ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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ダンデ戦


マジコスシロナさん天井しました。ハロウィンカトレアと並べてにっこりしてます。

バトルに入るまでに約2万文字という暴挙。
そして過去最長の5万文字です。申し訳ないです。楽しくなっちゃったんです。

誤字報告してくださる皆様、いつもお世話になっております。
多分今回もめっちゃお世話になります。申し訳ありません。


24話です。


24話 セキエイ高原②

ダイゴとの激闘を終えたシロナは入浴してダイゴとのバトルの疲れを癒やしていた。トーナメント戦であるためバトルは翌日。あれほどのバトルの疲れは本来なら一日程度で完全に抜けるものではない。だからこそ限られた時間でできるだけ英気を養うために風呂に浸かってゆっくりしていた。

 

「気持ちいい…」

 

浴場で足を伸ばし湯船の淵に頭を乗せてシロナは力を抜く。ダイゴとのバトルは心底楽しむことができたが、それ相応に体力を消耗した。明日のダンデとのバトルまでにできる限り体力を回復し、コンディションをベストに近くしていく必要がある。

明日の夕方の試合。シロナはガラル地方チャンピオンであるダンデとバトルする。ダンデはチャンピオンになって以来無敗であり『無敵のダンデ』と呼ばれるほどの強さを誇っている。この体力回復の時間に対策構築も並行して行おうと考えたシロナは、浴室に備え付けられている防水モニターを操作してダンデ対カルネの録画を映した。

 

「……エースはリザードンね」

 

ダンデの手持ちはシロナ同様バランスのいいチームに仕上がっている。それぞれが強力な技や卓越した技術を持っている。どのポケモンを取ってもそこいらのトレーナーではとても育成しきれないような強さになっている。

そしてなによりも注目すべきはエースであるリザードンと、ガラル地方のみで見ることができる現象である『ダイマックス』。ポケモンが巨大化し、技も強力なものになる特異的な現象だ。リザードンがダイマックスを行うと、通常のダイマックスとは若干異なるキョダイマックスという進化を遂げる。キョダイマックスを行ったリザードンの強さは凄まじく、攻撃の余波で観客席を守るシールドがビリビリと悲鳴をあげているのが映像から見てとれる。

このダイマックスはメガシンカと似ているような気もするが、メガシンカと異なり『ガラル地方のみでしか行えない』という特徴がある。正直メガシンカよりも強力ではあるが、土地の縛りがあるため使えないかもしれないと思っていた。しかしダンデはダイマックスを行っている。ルールに外れないような外的要因によって行われているらしいが、どのようなものなのかはシロナもわからない。

 

「…ダイマックス。強いわね」

 

ダイマックスの強みはまず技が強力になること。威力が上がるだけでなくその攻撃の副作用としてフィールドに影響を与えたり自身の能力を向上させる機能がある。例えばリザードンの使う『キョダイゴクエン』の場合、フィールドが炎のフィールドに変化し、スリップダメージが常に入るようになる。ただの火傷や毒よりも遥かに大きいスリップダメージであるため、これを攻略するのは困難だろう。

ただダイマックスにも弱点はある。それを上手く活用すれば、メガシンカでもダイマックスに勝つことができるだろう。

 

何であれ、ダイマックスができる以上その対策が必要となる。巨大化という今までのポケモンバトルとは違う相手の状態。無策に挑んでいい相手ではない。

 

「…巨大化したから攻撃範囲がやはり広い。その分動きも出も遅い」

 

カルネも動きが遅いという弱点を突いて果敢に攻めていた。しかしダンデも動きの早い相手にも対応し、ダメージを与えている。キョダイゴクエンもフィールドを炎のフィールドに変え、炎タイプ以外のポケモンは断続的にダメージが入る。

シロナの手持ちに炎タイプはいない。つまり根本的に無効化することは不可能であり、相手がキョダイマックスという状態である以上出させないというのも困難。どこでリザードンが出てくるかわからないが、キョダイゴクエンの追加効果を受ける前提で話を進める必要があるだろう。

 

(…そうなると、炎タイプが弱点のルカリオは当てられないわ。メタグロス相手には等倍以下で抑えられたけど、あれはルカリオの素早さがメガシンカをすることでメタグロスの素早さを僅かに上回った結果。ダイマックスによって攻撃範囲が激増したことを考慮すると、素早さだけで凌ぐことは無理…そもそも回避が不可能と考えた方がいいわね)

 

ルカリオはメガシンカすることで素早さが上がる。その素早さが上がった結果、素のスピードが自身のスピードよりも僅かに劣るメタグロスの攻撃を見切り、対応することができた。

 

しかしダイマックスを行った状態の攻撃は攻撃範囲が広く回避や受け流すことが困難。そうなると、メガシンカして素早さを上げたとしても耐久力が高くないポケモンでは厳しい。シロナの手持ち的に耐久力とタイプ相性でリザードンに強いのはミロカロス。キョダイゴクエンの炎のフィールドもアクアリングである程度軽減可能。加えてダンデのリザードンはほぼ全ての攻撃が特殊攻撃。特防の高いミロカロスは相性がいい。

 

「リザードンの相手にミロカロス…悪くないわ。他のポケモンを見てもミロカロスで行くのが妥当。ガブリアスも悪くないわ。そうなるとドサイドンやギルガルドの相手は…」

「おい」

「わっ!」

 

浴室の外から突如声をかけられ、シロナは驚いた声を上げる。

 

「びっくりした。どうしたの?」

 

基本カイムは入浴中に声をかけてきたりはしない。しかし今日は声をかけてきたため珍しいと思いつつシロナは返事をする。

 

「ポケモン達の回復が終わったって連絡が来た。まだ風呂入ってるなら俺がポケモン達迎えに行くけどどうする」

「ああ、回復終わったのね。じゃあお願いしてもいい?」

「わかった。受け取ったらそのままマッサージに入るから時間かかるぞ」

「ありがとう。よろしくね」

 

シロナはそこで話が途切れるかと思ったが、カイムは続けた。

 

「それと、長風呂はいいが湯あたりしないようにな。風呂で対策を立てんな。終わらないんだから」

「あ、ごめん。もうそんなに入ってた?」

「割と長えぞ。そろそろ上がれ」

 

時計を見てみると、結構な時間入浴していることが判明した。元々髪の手入れで時間は長いが、確かにこれほどの時間はカイムが心配の声をかけてきてもおかしくない。

 

「気づかなかったわ。ありがとう」

「ん。じゃあ行ってくる」

「お願いね」

 

そう言ってカイムは部屋を後にし、シロナのポケモン達を迎えに行った。残されたシロナはモニターの電源を落とすと、湯船から身体を出して大きく伸びをした。タオルで水分を拭き取り着替えてドライヤーを持って脱衣所を出た。

ダイゴとのバトルは激戦であり、とても楽しかった。疲労はあるが、いい試合をした後の心地よい疲労だ。その疲労も入浴のおかげでかなり軽減された。あとは睡眠とストレッチで回復できるだろう。ポケモン達の面倒もカイムに任せている以上シロナが現在気にする必要があることは試合くらいだ。しかし自分のポケモンを完全に任せ切りにするのも悪いため、早くカイムのもとへ行こうとシロナは考えた。

そう判断したシロナは机の上に置いてあるカイムのタブレットを手に取った。タブレットのロック画面が表示され、パスワードが要求される。シロナは迷いなくパスワードを入力した。

 

「………」

 

カイムのタブレットのパスワード。その数字はシロナの誕生日だった。元々知らされていたため驚きはしない。

 

「わざわざ私の誕生日にしなくてもいいのに」

 

そう呟きながらもシロナは自分の頬が緩むのがわかる。カトレアがこの場にいたらいじられていたこと間違い無しだろう。

 

「いけない、カイムのところに行かないと」

 

緩みそうになった気を引き締め直し、タブレットと部屋のカードキーを持ってシロナはカイムがいる場所へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

シロナのポケモン達をポケモンセンターから受け取ったカイムは、宿泊施設の地下にあるフィールドの一つにいた。

 

「さてと…始めるか」

 

カイムはシロナのポケモン達をボールから出す。シロナのポケモン達はダイゴとのバトルで疲弊していたが、ポケモンセンターのおかげでバトルができるくらいは回復している。しかしあくまで身体の傷が回復しただけであり、精神的疲労は回復していない。それを回復させ、さらにはコンディションをできるだけ最高に近づけることがカイムの仕事だ。

 

「さてと…まずはミカルゲからだな」

 

呼ばれたミカルゲは鳴きながら後ろを向いた。ミカルゲはかなめいしを磨かれることを好む。そのためカイムはかなめいしを磨き、精神的疲労を取るマッサージみたいな形で行う。

 

「おつかれ。よく頑張ったな」

 

ミカルゲは気持ちよさそうに鳴いた。たくさんの悪い魂が集まってできたポケモンだと言われているが、今の気持ちよさそうにかなめいしを磨かれるミカルゲを見ているととても悪い魂が集まったようには思えないなとカイムは苦笑した。

他のポケモン達もカイムのポケモンと軽い組み手をするなり水をかけてもらうなり思い思いに過ごしていた。

 

「あんまやりすぎんなよ」

 

水浴びはともかく、組み手はやりすぎると寧ろ疲労してしまう。疲労回復のためにフィールドを借りたというのにここで疲れてしまっては意味がない。ガブリアスやルカリオは戦闘狂な気質があるためやらないとは言い切れないし、バシャーモとルカリオは間違いなくそれに乗る。こうして釘を刺しておかないと本当にやりかねない。

 

「よし、いいだろう」

 

ミカルゲのかなめいしを磨き終えると、次にカイムはトゲキッスに目を向けた。

 

「トゲキッス!」

 

カイムが呼ぶとトゲキッスは嬉しそうに近づいてきた。

 

「お前も…頑張ってたな。すごいぞ」

 

カイムはトゲキッスの羽を優しく撫でる。トゲキッスは嬉しそうにカイムに頭を擦り付けてきた。そんなトゲキッスの羽をカイムはマッサージしていく。そうすることでトゲキッスの疲労を抜き、癒やしていった。

そうしてトゲキッスを癒やしていると、突然フィールドの扉が開く。

 

「え」

「あれー?ここにもいない」

 

扉から入ってきたのは茶髪の髪を携え、緑のニットと茶色のコートを着た女性だった。

 

「……あの、ここ俺が使ってるんすけど」

「あ、すみません。ここにダンデ君…でわかるよね?ガラル地方チャンピオンの。来ました?」

「わかりますけど…ここには来てないすよ」

「そっかー…アテが外れたな〜」

 

女性は困ったように笑いながら頭をかき、スマートフォンを見る。何か事情があるのだろうと察したカイムは女性に問いかけた。

 

「何かあったんすか?」

「いやー…ダンデ君がどっか行っちゃってさ。探しているし連絡もしてるんだけど返事がなくて」

 

困ったように笑いながら女性はカイムの胸元に下がっているIDを見た。

 

「あ、君もサポーターなんだ」

「君『も』ってことは、貴女も?」

「うん。ほら」

 

そう言って女性はIDを取り出して見せた。そこにはカイムと同じ『supporter』という文字が記されている。

と、そこで女性は勝手に入った上で色々と許可も得ずに話してしまったことに気がついた。

 

「あ、ごめん。勝手に入った上に色々喋っちゃって」

「いえ、問題ないです。邪魔にはなっていません」

「せっかくサポーター同士知り合えたんだし、名乗っておくね。あたしはソニア。ダンデ君のサポーターとしてここに来たわ」

 

女性…ソニアはそう言ってカイムに手を差し出した。カイムはその手を取って握手に応える。

 

「カイムだ。シンオウ地方チャンピオン、シロナのサポーターです」

「シロナさんのサポーター!じゃあ次ダンデ君とのバトルだ!」

「ああ。そうなる」

 

楽しそうに話すソニアにカイムは淡白に返す。そんなカイムに気を悪くすることなく楽しそうにソニアは続けた。

 

「カイム君の側にいるのって、シロナさんのポケモン達だよね。今調整中?」

 

いきなり君呼ばわりかよ、と内心で突っ込んだがカイムは気にしてないように平然と返す。

 

「調整と回復」

「うわ、サポーターらしいことしてる」

「…あんたはしてないのか?」

 

ソニアが砕けた口調であり、年齢もそう変わらない歳だろうと予想したカイムも少々砕けた口調になりつつ、ソニアにそう問いかけた。

 

「うん。あたしはダンデ君の道案内というか、付き添いで来たの」

「道案内?」

「そう。実はダンデ君ってすっごい方向音痴なの!すぐ近くの場所に行くのにも迷って全然辿り着けないんだ。セキエイ高原までの道、絶対辿り着けないと思ったからあたしがサポーターってことで着いてきたんだ」

「方向音痴…」

 

先ほどの試合を見ていただけではとても想像がつかない意外な一面にカイムはどことなく既視感を覚えた。シロナも普段のクールな様子からは想像できないような一面を持つ。シロナが片付けができないように、ダンデにもそういうちょっとした弱点がある。そのことに少しだけカイムは安心した。彼らチャンピオンも人間であり、欠点があることがなんとなく親しみやすい印象に繋がった。

 

「それで試合後にポケモンセンターまで連れて行ってあげたんだけど…ポケモン達を受け取ったらどこかに行っちゃってね。それで探してたんだけど、どーにも見つからなくて」

「大変だな」

「まーね。でも楽しそうに戦うダンデ君を見るのは好きだから。それにダンデ君が活躍してるのを見るのはかつてのライバルとしても嬉しいしね」

「ライバル?」

 

付き添いという立場とは少し違う立場の言葉が出てきてカイムは思わず聞き返す。

 

「うん。昔、ダンデ君と一緒にジムチャレンジしてたんだ。それでポケモンリーグでダンデ君とバトルしたの。結果は負けちゃって今のあたしはバトルも引退したけど、かつてのライバルが活躍するのは嬉しいよ」

 

歯を見せて笑うソニアにカイムも『そうか』と答えて小さく笑い返す。

だがソニアはその楽しそうな表情を一変させ、困ったようにため息をついた。

 

「ほーんとどこにいるんだろ。調整とか色々やることあると思うんだけど…電話しても出ないし」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。多分、電波が届きにくい場所に迷い込んだか、スマホの充電が切れただけだし。それに本当にやばいと思ったらいつもリザードンに連れてきてもらってるみたいだから」

 

それなりに世話の焼けるチャンピオンらしい。もういっそずっとリザードンに連れて行ってもらえばいいのではと思ったが、ダンデなりにポケモンに気を使っているのだろうと考えた。

 

「もしかしたらここでバトルしてるかなーって思って来たんだけど、アテが外れちゃったみたい」

「そうか」

「とりあえず少し待ってみようかな。あたしの勘だとそろそろ連絡返ってくると思うんだよね」

「わかるのか?」

「なんとなくね。ま、でもいつ来るかはわからないしこのままお暇させてもらうよ。ごめんね、お仕事の邪魔しちゃって」

 

そう言ってソニアは手を合わせて謝るとフィールドの出入り口へと歩いていこうとした。その背中にカイムは呼びかける。

 

「待つ場所がないなら、ここにいてもいいぞ。聞いた感じだと行くアテねえんだろ」

 

それを聞いたソニアは驚いた顔をしてカイムを見た。

 

「え、でも…」

「あんた一人いたくらいじゃ支障ねえよ。それに、そろそろシロナも来る。悪いと思ってんなら、むしろいてくれ」

「どういうこと?」

 

いないでくれ、ならわかるがいてくれという言葉の真意を理解することができずソニアは聞き返す。

 

「あんた、ダンデさんのサポーターなんだろ?聞いた感じだと本当のサポーターってわけじゃ無さそうだが…ガラルでダンデさんのことを近くで見てきたあんたにしかわからないこともあるだろう。それをシロナに聞かせてほしい」

「でもあたし、もうバトルを引退した身だから今のダンデ君のバトルについて細かいところはわからないよ?」

 

ソニアは今現在、祖母であるマグノリア博士の助手としてポケモンの研究を行っている。そのためいくらかつてのライバルとはいえ、今のダンデがどこが弱点でどんなことが得意なのかは分からない。

だがカイムはそれでいいと考えていた。

 

「いいんだ。相手がどんな人物で、普段ポケモンとどう接しているか…バトルの中でも見出せるものはたくさんあるが、側で見てきたあんたの感想を聞きたい。きっとそれはシロナにも役立つだろうからな」

「敵に塩を送れってこと?」

 

仮にもソニアはダンデのサポーター。ダンデに優勝してほしいという思いがある以上、ダンデが不利になるようなことはしたくはなかった。

そんなソニアの思考を理解したカイムは言う。

 

「いや、よりバトルを楽しんでもらうためだ」

 

シロナは、バトルを通して相手のことを理解することができる。恐らくダンデも似たようなものだろう。だがバトルだけでお互いを知るのではなく、事前に色々なことを知っておくことでよりバトルの中でたくさんの『対話』をすることができるとシロナは言っていた。

カイムはその領域には達せていないが、シロナがそうやってバトルを楽しむのであれば、その手伝いをしたい。そう考えた上での提案だった。

 

「別にバトルのことを話さなくていい。ただ日常でダンデさんがどう過ごして、どうポケモンと接しているか。そういう他愛ない内容でいいんだ」

「あ、そういうことね。うん、それくらいならいいよ」

 

ソニアは笑ってそう返すと、足元に歩いてきたブラッキーに視線を落とした。首を傾げるブラッキーを撫でながらソニアはカイムに視線を移した。

 

「この子、カイム君のポケモンよね?」

 

ソニアが記憶している限り、シロナはブラッキーを手持ちに加えていない。もしかしたら登録していない交換枠のポケモンなのかもしれないが、なんとなくシロナではなくカイムのポケモンだろうとソニアは感じた。

 

「ああ」

「人懐っこいのね。他の子達も見せてほしいな」

「そうか。じゃあお前ら、集合」 

 

カイムが集合をかけると、カイムのポケモン達……だけでなく、シロナのポケモン達までカイムに向けて走ってきた。

 

「え⁈おい待て待て待て待て!」

 

焦った様子でポケモン達を止めようとするが、ポケモン達は聞くことはせずにカイムに突っ込んでいった。

そのままポケモン達はカイムのことをもみくちゃにする。ポケモン達はカイムを乱暴に撫でたり身体を押し付けたりして楽しそうにしており、どれほどカイムが信頼できる存在なのかを示していた。

 

「ぐおっ……つ、潰れる…」

「ふふ…あははは!カイム君、すっごい好かれてるんだね」

「笑ってないで…助けてくれ」

 

そうは言いつつも、ポケモンに囲まれてもみくちゃにされているカイムはどこか楽しそうな表情をしており、それに気づいたソニアは笑いながらポケモン達の気が済むのを待った。

 

暫しの間もみくちゃにされたカイムはやっとの思いでポケモン達の群れから抜け出す。

 

「やれやれ…ひでえ目にあった」

 

大きくため息をつくカイムだが、その表情はどことなく緩い。ソニアはそれを指摘して楽しそうに言った。

 

「とかいいつつ、結構嬉しそうだったよ?」

「…嫌とは一言も言ってねえ」

 

素直じゃない物言いにソニアは笑う。

 

(きっとポケモンが大好きなんだね)

 

ポケモン達がカイムに対して信頼を寄せていることは見ればわかる。そこに先程のもみくちゃにされた様子を見ればポケモン達はカイムのことが大好きであることもわかった。

まだ会ってから数分しか経っていないが、ここまでポケモン達に信頼されているのだし良い人なんだろうな、とソニアは内心で思った。

 

と、そこでフィールドの入り口の扉が開いた。そこから入ってきたのはシンオウ地方チャンピオンのシロナ。カイムがシロナのサポーターであるためシロナが入ってくることは別段不思議ではないが、やはりチャンピオン。纏う空気の力強さが明らかに他のトレーナーとは違う。その覇気の力強さにソニアは思わず息を呑んだ。

 

「カイム、お待たせ。みんなの面倒見てくれてありがとう」

「好きでやってることだ。気にすんな」

「それで…こちらの方は?」

 

シロナはソニアに視線を向けた。視線を向けられたソニアは一瞬ビクッとしたが、そんなソニアに対してシロナは柔らかい笑顔を向けた。その笑顔を向けられたソニアは少しだけ緊張を解く。

 

「ああ、この人はソニア。ダンデさんのサポーターらしい」

「あら、ダンデさんの?」

「はじめまして。ソニアといいます。カイム君が今言ったようにあたしはダンデ君のサポーターです」

 

快活な笑みを浮かべながらソニアはシロナに手を差し出した。シロナもその手を取り、握手に応える。

 

「次ダンデさんとバトルするシロナよ。よろしくね」

「すごい…やっぱり雰囲気がありますねチャンピオンって」

 

シロナの体から溢れる覇気。これをソニアは敏感に感じ取っていた。普通にしていても溢れ出る覇気が感じられる。ダンデも同じように強い覇気を持っているため、やはり二人とも同じ段階にいるトレーナーなのだとソニアは改めて実感した。

 

「ふふ、ありがとう。ソニアさんは…ダンデさんのサポーターなのよね」

「はい。まあサポーターって言ってるけどカイム君みたいに本格的なサポートはしないんですけど」

「え?そうなの?」

「あたしの役目はダンデ君の道案内です。ダンデ君、すっごい方向音痴なんで」

 

そういえば、とシロナは開会式前の時を思い出す。道に迷い、時間ギリギリまで地図の前で頭を捻らせていたダンデの姿。確かにその姿からダンデが方向音痴だと連想していたが、まさか本当に方向音痴だったとはシロナも思っていなかった。

 

「そんなに方向音痴なの?」

「はい。多分ダンデ君だけじゃこのスタジアムまで辿り着くことはできなかったと思います」

「それは…結構重症ね」

 

セキエイ高原への道はそこまで複雑な道ではない。チャンピオンロードを通るのであれば話は別だが、今回は時短とポケモン達に無駄な体力を使わせないために一般人が来訪するための道が解放されている。その道は基本一本道のはずなのだが、それすらも来られないのは確かに重症だ。

 

「ま、シロナも割とひでえけどな」

「え?シロナさんも方向音痴なの?」

「いや、こいつは片付けられない女」

「ちょ、カイム!」

 

いきなり思わぬカミングアウトをされてシロナは顔を赤くしながら狼狽える。そんなシロナのことをカイムはくつくつと笑いながら見た。

 

「事実だろうに」

「そ、そうだけど…」

「こいつ、放っておくと研究資料で家が恐ろしいことになるんだ。整理整頓が絶望的に下手でな」

 

ここで家事全般ができないことを言わなかったのはカイムなりの優しさだろう。そもそも片付けができないということは以前テレビの取材で言っている。故に今更隠すようなことでもない。

 

「誰にでも苦手なものってあるんだね」

「そりゃそうだ。人間だし」

「もう…私の話はいいでしょ」

 

シロナは一つ咳払いをして話を変えた。

 

「そうだ。聞きたいことがあったの」

「なんですか?あたしに答えられることなら答えますけど」

「ダイマックスについて聞きたかったの」

 

ダイマックスという言葉を聞いたソニアは少しだけ表情を明るくした。何故明るくなったのかはわからないが、ソニアにとって地雷となるような話題ではないことを察したシロナは話を続ける。

 

「ダイマックスって、確かガラル地方で見られる特異現象よね。私の認識だとガラル地方『のみ』で見られるものだって思ってたんだけど、カントー地方でも使えるのはどうして?」

 

ダイマックスという現象は本来ガラル地方でしか見られない。しかしカルネとのバトルでダンデはダイマックスを駆使して戦った。何故このカントー地方でもダイマックスが使えたのかシロナは気になっていた。

 

「そうですね。まずダイマックスについてなんですけど…確かにダイマックスってガラル地方でしか見られない現象なんです。そのダイマックスの原因となる物質、ガラル粒子っていうのがガラル地方には満ちていて、そのガラル粒子の作用でポケモン達はダイマックスするんです」

「端的に言えばガラル粒子でポケモンが巨大化すると」

「はい。それでそのガラル粒子は名前の通りガラル地方にしか存在しないんです。だからダイマックスはガラル地方でしか見られないの」

 

ソニアの言葉の通りなら、カントー地方でダイマックスはできない。そのガラル粒子が無い以上、ダイマックスの原因となるものがないから自明とも言える。

 

「でもダイマックスって本来自然現象だよな?俺、他の地方のバトルに詳しくないからよく知らねえんだが、トレーナーが意図的にダイマックスさせてるのはどういうことなんだ?」

 

自然現象としての側面が強いダイマックスだが、ガラル地方のトレーナー達は意図的にダイマックスを使用している。その制御ができるものがあるのだろうが、どのようにして制御しているのかをカイムは問いかけた。

 

「あれはね、『ねがいぼし』っていうものを埋め込んだダイマックスバンドを使うことでできるんだよ。そのねがいぼしにガラル粒子のエネルギーが蓄えられていて、装備者の任意のタイミングでダイマックスさせることができる仕様なの」

「へえ…」

「それでシロナさんの質問についてなんだけど…確かにダイマックスはカントー地方じゃ本来はできないです。でも今回は特例でできるようにしてもらったの」

「特例?」

 

許可をもらった程度でどうこうなるものではない。だがソニアは特例でできるようになったと言った。

 

「ローズ委員長…ああ、ガラル地方のポケモンリーグ運営委員長ね。その人の会社で開発されたガラル粒子を保管して輸送できる機械を使って他の地方でもダイマックスを使えるようにしたの。もちろん保管できる量にも限度があるから回数制限はあるけどね」

「なるほど…そのガラル粒子があればダイマックスはできる。その粒子を保管して輸送してしまえば、確かにダイマックスできるようになるわね」

 

ローズ委員長という人物が開発した装置によって他地方でもダイマックスが可能になった、ということをシロナは理解した。理論上ガラル粒子が他の地方にも存在しているのであればダイマックスは可能。その理論が真実であることをローズ委員長は同時に証明してみせた。彼自身もさることながら、彼の下で開発を行った者達もかなり優秀なのだろうとシロナは考えた。

 

「装置そのものはどういうものかは知りませんけどね。さすがにそれは企業秘密ってやつみたいです」

「これだけ知れれば十分よ。教えてくれてありがとう」

「いいえ。あたしもダイマックスについて他の地方の人に興味を持ってもらって嬉しかったです」

「ソニアはダイマックスになにか特別な思い入れがあるのか?」

 

その言葉を聞いたソニアは少し嬉しそうな表情を見せて頷く。

 

「うん。さっき言ったガラル粒子ってね、あたしのおばあちゃん…マグノリア博士が発見したものなの」

「マグノリア博士…ガラル地方の高名なポケモン研究者ね。おばあちゃんってことは、ソニアさんはマグノリア博士の…」

「そう、孫よ」

 

にかっと笑うソニアを前に二人は驚きを隠せなかった。マグノリア博士はシロナだけでなくカイムもよく知っている人物だ。分野は違えどポケモンを研究する研究者である。どんな功績を収めているのかは多少把握していた。まさか目の前の女性がその人の孫だとはさすがに思ってもいなかった。

 

「あたしはバトルを引退してからはおばあちゃんの助手として活動してきたんです。まだまだ半人前だけど、一人前の研究者になれるようにおばあちゃんの下で勉強中なの」

「あら、助手なの。じゃあカイムと同じね」

「え?カイム君も?」

「ええ。カイムは私のサポーター兼助手よ」

 

本当は彼氏だけど、と内心で小さく付け加えたがそれを口にすることはない。

カイムも同じ研究者の助手であるということを知ったソニアは目を輝かせた。

 

「わあ!じゃああたし達、似たもの同士ね」

「そうなるな」

 

続けてソニアが言葉を発しようとした瞬間、ソニアのスマートフォンが鳴り響く。ソニアは画面を確認すると、そこに『ダンデ君』の文字が記されていた。

 

「あ!ダンデ君!」

「探してたもんな。早く出てやれ」

「…ごめん。じゃあ失礼して…」

 

ソニアは画面を操作してダンデからの電話に出た。

 

「ダンデ君!今どこ?」

『悪いソニア。また迷った』

「もー!だから一人で動かないでって言ったのに!それで今どこなの?迎えに行くから」

『とりあえずスタジアムの入り口まではリザードンのおかげで戻って来られた』

「じゃあ今から行くから絶対そこから動かないでね!絶対だよ!」

 

そう言ってソニアは電話を切った。そして困ったように笑いながら二人に向き直る。

 

「すみません、騒がしくて」

「気にしないで。行ってあげなさい」

「はい。あ、そうだ。最後に」

 

ソニアはシロナとカイムに向けて名刺のようなものを渡してきた。それにはソニアの連絡先が記されていた。

 

「一応あたしの連絡先です。せっかくここで会えたのも何かの縁だし、またお話ししたいなって」

「嬉しいわ。またお話しましょ」

「はい!じゃあ失礼します」

 

ソニアは二人に手を振って去っていった。

残された二人はポケモン達を撫でながら顔を見合わせた。

 

「まさかの相手と遭遇したわね」

「そうだな。次の対戦相手のサポーター…っていうか幼馴染か。そんな人物と会うとはな」

「入って来たらカイムが知らない女の人と話してたからびっくりしちゃった」

 

笑顔で言っているが、その笑顔にほんの少しだけ圧力を感じた。

 

「……いや、悪かったよ。その…会ったのは偶然だけど引き止めたのは事実だし」

「ふーん。引き止めたんだ」

 

ジト目を向けられて言うことに困ったカイムはトゲキッスの羽を撫でながら表情を歪める。

 

「行くアテ無かったみたいだし…」

「…ソニアさん、かわいいかったわね」

「……それについて俺から言うことは無い」

「否定しないんだ?」

「………」

 

カイムの目から見てもソニアの容姿はかなり整っている。基本的に嘘がつけないカイムは否定することができず、押し黙ることしかできなかった。ソニアを引き止めたことを悪いとは思っていないが、軽率な行動であったと内心でカイムは反省し、シロナに謝罪した。

 

「…その、悪かった」

「ふふ、ごめんごめん。意地悪しすぎちゃった」

 

シロナは冷や汗をかくカイムを見ながら笑った。シロナとしては事情を知らない状態ではあまり面白くない状況だったが、事情を知った以上ソニアのことを邪険にする理由はない。

シロナが怒っていないことに安堵したカイムはトゲキッスのマッサージを終えてガブリアスのマッサージを開始した。

 

「あの子、多分いつか博士になるわよ」

「わかるのか?」

「なんとなくね。いい目をしてたもの」

 

シロナはソニアが今どういう研究をしていて、どういう状況かはわからない。しかしシロナの目から見てソニアはとてもいい研究者になる。そんな予感がした。

 

「そうか…いい奴なのはわかったけど、そういう目はまだまだだな」

「貴方と似ているわ」

「え?」

「貴方と同じ、未熟だけど信念を持って前に進もうとしている強い目よ」

「…どーも」

 

照れたように表情を歪めながらガブリアスのマッサージを続けるのだった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ポケモン達のケアと調整を終えた二人はフィールドを後にし、部屋へと戻るためにロビーに入った。時間も少し遅いためロビーは閑散としている。

 

「さすがに人は少ないわね」

「時間も遅いしな。俺らも早めに休もう」

「そうね」

 

部屋に戻って休むこと提案し、シロナもそれに同意した。部屋へと戻ろうとエレベーターに向かおうとした時、緑色の髪をした女性と見間違いそうな男性が歩いてくるのが見えた。

 

「おや、今帰りかな?」

「ミクリさん。お久しぶりですね」

 

ホウエン地方のもう一人の代表、ミクリ。先日最果ての孤島へと向かう際にシロナ一行に船を貸し出してくれた恩人でもある。姪っ子に幼いながらトップアイドルとして活躍するルチアがいる。

 

「久しぶりだね二人とも。元気だったかい?」

「はい。この前はありがとうございました」

「いいんだ。ルチアにとってもいい経験だったみたいだからね」

 

あの日、シロナ達に船を貸し出す代わりにルチアを同行させて欲しいとミクリは頼んできた。それがきっとルチアのためになると考えての行動だったし、あれ以来ルチアはさらにコンテストの練習に取り組むようになった。シロナ達との経験がルチアをいい方向に成長させることができたことがミクリは嬉しかった。

 

「今日の試合、見事だった。あのダイゴを下すとはね」

「かなりギリギリでした。カイムの読みがなければ、多分負けてましたね」

「ほう?さすがだねカイム君」

「…あいつとは長いんでね。『どこまでやってくるか』は大体予想がつきますよ」

 

予想できたとしても対応できるかは別ですけどね、と付け加えてカイムは苦笑した。実際あのカイムの読みがなければシロナはあと一歩のところで負けていただろう。しかしあの読みができたとはいえ、それに対応できるかどうかは本人の実力次第。

無論このチャンピオンズトーナメントに参加しているトレーナーなら誰でもできる。だが『読んでいなければ対応できない』手段をダイゴが取ったが、それに対応することまできたシロナが一歩先にいった。

 

「ふふ…君はいいサポーターだ。私のサポートもしてほしいくらいだよ」

「そう評価してもらえるのは嬉しいですが、俺はシロナの専属サポーターです。本格的なことはできません」

「はは!わかっているさ。だが君ほどうまくサポートしてくれるサポーターはそういない。素直にシロナさんが羨ましいよ」

 

カイムはシロナのサポーターになるまで知らなかったが、サポーターをつけているトレーナーは案外少ない。その理由として、サポーターはサポートするトレーナーのポケモン達のことをトレーナー本人と同じくらい知っていなければならないし、そのポケモンに合わせたケアをしなければならない。これが案外難しく、トレーナー本人以外の接触を嫌うポケモンがいたりするためサポーターという役職はトップトレーナーくらいしかつけていない。本格的なサポートをするとなると、サポーターの技量も相応のものが必要となるし、何よりサポーターへの賃金を考えるとトップトレーナーでなければ金銭的にも厳しいことになるだろう。

 

「ミクリさんはサポーターいないんですか?」

「いや、いるよ。だがポケモンのケアは自分でやっている。主にデータ収集などのアナリストに近いサポーターさ」

「やっぱりトレーナーごとに体制はかなり違いますね」

 

ミクリは頷くと腕を組み、楽しそうな表情を浮かべた。

 

「明日…私もバトルする。相手は、あのレッド君だ。とても楽しみだよ」

 

明日のミクリの相手はレジェンドと言われるトレーナー、レッド。今日のバトルではアイリスとのバトルを繰り広げ、その圧倒的な力を見せつけた。

とはいってもアイリスもイッシュ地方のチャンピオン。あのレッドをギリギリまで追い込むほどのバトルをみせつけ、その実力を世界に知らしめた。

 

「レッド…やっぱり彼の実力は凄まじかったですね」

「生で見たのは初めてだが、あれほどとはね。だが相手のアイリスも実にエレガントだった。ワタルさんとは違う鮮烈な力…美しかった」

「あの子、強いわよね。本当に素晴らしい試合だったわ」

「あのバトルをしたレッド君とバトルできる。今から楽しみで仕方ない。明日勝つことができたら、決勝戦。貴女とバトルできる可能性が出てくるのだから」

「ふふ、そうね。私もミクリさんとバトルできるように明日頑張るわ」

 

挑発するような視線を互いにぶつけ合い、ロビー全体に二人の覇気が満ち溢れた。

 

「ルチアが世話になったが、手加減はしない。最高の舞台で貴女達と会えるように最善を尽くします」

「勿論。私も貴方と当たれるように全てを尽くして戦うわ」

「また会いましょう」

「ええ」

 

優雅な笑みを浮かべながらミクリは去っていった。その背中に宿る覇気の強さを感じながら二人も休むために部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

日が登り始めたくらいの時刻、シロナは目が覚めた。時計を見るとまだまだ早すぎる時間であるが、眠気はなくとてもスッキリとした気持ちである。

 

「…こんなに変わるものなのね」

 

眠る前、カイムが睡眠の質を向上させるマッサージを施し、ハーブティーを淹れてくれた。それのおかげかはわからないが、布団に入った瞬間に眠りに落ちた。そして非常に深い眠りに落ち、そしてこの目覚めだ。疲労感も回復しているし、倦怠感もない。

 

「…まだ早すぎるわね」

 

この時間ではまだ誰も起きてないだろう。カイムもまだ静かな寝息を立てていた。

 

「散歩にでも行こうかしら」

 

部屋においてあったメモ用紙に散歩に出る旨を書き残し、ボールを腰につけ、鍵を持って部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

朝の冷気を肌に感じながらシロナはスタジアムの外を歩いていた。吐く息が白く染まるほどの冷気だが、普段のコートとカイムからのプレゼントであるマフラーを装備したため寒さは気にならない。

 

「………」

 

スタジアムを見上げながらシロナは誰もいない道を歩く。

チャンピオンになってから既に十年以上の月日が過ぎている。だが自分がこのポケモンリーグ本部、セキエイ高原でバトルをする日が来るとは夢にも思わなかった。

 

「現実は不思議なものね」

「おっ、こんな時間に人がいると思ったが…まさか貴女とは」

 

突如声が聞こえてきてそちらを振り向くと、そこには浅黒い肌をした男性とリザードンがいた。

 

「あら」

「この前の開会式以来ですね。あの時はありがとうございました」

 

恥ずかしそうに笑いながら男性は言った。

 

「いいえ、気にしないで。ついでですから」

「はは、お恥ずかしい。改めて名乗らせてもらいますよ」

 

男はシロナに向けて手を差し出した。

 

「オレはダンデ。ガラル地方のチャンピオンさ」

「私はシロナ。シンオウ地方チャンピオンよ」

 

シロナはダンデの握手に応え、手を握った。

シロナはダンデから隣にいるリザードンに目を向ける。鍛えられた肉体に僅かに感じられる熱気、鋭い眼光。見るだけで相当強いことがよくわかった。

 

「…強いわね、このリザードン」

「もちろん。オレの相棒だ。旅を始めた時からこいつと苦難を乗り越えてきた」

「覇気だけじゃない。絆の深さも一流ね」

「チャンピオンにそう言っていただけるのは光栄だ」

 

歯を見せて笑うダンデにシロナは穏やかな笑みを浮かべた。

 

「しかし、こんな朝早くからどうしました?」

「いえ、ただ目が覚めただけです。それでちょっと散歩してました。落ち着かないってわけじゃないんですけど、昂っているのは間違いないです」

 

挑発するように覇気を発したシロナにダンデは獰猛な笑みを浮かべた。ダンデも覇気を発して腰に手を当てる。

 

「今日のバトル…とても楽しみにしてるんです。お互い十年以上チャンピオンの座を守り続け、無敗記録を更新し続けてきた立場だ。そんな人とバトルできる機会があって、オレはとても嬉しい」

「私もです。今日の試合、最高のバトルにしましょう」

 

二人は互いの健闘を祈りながらも、今日のバトルが最高のものになると確信を得ながら笑みを浮かべるのだった。

 

「そういえば、昨日ソニアと会ったらしいですね」

「ああ、そうです。貴方のことを探してる最中だったみたいで、その道中私のサポーターと話してるとこに私が合流したの」

「ええ、ソニアから聞きましたよ。貴女も貴女のサポーターもとてもいい人だったと」

「ふふ、そう言ってもらえるのは嬉しいわ」

 

明るく気さくなソニアはシロナがチャンピオンであり次のダンデの対戦相手だと知りながらもダイマックスについてなど色々と教えてくれた。バトルのことではなく、ダンデという人物やダイマックスというシロナ達にとって未知の現象について知ることができ、とても有意義な時間だったといえる。

 

「きっと彼女、いい博士になれるわ」

「そういえば、貴女は考古学者でしたね。同じ研究者としてソニアに何か感じたんですか?」

「ええ。彼女の熱意と物事を説明することの上手さは本物でした。経験を積めば、必ずいい研究者になれると思います」

「そうか!幼馴染として、そう言ってもらえるのは嬉しい!本人に伝えておきますよ」

「ふふ、お願いしますね」

 

そう話しているうちに朝日が昇ってきて二人の姿を照らした。朝日の眩しさにシロナは思わず目を細める。

 

「そろそろ戻ります。サポーターもそろそろ起きてきて朝の調整しなきゃいけないんで」

「そうですか。じゃあ次はスタジアムで会いましょう」

「ええ、最高のバトルをしましょう」

 

朝日が照らす中、二人は覇気をぶつけ合いながら逆方向へと歩いていった。

 

その後ダンデは再び迷ってしまい、ソニアに怒られることになったのだが、それをシロナが知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選手控室

今日の第二試合であるシロナは控室のモニターでレッド対ミクリのバトルを見ていた。

最後のポケモンであるミロカロスとリザードンがぶつかり合う。リザードンはメガシンカしており、メガリザードンYの大文字がミロカロスに直撃し、ミロカロスがダウンした。

 

 

勝者はレッド。

 

 

決勝戦進出が一足決まったのはレッド。久しぶりに表舞台に顔を出したレッドだが、期待以上のバトルを見せつけた。

だが相手のミクリもレッドを最後の一体まで追い詰め、その最後の一体もメガシンカを切らせて追い詰めるという結果を残した。互いに健闘を讃え、握手を交わしている。

 

「…レッドか」

「さすがに強いわね」

 

見ていた限り最高ともいえるゲームメイクとそれに応えるポケモン達。確かにこのレベルではほとんどのトレーナーは相手にならないだろう。相手がミクリやアイリスのように地方を代表するトレーナーだからこそここまでやれているのだ。

 

「試合、始まるぞ」

「…行きましょう」

 

シロナはいつものコートは違うジャケットを手に取り、控室を後にした。

 

 

 

 

 

 

『さあ!本日最後の試合となりました!これほど似た経歴を持つ二人のバトルをお目にかかることができる日が来るとは!行ってみましょう第二試合!』

 

実況の興奮した声と共にゲートにスポットライトが照らされた。

そしてそこから帽子を被りマントを携えた男が歩いてくる。

 

『チャンピオンの座を守り十年以上!無敵の異名を持つ男に死角はない!ガラル地方チャンピオン、ダンデ!』

 

歓声と共にダンデの姿が照らされる。照らされた瞬間、ダンデは拳を天に振り上げた。歓声がダンデを包み込んだ。

 

『その無敵に相対するのはこの人!この人もチャンピオンを十年以上もの月日守り続けてきました!最高のバトルを今宵も見せてくれ!シンオウ地方チャンピオン、シロナ!』

 

実況の声が聞こえたと同時にシロナは後ろを振り返る。傍らにバシャーモが立っているカイムがただ真っ直ぐにシロナを見つめていた。

シロナは小さく微笑むとゲートを出て歩いていった。スポットライトの眩しさに僅かに目を細めながら所定の位置に着いた。

 

対面するダンデはシロナを見据えながら言った。

 

「ガラルでオレが試合をする時、必ず満員になる。誰もがオレのバトルを楽しみにしているから」

 

ガラル地方は他の地方と比べてかなりポケモンバトルを競技として売り出す傾向がある。それがガラル地方の発展にもつながっており、その中でもダンデはここ十数年のガラル地方の顔とも言える存在だ。そんなトレーナーの試合が満員にならないはずがない。

 

「でも今ここにいるオレは、チャンピオンであると同時に世界への挑戦者でもある。この広い世界で、オレがどこまで通用するか。それを試す最高の場所だ」

「ええ。私たちは挑戦者…いつもの待ち受ける壁としてではない。高い高い壁を乗り越える挑戦者。こんな素晴らしい舞台で貴方と当たれることを光栄に思うわ」

「ああ。オレも貴女と当たれたことを幸運に思う」

 

ダンデは一度目を閉じると、力強い瞳でシロナを見据えた。

 

「最高のバトルにしよう!」

「ええ!」

 

二人の目の前に『草原』のフィールドが展開され、その瞬間実況がバトル開始の宣言を下す。

 

 

『チャンピオンズトーナメント二回戦第二試合!ダンデ対シロナ!バトル開始!』

 

 

「チャンピオンタイムを楽しめ!」

 

ダンデは左腕を掲げるようなポーズを取り、観客達の歓声が響き渡った。シロナも髪を払い、腰につけたボールを手に取ってダンデに向けて構えた。

ダンデは肩を回し軽く跳躍をすると手首を回す。そして両手で頬を軽く叩くと表情を引き締めて羽織ったマントを背後に投げた。

 

「さあいくぞ!いけ!ギルガルド!」

「お願い!ミカルゲ!」

 

先発に出したポケモンはダンデがギルガルド、シロナがミカルゲだった。鋼・ゴーストタイプのギルガルドはゴースト、悪タイプが効果抜群。タイプ相性だけならばギルガルドが不利な対面となった。

 

(データ通り先発はギルガルドね。タイプ対面だけなら有利だけど、向こうも私が初手にミカルゲを出すことくらい読んでいたはず。どう来るかしら)

 

ダンデの初手がギルガルドが多いように、シロナの初手もミカルゲが多い。つまり互いに初手のポケモンの傾向を知っていたということになる。そしてその結果タイプ相性が悪いこともダンデは把握していたはず。なのに先発にギルガルドを出してきたということは何か考えがあるとシロナは考えた。

 

「いくぞギルガルド!ラスターカノン!」

「あくのはどう!」

 

互いの技がぶつかりあい、爆発する。

ギルガルドのブレードフォルムは攻撃・特攻共にかなりの高さを誇る。その代わり耐久力が著しく低いという欠点があるが、その欠点をシールドフォルムになることで補える。フォルムの切り替えが難しく、トレーナーとポケモン自身の息が合わなければこの特徴を十全に扱うことはできない。

 

「もう一度あくのはどうよ!」

「キングシールド!」

 

爆煙の中から放った『あくのはどう』は的確にギルガルドを捉えたが、ギルガルドは『キングシールド』で『あくのはどう』を完全に防ぎ切った。

『キングシールド』は直接攻撃をしてきた相手の攻撃力を下げる効果がある。しかしミカルゲは『ふいうち』以外直接攻撃を使わないため、その効果を受けることはほとんどない。そして『キングシールド』は『まもる』と同様に相手の攻撃を完全に防ぐことができる。加えて攻撃力低下の追加効果もあるためかなり強力な技である。

だが強力であるため弱点も存在する。それをうまく使えれば、技量の高いギルガルド相手でも太刀打ち可能だとシロナは考えていた。

 

「つるぎのまい!」

「積んでくるか…ならこっちもわるだくみよ!」

 

ギルガルドは『つるぎのまい』、ミカルゲは『わるだくみ』でステータスを上げる。

 

「たたりめよ!」

「ギルガルド!回避してかげうちだ!」

 

ミカルゲが放ったたたりめを回避すると、すぐに『かげうち』でミカルゲに攻撃した。ギルガルドは『つるぎのまい』で攻撃力を上昇させているため、耐久力の高いミカルゲでも予想外にダメージは大きかった。

 

(そう何度も受けられない…なら受けに回らずにガンガン攻めるべきね)

 

シールドフォルムならばともかく、ブレードフォルムのギルガルドの耐久力は低い。ブレードフォルムになっている瞬間に攻撃を加えれば落とせると考えた。

 

「あくのはどう!」

「キングシールド!」

 

即座に攻撃に移るが、ダンデもそれを読んでキングシールドを展開させてミカルゲの攻撃を防いだ。

 

「ギルガルド!地面に向けてアイアンヘッドだ!」

「⁈」

 

攻撃を防いだ直後、再びブレードフォルムになったギルガルドの『アイアンヘッド』が地面に叩きつけられ、砂塵がミカルゲを包み込んだ。それによりミカルゲの視界はほとんど何も映さず、困惑することしか出来なかった。

 

「目眩し…?」

 

目眩しで視界を潰してから出の速い『かげうち』で攻撃してくる。その流れを瞬時に想定したシロナは砂塵の中のギルガルドの気配を探す。しかしミカルゲもシロナもギルガルドの気配を察知することができない。

 

(気配が消えた…!)

 

ゴーストタイプのポケモンは実体を持たないポケモンが多い。例えばゴースは身体のほとんどが気体で構成されている。全てのゴーストタイプポケモンが実体を持たないわけではないが、ゴーストタイプの力を有するポケモンは一部の攻撃を実体を無くすことですり抜けることが可能である。そのためノーマル、及びかくとうタイプの技が無効となるのだが、同時にこの実体を持たないという特徴を活かして一時的に気配を消すことも可能。

ダンデは目眩しを行うと同時にギルガルドに気配を消させ、砂塵の中に潜り込ませた。

 

「かげうちだ!」

「左後ろよ!」

 

シロナの指示が聞こえた瞬間、ミカルゲは反撃の攻撃をギルガルドに加える。それと同時にギルガルドの『かげうち』がミカルゲに直撃した。

耐久力の高いミカルゲでも『つるぎのまい』を積んだブレードフォルムのギルガルドの攻撃は痛い。かなり体力が削られてきているミカルゲに対してギルガルドは無傷。ダンデがかなり優勢となっている。

『かげうち』でミカルゲはのけぞり、隙が生まれる。その隙を逃すダンデではない。

 

「そこだ!アイアンヘッド!」

 

鋼の力を込めた頭をミカルゲに向けて放つ。だが攻撃を放った瞬間、ギルガルドは身体に激痛が走り攻撃が弱まった。攻撃が弱まったことにより、ミカルゲへのダメージとダメージを受けたことによる隙がほぼ無くなった。

 

「たたりめ!」

 

ゴーストタイプの力がギルガルドを襲う。強烈なダメージがギルガルドに入り、一気に形勢が逆転した。

 

「おにびか!」

「正解よ」

 

ギルガルドが砂塵の中から攻撃してきた時、咄嗟に出た反撃。それは強烈な熱を相手にぶつけて火傷を負わせる『おにび』。火傷状態になったギルガルドは物理攻撃の威力が半減し、徐々に体力を奪われる。

 

「あの砂煙の中…どこから来るか反射的に察知したとは。恐らく砂煙の微妙な変化を目の端で捉えたんでしょう」

「さて、どうかしら。確かに咄嗟ではあったけどね」

「ははは!最高だ!これでこそチャンピオン!滾ってくるぜ!」

 

ダンデの言葉に同調するようにギルガルドも吠えた。互いのボルテージが上がっていくのを感じる。

 

「ギルガルド!ラスターカノン!」

「あくのはどう!」

 

再び技同士がぶつかり、弾ける。

 

「たたりめ!」

「キングシールドだ!」

 

ミカルゲの『たたりめ』をギルガルドはキングシールドで防ぐ。堅牢な盾を前にミカルゲのゴーストタイプの力は弾け飛んだ。

 

(このキングシールドをどうにかしないと、突破は不可能ね)

 

『たたりめ』によって大きなダメージを与えたが、まだ倒すには至らない。しかしミカルゲの火力ではシールドフォルムのギルガルドの突破は容易ではない。ブレードフォルムの状態で攻撃を当てるしかないが、先程のようなカウンター戦法は一度見せた手前簡単には決まらない。火傷状態とはいえ、ギルガルドの攻撃をそう何度も受け切れるほどミカルゲの体力は残っていない。

 

(勝機は一瞬。確実に決める)

 

シロナが見出した勝機。ミカルゲがギルガルドを倒すためにはその一瞬の勝機を逃さず掴む必要がある。だがそれを何度もやってのけたからこそシロナはチャンピオンとして君臨している。シロナ自身もシロナのポケモン達もその壁を越えてきたという自信を持っていた。

 

「ギルガルド!アイアンヘッドだ!」

「後ろに避けて!」

 

ミカルゲは後ろに回避し、ギルガルドのアイアンヘッドが先ほどまでミカルゲがいた場所に突き刺さる。ギルガルドの攻撃によって小さなクレーターができており、先ほどと比べて明らかに威力が上がっている。火傷を負ってなおこれほどの威力があるということは何かしらの手段で攻撃力を上昇させたとしか考えられない。

 

(火傷…攻撃…たたりめ……そうか)

 

この攻撃力が上がった原因にシロナは一瞬の思考の後にたどり着いた。

 

「『じゃくてんほけん』ね」

「正解だ!」

 

じゃくてんほけん。効果抜群の攻撃を受けると攻撃、特攻が二段階上昇する道具。ギルガルドの弱点は炎、ゴースト、悪、地面。ミカルゲの『たたりめ』を受けたことによりじゃくてんほけんの効果で攻撃、特攻が上昇した。既に一度『つるぎのまい』を積んだギルガルドは火傷を負ってなお高い攻撃力を発揮できる状態になっている。

 

「まだまだこんなもんじゃないぜ!ラスターカノン!」

「あくのはどう!」

 

再び技同士がぶつかり合うが、ミカルゲの『あくのはどう』が僅かに押し負けて威力の落ちた『ラスターカノン』がミカルゲに迫る。それを咄嗟にミカルゲは回避した。

ミカルゲも一度『わるだくみ』を積んで特攻を上昇させている。しかしそれでも貫通された。素のステータスの高さがわかる一撃にシロナは冷や汗をかく。

 

(受けに回れば負け、相殺も厳しい。なら攻めるしかないけど、素早さが高くないミカルゲにできる手はあまり多くない。でも、やるしかないわ!)

 

活路を見出したシロナに対してダンデはさらに攻める。

 

「アイアンヘッドだ!」

 

この攻撃を受ければミカルゲといえども良くて倒れかけ、悪ければ瀕死になる。やるならばここしかないとシロナは決意を固めた。

 

「地面に向けてあくのはどう!」

「なにっ⁈」

 

ミカルゲは地面に向けて『あくのはどう』を放ち、その推進力で下がると同時に『あくのはどう』によって巻き上げられた砂煙に身を隠した。

 

「意趣返しってわけか!面白い!」

 

先程砂煙に紛れた攻撃する手段をダンデは取った。そして同じことをシロナは今仕掛けようとしている。

ダンデとギルガルドは砂煙の中に紛れるミカルゲの気配を探る。気配は感じられないが、ギルガルドは視界の隅で砂煙が微妙に変化するのを見た。

その瞬間、ギルガルドが目の端で砂煙が変化した方からゴーストタイプの力を纏った影が飛び出してきた。

 

「そこだ!かげうちでカウンター!」

 

飛び出してきた影に向けてギルガルドは『かげうち』を放ち、影を貫いた。

 

「っ⁈」

 

だがその影はミカルゲではなかった。ミカルゲだと思って貫いたのはミカルゲではなく『たたりめ』のエネルギーだった。

 

「ギルガルド!後ろだ!」

 

ギルガルドが後ろを振り返った瞬間、ミカルゲの顔が視界いっぱいに広がった。

 

「キングシ…」

「遅いわよ!あくのはどう!」

 

ギルガルドがシールドフォルムに変わる瞬間、ミカルゲの『あくのはどう』がギルガルドを撃ち抜いた。シールドフォルムに変わろうとした弊害で最後に攻撃を加えることができない。

『わるだくみ』を積んだミカルゲの攻撃をブレードフォルムのギルガルドでの残り体力では受けきれない。砂煙が晴れた時、ギルガルドは目を回して倒れていた。

 

『ギルガルド戦闘不能!』

 

歓声がスタジアムを包み込む。じゃくてんほけん、『つるぎのまい』で攻撃力を上げたギルガルドの攻撃を一度耐えただけでなく、砂煙を使った戦法でも咄嗟にアレンジを加えたシロナとさらにそれを瞬時に実行して見せたミカルゲ。派手さはないがシロナの高い技術力と対応力にダンデは笑顔になる。

 

「流石です。まさかオレが使った戦法を瞬時にアレンジしてきてそのまま使うとは」

「咄嗟に思いついたアドリブよ。ギルガルドがゴーストタイプの特徴を利用したのなら、ミカルゲにも同じことができるって考えたの。そこにキングシールドの隙…これを使えば倒せるってね」

 

加えてシロナは『キングシールド』の弱点を活用した。『キングシールド』はブレードフォルムからシールドフォルムに転換してから展開される。このフォルムチェンジする一瞬の隙。これがシロナの言った『キングシールド』の隙だった。本来このフォルムチェンジは隙といえるほどのものではない。しかしフォルムチェンジを巧みに使いこなし、攻防一体となったギルガルドにとってはその攻撃も防御もできないこの瞬間にしか活路はないとシロナは考えたのだった。

 

「…一枚上を行かれたな。最高だ!」

 

ガラル地方でダンデは観客を意識しながらバトルを行なっており、最善といえるような手法を取っているとはいえない。

だがそれは決して対戦相手のトレーナーを見下しているわけではない。敢えて自身に縛りを課すことで対戦相手の最もやりやすい戦法を引き出し、その上で叩き潰すことでチャンピオンとしての威厳と強さを示すためだ。

しかしシロナが相手ではそれをやる余裕はない。全力でいかないとダンデは勝つことはできないと判断し、今回は最初から全力で戦った。ガラル地方ではまだここまでダンデに喰らいつけるトレーナーはいない。その事実がダンデをより奮い立たせる。

 

「いくぞ!オノノクス!」

 

ダンデが次に繰り出したのはオノノクス。高い攻撃力と素早さはガブリアスを彷彿とさせる種族値となっており、強力な積み技である『りゅうのまい』を覚えるという強みがある。

 

「ミカルゲ!最後まで出し切るわよ!」

「オノノクス!りゅうのまい!」

 

オノノクスはりゅうのまいによって攻撃力、素早さを上昇させる。素の攻撃力と素早さの高いオノノクスにはうってつけの積み技。これを下手に積ませ続けるとガブリアスですら手に負えない怪物に成り果てる。

 

(ここでおにびを当てられたら御の字だけど、さっき見せた以上警戒されているはず。ならここは、欲張らずに確実にできることをするのが正解)

 

そう、それが正解のはず。勝利を優先させるのであれば、そうするべき。わかっているはずなのに、湧き上がる感情を抑えられずシロナは笑った。

 

「あくのはどう!」

「打ち破れオノノクス!」

 

ギルガルドの時の一点集中型ではなく、広範囲に向けて放たれたあくタイプの力をオノノクスは打ち破った。

 

(あの顔…次に繋げるって顔じゃないな。このまま6タテ決めてきそうな気迫…これがシンオウ地方最強のトレーナー!)

 

フィールドの反対側で美しい顔に浮かべた獰猛な笑みにダンデも思わず笑う。ライバルであるキバナとも違うバトル。この場を包む切迫した空気がダンデのテンションを上げていく。

 

「さすがだ!これほどの覇気…ガラルでもなかなかお目にかかれない!」

「ふふ、ありがとう。まだまだ楽しませてもらうわよ!」

「もちろんだ!つっこめオノノクス!」

「あくのはどう!」

 

一点集中で放った『あくのはどう』に向けてオノノクスは強化した爪を振り下ろした。

 

「ドラゴンクロー!」

 

『ドラゴンクロー』が『あくのはどう』を打ち破り、そのままミカルゲを切り裂いた。ギルガルドとの戦いで満身創痍だったミカルゲが攻撃力を上昇させたオノノクスの攻撃を耐えることはできない。

 

しかしミカルゲは最後の力を振り絞って『たたりめ』をオノノクスにぶつけた。オノノクスは状態異常になっていないため威力は低いが、その攻撃は確かにオノノクスにダメージを与えた。

オノノクスの攻撃を受けたミカルゲはフィールドを転がり、止まった時には目を回して戦闘不能状態に陥っていた。

 

『ミカルゲ戦闘不能!』

 

審判のジャッジを聞いたシロナは小さく息を吐くとミカルゲをボールに戻した。

 

「ありがとうミカルゲ。ご苦労様」

 

労いの言葉をかけてフィールドを見据える。オノノクスは僅かにダメージを受けているがほぼ無傷。『りゅうのまい』も積んでかなり調子が上がっている状態となっている。ならばここは正面から殴り合っても有利な対面を作れるポケモンにするべきだとシロナは考えた。

 

「お願い!トゲキッス!」

 

シロナが選んだポケモンはトゲキッス。フェアリータイプを複合するポケモンであるため、ドラゴンタイプの技が全て無効化される。ドラゴンタイプのオノノクスには厳しい対面であることは間違いない。

 

「トゲキッスか。厳しい対面だが、より燃える!」

「いくわよトゲキッス!エアスラッシュ!」

「ドラゴンクロー!」

 

トゲキッスの放った真空の刃をオノノクスは強化した爪で打ち破る。そのままトゲキッスへと高速でオノノクスは肉薄するが、フェアリータイプのトゲキッスにドラゴンタイプの技は無効。

そんなことは百も承知。故にダンデが無策に突っ込んでくることなどはしない。

 

「アイアンテールだ!」

「はどうだんよ!」

 

硬化させた尻尾をオノノクスはトゲキッスに向けて振り下ろし、オノノクスの尻尾に向けてトゲキッスは『はどうだん』を放った。互いの技がぶつかり合い、オノノクスは弾かれたが空中で体勢を立て直し即座に動けるようにトゲキッスを見据えた。

 

「マジカルシャイン!」

「どくづき!」

 

トゲキッスの『マジカルシャイン』をオノノクスは毒を纏った腕で防いだ。

オノノクスは岩の壁から姿を現すと、即座に『アイアンテール』で反撃してくるが、トゲキッスは低空飛行で鋼の尻尾から逃れた。

 

「はどうだん!」

「ドラゴンクロー!」

 

『はどうだん』を破った衝撃で周囲に爆煙が弾ける。その爆煙の中から真空の刃がオノノクスに襲いかかり直撃してしまうが、怯むことなくオノノクスはトゲキッスに反撃の『アイアンテール』を加えた。

フェアリータイプを持つトゲキッスに『アイアンテール』は効果抜群。耐久力は高めとはいえ、攻撃力を上昇させた状態のオノノクスの攻撃はタイプ不一致技とはいえどダメージは大きい。一気に体力が八割ほど削られてしまい、ピンチに陥った。

 

「くっ…!強い…!」

「効果バツグンで勝利を手繰り寄せるぜ!」

「まだまだこんなものじゃないわよ!マジカルシャイン!」

 

トゲキッスの放つ光がオノノクスを穿った。効果抜群のフェアリータイプの技を受けてオノノクスは大きなダメージを受ける。

ダメージを受けながらもオノノクスは倒れることなく、即座にトゲキッスを見据えて咆哮した。

 

「もう一度りゅうのまいだ!」

「エアスラッシュ!」

 

オノノクスは『りゅうのまい』を舞うことで能力の強化を図るが、トゲキッスのエアスラッシュが直撃したことで思わず怯んでしまい『りゅうのまい』が中断される。

 

「チャンスよ!マジカルシャイン!」

 

怯んだ隙にトゲキッスはオノノクスを落とすために『マジカルシャイン』を放つ。この『マジカルシャイン』が直撃すれば、オノノクスといえど耐えることはできない。

 

だからこそダンデはオノノクスの土壇場における根性を信じた。

 

「そんなもんじゃないだろう?オノノクス」

 

ダンデの言葉に反応したオノノクスは咆哮を上げ、全身に力を込めて足を地面に叩きつけた。

 

「どくづき!」

 

怯みから根性で脱出したオノノクスは毒を纏った腕で『マジカルシャイン』を防ぐ。

 

(あれだけまだ動けるってことは簡単にマジカルシャインを当てることはできない。エアスラッシュでの怯みの時間も僅か。ならまずは動きを止める)

 

想像以上の身体能力の高さを見せつけられたシロナはまず動きを止めるところからやるべきだと考えた。

 

「オノノクス!今度はトゲキッスに向けてどくづきだ!」

「飛び回りながらはどうだんよ!」

 

オノノクスが放った『どくづき』をトゲキッスは高い飛行技術で回避しながら『はどうだん』を放つ。オノノクスに真っ直ぐ飛んでいく『はどうだん』をオノノクスは『ドラゴンクロー』で打ち破った。

だが破られることは想定内。『はどうだん』を打ち破った瞬間、トゲキッスはオノノクスの目の前に現れた。

 

「でんじは!」

 

トゲキッスの『でんじは』がオノノクスの身体の自由を奪う。痺れた身体は思うように動かなくなり、『りゅうのまい』で上昇させた素早さを格段に下げた。

だが『でんじは』が決まった状態でも油断はできない。先程根性で怯みから抜け出したオノノクスは、根性で痺れを振り切って攻撃してくる可能性がある。

 

「エアスラッシュよ!」

「アイアンテールで打ち破れ!」

 

身体の自由を奪われたオノノクスに向けて真空の刃が襲い掛かるが、痺れる体に鞭打ち硬化させた尻尾でエアスラッシュを受けた。ダメージはほぼないが、ここまでの戦いで互いにダメージが蓄積している。

特にダメージが大きいのはトゲキッスだった。一撃しか攻撃を受けてないし持ち物の『たべのこし』によって徐々に回復しているのにも関わらず、依然としてトゲキッスの体力は少ない。

 

(りゅうのまいを積んだとはいえ、不一致技でのダメージが大きすぎる。加えて速攻で決めようとしてくるゲームメイク…オノノクスの残り体力)

 

バトル中のいくつかの要素からシロナはオノノクスの持ち物が何なのかを瞬時に理解した。

 

「…いのちのたまね」

「正解だ。たったこれだけの要素から持ち物を見出すとは」

 

『いのちのたま』は持たせたポケモンの技の威力を上昇させる道具。その威力上昇対象となる技は特殊だろうと物理だろうと問答無用で上昇させる効果を持つ。しかしデメリットとして、持っているポケモンは攻撃技が相手に当たるたびに体力が削られていく。使いこなすにはそれ専用のゲームメイクをする必要があるため、トップトレーナー以外使うことは少ない。

 

「誰が相手でも、手を抜くことなんてできないからな。貴女に勝つためにオレが見出した最善策がいのちのたま(これ)さ」

「ふふ、光栄ね。ここまでしてくれるなんて」

「全力がオレにとって相手に払える最高の敬意だからさ」

 

全力で相手をする。それがダンデからシロナに払える最高の敬意であり、勝つために必要な最善策だった。

そのような真摯な敬意に対してシロナも全身全霊を持って応えることで、この時間をより良いものにしたいと思った。

 

「なら見せてあげる!これが私たちの全力よ!」

「ああ見せてくれ!オレ達の全霊を持って応える!」

「エアスラッシュ!」

「ドラゴンクロー!」

 

トゲキッスの『エアスラッシュ』をオノノクスは『ドラゴンクロー』で受けながらもトゲキッスに迫っていく。残り体力を考慮すると、次にトゲキッスが『アイアンテール』を受ければまず間違いなくダウンしてしまう。しかし同時に『いのちのたま』を持つオノノクスもあまり時間をかけていてはどんどん体力が削られる。トゲキッスからのダメージを考慮すれば、あと2分も保たないだろう。

 

だがそんなことは二人の頭にはない。ただ目の前にいる好敵手を全力で倒しにかかる。そのための最善の一手を出し続けるのみだった。

 

「エアスラッシュ!」

 

トゲキッスの『エアスラッシュ』を受けてオノノクスは仰け反った。『エアスラッシュ』の勢いに押され、オノノクスの身体は怯みによって一瞬硬直した。 

 

「オノノクス!」

「ここよ!マジカルシャイン!」

 

タイプ一致の『マジカルシャイン』がオノノクスに向けて放たれる。だがシロナは先程根性で怯みから抜け出したオノノクスを見ていため、ここでオノノクスが反撃に出てくる可能性も考えていた。

 

「オノノクス!ドラゴンクローだ!」

 

シロナの想定通り、オノノクスは根性で怯みから抜け出した。

しかし次の行動は完全に想定外だった。オノノクスはドラゴンクローを地面に叩きつけることで動かない足を使わずに『マジカルシャイン』の射線から外れたのだ。

 

「そう来るのね!」

「トドメだ!アイアンテール!」

「怯みから抜け出したばかりで動きは遅いわ!マジカルシャイン!」

 

オノノクスの硬化した尻尾を受けながらもトゲキッスは『マジカルシャイン』でオノノクスを迎え撃った。両者は互いの技を受けて吹き飛び、フィールドを転がっていった。

 

そして転がる勢いが止まった時、トゲキッスもオノノクスも目を回してダウンしていた。

 

『オノノクス、トゲキッス。両者共戦闘不能!』

 

結果は相打ち。オノノクスは圧倒的不利な対面から相打ちに持ち込むことができたため、良い結果だったと言えるだろう。

だがそれはシロナにとっては一歩リードを取られた形になる。有利な対面で確実にリードを取ろうとしたが、相打ち。相打ちであるため数的リードは取られていないが心理的にリードを取られた。

 

しかしシロナに焦りはない。むしろダンデの技量の高さを称賛し、その技量を目の前で見ることができたことに気持ちが昂るのを感じた。

 

「すごいわ。正直ここでリード取るつもりだったんだけど」

「ありがとう。ただその称賛を受けるべきなのはオレではなくポケモンだ」

「貴方も、貴方のポケモン達も素晴らしい技量だわ。これほどのトレーナーは今まであまり見たことはない」

「そこまで言ってもらえるのは嬉しい限りだ。だが貴女も貴女のポケモン達もすごい。オレやオレが今まで戦ってきたトレーナー達とは違う形でバトルを極めたことがよくわかる」

 

当然だがダンデとシロナのバトルはかなりやり方が異なる。ダンデはバランスの良いパーティでガンガン攻めていくやり方を得意としているが、シロナは相手の攻撃を受け切った上で相手を叩き潰す耐久寄りのパーティとなっている。お互いポケモンバトルのトップではあるが、そのあり方はかなり異なっていた。

違う形で極めた者同士でバトルすることはとても互いにとって学びになるだけでなく、新たな気づきによる喜びもあった。その楽しさを噛み締めながら二人は次のポケモンの入ったボールを構える。

 

「さあここからもっと楽しくなるぞ!いけ!ドラパルト!」

「いくわよ!ロズレイド!」

 

二人は次のポケモンを同時に出した。ダンデはドラパルト、シロナはロズレイドを繰り出す。

ドラパルトは高い素早さから繰り出す攻撃が非常に強力。対してロズレイドは安定した特殊耐久と特攻の高さを持つバランスの良いポケモン。しかしゴースト・ドラゴンタイプのドラパルトに草タイプと毒タイプの技は通りが悪い。

 

「いくぞドラパルト!ドラゴンダイブ!」

 

ドラパルトは龍の力を纏い、高い素早さを使ってロズレイドに突撃してきた。

 

「回避してヘドロばくだんよ!」

 

ロズレイドはドラパルトの『ドラゴンダイブ』を回避すると、毒の塊をドラパルトに向けて放った。ドラゴン・ゴーストタイプのドラパルトに毒タイプの技は半減。大したダメージにはならず、即座にドラパルトは次の行動に移る。

 

「10まんボルト!」

「エナジーボール!」

 

電気と草の力が凝縮されたボールがぶつかり合い弾けた。ドラパルトは攻撃も特攻もそれなりに高い。特攻を得意とするロズレイドの技をぶつけても相殺できるくらいの力はある。

続け様にドラパルトは攻撃を仕掛けてきた。

 

「ゴーストダイブ!」

 

ドラパルトの姿が一瞬にして消える。目の前からドラパルトの姿が消えたことでロズレイドは驚愕し狼狽えるが、すぐにシロナが呼びかけた。

 

「狼狽えないで!姿は消えたけど存在が消えたわけじゃないわ!今は気配もないけど、攻撃する直前に必ず姿を現す!周囲に意識を張り巡らせて!」

 

シロナの指示通りロズレイドは目を閉じて周囲に意識を張り巡らせる。気配は感じられないが、ゴーストダイブは必ず攻撃してくる直前に姿を現す。その瞬間を捉えることができるかどうかが勝負を分ける。

 

数瞬間の沈黙の後、その瞬間は訪れた。

 

「後ろよ!」

 

背後から現れたドラパルトに対してロズレイドは瞬時に反応し、両腕でドラパルトを受け止めた。ダメージは入ったが大きく軽減し、吹き飛ばされることなく受け切った。

 

「まさか反応されるとはな…素晴らしい反応速度だ!」

「こんなものじゃないわよ!マジカルシャイン!」

「何っ⁈」

 

ドラパルトを受け止めた状態でロズレイドは全身から光を放つ。フェアリータイプの力を纏った光がドラパルトを貫き、大きなダメージを与えた。

 

「サブウェポンにマジカルシャイン…貴女の本気が伝わってくる!」

 

ダンデが調べたデータの中にロズレイドが『マジカルシャイン』を使ったというデータはなかった。主に『エナジーボール』、『シャドーボール』、『ヘドロばくだん』、『ねむりごな』、『ギガドレイン』、『じんつうりき』の中から相手に合わせて技構築を変えていっていた。ドラパルト対策の技に『シャドーボール』を使ってくることは想定していたが、『マジカルシャイン』を使ってくることは想定外だった。

 

実際ロズレイドは『マジカルシャイン』を覚えるため使ってきてもおかしくはないが、データに無い完全新規の行動をしてくることはそれだけシロナが本気で挑んできているということだ。

実際ダンデの手持ちにドラゴンタイプのポケモンは二体いる。フェアリータイプの技を仕込むことは選択肢としてはアリだろう。

 

「ドラパルト!下がれ!」

「逃がさない!ヘドロばくだん!」

 

後ろに飛んだドラパルトに向けてロズレイドは毒の塊を放つ。ダメージの半減される『ヘドロばくだん』だが、ドラパルトの耐久力は高くない。タイプ一致の技でもあるため、何度も受けられる余裕はない。加えて『ヘドロばくだん』には追加効果で場合によっては毒状態になる。受けに回るのは得策ではないと考えたダンデは即座に攻撃に移った。

 

「だいもんじ!」

「ヘドロばくだんをぶつけて下がって!」

 

ドラパルトの放った『だいもんじ』に対してロズレイドは『ヘドロばくだん』をぶつける。無論威力的に相殺することはできないが威力を軽減させて速度を落とした。その速度が落ちた瞬間にロズレイドはバックステップで下がることで『だいもんじ』を直接受けることなくダメージは余波のみに抑えられた。

しかし余波のみで抑えたのに思いの外ダメージが大きい。直撃もしていない、『ヘドロばくだん』によって威力の軽減も含めていたのにこれほどのダメージを受けるということは、持ち物による効果が間違いなくある。

 

(たつじんのおびか、ものしりメガネね。でもドラパルトの技を考えるとたつじんのおびの方が濃厚かしら)

 

『ものしりメガネ』は効果範囲が特攻のみ。先程ドラパルトが使った『ドラゴンダイブ』と『ゴーストダイブ』は物理技であるため、『ものしりメガネ』の可能性よりも『たつじんのおび』の方が可能性が高いとシロナは考えた。

 

「ドラゴンダイブ!」

「エナジーボール!」

 

突撃してくるドラパルトに向けてロズレイドは『エナジーボール』で迎撃する。ドラパルトは『エナジーボール』を突き破り、ロズレイドにぶつかった。ロズレイドはドラパルトの身体を両腕で受け止めることでダメージを軽減するが、物理防御の低いロズレイドにとって威力を軽減させたとしても手痛いダメージだ。

 

(…おかしい。今のはギリギリ避けられたはずだ。なぜ物理防御の低いロズレイドに受けさせた?)

 

この行動にダンデは違和感を覚えた。先程『だいもんじ』の直撃を回避するくらいの身のこなしがあるロズレイドならば今の『ドラゴンダイブ』はギリギリでも回避できたはずだと考えた。

そしてその行動の意味をダンデは次の瞬間理解した。

 

「っ!まずい!ドラパルト下がれ!」

「もう遅いわ」

 

ドラパルトはダンデの指示通り下がるが、ドラパルトは毒が身体を蝕む感覚が襲ってくるのを感じた。

 

「しまった!どくのトゲ!」

 

ロズレイドの特性『どくのトゲ』。接触してきた相手を一定確率で毒状態にすることができる特性だ。これによりドラパルトは断続的に体力を削られていくことになる。

 

「誘われたか!面白い!」

 

毒状態になった以上、長引けばドラパルトは落ちる。動かなければ毒が体力を蝕むことはないが、ポケモンバトルにおいて動かないという選択肢はない。

 

「ゴーストダイブ!」

 

再びドラパルトの姿が消える。先ほど見たとはいえ、受け切るためには多大な集中力が必要となる。簡単に受けることはできない。

 

「集中して。攻撃には必ず意志があるわ。避けようと思わないで。迎撃するわよ」

 

シロナの指示にロズレイドは頷く。

ロズレイドは両手にフェアリータイプの力を漲らせ、いつでもドラパルトがでてきてもいいように備える。

 

そして次の瞬間、ドラパルトが虚空の中から飛び出してきた。

 

「マジカルシャイン!」

 

即座に反応し、ロズレイドが『マジカルシャイン』でドラパルトの『ゴーストダイブ』を迎撃しようとした。

しかし、『マジカルシャイン』が当たる直前、ドラパルトの姿が再び消える。

 

「フェイント⁈」

 

突撃してくると思ったのにまた姿が消えた。その事実にシロナもロズレイドも一瞬固まってしまう。ドラパルトは二連続で『ゴーストダイブ』を使用することで突撃するタイミングをずらした。それにより反応されることを防ぎ、直撃させる選択をした。

実際このフェイントは効果的であり予期していなかったフェイントによって固まったロズレイドの背後からドラパルトが再び姿を現し、ロズレイドに向けて突撃した。

 

だがそれでもロズレイドはギリギリで反応し、前に飛ぶことでダメージを僅かに抑える。体力がかなり削られるが、倒れることなく立っていられたのはロズレイドの卓越した技術と持ち物である『くろいヘドロ』によるリジェネ効果故だろう。

 

「マジカルシャイン!」

 

フェアリータイプの光がドラパルトを襲う。その瞬間、ドラパルトは持ち前の素早さで下がることでダメージを抑え、体力が削り切られることはなかった。

 

「トドメだ!ドラゴンダイブ!」

「ロズレイド!」

 

ドラパルトが迫り来る僅か数瞬。その刹那の際にロズレイドは地面に毒の力を張り巡らせた。

 

「もう遅い!」

 

ドラゴンの力を纏ったドラパルトがロズレイドを貫き、ロズレイドは吹き飛ばされる。毒の力を地面に張り巡らせようとした結果、動くことができず『ドラゴンダイブ』が直撃してしまう。

フィールドを転がったロズレイドはなんとか起きあがろうとしたが、力尽きて倒れてしまった。

 

『ロズレイド戦闘不能!』

 

ドラパルト相手にタイプ相性が悪かったが、かなり善戦できただろう。種族値面でもロズレイドは格上のドラパルト相手に必要なことはやりきった。

 

「お疲れ様ロズレイド。ゆっくり休んで」

 

ロズレイドをボールに戻しシロナは労いの言葉をかける。

ダンデも傷つき体力が毒で減ってきているドラパルトを一時的にボールに戻した。

 

「…ここまでドラパルトを削るとは。タイプ相性的に有利だったのだがな」

「タイプ相性だけでバトルは決まらない。貴方ならよくわかるでしょう?」

「ああ。よくわかっているさ」

 

チャンピオンとして数多のチャレンジャーを下してきたダンデはダンデ専用の対策をたてて来たトレーナー達相手にしても勝ち続けてきた。故にタイプ相性だけでバトルは決まらないことをシロナと同じくらいわかっている。

 

「バトルも後半戦。楽しんでいかせてもらう!」

「私もよ。楽しみましょう!」

「いくぞ!ドサイドン!」

「お願い!ルカリオ!」

 

ダンデはドサイドン、シロナはルカリオを繰り出した。物理防御と地面タイプの技を得意とするドサイドン相手にルカリオは僅かに不利。

 

(ルカリオ…昨日のダイゴさんとのバトルではルカリオがメガシンカをしてきた。ここでメガシンカを使うのか?)

 

メガシンカやダイマックスは一試合につき一回という制限がある。だがメガシンカはダイマックスと違い時間制限はない。ポケモン本人が意識して解除しない限り持続するためルカリオにメガシンカを使ってもおかしくない。

 

だがシロナの手持ちにはもう一体メガシンカを行うことができるポケモンがいる。シロナがそのポケモンのメガストーンを持っているかどうかは定かではないが、そちらにメガシンカを使う可能性をダンデは考えていた。今まで見せて来たダンデのダイマックスを考慮すると、ルカリオよりももう一体の方がタイプ相性はいいだろう。

 

「ルカリオ!コメットパンチ!」

(メガシンカしない⁈)

 

ルカリオが硬化させた腕でドサイドンに攻撃を仕掛ける。鋼タイプの力を纏った拳がドサイドンを穿ち、ダメージを与えた。

岩タイプを持つドサイドンに鋼タイプの『コメットパンチ』は効果抜群。しかしドサイドンの物理防御の高さは無数のポケモンの中でも最高レベル。効果抜群でありながらダメージは比較的小さい。

 

(硬い!ドサイドンの特性は『ハードロック』。効果抜群技のダメージを減らす特性ね)

 

ルカリオは鋼・格闘タイプ。ドサイドン相手に効果抜群を取れるが、ルカリオの攻撃力を上回る防御力を持つ。

 

「行くぞドサイドン!じしん!」

「しんそく!」

 

ドサイドンの『じしん』をルカリオは『しんそく』を推進力とすることで回避する。

 

「さすがに速いな。簡単には捕まらなさそうだ」

「ふふ、その通りよ。ルカリオはしんそくを推進力として使えるからね」

 

ダンデもデータとしてルカリオが『しんそく』を推進力として使うことは知っていた。しかし実際目の当たりにすると、あの速度を推進力として使えることがどれほど脅威なのかがよくわかる。

 

「ストーンエッジ!」

「受け流して!」

 

突き出してきた岩石を流水の如き滑らかな動きでルカリオは受け流す。直後、ルカリオはドサイドンに肉薄した。

 

「コメットパンチ!」

「アームハンマー!」

 

ルカリオの硬化した腕とドサイドンの剛腕がぶつかり合い、互いに弾かれる。

 

「このままじゃ厳しいわね。ルカリオ、つるぎのまいよ!」

「させるな!ヒートスタンプ!」

 

いくらドサイドンが卓越した物理防御を持っていたとしても、ルカリオの攻撃力は決して低くない。ルカリオが攻撃力を上昇させればドサイドンといえど何度も受けることはできない。

 

ルカリオは炎を纏って降ってくるドサイドンを『つるぎのまい』を舞いながらも回避した。『ヒートスタンプ』のタイプは炎。タイプ不一致の技であるため、出が僅かに遅れたことによりルカリオは『つるぎのまい』を舞いながらも回避することができた。

 

「素晴らしい技量だ!まさかつるぎのまいを舞いながら回避するとはな!オレのポケモンでもここまでできるやつはそういない!」

「耐久力が低いからこそ、この子は回避と防御技術を磨いたの」

 

シロナは努力値や技構成などのバトルの前段階に準備できること以外で大切にしていることは防御と回避の技術であり、同じことをカイムにも指導していた。ポケモンバトルにおいて技を完全に回避し続けることは不可能。故にダメージを軽減することで体力をできるだけ残し、行動可能な時間を増やすことで勝ち筋を見出していくスタイルをベースとしている。

 

「すごいな。オレとは違う極め方を目の当たりにできて嬉しいぜ!」

「こんなものじゃないわよ。この子の本領はこれからよ!」

「是非見せてくれ!じしんだ!」

「飛んで!」

 

ドサイドンの『じしん』をルカリオはジャンプすることで回避する。だがルカリオは飛行タイプを持たないため完全に回避することはできず、余波のダメージを僅かに受けた。

 

「コメットパンチ!」

「アームハンマー!」

 

重力の力も利用した『コメットパンチ』と岩のように硬い剛腕がぶつかり合う。互いに弾かれると思われたが、ルカリオがドサイドンの腕を弾きダメージを加えた。

 

「つるぎのまいの効果か。ドサイドンの攻撃力を上回るとはな」

 

二段階の攻撃力上昇の効果は大きい。これほど攻撃力を上げられた状態ではドサイドンの防御力を持ってしてもただでは済まない。

 

(今のルカリオにインファイトを使われたらドサイドンでも手痛いダメージだ。早めにケリをつける!)

 

ダンデの集めてきたデータでルカリオが『インファイト』を使わない時はなかった。牽制用に『はどうだん』を使うことは多々あったが、格闘タイプのメインウェポンはいつも『インファイト』だった。

高威力、命中安定の技だ。反動で耐久力が下がるが、それを加味してもかなり強力な技であることに間違いない。

 

「ドサイドン!じしん!」

「しんそく!」

 

ドサイドンの『じしん』が到達する直前にルカリオは『しんそく』によってドサイドンに攻撃を加えた。しかし『しんそく』はノーマルタイプの技であるためドサイドンに与えられるダメージは微々たるもの。

 

「アームハンマー!」

 

ルカリオが『しんそく』で攻撃した直後、ドサイドンは剛腕でルカリオに裏拳で『アームハンマー』を繰り出した。攻撃直後、加えて攻撃がポケモン本人が制御できるかどうか怪しいレベルの速度を出す『しんそく』であったことからも回避ができず攻撃を受けてしまう。

咄嗟にルカリオは『アームハンマー』の進路と同じ方向に飛び、波導を腕に集中させることでダメージを減らした。

 

「ヒートスタンプ!」

「下がって!」

 

炎を纏った状態のドサイドンが降ってきたが、ルカリオはバックステップで下がることで直撃を避けた。炎の余波が僅かにルカリオに達する。

 

「コメットパンチ!」

 

硬化させた拳がドサイドンを穿つ。素早さの低いドサイドンはルカリオの攻撃を回避することはできないが、その屈強な肉体で受け切りダメージを最小限に抑えた。

ルカリオの拳を受けると同時にルカリオの拳を掴み、ルカリオが逃げられないようにする。

 

「じしん!」

「地面にコメットパンチ!」

 

ルカリオは掴まれていない方の腕で地面に硬化した腕を叩きつけ、その勢いでドサイドンの腕から逃れるが、ドサイドンの放った『じしん』がルカリオに直撃した。ジャンプすることで若干ダメージを抑えたが、ドサイドンの高い攻撃力から放たれるタイプ一致かつ効果抜群の『じしん』のダメージは大きい。

 

「地面にコメットパンチ…そうくるか!ならストーンエッジだ!」

 

ダメージの大きいルカリオに対して追撃でドサイドンは『ストーンエッジ』を放つ。地面から突き出してきた岩をルカリオは一度飛び岩の刃を回避すると、その岩を足場にドサイドンへ肉薄した。

 

「はどうだん!」

 

そしてゼロ距離で波導を凝縮した弾丸をドサイドンにぶつけた。

 

「はどうだんだと⁈」

 

ルカリオの得意技である『はどうだん』。使ってくること自体はおかしいことではないが、『つるぎのまい』による攻撃力上昇は適応されない技故にダンデは完全物理型で来ると予想していた。

しかしその予想に反してルカリオは『はどうだん』による攻撃を仕掛けてきた。予想外の一撃にダンデもドサイドンも虚をつかれた形になる。

ドサイドンは特殊防御が非常に低い。しかしいくら特殊攻撃である『はどうだん』よりも『つるぎのまい』を積んだ『インファイト』の方がダメージが入る。だがここであえて『インファイト』ではなく『はどうだん』を使うことで受けられるリスクを減らし、大きなダメージを与えられると考えた結果だった。

実際ここで『インファイト』をしてくるとダンデとドサイドンは予想していたため想定外の攻撃に受身を取ることができず吹き飛ばされてしまった。

 

「追撃して!はどうだんよ!」

「迎え撃て!アームハンマー!」

 

ルカリオの『はどうだん』による追撃をドサイドンは『アームハンマー』で打ち破り、その勢いのままルカリオに剛腕を叩きつけた。叩きつけられた瞬間、ルカリオは咄嗟に『コメットパンチ』を発動し硬化させた腕に波導を集中させることでドサイドンの剛腕を受け止める。受け止めた衝撃でルカリオを中心に衝撃波が広がり、フィールドに亀裂が走った。

 

(吹き飛ばされたのに立ち直りが早い!しかも思いの外ダメージが少ないしてっぺきみたいな積み技もしてこない。これはとつげきチョッキで確定かしら)

 

『はどうだん』によって虚を突くことに成功したが、思いの外ダメージが少ない。そのことからシロナはドサイドンの持ち物が『とつげきチョッキ』であることを見抜いた。『とつげきチョッキ』は『てっぺき』などの積み技が一切使えなくなる代わりに特防を1.5倍にすることができる道具であり、相手が特殊攻撃がメインだった場合には大きく役立つ道具だ。特防の低いドサイドンには弱点をカバーできる相性のいい道具だといえる。

 

「そのままヒートスタンプ!」

「しんそく!」

 

鍔迫り合いのように腕同士をぶつけ合って競り合っていたが、ルカリオがドサイドンの腕を弾き、『しんそく』によって即座に距離を取った。その距離を取った場所目掛けてドサイドンは炎を纏って落下してくる。

 

「はどうだん!」

 

落下してくるドサイドンに『はどうだん』をぶつけるが、炎を纏ったドサイドンは強靭な肉体で『はどうだん』を撃ち破りそのままルカリオにのしかかった…と思われたが、ルカリオはドサイドンの炎のダメージを受けながらも『コメットパンチ』で反撃した。

『コメットパンチ』は鋼タイプの技。炎を纏うドサイドンにダメージは入りづらいが、『つるぎのまい』を積んだルカリオの攻撃は軽減されたとしてもダメージは少なくない。度重なるルカリオの攻撃がドサイドンを限界近くまで追い込んでいた。

対してルカリオも受けた攻撃こそ少ないものの元々耐久力の低いポケモン。既に体力も限界近くまできており肩で息をしているほど消耗していた。

 

 

次の撃ち合いで決まる。シロナとダンデはそう確信していた。

 

 

刹那の沈黙の後、ダンデが先に動いた。

 

「ストーンエッジ!」

 

ドサイドンは咆哮と共に地面を殴りつける。地面を走る力が一瞬にしてルカリオに迫り、地面から突き出した。

万全のルカリオならばギリギリ回避できただろう。しかし今のルカリオは酷く消耗している。直撃は避けたが、避けきれず地面から突き出してきた岩の刃がルカリオの足を傷付けた。足が傷ついたことで痛みにより一瞬ルカリオは集中力が切れ、膝を突く。その隙をダンデは見逃さなかった。

 

「じしんだ!」

 

地面を走る衝撃波がルカリオに迫る。直撃すれば間違いなくダウンする。それを確信したルカリオは『じしん』が到達する刹那の瞬間にシロナの目を見た。

瞬時にルカリオの意図を汲んたシロナはその場における最高の指示をルカリオに出した。

 

「しんそく!」

 

傷ついた足でありながら、万全の状態と遜色ない速度でルカリオは動いた。地面を走る『じしん』の衝撃波とすれ違うようにドサイドンに向かっていった。

それを見たドサイドンはルカリオと衝撃波がすれ違う瞬間に『じしん』の衝撃を発動した。『じしん』は広範囲技であるため多少狙いがズレたとしても直撃する。ドサイドンが発動したタイミングは最高といえるものであり、まず間違いなくルカリオは『じしん』が直撃した。

 

『じしん』の衝撃で砂塵が舞う。この砂塵が晴れたらルカリオが倒れている姿があると誰もが予想した。

しかし、その予想通りにはならないとシロナとダンデだけはわかっていた。

 

ルカリオは飛んでいた。『じしん』を受ける瞬間、『しんそく』の推進力を利用して飛ぶことで『じしん』の衝撃を最小限に留めて体力を僅かに残したのだ。

そして上空からドサイドンに向けてルカリオは落下してきた。重力の力も利用した最大威力の攻撃をドサイドンにぶつけるために。

 

「勝負よ!」

「受けて立つ!ドサイドン!アームハンマーだ!」

「ルカリオ!コメットパンチ!」

 

ドサイドンは咆哮と共に剛腕をルカリオに振りかぶり、真っ直ぐ突き出した。落下するだけのルカリオに回避する術はない。外す可能性などなく真っ直ぐ突き出されたドサイドンの拳を、ルカリオは硬化させた両腕を使い流水の如き滑らかな動きでダメージをほぼゼロで抑えて受け流した。

 

「…見事!」

 

完全に見切られた。その技量と土壇場でやってのける胆力に敬意を表し、ダンデはただ一言そう言った。

そして、硬化させた拳をドサイドンに叩きつけた。『コメットパンチ』を受けたドサイドンは拳を受けたままの状態で立ち尽くしていたが、数秒後に力なく地面に倒れた。

 

『ドサイドン戦闘不能!』

 

ルカリオも満身創痍で肩で息をしているが、その目は死んでいない。

 

「…お見事でした。まさかあの状態から受け流されるとは」

 

ダンデとしても相打ちを覚悟していたのだが、まさかさらにその上をいかれるとは思っていなかった。あの状態から回避し攻撃に移れるほど卓越した体運びには素直に脱帽するしかない。

 

「ありがとう。身体の使い方は誰よりも得意だからできたことよ」

 

耐久力の低さを身体の使い方でカバーする。種族値や努力値といった数値に表すことができない技術の高さを持つ『シロナのルカリオ』だからこそできた芸当だった。

これほどまでポケモンを鍛え上げることができるトレーナーが世界に何人いるか。恐らく十人いれば多いほうだろう。圧倒的な才能によるものではなく、卓越した観察眼と鍛え上げた思考能力から得られた『強さ』。ダンデのもつ『強さ』とは違う力を持ち、互いの全てを出して戦う感覚に既に疲労を感じてもおかしくない身体がさらに昂っていくことをダンデは感じた。

 

「このベストタイムも終盤に差し掛かっている。名残惜しいが、この最高の時間を全力で楽しんでいきましょう!」

「ええ!全力でいかせてもらうわ!」

「頼んだぞ!ゴリランダー!」

 

ダンデが繰り出したのはゴリランダーだった。

フィールドに降り立ったゴリランダーは咆哮と共にここまでのバトルで荒れ果てた草原のフィールドに草を生い茂らせた。

 

「特性『グラスメイカー』ね。フィールド展開に意識を割く必要のない強力な特性。これはなかなか厳しい対面かしら」

 

グラスメイカーによって展開された『グラスフィールド』は、飛行タイプや特性『ふゆう』を持つポケモン以外は徐々に回復していくリジェネ効果がある。体力が満タンのゴリランダーはともかく満身創痍のルカリオにとってこのリジェネ効果は大きい。

 

しかしシロナが『厳しい』と言った理由はそこではない。グラスフィールドは草タイプの技の威力を上昇させる効果がある。シロナの残りの手持ちはルカリオ、ガブリアス、そしてミロカロス。水タイプのミロカロスにとって草タイプ威力上昇はかなり厳しい。それを考慮した上での『厳しい』という発言だった。

 

だがここで逃げるという選択肢はない。故にここでどこまでゴリランダーに負荷を与えられるかが大切になってくる。

 

「さあいくぞ!ゴリランダー!つるぎのまい!」

「いきなり積んでくるか…!ならしんそくよ!」

 

ゴリランダーが『つるぎのまい』で攻撃力を上昇させてきた以上、ルカリオの残り体力でゴリランダーの攻撃を受けることはできない。

『しんそく』によって超高速の連撃をゴリランダーに加える。しかしゴリランダーは『つるぎのまい』を舞いながらも連撃をガードすることでダメージを最小限に抑えた。

 

「上手い!ならコメットパンチよ!」

「ドラムアタックだ!」

 

ルカリオの『コメットパンチ』とゴリランダーの『ドラムアタック』がぶつかり合い互いに弾かれる。共に『つるぎのまい』で攻撃力を上昇させた関係上ほぼ威力は同等であったため弾かれることは予想通りだが、それと同時に『ドラムアタック』の追加効果がルカリオに加わる。

僅かだが、ルカリオの身体が重くなる。『ドラムアタック』は相手の素早さを下げる効果があるためルカリオは素早さが下がり身体が重くなる感覚に襲われた。

 

「これでトドメだ!10まんばりき!」

 

咆哮とともにゴリランダーは拳をルカリオに叩きつけた。

これでルカリオは落ちた、と思ったが、カウンターのようにゴリランダーの胴体に硬化した拳が叩き込まれる。ルカリオの最後の攻撃によってゴリランダーはダメージを受けたが、そのままルカリオを吹き飛ばした。

草のフィールドを転がりシロナの目の前まで来てようやくルカリオの身体は止まった。しかし意識は失っておらず、拳に力を込めて立ち上がろうとしている。

 

「十分よルカリオ。貴方はよくやってくれたわ」

 

瀕死の身体を無理矢理動かそうとしているルカリオにシロナはそう声をかける。その言葉を聞いたルカリオは力尽きたように目を閉じ、その場に倒れた。

 

『ルカリオ戦闘不能!』

 

シロナはルカリオをボールに戻し、ボールを優しく撫でた。

 

「ありがとうルカリオ。最高の働きだったわ」

 

シロナはボールをホルダーに戻し、次のポケモンが入ったボールを手に取る。

 

「すごい執念ですね、貴女のルカリオ」

「負けず嫌いなのよ。バトルだと熱くなって、動けないのに無理矢理動こうとする。ちょっとだけ危なっかしいわね」

 

瀕死の身体を下手に動かそうとすれば肉体はさらに傷つき、最悪の場合致命的な怪我をしてしまう。それを避けるためにトレーナーと体力メーターが存在しているが、限界が来てなお動こうとする生粋の負けず嫌いが時折いる。シロナのルカリオやカイムのバシャーモがまさにそれだった。

 

「残りの子のことを考えて動こうとしてくれたのはわかるわ。でも同時に自分のことも大切にしてほしいって日頃から言ってるんだけど、対等な相手を前にちょっと熱くなっちゃってたわね」

「ああ。気持ちはわかる。オレもこんなに熱い気持ちになったら限界が来ても続けたくなってしまう」

「そうね。よくわかるわ」

 

こんなに楽しい時間、いくら限界だとしても簡単に終わらせるにはあまりにも惜しい。ルカリオがまだまだ戦いたいという気持ちがあるのはわかるが、肉体に鞭打ってまでやることではない。

 

「…さて、終盤戦よ!お願い!ミロカロス!」

 

シロナはミロカロスを繰り出した。

この選択には観客や実況は大いに驚愕した。ダンデのエースはリザードン。水タイプのミロカロスで相手をするのがタイプ相性的には適切だろう。加えてゴリランダーは草タイプであるため水タイプのミロカロスは相性が悪い。残りの手持ちはほぼガブリアスで決まりである以上この選出の意図を汲むことが出来なかった。

 

「何か、考えがあるんですよね」

「ええ。手を抜くなんてことはしない。私が考えられる最善の一手を打ち続けるわ」

「それでこそです。いくぞゴリランダー!ドラムアタック!」

 

ゴリランダーは草の力を纏わせたドラムで攻撃してくる。

ミロカロスはそれを見据えるとその長い身体をくねらせてゴリランダーの攻撃を回避した。

 

「ねっとう!」

 

高温に熱された水をゴリランダーに向けて放つ。草タイプを持つゴリランダーに水タイプの『ねっとう』は半減。しかし『ねっとう』は確率で相手に火傷を負わせる追加効果がある。『つるぎのまい』で攻撃力を上げたゴリランダーといえども、火傷を負ってしまうと攻撃力が半減してしまう。

加えてミロカロスは『かえんだま』によって火傷を負っており、特性の『ふしぎなうろこ』が発動して防御力が上昇している。グラスフィールドのリジェネ効果も含めればかなりの硬さになる。

 

「あまり長引かせると不利だな。ゴリランダー!一気に決めるぞ!」

 

ダンデの声にゴリランダーは咆哮で応える。

 

「ドラムアタック!」

「れいとうビーム!」

 

ゴリランダーの攻撃に対してミロカロスは『れいとうビーム』をぶつけることで相殺する。タイプ相性によって相殺に持って行けたが、想像以上の高威力であるためそう何度も相殺はできない。

 

「ドレインパンチ!」

 

ゴリランダーの拳がミロカロスの身体を捉える。ダメージを与えると同時にルカリオのカウンターによって受けたダメージを少し回復した。

 

(ルカリオ渾身のカウンターコメットパンチが思ったよりダメージが少ない…グラスフィールドの回復を考慮しても少なすぎる…グラスシードかしら)

 

シロナの予想通りダンデがゴリランダーに持たせていたのは『グラスシード』。グラスフィールドが展開されている時に防御力を上昇させる持ち物であり、防御力が上昇したことによりルカリオの最後のカウンターのダメージを抑えることができた。そしてそのダメージもグラスフィールドのリジェネと『ドレインパンチ』による回復でほとんど回復されてしまった。

 

「持久戦は得意分野よ!ミロカロス!アクアリング!」

 

ミロカロスは身体に水のリングを纏った。これによりグラスフィールドと『アクアリング』の両方からのリジェネを受けることができ、ミロカロスの耐久力が一気に上昇した。

 

「こいつは…手強いな!ゴリランダー!アクロバット!」

「ねっとう!」

 

軽快な身こなしからの攻撃を加えてくるゴリランダーに対して再び『ねっとう』をぶつける。互いにダメージを受けるが、タイプ不一致技と半減技であるため互いに大きなダメージにはならない。

そして『ねっとう』を受けた瞬間、ゴリランダーは即座に攻撃体勢に入った。

 

「ドラムアタック!」

 

ゴリランダーの攻撃がミロカロスに直撃する。効果抜群であるためダメージも大きくミロカロスは大きくのけぞった。かえんだまによる火傷はグラスフィールドと『アクアリング』によるリジェネでほとんどダメージにならないが、そこに大きなダメージが入ったため一気にミロカロスの形勢が悪くなる。

 

「じこさいせい!」

 

一気に減った体力を『じこさいせい』によって回復する。

 

「つるぎのまいを積んだゴリランダーでも一撃では倒せないか…!」

「耐えるだけがこの子の強みじゃないわ!ねっとう!」

 

再び熱された水がゴリランダーに向けて放たれる。ゴリランダーは最小限の動きで『ねっとう』を回避するが、その回避した場所に向けて氷のビームが迫ってきた。

 

「二段構えか!ドレインパンチ!」

 

迫ってきた『れいとうビーム』をゴリランダーは『ドレインパンチ』で迎え撃つ。直撃を避けたおかげでダメージはかなり軽減したが、それでも特防の高くないゴリランダーにダメージは入っている。グラスフィールドによって即座に回復できる程度のダメージではない。

 

「まだまだ!ねっとう!」

「ドラムアタックだ!」

 

『ねっとう』と『ドラムアタック』がぶつかり合い、『ドラムアタック』が『ねっとう』を突き破ってミロカロスにダメージを与えた。

 

「まきついて!」

 

しかし近づいて攻撃を加えてきた瞬間、ミロカロスは長い身体を使ってゴリランダーの身体に絡みつく。ポケモンの技として確立されている『まきつく』とは異なりただ身体に巻き付いただけでスリップダメージは与えられないが、ゴリランダーの自由を一瞬奪うには十分な効果がある。

 

「ねっとう!」

 

この擬似的なまきつくに拘束力と呼べるものはあまりない。ゴリランダーの腕力があれば即座に脱出できると判断したシロナは効果抜群の『れいとうビーム』ではなくタイプ一致で素早く出せる『ねっとう』で攻撃することを選んだ。

熱くなった水がゴリランダーに直撃する。タイプ相性故にダメージは半減するが、火傷するほど熱くなった水をかけられたゴリランダーはミロカロスの身体を即座に引き剥がすことを選ぶ。

巻きつく身体を強靭な身体によって引き剥がされたミロカロスは反撃を受ける前に離れ、着地する。

 

「10まんばりき!」

 

『ドラムアタック』の影響で素早さが下がっているミロカロスに向けてゴリランダーは強化した拳を振り下ろす。

しかしその瞬間、ゴリランダーは先程『ねっとう』を受けた左肩部分に焼け付くような痛みを感じた。その痛みによって攻撃の威力が大幅に下がってしまう。『ふしぎなうろこ』によって防御力が上がっているミロカロスに等倍ダメージの『10まんばりき』は大したダメージにならず反撃の攻撃が飛んでくる。

 

「れいとうビーム!」

「ドラムアタック!」

 

ミロカロスの『れいとうビーム』の方向を『ドラムアタック』による攻撃で逸らす。ミロカロスの攻撃が当たらなかったことによってできた僅かな時間でゴリランダーはミロカロスに追撃した。

 

「アクロバット!」

 

素早い身体捌きからの攻撃でミロカロスにダメージを与える。火傷により威力が落ちているが、直撃したためダメージは確実に入っている。

『じこさいせい』によって回復した傷だが、徐々に回復した分の体力が削られてきている。ここでもう一度『じこさいせい』を挟むことで安全性が上がるが、それを簡単にさせてはくれない。

 

「ドラムアタック!」

「ねっとう!」

 

互いの技がぶつかり合うが、タイプ相性もありミロカロスの『ねっとう』は突き破られた。しかし火傷の効果もあり、ミロカロスに与えられたダメージはそれほど大きくない。

 

「もう一度ねっとう!」

 

ダメージが大きくないためミロカロスは即座に反撃に出る。ここで効果抜群の『れいとうビーム』ではなくあえて『ねっとう』を出した。

 

「かわせ!」

 

ゴリランダーは攻撃から一瞬で回避のために背後に飛んだ。この行動によってゴリランダーは一瞬だけ空中で身動きが取れない状況になった。

この状況を誘うためにシロナは敢えて『ねっとう』を選択したのだ。タイプ不一致故に若干出が遅くなる『れいとうビーム』を確実に当てるために。

 

「れいとうビーム!」

 

ミロカロスが氷のビームをゴリランダーに向けて放つ。空中という身動きが取れない状況。回避は不可能。

誰もが『れいとうビーム』が直撃することを確信した。ゲートでシロナがバトルする姿を後ろから見ていたカイムですらそう思わざるを得ないほど完璧なタイミングだったからだ。

 

 

だがフィールドで向かい合う二人が胸中に抱いていたのはこの攻撃が決まったという確信ではなく、『次の一手』どうするかという冷静な思考のみだった。

 

 

ゴリランダーは迫り来る氷のビームを両手に持ったバチをクロスして受ける。バチによって勢いが殺された氷のビームはゴリランダーに到達するが、ダメージを大幅に減らす。加えて空中という踏ん張りの効かない状況だったからこそ、『れいとうビーム』の勢いに押されたゴリランダーは弾かれ、重力に従って落下することで『れいとうビーム』の射線から逃れた。

 

「上手い!」

「ドレインパンチだ!」

 

着地すると同時にゴリランダーはミロカロスに肉薄し、拳を叩き込んだ。ダメージを与えると同時にゴリランダーは僅かに体力を回復する。

いくら防御力が上昇しているとはいえ、何度も受ければミロカロスの体力は減っていく。『じこさいせい』による回復にも限度があるだけでなく、そもそもダンデが攻めまくることでその隙を与えてくれない。ミロカロスの体力が尽きる前に勝負を決めなければならない。

 

しかし同時に勝負を急がなければならないのはダンデも同じだった。グラスフィールドによって少しずつ回復しているが、その回復は火傷によるスリップダメージを軽減させる程度。『ドレインパンチ』も防御力の上がったミロカロスには思いの外ダメージが入らないため回復量が少ない。ゴリランダーはあまり攻撃を受けていないにも関わらず既に肩で息をしている。特防があまり高くないゴリランダーではタイプ不一致の技でも効果抜群ならやられかねない。

 

「ここで決めるぞゴリランダー!つるぎのまいだ!」

 

再びゴリランダーは『つるぎのまい』によって攻撃力を上昇させる。ここまで上昇させたとなると、ミロカロスの上昇した防御力を持ってしても効果抜群の技である『ドラムアタック』を受けた場合落とされてしまう。

 

「じこさいせいよ!」

 

相手が自己強化に時間を使った以上、シロナも回復に使うべきだと判断した。

互いに強化と回復が済んだ瞬間、同時に動きだした。

 

「10まんばりき!」

「ねっとう!」

 

ゴリランダーの拳が放たれた熱された水を打ち破る。火傷の攻撃力半減も『つるぎのまい』を二回積んだゴリランダーにとって既に足枷にはならないものとなっていた。

 

「アクロバット!」

「受け流して!」

 

ゴリランダーの軽快な身動きから放たれる攻撃をミロカロスは長い身体をうまくくねらせることで受け流す。ダメージをゼロにはできないが、直撃するよりは遥かにダメージが少ない。

 

そしてゴリランダーが『アクロバット』から着地した瞬間、ミロカロスは氷の力を口に溜めてゴリランダーに顔を向けた。

 

(来る!)

 

ダンデは『アクロバット』を放った直後にできるこの一瞬の隙。ここを狙ってくることを読んでいた。シロナほどの実力を持ったトレーナーがこの数少ない隙を利用しないはずがない。そう確信していたからだ。

 

「ミロカロス!れいとうビーム!」

 

そしてダンデの読み通り、シロナはミロカロスに『れいとうビーム』を指示してきた。

だがシロナが『アクロバット』の隙を利用しようとしたように、ダンデも『れいとうビーム』の隙を利用する気でいた。

 

「ゴリランダー!横に飛べ!」

 

『れいとうビーム』が飛んでくるであろうタイミングでダンデは回避の指示を出す。これでこの『れいとうビーム』が不発に終わった瞬間、『ドラムアタック』でトドメを刺す。そう考えていた。

ゴリランダーはダンデの指示通り横に飛ぶ。ミロカロスの口に溜めている氷のビームが自分の横を通り過ぎると考えていた。

 

 

 

しかしゴリランダーが横に飛んだ直後、ミロカロスが『れいとうビーム』を放つことはなかった。

 

 

 

『れいとうビーム』が放たれることはなく、ミロカロスはゴリランダーに向けて狙いを定めた。

 

「フェイントかっ⁈」

「撃って!」

 

ミロカロスはゴリランダーに向けて『れいとうビーム』を放つ。回避行動を取った直後で動くことができないゴリランダーに回避する手段はない。氷のビームがゴリランダーの肉体を貫いた。

ここで倒れてもおかしくない。そう思えるくらいの一撃だったが、ゴリランダーはギリギリで耐えた。

 

「耐えた⁈」

「こいつの根性を舐めるなよ!ドラムアタック!」

「れいとうビームで迎え撃って!」

 

ゴリランダーは咆哮と共に『ドラムアタック』を放ち、ミロカロスは迫り来るゴリランダーに向けて『れいとうビーム』を放った。

両者の技が互いに直撃し、その余波で爆発が起こる。冷気が感じられる爆煙を受け、シロナとダンデは顔を庇うように手を顔の前にかざした。

 

僅かな沈黙の後煙が晴れると、そこには目を回して倒れるゴリランダーとミロカロスの姿があった。

 

『ゴリランダー、ミロカロス。共に戦闘不能!』

 

結果は相打ち。

水タイプでありながら草タイプのポケモンを相打ちまで持って行けたことを考えれば、かなりいい結果だろう。これもルカリオが最後に入れた渾身のカウンターがあったからだとシロナは考えている。あのカウンターがなければまだゴリランダーは満身創痍ながらも立っていたはずだ。

 

これでシロナの手持ちは残り一体。ダンデは毒を受け満身創痍のドラパルトともう一体いる。

 

「ふう…」

 

シロナは大きく息を吐く。高揚感に包まれているため疲労感はないが、玉のような汗が首筋に伝っているのを感じた。

最後のポケモンが入ったボールを手に取り、構えた。ダンデも構えたシロナを見てボールを手に取りシロナに向けて構える。

 

「私の最後のポケモン…この子に私の持てる全ての力を託すわ」

「見せてくれ!全霊を持って、貴女を超える!」

「お願い!ガブリアス!」

「もう一度頼む!ドラパルト!」

 

シロナはエースであるガブリアス、ダンデはロズレイドを相手にし、満身創痍ながらもまだ戦えるドラパルトだった。

 

「もうこれ以上語ることもないわね」

「ああ。語るなら、バトルでだ!」

「無論ね!ガブリアス!げきりん!」

「シャドーダイブ!」

 

ガブリアスが咆哮とともにドラパルトに攻撃を仕掛けるが、その瞬間ドラパルトの姿が消える。

理性を飛ばさずに行動できるガブリアスは姿が消えたドラパルトをフィールドの中心でゆっくりと構えドラパルトの姿を探した。

数瞬の沈黙の後、ドラパルトが虚空から姿を現し、ガブリアスに突撃してしてくる。

しかしガブリアスはその突撃に即座に反応すると、反撃の攻撃を加えた。ドラパルトは持ち前の素早さを活かしてその攻撃を回避する。

 

「そのままドラゴンダイブ!」

 

攻撃をしたことにより隙が生まれたガブリアスにドラパルトは『ドラゴンダイブ』で攻撃を仕掛ける。

だがガブリアスは『ドラゴンダイブ』の発動を見てから回避するという離業をやってのけた。ガブリアスの戦闘技術の高さがよくわかる行動だったが、ここでダンデは違和感を感じた。

 

(おかしい。攻撃タイミングとドラパルトの素早さを考えたら今の攻撃は回避できないはずだ)

 

ドラパルトの素早さはガブリアスを上回る。素早さを上昇させる『りゅうのまい』を覚えないし、そもそもまだ『げきりん』しか指示されていない。

つまりこれはガブリアスの素早さが上がっているのではなく、ドラパルトの素早さが下がっているということだ。

 

(ドラパルトの状態…フィールド…毒状態)

 

ドラパルトの状態とあるポケモンの最後の行動を思い出し、ドラパルトの違和感の正体を看破した。

 

「…ベノムトラップか!」

 

ロズレイドの最後の行動で地面に対して毒の力を張り巡らせていた行動を思い出す。『ベノムトラップ』は毒、猛毒状態の相手に対して攻撃、特攻、素早さを下げる技だ。つまりあの行動は最後の抵抗ではなく、次につなげるための行動だったのだ。

 

「仕留めるわよガブリアス!」

「まだまだやれるなドラパルト!シャドーボール!」

 

ドラパルトの放った『シャドーボール』がガブリアスに当たるが、ガブリアスは『げきりん』の状態で『シャドーボール』を打ち破った。

 

「つるぎのまいよ!」

「させるな!ドラゴンダイブ!」

 

一度『げきりん』を解くとガブリアスは『つるぎのまい』によって攻撃力の上昇を図る。しかしそれを見たダンデはそれを妨げるためにドラパルトに渾身の『ドラゴンダイブ』を指示した。

しかし素早さが下がったドラパルトは元々の素早さが(ドラパルトほどではないが)かなり高いガブリアスの速さに勝れない。

『つるぎのまい』を完了したガブリアスは、『げきりん』状態でドラパルトの体を正面から受け止めた。

 

「叩きつけて!」

 

完全に勢いを止められたドラパルトはガブリアスの腕から逃れることができない。『げきりん』状態のガブリアスに叩きつけられてしまい、毒のダメージもあったドラパルトはこれで完全にダウンした。

 

「ドラパルト、ありがとう。最高の働きだった」

 

ドラパルトをボールに戻しながらダンデは労いの言葉をかけた。

 

これで互いに残りポケモンは一体。長きにわたるこのバトルも最終局面へと至った。

 

「…さあ、お前の出番だ!いくぞリザードン!」

 

ダンデの最後のポケモンはリザードン。ダンデの絶対的エースであり、鍛え上げられた強さはガブリアスと遜色ない。

 

そのリザードンを見てシロナは目を閉じる。

そして胸につけられたブローチを取ると、ブローチの蓋を開きダンデに向けて翳した。

 

「お互い、奥の手を使う時間ね」

「ああ。これが最後だ」

 

ダンデも腕につけたバンドを翳す。そのバンドから赤い光が溢れ出しているのが見えた。カルネとのバトルで見たが、ダイマックスは赤い光を纏った状態になる。恐らくあの赤い光がガラル粒子由来のものなのだろう。

 

シロナの手に持ったキーストーンが光り、ガブリアスの持つメガストーンと共鳴する。

 

「いくわよガブリアス!私たちの全身全霊をかけて!」

 

シロナの声に同調するようにガブリアスは吠えた。そして光の繭がガブリアスの体を包み込む。

 

「メガシンカ!」

 

光の繭が割れ、中から禍々しい姿へと進化したメガガブリアスが姿を現した。元々強靭だった肉体はさらに強靭になり、より攻撃能力を上げたガブリアスの姿と覇気に会場は圧倒される。

 

メガシンカしたガブリアスの姿を見てダンデは不敵に笑う。そして出したばかりのリザードンをボールに一度戻した。

 

「リザードンの本気を見せよう!キョダイマックスタイム!」

 

リザードンの入ったボールにダンデの装着しているバンドから溢れ出した赤い光が包み込む。そして巨大なモンスターボールへと姿を変えた。

大きくなったボールをダンデは片手で軽々と持ち、自分の背後に向けて放った。

そしてそこから姿を現したのは、翼が炎に変わり威圧感が激増したキョダイマックスリザードンだった。

 

「これが…キョダイマックス」

 

シンオウ地方に住むシロナはダイマックスを見ることは初めてだった。映像では何度か見たことがあったが、生で見るのは初めてでありその迫力と威圧感に思わず息を呑む。

凄まじい迫力と熱気。並のトレーナーならこれだけで戦意を喪失してもおかしくない。しかしシロナとガブリアスにとっては燃える材料にしかならないものだった。

 

「これが、貴方達の全力」

「そうだ。これが!オレとリザードンの全てだ!」

 

手を大きく開くようなポーズを取り全開の覇気でシロナを挑発する。

 

 

来い。オレとリザードンの全てをもって、貴女の全力を上回る。

 

 

言葉が無くともダンデの全身がそうシロナに訴えかけてきた。その覇気を受けてなお、シロナは強気な笑みを崩さない。

 

「受けて立つわ!行くわよガブリアス!」

「焼き尽くせ!リザードン!キョダイゴクエン!」

「りゅうせいぐん!」

 

リザードンは大きな口に炎を溜め、凄まじい熱気を帯びた炎…『キョダイゴクエン』をガブリアスに向けて放つ。その炎はまるで鳥のような形でガブリアスに向けて飛んでいく。

対してガブリアスは龍の力を天に向けて放つ。その龍の力は天から無数の流星を呼び寄せ、龍の力を纏いながらリザードンに向けて落下していく。

 

獄炎と流星。強大な力がぶつかり合い、フィールドは凄まじい爆発を起こした。

 

草原のフィールドはリザードンの『キョダイゴクエン』によって焼土と化し、ガブリアスの『りゅうせいぐん』によって荒野へと変えられた。

あまりにも広大な技範囲により『キョダイゴクエン』と『りゅうせいぐん』の余波がフィールドにいるリザードンとガブリアス、ダンデとシロナだけでなく、観客席にまで及んだ。観客席は余波を防ぐためのバリアが貼られているが、そのバリアが余波によってビリビリと悲鳴を上げる。フィールドに立つシロナとダンデの前にもシールドが貼られているが、そのシールドを貫通してくるほどの熱気と爆風に思わず二人は顔を手で庇う。

 

爆風が収まると、フィールドには依然としてガブリアスとリザードンが立っていた。互いに技が直撃することはなかったが、余波によるダメージは受けている。両者とも広大な範囲を持つ攻撃を行ったため技の威力が同程度であろうとも完全に相殺することはできず攻撃を少なからず受けた。

 

ガブリアスは『りゅうせいぐん』の反動で特攻ががくっと下がる。

対してリザードンは特に反動はない。加えて『キョダイゴクエン』の追加効果でフィールドが炎に包まれる。これほどの熱がフィールドに存在しているとなると、ガブリアスの体力はフィールドにいるだけで削られてしまう。

互いに体力は七割程度。しかしスリップダメージや特攻ダウンの効果によってガブリアスの形勢は厳しい状況となった。

 

「まだまだいくぞ!リザードン!ダイジェット!」

「ストーンエッジで壁を作って!」

 

リザードンは凄まじい気流をガブリアスに向けて放った。対してガブリアスは『ストーンエッジ』によって岩の壁を作り出しリザードンのジェット気流のような攻撃を凌ぐ。

あまりの風の強さにガブリアスが作り出した岩の壁は削られていき、ヒビが入っていく。完全に割れそうになったところで、リザードンの攻撃が止んだ。

 

「ここよ!げきりん!」

「ダイドラグーンだ!」

 

ガブリアスは咆哮と共に全身に龍の力を漲らせ、肉体を強化する。

対してリザードンはダイマックス技に変化したドラゴン技である『ダイドラグーン』をガブリアスに向けて放った。『ダイドラグーン』はドラゴンタイプの技であり、ガブリアスには効果抜群。加えて追加効果で攻撃力を下げる効果もあるためガブリアス相手にはかなり効果のある技だった。

 

しかしガブリアスはリザードンの『ダイドラグーン』を受けてなお止まることはなかった。放たれた巨大な龍の力を受け、攻撃力が下げられたにも関わらず、龍の力の奔流から姿を現しリザードンの巨大な肉体へ攻撃した。キョダイマックスにより肉体が巨大化したリザードンは技の威力や範囲が広がったが、同時にリザードン自身の的も広がったことになる。故にメガシンカによって攻撃特化になり、素早さの下がったガブリアスでも全力の攻撃をぶつけることができる。

 

ガブリアスの攻撃を受けたリザードンはあまりの攻撃力の高さに僅かにのけぞるが、即座に体勢を立て直してガブリアスに反撃した。その巨大な体の拳でガブリアスを攻撃し、ダメージを与える。技として確立していない攻撃だが、巨大化したことによる質量はそれだけで大きな武器になる。ガブリアスへのダメージも少なくはない。

そのダメージをものともせずガブリアスは空中で体勢を立て直し着地した。だが依然として形勢は良くない。『ダイドラグーン』と今の攻撃、そしてフィールドの炎によってバトルが始まったばかりだというのにガブリアスの体力はかなり削られていた。

 

「ガブリアス!まだいけるわね?」 

 

シロナの言葉を肯定するようにガブリアスは咆哮を上げる。

 

「ストーンエッジ!」

 

ガブリアスは地面に足を叩きつけ、力をリザードンに向けて伝播させる。そして地面から突き出してきた岩の刃がリザードンを襲った。いくら巨大化したとはいえ、タイプそのものが変わるわけではない。岩タイプの『ストーンエッジ』はリザードンに対して大きなダメージを与えた。

 

「リザードン!」

 

ダンデの心配する声に対してリザードンは『問題ない』とでも言うように吠える。それを見たダンデは頷くとガブリアスを倒すための算段を瞬時に脳内で組み上げた。

ダイマックスはメガシンカよりも強力な反面、時間制限がある。肉体を巨大化させ攻撃と体力を強化することのできるダイマックスだが、メガシンカとは別ベクトルでポケモンに多大な負荷がかかる。そのため人為的なダイマックスは一定時間が経つと自動的に解除される仕組みになっていた。

 

リザードンはキョダイマックスの時間制限、そしてガブリアスは炎のフィールドによるスリップダメージという時間制限がある。互いに長引けば不利。

 

そう考えた瞬間、二人は同時に動いていた。

 

「リザードン!」

「ガブリアス!」

 

そしてこの瞬間、二人にとって最善だと思える一手を打った。

 

「キョダイゴクエン!」

「りゅうせいぐん!」

 

再び獄炎と流星が放たれ、ぶつかり合う。相殺しあうことなく、両者の技は威力を弱めながらも互いに到達してダメージを与えた。

 

しかしここで見ていたカイムは違和感を覚える。ガブリアスは一度『りゅうせいぐん』を撃っている。その反動で特攻が下がっているため、今放った『りゅうせいぐん』の威力も下がっているはずだ。

しかし初手でぶつかり合った時と同じような結果となり、互いの技の威力が減衰されながらも互いにダメージを与えただけとなった。ガブリアスの特攻が下がっている今、リザードンの『キョダイゴクエン』が威力が勝りガブリアスへダメージを与える結果となるのが妥当だと考えた。

 

その違和感の正体をカイムはすぐに知ることとなる。

 

「リザードン!ダイドラグーンだ!」

 

リザードンはダンデの指示通り、即座に『ダイドラグーン』発動体勢に入った。

しかしあまりにも技から技への行動の切り替わりが早すぎる。全力の技を放った直後であれば、まず間違いなくどんな技であっても一瞬インターバルが必要となる。だがリザードンはそのインターバルがほぼゼロで次の技を放とうとしている。

その意図にシロナは即座に気がついた。

 

(キョダイゴクエンは囮!本命はここで放つダイドラグーンによる効果抜群技!)

 

ダンデは敢えて『キョダイゴクエン』の威力を抑えることで次に放つ技のインターバルを短くしたのだ。無論これを行うことによって今放たれようとしている『ダイドラグーン』の威力も下がる。しかし傷つき、スリップダメージによって体力を削られ続けているガブリアスならば、効果抜群の『ダイドラグーン』で落とせる。そうダンデは判断した。

 

リザードンは龍の力をガブリアスに向かって放つ。放たれた龍の力はガブリアスを包み込み、強大な力で飲み込んでいった。

 

「…ガブリアス」

 

しかしシロナは諦めていない。

その目は未だにダンデを見据えており、ガブリアスが倒れていないことを確信していた。

 

「まさかっ⁈」

「げきりん!」

 

シロナの声と同時にガブリアスは『ダイドラグーン』の力の奔流を『げきりん』による力で咆哮と共に撃ち破った。

シロナのガブリアスは理性を残したまま『げきりん』による攻撃が可能。その代償として威力は下がるが、もしこの理性を完全に飛ばして『げきりん』による力に完全に身を委ねた場合、その威力は通常の『げきりん』を上回るものとなる。

 

怒りと龍の力に完全に身を委ねたガブリアスは『ダイドラグーン』を撃ち破ると即座にリザードンに突撃していく。

それを見たリザードンも炎による反撃を加えようとするが、僅かにガブリアスの方が早く攻撃が届いた。

 

 

ガブリアスの渾身の一撃がリザードンに叩き込まれる。

 

 

攻撃を受けたリザードンは吹き飛ばされ、ダイマックスの状態で地面に倒れる。その身体が地面に着く直前、リザードンの身体が光に包まれて元の状態に戻った。完全に元に戻った時、リザードンは力尽き地面に倒れ伏した。

 

 

『リザードン戦闘不能!よってこのバトル!シンオウ地方チャンピオンシロナの勝利!』

 

 

審判の判定と共に歓声が響き渡る。ゲートで見ていたカイムやダンデ側のゲートで見ていたソニアも惜しみない称賛の拍手を送った。

 

ダンデは判定が下されると帽子を下げて表情を一瞬だけ隠す。少しだけ見えるその口元は悔しそうに歪んでいたが、即座に笑顔に変わり、顔を隠していた帽子を投げた。

 

「チャンピオンタイム…いや、ベストタイム(最高の時間)イズオーバー。最高のバトルに、最高のパートナーに、そして最高のライバルに…ありがとう」

 

炎の消えたフィールドに降り立ち、ダンデはそう観客に向けて言った。

シロナもフィールドに降りるとメガシンカを解き地面に座り込むガブリアスに手を貸して立ち上がらせた。

 

「お疲れ様ガブリアス。頑張ってくれてありがとう」

 

ガブリアスは疲れたように、だがとても満足したように笑った。

そして目の前に歩いてきたダンデへと目を向ける。

 

「…ありがとうございました。とても、とても楽しかったです」

「オレもだ。貴女の、貴女達の本気。素晴らしかった。オレ達も全力をもって応えたが、貴女達がオレ達の一枚上をいった」

「私たちの全身全霊をかけて戦いました。昨日のバトルと同じくらい、素晴らしいバトルをありがとう」

「ああ。こちらも感謝してもしきれない。最高の時間だった」

 

ダンデは一度視線を落とすとさわやかな笑みを浮かべシロナに手を差し出す。

 

「次は負けません。次はもっともっと強くなって、貴女に勝ちます」

「次も負けないわ。またやりましょう」

「ああ!またやりましょう!」

 

二人は握手を交わすと、観客席に手を振りながらゲートへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートに戻ってきたダンデを迎える人物がいた。

 

「お疲れ様」

「ソニア」

 

ダンデのサポーター(一応)であるソニアは軽く手を上げてダンデを出迎えた。玉のような汗を垂らしているダンデにソニアはタオルを手渡した。

 

「ああ、ありがとう」

「一応サポーターなんでね」

 

そう言いながらソニアはゲートの壁に背中を預けて後ろで手を組んだ。

 

「どうだった?」

「強かった。今まで戦ってきた中でも、トップ3に入るくらい強かった。あれだけの人に負けたとなれば納得だな」

 

そう言うダンデだが、その表情はそう言っていないことをソニアはすぐに察した。

 

「ふーん。ま、そういうことにしておくよ」

 

ダンデの表情は悔しさと満足さが入り混ざった複雑な表情だった。

負けた悔しさも感じられるが、同時に出し切った満足感。両方がダンデの胸中を渦巻いている。気を抜けば、今すぐにでもシロナに再戦を申し込みに走り出してしまいそうなほど悔しいが、あれほどまでの実力者相手とギリギリまで戦えた満足感も確かにあった。

 

「未だ道半ばか。まだまだ強くなれそうだ」

「意気込むのはいいけど、まずは休みなよ。ポケモンセンターいこう」

「ああ。案内頼む」

 

変わらないダンデに苦笑しながらも、この楽しそうなダンデの姿を見ることができたソニアは小さく笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを進んでいくシロナの行先に、ベンチに腰掛けブラッキーを撫でるカイムが出迎えた。

 

「お疲れ」

「ありがとう」

 

カイムからタオルと水を受け取ったシロナは肌に浮かんでいた玉のような汗を拭い、水を飲んだ。自身の熱とリザードンによって放たれた熱によって熱くなった身体に冷たい水が通り抜け、心地よい冷たさを感じた。

 

「激戦だったな」

「このトーナメントで激戦にならない試合はないわ」

「それもそうか」

 

昨日のダイゴ戦も今日のダンデ戦もギリギリの戦いだった。他の試合も全て激戦であり、レジェンドとまで謳われたレッドもギリギリであるほどだ。この大会がどれほどレベルが高いのかよくわかる。

 

「はあぁ…」

 

気が抜けたように息を吐いたシロナはカイムのすぐ隣に腰掛け、カイムの肩に自分の頭を預けた。

 

「本当に全身全霊だったわ」

「見てりゃわかる」

「昨日のダイゴ君と同じくらい、熱くなってた。ふふ、楽しい時間はすぐ終わってしまうのね」

「そんだけ疲れてんだ。どれだけ熱中してたかはわかる」

 

疲れはあるが、それ以上に満足感がシロナの胸中を占めている。この高揚感と記憶を少しでも正確に記憶していたいという思いからシロナは目を閉じた。

 

「ここで寝るなよ」

「わかってるわ。ポケモン達を回復させないといけないもの」

「……わかってんならいい」

 

もしかしたらこの高揚感をそのままに眠ろうとしているのではないかと思ったが、そうではないと分かったカイムはそのままされるがままになっていた。

 

「ごめん。汗臭いかもしれないけど」

「別にしない。気にすんな」

「ありがとう。もう少し、もう少しだけ…このままでいさせて」

 

明日もまだ試合がある。だからこそ、シロナはカイムに寄り添い極力早く気力を回復させるためにこの場に留まることを選び、カイムもそれを許した。

 

「シロナ」

「ん?」

「楽しかったか?」

 

シロナはカイムの問いかけに自信を持って頷いた。

 

「うん。楽しかったわ」

「そうか」

 

カイムはそう答えるとシロナの手を握った。カイムの膝にいたブラッキーはシロナの膝へと移り、シロナの顔を優しく舐めた。

シロナはそんなブラッキーを優しくなで、カイムの手を握り返した。

 

 

 

先程までの熱狂していたスタジアムと打って変わり、静かな時間が流れていった。

 

 

 




レジェンズアルセウス発売目前ですね。私は仕事と回線の都合上まだできないんですけど。

前回の更新でアカギについて触れて下さる方がいました。私の中でアカギはかなり印象深い悪役です。他の世界征服やら理想の世界を作るなどの思想のもとに悪役をやってる人とは違って、『心』を否定するためにあそこまでのことをやってのけたことが個人的に印象的でした。結局はアカギも理想の世界をつくるためですが、その根幹にあるものが『心』であることが個人的になんか印象的でした。それに対して心を尊んだシロナとの対比が好きです。
一応言っておきますが、他の悪役が嫌いとかではありません。

やっぱりバトル書くのって楽しいんですけど難しいです。
これ書くためだけにわざわざ剣盾でダンデとバトルしてきました。メンツ的には比較的書きやすかったですが、どこでダンデのセリフを入れるかで悪戦苦闘しました。


「効果バツグンで勝利を手繰り寄せるぜ!」
「さすがだ!これほどの覇気…ガラルでもなかなかお目にかかれない!」


持ち物と特性
シロナ
ミカルゲ プレッシャー ものしりメガネ
ロズレイド どくのトゲ くろいヘドロ
トゲキッス てんのめぐみ たべのこし
ルカリオ せいしんりょく たつじんのおび
ミロカロス ふしぎなうろこ かえんだま
ガブリアス さめはだ ガブリアスナイト


ダンデ
ギルガルド バトルスイッチ じゃくてんほけん
ドラパルト すりぬけ たつじんのおび
オノノクス かたやぶり いのちのたま
ドサイドン ハードロック とつげきチョッキ
ゴリランダー グラスメイカー グラスシード
リザードン もうか もくたん


バトルの書き方を試行錯誤してますが、書いてみた結果『あくのはどう』とかはひらがなの方がポケモンっぽい感じがします。
今までは技の数普通に6つくらい使ってましたけど、今回はちゃんと4つに抑えました。できるなら初めからやれって自分で言いました。なので前回のダイゴ戦もちょっとずつ直していきます。


シロナ
今回もギリギリで勝てた。今回は全体的に耐久寄りのチームにしたため受けることが多かったものの、うまくゲームメイクした。

カイム
サポーターとしての職務を全うした。次回少しだけレッドや彼に関わる人物と絡む予定。

ダンデ
シロナと同じ無敗記録の持ち主。一応シロナと同い年くらいの設定。基本シロナに対して敬語だが、バトル中熱くなると敬語が外れる。

ソニア
ダンデのサポーター(道案内)として参加。カイムと立場が似ているため絶対出したかった。実はイサナとも交流があるのだが、まだカイムがイサナの弟であることは知らない。

ミクリ
私の中では結構思い入れのあるキャラ。種族値やタイプを考えるとあまり強く無いように思われがちだが、レッドをあと一体まで追い詰めた。

レッド
レジェンド。



次回、頂上決戦。



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