最高に書くの難しかったです。遅れた理由の四割がレッドのせい。残りの六割は仕事。アルセウスはまだあんまできてないです。未だにキング二体目。
レッドが喋らないから。指示以外でのボイスはほぼないです。
ここ最近全然まったりしてないからタイトル詐欺もいいところ。許して。ついでに遅れたことも許してください。
これと、次回の話が終わり次第過剰なほどの砂糖を供給していくつもりです。なんならしばらく砂糖漬けにするから。これは嘘じゃないから。
2日で書いたので矛盾点や誤字が多い可能性があります。誤字報告、矛盾点の指摘などは容赦なく教えていただけたら爆速で修正いたしますのでよろしくお願いします。
25話です。
スタジアムの一番高い場所。そこから赤い帽子を被った一人の少年が繰り広げられる激闘を見下ろしていた。
巨大化したリザードンと禍々しく進化したガブリアスがぶつかり合い、そしてガブリアスが勝ち残った。歓声が湧き上がり、二人のトレーナーが互いの健闘を讃えて固く握手を交わしているのが見える。
「………」
目を細めてその様子を見ていた少年の背後に、別の少年が降り立った。
「こんなところにいたのかよ」
青いスポーティな服に身を包んだ少年はなおもスタジアムを見下ろす少年の隣に立った。その少年は茶色い髪をしており、その青い瞳は自信に満ちた光が宿っている。
青い瞳の少年がスタジアムを見下ろし、バトルの結果を見て呟いた。
「…へえ、決勝はあの人か」
少年は一度、たった今バトルを終えた女性と戦った。そして負けた。
その時かけられた言葉の答えはまだ完全には出ていない。だがそれでもその答えに近いものはもう少しで得られそうな気がしていた。
隣に立つ赤い帽子を被った少年は翡翠色の瞳の少年に目を向ける。赤い帽子の少年の意図を汲み取った少年は口の端を吊り上げて言った。
「ん?ああ。俺は前にバトルしたことあんだよ。強えぞ」
「………」
「ま、今のバトル見てたら強えかどうかなんて言うまでもねえか」
それほどまでハイレベルなバトルを繰り広げていた。そもそもこの大会に出ているトレーナーが弱いはずがない。
バトルしていたトレーナーの二人がゲートへと戻っていくのを見届けると、赤い帽子の少年は身を翻してモンスターボールからリザードンを出した。
「行くのか?」
赤い帽子の少年は頷く。それを見た翡翠い瞳の少年…グリーンはやれやれといった表情でモンスターボールからピジョットを出した。
「調整の相手してやるよ。感謝しやがれ、レッド」
赤い帽子の少年…レッドはグリーンに笑いかけ、そのままリザードンの背中に跨った。
グリーンもピジョットにまたがり、二人は夕方の空へと飛んでいくのだった。
*
バトルを終えたシロナは昨日と同じように風呂に浸かって休息を取っていた。ポケモン達はポケモンセンターに預け、回復してもらっている最中。その時間にシロナ自身もしっかりと休息を取り、疲労の回復を図っていた。暖かいお湯が身体に溜まった疲労を少しずつ溶かしていく感覚がする。
「………」
昨日は入浴しながらダンデへの対策を考えていたが、今日はカイムに止められているためモニターをつけることはしない。ただ身体を休ませるためにこの時間を使った。
しかし頭の中ではレッドに対する対策や頭に入っているレッドのデータを確認するなど、次のバトルのことしかなかった。
レッドは、今までシロナが見てきたトレーナーの中でもトップクラスのトレーナーだった。
このチャンピオンズトーナメントにおいても頭ひとつ抜けたステータスを持つチームを構成しており、タイプもシロナやダンデのようにバランスのいいチームとなっている。加えてその完成度も戦術の幅の広さも相当なものとなっていた。完全無欠なチームなどないが、レッドはそれに限りなく近い状態であった。
(…シロガネ山で修行していたっていうのも、強ち嘘じゃないのかも)
そう思わせるほどレッドの強さというのは際立っていた。
数年前、グリーンとカントーリーグでバトルして優勝を勝ち取った時よりもさらに強くなっている。単純な数値の上昇は大きくないが、確実に強さに厚みができている。シロガネ山で普通のポケモンバトルのように相手がいる上で勝敗のある強さと同時に、厳しい自然の中に身を置くことであらゆる事象に対する対応力…すなわち『戦闘考察能力』が上がっている。このトーナメントでそれはよく発揮されており、相手がチャンピオンレベルの猛者でなければレッドが最後の一体まで追い詰められることはなかっただろう。
だが同時にシロナは一つの可能性にたどり着いていた。
「…多分、まだ本気じゃない」
それはレッドが本気ではないという可能性だった。試合を見ていて手を抜いている、ということはない。確実にレッドはその時出せる全力を出して対戦相手とバトルしていた。それは間違いない。
しかし強さというのはその時のコンディションやフィールド、メンタル面によって多かれ少なかれ幅ができる。『調子が悪い』という言葉が1番わかりやすいものだろう。
レッドはコンディションやフィールドにはあまり左右されないが、メンタル面では違う。ヒカリのようにバトル中のひらめきと爆発力によって120%の力を発揮できるタイプのトレーナーであり、上がることはあっても下がることはないとシロナは考えていた。
恐らくここまでのレッドは100%の実力を発揮してきた。しかしヒカリのように土壇場で120%のポテンシャルを発揮する可能性は非常に高い。そうなった場合、今データとして記録されている数値よりもさらにもう一段階強くなるということだ。
「……これが天才っていうのよね」
シロナにも少なからず才能はあった。その才能以上にシロナ本人による努力を積み重ねることで今の強さを手に入れることができた。
しかし、シロナ以上に圧倒的な才能を持ち、努力を積み重ねてきたレッドとのバトルを前に、シロナは震えが止まらなかった。
レッドとのバトルに対する恐怖ではない。敗色濃厚な相手に挑むという久しく感じていなかった逆境を目の前にした時の高揚感が、武者震いのようにシロナの身体を震わせていた。
バトルは基本楽しむことを重視しているが、あの伝説とも言われる少年と戦うことができる事実にシロナは『勝ちたい』という気持ちが抑えきれそうにない。
「勝ちたいなぁ…」
湯気の立ち込める浴室でシロナは一人そう呟くのだった。
シロナが浴室で武者震いをしているのと同時刻。
カイムはポケモンセンターでシロナのポケモンが回復するのを誰もいなくなった観客席で待っていた。ポケモンの回復には少し時間がかかる。高速回復装置によって回復させることも可能だが、ポケモン自身の自己治癒力を使った遅いが肉体に負荷がかからない回復の方が健康上優れていることが論文として発表されている。これを知っているカイムは多少時間がかかってもポケモンセンターによる肉体とメンタルの同時ケアを行うことを優先していた。
誰もいない観客席をバシャーモを連れて歩く。先ほどまで熱狂していたのが嘘のように静かなスタジアムを回っていた。
空を見上げると、太陽はほぼ沈んでおり星が見え始めていた。
「カントーに来るのは久しぶりだな」
大学はタマムシシティにあるタマムシ大学であったため、四年ほどカントー地方にいた。たった数年前のことだというのにもう遠い昔のように感じていた。
思えば遠くまで来たものだ、と内心で感傷に浸っていると、スタジアムの出入り口から丁度一人の人影が入ってくるのが見えた。
「ん」
「あ?」
その人影と目が合う。
相手はカイムの顔を見ると、目を丸くした。
「あんた…確かシンオウリーグの警備員」
「ああ。久しぶりだな、グリーン」
「…こんなところで会うとはな、カイム」
相変わらず表情があまり動かないカイムに対してグリーンは苦笑する。
「なんでこんなとこいんだよ」
「ポケモンの回復待ち」
「は?あんた別にバトルしてねえだろ?なんで回復なんて…」
と、そこでグリーンはカイムの首から下がっているIDに書かれた文字を見て納得した。
「お前…そういやサポーターだったな」
「ああ。シンオウリーグで調整の相手してやったろ?」
「…なるほど。シロナさんのサポーターか。ここにいても変じゃねえわけだ」
「グリーンは…レッドのサポーターか?」
グリーンほどの分析力と情報収集能力があればサポーターとしてはかなり優秀だろう。情報収集ではカイムも負けていないが、分析力においては恐らくグリーンの方が上。これほどサポーターとして優秀なトレーナーはいないはずだ。
「いや。オレはただの観客。ジムリーダー権限使って試合見にきただけだ」
「そういや、トキワジムのジムリーダーだったな」
「知ってんのか」
「まあな」
一応カイム自身もジムリーダーを一時期勤めていたため、他の地方のジム事情も多少把握している。仮に把握していなかったとしてもシロナから聞いていた。
「んだよ。こっちばっか知られててなんか不公平な感じがするぜ」
「お前さんは有名人だからな。多少のことは仕方ねえよ」
「なーんか面白くねえなぁ」
グリーンもカイムが悪い人間だとは思わないしグリーン自身有名人であることは自覚しているが、なんとなく一方的に知られているのは面白くない。
だが同時にどうしよもないことをグリーンは理解しているためため息をつくだけだった。
「ま、オレは天才だからな。有名でも仕方ねえか」
「事実なだけに、なんも言えん」
実際グリーンの才能は凄まじい。このトーナメントに出ていても確実にいいバトルができると断言できるほどの実力を持ち合わせている。
今のカイムなら多少食い下がることはできるだろうが、勝つことは相当厳しい。ほぼ不可能と言われても仕方ないほどグリーンは強い。
そしてそう自信たっぷりに話すグリーンは、最後に見た時と比べて雰囲気がかなり柔らかくなっていた。スズラン島で会った時はかなり刺々しい雰囲気であり余裕がないように思えたが、今のグリーンは年相応の少年のような雰囲気になっている。
「で?あんたがサポートする対象のトレーナーは?」
「部屋で回復中」
「…そうかい。会って礼を言いたかったんだがな」
グリーンにとって、あのシンオウリーグでシロナに負けたことは大きな意味があるものだった。自分を負かしてくれたこと、そして己にとって『ポケモンバトルとは何か』と問いかけてくれたこと。この二つが自身とポケモン達に大きな変革をもたらしたことの礼を言いたかった。
「そうか」
カイムもそれについてなんとなく把握しているが、わざわざ口にすることでもないと判断してそれ以上いうことはなかった。
代わりに別のことについてグリーンに問いかける。
「で?レッドは?」
現在ポケモントレーナーとしては恐らく最も関係の深いであろうグリーンがいるためレッドもいるだろうと思ったのだが、姿はない。
「あいつは売店。飲み物買ってくるってさ」
「そうか」
「そろそろ来るんじゃ…お、噂をすれば」
グリーンが視線を向けた先から赤い帽子を被った少年が歩いてくる。少年…レッドは肩に乗せたピカチュウを撫でながら歩いてきて、グリーンとその隣にいるカイムの姿を見て目を丸くした。
「よ。久しぶり、と言うべきか?レッド」
カイムが軽く手を上げてそう言うとレッドは僅かに頬を緩ませて頷いた。相変わらず無口だな、と内心で苦笑していると、カイムの言葉に違和感を感じたグリーンが話に入ってくる。
「久しぶり?お前ら知り合いなのか?」
グリーンは二人が知り合いであるなどと夢にも思っていなかった。そのため旧知の仲のような言い方をするカイムとそれに何の違和感もなく反応するレッドにそう聞いた。
「大した知り合いじゃない。顔見知り程度だ」
「その割に仲良さげだな」
「二、三回会っただけだが」
カイムが初めてレッドに出会ったのはタマムシシティだった。カイムは大学、レッドはジムチャレンジでタマムシシティを訪れており、その際偶然出会い、そして少しだけ関わりを持った。
「タマムシジムに挑んで、そのあとロケット団のアジトに乗り込もうとしてる時に会ったんだ」
カイムは近くにあった観客席の一つに腰掛けながらそう言った。レッドとグリーンもカイムと向き合うように通路の手すりに寄りかかる。
「は?じゃああんたもロケット団壊滅に一枚噛んでんのか?」
「全く関わってねえ。バイトに行く前と帰りにちょうどゲームコーナーの前で会ったんだ。まさかロケット団のアジトに乗り込む前だとは思わなくてな。帰りはボロボロになってたから何があったのか聞いたら、ロケット団のアジトを壊滅させたとさ。俺はほぼ事後報告聞いただけ」
ゲームコーナーからボロボロになりながら出てきたレッドに偶然バイト帰りのカイムが遭遇した。そんなボロボロの少年を見て基本お人好しであるカイムか放っておくことなどなかった。そのままタマムシシティを出ようとするレッドの首根っこを掴み、ポケモンセンターへと放り込んだ。
「タマムシシティではそこで終わり」
「ってことは…また別のところで会ったのか?」
「ああ。ヤマブキシティに用があって、その時に」
「ヤマブキシティ?ってことはまさか…シルフカンパニー事件の時か?」
シルフカンパニー事件。ロケット団がヤマブキシティのシルフカンパニー本社を占拠し、立て籠った事件であり、ここ最近の事件の中ではかなり有名な事件だった。
それを一人で解決したのが、他でもないレッドだ。たった一人でシルフカンパニーに乗り込み、そしてボスを含めた幹部達を全て薙ぎ倒し、シルフカンパニーとそこにいたポケモン達を救った。
「そうそれ。さすがにカントーの奴はよく知ってんな」
「まあな。オレは旅の途中だったが、その話はニュースでもやってたからよく知ってるよ」
「それもそうか。んで、俺が会ったのはまたしても乗り込む前と乗り込んでロケット団を潰した後だった」
レッドがポケモン達を蔑ろにするロケット団に怒り心頭状態でシルフカンパニーに乗り込んだその背中を見かけ、そして全てが終わった後に傷つきながら戻ってきたレッドの治療を施した。
ヤマブキシティに来ていたカイムは何やら騒がしい場所を見つけ、そこに行ってみると警察がシルフカンパニー本社を取り囲んでいた。そして入り口を封鎖しているのだが、その目を掻い潜って本社に入っていくレッドの後ろ姿を見てギョッとしたのは今でもよく思い出せる。
「警察が入り口囲んでんのにその目を掻い潜って中に入り込み、そのままロケット団潰してきてんの。規格外すぎんだろ」
「……そう聞くと、確かにすげえなお前」
呆れたように言うグリーンに対してレッドは年相応の少年のような笑みで頬をかいた。
最後に会った時から数年の時が経っているためレッドは身長も伸びており少し垢抜けたような印象だったが、まだまだ成人していない少年だった。バトル中は凄まじい覇気を纏い、年上の猛者達と互角以上の戦いを見せた少年とは別人のように見える。
「それでまた人知れず出てきたこいつはボロボロでな。さっさといこうとするのを無理矢理引き留めて最低限の治療してポケモンセンターに放り込んだ。それ以来は会ってねえ」
「へえ…お前、お人好しなんだな」
「だってよ。レッド」
「あんただよカイム」
「は?」
まさか自分が言われているとは思っていなかったカイムは思わず聞き返す。
「
「そうか?」
「普通、見ず知らずのガキが自分から首突っ込んでいったのを治療したりしねえよ」
「……そういうもんか?」
レッドに視線を向けてカイムは問いかけるが、当のレッドは苦笑して首を傾げるだけだった。
「まあいいや。とりあえずお前らの関係はわかったよ。奇妙な縁だな」
「そうだな。数年ぶりの再会だが、正直また会うとは思ってなかった」
カイムの言葉を肯定するようにレッドは頷いた。
「合縁奇縁ってな。ああそうだ。レッドに聞きてえことがあったんだ」
カイムの言葉にレッドは首をかしげる。これだけ色々話しているにも関わらず一言も言葉を発さないが、カイムもグリーンも特に気にせず話を進めていた。
「お前、カントーリーグ優勝したあとどこにいたんだ?」
レッドはカントーリーグ優勝後、色々な大会で姿を見せて優勝を収めていたが、ある時を境にぱったり姿を見せなくなった。そして今日姿を見せるまでどこでなにをしていたのか。それを知るのは恐らくグリーンだけだったが、本人が目の前にいるのだしこの際聞いてしまおうとカイムは考えた。
レッドはカイムの言葉を聞くと、タウンマップを取り出してある場所を指差した。今いるセキエイ高原のすぐ近くに聳え立つ山…シロガネ山をレッドは示した。
「ああ…やっぱ噂通りだったんだ」
「噂ってのは…レッドがシロガネ山で修行してるって話か」
「そうそれ。たまにそういう話聞いてたけど、やっぱマジだったんだな」
シロガネ山はポケモンのレベルも恐ろしく高いため基本立ち入りが禁止されている秘境だった。ポケモン達は厳しい自然の中で生き抜いた強力なポケモンしかおらず、並のトレーナーでは歯が立たない。四天王以上の実力を持つトレーナーならば登り切ることも可能だろうが、ルールの無いただの殺し合いに等しい環境下では四天王ですら足元を掬われかねない。それほど恐ろしい山故にポケモンリーグは余程のことがない限りシロガネ山への入山を禁止している。
そしてレッドはそんな所で修行していた。厳しい寒さと凶悪なポケモン達を相手にする環境に長い時間身を置くことで今まで持っていなかった強さとは別の強さを手に入れることができた。
「はは…規格外すぎんな」
「だよな。オレもさすがにやろうとは思えん」
命懸けで修行をする。その心意気は立派ではあるが、命をかけなければならないほどのものかと疑問ではある。
「グリーンは知ってたのか?」
「ああ。つかこいつ、オレが連絡しなかったらポケモンリーグからの連絡気づかなくてこの大会不参加扱いになるところだったんだぜ?」
「ええ…」
レッドは苦笑しながら頬をかいた。この様子を見る限りグリーンの言った言葉は本当らしい。
「修行に夢中になるのはいいけどよ、最低限連絡返せよな。おばさんも心配してんぞ」
「おばさん?」
「レッドの母親。オレとレッドは幼馴染だからな。多少は互いの家族のことも知ってんだよ」
「へえ。やっぱお前ら仲良いんだな」
「なっ⁈はあ⁈」
カイムの言葉にグリーンは僅かに顔を赤くしながらカイムに詰め寄るが、隣にいたレッドは笑顔で頷いた。
「仲良いとかじゃねえ。ただの腐れ縁だ!」
「でも友達なんだろ?」
「…それは、そうだが」
「なら仲良いじゃん」
カイムの言葉をこれ以上否定できず、グリーンは舌打ちをして腕を組んで押し黙る。そんなグリーンの様子を見てレッドとカイムは笑うのだった。
「なに笑ってんだよ」
「悪い悪い。素直じゃねえなって」
「うるせえ。ボコボコにすんぞ」
「勘弁してくれ」
むすっと表情を歪めるグリーンを見てレッドは笑いながら肩に手を置いた。
そんな二人の様子を見てカイムは僅かに表情を緩めるのだった。
ーーー
スタジアムに備え付けられたポケモンセンターに向けてシロナは一人歩いていた。カイムからの連絡ではもうポケモンの回復も終わっているとのことだったが、ポケモンセンターにカイムの姿はない。
今行われている大会には八人しか出場していないため、ポケモンセンターを使う人もいない。故にポケモンセンター自体がかなり閑散としていた。
「どこかしら」
ぐるりとポケモンセンターを見渡すがカイムの姿はない。
カイムにしては珍しく連絡がすぐに返ってこない。この辺りにいるのは間違いないはずだが、姿は見当たらない。
探すのも面倒だし電話をかけようとしたところで、シロナは緑色の帽子を被った少女がいることに気がつく。
(…あの子、どこかで)
なんとなくシロナはその少女に見覚えがあった。
ただどこで見たのかが思い出せない。カイムのことを聞くついでに名前を聞いてみようとシロナは考え、少女に声をかける。
「ねえ貴女。ちょっといいかしら」
「わたし、ですか?」
「ええ。貴女よ」
「大丈夫ですよ!どうしました?」
「えっと…黒髪でちょっと目つきが悪い無表情の男の人を見なかった?」
彼氏に対してなかなか酷い説明であるが、残念ながらこれは全て的確な表現であるためこの際仕方ない。内心でカイムに謝りながらシロナは目の前の少女にそう問いかけた。
「あ、もしかしてさっきグリーンといた人かな。それっぽい人、見かけましたよ!」
(…今ので伝わるんだ)
最近は比較的表情が豊かになってきてはいるのだが、それでも相変わらず無表情なのは変わりない。全く知らない人から見たらやはり無表情なのだろうとシロナは内心で苦笑する。
「どこにいるかわかる?」
「スタジアムの方にさっきいましたよ!」
「ありがとう」
「あ!あの!」
少女が示した方へ向けて歩き出そうとした時、少女はシロナを呼び止めた。どうしたのだろうとシロナが視線を向けると、少女は少し興奮したようにシロナに問いかけてきた。
「し、シロナさんですよね!今日の試合、すごかったです!」
「見てくれたのね。ありがとう」
「わたし、あんなにすごいバトル見たの初めてでした!他のチャンピオンのみなさんのバトルもとってもすごくて、でもその中でも今日の試合は見ててすっごく興奮しました!」
興奮気味に喋った少女は熱く語ってしまったことに気が付き顔を赤くして恥ずかしそうに縮こまった。
「ご、ごめんなさい…勝手に喋っちゃって」
「ふふ、気にしないで。バトルしてた身からしても、昨日のバトルも今日のバトルも私の全部を出し切ったバトルだったからそう言ってもらえるのは嬉しいわ」
「ありがとうございます…わたし、リーフっていいます。よろしくお願いします」
少女はリーフと名乗り、その名前にシロナは聞き覚えがあった。
「リーフ…もしかして、カントーリーグベスト8の?」
「え⁈あ、あたしのことしってるんですか⁈」
「貴女とレッド君、グリーン君のマサラタウン出身の三人は有名だもの」
トレーナー歴わずか一年でカントーリーグ本戦に出場できるというだけで異例だというのに、その中で数々の猛者を倒してベスト8まで昇り詰めるという功績を残した少年達。その三人全員がマサラタウン出身。これが有名にならないはずがない。
「わあ…嬉しいです!まさか自分が知ってもらえてるなんて思ってなかったので」
「貴女のバトル、とっても楽しそうにするから印象的だったの。ああいうバトルができるなんて素敵な才能だわ」
三人共全力でバトルに臨んでいるが、その全力のベクトルが三人共違うものだった。
例えばレッド。彼の全力は真剣にどう勝つかを考え抜き、ポケモン達と意志を一つにしてそれを全霊をもって実行していく全力。
例えばグリーン。彼の全力は冷徹に場をコントロールしその場の雰囲気や気持ちに左右されない勝つこと以外の全てを排除する全力。
例えばリーフ。彼女の全力はバトルをどうすれば楽しめるかを考え、相手と一緒に楽しんでいく全力。
トレーナーの数だけバトルとの向き合い方がある。どのやり方も正しい。ただその中でもシロナとリーフの楽しむというコンセプトが一番近い。多少方向性は異なるが、リーフのバトルスタイルはシロナとしては見ていて気持ちの良いものだった。
「嬉しいです。あのシロナさんにそう言ってもらえるなんて」
「ふふ。これからも貴女達の活躍、期待しているわ」
「頑張ります!いつかシロナさんともバトルしたいです!」
「私もよ。いつかやりましょう」
「はい!」
リーフの元気良い返事にシロナは笑顔になる。
そう二人で談笑していると、スタジアムの方から三人の人影が現れた。
その三人は少し高い青年を挟んで両サイドを同じ身長くらいの少年が挟んで何か談笑している。
「あ!レッド!グリーン!」
「ん?おう、リーフか」
「………」
少年の二人はレッドとグリーンというリーフと同じマサラタウン出身の二人であり、その間に挟まれる青年はシロナがよく知る人だった。
「カイム」
「悪いシロナ。探させたか」
「ええ。でも大丈夫よ。レッド君とグリーン君といたのね」
「ああ。偶然会ってな」
思いの外仲良さげにしていたことは少々意外ではあったが、何事もなかったことにシロナは安堵する。
「リーフ、シロナさんといたんだな」
「うん。その…お隣にいる人のことを探していて」
「ああ、
グリーンは平然と隣にいるカイムのことを指さしながら言った。
「俺、一応年上なんだが」
「なら尊敬されるようなことしろよ」
「やっべなんも言えん」
少なくともポケモントレーナーとしての実績はグリーンの方が遥かに上だ。トレーナーとしてグリーンから尊敬されるようなことはカイムは成していない。
「調整の相手してやったりしたし、ちょっとくらい敬意持ってくれてもいいんじゃねえの?」
「親しみを込めてやってんだよ」
「嘘つけこの野郎」
カイムは苦笑しながらグリーンの額を小突く。グリーンは笑いながらカイムの胸板に軽く手の甲をぶつける。まるで友人のようなやり取りをする二人を見てシロナはグリーンの雰囲気がシンオウリーグでバトルした時と比べてかなり柔らかくなったことを感じ取った。
「前と雰囲気変わったわね、グリーン君」
「…あれから色々見てきたんですよ。オレに足りなかったもの、オレが捨てるべきだったものも」
グリーンにとって何が必要で何が不要だったのかシロナはわからない。しかしこの変化は確実にグリーンを成長に導いている。それだけはシロナにもわかった。
「まだあの時の答えは出てません。でも、見つかるまでオレはもう足を止めない。
「そう。貴方の答えが出た後、またバトルしましょう」
「お願いします」
シロナはグリーンの真剣な表情を見て微笑む。
そしてグリーンの隣にいる少年、レッドに目を向けた。
「レッド君。ここまでのバトル、見事だったわ」
「……」
レッドは無言で頷く。その顔からは『貴女もすごかった』といった感情が浮かんでいるのがわかる。
「明日のバトル、楽しみましょう」
シロナの言葉にレッドは力強く頷く。
互いに強い覇気をぶつけ合いながら一瞬だけ沈黙が流れる。だがシロナはすぐに覇気を解いて小さく笑った。
「じゃ、またね。カイム、行きましょ」
「ああ。またな、お前ら」
「また会いましょう!」
シロナは笑顔で3人に手を振ると、カイムを率いてその場から去った。
「いいなーレッド。シロナさんとバトルできるなんて」
「オレは一度したけどな」
「負けたんでしょ?」
「うるせえ!次はぜってー負けないからな!」
わいわいと騒ぎ始めたグリーンとリーフを宥めながらレッドは次のバトル、今までと同じくらい厳しいものになることを確信していた。
その予感がよりレッドの闘志を燃え上がらせ、炎のようにゆらめく闘志を胸に明日のバトルへと思いを馳せるのだった。
ーーー
調整を終えて食事を済ませたシロナとカイムは宿泊先の部屋へと戻ってきた。
「ふう…」
ベッドに倒れ込んだシロナは疲れたように息を吐く。
「疲れてんのはわかるが、その服で寝るな。シワになる」
「わかってるわよお母さん」
「誰がお母さんだ」
カイムの小言を笑いながらシロナは返し、その後特に歯向かうこともなく笑いながら着替えを持ってバスルームへと入っていった。
程なくしてシャワーの音が聞こえてくる。カイムはボールから勝手に出てきたブラッキーを抱き上げると膝に乗せ、顎を指で撫でた。ブラッキーは気持ちよさそうにされるがままになっており、身体をカイムに預けて甘えたような声を出している。
ふとカイムは机に置いてあるタブレット端末に目を向ける。ロックを解除して中を見ると、レッドの戦闘データが記されていた。
「…目立った弱点は無し。強いて言うなら格闘タイプに若干弱いくらいか?」
レッドはピカチュウ、リザードン、カメックス、フシギバナ、カビゴンをほぼ固定枠として使っており、最後の一枠にエーフィかラプラスを入れていた。ラプラスをいれた場合耐久力の高いカビゴンとラプラスは格闘タイプの弱点を突かれてしまい長所である耐久力を活かすことができない。
しかしそれの対策としてリザードンやエーフィを加入させることでその弱点を埋めることができる。他のチャンピオン達もそうだが、レッドも弱点らしい弱点はない。
(…俺ならどうする?)
自分が相手にした場合どうするかを考える。正直、純粋なレベル差が大きすぎるため相手にならないというのが本当のところだが、数値を無視したシミュレーションは可能だ。
(…ブラッキーが弱点を突かれる対面は無い。カメックスが『きあいだま』を持っているからそれくらいか?メタグロスやルカリオはリザードンに注意しなきゃな。ああでもカビゴンが『かみくだく』があるな。改めて見るとマジで隙ねえな…)
それからしばらく色々とバトルの算段を立ててみたが、カイムのシミュレーションでは悉く敗北で終わった。そもそも勝てる可能性などほぼないに等しいのだが。
「なにしてるの?」
ふわりと石鹸の匂いがカイムの鼻腔を満たした。
視線をずらすと、髪が少しまだ濡れているシロナが後ろからカイムのことを抱きしめてカイムの手元に視線を向けていた。
「レッドのデータ見て俺ならどうするか考えてた」
「あら、いいわね。どう?いいところまでいくシミュレーションはできた?」
「…俺じゃ、さすがに厳しい。数値を無視したとしても、勝つには至らねえ。レッドの戦術の幅や対応力が高すぎて運ゲーに持ち込むことすらできん。マジで強えよレッド」
「データだけでそれだけレッド君の実力が理解できているのはトレーナーとして実力が上がった証拠よ。そこは誇っていいわ」
相手の数値ではなく、戦略や手法、癖を理解した上で勝てないと断言する。これは一定以上の実力を持つトレーナーにしかできない。かつてのカイムであれば間違いなく数値のみで諦めるという選択だっただろうが、そうではなくレッドの戦略に目を向けた状態で勝てないと言った。
弟子の確かな成長を実感し、シロナは少し嬉しくなる。嬉しそうに笑うシロナの方をカイムが見ると、顔を顰めた。
「おい、髪濡れてんぞ」
「乾かしてくれる?」
「へーへー、わーったよ」
ぶつくさ言いながらもカイムは立ち上がり、膝にいたブラッキーをシロナに渡す。シロナはブラッキーを撫でながら椅子に腰掛け、ドライヤーから出る熱い風を感じていた。
「明日はどうなると思う?」
シロナの問いかけに一瞬カイムは手が止まる。
しかしすぐに再起動するとタオルとドライヤーでシロナの長い髪を乾かしていく。
「…数値のみを見れば、若干だがシロナの方が不利だと思う。向こうの平均レベルはシロナより若干上だし、タイプのバランスもかなりいい。シロナもタイプバランスはいいし数値もほとんど変わらないが、レッド自身のポテンシャルを考慮すると、若干不利に思える」
「そうね。その通りだと思うわ」
レッドの平均レベルはシロナのそれを僅かだが上回る。タイプの幅広さに関しては二人ともであるため差になるようなものはないが、卓越したトレーナー同士のバトル故にこの僅かなレベル差が勝敗を分ける可能性もある。
そして互いの切り札である『メガシンカ』。この切り札の熟練度がレッドとシロナではかなり違う。シロナも既にメガシンカを考慮したバトルをチャンピオンレベルを相手にできるくらいのものにしており、付け焼き刃ではなくちゃんとした戦術として扱えている。
だがこれはあくまでシロナ自身の腕前が高いから成り立っているに過ぎない。メガシンカをシロナよりも長く扱ってきたレッドはメガシンカを使ったバトルは正直シロナよりも一枚上手である。
「私のメガシンカを使ったバトルは、レッド君と比べて熟練度が低い。彼みたいにメガシンカを使ったバトルにおいて強さの幅がまだ私にはない。私自身がその部分において劣っていることはわかるわ」
「…まあ、そうだな」
「でもね、だからこそより燃えるわ。今までのバトルも、敗色濃厚な相手に挑んでこそ、ポケモン達のポテンシャルを引き出すことができる。強者と相対し、逆境に挑むことがよりポケモン達を成長させる。バトルの中で私達がどこまで強くなれるか…とても楽しみだわ」
強者と相対してこそ、秘められた力をより引き出せる。今までの経験からシロナはそう確信していた。実際ダイゴやダンデとバトルした際にはポケモン達は数値以上の働きをしており、相手も同じように数値以上の動きをしてきた。それによりどこまで互いを高められるか。無論勝つことに全力を費やすが、それ以上にバトルを通して自分とレッドがどこまで強くなれるかがシロナは楽しみだった。
「…楽しみなのは結構だが、ちゃんとこの後すぐに休めよ」
「ええ。わかってるわ」
「ならいいが。ほれ、終わったぞ」
カイムはドライヤーのスイッチを切り、タオルを畳んで所定の位置に戻した。
シロナの髪は綺麗に乾かされており、ドライヤーの熱が少しだけ残っている。その熱が少しだけ心地よく感じられた。
「あとはマッサージするからベッドにうつ伏せになれ」
「お願いね」
シロナはブラッキーを下ろすとベッドにうつ伏せに寝転んでカイムに背中を向けた。
「始めるぞ」
そう言ってカイムはシロナの背中をマッサージしていく。疲れと寒さからか全体的に筋肉は凝っており硬い。いくら楽しめたとはいえ、全力のバトルは相当な疲労感を伴う。それを少しでも軽減するためのマッサージを進めていく。
「…やっぱ疲れてんな」
「まあ、ね…全力を出し切れば疲れるわよ」
カイムのマッサージは優しい。もう少し痛いものかと思っていたが、昨日のマッサージも優しく行ってくれていた。
「カイム」
「ん?」
「もう少し強くてもいいわよ?多少痛くても即効性のあるやつの方がいいんじゃない?」
シロナとしては痛いよりは優しい方がいいが、即効性を考慮するのであれば多少痛くても問題ない。そう考えての申し出だったが、カイムはそれを否定した。
「マッサージやストレッチの極意は待つこと。無理のない範囲で継続してやることが一番即効性がある」
「そういうものなの?」
シロナからしたら多少痛くとも即効性の高いものがあるのではないかと思ってしまうが、カイムはそれを見越して続ける。
「消耗することより回復することの方が遥かに時間が必要だ。だから本当の意味で即効性のあるマッサージやストレッチはない。表面上回復したように思うことも多々あるが、結局根本的に疲れや歪みが回復しないとすぐに悪くなる。だからみんな整体とかに継続して通うんだ。一回で治るなら医者も治してるしな」
「…詳しいわね」
「サポーターやるって決めてから色々と勉強したからな。マッサージやストレッチはあくまで回復のきっかけを作ったり、回復を促進するものだ。結局は本人の自己回復力が必要となる。だからマッサージやストレッチでその回復力を促進して、回復しやすいようにする」
勉強は得意でな、と付け加えながらカイムはマッサージを続けていく。ここまでやってくれるサポーターもそういないだろう。いい人を見つけたなぁ、と内心で嬉しく思いながらシロナはカイムのマッサージを受け続けた。
しばらくしてカイムが手を離す。
「終わったぞ」
「ありがとう」
施術を受けたシロナは起き上がり、身体を伸ばす。なんとなくだが、全身の血流が良くなったように思えるし、感じていた疲労感が少し軽減されている感じがあった。
「昨日と同じ睡眠の質を上げるマッサージと、全身の血流を良くする普通のマッサージをした。あとはちゃんと寝て回復することだな」
「ええ。明日は別に早くないけど、そろそろ寝ましょうか」
「ああ。ブラッキー、おいで」
カイムはベッドに腰掛けながらブラッキーを呼ぶ。呼ばれたブラッキーはベッドに飛び乗ってカイムの膝に乗った。
「一緒に寝るの?」
「あんま構ってやれてねえからな」
シロナとの調整は好戦的なバシャーモとルカリオが相手をすることが多い。ブラッキーもバトルは好きだが、バシャーモとルカリオほどではない。そのためやりたがっている二人に機会を譲ることが多く、今日の調整も二人に譲っていた。そのためあまりブラッキーに構ってやれてないことがカイムの中で少し気がかりだった。あまりにも放置されてると拗ねてしまう。
「昔から変わらん。ずっと甘えん坊でな」
カイムの膝で楽しそうに尻尾を揺らすブラッキーの頭を撫でながら言う。そんな二人を見て、シロナも頬を緩めた。
「ねえカイム」
「ん?」
「私も一緒に寝たいわ」
シロナの言葉にカイムは少しだけ固まる。
一緒に寝ること自体は普段からしているため抵抗はないが、この宿泊先のベッドはシングルサイズであるため二人で寝るには少し小さい。明日は大事な試合でもあるため、この睡眠の質はとても大切になる。そのため自分と寝ることで睡眠の質が下がることをカイムは懸念した。
「シングルに二人は狭くね?」
「嫌なの?」
「嫌…じゃ、ないけど…」
実際睡眠の質云々は置いておくとしても、シングルに二人は狭い。カイム自身成人男性の平均くらいの体格はあるし、シロナも女性の中では身長も高い。普段のベッドではなく宿泊先のベッドでは狭いのではないかとカイムは考えていた。
「だめかしら?」
シロナはカイムの膝にいたブラッキーを抱き抱える。そしてシロナとブラッキーは『一緒に寝たい』という思いを込めた視線をカイムに向けた。
カイムはその視線を向けられて小さくため息を吐くと、シロナに向けて手を差し出した。
「いいよ。来い」
差し出された手を取り、シロナはカイムと共に同じ布団に潜り込む。
「んふふ〜」
「上機嫌だな」
「ええ。貴方がいるもの」
「………」
目の前に最愛の人がいる。それだけでシロナにとっては癒しになる。ここ数日はトレーナーとサポーターとして関わることが多かったため、この瞬間だけでも恋人として過ごしたかった。
「くっつけば、まあ寝られんこともないか」
「寝られるわ。貴方がいるだけで、私は落ち着けるのだもの」
「そらありがたいね」
二人に挟まれているブラッキーは既にあくびをして寝る状態になっていた。そんなブラッキーの様子を見て、二人は小さく笑う。
「明日が楽しみね」
「最高のバトルを期待してる」
「ええ。魅せてあげるわ」
カイムの腕を首と布団の間に通し腕枕状態でカイムの腕を固定する。少々窮屈だが、カイム自身特に何もいうことはせずに大人しく目を閉じた。
シロナも目を閉じ、互いの息遣いだけが聞こえるこの時間を愛おしく思いながら次第に微睡みの中に意識は落ちていった。
*
翌日
シロナは長い髪をカイムにとかしてもらっていた。
「さっきスタジアム見てきたんだが、すごかったぞ」
「やっぱり?」
「ああ。満員で設置されているカメラの数も今までよりも多かった」
カイムが見てきたスタジアムにいた観客達はすでにボルテージが上がり始めていた。それほどまでにこのトーナメントの注目度が高いということであり、世界的にも注目を集めていることがわかる。中には他の地方の四天王やジムリーダーも見に来ているという話もあった。
「みんながシロナとレッドのバトルに注目している。世界一を決めるってわけではないが、チャンピオンを集めて開かれた大会なんて注目されないわけがないしな」
「そうよね。みんな気になるわよね」
「緊張するか?」
いくら大会慣れしているとはいえ、ここまで注目を集めた状態でのバトルはシロナといえども経験はないはずだ。シロナが緊張していたとしてもなんら不思議ではない。
「してるわ」
「…そうか」
さすがのシロナといえども緊張していた。ここまで注目の集まるバトルは経験がなく、しかも相手はあのレッド。緊張がシロナの手を震えさせ心臓の鼓動をより大きく聞こえさせていた。
だが緊張と同時に別の感情もあった。
「でもね、同時に楽しみでもあるの。こんなすごい大会であんなにすごい人達を相手に貴方と戦えたことが嬉しくて、それに最後の決勝戦まで来ることができた。今までの二戦とはまた違った楽しさを感じられるバトルになるはずだから、それを貴方と一緒に体感できることが楽しみで仕方ないわ」
シロナの言葉の節々から興奮が滲み出ている。チャンピオンとして挑戦者を受け止めていたシロナではなく、今から始まるバトルには一人のトレーナーとして挑むことができる。その事実がシロナのトレーナーとしての魂を燃え上がらせていた。
「勝ちたいな」
「珍しいな。勝ちたいって口にするのは」
「貴方と一緒に頂点に立って、貴方と頂の景色を見たいの。貴方と一緒に、貴方の目に映る景色をこの目に焼き付けたい。そんな思いもあるの」
「…そうか。俺としちゃシロナが楽しめるならなんでもいい」
「ふふ、そうね。貴方はそういうわよね」
勝ってみせる。そう言い切ることかできないくらいダイゴもダンデもレッドも強い。全霊をかけて戦う。そう言うことしかできない。
だが敗色が濃厚だろうが薄かろうが、自身よりも強い才能を持ち、そしてそれにのみ没頭してきた伝説とも呼ばれる少年を相手に『勝ちたい』という思いが湧き上がっていた。
そして仮に勝てても勝てなくても『楽しかった』と心から言える。そう確信している戦いにこれから赴くシロナからは覇気が絶え間なく発せられていた。
「ねえカイム」
「ん?」
「これ、また着けてくれない?」
そう言ってシロナは一つのケースをカイムに手渡した。
そのケースは、かつてエンジュシティでカイムがシロナに贈った簪が納められているケースだった。
「これか」
「貴方と一緒に戦うって実感したいの。いい?」
「喜んで」
カイムはヘアゴムを指に引っ掛けると、シロナの髪を器用に纏めて簪をつけた。
「どうだ?」
カイムは鏡を見るシロナに尋ねる。聞かれたシロナは小さく微笑んでカイムに言った。
「素敵。ありがとう」
「ああ」
シロナは立ち上がると、ハンガーにかけられたジャケットを手に取って羽織った。
「行きましょう」
シロナが差し出した手をカイムは取り、頷いた。
ーーー
熱気に包まれるスタジアムにスピーカーから声が響く。
『皆様、大変長らくお待たせしました!たった今から、チャンピオンズトーナメントの決勝戦を始めます!』
実況の声に観客達は大いに賑わう。ここにいる人々だけでなく、全世界でこの大会は報道されている。全世界が見守る中、最後のバトルが始まろうとしていた。
『チャンピオンズトーナメント決勝戦!相対するのはこの二人!シンオウ地方チャンピオンシロナと、リビングレジェンドレッド!』
実況の声が響くのを聞くとシロナはカイムに向き直る。
そしてシロナはカイムを優しく抱きしめ、カイムもそれに応えた。
「一緒に戦ってくれる?」
「シロナの隣にいる。楽しんでこい」
「ありがとう。いってくるわね」
シロナは普段のロングコートではなく、黒いジャケットを翻してゲートを進んでいった。
ゲートを出ると、割れるような歓声がシロナを包んだ。そして対面するゲートに視線を向けると、赤いロングベストを黒いインナーの上から羽織った少年、レッドが真剣な表情でこちらを見ていた。
(…フィールドを挟んでこの覇気。十代の少年とは思えないわね)
レッドから発せられる覇気は、今まで戦ってきた誰よりも強い覇気だった。それこそゲートで待つカイムにもその覇気が伝わるほどの強さをであった。
(……才能は姉貴レベルか)
あり得たかもしれないイサナの姿。カイムにとって強さの象徴であった姉と同等以上の才能を持った少年を見て、思わず身震いする。これほどの覇気は親友であるダイゴですら感じたことない。レジェンドと呼ばれる所以がよくわかる。
「多く語る必要はないわね。貴方とのバトル、楽しみにしていたわ」
レッドは無言で頷き、ボールをシロナに向けて突き出す。
シロナもそんなレッドを見てホルダーからボールを手に取った。
「………言葉は不要」
レッドが発した言葉にシロナは僅かに目を見開く。あの無口なレッドが言葉を発したということにシロナは驚愕するが、その言葉の真意を汲み取った。
自分達が言葉で語る必要はない。
相棒達を通して互いのことを知れる。
貴女のことを、教えてほしい。
全霊を持って、それに応えることが自分の望みだ。
わざわざ言わなくとも伝わる強者だけができるコミュニケーション。シロナはその言葉に口角を上げた。
「そうね。始めましょう!」
「……」
レッドは頷きボールを構え、シロナもボールを構えた。
『チャンピオンズトーナメント決勝戦!バトル開始!』
審判の声と共に二人はフィールドに向けてボールを投げた。
「お願い!ミカルゲ!」
シロナはミカルゲを繰り出し、レッドはピカチュウを繰り出した。
ピカチュウ。種族値も他のポケモンと比較すると低くあまり強いポケモンには思われていない。しかしレッドのピカチュウは違う。技術、技、判断力などあらゆる分野が最高レベルにまとまっているだけではない。なによりも脅威なのはそのレベルの高さ。
ピカチュウのレベル、脅威のLv.93。
シロナのエースであるガブリアスのLv.88を超えるレベルの高さ。ピカチュウ自身の技量もさることながら、このレベルの高さは過去にほとんど事例がない。そこの領域に到達するまでに絶え間ない修行をしてきたことがそれだけでわかる。
「強敵よミカルゲ!初めから飛ばしていくわよ!あくのはどう!」
「10まんボルト!」
ミカルゲの発した『あくのはどう』とピカチュウの『10まんボルト』がぶつかり合い爆発する。
その爆煙から黄色い影が飛び出し、ミカルゲに肉薄した。
「ボルテッカー!」
『10まんボルト』を纏ったまま突撃する技、『ボルテッカー』。レッドのピカチュウが編み出した強力な物理電気技であり、その威力は『フレアドライブ』に匹敵する。
あまりにも早い技の切り替えに並のトレーナーなら何が起こったのかすらわからないだろう。
「ミカルゲ!」
しかしシロナはシンオウ地方最強のトレーナー。レッドが『この程度』やってくることくらい理解している。
シロナの掛け声と同時にミカルゲは『あくのはどう』を放つことで背後に飛んだ。『あくのはどう』の攻撃と背後に飛んだことによって『ボルテッカー』の威力を格段に削ぐ。
「………」
だがレッドもこのくらいは想定していた。むしろ対応されない方がレッドにとっては予想外だっただろうが、無駄なダメージを受ける余裕など両者共にない。
「でんこうせっか!」
「わるだくみよ!」
ピカチュウは高速でその場を離れ距離を取る。『でんこうせっか』はノーマルタイプであるためミカルゲには無効。しかしピカチュウはシロナのルカリオのように『でんこうせっか』を推進力として扱うことが可能であるだけでなく、特殊な歩行技術と速度によって疑似的な『かげぶんしん』を使うことも可能。
ピカチュウの分身がミカルゲの周囲で現れては消えるを繰り返す。その分身にミカルゲは翻弄されそうになるが、その中にいる本物のピカチュウの姿を目の端で捉えた。
「あくのはどう!」
一点集中型ではなく、ミカルゲを中心に波紋のように悪タイプの波導が広がる。拡散された波導はピカチュウを捉え、ダメージを与えた。
「アイアンテール!」
だがピカチュウはそのダメージをものともせず硬化させた尻尾をミカルゲに叩きつける。攻撃直後のミカルゲは回避できずに直撃を受けた。耐久力の高いミカルゲでも大きなダメージを受けてしまう。
「地面にあくのはどう!」
ミカルゲは地面に向けて『あくのはどう』を放ち、周囲に土煙を充満させた。その土煙はピカチュウの視界を奪い、それと同時にミカルゲは気配を消した。
「!」
先のバトルでダンデ相手にフェイントを仕掛けた戦法。確かに強力な不意打ちにはなるが、一度ダンデ戦で見ているため直接仕掛けて来ようがフェイントから仕掛けて来ようが対応できる自信があった。
砂煙の中から影が飛び出してくる。ピカチュウはその影に対して硬化した尻尾をぶつけるが、ピカチュウが攻撃したのはミカルゲの『たたりめ』だった。
だがこれは想定内。故にピカチュウもレッドも動じず、背後から迫ってきた気配に向けて続け様に『アイアンテール』をぶつけた。
しかし手応えがなかった。ピカチュウが攻撃したのは青白い炎のようなものであり、それを見た瞬間それがなんなのかを理解したが、気がついた時には手遅れだった。
焼け付くような痛みをピカチュウは感じ、思わず顔を顰める。強烈な火傷がピカチュウの体力を削っていく。
「………」
ミカルゲは砂煙を出した場所からほとんど動いていなかった。ダンデ戦のように近づいて確実にダメージを与えるのではなく、動かないことで気配を最小限に抑えカウンターを受けるリスクを減らした上で『おにび』によって火傷を与えることを目的としていた。
火傷は物理攻撃の威力を半減させる状態異常。『ボルテッカー』や『アイアンテール』のような物理攻撃はこれで威力が半減させられた。
「たたりめ!」
「10まんボルト!」
威力が上昇した『たたりめ』と『10まんボルト』がぶつかり合う。威力が上がっているにもかかわらず、互いの技は相殺された。
「アイアンテール!」
硬化した尻尾がミカルゲに叩きつけられるが、火傷により威力の下がった『アイアンテール』では耐久力の高いミカルゲを落としきれない。
ミカルゲは『アイアンテール』を受けてなお反撃に出た。
「たたりめ!」
ピカチュウは火傷により威力が上昇している。『わるだくみ』を積んだ状態のミカルゲの攻撃では耐久力の低いピカチュウは耐えきれない。
この距離であればまず避けられない。例えピカチュウが『でんこうせっか』で機動力を上げたとしても避けられるほどの隙はない。それを瞬時に察知したレッドは攻撃する選択肢を取った。
「ボルテッカー!」
攻撃直後でありながら即座に強力な電気を全身に纏ったピカチュウは迫り来る『たたりめ』を『ボルテッカー』で貫きミカルゲに突撃した。
凄まじい早業だが、速度意識の『ボルテッカー』であるため纏った電気は全力と比較して弱い。そのため威力も十全ではなく『たたりめ』を貫通してミカルゲに与えたダメージはごく僅か。
しかし同時にピカチュウが反動によって受けるダメージもほぼない。ミカルゲの攻撃を受けるよりも『ボルテッカー』で貫通することでダメージを抑えるという選択をこの一瞬で決断したことにシロナは内心で称賛を送った。そう思うほどレッドの選択は早く、ピカチュウもレッドの意志に即座に応えた。同じトレーナーとしてここまで一心同体に近い動きができるのは尊敬に値するからだ。
「あくのはどう!」
「アイアンテール!」
ミカルゲの攻撃をピカチュウは『アイアンテール』で軌道を逸らす。そしてそのまま巧みな体運びでミカルゲの攻撃を回避しながらミカルゲに肉薄する。
「10まんボルト!」
「たたりめ!」
ピカチュウの全身から発せられた電撃がミカルゲの『たたりめ』を突き破ってミカルゲに直撃した。本来なら相殺されるところだが、ピカチュウは『たたりめ』に対して電撃を一点に集中させることで威力をほとんど軽減させずにミカルゲに直撃させた。
だが同時に相殺しなかったことによりピカチュウは『たたりめ』を無効化できずダメージを受けた。しかし纏った電撃の一部を肉体に留めていたため、『たたりめ』のダメージを軽減した。
(恐ろしいほどの技術ね…!)
一つの行動で役割を複数こなす。これほど高度な動きができるポケモンは歴代のトレーナー達を見ても片手で数えられる程しかいないだろう。
ダメージを受け、体力が減ったためミカルゲは持たせられていたオボンのみを口にする。ミカルゲはオボンのみを食べたことにより体力が回復した。
「でんこうせっか!」
ピカチュウが高速でフィールドを動き回る。先ほどのように擬似的な『かげぶんしん』はせず、純粋にスピードのみでミカルゲを撹乱しにかかる。
「あくのはどう!」
「10まんボルト!」
ミカルゲが全方位に『あくのはどう』を放った瞬間、ピカチュウは飛んでそれを回避し、電撃をミカルゲに放った。
直撃を受け、大きなダメージをミカルゲは受けたがオボンのみによる回復のおかげで耐えることができた。
だがピカチュウは元々耐久力の高いポケモンではない。いくらレベルが高くなろうともそれは変わらない。火傷によるダメージも相まって体力がかなり削られてきていた。
これ以上ミカルゲとのバトルを長引かせることは危険だと判断したレッドは即座にミカルゲにトドメを刺しにかかった。
だがシロナもそうくるだろうことを予期し、反撃の判断を取った。
「たたりめ!」
「ボルテッカー!」
ゴーストタイプの力がピカチュウに襲い掛かると同時にピカチュウは全身から電気を発してゴーストタイプの力を打ち払った。その電気を纏ったままミカルゲに突撃し、ミカルゲは大きく吹き飛ばされた。
「ミカルゲ!」
フィールドを転がったミカルゲは目を回して倒れていた。
『ミカルゲ戦闘不能!』
先手を取られたのはシロナだった。シロナのミカルゲの耐久力を火傷を負いながらもピカチュウは押し切った。
「お疲れ様ミカルゲ。ありがとう」
ミカルゲに労いの言葉をかけながらシロナはボールに戻した。
そして次のポケモンを手に取る。
「お願い!トリトドン!」
シロナが選出したのはトリトドン。地面タイプ複合であるため、電気タイプの技が効かない。ピカチュウ相手にはかなり的確な選出と言えるだろう。
「………」
「トリトドン!だいちのちから!」
トリトドンは地面タイプの力をピカチュウに向けて放つ。地面から力が噴出し、ピカチュウに向かって迫る。
「アイアンテール!」
ピカチュウは地面に向けて『アイアンテール』を放ち、通常よりも高く飛ぶ。それにより直撃を避け、余波のみのダメージに抑えた。
「………」
そして飛んだピカチュウをレッドはボールに戻した。バトル中の交換は認められているし相手次第では交換することが必要な手段となる。しかし出した一瞬、隙が生まれてしまう。
だが地面タイプを持つトリトドンが相手ではピカチュウは厳しい。故にレッドの交代は最善といえるだろう。
(誰が来るかしら)
相性を考えればフシギバナが妥当だろう。トリトドンの特性は『よびみず』であるためカメックスが出張ることもないし、リザードンもないだろう。そうなると選択肢はラプラス、カビゴン、エーフィ、フシギバナあたりだろうかとシロナはあたりをつけた。
そしてレッドが繰り出したのは、エーフィだった。
(エーフィ…広い技範囲があるからガブリアスの相手もできる。特攻も高いから一致サイコキネシスが強力なポケモンね)
ブラッキーと対をなすポケモン、エーフィ。素早さと特攻が高いため、受けに回れば一瞬でやられてしまう。
「いくわよトリトドン!ねっとう!」
「マジカルシャイン!」
互いの技がぶつかり合うが、タイプ一致で威力の上がっている『ねっとう』が『マジカルシャイン』を僅かに貫通し、エーフィに当たる。しかしエーフィはあたる直前に『めいそう』を積むことで特防を上げ、ダメージを抑えた。
「くさむすび!」
「地面にれいとうビーム!」
エーフィが『くさむすび』で攻撃を仕掛けてきた瞬間、それを予期していたシロナは『れいとうビーム』によって地面を凍り付かせ『くさむすび』の発生を防いだ。
「だいちのちから!」
地面から力が噴き出し、エーフィに迫る。しかしエーフィは素早い動きで『だいちのちから』を回避した。
(巧い!)
ピカチュウの『でんこうせっか』ほどの速度は無いが、『だいちのちから』の有効範囲から逃れた。速度以上にエーフィの巧さが現れた動きにシロナは思わず内心で叫ぶ。
だがシロナも負けていない。回避されることくらいは予測していたシロナは即座に次の行動に移る。
「れいとうビーム!」
「サイコキネシス!」
シロナは『れいとうビーム』でエーフィの足を奪おうとするが、レッドもそうはさせないと『サイコキネシス』で岩石を動かし、氷のビームの軌道を逸らさせる。
「ねっとう!」
続け様にトリトドンは『ねっとう』をエーフィに向けて放った。『サイコキネシス』発動直後で相手の技の軌道を逸らすことに集中していたエーフィは回避が遅れ、直撃を受けてしまう。
幸い火傷になることはなかったし『めいそう』によって特防が上がっていたためダメージは思いの外少ないが、エーフィ自身耐久力が高いわけではない。故にそう何度も受けられる余裕はなかった。
「マジカルシャイン!」
広範囲に放たれたフェアリータイプの光がトリトドンを襲う。ダメージはあるが、トリトドンは『だいちのちから』で発生した岩石を盾にうまく直撃を回避した。
「ねっとう!」
「サイコキネシス!」
高温の水と強力な念力がぶつかり合う。互いの技は相殺され、無効化されるが次の瞬間エーフィはトリトドンの眼前まで迫ってきていた。
「速っ⁈」
「エーフィ!」
「だいちのちから!」
咄嗟にカウンターの攻撃を仕掛けるが、エーフィはトリトドンの『だいちのちから』が下から炸裂した瞬間、炸裂した勢いを使って飛んだ。勢いよく上に飛んだためトリトドンはエーフィが一瞬で視界から消えたことに身体が硬直してしまう。
「くさむすび!」
ダメージを受けながらもトリトドンの視界から消えたエーフィはトリトドンの真上から背後に着地すると同時に隙だらけのトリトドンに向けて『くさむすび』を決めた。
トリトドンは水・地面の複合タイプ。故に草タイプの『くさむすび』は4倍のダメージが入る。加えてエーフィは『めいそう』によって特攻も上昇しているため、比較的耐久力の高いトリトドンでも耐えられるはずがない。
通常ならば。
「トリトドン!」
「!」
トドメを刺したと普通のトレーナーならここで気を抜いていただろうが、レッドはトリトドンが耐える可能性も考えていたため即座にエーフィに距離を取らせることを指示した。
しかしそれでも遅かった。いや、この場合シロナが上手だったと言えるだろう。エーフィが下がることも想定した上で、このタイミングをシロナは待っていた。
「ミラーコート!」
作り出した鏡のような光の壁が弾けると、トリトドンが受けたダメージの倍のダメージをエーフィに与えた。
「!」
与えたダメージの倍を受けたエーフィは思わずよろめく。一度ダメージを受けていたエーフィはこの『ミラーコート』によって満身創痍に陥ってしまう。
レッドはそこでトリトドンの足元に転がる役目を終えた木の実の存在に気がついた。緑色のきのみ…『リンドのみ』がトリトドンのダメージを抑え、トリトドンをギリギリ踏みとどまらせた。加えて大きなダメージを受けたことによって『ミラーコート』で大きなダメージをエーフィに与えられた。
「マジカルシャイン!」
「ねっとう!」
再び互いの技がぶつかり合い、相殺する。その瞬間エーフィは飛んでトリトドンの頭上に迫った。
しかしトリトドンも同じ轍は踏まない。頭上に迫ってきたエーフィに対して狙いを定めた。
「れいとうビーム!」
落下するしかないエーフィに向けてトリトドンは『れいとうビーム』を放つ。放たれたビームは真っ直ぐエーフィに飛んでいくが、エーフィは自身に『サイコキネシス』をかけて空中で身体を動かして『れいとうビーム』を回避した。
「サイコキネシス!」
そして自身にかけられた念力をそのままトリトドンに向けて放つ。トリトドンは回避できず、その攻撃をそのまま受けてしまうが、力尽きる前に最後の攻撃をエーフィに向けて放った。
「ねっとう!」
熱された水はエーフィに直撃し、大きなダメージを与えた。
両者共に体力はギリギリの所で保っていたため、互いの攻撃が直撃した二体はその場に崩れ落ちた。
『トリトドン、エーフィ!両者共に戦闘不能!』
結果は相打ち。両ポケモン共に出せる全ての力を出し切ってのバトルにまだ二体目ながら観客達は大いに拍手と歓声を送った。
「お疲れ様トリトドン。ありがとう、いい動きだったわ」
トリトドンをボールに戻し、シロナは労いの言葉をかける。レッドもエーフィをボールに戻して、エーフィの入ったボールに小さく微笑んだ。当然といえば当然だが、レッドもポケモン達に心の底から愛情を注いでいる。カイムと似て無口なレッドだが、ポケモンのことは心から愛している。だからこそポケモンを蔑ろにするロケット団を許すことができず壊滅させた。
(恐ろしい才能……こんな人が側にいればあんな卑屈になるのも仕方ないかもしれないわね)
シロナが見たところ、カイムの姉…イサナはレッドと同レベルの才能の持ち主。バトルから引退して十年以上経つのにも関わらずカイム相手に割といいバトルができていた。加えて数々の逸話を聴いた限り、その才能はレッドにも届き得るほどのものだと言える。そんな人が近くにいれば卑屈にもなってしまうだろう。
「…そんな貴方と戦えることが嬉しい」
それほどの才能の持ち主が数年間、ポケモンバトルに没頭して修行した。そんな相手と戦えること…戦えていることにシロナは高揚感が抑えきれず、思わずダンデ戦で見せたような獰猛な笑みを浮かべた。
その瞬間、凄まじい覇気がシロナの身体から発せられた。
その覇気は観客席にいる観客達にも達し、思わず身震いするほどのものだった。
相対しているレッドも肌を刺すような覇気に冷や汗をかく。ここまでレッドが相手してきたチャンピオン達もシロナと同じくらい強かった。全員覇気の感覚が違ったが、シロナの覇気の強さにレッドは思わず口角が上がった。
そして二人は次のポケモンの入ったボールを構えた。
「お願い!ロズレイド!」
シロナはロズレイド、そしてレッドはカビゴンを繰り出した。
(カビゴン…特性は確か『めんえき』。毒状態にならない特性だし、少しだけ相性は悪いわね)
出し負け、というほどではないが、特防が非常に高いカビゴン相手にロズレイドはあまり相性が良くない。加えてロズレイドの毒タイプの技の副作用が効かないとなると、長期戦は間違いなく不利。
「なら攻めていかなきゃね!ロズレイド!エナジーボール!」
「ドわすれ!」
ロズレイドが『エナジーボール』を放つと同時にカビゴンは特防を上げた。ただでさえ高い特防がさらに上昇したことによりロズレイドの攻撃は通りが非常に悪くなってしまう。現に直撃した『エナジーボール』のダメージはほとんど入っていない。
(これほどまでのロズレイド対策!ロズレイド単騎でカビゴンを落とすのは至難の業ね)
特殊技しかないロズレイドでは特防の上昇したカビゴンに対して与えられるダメージが非常に少ない。故にここで引く手もあるが、レッド相手に一手先に行かれることは致命傷になりかねない。
そう判断したシロナはロズレイドの技とカビゴンのデータを基に脳内で一瞬でどう戦うかを組み上げた。
「ヘドロばくだん!」
「かみくだく!」
迫り来るカビゴンの大口に向けてロズレイドは毒の塊をぶつけた。直撃したが、ダメージはあまりない。
しかし毒によってカビゴンの視界が一瞬塞がれる。毒を振り払うと、目の前にいたはずのロズレイドが消えていた。
どこにいるのかと視線を巡らせた瞬間、カビゴンの眼前に赤い花が突きつけられ、黄色い粉が全身を包み込んだ。カビゴンは即座にその花と粉を振り払うが、赤い花の持ち主…ロズレイドはバックステップで下がった。
そして次の瞬間、カビゴンの全身に痺れが走った。
「………」
ロズレイドの『しびれごな』によってカビゴンは麻痺してしまう。元より鈍い動きがさらに鈍くなるだけでなく、時折行動が阻害される。
「エナジーボール!」
「ドわすれ!」
ロズレイドの『エナジーボール』がカビゴンに向けて直撃しそうになり、回避が不可能と考えたレッドは特防をさらに上げることでダメージを抑えようとしたが、カビゴンは身体が痺れて動けなかった。
カビゴンは『エナジーボール』が直撃するが、やはりダメージは少ない。
「かみくだく!」
「ヘドロばくだん!」
カビゴンの強力な顎がロズレイドに食らいつき、その瞬間ロズレイドは毒の塊をカビゴンにぶつけた。ロズレイドの物理防御は高くない。大きなダメージが入るが、カビゴンへのダメージは少ない。
その瞬間、動きは小さいがカビゴンが攻撃体勢に入ったのをシロナは見逃さなかった。
「下がって!」
「ふぶき!」
凄まじい冷気がカビゴンの全身から放たれる。ロズレイドもカビゴンの動きを見切っていたため咄嗟に下がることで直撃を免れたが、高威力の効果抜群技はロズレイドに大きなダメージを与える。
着地したロズレイドは即座に反撃に移る。
「エナジーボール!」
ロズレイドの攻撃がカビゴンに直撃する。
タイプ一致の技だが、カビゴンは特防が上昇した状態。故に再び少ないダメージで済む…はずだった。
しかし先程までと比べてダメージが多い。ロズレイドは特攻を上げるような技を出した形跡はない。つまりカビゴンの行動がトリガーとなった結果特攻が上昇したと考えるべきだろう。
その答えをレッドは即座に導き出した。
『じゃくてんほけん』。この道具によってロズレイドは特攻が上昇した状態になったことをレッドは瞬時に考えついた。
ここでもう一度『ドわすれ』を積むかどうか考えるが、麻痺状態であることを考慮するといくら耐久力の非常に高いカビゴンでも手痛いダメージを受けかねない。そこでレッドは攻撃に移ることで一気にロズレイドを落とすことにした。
「ふぶき!」
「マジカルシャイン!」
カビゴンの広範囲技に対してロズレイドも広範囲技で対抗することで、互いの攻撃を相殺する。両者共にタイプ不一致技だが、ロズレイドの方が特攻が高いため相殺することができた。
「かみくだく!」
「エナジーボール!」
カビゴンがロズレイドに攻撃を仕掛けようとした瞬間、ロズレイドは『エナジーボール』で反撃に出た。攻撃が直撃するが、カビゴンは止まらない。
(じゃくてんほけんで特攻を上げてなお火力不足!ここまで特防が高いなんて)
素の特防の高さに加えて『ドわすれ』によって特防がさらに上昇している。ロズレイド自身の火力が上昇したとしてもそれでイーブンであるはずなのだが、それでいてなおこのダメージの少なさに相性の悪さを感じずにはいられなかった。
加えてカビゴンの体力は少しずつ回復している。持ち物が『たべのこし』であることはほぼ確定だろう。この耐久力に加えて体力が徐々に回復することでカビゴンは要塞と言われるほどの耐久力に仕上がっていた。
「ヘドロばくだん!」
だがそれは諦める理由にはならない。
攻めるあるのみ。動きが鈍くなっていることは間違いない。どんなに耐久力が高くとも攻め続けられて耐え切れるような存在などない。
「エナジーボール!」
再び攻撃が直撃する。しかしカビゴンは回避する素振りも見せず攻撃を受けた。避けられなかったのではない。避けなかった。
その素振りに一瞬違和感を感じたが、即座になにをするのかに気づいた。
「まずい!ロズレイド!避けて!」
「ギガインパクト!」
カビゴンの巨体が強烈な勢いでロズレイドに襲いかかった。
シロナの指示があったおかげでロズレイドはギリギリでカビゴンの挙動に気が付き、回避行動に移るが、距離が近すぎたため回避しきれずカビゴンの身体がロズレイドの身体に掠っていった。
幸いダメージはあまりなかったが、咄嗟の回避行動のせいで体勢が崩れてしまう。フィールドを転がるロズレイドは最速で体勢を立て直すが、目の前に信じられない光景が広がっていた。
「っ⁈」
カビゴンが『ギガインパクト』の勢いを伴った状態で再びロズレイドに迫ってきていた。カビゴンはロズレイドが回避した瞬間、その勢いを伴った状態で方向転換を行い、再びロズレイドに迫ってきていたのだ。
「それはもう見たわよ!」
だがシロナもそれを把握していた。
前のミクリ戦でカビゴンは『ギガインパクト』の方向転換を行なっていたためそれを使ってくる可能性はわかっていた。それを考慮してなお、『ギガインパクト』の速度は速かった。
しかしロズレイドもシロナの手持ちとして無数の手練と戦ってきた。知っている戦術に対しての対応は、一級品である。ロズレイドは回避が無理と判断した瞬間、バックステップで飛ぶと同時に『エナジーボール』をカビゴンにぶつけた。止めることは不可能だが、この行動によってロズレイドに到達する時に威力はかなり減少していた。
カビゴンの巨体を受けてなお、ロズレイドは立った。肩で息をしているためかなり体力が削られているが、まだ戦える。そんな意思がロズレイドの瞳からは感じられた。
「ロズレイド!マジカルシャイン!」
ロズレイドはカビゴンの顔に向けて『マジカルシャイン』を放った。反動と麻痺によってほとんど動けないカビゴンは『マジカルシャイン』が直撃し、加えて『マジカルシャイン』の光に視界を一瞬奪われた。
「エナジーボール!」
視界が奪われた瞬間、ガラ空きの胴体にロズレイドは『エナジーボール』を連続でぶつけた。連続で放たれた『エナジーボール』がカビゴンの体力をゴリゴリと削っていく。特防の高いカビゴンでもこうも連続で攻撃されれば体力が削られてしまう。
『マジカルシャイン』によって潰された視界は既に回復しているが、麻痺によって身体が動かず回避行動が取れず、ただ受けるしかできない。
「ヘドロばくだん!」
『エナジーボール』のラッシュから渾身の『ヘドロばくだん』がカビゴンに直撃し、カビゴンの巨体が吹き飛ばされる。
だがカビゴンは巨大な肉体を空中で立て直すと着地した。カビゴンとは思えないほどの身体運びにシロナは冷や汗をかく。
「ふぶき!」
「マジカルシャイン!」
互いの技がぶつかり合い、技が相殺し合う。
一度ここで追いつくかと思いきや、『ふぶき』の余波を突っ切ってカビゴンが姿を現した。
(速い!)
麻痺状態でここまで動けることはさすがのシロナも予想外だった。
(回避は無理!迎撃しかない!)
即座に迎撃する判断をとったシロナは指示を出した。
「エナジーボール!」
「ギガインパクト!」
ロズレイドの『エナジーボール』が『ギガインパクト』を放つカビゴンの巨体にぶつけた。勢いを僅かに弱め、ダメージを与えられたが止めるには至らない。
カビゴンの『ギガインパクト』がロズレイドに直撃した。吹き飛ばされたロズレイドはシロナの目の前まで転がり、ようやく止まった。まだ意識があり、立とうと全身に力を込めるが、限界がきてそのまま倒れ伏した。
『ロズレイド戦闘不能!』
相性の悪さもあり、ロズレイドは倒されてしまった。しかしカビゴンも相性の良さがあってなお、麻痺を受け、たべのこしでは回復しきれないほどのダメージを受けてしまった。
「ありがとうロズレイド。十分な働きだったわ」
シロナはロズレイドをボールに戻し、そのボールを優しく撫でる。
そしてフィールドに立つカビゴンとレッドに向けて視線を向けて小さく息を吐く。
ここまでレッド専用に立ててきた対策は半々くらいの刺さり方だった。ロズレイドとカビゴンの対面はできれば避けたかった対面だが、その他は概ね予想通り。
しかしシロナは内心で何か引っ掛かるものを感じていた。シロナ自身がレッドに対してなにか『たりない』部分があると考えているからだ。
シロナはレッドに対して爆発力を考慮した上での対策を立てていた。故に実力の振れ幅については予測通りなのだが、なにか秘策があるのではないかと内心で自身に見落としがあることを感じていた。
だが目の前の少年を相手にその違和感に対して思考を割いている余裕はない。最善の一手を打ち続けるために全霊を尽くすのみ。
「お願い!ルカリオ!」
シロナが繰り出したのはルカリオ。格闘タイプ故にカビゴンに相性は有利な対面となった。
加えてカビゴンの覚えている技はほぼ全てルカリオに半減にされる。相性としてはかなりいい。
「いくわよルカリオ!つるぎのまい!」
「ふぶき!」
ルカリオは『つるぎのまい』で攻撃力を上昇させるが、そのルカリオに対してカビゴンは『ふぶき』による冷気をぶつけた。鋼タイプを持つルカリオに氷タイプの『ふぶき』は半減。加えてルカリオは『つるぎのまい』を行いながらも『ふぶき』のダメージが最小限になるように射線から逸れた。これによりルカリオに大きなダメージはなく、ほぼ無傷で『つるぎのまい』を完了させた。
「しんそく!」
「ギガインパクト!」
ルカリオは『しんそく』による高速移動、カビゴンは『ギガインパクト』による高速ながら高威力の行動に移る。速度では当然ルカリオに軍配が上がるが、カビゴンも歴戦のポケモン。ルカリオの『しんそく』を目で追うだけでなくルカリオの移動先を見切り、そこに向けて『ギガインパクト』を放った。
「流して!」
ルカリオは『しんそく』の速度を一瞬で落としたことで『ギガインパクト』に直撃することはなく、流水の如き滑らかな腕捌きでカビゴンの巨体を受け流した。
しかし高レベルなカビゴンの一撃。完全に流すことはできずルカリオは僅かにダメージを受けた。しかしそのダメージをものともせず、ルカリオは流したばかりのカビゴンに肉薄した。
「インファイト!」
ルカリオの連撃が無防備なカビゴンの体に打ち込まれた。ノーマルタイプのカビゴンに格闘タイプの技は効果抜群。いくら耐久力の高いカビゴンといえど、格闘タイプ最強の『インファイト』を受けてしまえば大きなダメージを受けてしまう。
吹き飛ばされたカビゴンだが、起き上がった。『つるぎのまい』を積んだ『インファイト』を受けてなお立ち上がるカビゴンの耐久力にシロナは目を見開いた。
カビゴンは『インファイト』を受けた瞬間、身体を僅かに引くだけでなく身体の向きをずらすことでルカリオの拳が最大威力で当たることを防ぎ、威力を軽減させた。加えたたべのこしによるリジェネ効果がカビゴンの体力を僅かに残すに至った。
「ふぶき!」
『インファイト』直後のルカリオにカビゴンは『ふぶき』で応戦した。冷気がルカリオに向けて放たれ、視界を覆い尽くす。
その瞬間、カビゴンは背後に気配を感じた。咄嗟に振り返ると、その瞬間カビゴンの肉体に無数の攻撃が浴びせられた。ギリギリで立っていたカビゴンがその攻撃に耐え切れるはずもなく、最後の力で立っていたカビゴンはとうとう力尽き、倒れた。
『カビゴン戦闘不能!』
審判の判定の後、レッドはカビゴンをボールに戻し、そして己の油断を戒めた。
最後の攻撃は『しんそく』による連撃。シロナのルカリオは『しんそく』を推進力として扱うことができる稀有なポケモン。そのため『しんそく』を推進力としてしか見ていなかったことが、最後の攻撃はその先入観につけ込んだ攻撃だった。
データのせいで『しんそく』による攻撃という選択肢が抜け始めていたことを見抜かれてしまい、その結果カビゴンは倒されてしまった。その事実を胸に刻み込み、次のポケモンをレッドは繰り出した。
レッドが出したのはフシギバナ。草・毒タイプ故に鋼タイプを持つルカリオとはあまり相性が良くないように思えるが、レッドにとってはこれが最善の一手なのだろうとシロナは気を引き締める。
「来るわよルカリオ!タイプ相性がよくても、油断しないわよ!」
シロナの言葉にルカリオは応じるように吠える。
それを見たレッドは不敵な笑みを浮かべ、指示を出した。
「ハードプラント!」
「っ⁈」
いきなり奥義である『ハードプラント』を出してくるとは思わず、シロナは僅かに動揺しかける。しかし刹那の間に意識を切り替え、行動に移った。
「走って!あなたの機動力なら避け切れるわ!」
迫り来る強固な木の根を前にルカリオは飛んだ。ルカリオを貫こうとしてくる『ハードプラント』そのものを足場とし、ルカリオは『ハードプラント』をかわしていく。
「……!」
正確な攻撃を得意とするフシギバナの攻撃を足場としながら回避するルカリオの動きにレッドは僅かに驚く。素早い動きが得意なのは把握していたが、ここまで動けるとは思っていなかった。
だがここまで動けるとわかったのなら、それを加味した上でさらに上から叩き潰せばいい。そう考えたレッドはさらに指示を出す。
「だいちのちから!」
ルカリオが着地した瞬間、その場に向けてフシギバナは『だいちのちから』を放つ。地面から噴き上がる力がルカリオにダメージを与えた…と思われたが、ルカリオはそれを読んでおり素早いバックステップで攻撃を回避した。
「コメットパンチ!」
「ギガドレイン!」
回避した瞬間、ルカリオはフシギバナに迫り硬化させた腕をフシギバナに叩き込む。
対してフシギバナはルカリオが迫ってきた瞬間に『ギガドレイン』でルカリオに攻撃すると同時に体力を少し回復した。鋼タイプを持つルカリオに草タイプの『ギガドレイン』は半減だが、『インファイト』によって耐久力の下がったルカリオには思いの外ダメージが大きかった。
(インファイトの耐久ダウンを考慮してもダメージが大きい。威力向上系の道具…いのちのたまあたりを持たせているのかしら)
ダメージの大きさからシロナはフシギバナの道具が威力上昇系の道具であると予測した。
『きあいだま』を持っているカメックスではなく敢えて毒タイプの技を持つフシギバナを出してきたあたり、何か策があるか、カメックスを出せない理由があるのだとシロナは考えた。シロナの残りの手持ちであるルカリオ、ミロカロス、ガブリアスをフシギバナで相手にするのならルカリオ相手にフシギバナは最も相性が悪い。しかしそれでも変えてこない以上、間違いなく理由がある。
「ハードプラント!」
「コメットパンチ!」
迫り来る強固な木の根をルカリオは硬化させた腕で打ち砕く。続け様に襲い掛かる木の根をルカリオは飛ぶことで回避し、『ハードプラント』を足場にしながらも攻撃を掻い潜りフシギバナに肉薄した。
硬化させた腕を叩きつけようとした瞬間、背後から迫ってきた木の根がルカリオを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたルカリオは空中で体勢を立て直し、着地した。ダメージは大きい。
(あまり時間はかけられない。速攻で決める!)
互いに時間はかけられない対面。
反動技である『ハードプラント』を多用していることからもレッド自身ルカリオは早々に倒しておきたいという考えをシロナは読み取った。
「しんそく!」
「ギガドレイン!」
反動によって若干出が遅くなった『ギガドレイン』をルカリオは『しんそく』で回避した。そしてその速度を保ったままフシギバナに連続攻撃を加えた。
その瞬間、ルカリオは足元から木の根が出てくるのを視界の隅に捉えた。地面から出てきた木の根はルカリオの足に絡みつき、そのままルカリオの身体を地面に叩きつけた。
技としては確立していない攻撃。『ハードプラント』ではないため反動はない技でルカリオに大きな隙を作り出した。
「だいちのちから!」
フシギバナは跳ね飛ばされたルカリオに対して正確に攻撃をぶつけた。効果抜群の『だいちのちから』はルカリオに大きなダメージを与えた。
「ルカリオ!」
「ハードプラント!」
フシギバナは咆哮と共に『ハードプラント』を放つ。地面から木の根が飛び出し、ルカリオに襲い掛かってきた。
ルカリオは冷静に体勢を立て直すと、腕を硬化させて『ハードプラント』を受け流す。しかしレッドのフシギバナの『ハードプラント』は一度受け流した程度では止まらない。ルカリオに当たるまで追いかけてくる。
「ルカリオ!しんそく!」
ルカリオは高速で迫り来る『ハードプラント』を回避。さらに迫り来る『ハードプラント』を流し、打ち砕く。
(ハードプラントは強力な技。レッド君のフシギバナはハードプラントの反動がほとんどないことはデータでも出てた。でも、ハードプラントを出している間は操作に手一杯で本体はほとんど動くことができない!)
『ハードプラント』は強力な反面、反動も大きい。レッドのフシギバナはその反動をほぼ無効にすることができるくらい『ハードプラント』を使い込んでいるため攻撃の正確さもトップレベル。
しかしその正確性故に『ハードプラント』の操作中はほとんど動くことができないというリスクもある。フシギバナの正確性があれば動けなくとも相手が到達する前にどうにかすることもできるが、ルカリオは『ハードプラント』よりも速く動ける。
「そこよ!一気に詰めて!」
『ハードプラント』の隙を見出したシロナは回避した『ハードプラント』を足場にしてフシギバナに一気に距離を詰める。
この攻撃が入れば、フシギバナといえど耐え切れる保証はない。素の攻撃力の高さだけでなく『つるぎのまい』による攻撃力の上昇したルカリオの攻撃はかなり高い。直撃させられれば落とせる。シロナはそう判断した。
だがシロナはレッドの次の行動は予期できなかった。
「ヘドロばくだん!」
「⁈」
鋼タイプを持つルカリオに毒タイプの技は無効。故に『ヘドロばくだん』を出したとしてもルカリオにダメージは与えられない。だというのにフシギバナは攻撃を仕掛けてきた。
『ヘドロばくだん』がルカリオに直撃する。毒の塊はルカリオの身体に直撃し弾け、一瞬だけ視界を塞いだ。その隙にフシギバナは少しだけ身体を下げる。
(しまった!)
この『ヘドロばくだん』は攻撃ではなく目眩しとしての機能を持つものだと即座に理解したが、ここで止まることはできない。
視界が回復したルカリオはフシギバナが僅かに距離が離れていることに気がついた。攻撃そのものを中止することはできない。
ならばどうするか。この僅かな距離の中で歩数を調整し、最大威力の『コメットパンチ』をぶつける以外にルカリオに選択肢はなかった。
「左に一歩!」
シロナの指示の真意をルカリオはほぼ反射で理解する。
ルカリオは左に一歩大きく踏み出した。その瞬間、先程までルカリオがいた場所が大きく弾けた。威力は弱いが、それはフシギバナの『だいちのちから』だった。余波を受けながらもルカリオはフシギバナに迫った。
「っ⁈」
発動の素振りを一切見せなかったのにも関わらず回避されたことにさすがのレッドも一瞬動揺した。
「コメットパンチ!」
その隙をシロナは見逃さない。両腕を硬化させ、ルカリオは連続で『コメットパンチ』をフシギバナにぶつける。『つるぎのまい』によって上昇した攻撃を受けてしまうとフシギバナの耐久力をもってしても大きなダメージを負う。加えて元のダメージといのちのたまの効果によって体力が削られていたこともあり、吹き飛ばされたフシギバナは体力が尽きてしまい、倒れてしまった。
『フシギバナ戦闘不能!』
物理耐久が特殊耐久と比べて低いフシギバナではルカリオの猛攻を耐えることはできなかった。
レッドはフシギバナをボールに戻し、優しく微笑むとホルダーに戻した。そして次のボールを手に取るとシロナに向けて構えた。
レッドが出したのはカメックスだった。高い耐久力だけでなく、広い技範囲を持つ優秀なポケモン。グリーンの相棒のポケモンでもある。
まず動いたのはレッドだった。
「あまごい!」
カメックスが『あまごい』をすることで強烈な雨が降り始める。
(あまごい…グリーン君も確か使ってきた。もしかしてグリーン君のバトルを参考にしているのかしら)
シンオウリーグでバトルした時のグリーンのカメックスも『あまごい』による水タイプ威力上昇を使ってきた。レッドがチャンピオンになった時、彼の手持ちにカメックスはいなかった。カメックスを手持ちとしてバトルする練度は間違いなくグリーンの方が上であるため、その可能性はある。
「…ルカリオ!しんそく!」
「ハイドロカノン!」
ルカリオは『しんそく』で即座にその場から離脱するが、ルカリオの進路に向けて凄まじい水流が放たれる。咄嗟にルカリオは飛ぶことで『ハイドロカノン』を回避するが、その先に『ハイドロカノン』がさらに迫り来る。
「コメットパンチ!」
迫り来る『ハイドロカノン』に向けてルカリオは『コメットパンチ』をぶつける。正面からぶつけるのではなく、角度をつけてぶつけることで『ハイドロカノン』の勢いを利用して回転しながら軌道からカメックスに迫った。
「インファイト!」
ルカリオの拳がカメックスに突き刺さる。格闘タイプ最強の技であり、直撃すれば大きなダメージを与えるが、カメックスは『インファイト』が来る瞬間、自身の固い甲羅をルカリオに向けてダメージを最小限に抑える。
そして『インファイト』の攻撃が終わった瞬間、カメックスはルカリオの拳を掴んだ。掴まれたルカリオは逃げることができなくなる。
「きあいだま!」
カメックスが片手に溜めた力をそのままルカリオにぶつけた。『インファイト』の耐久ダウン、フシギバナとのバトルによるダメージがあったルカリオが『きあいだま』を耐えることはできない。
『きあいだま』によって吹き飛ばされたルカリオはシロナの目の前まで飛ばされた。意識はなくなっていないが、もう立ち上がることはできない。
『ルカリオ戦闘不能!』
耐久力が低いながら持ち前の技術でここまで善戦してくれたルカリオに感謝しながらシロナはルカリオをボールに戻した。
「お疲れ様ルカリオ。いい動きだったわ」
シロナの残り手持ちは二体。対してレッドはダメージを受けたカメックスと手負いのピカチュウ、そして恐らくリザードンの三体。数的不利を取られているが、そもそも相手は恐らくシロナよりも格上のトレーナー。むしろこの状況にシロナは燃えていた。
「…勝ちたい」
楽しむことをなによりも優先してバトルをするシロナだが、この時シロナの胸中を支配していたのは勝利への渇望だった。
今レッドという凄腕のトレーナーを相手にしていることは素直に楽しい。バトルを通してレッドというトレーナーがどれほど努力してきたか、そしてポケモン達とどう接しているのかがわかるからだ。
それと同時にこれほどのトレーナーを超えたみたいという、挑戦者としての本能がシロナには湧き上がっていた。レッドを倒して見ることのできる頂きの景色はどんなものか。
その景色を彼と共に見ることができたら、どんな気持ちなのか。
「さあいくわよ!お願い!ミロカロス!」
それを確かめるためにも、このバトルに勝つ。シロナはそんな思いとともにボールを投げた。ボールからはミロカロスが現れ、美しい鳴き声をあげた。
互いに一致技は半減。しかし覚えている攻撃技がミロカロスは半減される技しかないため、ミロカロスの耐久力を考慮しても厳しい。
対してカメックスはサブウェポンとして覚える技はミロカロスに等倍で入る。少しだけ有利な対面となっているだろう。
「ねっとう!」
「きあいだま!」
互いの技がぶつかり合い弾ける。タイプ一致かつ雨の影響で威力の上がった『ねっとう』が僅かに『きあいだま』の威力を僅かに上回ったため、若干余波がカメックスに到達する。しかし水タイプであるカメックスにダメージはほぼなく、追加効果の火傷もこの程度ではならない。
「………」
レッドは一瞬だけ思考する。カメックスはサブウェポンとして対ガブリアスに有効な『ふぶき』を覚えているが、対面次第では別の技に切り替えることを考えていた。ここでミロカロスを倒すことができるのならカメックスに『ふぶき』を使わせるのだが、そう甘い相手ではない。
安定策を取るのなら、ここで『ふぶき』を使ってもあまり問題はない。『きあいだま』と雨天候込みの『ハイドロカノン』ならミロカロスを倒すことも不可能ではない。『ふぶき』も目眩しや追記効果狙いで使うこともアリだろう。
しかしここまで戦ったレッドはその思考を振り払う。今まで戦ってきたチャンピオン達同様シロナも目の前の相手に対して最高の一手を取り続けなければ勝てない。
ならば取るべき手段は決まった。このほんの一瞬の思考の果てに、レッドはレッドにとって最善の一手を指示した。
「りゅうのはどう!」
「そう来るのね!れいとうビーム!」
今まで一度も見せたことのない『りゅうのはどう』をカメックスはミロカロスに向けて放つ。等倍でダメージが入るため、普通に水技で攻めるよりも多少ダメージは大きい。
しかしシロナも冷静に『れいとうビーム』で応戦させる。互いに不一致技だが、タイプ相性から『れいとうビーム』が僅かに威力で勝った。
(りゅうのはどう…確実に次のガブリアスを意識してるわね。ミロカロス相手にすることを考慮してもラスターカノンよりりゅうのはどうの方がバランスの取れた技だわ。この一瞬で考えついて、それに応えるカメックス…予めこうなることも予測していたのね)
この対面になる可能性もレッドは考慮していた。そう思えるほどの速度でカメックスはレッドに応えてみせた。
想定の範囲が広い。残りのポケモンを考えると、恐らくレッドに対して技による奇襲は通じない。
「ねっとう!」
「りゅうのはどう!」
技同士がぶつかり合うが、雨の相乗効果により僅かに『ねっとう』が競り勝つ。
だがカメックスは僅かなダメージを気にすることなくミロカロスに突っ込んでいく。迫り来るカメックスの身体をミロカロスは長い身体をくねらせてカメックスの突進を回避した。
「ねっとう!」
「ハイドロカノン!」
至近距離で互いに技を同時に出す。命中不安定な『ハイドロカノン』だが、この距離では外すことはない。『ねっとう』を突き破りミロカロスにダメージを与える。雨による威力上昇により、特防が高く効果今一つのミロカロスにも大きなダメージが入った。
(例え相手にも利があったとしても、それ以上の威力で叩き潰すつもりね!)
雨の天候はカメックスだけでなくミロカロスにも利がある。しかし耐久に力を割いているミロカロスはそれほど火力はない。多少威力が上がってもそれより強い攻撃で押し切ってしまえばいいという戦い方だ。
先程のフシギバナは技の正確性を重んじたバトルをしていたが、カメックスは所謂ゴリ押し。レッドはポケモン達の性格や得意不得意まで考慮したバトルをしていることがシロナにはわかった。
「りゅうのはどう!」
「れいとうビーム!」
同時に技を出す。今度は技同士がぶつかることはなく、互いの技が命中する。カメックスには効果今一つ、ミロカロスには等倍のダメージが入った。
「じこさいせい!」
「ハイドロカノン!」
「中止!れいとうビーム!」
『じこさいせい』による回復を行おうとした瞬間、カメックスは『ハイドロカノン』を肩にある大砲から発射した。
このダメージを受けるのはまずいと考えたシロナは『じこさいせい』を即座に中断。『れいとうビーム』で『ハイドロカノン』を一瞬冷凍。勢いが弱まった瞬間にミロカロスは『ハイドロカノン』を回避し、『じこさいせい』によって回復した。
「きあいだま!」
回復の隙にカメックスは『きあいだま』を放つが、『ハイドロカノン』の反動のせいで『きあいだま』の発動が遅れ、ミロカロスはこの僅かな隙を利用して回避した。
『きあいだま』は命中精度がかなり粗い。そのため回避することができた。
「ねっとう!」
技を外した瞬間、ミロカロスは『ねっとう』で反撃する。カメックスは回避しようとしたが、至近距離からの攻撃で回避する時間がなく直撃を受けてしまう。
効果は今一つ。しかし『ねっとう』の追加効果である火傷を負わせることができた。特殊攻撃しかもたないカメックスに攻撃性能においては特別問題ないが、徐々に体力が削られる状態となってしまった。
「ここで攻めるわよ!もう一度ねっとう!」
「りゅうのはどう!」
互いに技を受ける。
その瞬間、シロナは違和感を感じた。
(今のは回避できたはず…敢えて受けた?)
技を受けたばかりとはいえ、今の攻撃はカメックスの体力なら回避できたはずだとシロナは考えが過ぎった。火傷があるとはいえ、それだけでポケモンの身体能力は激減しない。故に今の攻撃は回避されると踏んでいたが、敢えて受けたように思えた。
「…締め付けてれいとうビーム!」
だが今それについて思考を割く余裕はない。目の前の敵は自分の全てを出し切らなければ勝てない相手。即座に勝つための最善の一手を打ちにいく。
ミロカロスは長い身体でカメックスに巻きつくと、『れいとうビーム』でカメックスの大砲を氷で塞いだ。
「…!」
カメックスの最大威力の技である『ハイドロカノン』はカメックスの肩にある大砲から発せられる。その大砲が『れいとうビーム』によって塞がれてしまった。無論これで『ハイドロカノン』が使えなくなったわけではない。出すためのタメと発せられるまでの時間が長くなる程度だが、その僅かな時間が命取りとなることをレッドは即座に悟った。
カメックスは巻きつくミロカロスの身体を掴むと床に叩きつける。技としては確立していない攻撃故にダメージはあまりないが、引き剥がすことには成功した。
「ハイドロカノン!」
早めにこの状態を解除しようとカメックスは動く。
ばきり、とカメックスの大砲を塞ぐ氷が割れる。だがすぐに発射されることはなく、一瞬時間があった。
「ねっとう!」
この隙をシロナは見逃さない。即座に攻撃に移り、攻撃を加えていく。
『ハイドロカノン』発動体勢に入ったカメックスは回避ができず、雨天候により威力が上がった『ねっとう』がカメックスを襲うが、カメックスは動じない。氷を突き破って『ハイドロカノン』をミロカロスに向けて放った。
『ねっとう』を突き破り、ミロカロスにダメージを与える。
(…たべのこしじゃ回復しきれないダメージになってきてる。じこさいせいで回復する隙もあまりない)
ミロカロスは持ち物であるたべのこしによって少しずつダメージを回復している。しかし度重なるダメージがミロカロスの体力を確実に削ってきていた。一度『じこさいせい』で回復しているが、回復したダメージが既に削られている。
ミロカロスはあまり火力がない。火傷によってダメージが徐々に入っているし、雨天候によってダメージがあがった攻撃をしているが、素の火力があまりないため比較的耐久力の高いカメックスにはあまりダメージがない。
「りゅうのはどう!」
「れいとうビームからじこさいせい!」
カメックスの放った『りゅうのはどう』を『れいとうビーム』で相殺すると、即座にミロカロスは『じこさいせい』で回復する。
そうはさせないとレッドも動いた。
「きあいだま!」
回復が完了する前にカメックスは『きあいだま』をミロカロスにぶつける。大きなダメージが入るが、僅かに回復分の方が多い。
しかしここで『きあいだま』の追加効果である特防ダウンが発動する。特殊攻撃しかないカメックスにとってこれは大きなアドバンテージになる。
「りゅうのはどう!」
「ねっとう!」
再び同時に技が放たれ、お互いにダメージを与えた。ミロカロスにもダメージが入るが、雨天候により威力が上がった『ねっとう』がカメックスの急所に当たり大きなダメージを与えた。
しかし、こうなることを…カメックスの体力が削られることをレッドは待っていた。
「…まずい!」
レッドはカメックスの体力が削られ、特性である『げきりゅう』が発動することを待っていた。グリーンがシロナとバトルしていた時に使っていた雨天候+げきりゅうによる『ハイドロカノン』。万全の状態ならともかく、ここまで削られたミロカロスならば落とすことができるとレッドは確信していた。
「ハイドロカノン!」
カメックスは一瞬でチャージを完了させ、ミロカロスに狙いを定める。
瞬時に回避が不可能だと察したシロナは受けることを決断した。
「受けて立つわ!ミロカロス!れいとうビーム!」
凄まじいほどの威力を持った水流がミロカロスに向けて放たれる。
それに対してミロカロスは『れいとうビーム』を放ち、『ハイドロカノン』の一部を凍らせる。
しかし当然威力では遥かに負けているため、『れいとうビーム』を押し切って『ハイドロカノン』がミロカロスに直撃する。
凄まじい水煙が巻き上がり、周囲を覆い尽くす。水の冷気を感じながら水煙が晴れる僅かな時間、沈黙が流れる。
水煙が晴れると、そこにはミロカロスが満身創痍ながらも立っていた。
「ミロカロス」
シロナも、こうなることを待っていた。
ミロカロスの火力ではカメックスを落としきることが難しかった。無論火傷によってダメージを蓄積させれば不可能ではないが、レッド相手にそんな生ぬるい戦法が通用するはずがない。向こうが決めにきている以上、こちらも最速でカメックスを落とさねばならないが、ミロカロスが覚えている技でそれができるのは一つしかなかった。
だからある程度カメックスを削ったところで、『ハイドロカノン』が来ることを待った。そしてそこで予想通り『ハイドロカノン』がきたが、予想外だったのは『げきりゅう』込みでの『ハイドロカノン』までは考えていなかった。
だがミロカロスは見事『げきりゅう』雨天候の攻撃を耐えた。そしてこの状況でなら最高の威力を発揮する技を指示する。
「ミラーコート!」
受けたダメージをそのまま倍以上にして返すカウンター技。鏡のような壁が弾け飛び、カメックスに大きなダメージを与えた。
威力が爆発的に上昇した『ハイドロカノン』の攻撃を返したため、『ミラーコート』の威力は凄まじい。カメックスの残っていた体力を全て消し飛ばすのには十分すぎる威力を発揮し、カメックスは力尽きて倒れた。
『カメックス戦闘不能!』
『ミラーコート』という諸刃の剣を使ってだが、どうにかカメックスを落とすことに成功した。
これでポケモンの数はイーブンだが、残っているポケモンの状況を考慮するとあまりにも相手が悪い。水タイプのミロカロスを対面にするとなると、まず間違いなくピカチュウを出してくる。
残り体力を考えると『じこさいせい』で回復してからでないと『ミラーコート』は使えない。加えて『ミラーコート』という手札を見せた以上、多少反撃や反動を受けたとしても物理技で攻めてくるだろう。
(…退がるか、突っ切るか)
タイプ相性を考えれば、間違いなく引いた方がいい。ガブリアスは地面タイプであるため、ピカチュウの半分以上の攻撃を無効化できるし、リザードンの一致技も反撃できる。加えてリザードンはミロカロスの攻撃で弱点を突ける。
(……そんなことはレッド君もわかっている)
だがそれはレッドも理解している。ここで退がるかどうかの読み合いになってくるわけだが、悩む時間はない。
どうするか、と思案した瞬間、ミロカロスがシロナの方を向いて小さく鳴く。ミロカロスの真意を即座に汲み取ったシロナは、ミロカロスの目を見て頷いた。
「わかったわミロカロス。貴女を信じる」
ミロカロスは、シロナの勝利のために残ることを選んだ。
後ろで見ているカイムにミロカロスの真意はわからない。しかしミロカロスがシロナを勝利に導くためにこの選択をしたことだけはわかる。
「………」
レッドはシロナが動かないことを確認するとボールを投げる。ボールからはピカチュウが現れた。
タイプ相性は悪い。しかしピカチュウも火傷を負い、ダメージが大きい。火傷のせいで『ボルテッカー』と『アイアンテール』、『でんこうせっか』の威力は半減しているが、驚異的な技術と実力は健在。
「10まんボルト!」
「れいとうビーム!」
『10まんボルト』に対して『れいとうビーム』をぶつけて相殺する。その瞬間、ピカチュウは爆煙の中からミロカロスに肉薄した。
「アイアンテール!」
「ねっとう!」
ミロカロスの放った『ねっとう』にピカチュウは硬化した尻尾を叩きつけ、回転しながら受け流す。回転しながらピカチュウは全身に電気を纏った。
「ボルテッカー!」
「前に出て!」
ピカチュウが『ボルテッカー』でミロカロスに突っ込んで来るが、ミロカロスはそこで敢えて前に出る。
接触する瞬間、ミロカロスは長い身体をくねらせて『ボルテッカー』の軌道から逸れる。すれ違うように回避することでピカチュウが進路を変えてくる対策をしたのだ。
そしてそのままミロカロスは反撃に出る。
「ねっとう!」
「アイアンテール!」
ミロカロスの『ねっとう』に対してピカチュウは『ボルテッカー』から即座に『アイアンテール』に切り替え、『ねっとう』を打ち破る。
「じこさいせい!」
ミロカロスは『じこさいせい』によって回復する。
そこに追撃してくるかとシロナは予測したが、ピカチュウは火傷の痛みで一瞬身体が硬直し、追撃できなかった。
「でんこうせっか!」
「れいとうビーム!」
ピカチュウは凄まじい速度でミロカロスに肉薄し、ミロカロスは『れいとうビーム』で迎え撃つ。『でんこうせっか』による突撃が当たる瞬間にミロカロスの『れいとうビーム』が発射されるが、その瞬間ピカチュウは『アイアンテール』に技を切り替え、『れいとうビーム』を打ち破ってミロカロスに攻撃を加えた。
「ねっとう!」
カウンターとしてミロカロスは『ねっとう』を放ちピカチュウにダメージを与える。ピカチュウは『アイアンテール』を盾にして『ねっとう』のダメージを抑えた。
「10まんボルト!」
そしてピカチュウの全力の電撃がミロカロスを襲う。効果抜群の技を受けて大きなダメージを受けるが、『じこさいせい』とたべのこしによる回復のおかげでミロカロスは僅かに体力が残る。
「ミラーコート!」
「ボルテッカー!」
受けたダメージを攻撃力に変換してミロカロスはカウンターの攻撃をピカチュウに放つが、電気を纏ったピカチュウは『ミラーコート』の攻撃を突き破ってミロカロスに突撃した。纏った電気によって『ミラーコート』の攻撃を軽減させ、そのままミロカロスに激突した。
大きなダメージを受け、残っていた体力は消し飛びミロカロスは倒れた。
『ミロカロス戦闘不能!』
ミロカロスをボールに戻したシロナは額を流れてきた汗を手の甲で拭う。
「ありがとうミロカロス。ここまで戦ってくれて」
ミロカロスはシロナの勝利のために全霊を尽くした。ここまでポケモンが尽くしてくれているのだ。ここで応えずいつ応えるのか。
残るポケモンは一体。シロナのエースであるガブリアスのみ。
「さあ最後よ!お願い!ガブリアス!」
ガブリアスはボールから姿を現すと咆哮をあげる。その音圧はビリビリと響き渡り、それだけでガブリアスの強さがレッドには伝わった。
「ガブリアス!つるぎのまい!」
「でんこうせっか!」
地面タイプを持つガブリアスに電気技は無効。故にピカチュウはガブリアスに対する有効打が『アイアンテール』と『でんこうせっか』しかない。ピカチュウにとってガブリアスは正に天敵だった。
ピカチュウは『でんこうせっか』の勢いを利用し、速度をそのまま尻尾に乗せ、独断で『アイアンテール』に切り替えてガブリアスにぶつけた。
しかしガブリアスは『つるぎのまい』を舞いながら『アイアンテール』の当たる場所をずらすことでダメージを最小限に抑えた。
「げきりん!」
「でんこうせっか!」
『げきりん』によって爆発的に上昇した身体能力でピカチュウに攻撃するが、ピカチュウは『でんこうせっか』の速度で下がった。
「追撃して!」
「アイアンテール!」
ピカチュウは飛ぶと硬化した尻尾を振り下ろし、ガブリアスは強化した身体能力で爪を振り上げる。互いの攻撃がぶつかり合い、衝撃がスタジアム全体的に広がる。防護バリアをビリビリと震わせる衝撃に観客達は思わず言葉を失う。
「じしん!」
「でんこうせっか!」
互いに弾かれて距離ができた瞬間、ガブリアスは足を地面に叩きつけて衝撃をピカチュウに向けて放つ。『でんこうせっか』で即座に距離を取り、速度をそのままジャンプの勢いに利用することで『じしん』の衝撃を緩和させ、ダメージを最小限に抑える。
「アイアンテール!」
「ストーンエッジ!」
振り下ろしてきた『アイアンテール』に向けて『ストーンエッジ』を放つが、岩石の刃は硬化した尻尾に砕かれる。そのままピカチュウはガブリアスに攻撃しようとするが、ピカチュウはガブリアスの目を見て誘い込まれたことを悟った。
「げきりん!」
上昇した身体能力でガブリアスはピカチュウに攻撃する。強烈な攻撃がピカチュウを襲い、意識が飛びかかるが、意識が切れる直前にピカチュウは『アイアンテール』でガブリアスの胴体に最後の攻撃を加えた。
反撃を受けたガブリアスは咄嗟に身体を引いてダメージを抑えたが、最後の攻撃はガブリアスに確実にダメージを与えた。ガブリアスが追撃を考慮して構えた時にはピカチュウの意識はすでになかった。
『ピカチュウ戦闘不能!』
ピカチュウは最後まで戦いきった。サブウェポン以外通じないガブリアス相手によくここまで健闘したと断言できるほどの戦いぶりだった。
「……」
レッドはピカチュウをボールに戻し優しく微笑むと、目を閉じた。
互いにあと一体。ここまで互いに全てを出し切って戦ってきた。出し惜しむものはない。
レッドは最後の一体のボールを投げる。中からはドラゴンのような見た目をした赤いポケモンが出てきた。当然そのポケモンはリザードン。レッドの手持ちの中ではピカチュウの次に古参のポケモンだった。
そしてレッドは左腕をシロナに見せつける。左腕に装備されたバングルには、虹色に輝く石が嵌め込まれていた。
「キーストーン…」
メガシンカに必要となるキーストーン。それを見せつけることで、互いのポケモンの全てをここで出し切るというレッドの意思表示だった。
「挑ませてもらうわよ。貴方という、大きな壁に」
シロナは胸元につけられたブローチを外し、レッドに向ける。そこにはキーストーンがあり、シロナの意志とガブリアスの意志に呼応して輝き始めた。
「行くわよガブリアス…私たちの全身全霊をかけて!」
ガブリアスの咆哮と共にガブリアスの持つメガストーンが輝き、シロナのキーストーンと共鳴する。光がガブリアスを包み込み、光の繭が形成された。
「メガシンカ!」
光の繭が破られ、禍々しく進化したガブリアスが現れて咆哮を上げた。音圧がビリビリを響き渡り、レッドとリザードンを威圧した。
レッドはそんなシロナとガブリアスを見ると、ふっと笑う。
好戦的な笑みを浮かべると同時にレッドの全身から凄まじい覇気が放たれた。
「………」
バングルに嵌め込まれたキーストーンが反応し、リザードンのメガストーンと共鳴した。
光の繭が形成され、ガブリアス同様リザードンを包み込む。
(今までの試合なら、メガリザードンYが出てくるはず。でもこの覇気…今までの試合とは違う!)
シロナは今までと明らかに違う気配を光の繭から感じていた。覇気が今までと比べて強いのではなく、気配が異なるのだ。覇気の強弱ではなく、強さの種類が違うといったものをシロナは感じ取った。
そしてそのシロナの予測は正しかった。
光の繭から出てきたのは、青い炎を纏う黒い龍だった。
メガリザードンX
炎・ドラゴンタイプのポケモンであり、纏う炎の熱さがフィールドを挟んだシロナにもその熱気が伝わってくる。
「…メガリザードンX。少なくともデータにはなかったわね」
レッドが姿を消していた期間、何があったかはわからない。彼のデータにこのメガシンカを使った記録はないが、ここで出してきたということはここで全てを出し切るということ。
その覚悟と覇気にシロナは思わず笑う。獰猛な笑みと共にシロナはガブリアスに指示を出した。
「じしん!」
「りゅうのまい!」
ガブリアスの放った『じしん』の衝撃がリザードンに向けて放たれるが、当たる瞬間にリザードンは飛ぶことで『じしん』の衝撃を軽減し、ダメージを最小限に抑える。それと同時に『りゅうのまい』で攻撃力と素早さを上げた。
「フレアドライブ!」
「げきりん!」
リザードンは炎を纏うと、上昇させた攻撃力と素早さをフルに活用してガブリアスに突撃してくる。しかし『つるぎのまい』の方が上昇する攻撃力は高い。加えてガブリアスに炎タイプは半減。ぶつかり合うが、ダメージはガブリアスにはほぼない。
「そのまま投げ飛ばして!」
ガブリアスは燃え盛るリザードンの体を掴んで放り投げる。
「ストーンエッジ!」
放り投げた先にガブリアスは岩の刃を出現させるが、リザードンは空中で体勢を立て直して『ストーンエッジ』を回避した。
「ブラストバーン!」
リザードンの纏う青い炎がガブリアスを囲い、そして強烈な勢いと熱を持って火柱と化した。その熱量はフィールドにいるシロナにも伝わり、焼け付くような熱を感じた。
だがそんな炎を咆哮と共にガブリアスは打ち破った。
「行くわよガブリアス!」
「……!」
ガブリアスは全身に龍の力を漲らせる。
それを見たリザードンも即座に全員に力を漲らせた。そして同時に指示を出した。
「「げきりん!」」
咆哮と共に二体の龍はぶつかり合った。
お互いにドラゴンタイプ。故に両者に大きなダメージが入るが、それに動じることなく次の攻撃に二体は移った。
互いに理性がギリギリ消えない範囲で力を解放し、本能で身につけた技術を駆使する。
ガブリアスが腕の鎌でリザードンを切り裂き、リザードンは拳をガブリアスにぶつける。互いにダメージを与え、与えられが繰り返される。
龍と龍のぶつかり合い。
その光景は恐ろしく、そして美しかった。
だがガブリアスが僅かに押されているのがわかった。リザードンの特性は『かたいつめ』。接触攻撃の威力が上がる特性であるため、同じ『げきりん』であったとしてもダメージは僅かにガブリアスの方が多く受ける。
「リザードン!」
レッドの掛け声に合わせてリザードンはガブリアスの一撃を飛んで回避した。その瞬間、リザードンはカウンターのように青い炎を纏ってガブリアスに突撃し、『げきりん』状態のガブリアスにダメージを与えた。
(独断のフレアドライブ!ポケモン自身の判断力が他のトレーナーと段違いの速度だわ!)
シロナレベルのトレーナーのポケモンならばトレーナー指示なく独断で行動を行うこともあるが、ここまでの速度で行動を起こせるポケモンはシロナも見たことがない。
リザードンが反動を受けた瞬間、ガブリアスは反撃に移った。
「ガブリアス!じしん!」
ガブリアスが地面に衝撃波を放つ。タイプ一致の強烈な『じしん』がリザードンに当たるが、リザードンは『フレアドライブ』で残った炎で威力を軽減した。
「……っ」
飛行タイプを無くしたリザードンに地面タイプは効果抜群。
そのためダメージが大きいことはわかっていたが、『つるぎのまい』による攻撃力上昇もあるだけでなく、ガブリアス自身の素の攻撃力の高さが想像を超えていた。そう何度も受けることはできない。
「ブラストバーン!」
「げきりん!」
青い炎がガブリアスを包み込み、爆発した。
その爆炎の中からガブリアスが咆哮を上げながら飛び出してくる。リザードンはガブリアス同様に『げきりん』によって身体に龍の力を纏ってガブリアスと組み合った。
互いに殴り合い、攻撃同士がぶつかり弾かれた。
しかし素早さの上がったリザードンはその反動をものともせず攻撃に移った。
リザードンの爪が振り下ろされる。その瞬間がシロナはスローモーションで見えた。
「ガブリアス!一歩右!」
シロナは、数々の猛者達を相手にする過程で相手のポケモンの予備動作だけで次の行動が瞬時に見切ることができるようになっていた。この見切りの極意とでも言うような技術は、シロナの強さを支える要因の一つとして挙げられる。接近戦だけでなく特殊技においてもこの最小限の動きで確実に回避できる技術というのは脅威となり、そして次の行動に繋げるための最高の切り札だった。
この見切りは訓練すれば誰でもできる。一定以上の実力を持つトレーナー達はある程度この技術を用いてバトルを行っている。実際カイムも弟子入りし、この見切りのトレーニングを行うことでかなり高精度な見切りを使えるようになっていた。
しかしシロナの見切りは他のトレーナー達とは比べものにならないほどの精度と速度を誇っており、攻撃をキャンセルできないタイミングで的確に指示を出すことによって回避不可能なカウンターを行うことが可能となっていた。
この見切りも、リザードンの攻撃がキャンセルできないタイミングで回避指示を出した。故に、リザードンは攻撃を回避され、回避されたことによって生じた隙を晒すことになる。
「…!」
だがレッドの才能は、シロナの経験と努力の上をいった。
リザードンはシロナの指示が出た瞬間、『見切られたこと』を悟った。
そしてどうするのかも瞬時に判断し、ほぼ反射で次の行動に移っていた。
このコンマ数秒にも満たない刹那の瞬間にリザードンは動く。攻撃をキャンセルし、回避行動に移ったガブリアスに攻撃の照準を定めた。
『げきりん』では間に合わない。この刹那の瞬間にできる攻撃にリザードンは即座に切り替える。
炎を纏い、ガブリアスに突撃した。回避行動を見切られたガブリアスは回避することができず、ダメージを受ける。
(このほんの僅かな瞬間に回避されることを察知しただけでなく、攻撃を切り替えてくるなんて…!)
思わず口角が上がる。
これほどまでの才能とここまで互角に戦えているという事実が嬉しくて、そしてバトルがあまりにも楽しくて。
「捕まえて!」
燃え盛るリザードンの身体をガブリアスは両腕の鎌で捕まえる。身体が熱で傷つくのも構わず、ガブリアスはその両腕でリザードンを地面に叩きつけた。
「ストーンエッジ!」
地面から突き出した岩の刃がリザードンを貫く。リザードンの急所を『ストーンエッジ』が撃ち抜き、大きなダメージを与えた。
「っ!」
これ以上のダメージを受ければ、メガシンカしたリザードンとはいえ耐えることはできない。一気に勝負を決める必要があると考えたレッドは、さらに攻撃に移った。
「げきりん!」
肉体のダメージを激情と覇気で一時的に無効化する。全身の力を漲らせ、ガブリアスに突撃してきた。
「受けて立つわよガブリアス!げきりん!」
ガブリアスも『げきりん』の力で身体を強化し、リザードンとぶつかった。互いの腕が相手の顔面を捉えてダメージを与えた。
そしてガブリアスの全霊の一撃がリザードンの身体を貫く。あまりの衝撃にリザードンは一瞬意識が飛びそうになるが、即座に持ち直して反撃の一撃を加える。
ガブリアスもリザードンも肩で息をしている。激しい接近戦で両者の体力はもう限界。
次の攻撃で決まる。シロナもレッドも同じように考えていた。
だからこそ、ポケモン達の全力の一撃をここでぶつけ合うことを決断する。
「ガブリアス!」
「リザードン!」
互いのエースを信じ、最後の指示を出す。
「げきりん!」
「フレアドライブ!」
龍と炎。異なる力を纏った二体の龍が全ての力を解放し、ぶつかり合った。
ぶつかり合った衝撃で爆発が起こり、フィールドの視界が塞がれる。だが二人はまだお互い倒れていないことを確信していた。
「じしん!」
『じしん』の衝撃をリザードンに向けて放つ。爆煙の中でリザードンは『じしん』の衝撃を受けてしまう。リザードンの体力ならこの『じしん』で倒せると考えていたが、リザードンはまだ立っていた。
「げきりん!」
ダメージを肉体が感じる前に『げきりん』による激情でダメージを一時的に上書きした。
そして龍の力を纏った状態でガブリアスに攻撃するが、ガブリアスは腕の鎌でリザードンの攻撃を受け止めた。しかし受け止めたとはいえ、ダメージが無いわけではない。
「まだよ!こんな楽しいバトル、簡単に終わらせないわ!」
シロナは思わず叫んでいた。
ここまでの二戦と同等以上にシロナは高揚していた。シロナにとってここまで熱くなれるバトルは人生の中でもそうない。全力を出し、そして楽しめるバトルはとても貴重だ。今のシロナは楽しくて仕方なかったためか、その顔は好戦的で獰猛な笑みに染まっている。
だがそれはレッドも同じだった。数年前にセキエイ高原で優勝してからたくさんのトレーナーと戦ってきたが、この大会ほど熱くバトルができた経験はなかった。
楽しいと同時に、体力も削られているため、ポケモン達同様シロナとレッドも肩で息をしている。
たのしい
くるしい
おわらないでほしい
シロナとレッド、そしてガブリアスとリザードンも同じ思いだった。
苦しいし、辛い。でもこの瞬間があまりにも楽しくて、皆笑っていた。
「ストーンエッジ!」
地面から突き出した岩の刃がリザードンに襲い掛かるが、リザードンはそれを見切って回避した。
だがシロナは回避されることを読み、さらに次の行動に繋げるように行動させていた。
「ここよ!げきりん!」
最後の力を振り絞り、リザードンに襲い掛かる。
「フレアドライブ!」
リザードンもそれに対抗して炎を纏ってガブリアスに突撃していった。
両者が全力でぶつかる刹那の瞬間、シロナは確かに見た。
リザードンがガブリアスの攻撃をダメージが少なくなるように炎の密度を上げた場所で受けながらも、僅かに龍の力も纏わせた頭でガブリアスに頭突きを喰らわせた。その攻撃により、ガブリアスは仰け反り『げきりん』状態が解除されてしまう。
レッドは帽子のつばを僅かに上げてシロナを見据えると、腕を突き出した。
「ブラストバーン」
青い炎がガブリアスを包み込み、爆発した。
リザードンの全ての力を込めた獄炎とも呼べる炎がガブリアスを襲った。炎の熱はフィールドにいるシロナだけでなく観客席にいる観客達にも伝わってきた。
暫しの沈黙の後、爆炎が晴れていく。
焦土と化したフィールドに、二つの影が立っていた。
ガブリアスとリザードン。二体のポケモンは立ったまま睨み合っていた。
「っ…!」
レッドはまさかこの攻撃を受けてなお立っているとは思っていなかった。リザードンも限界であり、『ブラストバーン』で全てを出し尽くしていた。既にリザードンは立っているだけで精一杯であり、メガシンカを維持していることすら難しい状態だった。
リザードンは限界の肉体を無理矢理動かして次のガブリアスの行動に備える。
しかし、ガブリアスは動く様子がない。何事かとリザードンとレッドは身構えるが、すぐにガブリアスの状態に気がついた。
「…見事よ、ガブリアス。あなたは最後まで、美しく、強かったわ」
ガブリアスは、立ったまま気を失っていた。
意識を失いながらも、最後まで戦う意志を捨てることのなかったガブリアスはメガシンカが維持されたまま気絶していた。
『…ガブリアス戦闘不能!よって勝者!レッド選手!』
割れるような歓声が響き渡った。
しかしシロナの耳にはその歓声は入ってこず、大きく息を吐くと暗くなった空を見上げた。
「…あーあ。終わっちゃった」
楽しい時間が終わってしまった子供のように呟いてシロナは目を閉じて微笑んだ。
シロナはフィールドに降り、なおも立ったままのガブリアスの隣に立つと背中を優しく撫でた。シロナが手を添えると同時にガブリアスはメガシンカが解除され、前のめりに倒れた。その倒れた衝撃でガブリアスは意識を取り戻す。
「お疲れ様ガブリアス。ありがとう、最後まで私を信じて戦ってくれて」
ガブリアスは目を閉じて小さく笑う。シロナもガブリアスに微笑むと、ガブリアスをボールに戻した。
視線を移すと、メガシンカが解除されフィールドに座り込むリザードンを撫でて労っていた。そしてリザードンをボールに戻すと、帽子を取って汗を袖で拭い、シロナに向き直った。
「レッド君。ありがとう。ここまで楽しいバトルができて、とても嬉しかったわ」
レッドは自分もだ、と同調するように頷いた。そんなレッドの反応を見て、シロナは笑う。このバトルを通して、二人のチャンピオンはお互いのことを知ることだけでなく、自身に足りないものに気がつくことができた。きっと二人がバトルしたからこそ気がつくことができたことだったとシロナは思った。
そしてその思いはレッドも同じだった。このバトルで自身に足りないものを見つけることができたのだから。
「またやりましょう。次は負けないわ!」
「……次も、オレが勝ちます」
レッドの言葉にシロナは満面の笑みを浮かべ、互いの健闘を讃えて固い握手を交わすのだった。
ーーー
表彰式を終え、シロナはバックヤードに戻ってくると、シロナをカイムが出迎えた。
「おつかれ」
「ええ、ありがとう」
シロナはカイムからタオルを受け取り、未だに薄く滲む汗や肌や髪についている砂を拭き取った。
「惜しかったな」
「…完敗だったわ。結果を見れば惜敗かもしれないけど、トレーナーとしての完成度はレッド君の方が上だった」
シロナがそう絶賛するほどレッドのトレーナーとしての完成度は高かった。才能だけでなく、その才能を持つ少年がトレーナーとして必要な努力を費やしてきたことがわかった。
シロナはバックヤードにあるベンチに腰掛けると、カイムの袖を引いて隣に座るように促した。カイムはその催促に大人しく従ってシロナの隣に腰掛ける。
「今ね、とっても複雑な心境なの」
カイムが隣に座ったのを確認すると、シロナは言った。
「というと?」
「負けて悔しい気持ちは大きいの。でもね、それと同じくらい『ここで負けた』って事実が大切に思えたの」
「負けた事実が大切か。シロナらしいな」
負けて悔しいという気持ちはある。できることならすぐにでも再戦を申し込みに行きたいくらい悔しい。
だがここで負けることができたおかげで、シロナがトレーナーとして足りない部分を知ることができた。その事実はシロナにとってとても大切なものに思えた。敗北は勝利以上の経験値を得られる。だからこそシロナは昔から敗北から何を学ぶかを大切にしていた。
「…挑む者だけに、勝敗という導と莫大な経験値を得る権利が得られる。『今日』敗者になったお前は、『明日』何者になる」
カイムの言葉を受けたシロナは一瞬ぽかんとするが、すぐに小さく微笑むと言った。
「私がよく貴方に言った言葉ね」
「俺にとって大切な言葉だ。敗北の意味をシロナは教えてくれた。その言葉こそ、今のシロナには必要なんじゃないかって思った」
「ええ、そうね。負けた私だからこそ、この負けた経験を次に活かせる。敗北は今の力の認識であっても、弱さの証明ではない。私は、私たちはここでは終わらない。これからも私たちはなんだってできるし、なんだってなれる。この経験を、私は大切にしていくわ」
「ああ。そのためにも今は身体を休めて、飯を食おう」
カイムは立ち上がり、シロナに手を差し出す。シロナはその手を取ると立ち上がり、カイムの目を見て笑った。
「カイム」
「ん?」
シロナは両手でカイムの顔を優しく包むと、自分の顔をカイムの顔に近づけた。
いい匂いと、口に柔らかい感触が伝わってきた。
僅か数瞬。シロナはゆっくり顔を離すと、赤く染まった顔でカイムを見つめた。カイムは咄嗟のことで反応することができず、完全にフリーズしていたが、そんなカイムにシロナは優しく微笑みながら言う。
「ありがとう。私をここまで支えてくれて。貴方がいたから私はここまでこれたわ」
カイムがいたからこそ、シロナはここまで来れた。ここまで戦えた。その想いが溢れ、行動に移ったのだった。
カイムはシロナの言葉を受けて再起動すると、小さく返事をした。
「……ああ」
「さ、行きましょう。ポケモン達を休ませないと」
「…そうだな」
シロナはカイムの手を引いてポケモンセンターへと向かった。その顔と耳が赤く染まっており、手を引かれるカイムの耳も真っ赤に染まっていた。
王者達…最強の挑戦者達の祭りが終わる。
この祭りを経て、王者達は己を見つめ直し、自身にとって必要となるものを胸に宿しながらそれぞれが同じ空を見上げていた。
今日、敗北となった者達。
今日、勝者として頂きに立った者。
明日は何者になるか。
挑戦者達は、己が進む道を見据えて明日へと向かうのだった。
『…これが、最強のトレーナー達か』
そしてこの祭りを、憎しみの宿る瞳で見つめる存在が逆襲の意志を滾らせながら見つめていた。
レジェンズアルセウスやりました。
ただまだ序盤しかできていません。とりあえずイーブイをゲットして、速攻でブラッキーにして可愛がって終わってます。
主人公ポジをシロナとカイム、先輩をテルとショウにしてヒスイ地方を旅する二人を書きたいと思いましたが、書くのはいつになるやら。多分本編完結後の番外編になるんだろうなと考えてます。
なんとなくカイムは割と脳筋だからセキと、シロナは人の感情の機微に敏感だからカイと仲良くなりそう。未熟者同士だけど年上でジムリーダー経験のあるカイムがカイのことを諭したり導いたりして、それを保護者ポジで後方からシロナとセキが見守るってのも面白そう。
このコンビ、私的にはかなり好きです。誰のご先祖なんだろう。
トーナメント編開始当初は普通にシロナさんを優勝させるつもりでした。しかしここまでの道中で圧倒的すぎるレッドの強さや原点ともいえる主人公としての背景、そしてなにより『負けることの価値』というものが私の中で大切なものとなっていたため、レッドが優勝という形になりました。
『負けたことのある経験』というのをシロナさん視点でも書いてみたかったんです。この経験を経たシロナを含めた全ての出場者はまた一層強くなるのではないかと考えております。
時折自分が書いたものを読み返してますが、バトルしてるときとイチャコラしてる時の温度差が激しいですねこの話。頭痛くなりそう。
シロナさん手持ち
ミカルゲ プレッシャー オボンのみ
ロズレイド どくのトゲ じゃくてんほけん
トリトドン よびみず リンドのみ
ルカリオ せいしんりょく ちからのハチマキ
ミロカロス ふしぎなうろこ たべのこし
ガブリアス さめはだ(すなのちから) ガブリアスナイト
レッド手持ち
ピカチュウ せいでんき でんきだま
カビゴン めんえき たべのこし
エーフィ シンクロ ものしりメガネ
フシギバナ しんりょく いのちのたま
カメックス げきりゅう オボンのみ
リザードン かたいつめ リザードンナイト(X)
シロナ
一手の差で敗北。カイムによく言った『今日の敗者達よ。明日は何者になる?』という言葉を言われ、次どうするかを考えるていく。なお、この後すぐに別の事件に巻き込まれる模様。平均レベル84
カイム
実はロケット団壊滅を目にしていた。世話焼きなのは昔かららしい。結構人たらしでコミュ力が高いが、無表情と口足らずなところが災いして友人は多くなかった(らしい)。これを機にグリーンと連絡先を交換した。
レッド
原点にして『頂点』。レッドにちゃんと道具持たせて厳選して努力値振ったらリメイクシロナさんにも勝てそう。ピカニキはレベル93まで魔改造された挙句ガブリアスとも殴り合えるくらい強くなった。正直手持ちにゲッコウガ加えるかギリギリまで迷ったけど、ゲーム原作基準の手持ちにしました。
トレーナー本人がバトルできそうなくらいの覇気を纏えるため、多分弱いポケモンは覇王色の覇気で黙らせられる。このバトルで彼自身も何かを見出した模様。平均レベル87。
グリーン
永遠のライバル。今はジムリーダーとして活躍しており、カントー地方最強のジムリーダーとして有名になった。以前と比べてかなり雰囲気も柔らかくなり、シロナの問いの答えを今も探している。
男キャラの中ではトップレベルで好き。
リーフ
もう一人の主人公。普通に強くて実力は四天王クラス。レッドが優勝した時のカントーリーグ準々決勝でレッドに敗北してベスト8。
現在は色々な地方を渡り歩き、バトルの腕を磨きながら見聞を広めている。
私が触れてきたコンテンツからキャラクターを引用してます。
今回ではポケマスから服装及びキャラクターを引用しました。レッド、グリーン、リーフは全員ポケマスのマジコスの服装です。
長かったチャンピオンズトーナメント編終了です。多少バトル書くのマシになったとは思いますが、正直私はシロナさんとカイムがイチャコラしたりポケモン達とまったりしてる方が書きやすいです。バトル書くのは楽しいのですが、あまりにも難しい。
そろそろ1周年なんですねこの話。少しの間ガチバトルばっか書いてたので1周年記念の話はひたすら二人がいちゃついてポケモンを可愛がるだけの話にする予定。
とりあえず遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
みなさんの推しタイプは?
-
ノーマル
-
ほのお
-
みず
-
でんき
-
くさ
-
こおり
-
かくとう
-
どく
-
じめん
-
ひこう
-
エスパー
-
むし
-
いわ
-
ゴースト
-
ドラゴン
-
あく
-
はがね
-
フェアリー