ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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バトルフロンティアです。

みなさんはバトルフロンティアやりましたか?私はキッズ時代にやり、シンボルを一個も埋めることもできずに諦めました。この歳になってもう一度厳選からやり直し、そしてようやく全てを金シンボルにしましたが、もう二度とやらないと誓いました。
フロンティアクオリティへの怒りを込めながら書きました。

その怒り故に今回は三万字超えて四万です。つまり平常運転です。また平均文字数が増えます。

アニメでシロナさんが出てきましたね。普段見ないんですが、その回だけ見ました。私はとても単純です。


18話です。


18話 バトルフロンティア

翌日

 

ダイゴに連れられて船に乗り、しばらくするとテーマパークのような場所にたどり着いた。

 

「なんかホウエン地方来てから船乗ってばっかだな」

「今回の目的が海の方に多かったらから仕方ないわ」

「船酔い持ちだったらきつかったかもな」

 

そんな軽口を言いながらダイゴのあとに続いて船を降り、目の前に広がる施設に目を向ける。

 

「さあ着いた。ここがホウエン地方最大のバトル施設、バトルフロンティアだ」

 

バトルフロンティア。

ホウエン地方最大のバトル施設であり、オーナーであるエニシダが認めたトレーナーでなければ施設でバトルをすることはできない。

それぞれの施設には固有のルールが設けられており、そのルールに則ったバトルを行い、勝利していくものとなっている。定められた条件をクリアしたらその施設を管理している『フロンティアブレーン』と呼ばれるトップに勝つことでシンボルをもらえるというものだ。そのシンボルを持っているだけでトレーナーとしての箔がつくほど価値のあるものである。

 

「シンオウ地方にもあるから、だいたいわかるよね」

「ああ」

 

発祥はホウエン地方だが、シンオウ地方にも同様の施設が存在する。だがシンオウ地方のバトルフロンティアは現在も開発を続けているため若干小さい。

 

「大きい施設ね。一度来てみたかったのよ」

「世界的にも有名ですからね。ここまで大きくてハイレベルな施設、そうありませんから」

「連れてきてくれてありがとうね、ダイゴ君」

「いえ。これくらいでしたら問題ないです」

 

ダイゴはそこでスマートフォンを取り出してチャット欄を開くと、首を傾げる。

 

「一応ここのオーナーのエニシダさんが迎えにきてくれる手筈になってたんですけど…いませんね」

 

ダイゴは周囲を見渡すが、それらしい人物は見当たらない。

 

「うーん…確かにエニシダさんが来るって言ってるんだけど…」

「わざわざオーナー待たなきゃならんのか?」

「フロンティアはポケモンリーグとは別の組織だ。だからチャンピオンと言っても、ここではボクもただのチャレンジャー。特別な権限はないんだ」

「それもそうか」

 

再びダイゴが周囲を見渡すと、一人の男性が手を振りながら走ってくるのが見えた。

 

「あ」

「おーい!すまねえ、待たせた!」

 

男性は赤い帽子に袖が非常に短い白衣を来ていた。

額に僅かに汗を滲ませ、肩で息をしながら男性は三人の前にたどり着くと、膝に手をついて息を整えた。

 

「いやすまねえ。オーナーが別件で急遽来れなくなっちまってよ。代理で俺が来たんだ」

「貴方が来てくれるとは思いませんでした」

「いやなに。今ウチの施設は改修工事中でチャレンジャーいねえからよ。比較的暇なんだわ」

 

息が整うと、男性は顔を上げて三人の方を見た。

その顔を見て、カイムは固まる。

 

「っ⁈」

「ん……あれ…お前もしかして…」

 

カイムは目を見開き、顔を引き攣らせていた。シロナもダイゴも何故カイムがそんな反応をしているのかわからず首を傾げる。

 

「お前、もしかしてカイムか⁈」

「げぇっ!やっぱダツラさんかよっ⁈」

「なんだその反応。大学の時色々教えてやっただろうがよ」

 

男はカイムの背中をバンバン叩きながら笑う。それに対してカイムは鬱陶しそうにその手を払い除けようとする。

 

「あんたが聞いてもねえことを延々と喋り続けてただけだろうが!」

「そうだったか?まあいいじゃねえか!はっはっは!」

 

バンバンとカイムの背中を叩く男…ダツラとカイムの関係性がわからずシロナとダイゴは目を見合わせる。

 

「えっと、二人は知り合い?」

「ん?なんだカイム。俺がいること伝えてなかったのか?」

「そもそもあんたがここにいること自体、今知ったんだが」

「おっとそうだったかすまねえ。そんじゃあ自己紹介が先だな」

 

ダツラは白衣を整えると、シロナに向き直った。

 

「俺はダツラ。ここの施設の一つ、バトルファクトリーの責任者でファクトリーヘッドってのをやってる」

「じゃあダツラさんは、フロンティアブレーンってことね」

「おう。そういうことになってる」

 

フロンティアブレーンといえば、ジムリーダーを超えるほどの実力者として有名だ。中には非常に珍しい伝説などにしか登場しないようなポケモンを扱う者もいたりするとか。そういわれるだけの実力はあり、四天王と同等以上に戦うことができるらしい。

 

「さっきも言ったが、オーナーが野暮用でな。今回の案内は俺が引き受けることになったんだ。よろしくな、シンオウ地方チャンピオン」

「あら、私を知っているんですね」

「そらもちろん。バトルを生業としてんだ。他の地方のチャンピオンくらい把握してる」

「それもそうですね。では改めまして、シンオウ地方チャンピオンのシロナです。お会いできて光栄です、ファクトリーヘッド」

「こちらこそだ」

 

シロナとダツラは互いに握手を交わし、挨拶を済ませる。

そこでシロナはダツラに気掛かりであったことを聞いた。

 

「ところで…カイムとはどのような間柄で?」

 

ダツラとカイムは知り合いのようだった。だがシロナはカイムからダツラについて聞いたことは一度もない。だから彼との関係がどんなものなのかをダツラに尋ねた。

 

「おう。カイムは大学の後輩だったんだ」

「え?」

「俺は工学部の機械科、こいつは考古学部で学部は違ったけどな」

 

そこでシロナはアルトマーレでカイムが言っていたことを思い出した。機械の方にも知り合いがいた、とカイムは言っていた。その知り合いがダツラなのだと今わかった。

 

「カイムの言ってた機械の知り合いって…」

「この人だよ」

「おいおいなんで嫌そうな面してんだ」

「あんたといてロクな目にあった記憶がねえからだ!」

 

心底面倒くさそうな顔をしながらカイムは言う。

 

「はっはっは!そうかもなぁ!学生時代は変なものばっか作ってたしそれの実践でお前を引っ張ってきたりもしたっけか」

「聞いてもねえことを延々と聞かされる俺の身になってくれ」

「いいじゃねえか。おかげで、機械の実用的な知識も身についたんだしよ」

「そこについて否定はしないけど、俺のことをもう少し考えてやってほしかったんスけど?」

「気にすんな!でっかくなれねぇぞ!」

「はあ…」

 

豪快に笑うダツラに対してカイムはげんなりしながらため息をついた。

 

「ま、こんな感じだ。色々と目ぇかけてやってたわけよ」

「…………」

「んな面すんなよ。さすがに傷つくぜ?」

「冗談はあんたの発明だけにしてくれ」

「手厳しいなぁ相変わらず。まあいいや。聞いてた話だと、あと1人ジムリーダーが来てるらしいが、どこだ?」

 

ダツラはエニシダから『シンオウ地方のチャンピオンとジムリーダーが来るから案内してほしい』という風に聞いていた。

ダイゴのツテで2人が来たため、ダイゴはわかる。言われていたチャンピオンもシロナでカイムがその助手なのだろうと予想した。

だがそうなるとジムリーダーがいない。ダツラの中の印象ではカイムはジムリーダーになるほどの実力はないため、ジムリーダーは他に居るだろうと判断した上での質問だった。

 

「…………」

 

カイムは何も言わず腕を組んだ。

ダイゴも何も言わずにカイムに視線を向ける。シロナはニコニコしながらカイムの肩に手を置いた。

三人の反応を見てダツラは首を傾げる。

 

「ん…なんだよ?」

「ダツラさん、そのエニシダさんが言ってたジムリーダーなんですが」

「あ、もしかして今日来れなかった感じか?」

「目の前にいますよ」

「は?」

 

ダツラの目の前には腕を組んでどことなく不服そうなカイムしかいない。だがダイゴも嘘をついているようにはみえないし、シロナもどことなく楽しそうにしている。

彼らの態度からダツラはようやく誰がジムリーダーなのかを理解した。

 

「まさか、カイムが?」

「ええ。カイムは今、トバリジムのジムリーダーを務めていますよ。代理ですけどね」

「マジか!そうなのか早く言ってくれや!」

 

ダツラは再びカイムの背中をバンバン叩きながら豪快に笑った。

 

「いやすまんな。大学の頃の印象が強くてな。どうにもカイムがジムリーダーっていうのに結び付かなかったんだ」

「そんなに意外かよ、俺がジムリーダーなの」

「ったりめーよ!ロクな育成もできてねぇで、レベルだけ上げましたみたいなやり方してたんだから。バトルのバの字すらまともに理解できてなかった奴だぜ?そりゃわかるわけねーよ」

 

何気なく言っているが、この言葉はかなりカイムに刺さっていた。全てシロナの指導によって改善されたことではあるが、本人としては未熟な現在よりもさらに下の腕前だった時のことなどそう思い出したくないものだ。それをわかっているのかどうかわからないが、ダツラは平然と言っていた。

 

「だが嬉しいぜ。大学いた時は『辞めた』っていってほとんどバトルしようとしなかったからな。またやる気になってくれたのは、俺としては嬉しいもんだ。それもジムリーダーになれるまで実力をつけてきたとなりゃ、俺が相手してやってもよかったんだがな」

「今はできないのか?」

「ああ。さっきも言ったが、今バトルファクトリーは改修工事中なんだ。飼育しているポケモンも今は別のところに預けてる。だからお前とバトルはできん」

「そうか」

「俺もお前とバトルしたかったよ」

 

ダツラはカイムの背中を思いっきり叩いた。

 

「いっ⁈」

「さっ、行こうぜ。色々案内してやるよ」

 

ダツラは快活に笑いながら歩いていく。

カイムはその背中を忌々しそうに見ながら大きくため息をついた。

 

「ふふ、仲良いのね」

「どこに目ぇついてんだ。何を見たらそうなんだよ」

 

シロナの言葉に呆れたようにカイムは言う。

 

「貴方がそんな風に大声出す相手なんてそう多くないでしょ?ダイゴ君くらいしか見たことないわよ」

「む……んん…」

「確かに。カイムって基本クールだから、あまり大声出さないよね。ツッコミする時は大声出しがちになるけど」

「……うるせえ、行くぞ」

 

言い返せないカイムは不貞腐れた表情をしたままダツラのあとを追う。そんなカイムを見てシロナとダイゴは笑いながらついていった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

ダツラに連れられてフロンティア内を三人は歩いていく。

 

「あそこに見えるデカいビルがバトルタワーだ。トップは、タワータイクーンのリラ。フロンティアブレーンの中じゃ最年少だ。バトルタワーはシンオウのバトルフロンティアにもあったよな」

「ええ。シンオウのバトルタワーのタワータイクーンはクロツグさんって方よ」

「確か、今年のリーグ本戦出場者のジュンの父親だったな」

「親子揃ってすごいトレーナーなんだね」

 

ポケモンリーグは本戦に出場するだけでも相当難しい。このバトルフロンティアも限られたトレーナーしか挑戦できないが、ポケモンリーグ本戦ほど門は狭くない。予選の組み合わせ次第ではジムリーダーレベルですら予選落ちしかねない場合だってある。

だが近年、リーグ本戦に若きトレーナーがよく参戦している。シンオウリーグならヒカリが参戦しているし、ダイゴの話だとホウエンリーグにもいたらしい。そしてなにより、最もレベルが高いと言われているセキエイ高原ポケモンリーグのチャンピオンであるレッド。まだ十二歳だというのに無類の強さを誇るレッドは今や伝説となっている。

 

「若いのが台頭してきてんなぁ。この前ダイゴが言ってた子供…ユウキつったか?あいつが俺のところまで来たぜ」

「彼、来てたんですね。どうでした?」

「俺のところに来るまではある。リーグ本戦出場者ってことを考えりゃ当然のレベルだったが、まだまだ頭が硬え。だがいいスジはしてる。次は本気でやらなきゃな。手ェ抜いたら間違いなく負ける」

「バトルファクトリーは、レンタルポケモンで戦う施設でしたね」

「おう。チャレンジャー同士、こっちで用意したレンタルポケモンをランダムに選ばれた選択肢の中から選んで戦う施設だ。自分で育てたポケモンじゃねぇからな。そのポケモンが覚えてる技くらいは提示するが、バトルに対するちゃんとした知識がねぇと勝ち抜くのは不可能だ」

 

自分で育てたポケモンではないため、バトルで使用するポケモンの予備知識がない。故にこのポケモンの個体的なものではなく、種族的に得意不得意なものを知っておく必要がある。また、場合によっては相手とのポケモンの相性が最悪な可能性もある。その上で、覚えている技をうまく使って戦う必要があるため、ある意味難易度はフロンティア内最高とも言える。

 

「タイミング悪かったな〜来週なら改修終わってたんだがな」

「こればかりは仕方ないですね。運がなかった」

「まあどうしようもないことを悔やんでも仕方ねえ。どんどん見ていって、挑戦してみたいのがあったら言ってくれや」

 

ダツラに続いて施設を見ていく。

『才能』を見極める施設のバトルタワー。

『運』を見極める施設のバトルチューブ。

『絆』を見極める施設のバトルパレス。

『勇気』を見極める施設のバトルピラミッド。

『戦術』を見極める施設のバトルドーム。

『闘志』を見極める施設のバトルアリーナ。

 

そしてダツラがブレーンを務める『知識』を見極めるバトルファクトリー。

 

この七つの施設がバトルフロンティアには存在する。

 

「俺は個人的なポケモン持ってねえからあんまやったことねえが、どのブレーンも全員強いぜ。中にはかなり珍しいポケモン手懐けてる奴もいるくらいだからな」

「伝説級、とかか?」

「ああ」

 

伝説のポケモンは遭遇するだけでも相当運が良い。だがそれを捕獲して手懐けるとなると、運以上に相当な実力もあるとわかる。

 

「ブレーンの実力って、世間だとどれくらいに分類されるんだ?」

「ブレーンはあんま世間の公式試合とかには顔出さねえからな。チャンピオンに勝てるとは思わんが、四天王とはいい勝負できるだろう」

「四天王≒ブレーンくらいか」

 

単純な実力ならチャンピオンの方が高いだろうが、だからといってブレーンがチャンピオンに勝てないというわけではない。場合によっては勝つこともあるだろうが、総合的に見ればチャンピオンの方が強い、ということに過ぎない。

 

「……世界には、強いトレーナーがたくさんいるんだな」

「ええ。世界には表にあまり出てこないだけでとても強いトレーナーってたくさんいるのよ。強さの指標、というのかしら。そういうのを世間的に見世物にされたくない人とかもいるでしょうからね」

「そうか」

 

カイムは納得したような顔でシロナの言葉に反応する。

 

「ダツラさんは、どうしてブレーンになったの?」

「ん、そうだな。俺はよ、何事においても知識ってのは大切だと思ってんだ。だがその知識をどいつもこいつも、本や資料を読んだだけでその知識が自分のものになったと思っていやがる。それが学問だろうがバトルだろうがな。だからその知識が本当に自分のモノになっているか、それをバトルを通して試すことができる場所。そんな場所があるんなら、俺はそこでトレーナー達の相手になりたいって思ったからだ」

 

ダツラは学生の時からよく言っていた。『知識は、本を読んだりテストで点が取れただけでは身についたとはいえない。ちゃんと実践して、心と身体に体験させて初めて自分のものになる』と。その思いと卓越したバトルの腕があったからこそ、彼はフロンティアブレーンとしてスカウトされ、そしてダツラ本人もそれを受け入れた。

 

「かってえ頭じゃ、やれることも少ねえ。できること増やしていくには、そもそも選択肢を『知る』ことができなきゃならん。バトルにしても学問にしてもな」

「大切な考え方ですね。見習わないと」

「考古学となると、この考え方はちと難しいか?」

 

歴史を学ぶ、となるとそれを実践することはできない。あくまで歴史は過去の産物。故に実践することはできないのではないかとダツラは思った。

それに対してシロナは言う。

 

「そんなことないですよ。歴史を学び、そこから得られたものを自分の中でどう活かすか。それを自分なりに考え、教訓とすれば実践していることになるんじゃないんですか?」

「ほう、なるほどな。歴史から生き方を学ぶ…確かに実践だな。感服するぜ」

「ふふ、どうも」

 

ダツラも長らく大学で機械を学んできた身だ。だから学者としてやっていくのがどれほど難しいのかよくわかる。しかもチャンピオンと両立させられているという離れ業をやってのけていることにはダツラも感服せざるを得ないものだ。

加えてそこに学者として学んでいく精神。それもとても気高いものだった。今この瞬間、ダツラの中でシロナという人物が非常に尊敬できる人物へと昇格した。元よりチャンピオンということで尊敬はしていたが、その尊敬がより深いものになった。

 

「カイム、お前はシロナさんの弟子か」

「ああ」

「やっぱりか。お前がジムリーダーになれるほどだ。よほどいい師匠に巡り合ったと思っちゃいたが、まさかチャンピオンとはな」

「運が良かっただけだ」

「ならその運に感謝しながら、最高に活躍することだな…って、言うまでもねえか」

「無論だ」

 

カイムは自分がどれだけ恵まれているのかを自覚している。だからこそ自分をここまで育ててくれたシロナやカトレア、他にもたくさんの仲間達に恥じない自分になるためにもこれからも研鑽を続ける。

 

「変わったな、お前」

 

ダツラは大学時代には考えられないほどいい目をするようになったカイムを見て小さくそう言った。

 

「そんでどうだい。どっか挑戦してみたい施設あったか?」

「そうね…できることなら全部やってみたいけど…」

 

残念ながらそんな時間はない。ホウエン地方滞在は今日で最後。最終日ということでカイムの母、タキは共に夕飯を食べたいと言っていたため夕方にはここを出る必要がある。故にそこまで時間はかけられないものに限られる。

 

「あんま時間無いんだったな。そうなると…すぐにブレーンとバトルできる施設がいいな」

「いや、そんな施設ないだろ」

 

バトルフロンティアは連勝を重ねるなど、各施設で戦績を積み上げていき、それが一定を超えたところでブレーンとバトル、という形を取っている。完全に初見であるシロナ達がブレーンを相手にできるほど戦績を積み上げられる時間はない。故にブレーンとバトルなどできないだろうとカイムは考えた。

 

「そうでもねえぞ。フロンティアはリーグの方で一定以上の成果を出しているトレーナーに対してはその戦績を一部免除してんだ。強いのがわかりきってる奴らがゼロから始めるのもアレだしな」

「へえ…」

「代理とはいえ、ジムリーダーであるお前にも適用されるぜ?シロナさんが迷ってるみてえだし、いっそお前が決めてみたらどうだ」

 

そう言ってダツラはカイムにフロンティアパスを渡した。それを受け取りカイムはそれぞれの施設に目を向け、考える。

そして一通り考えたのち、顔を上げた。

 

「一応決めたけど、シロナはいいのか?俺が決めても」

「いいわよ。貴方がやりたい、と思える場所にいきましょ。私もそれに挑戦するわ」

「…わかった。ありがとう」

「決めたか?」

「ああ。俺は、あそこに行きたい」

 

カイムは複数ある施設の中で、一つの施設を指差して言った。

 

「お、あそこか。割と渋いとこ選ぶな」

「でもカイムらしいわ」

「うん。確かに、キミならあそこに興味を持つかもね」

「んじゃ、早速行こうぜ」

 

カイムが指し示した場所に向けて一行は足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

ダツラは施設の扉を開き、中に入る。シロナ達もダツラに続いて施設に入ると、中は広大な道場のようになっており、たくさんのフィールドの中でトレーナー達がバトルをしていた。

 

「これはこれは…ファクトリーヘッドのダツラ殿。如何なさいましたか」

 

道着を着た空手王がダツラに近寄って声をかけてきた。

 

「俺のツレがここに挑戦したいらしくてな。付き添いで来たんだ」

「左様ですか。こちらの方々が…」

「おう、チャレンジャーだ」

 

受付の空手王はシロナ達を見ると目を見開き、ダツラに言った。

 

「し、シンオウ地方のチャンピオンではないですか!」

「あと、シンオウ地方のジムリーダーもいる。戦績免除で、何連勝かしたらすぐにコゴミ相手で大丈夫だぜ」

「承知しました。自分はキャプテンに話を通しておきますので、チャレンジャーの皆様は受付を済ませておいてください」

 

空手王はそう言ってスタッフルームまで走っていった。

残されたシロナ、ダイゴ、ダツラは観客席へと移動し、残ったカイムはチャレンジャーとして受付をした。その際、カイムはモンスターボールの一つをシロナに預けた。

 

「それにしても、バトルアリーナを選ぶとはな」

 

観客席へ移動したダツラはそう呟く。

カイムが選んだ施設はバトルアリーナ。闘志を試す場所としてバトルフロンティアに存在する。

 

「カイムは格闘タイプのジムリーダーですからね。だから格闘場っぽいここを選んだのかも」

「だが別にあいつ自身は格闘タイプ専門ってわけでもねぇんだろ?」

「はい。手持ちにバシャーモとルカリオがいるので若干格闘タイプ寄りではありますが、全体的にはバランスの取れたオールラウンダーです」

「ほお…やっぱり、あんたの影響かい?シロナさん」

 

シロナはカイムにバトルの全てを叩き込んだ人物。となれば、当然パーティメンバーや戦闘スタイルにも教えた人物の特徴が反映される。

だがシロナの答えはダツラの予想とは少し違っていた。

 

「どうでしょう。確かに私はタイプに被りがないけど、完全に私だけの影響とはいえません。好きなタイプというか、理解が比較的深いタイプを多めにいれるという意味では、ダイゴ君の影響もあると思います」

「そうですね。今のカイムの手持ちはブラッキー、バシャーモ、ルカリオ、ムクホーク、トリトドン、メタングです。格闘と鋼タイプに被りがあるので、カイムなりに扱いやすいタイプをいれるのは確かにボクの影響かもしれません。でもそれを補えるように残りのメンバーを組むのは多分指導したシロナさんの影響だと思います」

 

ダイゴの手持ちは鋼、岩がメインのタイプとなっている。それはダイゴ自身がその二つのタイプに対してとても理解が深く、その二つのタイプをメインにしたバトルが一番自分に合っていると感じたからだ。

そしてそのスタイルについてはカイムがダイゴと共に旅をしていた時から貫いている。だからそれを見たカイムが影響を受けたとしても不思議ではない。

 

「そうかい。ま、あいつなりに考えた結果なら大丈夫だろう」

「案外、カイムのことを信頼してるんですね」

 

ダツラの中のカイムのイメージ的に『未熟』というのが大きいように思えた。故にカイムの考え方などはそこまで信頼していないのではないかとシロナとダイゴは思っていたが、そうではないらしい。

 

「いやな、大学の頃から考えることは苦手じゃなかったからな。俺が教えた機械の基礎知識もすぐにモノにしたし、その基礎知識から別の物事を導くこともできたからな。ちと考え過ぎるのが玉に瑕だが、それでも思考回路の素質としちゃ悪かねえ。寧ろここ最近の中じゃかなり良い方だ。だからちゃんとバトルを学んだ上であいつが考えたんなら、まあ大丈夫だろうって思ったにすぎん」

 

考えることは得意だが、それを巧く扱えていない。それはシロナもわかっていた。

だからこそ、シロナはそれを巧く扱えるようになるための指導を施した。せっかくあるカイムの武器だ。それを活かさない手はないし、何よりカイムがそれを望んだ。

 

「随分、いい数年を過ごしたな…カイム」

「みたいですね」

「ん、ダイゴはカイムと関わってきてんだろ?」

「ボクはしばらく会ってませんでしたよ。連絡は取ってましたけどね」

「そうなのか。ま、あいつが楽しそうならそれでいい」

 

ダツラは楽しそうにフィールドを見下ろしながらそう言った。ダツラはここ数年、少なくともダツラが大学を卒業してからのことは知らない。だが自信がなく、どこか卑屈な時のカイムと比べて今のカイムはとても良い顔をしている。それだけで十分だった。

 

『トレーナー、カイム!前へー!』

「お、始まるぞ」

 

審判のアナウンスが会場に響く。

それを聞いたシロナはカイムから預かったボールからメタングを出した。

 

「お、こいつは?」

「昨日カイムの手持ちに加わったメタングです。このバトルでカイムのことを見極めるためにカイムが預けてきたの」

「ほう、ポケモンに自分を見極めさせるか。いいね」

 

笑いながらダツラはメタングを撫でる。メタングはダツラに頭を下げ、すぐにカイムの方に視線を向けた。

 

(がんばって、カイム)

 

一人フィールドに立ち、ボールを握るカイムの背中を見ながらシロナはカイムのことを心の中で応援した。

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールドに立ち、カイムは目の前にいるトレーナーを見つめる。

相手のトレーナーもそれに応えるようにカイムを見た。

 

「よろしく頼むよ」

「ああ、こちらこそ」

 

相手はエリートトレーナーだったが、現在七連勝を二回達成しているため結構な猛者であることがわかる。

バトルアリーナは、登録した3体のポケモンを勝ち抜き制でバトルをする。しかし通常のバトルとは違い、各バトルごとに制限時間が設けられている。制限時間3分以内で『心・技・体』の項目ごとに評価がされており、制限時間内にバトルの決着がつかなかった場合はその評価で勝敗が下される。基本的にバトルにおいて道具の使用はできないが、予めポケモンに持たせておける道具であれば可能というルールになっている。

 

「貴方は今、何連勝ですか?」

「俺はこれが今回初だ」

「そうですか。僕はこれで六試合目。ここで勝って、フロンティアブレーンへの挑戦権に近づかせてもらいます」

「そうか」

 

少々キザな口調だが、それ以上に礼儀を重んじる口調にカイムは好感を感じた。やはり強いトレーナーほど礼節を大切にするものなのかもしれない。

 

「良い試合にしましょう」

「ああ、良い試合にしよう」

 

互いにボールを構える。

 

『それでは、勝ち抜きチームバトル!始め!』

 

審判の掛け声と共に両者はボールを投げる。

 

「いけ、ルカリオ!」

「さあ出番だよ、ラグラージ!」

 

ボールからルカリオが飛び出し、相手のラグラージと対面する。

 

『それでは、ルカリオ対ラグラージ!バトル開始!』

「いくぞラグラージ!地震!」

 

ラグラージから衝撃波を放ち、ルカリオに迫る。

 

「跳んで衝撃を緩和。その後すぐに空中で波導弾」

 

ルカリオは跳ぶことで衝撃を軽減しつつ、すぐに空中でエネルギーを溜めて波導弾を放った。波導弾はラグラージに直撃し、ダメージを入れるだけでなく僅かに怯ませた。

着地したルカリオは即座にラグラージへと肉薄した。

 

「はっけい」

 

ルカリオはラグラージの肉体に衝撃を叩き込む。ラグラージは吹き飛ばされるが、吹き飛ばされながらも体勢を立て直し反撃に移る。

 

「濁流!」

 

泥を含んだ水がルカリオに襲いかかる。だが慌てることなくルカリオは次の行動に移った。

 

「波導弾で一点突破」

 

波導弾が濁流の中に穴を空け、ルカリオは即座にその穴を抜けてラグラージに迫る。

 

「インファイト」

 

ルカリオの拳がラグラージに突き刺さる。ギリギリ踏みとどまったが、ラグラージは大きなダメージを負ってしまう。

 

「激流で押し流せ!ハイドロポンプ!」

「見極めろ。角度次第では逸らせるぜ。ストーンエッジ」

 

ラグラージの特性『激流』の効果で威力が上昇したハイドロポンプ。インファイトの反動で耐久性が落ちたルカリオが受ければ即座にダウンしてしまうほどの威力だ。

回避するのも難しいほどの攻撃範囲であると考えたカイムは、その攻撃を逸らして直撃を避ける方向にシフトした。ルカリオの気合と共に発せられたエネルギーは岩の刃となって地面から突き出しハイドロポンプの軌道を変えた。完全に無効にすることはできなかったが、直撃することと比較すればはるかにマシだ。

 

「マジか⁈」

「余所見する余裕あんのか?」

 

動揺した隙を見逃さずルカリオは神速でラグラージにトドメを刺した。

 

『勝者、ルカリオ!』

 

審判の掛け声で周囲から歓声が沸き上がる。

だがその歓声に耳を貸すことなくカイムはルカリオに労いの言葉を送った。

 

「シロナのルカリオのやってたストーンエッジで攻撃を逸らすやつ、俺らでもできたな。すげえぞ」

 

カイムの言葉にルカリオは拳を握りながら頷く。

相手のトレーナーは悔しそうにしながらも次のボールを手に取る。

 

「やるな。先手取られるのなんて、久々だよ」

「こんなもんじゃねえだろ」

「当たり前だよ。いけ!フーディン!」

 

相手は続け様にフーディンを繰り出した。

その後も激しいバトルは続いていったが、最終的にはカイムが勝利した。

 

 

そこで終わることはなく、カイムはバトルで連勝を続けていき、六試合を連勝していくことができた。

そして七試合目。

 

「トリトドン、水の波動!」

 

水の波動を受けたハッサムは力尽き、倒れ伏した。ハッサムが倒れた時点で相手の手持ちは全員戦闘不能になり、カイムの勝利が確定した。

 

『そこまで!勝者、カイム!』

「ふう…」

 

七試合連続で行ったこともあり、疲労が溜まっていた。相手が弱いトレーナーではなく、かなりの手練れが多かったこともあり、その疲労もかなり色濃く表情に出ていた。

 

「とりあえず七連勝…これで一周か」

 

ポケモン達は高速回復マシンで回復できるが、人間の疲労はそうもいかない。また、ポケモン達も肉体は回復できても精神的疲労は回復しない。

だがこれで一周したため、とりあえずは終わりである。ダツラが色々と話を通していたが、実際ブレーンとバトルできるかどうかはブレーンが認めるかどうかだ。ダツラの後輩というだけで周回免除できるとは考えづらい。話半分くらいにしておこうとカイムは考えていたが、そんなカイムに空手王の一人が声をかけてきた。

 

「カイム殿、七連勝見事でありました」

「どうも。とりあえずこれで一周ですよね」

「はい。ただ先程我らがキャプテンのコゴミ様から言伝を預かっております」

「え?」

 

多分バトルできないだろうと踏んでいたカイムだったため、これは意外な展開だった。だが何にしてもまずはその言伝を聞いてからだ。

 

「コゴミ様は『ダツラさんの後輩でジムリーダーなら相手してもいい。やる気があるならすぐに始めよう』と仰っていました。どうなさいますか?」

 

カイムの答えは決まっている。

 

「バトルの機会があるのなら、是非お願いしたい」

「承知しました。しかし、カイム殿も連戦で少々お疲れのようです。一度休憩を挟むと良いでしょう。どうなさいますか?」

「…じゃあちょっと休みます。15分後、バトルでお願いします」

 

本当ならもう少し休みたいところだが、カイムとしてはせっかくバトルの機会をくれたためあまり待たせたくなかった。

空手王は頷くと、『15分後アナウンスをかけるからその時にフィールドに来て欲しい』と言って去っていった。

カイムは少しでも休むためにロビーへと向かうと、シロナとダイゴがカイムを出迎えた。

 

「お疲れ」

「おう」

 

ダイゴから手渡された飲み物を受け取り、カイムは一息つく。

 

「さすがに七試合目は疲れたみたいね」

「まぁな。弱い相手ならともかく、全員ジムトレーナー以上の実力があった。そんな手ぇ抜いてる余裕はない」

「だろうね。ボクも見てたけど、さすがフロンティアって感じだったよ」

 

カイムは空いているベンチに腰を下ろし、二人もカイムの隣に座った。

 

「ダイゴは、フロンティア来たことあるのか?」

「来たことあるどころか、全部のシンボルを金に染めたよ」

「……さすがチャンピオン」

 

チャンピオンとなれば最難関のバトルフロンティアも容易とは言わずとも、クリアできてしまうのかとカイムは苦笑した。

 

「ダツラさんは?」

 

シロナとダイゴはいるのにダツラの姿はない。どこにいるのだろうと周囲を見渡しても姿は見えない。

 

「ここのブレーンに話をつけてくれているわ」

「そうか。後で礼言っとこ」

 

水を飲み一息をついたところで、アナウンスが流れてカイムが呼び出された。

 

「呼び出しだ。そろそろいく」

「ええ。頑張って」

 

カイムの背中を軽く叩き、シロナはカイムのことを送り出した。

その背中を見ながらダイゴはシロナに聞く。

 

「カイム、ブレーンに勝てると思いますか?」

「難しいでしょうね。今回は銀シンボルのブレーン相手だから、ブレーンも手加減しているし単純な実力勝負ならまだ勝ち目はあったかもしれないわ。でも今のカイムは思ったよりも疲弊してる。相手が手加減したブレーンだとしても、難しいと思うわ」

 

カイムは今までジムバトル以外の公式戦を行ったことがない。故に連戦慣れしておらず、バトルを継続する体力が少ない。

 

「不可能とは言わないんですね」

「だって無理ではないもの。どうなるか楽しみね」

 

カイムもそれはわかっている。だからカイムなりにそれをどうするか考えているだろう。その考えの結果、どういうバトルになるのかシロナは楽しみだった。

心の中で期待をしつつ、シロナ達は観客席へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールドに立ったカイムにスタッフの空手王が声をかけてきた。

 

「お客人。いよいよアリーナキャプテンとのバトルです。お覚悟はよろしいですかな?」

「ああ。大丈夫だ」

 

腰につけたボールを手に取り、カイムは頷く。

スタッフの空手王は頷くと、アナウンスをかけた。

 

『それでは、バトルを開始します!トレーナー、カイム!前へ!』

 

アナウンスがかかりカイムはフィールドのトレーナーのポジションへとつく。今気がついたが、いくつかあるフィールドの中でもカイムのいるフィールドの見物人が非常に多くなっている。恐らくブレーンとのバトルを聞きつけたたくさんのトレーナーが見に来ているのだろう。

 

『アリーナキャプテン、コゴミ様!ご入場ー!』

 

会場全体の空気が変わる。

カイムと相対する方向からフィールドに走って入ってきたのは、金髪の道着を着た少女だった。年齢はスモモよりは上だが、まだ未成年だろう。十六歳くらいに見える。

 

「ウィーッス!よろしくー!」

 

少女…コゴミは非常に軽いノリでフィールドに入ってきた。

そして対面にいるカイムの顔を見ると目を瞬かせた。

 

「って、貴方がダツラさんの後輩っていう挑戦者?」

 

コゴミはフィールドを横切ってカイムの目の前に来た。

そしてカイムのことをじろじろと眺める。

 

「ふーん……へえぇ……ほー」

 

コゴミは最後にずいっとカイムに顔を近づけた。(その瞬間、シロナがぴくっと反応し、それを見たダイゴが内心で軽く冷や汗をかいていた)

 

「なんていうか、かなり弱っちい感じなんだけど?本当にアタシと闘って大丈夫?」

 

散々な言われようだが、実際コゴミの実力は四天王レベル。そのコゴミから見たら大体のトレーナーは弱くみえてしまうのは仕方ない。

カイムもそれを言われただけで怒るほど狭量ではないし、実際ジムリーダーの中での実力は下の方だ。だが言われっぱなしで終わるようなカイムではない。

 

「さぁな。やればわかる」

 

それを聞いたコゴミは一瞬目を丸くしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

 

「…へえ、言うじゃんお兄さん。ジムリーダーってのも伊達じゃなさそうじゃん。名前は?」

「カイム」

「カイムさん。じゃ、まずは軽ーくお手並み拝見といこっか」

 

コゴミはカイムの鼻の頭を指で軽く突くと指定の場所に戻った。

腰につけられたボールを手に取ると、カイムに突き出しながら言った。

 

「さあ!アタシの闘志に火をつけてね!審判、始めて!」

『勝ち抜きチームバトル!始めっ!』

 

審判の掛け声と共に同時にボールを投げた。

 

「いけ、ルカリオ!」

「出番よ、ヘラクロス!」

 

カイムはルカリオ、コゴミはヘラクロスを繰り出した。

ヘラクロスは虫タイプを持つため格闘タイプが半減。対してルカリオは鋼タイプを持つため格闘タイプが効果抜群。相性としては悪い。

 

『ルカリオ対ヘラクロス!勝負始め!』

 

審判の掛け声がかかるとすぐにコゴミは動いた。

 

「瓦割り!」

「龍の波動!」

 

ヘラクロスの振り下ろした拳に龍の波動がぶつかり、互いに弾かれるがダメージは互いにない。

 

「まだまだ畳み掛けて!」

「見切り」

 

続け様に来る攻撃をルカリオは完全に見切り、ノーダメージで流し、回避していく。だがずっとこのままでは判定負けしてしまうだめどこかで反撃せねばならないが、ルカリオの覚えてる技でヘラクロスに取れる最高打点の技は鋼タイプの技しかない。

方針を決めた瞬間、ヘラクロスの拳をルカリオが受け止める。

 

「コメットパンチ」

 

硬化させた拳がヘラクロスの顔面を捉えた。ヘラクロスは自慢のツノでパンチの威力を軽減させ、ダメージを抑える。

 

(完全に入ったと思ったが、流石の反応だな)

 

バックステップで下がったヘラクロスに神速でルカリオが追撃する。だがヘラクロスは神速の攻撃をガードすることでほとんど無効化していた。

 

「甘いわよ!メガホーン!」

「コメットパンチ」

 

強化されたヘラクロスのツノとルカリオの拳がぶつかりあう。その衝撃が周囲にも伝播し観客は圧倒されるが、シロナとダイゴ、そしてフィールドの二人は全く動じることはなかった。

ツノと拳で鍔迫り合いのように押し合うが、そこにカイムは即座に指示を出した。

 

「ラスターカノン」

 

押し合っている拳とは別の拳に鋼の力を溜め込み、ゼロ距離でヘラクロスに直撃させた。ヘラクロスも反応し直撃は避けられたが、大きなダメージが入る。

 

「コメットパンチ」

 

体勢を立て直される前にルカリオは強化した拳をヘラクロスに叩き込む。体力的にこれで倒れる、と考えたが、カイムのその予想に反してヘラクロスは立っていた。

 

(こらえる、か)

 

バトルアリーナの仕様上、時間内に決着がつかなければ判定になる。判定になれば負けそうなバトルであっても勝ちに持ち込むことも可能。

カイムはコゴミが判定に持ち込むつもりだと考えたが、その予想は外していた。ヘラクロスはギリギリで持ち堪えた状態で、どこかから取り出したきのみを口に放り込んだ。

 

(あれは、カムラの実!)

 

カムラの実は食べたポケモンの敏捷性…つまり素早さを一時的に上昇させることができるきのみ。この状況で食べた、ということは次の攻撃を確実に当てたいということ。

 

「起死回生!」

 

そしてその予想は合っていた。起死回生は体力が少ないほど威力が上がる技。体力がギリギリのヘラクロスが使えば相当な威力になる。受ければまず間違いなくルカリオはダウンするだろう。

 

「見切り!」

 

咄嗟に指示が出た。

ルカリオの見切りは非常に精度が高く出も早い。だがカムラの実で敏捷を上昇させたヘラクロスの攻撃の方が早く、完全な回避はできない。ルカリオはそれを瞬時に判断し完全回避ではなく、威力軽減に見切りの力を使った。

ルカリオは起死回生が当たる瞬間身を引くだけでなく背後に跳び、加えて腕をクロスさせてガードした。それでも威力は凄まじく、着地したルカリオは思わず膝を突く。

互いに満身創痍。だが勝負はついていないため、ルカリオもヘラクロスも立ち上がり、互いに向かっていった。

 

 

『そこまでっ!』

 

 

審判の声が響き、両者の拳は互いに触れることなく止まる。瞬時に背後に飛び、互いのトレーナーの前に着地した。

 

『これより判定に移ります。

判定その1!『心』!攻める心を見せた者!ヘラクロス!

判定その2!『技』!的確に技を繰り出した者!ルカリオ!

判定その3!『体』!溢れる体力を持ち得る者!ルカリオ!

よってこの勝負、ルカリオの勝利!』

「あちゃ〜判定負けか。惜しかったよ、ヘラクロス」

 

コゴミはヘラクロスをボールに戻した。

最後に勝負を分けたのはやはりルカリオの咄嗟の判断だろう。あそこで下手に回避を狙っていたらそのままやられていた可能性が高い。ルカリオが威力軽減を選んだことでギリギリ持ち堪えたヘラクロスと比べて体力が残った。

見た目からは平然としているが、カイムは内心で冷や汗をかいていた。このままルカリオのバトルは続くが、ルカリオ自身の体力はもう残り少ない。それだけでなく、カイム自身の消耗が激しかった。制限時間があるため、かなりハイペースでバトルが進む。バトル中はアドレナリンによって気にならないが、この一息つく瞬間にその集中の反動がどっと押し寄せる。克服したとはいえ、元より高速思考が苦手なカイムにはきついものがあった。

 

「よっし次!いくよ、ブラッキー!」

 

コゴミが繰り出したのはブラッキー。カイムの相棒と同じポケモンだった。タイプ相性は一転して良好だが、ルカリオは既に限界。ここはルカリオで勝ち切るのではなく、次に繋げることをカイムは選んだ。

 

『ルカリオ対ブラッキー!勝負、始め!』

「ルカリオ、はっけ…」

「不意打ち!」

 

ルカリオのはっけいが当たる前にブラッキーの不意打ちがルカリオに直撃した。効果は今一つのため体力が残ったが、次は受け切れない。

続け様に追い討ちが仕掛けられるが、ルカリオははっけいでそれを打ち破り、僅かだがブラッキーにダメージを入れる。

しかしルカリオは肩で息をしており、限界なのが目に見えている。今の不意打ちを直撃しても耐えられたのは単に根性だろう。

 

「ルカリオ、次に繋げるぞ」

 

ルカリオはカイムの言葉の真意を瞬時に察すると、向かってくるブラッキーに対して拳を突き出し手の甲にあるトゲ同士を擦り合わせた。鳥肌が立つ金属を擦るような音が響き、ブラッキーは思わず顔を顰めるがそのまま突撃していく。

 

「しっぺ返し!」

 

しっぺ返しがルカリオに突き刺さり、ルカリオはそれによってダウンした。

 

「よくやった」

「ルカリオ、いい育成してるね。耐久性が低いポケモンなのにここまで粘られるとは思ってもいなかった」

「防御が得意でな」

 

ブラッキーにダメージはない。だがルカリオの最後の『攻撃』が次に繋げてくれる。

 

「頼む、トリトドン」

 

ボールを投げ、トリトドンを繰り出す。

トリトドンのメイン技は主に特殊攻撃。対してブラッキーは時折『要塞』とまで言われるほど防御、特殊防御共に高い。タイプ相性はともかく、種族値としての相性はあまり良くない。

 

『トリトドン対ブラッキー!勝負、始め!』

「トリトドン、濁流」

 

泥を含んだ波がブラッキーに向けて流れる。

ブラッキーはそれを見据えてコゴミの指示を実行した。

 

「サイコキネシス!」

 

ブラッキーの念力によって波の軌道は逸らされ不発に終わる。

水浸しになったフィールドに向けてトリトドンはすぐさま氷のビームを放つ。

 

「フィールドに向けて冷凍ビーム」

 

冷凍ビームはフィールドを凍らせて、ブラッキーの足を奪う。機動力が半減したブラッキーに向けてトリトドンは攻撃を仕掛ける。

 

「水の波動」

 

トリトドンから発せられた水の波動が的確にブラッキーを捉える。本来、タイプ一致の技とはいえブラッキーほどの特防があれば大きなダメージにはならない。しかし、今のブラッキーは特防が下がられた状態。コゴミが思っていたよりもダメージは大きい。

 

「…ルカリオの金属音ね。最後の最後にやったあれが特防を下げたわけだ」

「ただでやられるわけねーだろ。濁流」

 

再び濁流がブラッキーに襲い掛かる。

続け様にくる攻撃を見てコゴミは思わず笑顔を浮かべる。

 

「いいよいいよ!こうでなくっちゃ!跳んでブラッキー!」

 

ブラッキーは跳ぶことで濁流を回避したが、凍ったフィールドでは高さが出ない。それでもコゴミには十分だった。

 

「濁流の中にサイコキネシスで穴をあけな!」

 

まだ流れる濁流の中に何もない空間が開く。そこに上手く着地したブラッキーはそのまま弱くなった濁流に突っ込んでいき、トリトドンの目の前に現れた。

 

「不意打ち!」

「水の波動!」

 

水の波動が出た瞬間、不意打ちがトリトドンに直撃する。

 

「畳み掛けて!追い討ち!」

「とける!」

 

仮にも水の波動を受けたのにも関わらず、追い討ちを仕掛けてきたブラッキーに対してトリトドンは身体を極限まで液体に近い状態にすることで防御力を上げてダメージを抑えた。

 

「やるじゃん。ならサイコキネシス!」

 

タイプ不一致かつ特攻の高くないブラッキーのサイコキネシスの威力は高くない。しかしカイムのブラッキーよりも遥かに練度が高いためうまくダメージを与えてくる。

 

「地震!」

 

ダメージを受けつつも最大威力の地震がブラッキーを襲った。ダメージは少なくないが、ブラッキーを落とせるほどではない。

 

「しっぺがえ…」

『そこまで!』

 

ブラッキーがトリトドンに攻撃を加えようとした瞬間、審判の声が響く。ブラッキーはトリトドンに当たる直前で前足を止めて背後に飛び、コゴミの前に着地した。

 

「時間切れか」

「やるじゃ〜ん」

『これより判定に移ります。

判定その1!『心』!攻める心を見せた者!ブラッキー!

判定その2!『技』!的確に技を繰り出した者!トリトドン!

判定その3!『体』!溢れる体力を持ち得る者!ブラッキー!

よってこの勝負、ブラッキーの勝利!』

 

判定によりトリトドンの敗北が決定した。

カイムはふう、と深く息を吐き額の汗を拭う。トリトドンは負けたことに責任を感じているのか、悲しそうに視線を落としている。そんなトリトドンの頭を撫でつつカイムは言った。

 

「お前のせいじゃない。お前を上手く活かしてやれなかった俺の責任だ。それに、十分すぎるほどお前はよくやってくれた。次は勝とうぜ」

 

トリトドンは頷きカイムはそれを見届けるとボールに戻した。

 

「さて…じゃあラスト頼んだ」

 

最後のボールを手に取り、カイムはそのボールをフィールドに向かって投げる。中からはムクホークが現れた。

 

『ムクホーク対ブラッキー!勝負、始め!』

「不意打ち!」

「燕返し」

 

ブラッキーの不意打ちとムクホークの燕返しがぶつかり合い互い弾かれる。ムクホークにダメージが無いのに対してブラッキーにダメージが入っていた。

 

「威嚇で攻撃力下げられたのが響いたかな?」

「さあな」

「どっちでもいいけどね!追い討ち!」

「鋼の翼」

 

再び互いの技がぶつかり合う。今度はブラッキーが鋼の翼に対してそのままぶつけるのではなく、ぶつかる瞬間に接地面をずらすことでムクホークの胴体に僅かに攻撃を通した。ムクホーク自身も鋼の翼をブラッキーに当てたが、上手く直撃を避けられている。耐久性の高くないムクホークは直撃でなくともダメージはそこそこになる。

 

(最速で決めるか)

 

制限時間もあるが、それ以上に長引けば巧さのある相手のブラッキーの方が強い。加えてその巧さが判定に響く可能性は大いにある。

なら最速で決めることが判定にもつながるとカイムは判断した。

 

(インファイトは反動で防御が下がる。下手に撃って耐えられた場合、反撃のしっぺ返しをムクホークじゃ耐えきれない)

 

ブラッキーへの最高打点の技はインファイト。しかしタイプ不一致のムクホークのインファイトでは、耐えられる可能性もある。トリトドンがブラッキーを削ってはいるが、自身の相棒もブラッキーであるカイムはブラッキーのしぶとさをよく知っている。

 

「燕返し」

 

だから時間ギリギリまでブラッキーを削り、そこにインファイトを仕掛けて削り切る作戦にカイムは打って出た。

ムクホークの燕返しがブラッキーに当たるが、ブラッキーも即座に反撃に出る。

 

「しっぺ返し!」

「ガード」

 

ブラッキーのしっぺ返しを鋼の翼で硬化させた翼で受ける。ダメージとしては若干貫通してきたが、直撃よりも遥かに軽い。

ダメージが軽ければすぐ様次の行動に移せる。ムクホークへのダメージが小さいとわかったカイムはガードに使った鋼の翼を攻撃に転用した。

 

「そのまま鋼の翼で攻撃」

 

鋼の翼を叩きつけ、ブラッキーにダメージを蓄積していく。

叩きつけられたブラッキーは表情を歪め、地面に倒れ伏す。そこに追撃を加えようとムクホークが迫るが、その瞬間カイムとムクホーク、両者の背筋に冷たいものが走る感覚がした。

 

「っ!下がれ!」

「騙し討ち!」

 

倒れ伏した状態から瞬時に体勢を変え、ブラッキーは後ろ足をムクホークに叩き込もうとした。ブラッキーの足が迫ってくるが、ブラッキーの攻撃は瞬時に下がったムクホークのトサカを掠るだけで攻撃は当たらなかった。

普段の甘えん坊で人懐っこい性格で忘れがちだが、ブラッキーは悪タイプ。やることはえげつなく、勝つためにはどんなことでもやってのける。それと同じ種族のポケモンなのだから、相手が凄まじくいやらしいタイミングで攻撃をしてきても不思議ではない。今の攻撃はカイムの相棒がブラッキーであったこと、そしてムクホークの危機感知能力の高さがなければ直撃していただろう。

 

そして渾身の騙し討ちが外れたことによりブラッキーに大きな隙ができる。それを見逃すようなことはしない。

 

「インファイト!」

 

ムクホークの連撃がブラッキーを捉える。騙し討ちが回避されたことにより、ブラッキーは体勢が不十分であった。その結果、回避することができずインファイトが直撃した。

ムクホークだけでなく、トリトドンのダメージもあったブラッキーにタイプ不一致とはいえ効果抜群の技は受け切れずダウンした。

 

「あーっちゃ〜…思った以上にやるじゃん」

「…そいつはどーも」

 

ブラッキーをボールに戻しながらいったコゴミの言葉に平然と返事をしているが、内心は冷や汗だらけになっていた。あのブラッキーの騙し討ちはカイムがブラッキー使いだったから察知できたにすぎない。もしあれがブラッキーではなく、別の悪タイプのポケモンだったら回避できたかどうか怪しい。

 

「ふう…」

 

カイムは大きく息をつく。集中力は切れていない。寧ろどんどん研ぎ澄まされているが、長く続きはしないだろう。

次のポケモンが耐久型だったら、厳しいかもしれない。そう考えて内心で戦々恐々としていたが、カイムのその予想は杞憂に終わった。

 

「ちょーっと厳しい相手だけど、お願いね!ヌケニン!」

 

コゴミの最後のポケモンはヌケニンだった。ヌケニンは珍しいポケモンであり、カイムも対戦した経験はない。

 

(特性は確か…『不思議な守り』。効果抜群以外の技を全て無効化するってやつだったな。代わりにヌケニンはダメージを受けたら即座にダウンするほど耐久力がない。飛行タイプのムクホークはかなり相性がいい)

 

簡単な話、燕返しを当てればそれで終わる。燕返しは回避が難しい。故にかなり相性がいい相手だとわかる。

しかしフロンティアブレーンほどの実力者がこの程度で勝負がつくはずがない。むしろカイムの警戒度はさらに上昇した。

 

『ムクホーク対ヌケニン!勝負、始め!』

「ヌケニン!むしのさざめき!」

「鋼の翼で打ち破れ」

 

むしのさざめきに鋼の翼を叩きつけて打ち破る。その勢いのままムクホークはヌケニンへ肉薄する。

 

「ヌケニン、燕返し!」

「燕返し」

 

互いに燕返しをぶつけ合い相殺し合った。

連続して燕返しをヌケニンに向けて放つが、ヌケニンは回避するか燕返しでその攻撃を相殺していく。

 

「ちっ…巧いな」

「紙耐久のヌケニンに回避技術仕込まないわけないっしょ?」

「それもそうだな」

 

悉く攻撃を回避され、焦り始めたムクホークを見てヌケニンは目を怪しく光らせた。

その光を見てしまったムクホークは頭が混乱してしまい、正常な判断ができなくなる。

 

「怪しい光!このやろう」

「ほらほらいくよ!むしのさざめき!」

 

正常な判断ができないムクホークはむしのさざめきを回避できず直撃してしまう。インファイトの影響で特防が下がっているムクホークにはダメージが大きい。ムクホークは混乱し、さらにダメージも大きい。普通なら詰みが見え始めるが、カイムの目は死んでいない。

カイムはすう、と軽く息を吸い込むとムクホークに向けて言い放つ。

 

「起きろォ!」

 

強い音圧の声がアリーナ全体に響き渡る。元々低めの声をしているカイムが大声を出すとビリビリと空気を震わせるような迫力があった。その声は混乱していたムクホークの頭を一気に覚醒させる。

普段寝てばかりのムクホークを起こす時にこれほどではないが、いつも活を入れて起こしている。その声を聴くとムクホークの頭はすぐに覚醒するため、カイムの声で混乱が解けた。

 

「ええ⁈そんなんある⁈」

「似たようなことしてる奴いるからなぁ!燕返し!」

 

即座に混乱が回復したムクホークの燕返しがヌケニンを襲う。ギリギリで回避したが、ヌケニンは体勢を崩してふらふらと浮きながら下がっていく。

その隙を確実に突き、カイムの指示が言い放たれる。

 

「ブレイブバード」

 

威力のみを重視した安全性度外視の突撃がヌケニンを襲う。一気に最高速度へと至る特攻は反動もあるが、それ以上に威力がある。

ブレイブバードがヌケニンを貫き、地面に叩きつけられた。耐久性など皆無のヌケニンが耐えられるはずもなく、ヌケニンはそのままダウンした。

 

『ヌケニン戦闘不能!よってこの勝負、トレーナーカイムの勝利!』

 

湧き上がる歓声の中、カイムは大きく息をついた。隣に降り立ったムクホークを撫でつつ、額に滲んだ汗を拭った。

 

「うっそ!やるじゃーん!」

 

ヌケニンをボールに戻すと、コゴミはスキップしながらカイムのもとへ寄ってきた。

 

「やだもう、カイムさん全然強いじゃん!ジムリーダーって本当だったんだ!」

「信じてなかったのかよ」

「だって覇気が弱いんだもん」

「やかましい」

 

覇気が弱いのはカイム自身も自覚している。だがそんなはっきり言われたら、さすがのカイムでも少し悲しくなってしまった。

 

「うん!気に入った!フロンティアパスかして!」

「えっ、ああ」

 

ダツラに渡されたフロンティアパスをコゴミに渡した。コゴミはそれを受け取ると、パスにシンボルを刻んだ。

 

「はい、ガッツシンボル。まだ本気じゃないから金色じゃないけどね」

「ああ、ありがとう」

「うーん。いいバトルできて楽しくなっちゃった!またカイムさんとバトルしたいな〜」

「どーも」

 

淡白で無愛想な返事しかしないカイムにコゴミは面白そうに笑った。

 

「ノリ悪いな〜もーちょっとノッてくれてもいいのに」

「ガラじゃねえよ」

「あはは!確かにそうかも」

 

コゴミはスマートフォンの時計を見ると、カイムに言った。

 

「ねねね、カイムさんこれから時間ある?」

「え、ああ…どうだろう。ツレの予定次第だ」

「じゃあそのお連れさんも一緒にご飯どう?カイムさんのことも、そのお連れさんのことももっと知りたい」

 

カイムは観客席にいるシロナに目を向けた。

話の内容が聞こえていないシロナはその視線に首を傾げた。

 

「…聞いてからな」

「うん、それでいーよ」

 

コゴミは上機嫌で戻っていき、カイムはそれを見送る。コゴミの姿が見えなくなると、カイムはシロナとダイゴに目を向けて少しだけ表情を緩めた。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

ブレーンルームと呼ばれるフロンティアブレーン専用の部屋にシロナ、カイム、ダイゴ、ダツラ、コゴミが集まっていた。

 

「ええ⁈バッジ集め終えるのに四年⁈うそでしょ⁈」

 

コゴミはカイムの話を聞いて驚きの声を上げた。

現在一同はブレーンルームにて昼食をとっている。バトルフロンティア内にあるファストフード店でテイクアウトをしてそれを現在みんなで食べていた。

そしてコゴミがカイムがどういう過去を過ごしたのか知りたくて聞いてみたのだが、その際ジムバッジ制覇に四年かかったという話したところ、驚きの声を上げていた。

 

「そんな意外か?」

「いやー、あんなに動けるのにまさか四年もかかってるとは思わんじゃん?」

「…………」

「ま、大学であの腕なら四年かかったってのも納得だな」

「あはは!ボクと旅してた時はあまり強くなかったからね」

「え、ダイゴさんと旅してたん?すっご。それで師匠はシロナさんで、ダツラさんの後輩っしょ?人脈やばくない?」

 

カイムも今思えば人脈がすごいことに気がついた。

恋人兼師匠であるシンオウ地方チャンピオン、親友のホウエン地方チャンピオン、大学時代の先輩であるフロンティアブレーン。そうそう知り合える存在ではない。

 

「……確かに」

「ふふ、いいじゃない。人に恵まれるのは才能よ」

 

実際カイムも人に恵まれた自覚はある。一番はシロナだが、ダイゴやカトレア、アイリスなどといった人々と知り合え、そして力を貸してもらった。だから今カイムはここにこうしている。

 

「まぁ、要領も悪いし色々と凡庸だが、運はいいな」

「うわ卑屈〜。もうちょっと明るくいこーよ」

「うるせ」

「にしし、面白い人!」

 

コゴミは笑いながらハンバーガーにかぶりつく。

むすっとしながらもカイムも食事を進めていく。そのペースは普段よりも少し早い。

 

「コゴミちゃん」

「んむ?」

 

シロナに声をかけられ、ハンバーガーを頬張りながらコゴミは視線を向けた。

 

「午後なんだけど、私とバトルしてくれない?」

 

シロナはチャンピオンの座を長らく守り続けてきたが、バトルフロンティアにはまだ参戦したことがない。フロンティアブレーンな人々とは顔見知り(コクランは例外)だが、まだ挑戦はしたことがないためこの機会に是非挑戦したいと思っていた。

だが時間はあまりない。だからブレーンであるコゴミとバトルするにはカイム同様、戦績を免除した状態でのスタートする必要があった。

 

「いいよ!じゃあ初手からアタシとやろ!」

「え、そんな簡単に決めていいの?」

「いいよいいよ。だってあのシンオウ地方チャンピオンでしょ?ダイゴさんくらい強いんだし、七連勝なんてどーせできるんだから」

 

そんな軽いノリでいいのかと思いつつも、シロナとしてはその申し出はありがたいため素直に受けることにした。

 

「ありがとう。全力で相手をさせてもらうわ」

「当たり前じゃん!手ェ抜くなんてこと、しないでよね!」

 

覇気を剥き出しにしながら言うコゴミにシロナは柔らかく、しかし闘志のこもった笑顔を向けた。

 

「やれやれ、戦闘狂なのはチャンピオンもか」

「その言い方だとボクも含まれるんですけど?」

「間違ってんのか?」

「いいえ」

 

ダツラの呟きに対してダイゴが反応するが、実際ダイゴもかなりの戦闘狂だ。強そうであろうがなかろうが、トレーナー相手であればバトルしたくなるような人間である。むしろそういう人間だったからこそ、トレーナーのトップに君臨することができたのかもしれない。

 

「あんなすげえ人に鍛えられたんだなぁお前」

 

ぼんやりと飲み物を飲んでいたカイムにダツラは言う。

 

「運がいいんで」

「お前が諦めなかった結果だろ?」

「一度は諦めてますけどね。でもまあ、未練だらけでしたよ」

「一度は諦めたことをここまでやってのけたんだ。誇っていい」

 

カイムは自分のフロンティアパスに刻まれたガッツシンボルを見つめる。このシンボルを取るためにどれだけのトレーナーが研鑽に研鑽を重ねているのか。それがどれだけ辛く険しい道なのか。シロナに厳しく鍛えられたカイムがそれを想像するのは難しくない。

 

「フロンティアパスにシンボルがついているだけでも一般的トレーナーとは別次元のトレーナーになったってことだよ。すごいよ、カイムは」

「……そうか」

「あ、もしかしてカイムさん照れてる?」

「やかましい」

「ま、代理とはいえジムリーダーだ。あんくらいできてもおかしくねえわな!」

「え?代理⁈本職じゃないの⁈」

 

驚いたコゴミはカイムにずいっと顔を寄せた。

鼻が触れそうなほど近くに顔を寄せられたカイムは少し顔を逸らす。その時再びシロナの眉がぴくりと動いたが、カイムは気づかない。

 

「そんな動けるのに本職じゃないんだ!ジムリーダーってみんなちゃんと動ける人ばっかで、その人たちと遜色ない動きしてたから代理とは思わなかった」

「はあ」

「へーカイムさんで代理かぁ。きっとトバリシティのジムリーダーはすっごく強いんだろうね」

「とりあえず近いんだが」

 

見かねたダツラがコゴミの襟首を掴みカイムから引き離した。

 

「あ、ごめんごめん。アタシどーも距離感近くて」

「そうか。気をつけろ」

 

女性に免疫がないわけではないが、カイムは恋人が目の前にいる状態で別の女性とベタベタする気はない(いなくてもしないが)。初対面であるためどう引き離すか悩んでいたため、ダツラの行動はありがたかった。

 

「じゃあご飯も食べ終わったことだし、ポケモンセンターいってくるわ。もう回復も終わってるだろうしね」

「ね、私もついていってもいい?コゴミちゃんとバトルする前にもっと話してみたいの」

「お、いいですね!アタシも話したいです!いきましょいきましょ!」

 

コゴミはすぐに立ち上がるとシロナの手を引いてブレーンルームを出て行った。

残されたカイム達は小さく息を吐いた。

 

「コゴミのやつ…気に入った人への距離近すぎるんだよな」

「距離の詰め方がチャンピオンなんだが」

「はは…」

 

天真爛漫なコゴミに大人男性達は振り回されており、少々疲れていた。中でもコゴミが近づくことによりシロナの雰囲気が変化したのを如実に感じ取っていたダイゴが特に疲れている。

 

「コゴミも空気読めよなー。気づいてねぇだけかもしれねぇけど、彼女が目の前にいるのに男に近寄りすぎんなよ」

「は?」

 

ダツラの言葉がイマイチ理解出来ずカイムはダツラの顔を見る。

 

「ん?あれ?違ったか?」

「え、いや…言った?」

 

カイムはダイゴに視線を向けるが、ダイゴは首を横に振る。

 

「……なんで気づいたんすか?」

 

カイムは言っていないしダイゴも言ってない。そして当然シロナも言っていない。

 

「シロナさん、右手に赤い指輪つけてたろ。そんでお前は首から青い指輪下げてる。二人の指輪の形が全く同じだったからそうかなって」

 

他にもシロナからカイムへの声のトーンが若干上がることやカイムからシロナへの絶大なる信頼感などあるが、ここでは指輪だけ言った。カイムが嫌がる可能性を考慮したダツラなりの配慮だ。

 

「……まあ、そっすね」

「やっぱか。かーっ!いい人捕まえやがって!やるじゃねえか!」

 

頭をがしがしとしてくるダツラを鬱陶しそうにしながらもカイムはその腕を払い除けることはしない。

そんな二人を微笑ましくダイゴは見ながら一人お茶を飲むのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

バトルアリーナ

フィールドを挟んで二人の女性が向き合っていた。

片方は肩くらいの長さの金髪に道着という字面だけなら不揃いだが、快活な雰囲気と可愛らしい容姿がその不釣り合いさを帳消しにするだけでなく絶妙なバランスを生み出している少女…コゴミ。

そのコゴミと相対するのは長い金髪を携え、黒いノースリーブのシャツにグレーのスキニーという落ち着きながらも自身の美しさを最大限に引き出す服装を纏っている女性…シロナ。

コゴミはカイムの時同様、フィールドを横切ってシロナの目の前まで歩いてくる。

 

「今日ね、シロナさんのことを見てからずっと楽しみだったの」

 

フロンティアブレーンは世間的にも相当高いレベルのトレーナーだ。

だがチャンピオンは『その地方において最強のトレーナー』。実力としては四天王と同等以上のブレーンでも、単純な実力ではチャンピオンには劣る。

だからこそ、その強い相手を倒したい。そういう思いが強かったから楽しみで仕方なかった。カイムとのバトルでもかなりアガるものがあったが、それ以上アガるバトルができると確信していた。

 

「こんなに強い覇気の人とやれる…アタシの闘志が燃え上がるのがわかるわ!」

「私もよ。こんなに熱く、燃え上がるって始まる前からわかるバトルはそうできないわ。いいバトルにしましょう!」

「もっちろん!ハンパな闘いじゃ許さない!覚悟してね!」

 

コゴミはビシッとシロナに指を向けた。そのコゴミにシロナは不敵な笑みを浮かべると髪をはらい、腰に手を当てた。

 

「全力で相手をするわ」

 

シロナの覇気を受け、コゴミは闘志を剥き出しにした笑みを浮かべ定位置にバックステップで戻った。

 

「ほら審判!さっさと始めて!」

 

ボールを構えてコゴミは叫ぶ。それに慌てて反応した審判が旗を振り上げた。

 

『は、はい!勝ち抜きチームバトル!始めー!』

「いってきな!ブラッキー!」

「お願い、ルカリオ!」

 

コゴミはブラッキー、シロナはルカリオを繰り出した。

 

『ルカリオ対ブラッキー!勝負、始め!』

「ブラッキー、サイコキネシス!」

「神速!」

 

初手から最高打点のサイコキネシスをルカリオに向けるが、それを神速の速度で回避と同時にブラッキーに攻撃を加える。しかしブラッキーの硬さは速度重視の攻撃ではダメージをほとんど通さない。

鋼・格闘という対ブラッキーとしては最高の相性を誇るルカリオ。入れ替え禁止である以上、ルカリオの相手はブラッキーで行わなければならない。

だからこそ、コゴミは燃えていた。普段はアリーナ最強のトレーナーとして君臨しているが、今コゴミは挑戦者。挑戦者の立場になるのなどいつ以来だろうか。その普段との立場の違いが、コゴミの覇気を強めていた。

 

「ルカリオ、はっけい!」

「カウンター!」

 

神速の速度で詰め寄ってきたルカリオが掌底を繰り出す。その掌底に対してブラッキーは身体を捩り、カウンターをルカリオに向けて放った。

だがそれを読み切ったルカリオは掌底を出したのと別の手の甲で受け流し、ダメージをほぼゼロに抑える。

 

「バレットパンチ!」

「不意打ち!」

 

互いに速度の速い技がぶつかり合い、弾かれる。ダメージは僅かに受けたが、大した影響はない。

 

「サイコキネシス!」

 

ブラッキーの放った念力がルカリオに直撃する。ダメージは入っていくが、突如ルカリオの身体から黒いオーラが湧き上がる。

 

「悪の波動」

 

全身から湧き上がった悪の波動がサイコキネシスを打ち消し、ブラッキーに直撃する。しかし悪タイプで特防の高いブラッキーにはほとんどダメージがない。

続け様にルカリオは行動に移る。

 

「剣の舞」

 

その場で力強く舞うことで攻撃力を上昇させる。阻止は不可能だと判断したコゴミは少しでもダメージを与えることを選択した。

 

「不意打ち!」

 

ブラッキーの不意打ちがルカリオに直撃する。しかし既に剣の舞を終えたルカリオがそのブラッキーに対して攻撃を仕掛けた。

 

「掴んで床に叩きつけなさい」

 

攻撃してきたブラッキーの前足を掴み、ブラッキーを床に叩きつける。受け身を取ったブラッキーにダメージはほとんどないが、一瞬体勢を整えるために隙ができる。

 

「インファイト!」

 

その隙を見逃すことなく格闘技最強のインファイトを叩き込む。耐久性の高いブラッキーでも、効果抜群の技を打ち込まれて無事では済まない。吹き飛ばされながらも体勢を立て直し、ブラッキーは距離を取った。

 

「ねむる」

 

コゴミの指示と共にブラッキーは目を閉じて眠った。みるみる体力が回復していくのがわかる。

それと同時にブラッキーは首輪についていたきのみを口にし、目を覚ました。

 

(ねむるで体力を回復して判定の体力を確実に取る気ね)

 

体力の判定は『終了時点で体力の多い方』に判定がつく。残り一分で七割近くあるルカリオの体力を下回らせるか、他の判定で勝つしか手段がなくなった。アリーナでの闘い方はコゴミの方が上手であることがよくわかるやり方だ。

 

「神速!」

 

眠りから目覚めたブラッキーの視界から瞬時にルカリオは消える。本来なら反応すらできないが、ブラッキーは視界の端に迫りくる影を捉えた。ブラッキーの反射神経が咄嗟に回避を選択する。この選択は本来なら最善策だった。神速の速度で攻撃してきた場合、ポケモン自身にも制御しきれず回避された場合大きく体勢を崩すことになってしまうからだ。

だがシロナのルカリオは神速を完全に制御しきっている。故に、神速の初速を使いつつ、別の技を繰り出すことも可能。

 

「バレットパンチ!」

 

神速の速度を乗せつつ放たれた先制技のバレットパンチの速度は凄まじく、視界の端に捉えていたブラッキーですら反応しきれず、回避に移ろうとしたブラッキーの身体に拳が叩き込まれる。

 

「うっそ⁈」

 

まさかここから神速による攻撃ではなく、神速の速度を利用した攻撃がくるとは思っていなかったコゴミは一瞬動揺する。その動揺もコンマ数秒以内に平静に戻ったが、その僅かな隙が命取りになる。

 

「インファイト!」

 

再び放たれた怒涛の連続攻撃がブラッキーを捉える。ギリギリでのろいを発動させて防御力を上げるも、その防御力を貫通してブラッキーに多大なダメージを与える。

 

 

『そこまでっ!』

 

 

その瞬間、審判の声が響く。時間切れとなり、ルカリオとブラッキーのバトルは判定となった。

 

『これより判定に移ります。

判定その1!『心』!攻める心を見せた者!ルカリオ!

判定その2!『技』!的確に技を繰り出した者!ルカリオ!

判定その3!『体』!溢れる体力を持ち得る者!ルカリオ!

よってこの勝負、ルカリオの勝利!』

「うわっ!完勝じゃん!うー!やっぱりめっちゃ強いー!」

 

コゴミは頭を抱えながらブラッキーをボールに戻す。コゴミとしてはせめて体力の判定だけは取るつもりでブラッキーにねむるを使わせたが、むしろそれを起点とされてしまった。本気の戦闘だったのにまさか完勝されるとは思わなかった。

 

「それだけアタシよりも強いってことよねー。うーん、燃える!」

 

だがむしろこの結果はコゴミをより熱くさせる結果となった。

すぐに次のボールを取ると、フィールドに向かって投げる。

 

「頼んだよ!ゲンガー!」

 

コゴミが次に出したのはゲンガー。打って変わりメインウェポンがほとんど効果無効。加えてインファイトの反動で耐久性はさらに下がっている。かなり形勢は厳しい。

 

『ルカリオ対ゲンガー!勝負、始め!』

「ゲンガー、サイコキネシス!」

「ラスターカノン!」

 

ゲンガーの念力とルカリオの鋼の力がぶつかり合い相殺する。

素早さの高いゲンガーは即座に次の動きに移った。

 

「影打ち!」

「二歩右!」

 

影打ちが来る場所を的確に見抜き、ルカリオはシロナの指示通りに動いた。影打ちはルカリオの身体を掠めながらも外れていくが、回避されることを前提として影打ちは放たれていた。

 

「サイコキネシス!」

 

ゲンガーの念力がルカリオを襲う。インファイトの反動で特防が二段階下がった状態では等倍とはいえダメージは大きい。

 

「悪の波動!」

 

全身から放たれた黒い波動はサイコキネシスを打ち消し、そのままゲンガーに当たる。悪タイプの技はゴーストタイプのゲンガーに効果抜群。しかしゲンガーも身体を捩り、接地面積を最小限にすることでダメージを抑える。

そのままゲンガーは浮き上がり、ルカリオの真上に至る。

 

「シャドーボール!」

 

シャドーボールが連続してルカリオに向けて放たれる。全方位から迫ってくるシャドーボールに逃げ道が無いルカリオだが、その中でもダメージを最小限に抑えるルートを見つけ、そこに向けてガードしながら突っ切った。

 

「そこよ!サイコキネシス!」

 

あえて逃げやすいルートを残してシャドーボールの弾幕を張っていたため、そこに予め狙いを定めておいた。そのルートをルカリオが入ってきたため、そこに向けてサイコキネシスを放った。

狙っていたため、サイコキネシスの出が早く回避ができなかった。大きなダメージが入り、ルカリオは耐え切ることができずにダウンした。

 

「お疲れ様、ルカリオ」

 

ルカリオに労いの言葉をかけながらボールに戻した。

悪の波動を当てたとはいえ、ゲンガーの身体捌きによって思いの外ダメージが抑えられた。ゲンガーの耐久性は高くない。ダメージがあったとはいえ、ここまでダメージが抑えられたのはシロナの予想外だった。

 

(さすかブレーン。トレーナーもだけど、ポケモン達独自の判断が素晴らしいわね)

 

手は抜いていない。むしろ全力でやっていた。それでもそのシロナの戦法のさらに上をいった。これがフロンティアブレーン。

 

「ふふふ…ああ、とっても楽しいわ!」

 

今、シロナは最高に気分が上がっている。この楽しい時間を、少しでも楽しむことしか考えられない。

 

「最高の時間よ!お願い、ミロカロス!」

 

シロナはボールからミロカロスを繰り出した。美しい鳴き声と共に煌びやかな姿のミロカロスが現れた。

 

『ミロカロス対ゲンガー!勝負、始め!』

「ゲンガー!催眠術!」

「ハイドロポンプ!」

 

ゲンガーが催眠術をかけようとしたが、ハイドロポンプで中断させる。

 

(催眠術…ってことは、夢食いとか覚えさせてそうね。催眠術を喰らうとちょっとまずいかもしれないわね)

 

眠らされた場合、起きるまでどれくらいの時間を要するか。だいぶ運要素が絡んでくる。

加えてゲンガーはゴーストタイプで動きも相当速い。判定のことも考えると、耐久が特徴のミロカロスは体力の判定を取ることが最善だとシロナは考えた。

 

「アクアリング」

 

ミロカロスは水のリングを纏った。アクアリングは少しずつ体力を回復していく技。耐久性の高いミロカロスと相性が非常にいい。

 

「ゲンガー!シャドーボール!」

 

耐久をされた場合、既にダメージを受けているゲンガーに勝ち目はない。なら積極的に攻めていくことで心と技の判定を狙ってコゴミは指示を出した。

 

「水の波動」

 

シャドーボールを水の波動で相殺する。

だがすぐにゲンガーは次の行動に移り、ミロカロスに迫った。

 

「どくどく!」

 

ゲンガーから放たれた猛毒の塊がミロカロスを襲う。避けきれずミロカロスは猛毒を受けてしまった。猛毒は徐々に身体に回っていき、確実に体力を奪っていく状態。

耐久性の高い相手には最高の一手だといえる。だが、それを覆す力をミロカロスは持っている。

 

「ハイドロポンプ!」

 

どくどくを放ち、即座に下がったゲンガーの目の前には既にミロカロスが迫ってきていた。素早さは高くないミロカロスがここまで素早く動いてきたことにゲンガーだけでなくコゴミも驚愕を隠せない。

目の前からゼロ距離で放たれたハイドロポンプを回避しきれず直撃してしまう。ルカリオからのダメージもあったゲンガーはハイドロポンプに耐え切ることができず、フィールドに倒れ伏す。

 

「うっそー⁈ミロカロスあんな速いの⁈」

「ずっとは無理だけど、瞬間的であれば可能よ」

「いい〜?どんな育成したらできんのよ…」

 

ミロカロスの素早さ種族値はお世辞にも高くはない。それにも関わらず、体捌きのみで瞬間的とはいえ素早さの高いゲンガーの反射神経をくぐり抜けるミロカロスにコゴミは脱帽せざるを得なかった。

だがこれに関しては、『ミロカロスは素早く動けない』という固定観念があったからこそ、咄嗟の動きに反応できなかったということもある。誰でも想定外のことが起きれば一瞬身体は固まる。コゴミもそれを理解していた。

 

「まだまだ強くなれそうね、アタシ」

 

そう呟き、コゴミは最後のボールを手に取りフィールドに投げる。

ボールからはキノガッサが現れた。草・格闘というタイプはミロカロス相手には非常に相性がいい。ミロカロスは毒に侵され、体力が減っている。アクアリングと持ち物の食べ残しで体力は回復しているが、それよりも早いペースで体力が削られている。長くは保たないだろう。

 

「いくよキノガッサ!最高の相手よ!」

『ミロカロス対キノガッサ!勝負、始め!』

「ミロカロス、冷凍ビーム!」

「キノガッサ、気合玉!」

 

冷凍ビームと気合玉がぶつかり合う。タイプ相性により気合玉が僅かな威力を残して冷凍ビームを貫通するが、ミロカロスはそれを余裕で回避する。

そのミロカロスに対してキノガッサはすぐ様詰め寄り、攻撃を加える。

 

「雷パンチ!」

 

効果抜群の雷タイプの技がミロカロスを襲う。タイプ不一致だが、キノガッサの攻撃力であれば大きなダメージが入るとコゴミは考えた。

しかしミロカロスには思いの外ダメージが入らない。すぐ様水の波動による反撃がくるが、キノガッサはそれを余裕で回避した。

 

「…そっか、不思議な鱗」

 

ミロカロスの特性は不思議な鱗。状態異常の時に防御力が上昇するものだ。でんきタイプの技はミロカロスに効果抜群だが、元々高い防御力がさらに上昇したとなると、タイプ不一致の技では落としきれない。

しかしミロカロスの体力は減っている。毒もあるため、放っておいても倒れるだろう。だがそんな勝ち方、コゴミは納得しない。

 

「キノガッサ!ばくれつパンチ!」

 

キノガッサの渾身の一撃がミロカロスに向けて放たれる。

いくら防御力が上がっているとはいえ、毒を受け雷パンチも受けた状態のミロカロスでは、威力の高いばくれつパンチは耐えきれない。だがばくれつパンチは命中精度が低い。いくらフロンティアブレーンのポケモンといえど、そこは変わらない。

その命中精度の低さを使わない手はない。

 

「ミロカロス!水の波動をキノガッサに当てつつその推進力で身体を動かして!」

 

ミロカロスは水の波動をキノガッサに向けて放つ。ばくれつパンチが水の波動に当たり弾け飛ぶが、水の波動の勢いをそのまま自身の身体を動かすことに使ったミロカロスにキノガッサの攻撃が当たることはなかった。

 

「冷凍ビーム!」

「タネ爆弾!」

 

両者の技がぶつかり合い、弾け飛ぶ。タイプ相性では冷凍ビームが有利だが、タネ爆弾の爆発の勢いが冷凍ビームをキノガッサまで届かせなかった。

 

「自己再生!」

「やばっ!エナジーボール!」

 

自己再生によりミロカロスの傷がみるみる癒されていくだけでなく、毒により消耗した体力も回復していく。完全に回復とはいかないが、アクアリングの効果も加わることでミロカロスは持ち直した。

エナジーボールがミロカロスに直撃するも、特攻が高くないキノガッサのエナジーボールでは効果抜群といえど大きなダメージにはならない。

 

(毒は確実に回ってる。もう少しで落とせる!)

 

猛毒は時間が経つにつれて消耗させる体力を大きくする。いくら要塞レベルの硬さを誇るミロカロスでも、内部から蝕まれてはひとたまりもないはずだ。自己再生させたのがいい証拠である。

 

「ハイドロポンプ!」

「上に飛んで跳び膝蹴り!」

 

ミロカロスが放ったハイドロポンプをキノガッサは飛びながら回避し、その勢いのままミロカロスに跳び膝蹴りをお見舞いした。ギリギリでハイドロポンプの向きを変えることで威力を軽減させたが、それでも高威力の跳び膝蹴りは大きなダメージをミロカロスに与えた。

 

「トドメよ!ばくれつパ…」

『そこまでっ!』

 

弱ったミロカロスにトドメの一撃を放とうとした瞬間、審判による試合終了の合図がかかった。キノガッサはミロカロスへ向けた拳を止め、コゴミの前まで飛んで下がる。

 

『これより判定に移ります。

判定その1!『心』!攻める心を見せた者!キノガッサ!

判定その2!『技』!的確に技を繰り出した者!ミロカロス!

判定その3!『体』!溢れる体力を持ち得る者!キノガッサ!

よってこの勝負、キノガッサの勝利!』

「さすがに厳しかったわね…お疲れ様、ミロカロス。これ食べて休んでて」

 

シロナはミロカロスをボールに戻す前にモモンの実を食べさせ、毒が消えたことを確認するとミロカロスをボールに戻した。

これで互いに残り一匹。キノガッサはミロカロスから受けたダメージがあるが、それほど大きなダメージではないため大きな影響はない。つまりほぼイーブンの状況。

 

「残り一匹同士。燃える状況ね」

「ふふ、アタシの闘志も最高潮よ。こんないいバトルなんだもん。最後は勝って終わらせてみせるわ!」

「上等よ。受けて立つわ!」

 

シロナはボールを上に放る。そのボールからはガブリアスが現れ、咆哮を上げた。

 

「エースのご登場か。いいじゃん、燃える!」

「簡単にいくとは思わないことね」

「もっちろん!でもそれを覆してみてこそ、フロンティアブレーンよ!」

『ガブリアス対キノガッサ!勝負、始め!』

 

掛け声と共にガブリアスとキノガッサが激突する。その衝撃がフィールドに広がりシロナとコゴミの髪を揺らした。

 

「キノガッサ!ばくれつパンチ!」

「ドラゴンクロー!」

 

キノガッサのパンチとガブリアスの爪がぶつかり、再び衝撃波が広がる。

 

「まだまだいくよ!かわらわり!」

「ドラゴンクロー!」

 

キノガッサのかわらわりとガブリアスの爪が連続してぶつかり合う。振り下ろした拳を爪が受け止め、続け様にドラゴンクローをキノガッサに向けて突き出すが、キノガッサは身軽な動きでガブリアスを飛び越えて回避する。回避しながら再びかわらわりを放つが、ガブリアスはバックステップで回避した。

たった一つの指示でここまでの攻防を繰り広げる両者に会場は圧倒される。チャンピオンとフロンティアブレーンというハイレベルなトレーナー同士のバトル。ダイゴがここに挑戦しに来た時以来のバトルであり、コゴミとしても何も考えず全力でバトルできるこの状況を最高に楽しんでいた。

 

「スカイアッパー!」

「ダブルチョップ!」

 

ダブルチョップの一撃目でキノガッサのスカイアッパーの軌道を逸らし、二撃目でキノガッサを捉える。攻撃を受け、キノガッサはのけぞるが、即座に立て直して反撃に出る。

 

「カウンター!」

 

キノガッサの攻撃がガブリアスを穿つ。ダメージは少なくないが、ガブリアスはのけぞることなく堪えた。

 

「接近戦は望むところよ!ガブリアス、逆鱗!」

 

怒りと狂気によって底上げされた身体能力を最大限に発揮した攻撃がキノガッサを襲う。咆哮と共に振り下ろされた爪をキノガッサはなんとか回避し、逆鱗状態のガブリアスに反撃をしかける。

 

「ばくれつパンチ!」

 

繰り出されたパンチがガブリアスに直撃する。大きなダメージが入るが、怒りに身を任せたガブリアスは止まらない。渾身の一撃がキノガッサを穿ち、ガブリアスに与えた以上のダメージをキノガッサに与える。

 

「まだまだやれるよ!キノガッサ、かわらわり!」

 

かわらわりがガブリアスに直撃するが、同時にガブリアスの攻撃もキノガッサに直撃した。

互いの攻撃によってのけぞり、互いに距離を取った。ガブリアスの目から怒りが消え、通常の状態に戻った。ガブリアスは逆鱗の反動による混乱が無い。理性を飛ばすことなく逆鱗を行えるため、肉体が疲労で限界まで酷使される前に逆鱗状態から戻ることができる。

時間も無い。最後に判定に持ち込んで勝つということは互いに望んでいない。

 

「キノガッサ!ばくれつパンチ!」

 

渾身の力を込めた拳をガブリアスに向けて放とうとガブリアスに迫る。

 

「砂嵐!」

 

ガブリアスはフィールド中に砂嵐を展開する。砂嵐は視界を悪くするだけでなく、特性の砂隠れによりキノガッサの視界からガブリアスが消える。加えて砂嵐の範囲をフィールド全体から自分の周囲だけに狭めることで砂嵐の濃さを増す。

相手が見えなくなったことによりキノガッサは拳に力を込めたまま立ち止まる。少しずつ体力を削る。攻撃力が高いガブリアスの攻撃を受けているため、砂嵐のダメージでもキノガッサには痛いダメージだった。

 

「よく見て。見えにくくなっているだけよ」

 

キノガッサは砂嵐の中で目を凝らす。するとぼんやりとだが、砂嵐の中に影が見え始めた。

 

「そこよ!ばくれつパンチ!」

 

キノガッサは影に向けて拳を放つ。だがその拳がガブリアスを捉えることはなかった。

 

「天空に舞え!ガブリアス!」

 

ガブリアスは跳び、砂嵐の範囲外に出る。

砂嵐内部にいるキノガッサを目視で確認した。キノガッサはまだガブリアスが上部にいることに気付いていない。

 

「キノガッサ!上よ!」

「ガブリアス!ドラゴンダイブ!」

 

重力の力も使い、上部からキノガッサに向けてガブリアスは突撃する。キノガッサは直前にコゴミの指示で気がつくことができたが、その時には既にガブリアスは至近距離まで迫っていた。

キノガッサは咄嗟に回避に移るも、ガブリアスは完全にキノガッサを捉えてドラゴンダイブを決めた。

ドラゴンダイブの攻撃を受けて吹き飛ばされたキノガッサはコゴミの前まで飛ばされた。ボロボロになりながらもキノガッサは立ち上がろうとするが、力尽きて倒れ伏した。

 

『キノガッサ、戦闘不能!よってこの勝負、シロナの勝利!』

「いい〜⁉︎マジっ⁈」

 

審判の声が響き、勝敗が決した。

コゴミは頭を抱えて悔しがる。その額には大粒の汗が浮かんでいた。対してシロナも汗が滲んでいるため、全力でバトルに臨んでいたことがわかる。

 

「あーーーっ!もーーー!」

「さすがね。とても楽しかったわ」

 

フィールドを横切ってシロナはコゴミの前に立ち、手を差し出す。コゴミは悔しそうにしながらも、シロナの握手に応えた。

 

「さすがに強かったです〜…もーちょっとやれると思ったんだけどなぁ」

「結構ギリギリだったわよ」

「そうだとしても、負けは負けです。本気の本気でやったのに勝てなかった。フロンティアパス、貸してください」

 

シロナはコゴミにフロンティアパスを渡した。コゴミはシロナのフロンティアパスに金色のシンボルを刻みシロナに返す。

 

「一日で二回もシンボル刻むことになるなんて思わなかった〜」

「カイム、強かったでしょ?」

「うん。才能は全く感じなかったけどね」

「そう。まあ、実際才能はないわ」

「でもたくさん積み上げた努力がわかった。ポケモンとカイムさん自身は多分、数値的にはそろそろ打ち止めだろうけど、まだまだ強くなれるよ…って、アタシが言うまでもないか」

 

カイムのことは、誰よりもシロナがわかっている。カイムという一般的なトレーナーレベルの才能では、数値的にはそろそろ上限がくるだろう。だが技術において上限はない。技術とセンスを磨けば、彼はまだ強くなれるとシロナはわかっていた。

 

「そうね」

「むきーーっ!でもやっぱり悔しい!今度戦うことがあったらぜーーったい負けないんだから!」

「ふふ、その意気よ」

 

シロナはコゴミに笑顔を向けてフィールドを去る。

会場中から拍手が響き渡り、最高のバトルは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けを背に、シロナとカイムは船着場に立っていた。

 

「もう帰るのか」

 

ダツラは腕を組みながら二人にそう言った。半日程度しか滞在していないが、非常に良い一日を送れた。シロナとカイムはそう思っているし、できることならもう少しいたいとも思っている。

だがホウエン地方の滞在は今日で最後。明日にはシンオウ地方へと帰還するため、これ以上いることもできない。

 

「はい。明日には、シンオウ地方に戻るので」

「そうか…できることなら、俺もあんたらとバトルしたかったよ」

「私もです。ね、カイム」

 

カイムは答えない。ただダツラを見ているだけだった。

 

「…ったく。いいツラするようになりやがって」

「…どーも」

「まあなんだ。ジムリーダー、がんばれよ」

「ダツラさん」

「ん?」

「……いつか、俺とバトルしてくれるか?」

 

カイムの言葉にダツラは一瞬ぽかんとするが、すぐに笑って頷いた。

 

「当たり前だ。お前の腕、今度体感させてくれ」

 

ダツラはカイムの肩を叩きながらそう言った。カイムはそれを受けて表情を動かすことはしなかったが、内心で嬉しく思った。大学時代はバトルをほとんどせず、たまにしても見る価値はほとんどないと思えるものだった。だからダツラの中ではバトルする価値がないと思われているのではないかと卑屈なカイムは勝手に思っていた。

 

「…どーも」

「んなこと言わなくてもしてやるって!」

 

豪快に笑いながらダツラはカイムの後頭部を叩く。

 

「いっ!」

「また会おうぜ」

「…うす」

「ほれ、コゴミも。いつまで拗ねてんだよ」

 

ダツラの側で未だに悔しさが消えないのか、少しむすっとしている。

 

「全力でやって勝てなかったのなんて、ダイゴさん以来だから悔しいの!」

「はは、ボクも結構ギリギリだったよ」

「でも負けは負け!悔しいの!」

 

コゴミがフロンティアブレーンになってから銀シンボルを与えたトレーナーは割といる。しかし金のシンボルを与えたのは片手で数えられる程度しかいない。だからこそ悔しさがコゴミを強く支配していた。

 

「ったく…バトルの後は普通に話してたろ?」

「もう一回やりたいの!勝ち逃げされるなんて嫌ー!」

「駄々こねんな。ガキじゃねえんだからよ」

 

ダツラは呆れながらコゴミの頭にチョップを食らわせる。

それを受けてコゴミは小さく息を吐くと、シロナとカイムに向き直った。

 

「シロナさん!次会った時はぜーったい負けないからね!」

「ええ、受けて立つわ」

「アタシもまだまだ修行して強くなるんだから!」

 

コゴミはカイムに目を向けると、ビシッと指をカイムに向けて言った。

 

「カイムさん。次バトルする時は本気で相手してあげるから。だからもっと強くなってよ?本気のアタシを楽しませられるくらい!」

「…善処するよ」

「うん。それでよし!次は普通の手合わせもしてね」

 

コゴミはウィンクをすると、カイムの額を軽く小突いた。

 

「じゃあ、行くよ。またな、ダツラさん、コゴミ」

「また会いましょう」

「ボクもまた来るよ。じゃあね」

「ああ、達者でな」

「またねー!」

 

三人はダツラとコゴミに手を振って船着場に入っていった。

 

「すごかったじゃないかカイム。初日でフロンティアパスにシンボル刻めるなんてそういないよ」

 

船が来るまでの数分、ダイゴと雑談を重ねる。

ダイゴはもうすぐくるトクサネシティ方面の船で帰宅する。シロナ達はミナモシティ方面の船で帰るため、ダイゴとはここで別れる。

だから最後に雑談でもなんでも話しておきたかった。それはダイゴも同じだったらしい。

 

「ダツラさんが話通してくれたからな。そうでなきゃ、俺はそもそも挑める場所にいない」

「だとしてもさ。シンボルを刻める腕があれば、道中の連戦も勝てるから結果としては同じだよ」

「かもな。でも、改めて思ったよ。お前もシロナも、本当にすげえトレーナーなんだなって」

 

カイムは銀シンボルで限界だった。手加減をしたコゴミ相手に全力で挑み、そしてギリギリで勝利を掴み取った。

カイムが全力でギリギリだった相手に、二人は勝利している。力をつけたからこそ、シロナ達と自分の差がよりわかるようになった。それと同時にシロナとダイゴの二人と出会えたことに対する運の良さに感謝した。

 

「キミが素直にそういうこと言うのは珍しいね。悪い気はしないけど、なんだかちょっと照れ臭いね」

「感謝してる。メタングのことだけじゃなく、色々と世話になった」

「いいって。ボクも色々と助けてもらってるし、それにボク達は友達じゃないか。気にしないでくれ」

「性格までイケメンかよこのやろう」

 

苦笑しながら言うカイムにダイゴは笑う。

そしてトクサネシティ方面の船が到着したアナウンスがロビーに流れた。

 

「船が来たみたいだ。そろそろボクは行くよ」

「ああ。またな」

「うん、またね。シロナさんもまた会いましょう」

「ええ。次はバトルしましょうね」

 

ダイゴはカイムとシロナと握手を交わして、手を振って帰っていった。

ダイゴの背中を見送り、船が出ていくのを見届けたところでミナモシティ方面の船が到着した。

 

二人は船に乗り込む。他の客はまばらにいるが、数は両手で数えられる程度しかいなかった。

 

「人、少ねえな」

「そもそも来られる人が限られているからね。絶対数が少ないのよ」

「そうか」

 

数分後、船が出航する。

夕焼けに照らされる海をぼんやりと眺めていると、連戦の疲れが出たのか、睡魔が襲ってきた。眠そうに目を細めていると、それに気がついたシロナか小さく言う。

 

「眠っていいわよ。着いたら起こしてあげる」

「……悪い」

 

シロナの言葉に甘え、カイムは目を閉じた。程なくして静かな寝息を立て始める。

 

「お疲れ様」

 

カイムにそう声をかけ、無防備に垂れ下がっている手をシロナは握る。指を絡めると、意識が無いはずのカイムはそれをそっと握り返した。実際カイムは意識はなかったが、反射で握り返していた。

普段、カイムの方が早く起きるため寝顔はあまり見えない。少し貴重な寝顔をシロナは堪能する。そして思い立ったようにスマートフォンのインカメラを起動し、カイムの顔を自分の顔に寄せて写真を撮った。

 

「ふふ」

 

もしかしたら嫌がるかもしれないが、カイムが撮りたがらないため二人の写真はまだあまりない。だからこれくらいは許してほしいと内心で少し謝りつつ嬉しそうにシロナは写真を保存した。すると引き寄せた状態のカイムの顔がシロナの肩に乗った。シロナはカイムの頭を優しく撫でると、夕焼けが沈み始めた海を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイム一家と夕食を共にして洗い物を終えると、シロナは風呂を勧められたため入浴を済ませた。

カイムの両親およびイサナは夕食前に入浴を済ませていたらしく、残りはカイムだけとなったため、シロナは髪を乾かすとリビングにいると思われるカイムに声をかけにいった。

 

「カイム、お風呂……」

 

だがリビングにカイムの姿はなかった。いたのは鋭い目つきをしながら今ホウエン地方で行われているダブルバトル大会をテレビで見ながらアイスクリームを食べるナダだけだった。

 

「む」

「あ、えっと…カイムにお風呂空いたことを…」

「…カイムなら、二階の自室にいる。そこから声を上げれば聞こえるだろう」

「ありがとうございます」

 

シロナは風呂が空いたことを二階のカイムに向けて言うと、短いがちゃんと返事が返ってきた。

それを確認したシロナはナダの手元にあるものを見る。ナダが食べていたのはツンベアーアイス。イッシュ地方で食べたことがあるが、かなりシロナ好みのアイスクリームだった。

だがナダのように見た目が厳格な人が食べるのは少々意外だった。

 

「…む」

 

ナダはシロナの視線が手元のアイスにあることに気がつくと、一言こう言った。

 

「食うか?」

「え」

「まだいくつかある。食うか?」

「…いただきます」

 

アイス好きなシロナとしては、断れるわけもなくナダの申し出を受けた。ナダは冷凍庫からカップアイスを取り出し、スプーンと共にシロナに渡してきた。

 

「ありがとうございます」

「……」

 

ナダは無言で頷くと再びアイスを口に入れる。

シロナもカップを開いてアイスをすくうと、口に入れた。冷たさと甘さが口の中に広がり思わず笑顔になってしまう。

そんなシロナをナダはじっと見つめており、シロナはその視線に気づくと顔を少し赤くした。

 

「良い顔で食べるのだな」

「す、すみません…」

「あげたこちらとしても、良い顔をしてくれた方が気分が良い。だから気にしないでくれ」

 

ナダは最後の一口を食べ、スプーンを置いた。

 

「……私のような厳つい男がこのようなアイスクリームを食べるのは、イメージに合わないだろうか」

「合わないわけではありませんが、意外ではありました」

「…やはりか。学校でソフトクリームを食べているのを生徒に見られて以来、あだ名がソフト先生になってしまった。しかし、なんと言われても好きなものは好きなのだ」

 

どうやらナダは学校ではあだ名をつけられるくらいには生徒に親しまれているらしい。カイムはポケモンだが、好かれるベクトルがカイムと同じでやはり親子なのだろう。

 

「シロナさん」

「は、はい!」

「カイムは、どうですか」

 

言葉が足らずに抽象的な問いかけにシロナは首を傾げる。それを見たナダは言葉を続けた。

 

「トレーナーとして、そして学者としてどうですか」

「ああ、なるほど」

 

シロナは一度言葉を切ると思い出すように語り始める。

 

「ナダさんもご存知でしょうが、カイムは今ジムリーダーとして活動しています。まだまだ伸ばせる部分はありますが、トレーナーとしては一人前と言っても差し支えありません」

「……そうか」

「学者としてはまだ結果は残せていませんが、今彼は論文を書くために奮闘してます。資料が揃い次第、論文の執筆に入ると思います」

「論文…!カイムが…」

「意外ですか?」

 

目を見開くナダにシロナがそう聞くと、ナダは頷いた。

 

「あの子は、私に似ている」

「似ている…?」

「私もかつてはトレーナーとして名を挙げることに憧れた。しかし、己の才能に限界を感じて諦め、科学者を目指して大学へ行った。あの子と同じように」

 

ナダは懐かしむように家族の写真を見つめる。

 

「結局、科学者になることもできず教師になった。どんなに努力しても、届かない場所があることを思い知らされた」

「……」

「イサナは…私が気にかける必要もないくらいの才覚を持ち合わせていた。だから好きにやらせた。イサナの多才さは、タキ譲りだろう」

「タキさんも多才だったんですか?」

「ああ。ホウエンリーグベスト4だ」

 

ベスト4というと、四天王レベルだ。イサナも凄まじかったが、タキも相当な才能を秘めていたらしい。

 

「すごい…ベスト4なんて四天王レベルじゃないですか」

「うむ…若い頃のタキは、それはすさまじ…」

「あら〜、私のお話かしら?」

 

ナダの背後からぬるりとタキが姿を現した。それに驚いたシロナは思わず声を上げそうになったが、ギリギリで踏みとどまった。

 

「タキ、その現れ方いい加減やめないか?」

「いやよ〜面白いもん」

 

タキは笑いながらナダの隣に座った。

 

「イサナとカイムの話よね?」

「あ、はい」

「ふふふ…可愛かったわ〜二人とも」

 

タキも飾ってある家族写真に目を移し、懐かしそうに目を細めた。

 

「イサナは自由だったわね〜。なんでも勝手に決めてお父さんとしょっちゅう喧嘩してたわね〜」

「………そう、だったな」

「そうよ〜。それに対してカイムは素直だったけど、イサナにできなかった分お父さんは特別厳しくしてたわね〜」

 

ナダは目を閉じ、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「…カイムが、私の凡才な癖に高みを望む部分を受け継いでしまったのでな。将来、何を目指すにしても、それに向けて基礎となることを叩き込んでいたが…今にして思えばやりすぎだ。あの子が私達に何も言わないのも、仕方ないかもな」

 

確かにカイムは厳しくされたと言っていたが、ナダの考えているような感情を抱いているとは考えづらい。そう考えたシロナはそれを口に出した。

 

「いえ、カイムはそう思ってないと思います」

「え?」

「カイムは、厳しくされたとは言っていましたが…それでも両親には感謝しているって言ってました。やりたいことは全力で後押ししてくれたこと、とても感謝してるみたいですよ」

「そう、なのか?」

「はい。その結果、今はジムリーダーですし、学者としても順調に力をつけています。私と出会ったのも大学でした。だからお二人の行動が、彼をここまで引き上げるきっかけをつくったんだと思います」

 

カイムと出会ったのは大学。もしナダがカイムの大学に行きたいという願いを聞き入れなかったら、シロナは今この場にはいなかった。

結果論ではあるが、ナダがカイムの望みを叶えていなければカイムはここまで成長することもなく、シロナもチャンピオンの座をヒカリに譲っていた。

 

「だってよ。お父さん」

「…む」

「ふふ、照れないの」

「カイムは今、ジムリーダーであり、学者としても力をつけています。もうちゃんと一人前です」

 

シロナの言葉を聞いてナダは小さく笑う。

 

「…そうか。ジムリーダーに学者か」

「嬉しそうね」

「ああ。とても誇らしい」

「だってよ。よかったじゃない」

 

ナダの言葉を聞いたタキはリビングの扉に向けて言った。ナダは何のことかわからず首を傾げたが、シロナは扉の外にある気配に気づいていた。

扉の外にいたカイムは特に何も言うことなく、物音を立てずにその場を立ち去った。

気配が去っていったのを感じると、シロナは再びアイスを口に含むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

ミナモシティ港

 

「お世話になりました」

 

カイムと並んで立つシロナは、見送りに来たカイム一家にそう告げた。

 

「また来てね〜」

「またいらしてくれ。歓迎する」

 

タキとナダはいつものテンションでそう告げて、シロナと握手を交わす。その二人の隣にいたイサナは抱っこした息子、グウラの手を取って二人に振る。

 

「ほら、またねって」

「またね、グウラ」

 

シロナはグウラの頭を撫でて言った。撫でられたグウラは嬉しそうに笑い、シロナの指を握る。

そんなグウラにシロナは笑いかけると、イサナに目を向けた。

 

「イサナさんもお世話になりました」

「いーのいーの。楽しかったし、アタシとしても色々とよかったから」

 

快活に笑うイサナとも握手を交わしてシロナは荷物を持ち上げる。

対してカイムは荷物を一度足元に下ろすと、イサナに向き直った。

 

「姉貴」

「ん?」

「またな」

 

ただ一言。それだけだったが、イサナにはそれで十分だった。

 

「ん、またね。たまには連絡してよ?アタシだけじゃなくて、お父さん達にも!」

「善処する」

 

カイムは両親に目を向け、言った。

 

「また連絡する」

「…ああ」

「いってらっしゃい」

「…いってきます」

 

カイムはシロナと共に家族に手を振ってゲートに入っていった。

ゲートを潜り、ロビーへと辿り着く。するとロビーの入り口で二人の人影がシロナとカイムを待っていた。

緑色の髪が特徴的な端正な顔立ちをした男性とサングラスをかけた少女だった。

 

「あら、ミクリさん」

「やあ。数日ぶりだね」

 

ミクリはそう言ってシロナとカイムに笑いかける。それと同時に隣の少女はサングラスを取った。

 

「ルチアちゃんも」

「こんにちは。シロナさん、カイムさん」

 

少女…ルチアは笑顔で二人を出迎えた。どうやら見送りにきてくれたらしい。

 

「今日帰るって聞いたからね。最後に挨拶しておこうと思って」

「ここロビーなんすけど…」

 

ゲート奥のロビーはチケットがないと入れない。だが二人は平然とそこにいた。

 

「ここの責任者と知り合いでね。見送りたいが、あまり騒ぎになっては迷惑になりかねないから融通してもらったのさ」

「なるほど。そりゃそうか」

 

こんな有名人が平然と港にいたら他の業務に支障が出かねない。だからこの配慮は必要なものだろう。

 

「ルチアを君達に同行させてくれてありがとう。とてもいい経験ができたみたいだったから」

「喜んでもらえてよかったわ」

「とっても良い経験になりました!ありがとうございました」

「いいのよ。こちらも助けてもらったのだし」

 

ミュウを発見すること自体はルチアがいなくてもできだろうが、ルチアがいたおかげで発見までの時間を大幅に削減できた。これはシロナとしては大きなものだった。

 

「聞いた話だと、私の船をイサナが操縦したとか」

「ええ。免許も持ってたので。ダメでしたか?」

「構わないが、しかし相変わらず彼女は多才だね。変わってなくて安心したよ」

 

ミクリは昔を思い出し楽しそうに笑った。二人の関係性はよくわからないが、悪い関係ではないことがよくわかる。

 

「あまり話せなかったが、君達に会えてよかったよ。特にカイム君。君とはまた今度じっくり話したい」

「俺もです」

「シロナさん!また今度お話ししましょうね!」

「ええ。喜んで」

 

そこでシンオウ行きの船の搭乗が始まるアナウンスがロビーに流れた。

 

「どうやら時間みたいだね」

「最後に会えてよかったわ。また会いましょうね」

「はい!」

「世話になりました。また」

「うん。また会おう」

 

シロナとカイムは二人に手を振ってロビーを後にし、船に乗り込んだ。

港ではカイム一家とお忍びの服装で手を振るミクリとルチアの姿が見えた。彼らに手を振り、別れを告げる。

 

「どうだった?久しぶりの帰省は」

 

見送ってくれた彼らの姿が見えなくなると、シロナはカイムにそう聞いた。来る時は非常に嫌そうな顔をしていたが、今のカイムの顔はどこか晴れやかで穏やかなものだった。

 

「……そうだな」

 

カイムは遠くなっていくホウエン地方を見ながら小さく笑う。

 

「悪くなかった」

 

色々な蟠りを解消するだけでなく、自身の成長を確かに実感できた。十分すぎる一週間だったと、カイムは胸を張って言える帰省だった。

 

「そう」

「シロナは?」

「ええ。私も、とてもいい時間を過ごせたわ」

 

いい出会いだけでなく、貴重な体験やバトルができた。十分すぎるほど充実した時間を過ごせたと、シロナも断言できるほど満ち足りている。

 

「貴方がいてくれたおかげね」

「お互い様だ」

 

二人の手がそっと触れ、指を絡め合う。

 

 

 

潮風を感じながら、二人はホウエン地方に別れを告げて日時へと戻っていった。

 

 

 

 




第二部はこれで終了です。
一応これでカイム君の数値的能力はほぼカンストです。現時点のポケモン達のレベルは次回の後書きに記載します。(メタングとトリトドンがまだ育成途中でカンストしてないから)
尤も、数値がカンストしただけで技術は上がります。だから彼はまだ強くなれます。

この世界線では手加減ブレーン≒本気ジムリーダー、本気ブレーン≒四天王くらいの力加減にしてます。
ゲームだとまず間違いなくブレーン>>>チャンピオンくらいになってますが、アニメとかだとチャンピオンの方が強そうな扱いを受けてるのでこうなりました。

カイムのバトルよりもシロナさんのバトルの方が文字数が多いです。その主な理由として、シロナさんの方が高速かつ高次元でバトルができているからです。あと単純にカイムがそこまで高速バトルが上手くないから。バトルアリーナは多分カイムと相性悪い。

シロナ
一日でガッツシンボルを金色に染めたゲームで考えれば恐ろしい人。どんなバトルでもトップクラスに強いから運要素のあるバトルチューブ以外は初見でクリア可能。

カイム
割と苦労した学生時代を送ったことが判明。お母さんになりがちなのに最近歳下扱いされることが多い。実際なんだかんだコゴミを除けば今回最年少。高速バトルが苦手だが、苦手なりに頑張ってガッツシンボルをゲットした。多分他の施設でも銀シンボル止まり。

ダイゴ
ホウエン地方では色々顔が広い。今回出番が少なくて作者的には残念。またどっかで活躍してもらうつもり。

ダツラ
実はカイムの先輩。彼が博士後期課程(所謂ドクター)二年の時図書館でカイムに出会い、それ以来色々とカイムを巻き込んでやってた。金ネジキのせいでこっちのファクトリーはイメージちょっと薄くなりがちだが、クリアするのは死ぬほど難しかった。

コゴミ
スモモと同じ格闘少女。そのわりに使ってる格闘ポケモンはヘラクロスとキノガッサのみ。エースと思われるポケモンがカイムと同じブラッキーだから今回出てもらった。これを機にカイムのブラッキーはもう一段階強くなる。

ナダ
カイム同様凡人。不器用な人だが、色々考えてる。

タキ
イサナ同様天才だがその才能の全てをイサナが持っていった。実はタキがナダに一目惚れして猛アタックしたという裏話もある。


次回は閑話を挟んで3部へと突入します。


あとまだ先になるのですが、PWTにおいてシロナさんがバトルするチャンピオンを誰にするかアンケート取ろうと思います。
バトルする候補として、ワタル、ダイゴ、アイリス、カルネ、ダンデ、ミクリ、そしてレッドです。
本編でバトルできるのはトーナメント形式故に三人までです。普通のアンケートでは一人しか入れられないけど『こういう組み合わせで見たい!』というのがあればメッセージでも送ってください。通るかはわかりませんが送るだけなら無料なので。
また、本編で仮に選ばれなかったトレーナーも番外編としてバトルを書くつもりです。希望の選ばれなかったとしても、ちゃんと書きますのでご安心ください。

二人がまったり年越しする短編を見たいですか?

  • みたい
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  • 本編優先で書いてほしい
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