを与える。フレアドライブの炎に威力が軽減されているが、効果抜群の技のダメージは大きい。

 

「氷の礫!」

「バークアウト!」

 

グレイシアの氷の礫を回避した先に向かってブラッキーはバークアウトを放つ。素早さが高くないルナトーンはバークアウトを回避しきれずダメージを受ける。

 

「いわなだれ!」

「冷凍ビームで壁を作りなさい」

 

ダメージを受けなかったソルロックがいわなだれで攻撃してくるが、落ちてくる岩を冷凍ビームで凍らせて壁を作り攻撃を防ぐ。

ブラッキーは形成された氷の壁を飛ぶように登り、ソルロックの頭上に飛び上がった。

 

「ルナトーン、ブラッキーにパワージェム!」

 

何かある、と瞬時に察したランはブラッキーに追撃をすることでその企みを阻止しようと考えた。

 

「のろい」

 

放たれた岩の弾丸をブラッキーは肉体を強化することでダメージを抑える。パワージェムを受けながらも落下してくるブラッキーに対して攻撃しようとしたところで、グレイシアから攻撃が放たれた。

 

「氷の礫」

 

技の出が早い分、威力は低く足止めには不十分だった。ルナトーンの動きは封じたが、ソルロックは動けたためソルロックの攻撃がブラッキーに襲いかかる。

 

「ソルロック、ストーンエッジ!」

 

地面から突き出してきた岩石が再びブラッキーを襲う。

だがその岩石がブラッキーを貫くことはなかった。グレイシアのスピードスターがストーンエッジを削り、ブラッキーがギリギリで回避できる隙間を作り出したからだ。

 

「しっぺ返し」

 

ストーンエッジを回避したブラッキーはソルロックに向けて足を振り下ろす。悪タイプの技はソルロックに効果抜群であり、ブラッキーは攻撃が一段階上昇している。元のダメージもあったため、ソルロックはそのままダウンした。

 

「ソルロック!」

「まだ終わってないわよ。冷凍ビーム」

 

残されたルナトーンに向けて冷凍ビームが放たれる。ルナトーンは冷凍ビームに対してパワージェムを放つことで相殺したが、その煙の中からブラッキーが飛び出してきた。

 

「不意打ち」

「ムーンフォース!」

 

ブラッキーの不意打ちは命中したが、ルナトーンのムーンフォースがブラッキーに直撃した。互いに効果抜群だが、お互いの攻撃によって互いの攻撃の威力が軽減したためブラッキーもルナトーンもギリギリ体力が残った。

 

「氷の礫」

 

グレイシアの氷の礫がルナトーンに迫るが、ルナトーンはリフレクターで威力を半減させ、さらには直撃を避けた。

ランはすぐに体勢を立て直そうとするが、先程まで近くにいたブラッキーの姿がどこにも見当たらない。

だがそこでソルロックのストーンエッジの残骸の陰から黒い姿のポケモンが姿を現した。まずい、と思った時にはもう手遅れだった。

 

「騙し打ち」

 

ブラッキーの攻撃がルナトーンに直撃し、大きなダメージを与えてた。ブラッキーの攻撃で吹き飛ばされたルナトーンはフィールドを転がり、ランの目の前で止まった。ルナトーンは目を回して戦闘不能に陥っており、この瞬間バトルの勝者が決まった。

 

「ソルロック、ルナトーン、共に戦闘不能!よって勝者、シロナカイムペア!」

 

審判の声にカイムは大きく息を吐いた。

そんなカイムにシロナは軽く肩を叩いて笑いかける。カイムもそれに応えるように小さく笑い、シロナが掲げた手を叩きハイタッチを交わした。

 

そんな二人の様子をダイゴは客席から楽しそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食後、カイムは一人でトクサネ宇宙センターの前にいた。当然一般公開時間は終わっているため、外で眺めているだけだが。

 

「こんな所にいたのか、カイム」

 

声をかけられて振り返ると、普段と比べてラフな格好をしたダイゴが歩いてきていた。

 

「悪い、探させたか」

「探したってほどでもないから大丈夫さ」

 

ダイゴはカイムの側で浮かぶメタングに目を向けた。

 

「どう?メタングとはうまくやれそう?」

「まあ、現時点ではな。こいつ、俺にちょっと似てるんだ」

「カイムに?」

「クソ真面目な凡人のくせに、向上心だけは人一倍なとこ」

 

メタングは食事をくれるカイムにいちいち頭を下げたり、食器を片すのを手伝ったりと相当真面目なのがわかる。

バトルの才能自体は凡才もいいところだが、それを本人が自覚しており、加えて目標だけはかなり高い。カイムからしたら、かつての自分を見ているようで放っておけなくなるような存在だった。

 

「そっか。なににしても上手くやれそうなんだね」

「まあな」

「よかった。紹介したのボクだから、うまくやれなかったらどうしようってちょっと思ってたよ」

「そこはお前の預かり知らぬ所だろうが」

「それもそっか」

 

ダイゴが笑うと、カイムも小さく笑った。

 

「それにしても、どうして宇宙センターに?」

 

カイムは学者だが、あくまで専門は歴史。宇宙や化学といった分野は専門外のはずだ。

 

「せっかくあるんだ。どんなものか見ておきたかった」

「ああ、なるほど。そうないもんね、宇宙センターなんて」

「少なくとも、シンオウにはない」

「一応カイムはホウエン地方出身だよね?」

 

まるでシンオウ地方出身のようなカイムの言葉にダイゴは思わず突っ込んでしまった。少なくとも過ごした時間はホウエン地方の方が多いはずだ。

 

「ミナモシティみて思ったよ。俺が大学行っている間に、故郷も含めていろんなものが変わった。なんだかんだで五年近くホウエン地方から離れていて、その間帰ってくることもなかったから」

「それもそうか。そう考えると随分長く離れていたんだね」

「家族との距離感も微妙だったから」

 

今でこそ良好な関係だが、姉とナダの距離が微妙だったせいでカイムもナダとの関係が微妙だった時期があった。大学入学前には良好になったが、家に帰ることになんとなく抵抗を覚えてしまった。

 

「そう言ってたね」

「ダイゴは家族とどうなんだ?」

「ボク?ボクは普通だよ。いずれ親父の跡を継ぐ勉強もしてるしね。とはいっても、親父もまだまだ元気だからボクがデボンの社長になるのはまだ先だろうね」

「そうか」

 

メタングを撫でながらカイムは言った。撫でられたメタングはあまり反応を示さないが、気持ちよさそうに目を細めていた。

 

「シロナは?」

「今お風呂入ってるよ。それで暇だったからキミと話してみようと思ってたんだけど、いなかったから探しにきたんだ」

「そうか。悪い」

 

カイムは宇宙センターに背を向けて歩き始め、ダイゴもその横に並んだ。

 

「しかし、あのカイムがジムリーダーかぁ。すごいなあ」

「んだよ。ガラじゃねえのくらいわかってら」

「違うって。まあ確かにリーダーってガラじゃないのはわかるけど、向いてないとは思わないんだ。キミは誰に対しても面倒見がいい。だから若いトレーナー達を試す立場のジムリーダーは結構合うと思うんだよね」

「…とりあえず、俺=面倒見の鬼って認識やめね?」

「事実じゃないか。その認識を改めるのは無理だって」

「…好きでやってるわけじゃねえ」

 

むすっとしながら呟くカイムを見て変わらないな、とダイゴは内心で思った。

 

「あ」

「ん?」

 

ダイゴは突然足を止めた。何事かとダイゴの視線を追うと、月に照らされた海があった。

 

「今日は良く見える」

「ブラッキーが喜びそうだ」

 

カイムはボールからブラッキーを出した。

ブラッキーはぷるぷると頭を振ると、月を見上げた。

 

「少し話していかないか」

「うん。いいよ」

 

二人は海岸に寄ると、崖側に腰を下ろした。ブラッキーはカイムの隣に座り、メタングもそのすぐ側で浮きながら月を見上げた。

 

「懐かしいね。キミと一緒に旅してた時もたまにこうして月を見たね」

「もう十年以上前か」

「そうだね。ボクは趣味と修行の旅、キミはバッジ制覇の旅だったっけ」

「ああ」

 

少しの間、カイムとダイゴは共に旅をしていた。ダイゴは趣味の石集めをしながら修行をしていた。流星の滝で意気投合して以来、しばらく行動を共にしており、結局三、四ヶ月くらい一緒に旅をした。

 

「あのジム戦にすっごく苦戦してたカイムが今やジムリーダーか。時の流れを感じるよ」

「うるせえ。そんなに意外かよ」

「そりゃもちろん。ポケモンの能力をどう伸ばすかですっごい的外れなことしてたんだから」

「…あー、まあ…そうだな」

「ボクからしたらとても驚きだよ。でも師匠がシロナさんだから納得。厳しく鍛えられたんじゃない?」

「そりゃもちろん。阿呆ほど厳しくされたわ」

 

優しくしない、とは言われていたが想像以上に厳しくされたのも記憶に新しい。事あるごとに正論パンチでボコボコに詰められたことを思い出し、カイムは少しだけげんなりした。

 

「でも、その厳しさも理不尽なものじゃない。ちゃんと『理由』のある厳しさだ。その理由も含めて指導してくれたから、どんなに厳しくても辛くはなかった」

 

どんなに厳しくても、それはちゃんとカイムを強くするためのものだとわかった。だから苦しい場面は何度かあったが、それを辛いとは思わなかった。

 

「ちゃんと強くなってる実感もあったしな」

「一度はバトルを辞めたって言ってたね。ボクとしては少し意外だったけど、辞めた理由ってなにか聞いてもいい?」

「…バッジ制覇するのに四年もかかって、自分が凡人よりも下ってわかった。それに、シロナに会う前はバトルは楽しくなかったし、全然勝てない。だから辞めてしまいたい理由はたくさんあった」

「それでもキミは戻ってきた。どうして?」

 

傍らのブラッキーを撫でながらカイムは言う。

 

「…その辞めてしまいたい理由以上に、続けたい理由ができた。それだけだ」

 

魅せられてしまった。

美しくも激しく、そして圧倒的に戦うあの後ろ姿に。姉以上に強烈に残るあの姿に憧れ、それに近づきたいとカイムの心が、魂が叫んでいるように思えた。

 

「そうか」

 

ダイゴはその理由が全てシロナに起因していると察した。自分ではカイムを魅せることができなかったが、シロナにはできた。それが少しだけ悔しかったが、カイムがまたバトルに戻ってきてくれたことが嬉しかった。

 

「いやー、ボクが思ってた以上にベタ惚れしてるんだね」

「なっ⁈んなこと言ってねぇだろ!」

 

珍しく顔を赤くしながら言うカイムがおかしくてダイゴは笑う。

 

「だって、その理由って全部シロナさんが起因してるでしょ?」

「ぬ……ぐぅ…」

「ほら、図星!本当にわかりやすいな、カイムは」

「う、うるせえ」

 

面白くて笑い続けるダイゴをジト目で睨みつつも、カイムも小さく笑った。

二人の笑い声が夜空に吸い込まれていき、そんな二人の後ろ姿をシロナはダイゴの家のベランダから見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイゴが風呂に入りに戻り、一人でブラッキーとメタングと戯れていると背後から足音が聴こえてきた。

 

「戻らなくていいの?」

 

足音の主はシロナだった。白いTシャツに黒いパーカー、黒いスウェットという出立ちで比較的ラフだが、自宅の時と比べたら防御力が高い。

 

「もーちょいいる」

「じゃ、ご一緒させてもらうわね」

 

シロナはカイムの隣に腰を下ろし、カイムのすぐ側で浮かぶメタングに目を向けた。

 

「うまくやれそうね」

「ああ。思ったよりうちのメンツに合うみたいだ」

「他の子とも触れ合った?」

「全員と触れ合ってる。今のところ悪くなさそう」

「そう、よかったわね」

「…うん」

 

自分の理想とするパーティの完成が近づいたこと以上に、自分についていってもいいとメタングが判断してくれたことが嬉しかった。

その感情が僅かに表情に表れており、ほんの僅かに笑うカイムを見てシロナも笑う。

 

「いいパーティになりそうね」

「…善処するよ。最後は俺次第だから」

「よくわかっているじゃない」

「シロナが俺に言った言葉だ。パーティを活かすも殺すもトレーナー次第だって」

「そうよ。どんなにいいポケモンを揃えても、それを活かせるトレーナーがいないと」

「俺は活かせているかな」

「もちろんよ。昼間のタッグバトルを思い出して。ちゃんとブラッキーの個性を活かしていたから、私はサポート気味でも勝てたのよ」

 

ブラッキーが積極的にヘイトを受け、動き回ったおかげでグレイシアは動きやすくなった。結果的にグレイシアをサポート気味にさせたが、あのバトルではシロナがメインを受けた方が楽に勝てただろう。

 

「初めてのタッグバトル、どうだった?」

「そうだな…難しかったな。シングルバトルなら相手は一体だけだが、タッグバトルだと二体いる。そこに相方の動きを考えるとなると、俺の処理能力じゃ…」

「そうじゃないわよ。楽しかったかって聞いてるの」

 

シロナはカイムの額を指で突きながら言った。なんだがデジャヴを感じさせるようなやり取りだが、カイムは特に思うこともなく話し始める。

 

「楽しかった。シロナが隣にいる状態でのバトルは、緊張したけどそれ以上にこう…うまく言えないけど、いい気分だった」

「私も。いつも右側にいてくれる貴方が、バトルの時もいてくれる。いつものバトル以上に気持ちが昂ってたわ」

 

最愛の人と共にバトルできるのがこんなに楽しいとはシロナも思っていなかった。だからこの経験はとても良いものになったし、カイムの成長にもつなげられていいことづくめだった。

 

「…俺、少しはお前の隣に立ってても大丈夫な人間に近づけたかな」

「ええ。私が保証するわ」

「ん…そうか」

「でももっと上を目指せるわ。精進しましょ、お互いにね」

 

シロナはカイムの手に自分の手を重ね、重ねられた手を握り返してカイムは無言で頷いた。

 

「ダイゴに会って思い出した。たくさん負けてきた。でも今は、その負けがあったからここにいるって思える」

「誰でも多かれ少なかれ敗北を重ねているわ。負けは今の力の認識であっても弱さの証明ではない。何度も言った言葉よ」

「ああ、よく言ってたな。今日は敗者でも、明日は違う。その敗者として得たものを糧に明日は何者になるのって」

 

敗者であることは恥ではない。そこから何も得ようとしないことが恥なのだとシロナは日頃から言っている。シロナは現在、公式戦無敗だがそうなる前に多数の敗北を重ねてきた。その敗北からたくさんのものを得てきたからこそ、シロナは今チャンピオンとして活躍できている。

 

「本当に二つしか違わないのか疑いたくなるわ」

「ちょっと?そんなに老成してないわよ私」

「バトルに関しちゃしてるっての」

 

くつくつと笑いながらカイムは立ち上がる。

ブラッキーとメタングをボールに戻してシロナに手を差し出した。シロナは少し不満そうにしているが、少し心当たりがあるのか何も言うことなくカイムの手を掴んで立ち上がった。

 

「今度、タッグバトルの練習しましょ」

「…ま、いいだろう。戻るか」

「ええ」

 

二人はダイゴの家へと戻っていった。

 

 

この時、カイムは思いもしなかった。

 

 

 

 

まさかシロナと共にタッグバトルの大会に出ることになるとは。

 

 

 

 

その大会に出るために一悶着あったりするのだが、それはまだ先の話。

 

 

 

 




メガシンカ関連の話を出そうか迷ったのですが、シンオウ地方におけるメガシンカの扱いが分からなかったので、シロナは現時点ではメガシンカしない方向で行きます。

あとメタングはゲームでは流星の滝には出てきません。なんなら野生のダンバルはホウエン地方のどこに生息しているのか不明ですが、今回は作者的に一番いそうな場所で出会ったことにしました。


シロナ
他の地方のチャンピオンと多少交流があるシンオウ地方チャンピオン。昔のカイムが今のカイムとさほど変わらないことを知ってご満悦の様子。

カイム
昔からおかんやってた23歳。ダイゴからもらったメタングは近いうちにメタグロスに進化する。

ダイゴ
石好きお兄さん。チャンピオンになる前に散々カイムに世話を焼かれたためかなりカイムに対して恩を感じている。最初は歳下に世話を焼かれることに若干の抵抗があったが、気づけば普通になっていた。

イサナ
カイムと仲直りできた姉貴。アマチュアの中ではトップレベルの強さだが、鍛錬をしてないからバトルの一応プロであるカイムには勝てなかった。スタイリストの他にもデザイナーとウェディングプランナーも兼業してるため旦那より稼ぎがあったりする。なお、仕事はほぼ趣味だから頑張れてる模様。

フウとラン
双子ジムリーダー。子供ながらジムリーダーを務めているため、多分天才。同じ街に住んでいることもあり、ダイゴとは交流が深い。双子とのバトルをきっかけにシロナとカイムがタッグバトルの練習をすることになり、それがまた別の形で世間に広まるが、まだ先の話。

次回はバトルフロンティア(廃人施設)に行こうと思ってます。ホウエン地方編は次回で終了です。
あとタッグバトル大会とチャンピオンズトーナメントは別です。

番外編は数日以内に更新します。


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