前回、『少し』多めの砂糖をお送りしたのは今回からトーナメントでガチバトルがほとんどになり砂糖が少なくなるからです。
今後二、三話はこんな感じです。
一話につき一回戦でやっていきます。
そして前回の感想で多数ご指摘をもらいましたが、私はハイキューとサマーウォーズが大好きです。ハイキューは名言の宝庫、サマーウォーズは栄おばあちゃんがいいキャラすぎるから。
23話です。
目の前に聳え立つ巨大で荘厳な建物を前に、シロナとカイムは大きく息を吐いた。
「…ここが、セキエイ高原」
セキエイ高原
ポケモンリーグの総本山であり、カントーリーグ大会が行われる場所でもある。そのすぐ側にはシロガネ山がポケモンリーグを見下ろすように聳え立っていた。
カントーリーグは初めてポケモンリーグが発祥した場所であり、それ故かリーグのレベルも現在存在しているポケモンリーグの中で最も高いと言われている。
「…初めて来た」
「私もよ。当然映像で見たことはあるけど、実際来たのは初めて」
シロナはシンオウ地方、カイムはホウエン地方出身。そのため他地方のリーグに参加したり現地に行って見物したりすることもない。映像で試合を見ることはあっても、現物を見る機会はないに等しい。
「………」
これから始まる祭典…それを考えただけで気持ちが上がってくるのがわかる。こんな最高のトレーナーが集まる場所に出場できる。トレーナーとしてこれほど名誉なことはそうないだろう。
「覇気が剥き出しだぞ」
「あら、ごめんね。つい気分が高まっちゃって」
あまりの戦闘狂っぷりにカイムは呆れてため息を吐く。強いトレーナーとのバトルは心が躍るのもわかるが、ここまでの覇気を無意識に出すほどとは思わなかった。
「……私は、誰とバトルできるかしら」
今回の大会に出場するのはシロナ、ワタル、ダイゴ、ミクリ、アイリス、カルネ、ダンデ、レッドの八人。シロナが決勝まで進めたとしてもバトルできるのは三人。全員とバトルすることはできない。
「トーナメント表は今日の開会式の時に抽選するんだっけか」
「ええ。だからまだわからないのよね」
今回出場するトレーナーの中でシロナが関わりがあるのはダイゴ、ミクリ、アイリス、カルネの四人。どうあがいてもこの大会の中で全員とバトルすることは不可能。
アイリスとは軽く手合わせをしたことはあるが、あの時は決着は付かなかった。以前出会ったカルネとも簡単に手合わせはしたが、当然決着は付けていない。ダイゴとミクリは以前最果ての孤島の時ホウエン地方に訪れた時に出会ったのが初対面だったためバトルすらしていない。彼ら全員の全力を知ってみたいが、それが叶わないのが残念でならない。
「楽しみだわ」
「気持ちはわかるが、初手からはしゃぎすぎて体力切れになるなよ」
「貴方がそこはうまくやってくれるでしょ?」
「それが俺の役目だ」
サポーターとしてポケモン達だけでなくシロナ自身のコンディションを完璧にする。それがカイムの役目であり、それをシロナもカイムも望んだ。
「全員分のデータは頭に入ってんだろ?」
「もちろん」
「ならあとはコンディションだけだ。はしゃぎすぎんなよ」
いくらカイムがコントロールするとは言っても結局本人の意識次第。少し強めに釘を刺しておかないと暴走しかねないと考えたカイムは繰り返しはしゃぎすぎないようにシロナに言った。
「ええ、大丈夫よ」
シロナは優雅に笑うが、これでいて意外と子供っぽいところがあるシロナは暴走しかねない。多少夢中になっても問題ないくらいの体力と気力を持ち合わせているためどうにかなることの方が多いが、チャンピオンレベルの強敵と戦う以上体力は温存できる場所はしておくに限る。
既に少し心配になってきたが、カイムは同時にシロナの強さを最も信頼している。彼女なら、このトーナメントで優勝することだってできる。そう信じてカイムもこの場に立っている。
(…また、見られるんだな)
またあの時、自分をバトルという世界に引き戻した鮮烈に戦うシロナの姿を見ることができる。そう考えただけで出場しないカイムですらどこか心が沸き立つような思いに駆られていた。
これから始まる大会に心を躍らせている二人に声がかけられる。
「これはこれは…珍しい客人だ」
声がした方向を見ると、赤髪でマントを羽織った男がポケモンリーグスタジアムを見上げて立っていた。
「あら、まさか出迎えてくれるなんて思ってもいなかったわ」
「はは、オレも誰かを出迎えたりする予定ではなかったんだがな。なんとなくここに来たら、実に珍しい人がいただけさ」
男はシロナに向き直る。
「はじめまして。オレはワタル。カントーリーグチャンピオンだ」
ドラゴン使いのワタル。育成が難しいドラゴンタイプのポケモンを手懐けるカントー地方のチャンピオンだ。数年前は四天王最強のトレーナーとして君臨していたが、グリーンに敗北。そのグリーンがレッドに負けてカントーからいなくなり、レッドも雲隠れのようにどこかへ消えた。レッドが一度座ったチャンピオンの椅子だけが残され、ワタルはそこに座っている。レッドとグリーンがいなくなったからチャンピオンに繰り上げられた、などと心無い言葉を使う人間もいたが、グリーンとバトルした時よりもさらに研鑽を重ねたワタルはチャンピオンの名に恥じないほどの実力を持ち合わせている。現にチャンピオンに就任して以来、ワタルは無敗記録を保っている。
「貴女のお話はよく聞きますよ。十年以上無敗記録を保っているシンオウ地方チャンピオン」
「ふふ、高名なカントーリーグチャンピオンにそう言ってもらえるなんて嬉しいわ。では改めて…」
シロナはワタルに向き直ると覇気を纏いながら手を差し出した。
「私はシロナ。今回はシンオウ地方チャンピオンとしてこの大会に参加させてもらうわ」
「…ああ、よろしくな」
ワタルもシロナに負けないほどの覇気を放ちながらシロナの握手に応える。互いに覇気をぶつけ合う空気は凄まじい圧力であり、並のトレーナーならば投げ出してしまいそうなほどの圧力だった。
「貴方と…いいえ、貴方ともバトルできることを楽しみにしているわ」
「フフ…オレもだ。だが知っての通り今回はトーナメント戦で当たれるかどうかはわからないがね」
ワタルは手を離すと好戦的な笑みを浮かべ、シロナも優雅な笑みを向けた。
「そうですね。抽選や試合の結果次第では当たれないこともあるでしょう。ですが、誰が相手でも負ける気はしない。そんな思いを抱えているのはみんな同じでしょう?」
「さて、オレが貴女とバトルする機会があるかはわからない。だが、誰が相手でもオレのドラゴン軍団は簡単には屈しない」
ドラゴンタイプという扱いも難しく育成も難しいタイプを手懐ける。それがどれほど難しいか、一流のトレーナーであるシロナはよく理解している。
ワタルはポケモンリーグスタジアムを見上げる。
「ここに来るトレーナー達は誰もが猛者ばかり。そしてその中でも最高レベルの実力を持ったトレーナー達がしのぎを削り合う大会。そんな大会が開かれるとなると、どうも浮き足立ってしまうな」
「ええ、わかります」
シロナも最高峰のトレーナー達とバトルができるというだけで心が落ち着かない。どれだけ激しく、そして楽しいバトルになるのか想像を絶する。だからワタルの言っている言葉はとてもよく理解できた。
ワタルは目を伏せるとシロナの方に視線を戻した。
「ところで…」
そのまま視線をシロナの隣にいるカイムへと向ける。視線を向けられたカイムは背筋に冷たいものを突き刺されたような感覚に襲われた。
「っ!」
「君は?」
シロナに向けた挑発するような覇気とは違う、どこか品定めをするような視線。その迫力に押されそうになるが、カイムはぐっと堪えてワタルと向き合った。
「…俺は、シロナのサポーターです」
「ほう、サポーターか。ふむ…悪くない面構えだ。見たところ、君もトレーナーかな?」
ワタルはカイムの腰についているボールを見てカイムをトレーナーだと予想した。
「はい」
「…君のポケモンを見せてくれないか?」
「え?」
ワタルにそう言われ、全く予想していなかったカイムは思わず固まる。だがワタルの真っ直ぐな視線を受けて冗談の類ではないと判断したカイムはボールからブラッキーとバシャーモを出した。
「ほう、ブラッキーとバシャーモか」
ワタルは二匹を眺める。そしてカイムの足元で首を傾げるブラッキーの頭を屈んで撫でた。
そしてどこか納得したような顔をしてカイムに向き直った。
「君、いいトレーナーみたいだな」
「え…ああ、どうも」
「ポケモン達といい信頼が築けているし、良く鍛えられている。かなり強いだろう、君」
「…どうでしょう。さすがにチャンピオンを相手にできるほどではありませんが」
そこで言葉を一度切ると、カイムは言った。
「多少はできますよ」
カイムの言葉と同時に雰囲気が少し変わる。力強く、鍛えられた覇気。レッドやグリーンのような鮮烈なものではないが、カイムもトレーナーとしてはかなりの腕前があることをワタルはこれだけで読み取った。
「…そうか」
ワタルは立ち上がり、カイムを見据えて言う。
「君は、サポーターと言っていたね」
「はい」
「君自身が頂点を目指そうとは思わないのかい?」
ワタルはカイムのことを知らない。だから今この場のカイムがトレーナーとしては上位レベル…それこそジムリーダーレベルの実力を持っている程度しかわかっていないため、カイムというトレーナーに才覚と呼べるものがないことはわからない。だからジムリーダーくらいの腕があるのなら上を目指してもいいのではないかと思った。
そんなワタルを相手に、カイムは穏やかな雰囲気で言った。
「目指していますよ」
「え?」
「俺自身の実力を上げることは当然してます。でも、それ以上に俺は…自分と一緒に上を目指す人と頂点を取りたい。そう思ってます」
自分では頂点の景色は見られない。だが、シロナを頂点の景色に登らせる後押しはできる。自分の大切な人が目指す場所に行くために支える。それが自分の役目であり、望んだことだった。
「なるほどな。これほどの腕を持つトレーナーをサポーターとしているとは……これは、手強いな」
「ええ。簡単にはやられませんわ」
「だろうな」
ワタルはマントを翻しながら歩き始める。
「当たれるかはわからないが、当たれたら存分に楽しみましょう。オレのドラゴン達が全力で貴女を迎え撃つ」
「ええ。私も、私の持ち得る全てで相手をします」
「ではまた」
そう言ってワタルは去っていった。
ワタルが去っていったことを確認すると、カイムは大きく息を吐く。
「すげえ圧。半端ねえな」
「これがチャンピオンよ。少しは慣れてるはずじゃない?」
恋人にシロナ、親友にダイゴがいる以上、多少なりとも耐性はある。もし今この場に旅に出たばかりの新米トレーナーがいたらあまりの圧力の強さに腰が抜けていただろう。
「そうだな。多少慣れてはいるが、それでも一般人にあの覇気はきつい」
世間的に見ればカイムは既に一般人と言うには相応しくない存在だが、チャンピオンというバトルを極めた人と比べたら一般人に近い。いくら猛者達の中で鍛えられたとはいえ、カイム自身はチャンピオンたり得る存在ではない。
「でも良かったわね。良いトレーナーって言われたじゃない」
「どっかの誰かがめっちゃ鍛え込んでくれたんでな」
「そう。じゃあきっとその人も弟子のことを認められて嬉しかったと思うわ」
「……ああ」
自分に頂点を取ることはできないし、目指すこともできない。
でも大切な人は頂点を目指せる。ならば頂点の景色を見てもらうための一助になりたい。そうカイムは思っているし、シロナもその思いを受け取り、本気で頂点を目指している。
実際に闘うのはシロナとポケモンだけ。だが決して一人で闘うわけではない。自分を支えてくれるたくさんの人と、隣で信じてくれる人がいるだけでどこまでもいける。そう思えた。
改めて決意を胸に宿し、シロナはセキエイ高原へと足を運び、カイムもその隣を歩いていった。
*
開会式の打ち合わせのために出場者全員が一つの部屋に集められた。集まったトレーナー達は誰もが名だたるトレーナー達。先ほど会ったワタルをはじめとし、各地方の最強のトレーナーが集結した。その中には赤い帽子を被った少年の姿もある。
打ち合わせが終わり、一度解散になった時、浅黒い肌をした少女がシロナの元に駆け寄ってきた。
「シロナさーん!」
「アイリスちゃん。元気だった?」
「元気だったよ!」
元気に笑う少女はアイリス。イッシュ地方現チャンピオンを務めるドラゴンタイプ使いだ。夏頃にカトレアの別荘に行った際に知り合い、そこでシロナに懐いた。
「あたしね!今日が来るのすっごく楽しみにしてたんだ!こんなすごい大会に呼んでもらって本当に嬉しい!」
「ふふ、そうね。私もよ」
アイリスの口調からどれほどこの日を楽しみにしていたかがわかる。アイリスはいつも元気で楽しそうにしている少女だが、普段からは感じられないほど口調から楽しみであったことが読み取れる。
「この大会のためにあたしいっぱい修行してきたの!あたしができる最大限の力でこの大会に挑むためにね!」
「私も。こんなすごい場所に招待されたんだし、最高のパフォーマンスを見せたいものね」
「うん!それにね!あたし、あの時の続きをやりたいって思ってたの!」
アイリスの言うあの時とは、以前サザナミタウンに行った時にシロナのガブリアスとアイリスのオノノクスでバトルをした時のことだろう。あの時は周囲に配慮し、互いに全力ではなかったことに加え、制限時間を設けていたため決着が付くことはなかった。
「そうね。私も決着を付けたいって思うわ」
「今回の大会はトーナメントだし、当たれるかはわからないけどね。でも、でもね!あたしあの時バトルしてて思ったの!こんなに楽しいバトルを本気でやったらどうなるんだろうって!だからね!」
そこで一度アイリスは言葉を切ると、幼いながらも凄まじい覇気を纏いながらシロナと向き合った。
「あの時の続き!できるかはわからないけど、できるようにあたし頑張るよ!」
アイリスはチャンピオンとしては一番幼く、チャンピオンに就任したばかりであるため経験も少ない。だがそんなことは本人もわかっている。その上でこの大会を勝ち抜けるように全力を尽くすと言った。幼いアイリスの決意を受けたシロナは好戦的な笑みを浮かべて頷いた。
「私も頑張るわ。誰とバトルしても、全力でやりきっていく。願わくば当たれるように願って、お互い頑張りましょう」
「うん!」
アイリスの弾けるような笑顔にシロナも満面の笑みで返すのだった。
会議室からアイリスと共に出て、途中で別れる。
そのままシロナは集合時間までカイムのもとで調整でもしようと考え、スマートフォンを取り出してカイムに電話をかけた。
「もしもしカイム?」
『ああ。打ち合わせは終わったのか』
「ええ。今どこ?」
『会議室付近の通路だ』
「あら、近いわね。じゃあ待ってて。すぐ行くわ」
電話を切ると、シロナはカイムがいる場所に向けて歩き始めた。
その瞬間、シロナの背中に向けて声がかけられる。
「シロナちゃん」
その声を受けてシロナが振り返ると、そこには黒服のシロナとは対照的に白い服を着こなした短髪の美女が立っていた。
「カルネさん!」
「久しぶりね、シロナちゃん。会いたかったわ」
声をかけてきたのはカロス地方チャンピオンのカルネだった。シロナと同じ女性チャンピオンで、カロス地方で女優も務めている。傍らにはカルネの相棒であるサーナイトもいる。
「久しぶり!会えて嬉しいわ」
「ふふ、あたしもよ。最後に会ったのは…一年以上前かしら」
「そうね。カルネさんがシンオウ地方に撮影に来た時だったわ」
「あれからどう?元気だった?」
「もちろんよ。カルネさんは?女優とチャンピオンの兼業って忙しいでしょ」
「忙しいけど、貴女も似たようなものでしょ?」
楽しそうに笑いながらカルネは言う。実際学者とチャンピオンを両立させているシロナも相当忙しい。細かいところをカイムが助手としてやってくれるようになってからかなり楽にはなったが、それでも忙しいことに変わりはない。
「それはまあそうだけど、カイムが助手になってくれてからかなり楽になったわよ」
「そう?それならいいけど無理しないようにね」
「お互い様よ。カルネさんの出演してる映画やドラマは大体見てるわ。売れっ子女優なんだし、身体壊さないようにね」
「ふふ、心配されちゃった。あ、そういえばカイム君は?ここにも来てるんでしょ?」
カルネが最後にシロナに会った時、カイムは既に助手としてシロナについていた。
そしてその時にはもう付き合いたてのカップルのような雰囲気になっていた。だからカイムも来ているだろうとカルネは考えた。
「今から合流するところよ。よかったら会う?」
「ええ、是非会いたいわ」
「ふふ、じゃあ行きましょ」
シロナはカルネと共にカイムの元へ向かっていった。
少し歩くと、人の往来の中にカイムの姿を見つけた。傍らにはルカリオもいる。
「あ、いた。カイム!」
「ん、ああ」
カイムもシロナに気がつくと、すぐに駆け寄ってきた。
そして隣にいるカルネの存在にも気付いて声を上げた。
「って、カルネさん」
「久しぶりね、カイム君。元気だった?」
「はい。カルネさんも元気そうですね」
相変わらず表情はほとんど変わらないが、雰囲気はどことなく逞しくなっている。カルネが見ない一年近い時間に相当腕を上げたことが雰囲気からわかった。
「ふふ、少し会わない間に随分腕を上げたみたいね?」
「ああいや…まあそうですね。さすがに一年経てば腕も上がります。それに、ポケモン達が頑張ってくれたんで」
「相変わらずポケモン本位の動き方ね。そういうところ、素敵だと思うわよ」
「どうも」
無愛想な返事だが、チャンピオンほどの人物にそう言われて嬉しいのかなんともいえない表情になっていた。
カルネはカイムの首から下がっている『supporter』と書かれたIDを見ると言った。
「カイム君はサポーターとして来てるのね」
今回の大会のルールとして、選手は二人までサポーターを登録できるというものがあった。サポーターとして登録された者は選手と共にバックヤードに入ることを許可され、選手のサポートを行うことが許される。
「ええ。助手なんで」
「学者としてもトレーナーとしてもサポートしているのね。いいわね、そういうの。二人の信頼がよくわかるわ」
「まあね。私のことをここまでわかってる人もそういないし、ポケモン達とカイムの相性もいいからね」
実際シロナのポケモンとカイムの関係はいい。シロナのポケモン達はポケモンに対しても真摯に接しようとするカイムにも懐いている。現状シロナのサポーターとしてこれ以上の人物はいないだろう。
「いいわね。そこまでサポーターとして優秀なら私のマネージャーもやってもらおうかしら」
「勘弁してください。サポーター以外にも自分の仕事もあるんですから」
「ふふ、冗談よ。でも貴方みたいなサポーターは貴重だわ。大切にしないとね」
「わかってるわ」
実際ここまで相性のいいサポーターはいない。だからこそそれ以上の関係になったというのもあるが、大切にするということに関しては言われるまでもなくしている。
「ここで立ち話もあれだし、少し移動しない?色々と話したいこともあるし」
「いいわね。二人の関係がどうなったのかも聞きたいしね」
「あら、それに関してはいい話ができるわよ」
楽しそうに話す女性二人を目の前にカイムは苦い顔をした。この二人はとても仲が良く、話し始めると長い。加えてシロナとの関係の話となると、気恥ずかしい話になることは間違いない。
「ほら、カイムも」
「…わーったよ」
シロナに手を引かれてカイムはシロナとカルネの後に続くのだった。
ーーー
開会式二十分前
「遅れちゃった。急がないと」
カルネとしばらく調整や雑談をしたあと、カイムと共に(イチャコラ)過ごしていたら集合時間ギリギリになっていた。
指定された時間まであと五分強。間に合うだろうが、早めに着いておくことに越したことはない。
「ん?」
通路を小走りで進んでいくと、地図の前で腕を組む浅黒い肌をした男が立っていた。
「うーん。ここはどこだ?」
シロナはその男に見覚えがあった。
ガラル地方のチャンピオン、ダンデだ。集合時間ギリギリなのになぜこんな場所で悠長にしているのだろうと思ったが、ダンデの呟きが聞こえてきたため迷ったのかもしれないと考えた。
「あの…」
「ん?おっ!確か貴女はシンオウ地方チャンピオン!」
「あ、はい。ダンデさん、ですよね」
「ええ」
「もしかして、道に迷いましたか?」
そうシロナが問いかけると、恥ずかしそうに笑いながらダンデは頷いた。
「いやあ、恥ずかしながらその通りです」
正直、集合場所までそう距離はないしなによりそんなにわかりづらい場所にあるわけでもない。なのに辿り着けないことから察するに、ダンデは相当方向音痴なのかもしれない。
「私も今から行くところだったんです。良ければ、一緒に行きませんか?」
「おお!それは助かる!俺だけじゃ、多分辿り着けないんで」
「そうですか。時間もありません。行きましょう」
そう言ってシロナはダンデを伴って集合場所へと向かっていった。
ものの数分もかからず二人は集合場所へとたどり着く。そこには既に他のチャンピオン達が集まっており、開会式本番前の時間を思い思いに過ごしていた。
ダンデはシロナに向き直ると照れたように頭をかきながらシロナに礼を言った。
「いや助かりましたよ、シンオウ地方チャンピオン。道に迷ってしまいまして」
「いえ、大したことではありません。お互い間に合ってよかったです」
シロナも珍しく時間はギリギリだった。結果としては間に合ったが、こういうことは減らそうとシロナは内心で反省した。
「この借りはバトルで返しますよ。俺の持ち得る全てを以て貴女の相手をします」
「ふふ、嬉しいです。当たれるかはわかりませんが、当たれたら私も私の全力を以て戦いますね」
「当たれますよ。なんでかはわからないけど、そんな気がするんです」
ダンデの言葉に論理的な説得力はない。だがその言葉には何故か信憑性があるように思えた。たとえ直感だとしても、シロナもダンデと当たれるんじゃないかと思わせる何かが感じられた。
「…そうですか。もしかしたら、本当に当たれるかもしれませんね」
「ええ。楽しみにしてます」
そのダンデの言葉と同時に集合場所の先に見えるスタジアムの灯りが消えた。
それと同時に実況の声がスタジアムに響く。
『皆さま!お待たせいたしました!今宵私達は歴史的瞬間を目にすることになります!』
スポットライトがスタジアムの中心を照らす。その場所には、黄金に輝くトロフィーが鎮座しており、ライトの光を受けて更に輝いた。
『世界中の地方からポケモンバトルを極めた猛者達が今ここに集結いたしました!誰が勝ってもおかしくないこのトーナメントを勝ち抜き!栄光ある頂点を手にするのは誰なのか!それがポケモンリーグ発祥の地、セキエイ高原で決まります!』
観客の歓声が響く。どれほどこの時を待ち望んだのか。それは選手だけでなく観客達もそうだ。ある意味で世界一を決める闘いをこの場で目にすることができる。それだけで興奮する要因になり得る。
『では早速!この大会に出場する猛者達の紹介をしていきます!まずはこの人!ドラゴンといえばこの男!ここカントーリーグのチャンピオンに就いて以来、無敗を誇り!数々の挑戦者を倒して来たドラゴン使い!ワタル!』
歓声と共にスポットライトを浴びてワタルが歩いていく。その傍らにはカイリューがおり、ドラゴン使いとしての威厳と覇気を存分に出していた。
『続いてはこの人!岩のごとき強固な守りと鋼のように鋭い攻撃を巧みに使いこなす!ホウエン地方で無数の武勲を積み上げたこの男に死角はないのか⁈ホウエンリーグチャンピオン、ダイゴ!』
ダイゴは一瞬だけシロナの方に視線を向けるとワタル同様メタグロスを連れてスタジアムへと歩いていった。ダイゴの視線の意味はわからないが、なんとなくダイゴとは縁があるような気がした。
『続いてもホウエン地方からの参加!美しさと強さを兼ね備え、コンテストもバトルも超一流!完璧とはこの男のためにあるのか!ミクリ!』
ミクリはミロカロスと共にスタジアムへと向かい、ミロカロスの出すアクアリングがライトを受けて煌びやかに光った。美しさを追求するミクリらしい演出だとシロナは思った。
『そして次はこの人!十年以上もの長い時間、チャンピオンの椅子を守り続け今なお無敗記録を更新し続ける!この大会でも彼女の無敗記録を更新できるのか⁈シンオウ地方チャンピオン、シロナ!』
名前を呼ばれたためシロナはガブリアスを伴ってスタジアムへと歩いていく。受けたスポットライトが眩しくて少し目を細めるが、歓声を受けながら歩いていく姿は見る者をミクリとは違うベクトルで魅了した。
ミクリの隣に立つとミクリが視線を向けてくる。シロナもミクリに視線を合わせると小さく笑った。この場で話すわけにもいかないため、今は視線だけでの挨拶を交わす。
『次はチャンピオンの中でも新星!前回のイッシュリーグを若いながら圧倒的な力で勝ち進み、見事チャンピオンの座を勝ち取った天才少女!イッシュリーグチャンピオン、アイリス!』
アイリスは普段の動きやすい服ではなくチャンピオン専用と思われるドレスを着てオノノクスと共にスポットライトを浴びて入場してきた。アイリスらしく快活で楽しそうな様子で観客達に手を振っている。
『そしてこの人を知らない人はいないでしょう!大女優でありながら同時にチャンピオンも務めるまさに超人!美しくも力強く闘う姿は数多の猛者を下してきました!カロスリーグチャンピオン、カルネ!』
カルネは慣れた様子で観客達に手を振ってサーナイトと共に歩いてくる。スポットライトを受ける姿は彼女が女優であることを実感させるほど様になっており、美しさが際立っていた。
『続いては無敵の名を冠する男!ガラル地方で長きに渡りチャンピオンの座を守り続け、たくさんの猛者を相手にチャンピオンらしい闘いを魅せてきました!ガラルリーグチャンピオン、ダンデ!』
先ほどシロナが集合場所まで案内した男、ダンデは相棒であるリザードンを伴ってマントをはためかせながら入場した。そしてカルネの隣に立つと、手を掲げるようなポーズを取り、そのポーズを見た観客は大いに盛り上がった。
『そして最後はこの人!』
再びスタジアムの明かりが消え、入場口にスポットライトが照らされた。照らされた入場口から一人の赤い帽子を被った少年がピカチュウを肩に乗せて現れる。
『この男を語る必要はありません!まさに生きる伝説!レッドォ!』
割れるような歓声が響く。
その歓声の中、レッドは帽子を少しだけ上げて先に出てきていたシロナを含めた全ての選手を見据えた。
その瞬間、凄まじいほどの覇気が全員を襲う。
覇気の強さは計り知れず、並のトレーナーなら失神してもおかしくないほどの強さだった。覇気の凄まじさもだが、まだ10代の少年がこの覇気を纏うという事実に一同は内心で肝を冷やす。
だが誰一人として圧倒はされない。レッドの覇気を受けてなお、レッドに覇気をぶつけて挑発するような空気。その事実にレッドは僅かに口角を上げて覇気を抑え、ダンデの隣に立つ。
『今ここに全ての選手が出揃いました!彼らの紡ぐ歴史的瞬間が、ここに始まります!チャンピオンズトーナメント、開幕です!』
打ち上がった花火がスタジアムにいる全員を照らす。歓声がスタジアム全体を包み込み、この大会がどれほど待ち望まれたものなのかを示していた。
大会のルールとして、使用ポケモンは全員予め六体を登録しておき、一試合につきその登録ポケモンの中から一体だけ別のポケモンに交換することができる。また、キズくすり系の道具は使用禁止だが、ポケモンに予め持たせておける道具は使用可能となっているとう説明がされた。ちなみにシロナが登録したポケモンはミカルゲ、ロズレイド、トゲキッス、ルカリオ、ミロカロス、ガブリアスの六体だ。
そして説明が終わった後、係員の者が8本の棒が入った箱を持ってくる。
『ただ今より、トーナメントの抽選を行います。こちらの箱に入った棒にはそれぞれ番号が振られており、この番号に対応した場所に各自配置されます』
係員の傍にいたユンゲラーは箱に入った棒をねんりきでシャッフルしていく。一頻りシャッフルが終わると、係員が箱を差し出した。全員が一本ずつ棒を掴んだのを確認すると、係員は言う。
『カウント3で同時に棒を取り出してください。いきますよ?3.2.1…どうぞ』
全員が同時に棒を引き抜き、それぞれの番号を確認する。
(…8。最後の番号ね)
シロナが引き抜いた棒に記されたのは8だった。トーナメント表に記された番号を見ると、一番右端に配置されるらしい。
係員が各々の番号を確認すると、電光掲示板に名前が埋められていく。
『さあ今ここに!トーナメントの配置が決定いたしました!トーナメント表はこのようになっております!皆様!電光掲示板にご注目ください!』
対戦表は以下の対戦カードを示していた。
第一試合 レッド対アイリス
第二試合 ミクリ対ワタル
第三試合 ダンデ対カルネ
そしてシロナが対戦する第四試合
「…貴女とはバトルできると思ってましたが、まさか初手からとはね」
「そうね。私も最初からとは思ってもなかったわ」
対戦相手の男が呟く。
シロナの対戦相手は、ダイゴだった。
「こうなるとはね。ああ、とても楽しみだ」
「私もよ」
どこかで対戦したいとは思っていた。だがまさか最初から相手になるとはシロナもダイゴも思っていなかった。
「明日、楽しみにしてます」
「こちらこそ。よろしく頼むわ」
シロナとダイゴは互いに不敵な笑みを浮かべて互いにそう言うのだった。
ーーー
調整と食事を終えたシロナは、宿泊先の部屋でダイゴのデータを見返していた。
「当たり前だけど目立った弱点はない…少しだけ特殊に弱いくらい、か。登録ポケモンはエアームド、ボスゴドラ、メレシー、プテラ、ネンドール、メタグロスね」
「ダイゴのデータか」
正面でタブレットの画面を操作していたカイムはシロナにそう言う。
「ええ。明日の相手だもの」
「…そうだな」
少しだけ目を細めるカイムを見て、シロナはデータが保管されているファイルを置いた。
「どうしたの?」
「…いや、ちょっとな」
カイムはタブレットの画面から目を離さずに話始める。
「ダイゴは、俺にとって親友だ。ホウエンリーグでダイゴが活躍してるのを見て、嬉しく思えてたんだ。バトルから離れていた期間もな」
友人であるダイゴは昔から大会などで結果を残していた。カイムはその試合をテレビなどで見ており、ダイゴが活躍する姿を見るのは友人として嬉しいものがあった。多少の劣等感などもあったが、それ以上に友人が活躍しているという事実は誇らしく思えていたからだ。
だが今、シロナとダイゴが頂点を決める闘いで相対する。無論シロナに優勝してほしいし、自分はシロナが優勝できるように動く。それでもダイゴと友人であるという事実は変わらないし、ダイゴがこの大会で勝ち進む姿を見たいという思いも同時に存在していた。
「ダイゴが勝つ姿も見たかったって、思っちまった」
「そう。さっき、会ってきてたものね」
「当然シロナに優勝してほしい。そのために俺ができることはする。でも、それでも俺はダイゴの親友なんだ。親友が勝つ姿を見たいって、思うんだよ」
「いいのよ。貴方の思いは、人としてとても温かいもの。とても美しいジレンマよ。だから気にしないで」
「…うん」
複雑な表情をしながらもカイムは頷く。それを見たシロナはカイムを優しく抱きしめた。
「貴方はとても優しい。そんなところも好きよ」
「…ああ。悪い。明日大事な試合があるのに気を使わせちまって」
「気にしないで。あ、でも私を一番に応援してくれなきゃ嫌よ」
「そこは心配しなくていい」
カイムはシロナの言葉に苦笑しながらそう言い、一時間前のことを思い出した。
一時間前
スタジアム前広場
カイムは一人でスタジアムを見上げながら人を待っていた。
「カイム!」
自分を呼ぶ声が聞こえてそちらを振り返ると、ダイゴがエアームドに乗った状態で手を振っているのが見えた。エアームドはそのままカイムの隣に着地し、ダイゴはエアームドの背中から降りる。
「ごめん。遅くなった」
「誤差だ。気にしないでいい」
「はは、ありがとう」
ダイゴはそう言うとスタジアムを見上げた。開会式の時とは打って変わり、静けさに満ちているスタジアムはどこか寂しげに見える。
「明日の試合、ボクは楽しみだよ」
「…だろうな」
楽しそうなダイゴと対照にカイムの口調は少しだけ暗い。普段から感情の起伏が小さいカイムだから気づかない人も多いだろうが、親友のダイゴはすぐに気がついた。
「どうしたんだい?キミもバトルの楽しさをもう知ってる。こんなすごい大会を見に来られたんだし、いい経験になると思うけど」
「ああ、それはそうだ。こんなすごい大会を生で見られて、正直テンション上がってる」
「じゃあどうして?」
カイムはダイゴの傍にいるエアームドを撫でる。硬い鋼の身体だが、エアームド自身の体温の温かさを感じた。
「…明日の試合、どっちが勝ってもおかしくない。俺はシロナのサポーターだ。シロナが勝てるように俺ができることは全部やる。その結果どっちが勝ったとしても、俺は心から拍手を贈れると思う。でも俺さ、シロナもダイゴも勝つ姿を見たかったんだ」
それは普段私情を挟まないカイムらしからなぬ心の底にある思いの吐露。大切な二人だからこそ、二人が勝つ姿を見たい。そんな思いがカイムにはあった。だから願わくば、決勝で当たってほしいという願望があったりもした。
「シロナの試合はいつも見てる。でも、お前の試合を生で見るのは…ガキの頃以来だ。だからお前が勝つ姿を生で見たかったんだ」
「…そうか。確かにキミがボクの試合を直接見るのはかなり久しぶりだね」
「まあ、こんな願望は無意味なのはわかってんだけどさ…試合をするお前らにも失礼…とまでは言わんが、無駄な感情だって」
「ははは!そうだね。確かに対戦カードが決まった以上、無駄な思いかもしれない。でもキミが『ボクが勝つ姿』を見たいって思ってくれたことは素直に嬉しいよ。わざわざ会いに来たかいがあった」
「んだよ…俺は無駄な葛藤してんのくらいわかってら」
不貞腐れたように顔を顰めるカイムにダイゴは笑いながら言った。
「いやいいんだ。キミはそれでいい。ボクとシロナさん、どっちのことも応援してくれればいいんだ。どっちが勝つかはわからないけど、キミがそう思ってくれれば、ボクらはもっともっといいバトルができる」
「…すげえ。さすがだよ」
自分とダイゴ…トレーナーとしての器はどちらが上なのかは言うまでもない。その器の大きさの一端を垣間見えるような言葉にカイムは苦笑する。
「昔からキミは考えすぎなんだって。もう少し気楽にやったら?」
「それができればここまで捻くれてねえよ」
「それもそうか!あはは!」
「笑うなよ阿呆」
毒を吐きながらもカイムも小さく笑う。葛藤は消えない。でも気は楽になった気がした。
それからしばらく二人は雑談を交わすが、時計を見てダイゴは立ち上がる。
「そろそろ行くよ。今日はありがとう」
「ああ。明日頑張れ」
ダイゴはカイムに向き直ると、覇気を纏いながらカイムに言った。
「明日はボクが勝つ」
カイムの親友としてではなく、チャンピオンとして言った言葉。それを受けてカイムは非常に珍しい不敵な笑みをダイゴに向けた。
「いいや、勝つのはシロナだ」
「…明日、『キミたち』とバトルするのを楽しみにしているよ」
そう言ってダイゴはエアームドに乗って帰っていった。
その後ろ姿を見て、カイムは拳を握る。明日がどれほど激しい戦いになるのかを考えながら、シロナが待つ宿泊先へと戻っていった。
*
翌日
控室のモニターでシロナはカルネ対ダンデの試合を見ていた。
メガサーナイトとキョダイマックスをしたリザードンの技がぶつかり合う。どちらも一歩も譲らず、激しくぶつかり合う姿は見ていて圧巻だった。
そして最後はメガサーナイトのサイコキネシスとキョダイマックスをしたリザードンのキョダイゴクエンがぶつかり、爆煙が晴れた時に決着がついた。結果はリザードンが辛うじて立っており、サーナイトは目を回して倒れていた。
勝者はダンデ。
この次にあるシロナの試合で勝った方はダンデと闘うことになる。
「…勝ったのはダンデか」
「ええ」
「カルネさんは、残念だったな」
シロナの友人でもあるため、シロナとしてもバトルしたい思いが強かっただろう。だが結果がこうなった以上、シロナはカルネとバトルすることはできない。
敗北したカルネは全てを出し切ったという表情で、とても晴れやかな笑顔だった。無論悔しさもあるだろうが、それ以上にこの場で戦えたという事実がカルネにとって満足足りえるものになったのだろう。
「そうね。でも、きっと満足してるわ。あの顔を見ればわかる」
「だな。次はお前だ、シロナ」
カイムはシロナの髪を櫛でとかしながら言った。
たとえシロナの相手が親友のダイゴだとしても、カイムはシロナの勝利を信じている。そのためにできることは全てやった。
次はシロナがその思いに応える番である。
「ええ、任せて」
シロナはキーストーンの入ったブローチを胸元につける。メガシンカを使った戦い方をするようになったのは約一ヶ月前。公式戦で使うのは初めてだが、既にそのレベルは付け焼き刃ではない。以前のシロナよりもさらに強くなっていることは間違いない。
「行きましょう」
静かに覇気を滾らせながらシロナはカイムを伴って控室を後にした。
『さあ!興奮も冷めぬまま次の試合へと参りましょう!一回戦第四試合!シンオウチャンピオン対ホウエンチャンピオンのバトルです!』
実況の声が響き、シロナは入場口からゆっくり歩いていく。歓声を受けながら所定の位置に就くと、逆サイドにダイゴが立っているのが見えた。
「こうして貴女とバトルできることを嬉しく思います」
「私も嬉しいわ。全力で貴方と戦えることに心が震える感じがする」
「ホウエン地方では、ボクが一番強い。その自覚はあります。でも世界で見たらボクはどうなんだろう。それが今わかる」
ダイゴの覇気は凄まじい。シロナも今まで多数の挑戦者達を相手にしてきたが、その中でもトップクラスの覇気だった。
「貴方とバトルすることに、カイムが少し複雑そうにしてたわ」
「ははは!知ってます。カイムは優しいからね」
「でも、カイムが勝利を願ってくれているのは私よ。だから負けないわ」
ダイゴはその言葉を聞くと普段の優しげな表情から一転、好戦的で獰猛な笑みを浮かべてモンスターボールを手に取った。
「…こんな思い初めてです。トレーナーの中でも最高レベルの貴女を相手にする。ボクが勝てるかどうかわからないほどの相手を目の前にしてこの感情が一番前に来るなんてね。むしろ、だからなのかな?」
ダイゴはシロナを見据えながら言った。
「今までで一番負けたくないんだよね。なにせ貴女を相手にするってことは、
カイムはバトルでダイゴには勝てない。しかし、そのカイムの力がシロナの力を底上げさせているという事実。そして自分ではカイムに魅せられなかったが、シロナにはカイムを『魅せる』ことができたという事実。これらの事実がダイゴの『負けたくない』という思いを、心を掻き立てていた。
「…私もよ。負けたくない、勝ちたいって思いが強い。カレと一緒だからかしらね」
「うん。お互いにそういう思いがこもっている。紛うことない最高の相手です。行きますよ、シロナさん!」
「受けて立つわ!ダイゴ君!」
シロナもボールを手に取り、構えた。
二人の間に巨大な荒野のフィールドが出現する。今回のフィールドは荒野でのバトルらしい。
『一回戦第四試合!ダイゴ対シロナ!バトル開始!』
「いけ!エアームド!」
「頼んだわ!ミカルゲ!」
シロナはミカルゲ、ダイゴはエアームドを繰り出した。
「さあいくわよミカルゲ。存分に楽しみましょう!」
ミカルゲはシロナの声に反応し、鳴き声を上げた。
「エアームド!鋼の翼!」
「ミカルゲ、悪の波導!」
エアームドはドリルくちばしでミカルゲに突っ込んでいき、一瞬遅れてミカルゲは悪の波導でそれを迎え撃つ。互いに等倍となるタイプ相性だが、発動が遅れ、広範囲に広がる悪の波導をエアームドの鋼の翼が突き破り、そのままミカルゲにダメージを与える。だがエアームドも無傷ではなかった。ダメージは少ないながらもしっかり入っている。エアームドは物理防御には非常に秀でているが、特殊防御はあまり高くない。いくら突き破ったとはいえ、ダメージをゼロに抑えることはできなかった。
「悪の波導!」
「鋼の翼でガードだ!」
ドリルくちばしでダメージを受けたミカルゲだが、即座に体勢を立て直してエアームドに悪の波導で反撃する。鋼の翼で至近距離に接近してきたエアームドは悪の波導を回避できないと判断したダイゴは、鋼の翼でガードする判断を取る。悪の波導は硬化させた翼で受け、ダメージを軽減させることに成功したが、思いの外ダメージが大きい。
「…そうか、悪巧み」
シロナはミカルゲにバトルが始まると同時に悪巧みで特攻を上昇させていた。そのためガードを貫通し、そこそこのダメージがエアームドを襲った結果になったと瞬時に見抜いた。悪巧みを積んだからこそ最初の悪の波導は出が遅れた。
「ならこうしよう。エアームド、まきびし!」
エアームドはまきびしをフィールド全体にばら撒く。これだけでは特別意味はないが、新しく出てきたポケモンは出現時にダメージを受けることになる。
「ミカルゲ、もう一度悪の波導よ!」
これ以上まきびしをばら撒かれる前に攻撃に移るべきだと考えたシロナは悪の波導でエアームドを狙う。
エアームドは空中で次々と放たれる悪の波導を回避していく。逃げ道を瞬時に見つけ出して回避するのはさすがと言わざるを得ない。
だがシロナは敢えて逃げ道を用意していた。
「そこよ!鬼火!」
ミカルゲが出した青い炎は的確にエアームドにぶつかる。その炎は強烈な火傷をエアームドに負わせ、攻撃力を半減させる。
「っ!やられたね。でもまだまだいくよ!羽休め!」
エアームドは地面に降り立つことで体力を回復する。何か狙いがあることを感じ取ったシロナは早めに決着をつけることを選んだ。
「たたりめ!」
火傷を負ったエアームドにたたりめは威力があがる。エアームドはゴーストタイプの力を受け、体勢を崩した。
「詰めて!」
ミカルゲは体勢を崩したエアームドに追撃するために距離を詰めた。悪巧みのおかげで威力の上がったミカルゲなら火傷で体力が削られているエアームドを落とし切れると判断したからだ。
だがダイゴはこれを狙っていた。
「そこだエアームド!鋼の翼!」
距離を詰めてきたミカルゲに対してエアームドは両翼で高速の二連撃をぶつける。その攻撃はミカルゲの急所に直撃し、大きなダメージを与えた。ミカルゲの耐久性でも威力の上がった急所へのダメージは大きい。体力が減り、危機を察知したミカルゲは咄嗟に持ち物であるオボンの実を食べて体力を回復するが、鋼の翼からエアームドは即座に体勢を立て直しダメ押しの態勢に入った。
「トドメだ!ゴッドバード!」
激しい光がエアームドを包む。
ゴッドバードは撃つのに大きなタメがいる。至近距離でタメを始めるなど本来ならやるべきではない。しかしそのタメをゼロにする道具をエアームドは持っていた。
『パワフルハーブ』。タメが必要な技を一度だけタメ無しで撃つことができる特殊なハーブだ。
「たたりめ!」
だがシロナも黙って見ているわけにはいかない。威力の上がったたたりめとゴッドバードがぶつかり合い、轟音を上げて爆発した。
煙が晴れると、そこには動けなくなったミカルゲとボロボロだが立っているエアームドがいた。
『ミカルゲ戦闘不能!』
歓声が上がる。
やはりチャンピオンを相手にしているだけあり、先手を取られるのはシロナも久々だった。
しかしシロナもここまでは想定通りだった。
「ありがとうミカルゲ。『よくやった』わ」
ミカルゲをボールに戻し、労いの言葉をかける。ミカルゲはやるべきことを完璧にこなしてくれた。
シロナは次のポケモンが入ったモンスターボールを手に取る。
「頼むわ、ポリゴンZ!」
シロナが出したのはポリゴンZ。登録していないポケモンであり、ロズレイドと交換して手持ちに加えたポケモンだった。
まきびしによるダメージが若干入るが、動きに支障はない。
「ポリゴンZか…登録ポケモンにはなかったな」
「公式戦では初出場の子よ。でも、強いわよ」
「でしょうね。貴女のポケモンが弱いわけがない」
「その通りよ。生半可な育て方はしてないわ」
「そうでしょうね!エアームド!ドリルくちばし!」
「影分身!」
エアームドがドリルくちばしで攻撃してくる中、ポリゴンZは影分身でエアームドを撹乱した。カウンターを狙うために次々と分身を減らしていくが、本体がエアームドに攻撃を仕掛けてくる様子がない。影分身は攻撃前のスキを減らすために活用するのが定石だ。しかし攻撃をしてくる様子がないため、何かあるとダイゴは身構える。
「リフレクターよ!」
ポリゴンZは影分身を消し、本体が完全に位置がバレる前にリフレクターを展開した。それによりポリゴンZは物理攻撃に強くなる。
ポリゴンZは耐久性があまり高くないポケモン。だがダイゴのポケモン達は物理技がメインとなる。
「やられたね。でもこの程度、追い詰められた内に入らない!エアームド!鋼の翼!」
「シャドーボール!」
エアームドは硬化させた翼を巧みに扱い、ポリゴンZが放つシャドーボールを打ち破り、その翼を叩きつけた。だがリフレクターによりダメージが反撃し、加えて火傷により攻撃力が落ちた状態ではポリゴンZに攻撃はほとんど意味を成さなかった。
「そのままドリルくちばし!」
「10万ボルト!」
エアームドがドリルくちばしでポリゴンZに攻撃する。だがやはりそれも大したダメージにはならず、その攻撃のスキにポリゴンZは10万ボルトで反撃を加えた。ミカルゲの攻撃、火傷と重なり、特防が低下したエアームドにタイプ不一致とはいえ効果抜群の電気タイプの技は受けきれない。電撃を受けたエアームドは目を回してダウンした。
『エアームド戦闘不能!』
エアームドを迅速に倒すことで即座に差をなくした。これで残りポケモンは5対5のイーブン。
「やられましたよ。エアームドでもう少し押し切れると思ったんですけど」
「貴方は物理技メインのポケモンを多く使うからね。だから耐久力の低いポリゴンZはリフレクターが効くと思ったのよ」
「…はは、このくらいは調べられてますよね。じゃあどうしてポリゴンZを加えたんですか?」
「エアームド対策よ。今回はきっとエアームドを初手で出してくると考えたからね。できればミカルゲでエアームドは倒したかったけど、そんなうまくいかないわね」
強者が相手であれば予め用意した対策や作戦か通じないことの方が多い。チャンピオンが相手ともなれば、数値やデータを元に立てた作戦などうまくいくなどとシロナも思ってはいない。
だがデータを頭に入れておくことで『こういうことをやってくるかもしれない』という想定を増やすことができる。想定外のことが減れば、対応力も上がる。だからシロナは誰が相手であったとしてもデータ集めを怠ることはない。そしてその集めたデータを元に相手を分析し、相手が自分とバトルした場合どう来るか無数のパターンをシミュレーションするのだ。
「ミカルゲの役目は、エアームドに火傷を負わせることとパワフルハーブを使わせること。ミカルゲは十分役目を果たしてくれたわ」
「パワフルハーブを使うことも想定内だと?」
「可能性の一つとしては考えていたわ」
「さすがですね」
とはいっても現状はまだダイゴの方が一歩先を行っている。リフレクターという手札を切り、相手かポリゴンZであることを考慮した上で手持ちのポケモンを考えられるのは大きなアドバンテージとなる。
「じゃあ次いくよ!いけ、ボスゴドラ!」
ダイゴが投げたボールからは鋼の巨体を持つボスゴドラが現れた。ボスゴドラのタイプは鋼・岩。ノーマルタイプのポリゴンZからしたら絶望的に相性が悪い相手。
だが未だにリフレクターは展開中。これによりポリゴンZの防御力は未だに強い状態のままである。それでもボスゴドラの攻撃力ではリフレクターの効果がどれほど有効かはシロナにとって未知数だった。
「ボスゴドラ!アイアンヘッド!」
ボスゴドラは硬化させた頭をポリゴンZに向けて突進してくる。いくらリフレクターで物理技の威力を半減させたとはいえ、ボスゴドラは攻撃力も優秀。直撃したらダメージは大きい。
「シャドーボールで岩を砕いてぶつけなさい!」
ポリゴンZは荒野のフィールドにある岩をシャドーボールで破壊し、砕かれた勢いを利用して岩を向かってくるボスゴドラに向けて放った。
岩が直撃するが、硬化させた頭を使い飛んでくる岩を砕く。このポリゴンZの行動は一切ダメージへと直結しないものだが、それは既に折り込み済みだった。
一際大きな岩が飛んでくるが、それもボスゴドラは難なく砕く。そしてそのまま距離を詰めてポリゴンZにアイアンヘッドを直撃させようとしたが、岩を砕き晴れた視界の先にポリゴンZはいなかった。
「上だ!ボスゴドラ!」
ダイゴの声に反応したボスゴドラは咄嗟に視線を上に向けた。ポリゴンZは大きな岩を投げつけると同時にボスゴドラに向かっていき、ボスゴドラが岩を砕くと同時に砕かれた岩の陰に隠れながら飛び上がったのだ。そしてそれに気づいた時には既にポリゴンZは攻撃態勢に入っていた。
「10万ボルト!」
ポリゴンZの放った電撃はボスゴドラの身体に痺れを与え、同時にボスゴドラを麻痺状態にした。麻痺状態に陥ったことで自由に動き回ることを阻害する。元々素早く動けないボスゴドラだが、時折行動が阻害されることは大きな痛手となる。
「そのままシャドーボール!」
「ストーンエッジだ!」
ポリゴンZのシャドーボールがボスゴドラに直撃するが、ボスゴドラも痺れに負けることなくストーンエッジを発動させて反撃する。特防の低いボスゴドラにはタイプ不一致とはいえシャドーボールは良く効いた。ポリゴンZもボスゴドラほどの攻撃力のタイプ一致ストーンエッジを受ければ本来は一撃だっただろうが、今はリフレクターによる物理耐性を得ている。そのためダメージは大きいが耐えることができた。
「まだまだいくぞ!地震!」
ボスゴドラは咆哮を上げながら地面に力を放ち、ポリゴンZに向けて衝撃を伝えていった。
「飛んで!」
だがポリゴンZはその衝撃が来る前にシャドーボールを地面に向けて放ちながら飛ぶことで身体を浮かせた。浮いたことにより地震の衝撃を受けることなく回避した。
だが同時に空中に身体を浮かせたため狙いが定まりやすくなる。
「アイアンヘッドで岩の礫をぶつけろ!」
ボスゴドラは先程アイアンヘッドで岩を砕き、ポリゴンZに向けて岩の砲撃のような岩雪崩を放った。
「かわして!」
ポリゴンZもシロナの指示に従いそれをうまくかわしていくが、あまりに数が多いため回避しきれずに岩の砲撃を受けてしまう。その衝撃で地面に落ちたポリゴンZに向けてボスゴドラは向かっていく。
「もろはのずつき!」
咆哮と共にボスゴドラはポリゴンZに頭突きを放とうとする。これを受けてしまうといくらリフレクターがあるとはいえ、残り体力を考えるとポリゴンZは一たまりもない。
「ここよポリゴンZ!」
ポリゴンZは目を開くと迫り来るボスゴドラを捉えた。ここでダイゴは確実に技を当てられる距離まで誘き寄せられたことを察知した。
「しまっ!ボスゴドラ!」
「10万ボルト!」
確実に当てられる距離、そして麻痺で鈍った機動力という条件ではボスゴドラが回避することはできない。
ポリゴンZの雷がボスゴドラを貫く。タイプ不一致の技だが、特防の低いボスゴドラにはかなりの痛手である。なんとか耐えたが、次の攻撃は受けきれない。
だが距離を詰めた状態であることに変わりはない。これはボスゴドラにとっても攻撃を確実に与えられる絶好の機会だった。
「これでも倒れないか!」
「このくらいで倒れたりはしないよ!ストーンエッジ!」
ボスゴドラが地面に足を叩きつけ、地面から出てきた岩の刃がポリゴンZを貫く。凄まじい威力にポリゴンZは空中に投げ出されたが、空中で電磁浮遊の力で体勢を立て直し即座に反撃した。
「シャドーボール!」
ポリゴンZの放ったシャドーボールはボスゴドラに直撃する。シャドーボールが爆発して砂塵が巻き上がりフィールドの様子がわからなくなった。
十数秒後、砂塵が晴れると倒れたボスゴドラと満身創痍のポリゴンZが浮遊していた。
『ボスゴドラ戦闘不能!』
ボスゴドラは完全にダウンしており、戦闘不能となった。
それと同時にリフレクターが消える。ノーマルタイプのポリゴンZが鋼・岩タイプのボスゴドラを倒すというタイプ相性を覆したバトルの結果だった。
「お疲れ様、ボスゴドラ。ありがとう」
ダイゴはボスゴドラをボールに戻して労いの言葉をかけた。ダイゴの指示は決して悪くなかった。むしろ耐久力の低いポリゴンZを相手にすることを考えると、必然的な指示だったといえる。
しかし逆に『必然的な指示にさせられた』ことをダイゴは痛感した。影分身で時間を稼ぎ、わざわざリフレクターを張ってきたことがその証拠とも言える。物理技しかないことを読み切られた結果がポリゴンZという相性有利な相手に敗北という結末に自分を至らせた。
(どれだけボクのことを調べてきたのかよくわかる)
シロナが出てきた方の入場口に目を向ける。そこには無表情でこちらを見つめる男が立っていた。カイムの情報収集能力はかなりのものであり、それのみで考えればシロナやダイゴをも凌駕するほどの能力だ。そのカイムが集めた情報を元にシロナが対策を立てたとなれば、この強さは納得である。パワフルハーブも恐らくカイムが集めてきた情報を基にシミュレーションされたものだろうとダイゴは考えた。
「はは…余計負けたく無いな」
現状一歩リードされているような状態だが、このくらいではダイゴの中でリードされた内に入らない。チャンピオンたる自分がどれほどの修羅場をくぐってきたのか一番自分が理解している。ならばポケモン達を信じて全力で闘うのみ。
「よし、次だ!頼むよ!プテラ!」
ダイゴが次に繰り出したのはプテラだった。化石ポケモンであり、石集めが趣味であるダイゴらしいポケモンといえる。
「プテラね…さて、どこまでやれるかしら」
「いくよプテラ!砂嵐!」
プテラは砂塵を巻き上げ、砂嵐を展開した。展開された砂嵐が視界を悪くするだけでなく、ノーマルタイプのポリゴンZは持続的に微小なダメージを受けていく。体力がギリギリであるポリゴンZに残された時間は少ない。できることを最速でやっていくしかない。
「ポリゴンZ!冷凍ビーム!」
「プテラ!げんしのちから!」
ポリゴンZの放った冷凍ビームにプテラの放った岩石がぶつかる。砂嵐に加えて爆発が更に視界を悪くした。
だが岩タイプのプテラはこの砂嵐の中をノーリスクで動くことができる。砂嵐によって動きが阻害されるポリゴンZと機動力は天地ほど差がある。
「アイアンヘッドだ!」
プテラは砂嵐の中、確実にポリゴンZを見つけ出した。そして硬化させた頭をそのままポリゴンZに向けてぶつけようと肉薄する。
「後ろよ!」
だがシロナは砂嵐の中にいるプテラを見つけ出し、プテラの場所をポリゴンZに指示を出した。
「10万ボルト!」
ポリゴンZは迫り来るプテラに向けて電撃を放った。当たれば特防の低いプテラは大きなダメージを受けることになる。
当たれば、ではあるが。
放たれた電撃をプテラは空中で身を捩ることで回避した。素の素早さの高さと鍛え上げられた身のこなしを発揮することでプテラは電撃を回避してカウンターを加える。
(回避は無理!なら最後に一撃を!)
このタイミングで回避することはできないと咄嗟に判断したシロナは、ポリゴンZに最後の指示を出した。
「バックからのはかいこうせん!」
ポリゴンZは咄嗟に体を後ろに下げることでアイアンヘッドが直撃することを避ける。当然ダメージをゼロにすることはできないし軽減したところでポリゴンZはダウンを避けられないだろう。しかしそれをわかってなお、ただでやられるわけにはいかないという思いがポリゴンZに最後の行動を慣行させた。
ポリゴンZの特性である『適応力』。この特性から放たれるはかいこうせんの威力は絶大であり、岩タイプを持つプテラには半減だとしても大きなダメージを受ける。タイプ一致の技だからこそダウンする直前に根性で大技を発動させることができた。
だがプテラも素早さが高いこともあり、はかいこうせんの射線から少しだけ逃れ直撃を避けた。
最後の力を絞り出したポリゴンZはダメージの蓄積が限界に達してしまい力なく地に落ちた。
『ポリゴンZ戦闘不能!』
最後の最後に放ったはかいこうせん。凄まじい威力を誇っており、タイプ相性による半減及び直撃回避したのにも関わらずプテラの体力を四分の一ほど削った。
「ありがとう、ポリゴンZ。いい動きだったわ。ゆっくり休んで」
シロナはポリゴンZをボールに戻して労いの言葉をかけた。
そして目の前に広がる荒野のフィールドを見据える。
(荒野…砂嵐……この状況だと、この子が一番ね)
シロナはボールを手に取る。手持ち数は同じであり、若干シロナがリードしているようにも見えるが、少しでも気を抜けばあっという間に離されるだろう。
このギリギリで戦っていると実感できる肌を刺すような空気。この空気をずっと感じていたいとも思えるほど、シロナは高揚していた。
「…このフィールドは貴方の庭よ。いきなさい、ガブリアス!」
シロナが繰り出したのは、エースであるガブリアス。
「ガブリアス…!もう出てきたか」
シロナのガブリアスはダイゴにとって要注意のポケモンだった。ダイゴの手持ちは鋼・岩タイプがメイン。そのため地面タイプの技を持つガブリアスは特に注意しなければならないし、なによりガブリアスはシロナのエースとして有名。特に注意しなければならないことはいうまでもない。
確かに厳しい対面だが、同時にこれはダイゴにとってチャンスでもある。ここでガブリアスを倒す、または削ることで今後戦うポケモン達がかなり楽になるのは間違いないからだ。
まきびしによるダメージをガブリアスは若干受けるが、この程度ではダメージのうちに入らないだろう。
タイプ相性は悪くないが、あの強力なシロナのガブリアスを相手にする以上、先手を取れた方が有利だとダイゴは判断した。
「いくよプテラ!アイアンヘッド!」
砂嵐の中、鋼の力を纏った頭でガブリアスに襲い掛かる。
しかし地面タイプのガブリアスは砂嵐の影響を受けることなく行動することが可能。プテラの鋼の力を纏い強化した頭で砕いた岩がガブリアスに降り注ぐ。
「げきりん!」
無数の岩石をガブリアスは次々と打ち砕き、プテラに迫っていきドラゴンクローを振り下ろそうとした。
だがその刹那、ガブリアスの視界からプテラが消えた。
「アイアンヘッド!」
プテラは高い素早さと飛行能力を活かし、ガブリアスの頭上を飛び越えて瞬時に背後に回っていた。そしてガラ空きのガブリアスの背中にアイアンヘッドをぶつけようとする。
しかしそれに反応したガブリアスは咄嗟にプテラのアイアンヘッドをドラゴンクローで受ける。技同士がぶつかり合い、衝撃波が観客席まで伝わってきた。
「後ろを取っても反応するか!さすがだね!じゃあこうしよう!ストーンエッジ!」
「龍の波導!」
地面から突き出してきた岩の刃に対してガブリアスは龍の波導をぶつけ、その反動を使って通常の跳躍よりも高く跳んだ。
「ドラゴンダイブ!」
その跳んだ勢いを利用し、ガブリアスはプテラに突撃していく。
「かわせ!」
ガブリアスのドラゴンダイブをプテラは空中で螺旋を描くように飛ぶことで回避した。プテラの素早さだけでなく、プテラ自身の飛行技術の高さがあったからこそ回避できた一撃だった。
「プテラ!ストーンエッジ!」
回避行動と共に距離を取ったプテラは、距離のあるガブリアスに対してストーンエッジを放つ。プテラの目は確かにガブリアスを捉えており、的確な狙いでストーンエッジを放った。
しかしガブリアスは着地と同時にストーンエッジを自分の目の前に展開していた。そのストーンエッジによって形成された壁がプテラのストーンエッジがガブリアスに着弾するまでに若干時間を作った。ストーンエッジが岩の壁を突き破った先にガブリアスはいなかった。
「いない⁈」
砂嵐はなおも吹き荒れている。岩、地面、鋼タイプのポケモンは砂嵐によるダメージを受けない。そしてプテラのような岩タイプは砂嵐を展開することで特防が上がるというバフもある。
しかしいくら彼等がダメージを受けないとはいっても、視界の悪さはどうしよもない。何も見えなくなるほど強い砂嵐ではないため、基本これが理由で技を外すことなどない。だが相手が見えたとしても『フィールドの全てが見えるわけではない』。シロナはこれを利用した。ガブリアスの素早さを利用すれば、一瞬視界から外れてフィールドにある岩などの障害物を利用すれば一時的に身を隠すことが可能になる。いわば擬似的な砂隠れを行ったのだ。
ガブリアスを見失ったことによる隙を狙い、ガブリアスはプテラに最速で近づいていく。
そこでダイゴとプテラは不意に視界の端に僅かに動く砂煙に気づいた。そちらを見ようとした時、既にガブリアスは目の前にいた。
「逆鱗!」
怒りと狂気によって増幅させた身体能力を発揮し、プテラに攻撃を加える。耐久力の低いプテラには非常に大きなダメージが入り、ポリゴンZに削られた分もあり次の一撃は耐えられないほどのダメージを受けた。
「もう一撃よ!」
ガブリアスが再びプテラに攻撃を加えようとする。しかしプテラもやられっぱなしではない。飛び上がりガブリアスの攻撃が届かない高度まで瞬時に上昇し、即座に反撃した。
「ストーンエッジ!」
攻撃直後で隙が生まれたガブリアスに岩の刃が襲いかかった。いくらシロナの訓練のおかげで理性を飛ばさずに逆鱗状態で動けるとはいえ、判断力や動きの精密性は落ちる。ストーンエッジの出が非常に早かったためガブリアスは回避できない。プテラの攻撃力はかなり高いため、ガブリアスの防御力をもってしても本来なら大ダメージを受ける。
そう、本来なら。
「ガブリアス!」
シロナの掛け声と共にストーンエッジがガブリアスに当たる。だがガブリアスは強化した身体能力を使い、ストーンエッジに一撃攻撃を加えていた。その攻撃がストーンエッジの威力を削ぎ、ダメージを最小限に抑えた。
しかしダメージを抑えたことで隙が生じた。ストーンエッジの壁によりガブリアスの動きが一瞬止まり、抜け出すまでに僅かな隙が生まれた。これを逃すダイゴではない。
「プテラ!氷の牙!」
一瞬の隙を突き、プテラは氷の力を宿した牙でガブリアスに噛み付く。ガブリアスは地面・ドラゴンタイプであるため氷タイプの技は4倍のダメージを受ける。プテラのタイプとは不一致の技ではあっても、プテラ自身の素の攻撃力と合わさればガブリアスを一撃で屠ることも可能。先ほどのストーンエッジのダメージと合わさればほぼ確実にガブリアスは倒れることとなる。
「よし!」
ダイゴはガブリアスを落としたと確信した。ガブリアスの特性である鮫肌によってダメージを受けるが、ガブリアスという強力なポケモンを落とせたことは大きなアドバンテージとなる。
だが次の瞬間、この考えが甘かったことをダイゴは気付かされた。
「ガブリアス!」
ガブリアスの目は死んでいなかった。間違いなく氷の牙はヒットしている。ストーンエッジのダメージを考えると『気合の襷』による耐えもない。
何故立っていられるのかを思考する一瞬、ガブリアスは氷の牙で噛みついてきたプテラをその両腕で掴んだ。
「ドラゴンダイブ!」
そしてそのまま凄まじい勢いで地面に向けて突撃した。プテラはガブリアスの攻撃力をダイレクトに受け、地面に叩きつけられる。逆鱗によるダメージが蓄積していたプテラにガブリアスのドラゴンダイブを耐え切ることはできない。地面に叩きつけられたプテラは目を回して倒れていた。
『プテラ戦闘不能!』
ダイゴは大きく息を吐くとプテラをボールに戻した。
「ありがとう、プテラ。よく頑張ってくれたね」
プテラのボールをボールホルダーに戻すとダイゴはガブリアスを見据える。確かに氷の牙が直撃した傷跡がガブリアスにはあった。ガブリアスは決して耐久性の低いポケモンではないが、耐久より攻撃力が高いポケモンである。そのためプテラほどの攻撃力があればタイプ不一致の氷の牙であっても耐えられるとは思わない。
そこでよく見ると、ガブリアスの足元に僅かにきのみのカケラのようなものが転がっているのが見えた。そのきのみの色にダイゴは見覚えがあった。
「そうか…ヤチェの実!」
ヤチェの実は持たせたポケモンの氷タイプ耐性を一度だけ上げるきのみ。プテラの氷の牙がヒットした瞬間、ヤチェの実の効果が発揮されて氷の牙の威力を弱めた。そう考えればガブリアスが今ダメージを受けながらも立っていられるのも頷ける。
(ボクの選んだメンバーの中に氷タイプの技を使えるポケモンはボスゴドラ、プテラ、メタグロス。ボスゴドラは地面4倍、メタグロスも地面2倍のダメージが入るのに敢えて地面タイプが効かないプテラにガブリアスをぶつけてきた。その意図はわからないけど、貴女が全力で勝ちに来ていることはわかる)
確かにプテラは落とされたが、同時にエースであるガブリアスに大きなダメージを与えることにも成功した。
(今はこれでいい)
依然として若干のリードは許しているが、まだ負けていない。その事実だけで十分だった。
「ガブリアス、戻って」
シロナは傷ついたガブリアスをボールに戻した。リードはしているが、追われる立場にいる方はより油断を許されない状況である。ダイゴは安定した実力もあるが、メガシンカを活用した爆発力のある戦いを得意としている。こちらのエースであるガブリアスがここまで削られた以上、ダイゴのエースであるメタグロスと正面から殴り合うことは不利。しかしメタグロスを倒すのにはガブリアスの力が必要となると判断したシロナはここでこのまま戦わせるよりも、一度退くことが賢明だと考えた。
「ここでガブリアスが来るとは思いませんでしたよ」
「でしょうね。正直、ここでガブリアスを出すのは私の中でも想定外だったわ」
荒野というフィールドやプテラ相手は想定していた。しかし砂嵐という大きすぎるフィールド効果を考慮するとシロナの残りの手持ちではガブリアス以外選択肢がなかった。プテラ単体の相手であればトゲキッスが適任であったが、砂嵐により特防が上昇しているプテラを相手にするとなるとトゲキッスでもかなり分が悪くなる。耐久型のミロカロスでもいいが、砂嵐によるスリップダメージはミロカロスの耐久性の強みを半減させる。そしてルカリオは秘策であるため今使うわけにはいかなかった。
「さすがとしか言えないわ。構築してきた対策が悉く通用しない」
「その割にリードを許してますけどね」
「相応の手札を切っているわ。思い通りにはいかないけど、とても楽しいわ」
「…ボクもです」
これほどの追い詰められるようなバトルはミクリや前回のポケモンリーグ準決勝で対戦したユウキ以来だった。こういうギリギリのバトルだからこそ、楽しくて仕方がない。高揚感がどんどん上がっていく。
「最後まで楽しみましょう」
「ええ、全力で相手をさせてもらうわ!」
シロナはその言葉と同時にボールを投げた。ボールの中からはミロカロスが美しい鳴き声をあげながら出てきた。
「ミロカロスか…ならキミだ!頼むよアーマルド!」
ダイゴが繰り出したのはプテラに続き化石ポケモンのアーマルドだった。登録したポケモンにはいなかったため、入れ替えたポケモンだろう。
「アーマルドね。タイプは有利だけど…さてどうしようかしら」
岩・虫タイプのアーマルドは水タイプの技がよく効く。加えて特防も低いためミロカロスとの相性はあまり良いとは言えない。
しかしプテラの残した砂嵐はまだ残っている。この砂嵐がある限りアーマルドの特防も高いものとなるため、ダメージがどこまで入るかは未知数だった。
「いくぞアーマルド!原始の力!」
アーマルドは岩石を念力で持ち上げると、それらをミロカロスに向けて投げつけた。
「水の波導で制圧射撃よ!」
投げつけられた岩石に対して水の波導を広範囲に広げて放つことで岩石が砕かれる。
「熱湯!」
「岩雪崩!」
熱く熱された水をミロカロスは放出し、砲撃のような岩石がミロカロスのねっとうにぶつかり弾け飛ぶ。
その水飛沫に紛れてアーマルドはミロカロスに詰め寄った。
「シザークロス!」
虫の力が宿った鎌が十字型にミロカロスを切り裂く。だが即座にミロカロスも反撃に出た。
「水の波導!」
水の波導がアーマルドの体を穿つ。威力の高い技ではないが、特防が高くなく水タイプの技が苦手なアーマルドには大きなダメージが入る。
「ストーンエッジ!」
しかし大きなダメージが入っているのにも関わらずアーマルドは果敢に攻めかかる。返しのストーンエッジがミロカロスに襲いかかり、大きなダメージを与えた。
「下がって!」
特殊攻撃を主に使うミロカロスには接近戦では厳しいものがある。上手く下がることはできたが、ダメージは大きい。加えて砂嵐や『火傷』によるダメージも蓄積しているためミロカロスは既に満身創痍になりつつあった。
「…思ったよりダメージが少ないな。不思議な鱗か」
ダイゴとしては速攻で倒す予定だったが、思いの外ダメージが少ない。ミロカロスは特防は高いが物理防御はそこまで高くない。そのためシザークロスにストーンエッジによってダメージを与えれば倒せなくともかなり追い込めると考えた。
実際大きなダメージは与えられたが、ここまで余裕を持って耐えられるとは思えない。何か仕掛けがあると思ったが、ミロカロスの特性をダイゴは思い出した。
不思議な鱗。状態異常の時に防御力が上昇する特性だ。
つまり素の特防の高さに加えて特性によって防御力も上昇している状態だといえる。まさに要塞と言うのに相応しい硬さをミロカロスは誇っていた。
だがその代償として火傷を負っている。これだけダメージを与えれば火傷と砂嵐によるスリップダメージで落ちるだろう。
(そんな訳ないよね)
その程度の弱点を補わないようなシロナではない。それは同じチャンピオンであるダイゴもよくわかっていた。
「自己再生!」
ミロカロスの身体が光り、傷がみるみる再生していく。わずか数秒でかなりのダメージが回復しているのがわかる。
だが砂嵐、火傷という二つのスリップダメージを受けている以上、自己再生を行う頻度も高くなる。自己再生は強力な回復技ではあるが、そう何度も使える技ではない。それに回復技は攻撃技以上に大きな隙を晒すことになる。その隙を的確に突いていけばミロカロスを落とす勝ち筋が見出せるとダイゴは考えた。
対してシロナはこの状況をどう乗り切るか思考を巡らせていた。火炎玉でミロカロスに火傷を負わせることで防御力の確保はできたが、同時にスリップダメージの割合が大きくなっていることがミロカロスの強みを半減させていた。元より耐久型のミロカロスはスリップダメージが大きくなればなるほどその強みが失われていく。アーマルドは物理型であるためミラーコートも使えない。タイプ相性は有利であるのにも関わらず状況は芳しくない。
「…強い」
数的有利は取れているが、フィールドを味方につけられているシロナの方が不利。アーマルドは岩タイプ複合であるため砂嵐がある今、特防が上昇している。
「…砂嵐の時間が長い。さらさら岩ね」
ガブリアス対プテラの戦闘を経てなお砂嵐が吹き続けている。恐らくプテラの持ち物は砂嵐の持続時間を伸ばすさらさら岩だろうとシロナは当たりをつけた。
「アクアリング!」
スリップダメージが大きい今、それを少しでも軽減させるためにシロナはミロカロスにアクアリングを展開させる。これによりミロカロスは徐々にではあるが回復していき、スリップダメージを軽減させることができる。
「アーマルド!岩雪崩!」
アーマルドはミロカロスに対して無数の岩石を降らせる。無数の岩石はミロカロスの身体にぶつかり、ダメージを与えていった。
しかしダメージを受けた直後、ミロカロスが反撃に転じる。
「熱湯!」
ミロカロスの放った熱湯がアーマルドに当たる。アーマルドは身体をずらすことで直撃は免れたが、効果抜群の技はやはりダメージが大きい。いくら砂嵐で特防が上昇していてもそう何発も受けられるようなダメージではない。
「シザークロスだ!」
アーマルドのシザークロスを受けた瞬間、ミロカロスはその長い身体を使ってアーマルドの身体を巻き付けて捉えた。
「ハイドロポンプ!」
「馬鹿力!」
ミロカロスがハイドロポンプを撃った瞬間、アーマルドは馬鹿力の力を使ってミロカロスを殴りつけてハイドロポンプの進路をずらした。ずらされた結果、アーマルドにハイドロポンプは直撃せずダメージが抑えられる。
「ダメージが大きい…ミロカロス、下がって!」
ミロカロスは水の波導を地面に向けて放ち、その推進力でアーマルドを押し戻すと同時に距離を取る。
「自己再生!」
着地した瞬間、ミロカロスは自己再生でダメージを回復する。しかしその隙を突いてアーマルドはさらに追撃してきた。
「シザークロス!」
(馬鹿力の反動で攻撃力が落ちてるはず。この一撃は受け切れる)
馬鹿力は反動で攻撃力と防御力が下がる。そのため物理攻撃であるシザークロスの威力も落ちるため、防御力が上がりダメージを回復したミロカロスなら受け切れるとシロナは考えた。
しかしシザークロスの威力は全く落ちておらず、回復した分の体力が一気に消し飛んだ。
「攻撃力が落ちてない⁈」
ミロカロスの受けたダメージの大きさを見て、攻撃力が下がっていないことを瞬時にシロナは察した。何故、と考えそうになるがその思考をすぐに止める。
(今はアーマルドを倒すことに集中!)
即座に切り替え、なお迫り来るアーマルドに対処するように指示を出した。
「ストーンエッジだ!」
「地面に向けて冷凍ビーム!」
地面からストーンエッジが突き出して来る前に冷凍ビームで地面を凍らせ、ストーンエッジの発動を遅らせる。その一瞬のタイムラグがミロカロスがストーンエッジを回避させる時間を作った。
「岩雪崩!」
「水の波導!」
技と技がぶつかり合う。
額から流れる汗が頬を伝って落ちる。凄まじい速度でバトルが繰り広げられるが、シロナとダイゴ、そしてポケモン達には時間がスローモーションで進んでいるような感覚に陥る。
楽しい。
互いに全力をぶつけ合ってなお、ギリギリである戦い。このヒリヒリした時間を、シロナとダイゴは求めていた。
ずっとこの時間が続いてほしい。そんな思いが二人を思わず笑顔にさせた。
「シザークロス!」
「冷凍ビーム!」
シザークロスを冷凍ビームで受け、その余波で互いに弾かれる。ミロカロスもアーマルドも限界。次に技を直撃させられれば、どちらも耐え切ることはできない。
それはポケモン達だけでなく、シロナとダイゴもわかっていた。だからここで決めるという確固たる意志のもと、最高とも言える指示を出した。
「ストーンエッジ!」
「ハイドロポンプ!」
アーマルドのストーンエッジとミロカロスのハイドロポンプ。同時に技が放たれ、互いに技が直撃。余波によってフィールドが煙に包まれた。
「っ!」
「く…」
余波の凄まじさにシロナは手で顔を庇う。ダイゴも目元を腕で庇い、砂が目に入ることを防ぐ。
徐々に煙が晴れていく。そして煙が晴れたフィールドには、目を回して倒れるミロカロスとアーマルドがいた。
『ミロカロス、アーマルド。共に戦闘不能!』
結果は相打ちだった。
アーマルドは最後まで防御力が上がったミロカロス相手に攻撃の手を緩めることなく、ミロカロスは最後までアーマルドの攻撃を受け切った。互いの力の限りを出し尽くしたバトルだったと言えるだろう。
「ありがとうアーマルド」
「お疲れ様、ミロカロス。ゆっくり休んで」
互いにポケモンをボールに戻す。
シロナは内心でダイゴに対して戦慄していた。タイプ相性を考えればミロカロスは圧倒的に有利だった。加えて物理耐久を上げたミロカロスなら普通の相手であれば問題なく倒せただろう。
だが相手はチャンピオン。鍛え上げられたポケモンだけでなく咄嗟の切り替えをトレーナー自身ができることがチャンピオンたる所以なのだろう。
予想よりも遥かに強い。だがそうでなくては面白くない。残りの手持ち数はシロナは3体、ダイゴは2体。大きな差がない以上、同数だと考えるべきだろう。
「行くわよトゲキッス!」
シロナが繰り出したのはトゲキッス。素の耐久力も高く技範囲が広いため非常に器用なポケモンだ。
「トゲキッスか。じゃあ君だ。頼んだよ、ネンドール!」
ダイゴが繰り出したのはネンドール。地面・エスパーという珍しいタイプであり、覚える技もトゲキッスの弱点を突けるものがある。タイプ一致の地面技が効かないが、それでも十分戦える。
「ネンドール、光の壁!」
ネンドールは早速光の壁を展開し、特殊耐性を上げた。トゲキッスは物理技を覚えていないため、かなり戦いが厳しくなったことになる。
「展開が早い…でもやるしかないわね。エアスラッシュ!」
真空の刃がネンドールを貫くが、光の壁に阻まれてダメージは少ない。
「冷凍ビーム!」
「かわして!」
ネンドールが放った冷凍ビームをトゲキッスは素早い飛行を行うことで回避していく。連続で放ってくるが、トゲキッスは巧みな飛行技術で全て回避した。
「マジカルリーフ!」
飛びながらネンドールに向けてマジカルリーフを放つ。放たれたマジカルリーフは真っ直ぐネンドールに向かっていくが、マジカルリーフにネンドールは冷凍ビームを当てて相殺した。
「岩石封じだ!」
「エアスラッシュ!」
ネンドールが念力を使って投げつけてくる岩石をトゲキッスはエアスラッシュで切り裂く。しかし技のタイプ相性が良くないため次々と迫り来る岩石を押し返しきれない。
「波導弾!」
エアスラッシュで勢いが弱まった岩石をトゲキッスは波導弾で撃ち抜く。波導弾は岩石の群れを貫通してネンドールに直撃した。しかしネンドールに波導弾は効果今一つ。光の壁の効果も相まってダメージはほとんどない。
「っ⁈どこだ⁈」
反撃に出ようとしたが、岩石が散りばめられたフィールドのどこにも見当たらない。
不意にネンドールの視界に影が落ちる。上空に視線を向けると、トゲキッスが上空で飛んでいた。
(岩石の影に隠れて上に飛んだか!)
「シャドーボール!」
ゴーストタイプな力が球体に集結し、ネンドールに向けて放たれた。咄嗟のことでネンドールは回避しきれずに直撃する。ダメージは抑えられているが、ネンドールの特防が追加効果で下降したのがわかった。
「原始の力!」
シャドーボールを受けながらもネンドールは原始の力で反撃する。シャドーボールとカウンターのように放たれた原始の力をトゲキッスは受けてしまう。大きなダメージを受け、高度を落とすが即座に体勢を立て直し、低空飛行でネンドールを翻弄する。
「まだだ…まだ引き付けるんだ」
ダイゴはトゲキッスの動きを目で追い、絶好のタイミングを待つ。
(チャンスは一瞬!絶対に逃さない!)
ダイゴは攻撃のために一瞬だけ速度を落としたトゲキッスを見逃さなかった。トゲキッスは攻撃のために瞬間的に速度を落とすが、それをダイゴが狙っていた。
「エアスラッシュ!」
「ストーンエッジ!」
トゲキッスのエアスラッシュとネンドールのストーンエッジが同時に放たれる。エアスラッシュがネンドールを切り裂くが、光の壁が威力を弱め、ダメージは大きくない。しかしトゲキッスはそうもいかない。大きなダメージを受け、バランスを崩して地面に落ちてしまう。
「原始の力だ!」
追い討ちとしてネンドールは原始の力をトゲキッスに向けて放つ。投げつけられた岩石をなんとか体勢を立て直したトゲキッスはギリギリで回避する。
「シャドーボール!」
トゲキッスのシャドーボールがネンドールに直撃する。光の壁でダメージが抑えられているとはいえ、効果抜群の技を二度も受ければダメージは無視できないものになる。
(ネンドールが回避できないタイミングで的確に攻撃してくる。そのタイミングを逃さないシロナさんも飛びながらシャドーボールを当ててくるトゲキッスもすごい)
雰囲気的にはダイゴに押せ押せの空気ができている。実際ダイゴの調子はかなりいい。流れもいいものができているが、だからこそダイゴは一度落ち着くことを選んだ。
(これ以上行くなと…ボクの勘が言っている。調子に乗りすぎてはいけない)
調子も空気もいいからこそ、冷静にならなければならない。勢いは大事であるが、それだけに身を任せてはいけない。
ここで冷静に戻れる精神力。チャンピオンだからこそ持つ精神力だった。
「ネンドール!冷凍ビームだ!」
「マジカルシャイン!」
ネンドールの冷凍ビームとトゲキッスのマジカルシャインがぶつかり合い、爆発が起こる。
「エアスラッシュ!」
その爆煙を切り裂いてエアスラッシュが放たれる。念力を使ってすぐそばにある岩石を持ち上げて盾にすることでネンドールはエアスラッシュから逃れる。
「原始の力!」
「マジカルシャイン!」
岩石と光がぶつかり合い、互いに相殺する。お互いに冷静になりながらもバトルのスピードが増幅していく。終わりが近いのが互いにわかる。
「冷凍ビーム!」
「波導弾!」
再び技同士がぶつかり合う。
今度はネンドールが原始の力で爆煙を払う。払われた爆煙から現れたトゲキッスは既に攻撃態勢に入っていた。
「シャドーボール!」
トゲキッスのシャドーボールが直撃し、ネンドールは飛ばされる。いくら光の壁があったとしても、効果抜群の技である以上ダメージはかなり蓄積してきている。
「岩石封じ!」
「避けて!」
カウンターが来ることを予想していたシロナは岩石封じを咄嗟のことだが回避しきることができた。
しかしそれが誘い込まれたものであったとトゲキッスが回避した瞬間に気がついた。
(誘われた!回避は無理!迎え撃つしかない!)
ネンドールは既に攻撃態勢に入っている。トゲキッスの速度では完全な回避は不可能。それを瞬時に察したシロナは迎撃する選択を取る。
「ストーンエッジだ!」
地面から現れた岩の刃がトゲキッスを貫こうとする。その瞬間がとてもスローモーションにみえ、時間が圧縮しているような感覚にフィールドに立つシロナとダイゴは陥った。
その刹那、ダイゴは見た。トゲキッスの口元に凄まじいエネルギーが凝縮しているのを。
(まさか!)
「破壊光線!」
ストーンエッジに貫かれながらもトゲキッスは破壊光線をネンドールに向けて放った。凄まじいエネルギーが光線となってネンドールを貫いた。
破壊光線がフィールドの砂塵を巻き上げ、爆煙を巻き起こした。
少しの間、爆煙でフィールドが見えなかったが、煙が晴れて見えたのはネンドールとトゲキッスのどちらも倒れている姿だった。
『ネンドール、トゲキッス。両者共に戦闘不能!』
再び相打ち。これによりシロナの残り手持ちは2体、ダイゴは1体となった。
「…これが最後か」
ボールを手に取り、ダイゴはシロナを見据える。シロナも汗を流し息を切らしているが、楽しそうに笑っていた。
「これがボクの最後のポケモンだ!いくよ!メタグロス!」
ダイゴが最後に繰り出したのはメタグロスだった。ダイゴのエースであり、四つ足の一つに石が括り付けられているのが見える。
「…頼むわ、ガブリアス!」
シロナはガブリアスを繰り出した。ガブリアスはかなりダメージを受けており、肩で息をしている。それでもなお、凄まじい覇気を放つのは歴戦の猛者故の地力の高さだろう。
ダイゴは不敵に笑うと、右手につけた指輪をシロナに向けた。その指輪についていたのは、キーストーン。
「貴女が相手なんだ。出し惜しみ無しです。最初から最後まで、全開だ」
キーストーンが輝く。その光はメタグロスへと伸びていき、メタグロスの持つメタグロスナイトと共鳴した。光はメタグロスを包み込み、光の繭を作り出す。そしてその繭がひび割れ、中からメガシンカしたメタグロスが現れた。
メタグロスの咆哮が会場を震わせる。これだけで凄まじいほど力を秘めていることがわかった。
「…メガメタグロス」
ダイゴのエース。その実力は、カイムの集めたデータでも凄まじいほどの数値だった。
「いきますよシロナさん!」
「ええ!行くわよ!」
『地震!』
同時に言った指示をそれぞれのポケモンが実行する。ガブリアスの放った地震の衝撃とメタグロスの地震の衝撃がぶつかり合い、爆発が起こる。
「ガブリアス!噛み砕く!」
「コメットパンチ!」
ガブリアスは強靭な顎でメタグロスに噛み付こうとするが、コメットパンチによりガブリアスの身体は弾き飛ばされる。
「特性『硬い爪』…ガブリアスの防御力でも、あと一回受けられないわね」
「鮫肌か。厄介だね」
互いのポケモンの特性は非常に強力。硬い爪は直接攻撃の威力を上げ、鮫肌は接触してきた相手にダメージを与える。メタグロスの攻撃を受けてガブリアスの体力は一割程度まで削られるが、同時にメタグロスの体力を鮫肌で削ることも成功した。
(…ガブリアスができる攻撃も、あと一度か二度。カウンターダメージを考えれば、あと一撃。この攻撃が全てを決める)
(下手な攻撃はできない。一撃で落としきることを考えたら、生半可な威力の攻撃はメタグロスの負担を増やすだけだ)
僅かな思考の末、二人が出した答えは
「ガブリアス!」
「メタグロス!」
「瓦割り!」
「思念の頭突き!」
ガブリアスの瓦割りとメタグロスの思念の頭突きがぶつかり合う。互いに拮抗するが、技のタイプ相性もありガブリアスが押し負けて吹き飛ばされた。モロに受けた思念の頭突きのダメージを受け、ガブリアスの体力は限界に達した。地面に倒れながらも意識は失わず、なんとか起きあがろうとするが、力なく倒れ伏してしまう。
「…ありがとうガブリアス。最高の働きだったわ」
シロナはガブリアスにそう言い、ボールに戻した。
それを見ながらダイゴは内心で冷や汗をかいていた。
(…光の壁を割られた。残っていることに気づいていたか)
先ほどネンドールが張った光の壁はまだ持続していた。ネンドールの持ち物である光の粘土は光の壁やリフレクターの持続時間を伸ばす物だ。だからダイゴはシロナの最後のポケモンがわかった時点で光の壁を維持したままメタグロスを戦わせたかった。
だがシロナはそのダイゴの狙いに気づいていた。だから最後のポケモンの戦闘スタイルも考慮した結果、ガブリアスはダメージよりも場を整える役割を全うさせるべきだと考えた。
「…最後よ。お願い!ルカリオ!」
ボールから出てきたのはルカリオ。タイプ相性は悪くないが、メタグロスのサブウェポンである地震やアームハンマーはルカリオの弱点を突ける。耐久力の高くないルカリオでどこまでやり切れるか、という空気が会場を占めていた。
今から行うことは全ての試合の中で初めてのこと。
だから誰も予想していなかった。わかっていたのは、シロナ本人を除けばこの会場ではカイムのみ。
シロナは胸につけたブローチを外す。
「…貴方を倒すために、今の私の全てをここで出すわ」
そう言ってブローチの蓋を開けると、そこにはキーストーンが入っていた。
「キーストーン⁈」
会場全体がシロナのキーストーン所持に一気にどよめく。今までシロナがメガシンカを使うことはなかった。だから誰もが驚いていた。
「いくわよルカリオ。私達の全てを!」
キーストーンの光がルカリオの持つルカリオナイトと共鳴する。メタグロス同様、光の繭がルカリオを包み込み、それを破って現れたルカリオはメガルカリオへとパワーアップしていた。
「っ!こう来たか!」
予想外の一手。だがダイゴは焦るどころか高揚感に満ち溢れていた。
「最高のバトルだ!いくぞメタグロス!」
「これが最後よルカリオ!みんなが繋げてきたこの瞬間を、最後まで楽しんでいくわよ!」
「メタグロス!アームハンマー!」
「ルカリオ!地震!」
メタグロスは剛腕を振り上げてルカリオに迫り来るが、ルカリオの放った地震の衝撃がメタグロスを襲う。
しかし物理防御の高いメタグロスはタイプ不一致の地震では止まらない。剛腕をルカリオに向けて叩きつけた。
ルカリオは腕に波導を集中し、メタグロスの腕を受ける。かなりダメージは抑えられるが、やはりメタグロスの攻撃力は強い。メガシンカし、パワーアップしたルカリオですら完全に受け切ってなお押される。
「受け流して悪の波導!」
アームハンマーを受け流し、ルカリオは全身に纏う波導を悪タイプに変換してメタグロスにぶつけた。エスパータイプを持つメタグロスに悪タイプは効果抜群。特防が物理防御と比較して低いため、ダメージは入るがタイプ不一致故に効果抜群の割には低い。
(見た目通り硬いわね。でもメガシンカしたルカリオならダメージが入る!)
元々非常に強力なポケモンのメタグロス。それがメガシンカしたとなれば、強くないはずがない。
「メタグロス!もう一度アームハンマー!」
メタグロスの剛腕がルカリオに向けて振り下ろされる。その剛腕をルカリオは手の甲を当てて流水の如き滑らかさでアームハンマーを受け流す。
「今の流すのか⁈」
「ルカリオの技術を甘くみないことね!グロウパンチ!」
アームハンマーを受け流したルカリオはカウンターでグロウパンチをメタグロスに放つ。
だがメタグロスはルカリオのグロウパンチを頭で直接受け止めて耐え切った。
「コメットパンチ!」
攻撃態勢のままのルカリオにコメットパンチが叩き込まれる。咄嗟に波導を集中させてダメージを抑えたが、勢いが強すぎてルカリオは吹き飛ばされる。
空中で体勢を立て直したルカリオは即座に反撃態勢に入る。
「波導弾!」
絶対量がメガシンカにより爆発的に増えた波導を弾丸として凝縮し、放つ。
メタグロスは波導弾を真っ直ぐ見据えると、正面から受けの態勢に入った。
「思念の頭突き!」
メタグロスは波導弾を思念の頭突きで打ち破る。そしてその破った勢いを利用してルカリオに迫ってきた。
「バレットパンチ!」
弾丸のように素早い連続パンチがルカリオに迫る。
「悪の波導を纏ったままバレットパンチを受けて!」
ルカリオは全身に纏う波導を悪タイプに変換し、バレットパンチに拳をぶつけて受ける。拳と拳がぶつかり合うだけでなく、ルカリオは時に足も使ってその攻撃を受け流す。
その様子を、カイムは自分のポケモン達と見ていた。
「…みんな見ておけ。特にバシャーモとルカリオ、メタグロス。お前らが目指す世界は、俺たちが一緒に歩いていくあいつらの世界はあれだ。追いつくのは無理かもしれねえ。でも一つでも多くのことを学ぼう。それが俺らの成長に繋がるんだ」
最愛の人が戦う世界。そこに直接自分達が入ることは、恐らくできない。だが一つでも多くのものを学び、盗める技術を盗む。それが今後シロナの隣を歩いていく上で必要になってくるはずだとカイムは考えた。そしてポケモン達もそれを敏感に感じとり、シロナとダイゴのバトルをその目に焼き付けていた。
(悪の波導を纏ったまま近接攻撃か!ピカチュウのボルテッカーみたいだ)
一方ダイゴはシロナのポケモン全ての技術の高さに舌を巻いていた。ダイゴが今までバトルした中でこれほどまでポケモンたちの技術が高いトレーナーはいない。チーム全体のタイプバランスの良さもさることながら、育成だけでなくポケモン個々の判断力も高い。
「メタグロス!地震!」
メタグロスの地震がルカリオに迫る。ルカリオは波導弾を地面に叩きつけながら跳ぶことで威力を軽減。そして跳んだ状態から再び波導弾を放った。
「打ち返せ!」
メタグロスは腕を振り回すことで波導弾をルカリオに向けて打ち返す。空中で回避ができないルカリオは波導弾を自らの波導に溶かし、自身に還元した。
「そんなことできるのか⁈」
「自分の攻撃でダメージを受けるなんて間抜けなことはないでしょう?」
この言葉は波導弾が打ち返されることを予期して、あらかじめ訓練していたということだ。その想定の広さにダイゴは冷や汗を流した。
「悪の波導!」
「コメットパンチ!」
全身から放たれた悪の波導をメタグロスはコメットパンチで打ち破る。
「雷パンチ!」
電撃を纏った拳をメタグロスはルカリオにぶつける。着地直後だったルカリオは回避が間に合わず直撃を受けてしまう。
「ルカリオ!」
だがルカリオはパンチを受けながらも全身から悪の波導を放ちメタグロスに反撃を仕掛けようとする。だがその瞬間、メタグロスの剛腕が上から降ってきた。
「アームハンマー!」
悪の波導を放つ前にルカリオに突き刺していた腕とは別の腕がルカリオを叩き潰した。鋼タイプ複合のルカリオは格闘タイプの技は効果抜群。メタグロスの攻撃力、ルカリオの耐久力を考慮すると、ルカリオはダウンしてもおかしくない。
だがルカリオは立っていた。メタグロスの剛腕を胴体の攻撃を防いだのとは逆の腕で受け、ダメージを軽減させていた。
「弾いて!」
ルカリオは全身から波導を放出すると咆哮と共にメタグロスの腕を弾いた。そしてメタグロスに向けて全力の攻撃を放つ。
「グロウパンチ!」
今度のグロウパンチはメタグロスは腕で受けることでダメージを抑えた。メタグロスはグロウパンチを受けた腕が痺れていることに気づく。
(グロウパンチは攻撃力を上げつつ攻撃する技。何度も撃たれたら、メタグロスの防御力でもダメージは大きい)
メガルカリオの特性である適応力も相まって威力は高い。メタグロスの防御力を以てしても、半分ほど削られた体力では一撃で消し飛ばされる可能性もある。
早急に決めたい。でもこのバトルをずっとしていたい。そんな矛盾した思いがダイゴだけでなくシロナの胸中にはあった。
「思念の頭突き!」
「悪の波導!」
エスパーの力を宿しながらメタグロスは迫り、そのメタグロスに向けてルカリオは悪の波導を放つ。
タイプ相性を考慮すると、思念の頭突きは押し負ける。しかしメタグロスはそれを理解しており、四つの腕で悪の波導を突き破り思念の頭突きをルカリオにヒットさせる。
思念の頭突きを受けながらもルカリオは肘に波導を集中させ、メタグロスに叩きつけた。その攻撃でメタグロスは地面に叩きつけられ、ルカリオは飛び上がりメタグロスの背後に着地した。
「メタグロス!バレットパンチ!」
「見切り!」
ダイゴは出が非常に早いバレットパンチで牽制を行おうとし、シロナはそれを瞬時に察知して見切りで受け流させた。
そして攻撃を掻い潜るとメタグロスの懐に入り込む。
「インファイト!」
格闘技最強のインファイトがメタグロスに直撃する。咄嗟に下がることで多少威力は軽減させたが、ダメージは大きい。
しかし、メタグロスは倒れなかった。屈強な防御力と卓越した身体運びでダメージを抑えることで比較的余裕を持って耐え切った。
「地震!」
至近距離での地震。メタグロスにも余波が来そうだが、メタグロスが下がったことにより距離ができているためその心配もなく、インファイトの反動で耐久力の下がったルカリオなら倒し切れるとダイゴは判断した。
地震の衝撃がルカリオに迫る。だがシロナはこれを読んでいた。
「神速!」
地震の衝撃が到達するよりも速く、ルカリオは神速で移動した。本来神速は攻撃技。しかしシロナのルカリオは神速を推進力として活用する。神速の推進力を利用した攻撃に反応できるポケモンはそういない。
しかしメタグロスは頭脳がスーパーコンピュータ並みの性能を持つ。ルカリオが神速で移動するのを目で追っていた。メタグロスといえども知らなければ一瞬硬直しただろうが、メタグロスは既に知っていた。ルカリオが神速を推進力として使うことを。
「そこだ!アームハンマー!」
神速の軌道を読み切り、メタグロスは絶好のタイミングでアームハンマーを振り下ろす。神速を読み切られたことがないルカリオにこれを回避する術はない。
本来なら。
ルカリオは振り下ろされるアームハンマーを見据え、速度を一気に落とすとアームハンマーを先程見せた流水の如き滑らかな動きでアームハンマーを受け流した。
「っ⁈」
これを読まれるとは思っていなかったダイゴは驚愕を隠せない。
そしてその瞬間できた隙に、ルカリオは足に力を込める。力を込めた足に炎が灯り、勢いよく燃え上がった。
「ブレイズキック!」
ルカリオのブレイズキックがメタグロスを穿つ。凄まじい轟音と共に爆発が起こった。
「くっ!」
「っ!」
巻き上がる土煙に思わず二人は顔を腕で隠す。
暫しの沈黙。フィールドの煙が晴れていく。
フィールドには二つの影があった。ブレイズキックを放った体勢のままのルカリオと受けたメタグロス。メタグロスの目はまだルカリオを見据えていたが、体力の限界が来てメタグロスは地面に倒れ伏した。
『メタグロス戦闘不能!よってこのバトル!シンオウ地方チャンピオン、シロナの勝利!』
割れるような歓声。その中でシロナは暗くなった空を見上げて大きく息を吐いた。それと同時に汗が首筋を伝っていくのを感じた。
「メタグロス、お疲れ様。ありがとう」
ダイゴはフィールドに降りるとメタグロスを撫でながら言った。メタグロスは光に包まれ、普段の姿に戻るとボールに戻っていった。
そのままフィールドを歩いてシロナへと近づいていく。シロナもそれを見るとフィールドへ降りてルカリオに手を貸して立たせるとダイゴと向き合った。
「…完敗でした。ボクの持ち得る全てを出し尽くしたのに勝てなかった」
「私も、私の持つ全てを出さなければ勝てなかったわ」
悔しそうにしながらもダイゴはやり切ったような笑顔をシロナに向け、問いかけてきた。
「聞いてもいいですか?」
「もちろん」
「最後の神速…ボクが軌道を読むことを、予期していたんですか?」
ダイゴが調べた限りでは、シロナの神速からの攻撃を防がれた記録はない。連続してできるような芸当ではないが、確実にダメージを入れられる手札の一つではある。そのためこれのカウンターを食らうということは前例が無い限り予期できないのではないかとダイゴは考えていた。
しかしシロナはその上をいった。シロナだから、と言えばそれで終わりだが、どうしてもそこがダイゴにとっては引っかかっていた。
「ああ、それね」
シロナは胸元に下がっている赤いリングに手を添えた。
「…そうね。私だけなら、多分神速を読み切られることを予期できなかったわ」
「じゃあどうして……あっ!」
ダイゴはシロナのサポーターが誰なのかを思い出す。ダイゴのことを知り尽くし、そして理解している男がサポーターだということを。
「…カイムが?」
「ええ。カイムが言ってたのよ。『あいつならそれくらいやる』ってね」
「ははは!流石だよカイム!本当にボクのことをよくわかっているなあいつは!」
実際カイムの予想通り、読まれることを読まれた。実力は拮抗していたが、最後に勝敗を分けたのはサポーターの質だった。
「あーあ。してやられましたよ」
「ふふ、私のサポーターは優秀でしょ?」
「本当にそうですよ。最高のサポーターだ。あー、悔しいなあ!」
満面の笑みを浮かべながらダイゴは悔しいと言った。悔しさはもちろんあるが、それ以上にこんな楽しいバトルができたことを喜んでいるようだった。
「ありがとうございました。楽しかったです」
「私も楽しかったわ。ありがとう」
二人は固く握手を交わして笑い合った。
そして割れるような歓声の中、二人は最高の遊び場を後にした。
会場を後にしたダイゴを出迎えたのはミクリだった。
「やあ、お疲れ様」
「うん。ありがとう」
手渡された水を受け取るとダイゴはそれを勢いよく飲んだ。極限まで集中していたため、想像以上に体力を消耗している。消耗した体に冷えた水はよく染み渡った。
「惜しかったね」
「ああ、うん。そうだね」
「次は勝てるさ」
「もちろん。次やることがあったら絶対勝つよ」
不敵な笑みを浮かべながら返すダイゴにミクリは言った。
「悔しくないのかい?」
「もちろん悔しいさ。全力を出したのに勝てなかったんだ。単純な地力では互角だろうから、次やるときは勝つよ」
「…そうか」
口調からして悔しいのは本当だろう。だがそれ以上に楽しかった、と言う感情がダイゴの中では強い。そのため悔しさ以上に『次どうするか』ということを考えることが楽しみで仕方がないのだ。
「ミクリは勝ったんだっけ」
「ああ。ワタルさんを相手にとってもギリギリでね」
「すごいなあ。あのワタルさんに勝つなんて」
「タイプ相性も良かったからね。だがさすがカントーのチャンピオンだ。用意してきた秘策を全て使わざるを得なかったよ」
ミクリは水タイプを主に使うトレーナー。水タイプのポケモンはサブウェポンでドラゴンタイプに強い氷タイプの技を覚えるポケモンが多い。互いに用意してきた対策や実力に大きな差はないが、やはり攻め手に強みがあったミクリが有利であった。
「いいなあ。ボクもワタルさんとバトルしたかったな」
「私もシロナさんと戦いたい。だから次の試合も全力で勝ちにいって決勝で当たりたい」
「シロナさんが勝つって思っているんだ?」
「単純な実力は互角だろう。でも知り合いということもあるから、願望も入っているけどね」
「はは、わかるよ」
二人は試合後で疲弊しているにも関わらず、楽しげに話しながらポケモンセンターへと歩いていくのだった。
ーーー
バックヤードに戻ると、シロナを最初に出迎えたのはカイムだった。
「お疲れ」
シロナに向けてペットボトルとタオルを放る。シロナはそれを難なく受け取ると、穏やかな笑みを浮かべた。
「ありがとう」
「激戦だったな」
「ええ。とても厳しい戦いだったわ」
正直、ルカリオをメガシンカさせてなければこの試合は多分負けていた。それほどまでにメガシンカというものの強さを実感させるようなバトルだった。
「ダイゴ、強かったろ」
「とても強かったわ」
「だろ?昔から強いんだ、あいつ」
カイムの声は普段と変わらないように思えるが、少しだけトーンが上がっている。シロナが勝てたこと、そしてあれほどのバトルを直接見ることができたことがなによりも嬉しいのだろう。
「貴方の読み、当たったわ」
「そうだったな。まあ、あいつならやれるよ」
「信頼してるのね」
「シロナとは別ベクトルで、だがな」
シロナは受け取ったタオルで汗や砂を拭き取る。
そしてカイムを見据えると微笑みながら言った。
「ありがとう。貴方のおかげで勝てたわ」
「これが俺の望んだことだ」
「最後のブレイズキックね、貴方のバシャーモと私のルカリオが修行している時にバシャーモに教えてもらったんだって」
ルカリオは、本来ブレイズキックを覚えない。正確に言うと、遺伝技であるため後天的に覚えることは本来できない。しかしルカリオはバシャーモと長く修行することで、バシャーモの技術を身につけ、その結果ブレイズキックを会得するに至った。種族として覚えるポテンシャルがある以上、不可能なことではない。
「最後まで出さなかった理由は?」
「タイプ不一致の技である以上、メタグロスを一撃で倒す火力を出せないからよ。下手に見せれば警戒されて撃つことが難しくなるわ」
「なるほどな」
「サポーターとしてもだけど、私は貴方と貴方のポケモン達のおかげで成長して、今回勝てたわ。感謝してる。ありがとう」
そう言ってシロナはカイムを抱きしめた。カイムもその背中にそっと手を回してシロナを抱きしめ返す。
少ししてシロナはカイムを離した。
「ポケモンセンター行かなきゃ。みんないっぱい頑張ってくれたんだし、ちゃんと労ってあげなきゃね」
「回復が終わったら俺のとこに連れてこい。全員、疲労を抜くためのマッサージするから」
「お願いね」
そう言ってシロナはカイムの手を取り歩き始める。カイムもシロナの隣に並んでポケモンセンターへと向かっていった。
一回戦
レッド対アイリス 勝者レッド
ワタル対ミクリ 勝者ミクリ
ダンデ対カルネ 勝者ダンデ
ダイゴ対シロナ 勝者シロナ
めっちゃ書くの難しかったです。
ダイゴの手持ちとシロナの手持ちのポケモンが覚える技を調べ、その技に合った動きをさせつつ、それを読み切るように互いを動かすのは骨が折れました。
そしてこのバトルを書くためだけにわざわざダイゴのパーティ厳選して強化シロナさんと戦ってきました。褒めて。
シロナさんの手持ちと特性と持ち物
ミカルゲ プレッシャー オボンの実
ポリゴンZ 適応力 ものしりメガネ
トゲキッス 天の恵み たべのこし
ルカリオ 精神力 ルカリオナイト
ミロカロス 不思議な鱗 火炎玉
ガブリアス 鮫肌 ヤチェの実
ダイゴさんの手持ちと特性と持ち物
エアームド 頑丈 パワフルハーブ
ボスゴドラ 石頭 力のハチマキ
ネンドール 浮遊 光の粘土
プテラ 緊張感 さらさら岩
アーマルド カブトアーマー 白いハーブ
メタグロス メタグロスナイト
地震のエフェクトはポケモンコロシアムの地震が一番好きなのでそれを想定して書いてます。
言うまでもないと思いますが、別に私はダイゴさんがシロナさんに劣っているとは思いません。展開の都合上シロナさんが勝ちましたが、ダイゴが勝つこともあると思います。
シロナ
ダイゴにギリギリ勝てた。タイプ相性を考えればガブリアスをメガシンカさせた方が良さそうだが、ガブリアスってメガシンカするとなぜか素早さ種族値が下がるしルカリオにもメガシンカさせたかったためこじつけでルカリオにメガシンカしてもらった。ここまで苦戦したのはダイゴが普段とは異なりめっちゃ攻めてきて、それが今までのスタイルと違いすぎたから。
カイム
サポーター。シロナのサポーターとして働いているしシロナの勝利を願っていたけど、親友が勝つ姿も見たかったという思いもあるためちょっと複雑な気持ち。
ダイゴ
負けたけど楽しかったからヨシ!と思ってる。メガメタグロスのステータスみたけど、めっちゃ強くて笑った。
ワタル
よく不正やらチートを疑われる人。強い。
カルネ
シロナの友達であり大女優。この二人のバトルをできれば本編で書きたかった。強い。
ダンデ
次の対戦相手。方向音痴。強い。
アイリス
ゲームではリメイクシロナさんに次ぐレベルでの廃人仕様のアルティメットアイリスがいるけど、レッドには勝てなかった。強い。
ミクリ
相手がドラゴンタイプメインだったから勝てた。エメラルドではチャンピオンの人。強い。
レッド
出番はまだ先。服装はポケマスのマジコスレッドの服。クソ強い。
次回、vsダンデ
数日以内に砂糖の供給をいたします。私がただ書きたかっただけのお話です。
みなさんの推しタイプは?
-
ノーマル
-
ほのお
-
みず
-
でんき
-
くさ
-
こおり
-
かくとう
-
どく
-
じめん
-
ひこう
-
エスパー
-
むし
-
いわ
-
ゴースト
-
ドラゴン
-
あく
-
はがね
-
フェアリー