シリアスなのは今回までです。そして本編で初の映画題材。
めっちゃ難産でした。
誤字報告、毎度のことありがとうございます。大変助かっております。
『……ここはどこだ』
独り佇んだ存在は、世界を見ながら己に問いかける。
『私は、誰だ』
生まれた時から続けている自身への問いかけ。
『私は何処にいる』
未だにその答えは出ていない。
『私は何のために生きている』
この問いの答えを得るために、その存在は目を閉じた。
***
「招待状?」
「はい。シロナさん宛てに招待状が届いております」
チャンピオンズトーナメント決勝戦終了後、宿泊先にシロナとカイムが戻ると、ホテルの受付から予想外の言葉を言われた。
「…招待状、ね」
受付から受け取った招待状をシロナは眺める。確かにそこにはシロナの名前が記されていた。
身に覚えは全くないが、自分の名前が記されている以上突っ返すわけにもいかない。部屋の鍵と招待状を持ってカイムのもとへと歩いていく。歩いてきたシロナに目を向けたカイムはシロナが手に持っている招待状に視線を落とした。
「なんだ、それ」
「いや、私もよくわからないの。招待状…らしいんだけど」
シロナが差し出した紙を受け取ると、カイムは紙を眺める。確かにシロナへの宛名があるが、差出人の名前がない。
まだ中身は見てない様子だったため、カイムはとりあえずシロナに招待状を返した。
「とりあえず部屋で中身見ろよ。明らかに詐欺とかならシカトして捨てりゃいい」
「そうね。とりあえず疲れたし、部屋に戻りましょう」
招待状を不思議そうに眺めながらシロナはカイムと共に部屋に戻った。
部屋に戻り招待状を開くと、一枚のカードが入っていた。
「これだけ?」
「へえ、ホログラムカードか。珍しいな」
「ホログラムカード?」
「ホログラムでメッセージを送る技術だよ。カロスの方でできたホロキャスターの技術を使ってる。まだ普及はしてないから知らないのも無理はない」
「へえ…そんなものを…」
シロナはカードをまじまじと見つめる。そしてカードのスイッチを入れると、ホログラムで女性の姿が浮かび上がった。
「わ、すごい」
『突然の御無礼、お許しください。貴女様を強いトレーナーと見込んでこの招待状を送らせていただきました。私のご主人様が主催する祭典に是非いらしてほしいのです』
「……怪しさしかねえな」
何の脈絡もなくそんなことを言われても信じることはできない。詐欺だと言われても仕方ないだろう。
『日時は明日の夜。参加の意志がある場合はスタジアムの中央にお集まりください。最強のポケモントレーナーであるご主人様が、貴女を歓迎いたします』
そう言ってホログラムは日時とスタジアムの中央が記された。
それ以上変化がないことを確認すると、シロナはカイムに視線を移した。
「どう思う?」
「正直怪しさしかねえ。これに素直に乗るのはよほどの阿呆か戦闘狂だろうよ」
最強のポケモントレーナーという言葉に乗る戦闘狂であればこの招待に乗るだろう。
「うーん、やっぱ怪しいわよね」
「そりゃな。行きたいならまあスタジアムに行くくらいらいいんじゃね?」
「…そうね。正直、最強を名乗るトレーナーに興味はあるし、行くだけ行ってまずそうなら辞めようかしら」
もしこの送り主がレッドのバトルを見てなお己を『最強』と名乗るのであれば、その実力にシロナは興味があった。そしてカイムもそれを感じ取っていたため行くこと自体を止めることはしなかった。
「好きにしな。とにかく、今は飯食って休もう」
「そうね。あ、でも先にシャワー浴びていい?汗流したいわ」
「ん、行ってこい」
シロナは着替えを持ってバスルームに入って行った。
それを見届けたカイムはボールから出てきてベッドに腰掛けていたバシャーモと互いに背中を背もたれとして座ると、シロナが机に置いたホログラムカードに目を向けた。
「………」
差出人不明で送られてきたあの招待状。
差出人も気になるところではあるが、カイムが気になるのは別のところだった。
まずあのホログラムに映っていた女性。あの女性にどことなく見覚えがあったような気がした。もしかしたら知っている女性なのかもしれないが、カイムに女性の知り合いはあまり多くない。その中の全員の顔を思い出して見るが、誰とも似ていない。
また、あのカードから感じられる気配。どこかで感じたことがある気配だった。何の気配だったのかを思い出そうと色々と気配を思い出して見る。
(…ラティオス、の気配ではないわな。あいつらの気配ならすぐに思い出せる。それにあいつらがわざわざ招待状なんて送ってくるとは思えん。セレビィでもないし、スイクンでもない。あと気配を発してそうなポケモンってのもあんまいねえし…)
いくつか記憶を遡るうちに、一つの記憶にたどり着く。
「ミュウ…?」
最果ての孤島で出会った幻のポケモン、ミュウ。シロナ、ルチア、イサナと共に出向いた謎の島にいた非常に珍しいポケモンだった。
だが気配は違う。ミュウのものに似ているようにも思えるが、明らかに別物の気配。そう、違和感があるものだった。
「…わからん」
伸びをしてバシャーモに寄りかかる。寄り掛かられたバシャーモは向きを変えると後ろからカイムに抱きつき、楽しそうにカイムの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「はは…お前も三日間ありがとうな。調整の相手してくれんの、助かったよ」
バシャーモは当然だと言うように鳴く。
そんなバシャーモの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫で返してカイムは小さく笑うのだった。
*
後夜祭も終わり、静かになったスタジアムにシロナはいつものコートを着て向かって歩いていた。カイムもその付き添いとしてシロナと共にスタジアムに向かっていた。
「結局行くんだな」
「ええ。興味あるし」
「…まあ、俺も興味はある」
このタイミングで招待状を送ってきた、ということは招待状の送り主はチャンピオンズトーナメントを見ていたということ。それを見てなお、自身を『最強』と名乗ることのできるほどのトレーナーがどんなものなのかカイムも気になっていた。そしてそのトレーナーはどのような意志があって招待状を送ってきたのか。学者兼トレーナーである二人の好奇心を刺激するには十分なものだった。
「警戒はしておきましょう」
「ああ」
送り主が不明である以上、悪意からの招待の可能性もある。そう簡単にシロナがやられるはずはないが、卑劣な手段を使えば不可能ではない。それをカバーするためにもカイムは警戒心を高めて現場に臨んだ。
スタジアムのゲートからフィールドに入ると、そこには既に複数の人影が待っていた。
「あら、シロナちゃん」
「あ!シロナさーん!」
「カルネさん!アイリスちゃんも!」
そこにいたのはカルネとアイリスだった。他にもダイゴ、ミクリ、ワタル、レッド、グリーンといった錚々たるメンバーだった。全員がチャンピオンレベルの実力を持つトレーナーであり、このメンバーが集まるだけで覇気の強さが半端ではない。
「みんな…ここにいるってことはやっぱり」
「そうよ。この招待状を受けたの」
カルネはそう言ってシロナが受け取ったものと同じホログラムカードが手にあった。
「ホテルに戻ったらあたし達全員に同じ招待状が届いていたの!」
「みんな同じってことね。ということはやっぱりみんな『最強のトレーナー』って名乗る人に招待されたってことかしら」
「そうなるわ。あたし達のバトルを見た上でこの招待状を送ってきてるのだもの。興味あるわ」
「最強っていうくらいだし、きっとすごく強いんだよね!楽しみ!」
あまりにも純粋なアイリスの感想にシロナは思わず苦笑する。シロナとカイムは色々と疑った上でここに来たのだが、アイリスはそんなことを微塵も感じさせない顔でこの場を訪れていたことに少しだけ人を疑うことを覚えないといつか痛い目にあってしまうのではないか、と考えたが、余計なお世話だと考えて言うことはなかった。
そんなことを考えていたシロナにワタルが歩み寄ってきた。
「興味があって来たのはオレもだが、わざわざオレ達の戦いを見た上で招待してきたのだ。善悪はともかく、何かしら企みがあるのは間違いない。もしロケット団のような奴らであるのなら、カントーのチャンピオンであるオレが事態の収拾を計らねばならないからな」
「そうですね。何か企んでいるのは間違いないでしょうし、必要なことだと思います」
チャンピオンとして世間の秩序を守ることも勤めの一つとして存在している。そのためワタルの懸念はチャンピオンとしては当然のものだろう。
「チャンピオンのあんたらはわかるけど、なんでオレまで呼ばれたんだ?」
そうぼやいたのはグリーンだった。グリーンは確かにチャンピオン級の実力を有しているがチャンピオンではない。しかも今回の大会では一度もバトルをしていないことを考えると、グリーンが呼ばれたことは少し違和感があるような気もする。
「強いからだろ?」
「それは否定しねえけどよ…でもなんか引っかかるんだよなぁオレが呼ばれるのは。つか、なんでカイムまでいんだよ」
「付き添い」
「だと思ったよ。ったく…どこまでもシロナさん本意だな、お前」
呆れるように言うグリーンにカイムは肩を竦める。実際この中で唯一招待状を受け取っていないのはカイムだけ。カイムがここに来る理由としてはシロナ以外は考えられない。
「あといないのは…ダンデさんくらいかしら」
「ええ。多分ダンデさんにも招待状はいっていると思うけど、彼は確かかなりの方向音痴だから仕方ないわ」
そうシロナが言った瞬間、ゲートから二人の人影が入って来るのが見えた。
「あ、ほらもうみんないるじゃない!」
「いやあ、助かるよソニア。また案内してもらった」
「そもそもダンデ君にそこら辺は期待してないわよ」
わいわいと騒ぎながら現れたのはダンデとソニアだった。どうやらまたソニアがダンデを連れてきたらしい。
「あれ、カイム君」
「よう」
「カイム君は…シロナさんの付き添いだよね?じゃああたしと同じだ」
「そうなるな」
カイムはぐるりと集まったメンバーを見渡す。
思いの外たくさんの人物がこの場に集まっていた。カイムやソニアのように呼ばれた人間ではない者もいるが、それを考慮しなくてもトーナメントに参加したトレーナー+グリーンとなると、それなりの人数となる。
「カイム!」
そこで親友であるダイゴがカイムのもとへ歩いてきた。
「よ。やっぱお前もいたんだな」
「まあね。ボクがいるってことはみんなもいるだろうって思ったから」
ダイゴは笑いながら言った。自分が呼ばれた以上、シロナやミクリなどの他の参加者も来るだろうと予想した上でダイゴはここに赴いたらしい。
「さて…時間はそろそろだが、どうなるかな?」
楽しそうに笑いながらダイゴが言うと、スタジアムの照明が落ちる。そしてホログラムカードに映し出されたのと同じ女性が一同の前に姿を現した。
『皆様、ようこそお越しくださいました。誰も欠けることなく来てくださり、心からお礼申し上げます』
人間味がなく淡々と話す女性を前に一同は僅かに警戒心を強める。
『ご主人様が、皆様をお待ちです。これより会場にご案内いたします』
(案内…?どこかに連れて行くのか?)
てっきりこの場で何かをやるのかと思っていたカイムは女性の言葉に僅かに違和感を感じた。隣に立つシロナとダイゴも似たようなことを感じたのか目をすっと細めた。
そしてその瞬間、カイムとソニアを含めた全員の足元が光る。何事かと身構えた次の瞬間、一同は別の場所に飛ばされていた。
「っ⁈」
「これは、テレポートか⁈」
(テレポートなのは間違いないけど…こんな大勢を一気にテレポートできるほどの出力を持つポケモンがいるってこと⁈しかも気配は感じなかったからあの場にはいなかったってこと……遠くからこの人数を一気にテレポートさせることが可能なポケモンなんているの?)
テレポートは本来あまり使われない。その理由として、行き先が不特定であるということと、使用ポケモンの負荷が大きいということだ。行き先の問題は使用するポケモンの訓練と行き先を訪れたことがあるかどうかで解決可能だが、空間を跳躍する以上使用するポケモンにかかる負荷は思いの外大きい。それに同行者がいるとなれば尚更だ。
その事実を理解しているここのトレーナー達はより警戒心を強める。それほどまで強力なポケモンを使役するトレーナーがいるとなれば、最強だと自称することも頷けるからだ。
「ようこそ、皆様」
ホログラムで映されていた女性が、目の前にいた。女性はお辞儀をするとその背後が照らされる。
「これより、最強のポケモントレーナーであるご主人様がお見えになります」
その言葉と同時に光の中央部に一つの影が降り立った。その影は人のような形をしていたが、大きな尻尾がその影が人ではないことを物語っていた。
『…ようこそ諸君』
全員の脳内に言葉が直接語り掛けられた。
「これは…テレパシー」
「テレパシーが使えるポケモン…ってことだよな。でもポケモントレーナーって言ってた」
グリーンの言う通り、先程女性は最強のポケモントレーナーと言った。しかし目の前にいるのはどう見ても人とは思えない存在。明らかにポケモンのような風貌をした存在だった。
「お前が、最強のポケモントレーナーか?」
『そうだ。カントーチャンピオン、ワタル』
「……オレを知っているか。まあ、わざわざ名指しで招待状を送る以上当たり前か。それで?お前は誰だ」
ワタルの問いかけに相対する存在は目を閉じる。その瞬間、雰囲気が僅かに変化したことをシロナは敏感に感じ取った。纏う覇気が、寂しげに変化した。
(これは……孤独?)
テレパシーによって言葉だけでなく、僅かに感情が伝わってきた。その感情は、『孤独』。だがなぜ孤独を感じていたのかシロナにはわからない。だがその孤独は、とても深く、そして寂しいものだった。
それを隣にいたレッドも同じことを感じたのか、表情を歪めたが、シロナはそれに気づかない。
『私は、ミュウツー』
「なっ⁈お前がミュウツーだと⁈」
『ほう?私を知っているのか』
「…ロケット団がかつて、最強の人造ポケモンを利用していたという記録がある。その人造ポケモンは『ミュウツー』と呼称されていた。見た目は僅かに異なるが…なるほど。確かに見た目は似通っている」
かつてワタルが記録で見たロケット団に使役されていた人造ポケモン。その存在は『ミュウツー』と呼ばれており、目の前の存在とその姿は似通っていた。
そのポケモンは記録では壊滅時には行方不明になっており、レッドがロケット団に関与したときは既にいなかった。
『ならば話は早い。お前達を呼んだのは他でもない…この私の強さを証明するためだ』
「ポケモンが、ポケモントレーナーを?」
アイリスの言葉にミュウツーは視線をアイリスに移した。
『いけないか?ポケモンがポケモンを使役することに、何か問題があるのか?』
「…へっ、尤もだな。そんなルール、ありゃあしねえんだしな。人間並みの知性を持つポケモンなら、あり得ない話じゃない」
ミュウツーと言葉に対してグリーンは挑発するように言う。グリーンの言う通り、人間並みの知性を持つポケモンがいれば、ポケモンを使役するポケモンがいても不思議ではない。
「それで?わざわざオレ達を呼んだんだ。戦うために呼んだんだろう?」
ダンデの言葉にミュウツーは手を翳す。すると地面に穴が開き、六体のポケモンが姿を現した。そのポケモンはリザードン、カメックス、メタグロス、カイリュー、オノノクス、サーナイトだった。
「……強いな」
「ああ。かなり鍛えられているね」
ダイゴの言葉にミクリは同意する。彼らはチャンピオン。相手のポケモンを見ればどれくらい強いかをある態度把握できる。その二人が言うように、実際かなり強いことがわかった。
『さあ、どこからでもかかってこい。全員まとめて来るか?』
「いいよ!じゃあまずあたしから…」
「…待って。何かおかしいわ、あのポケモン達」
「えっ?」
カルネがアイリスを制止する。
ミュウツーはカルネの言葉にすっと目を細めると、楽しげに口元を歪めた。
『ほう…チャンピオンというのは
「カルネさん。どういうこと?」
「あのポケモン達…普通のポケモンとは違う。気配が違うのよ。なにか…根本的な何かが」
気配の違いについてはカルネ以外の者達も感じていた。だがカルネの気配や覇気を感じ取る能力はチャンピオンの中でも一つ頭抜けている。故にミュウツーが従えるポケモン達の気配に対して大きな違和感を感じていた。
「ミュウツー…貴方が何故ポケモントレーナーをやっているのかはこの際聞かないわ。でも、貴方が従えるポケモン達は一体何?明らかに普通のポケモンじゃない」
『さすがチャンピオン。いい感覚を持っているな。その感覚に免じて教えてやろう。こいつらは、私が造りだしたポケモン達だ』
「造りだした⁈」
「そんなことが…」
『そんなことができるの?』と言おうとしてシロナは止まる。過去に数体ほど人がポケモンを作り出した事例は存在しているからだ。ポリゴンがいい例だろう。シルフカンパニーが作り出したポケモンであり、今となっては野生でも時折見られるほど普及した存在となった。
だが目の前にいるのは人造ポケモンではなく、既に存在している種類のポケモン。造りだしたということは、新たな種類ではなく個体として造り出したということだ。
それらを踏まえてカイムは一つの答えを導き出した。
「コピー技術か」
「コピー技術…なるほど。そういうことなら確かに可能ね」
カイムの言葉にソニアは顔を顰めながら同意する。
かつてある研究者によって確立させられた『コピー技術』。この技術によって生み出された存在はクローンとも呼ばれているが、主にコピーと呼称されるものだった。
生み出されたコピーは基本的に素となる存在と同等の能力を持つが、遺伝子の都合など色々な不具合によって劣化が激しく長持ちしないという欠点があるだけでなく、倫理観の問題などからも普及するには至らなかった。
「そのコピー技術を使って、そいつらを生み出したってか?」
「そうなるわね。どうやったかまでは、わからないけど」
グリーンの言葉をシロナは肯定する。
ミュウツーはそんなことはどうでもいいとでも言うように言葉を発した。
『無駄話はこのくらいでいいだろう。お前達から来ないのなら、こちらから行かせてもらうぞ。カイリュー、はかいこうせん』
ミュウツーのカイリューが口にエネルギーを溜め、一気に放出してきた。それを見たワタルは即座にボールからカイリューを繰り出す。
「カイリュー!はかいこうせん!」
ワタルのカイリューも『はかいこうせん』を発して攻撃に対応する。『はかいこうせん』同士がぶつかり合い、凄まじい衝撃が響き渡るが、ワタルのカイリューの攻撃が押されていた。
「なにっ⁈」
「ネンドール!ひかりのかべ!」
ダイゴは咄嗟にカイリューの前に『ひかりのかべ』を展開させることでカイリュー及びワタルにダメージが入ることを防いだ。もしダイゴが『ひかりのかべ』を展開させてなければ、カイリューはもちろんワタルも巻き込まれていた可能性がある。
「すまないダイゴ君。助かった」
「ええ。でも、あのコピーカイリューのはかいこうせん…どうみても普通じゃない。明らかにオーバーパワーだ」
「ああ。ポケモンが一個体として出すことのできる威力を超えているようにも思える」
ポケモン達も生物である以上、限界がある。どんな天才が最高効率で鍛え続けたとしても、どこかで数値的なものでは限界が訪れるものだ。技の威力などどれほど使いこなそうと威力の限界というものは割と簡単に訪れてしまうものだ。
しかし今コピーカイリューが放った『はかいこうせん』は明らかに一個体として出せる威力の限界を超越していた。そうでなければワタルの鍛え上げたカイリューの攻撃がここまで簡単に破られるはずがない。
『私が造りだしたコピーポケモン達は、オリジナルよりも強くなるように設計されている。通常のポケモン達が出せる限界など、生まれた段階で超越している』
「遺伝子操作、ってことよね」
遺伝子を操作することでより強力な技を出せるようにした。ミュウツーはそう言った。
にわかには信じられない言葉だが、今の攻撃と攻撃してきたポケモンがコピーポケモンであることを考えるとあり得ない話ではない。
『仮にベースとなる存在がいたとしても、それをより改良して強くするように設計してしまえばこの通りだ。やはり貴様ら人間の存在など、取るに足らないのだな』
「おいおい言ってくれんじゃねえか。造りだされたかなんだかしらねえが、あんま舐めたこと言ったんじゃねえよ」
『ほう?なら試してみるか?』
ミュウツーがそう言うと、コピーカメックスが前に出てくる。それを見たグリーンは舌打ちをすると、ボールを取り出した投げた。
「いくぞカメックス」
ボールから出てきたカメックスはグリーンに同調するように鳴いた。
「カメックス!ハイドロカノン!」
『ロケットずつき』
カメックスが放った『ハイドロカノン』に対してコピーカメックスは『ロケットずつき』で突き破ろうとしてくる。本来なら『ロケットずつき』で対応できる威力ではないが、コピーカメックスは『ハイドロカノン』を突き破ってきている。
『ふん…この程度か』
「なに余裕ぶってんだよ!カメックス!射線をずらせ!」
カメックスは『ハイドロカノン』の射線をずらして下から掬い上げるような射線にすることでコピーカメックスを打ち上げた。
『!』
「きあいだま!」
打ち上げられたコピーカメックスに『きあいだま』をぶつけた。直撃したコピーカメックスは倒されることはなかったものの大きなダメージを受けた。
「へっ!どーだ!どんなにステータスが高くてもなぁ!それを上手く扱う頭がなきゃバトルにゃ勝てねえんだよ!」
実際コピーカメックスのステータスはグリーンのカメックスよりも高い。故に普通にぶつかればコピーが勝つのは当たり前だが、グリーンのように工夫できればいくらでも勝ちようはある。グリーンはそういった。
『なるほど…さすがチャンピオンの名を冠する者達だ。私のコピーポケモンを相手にできるとはな』
ミュウツーはグリーンを見据えると、自身に宿る強力なエネルギーを駆使して城を操作し、壁を開け放ってフィールドを展開させた。
『狭い場所では互いに動きづらかろう。互いの全力を見るためにも、フィールドに移動しようではないか』
「………」
「…上等だ。乗ってやる」
レッドとグリーンはミュウツーの後に続きフィールドへと移動していく。他のチャンピオン達もそれに続くが、カイムはその場から動こうとはしなかった。それを見たシロナは足を止めてカイムに声をかけた。
「カイム?どうしたの?」
「…シロナ。俺は一旦別行動を取る」
カイムの言葉にシロナは一瞬目を見開くが、すぐにカイムなりに考えがあるのだろうと考えた。
「何か、考えがあるのよね」
「ああ。それに、俺の実力じゃこの戦いについていけねえ。ならもっと他に事態を収拾するための情報集めした方がきっといい」
「……そうね」
先ほどのグリーンやワタルの攻防を見てわかったが、ミュウツーの使役するコピーポケモンはレッドの鍛えたポケモンよりも強い。技術においては鍛えられていないようだが、単純なステータスはかなり高い。力でゴリ押しするだけで四天王レベルのトレーナーですらやられかねない。
「じゃああたしも行くわ。あたしも、バトルじゃそんな役に立てないし」
カイムの言葉にソニアも同行を申し出た。確かにソニアもバトルでは役に立てないいわば巻き込まれた存在。ならばカイムに同行して情報を集めた方がいいだろうという判断だった。
「…そうね。カイム、ソニアさんを守ってあげてね」
「ああ」
「カイム…で、いいんだよな」
集団の中からダンデが歩いてきてカイムに視線を向けた。視線を向けられたカイムは一瞬身構えるが、すぐにダンデがソニアについてだろうとダンデを見据えた。
「思いの外、やばい事態みたいだ。ソニアのこと、頼んでいいか?」
「はい。なんとかします」
「いい返事だ」
ダンデは頷くとカイムの肩を叩き、マントを翻してフィールドに歩いて行った。
「ソニアを頼む」
それだけ言ってダンデはチャンピオン達のもとへ向かっていった。
残されたシロナはカイムに目を向ける。
「カイム。無茶しないでね」
「無茶でどうにもならないなら無茶せん」
「もう…捻くれ者なんだから」
カイムは首から下がっているリングのペンダントをシロナに渡した。
「後で返してもらう。預けておく」
シロナはペンダントを受け取ると、真剣な表情で頷いた。
「ええ」
「シロナも無事で。ソニア、行くぞ」
「うん」
カイムはソニアを伴って走っていった。
その背中をシロナは不安そうに見つめ、青い指輪をそっと握りしめながらダンデ達のもとへ歩いていった。
「それで?キミは一体何が目的なんだ?ミュウツー」
フィールドでミュウツーと相対したチャンピオン達の中でミクリがそうミュウツーに聞いた。その問いかけにミュウツーは目を細める。
『…私の目的?先ほど言ったはずだ。私の強さを証明することだ』
「ああ。でもそれは目的の一つだろう。キミが一番重きを置いていることを、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
ミクリは、ミュウツーの『強さを証明する』という目的が本当の目的ではないと考えていた。無論それ自体も嘘ではないのだろうが、ミュウツーにとって一番の目的ではない。根拠はないが、そう思える何かがミュウツーにはあった。
『…私のポケモン達を全て倒せたら、その問いに答えよう』
フィールドがライトアップされると、地面からさらにポケモン達が出現した。
そのコピーポケモン達は、チャンピオン達のエースポケモンのコピーだった。
「ミロカロスにピカチュウ…ガブリアスまで…」
『さあ。お前達の力を見せてみろ』
ミュウツーの言葉と同時にコピーポケモン達が襲いかかってくる。
「相手は強い!互いをカバーしあいながら戦うぞ!」
ワタルはそう言ってコピーカイリューに自身のカイリューをぶつけた。その言葉にレッドとグリーンは顔を見合わせると、真剣な表情で頷いた。
「………」
「いくぞレッド。オレ達の相手はあいつらだ!足引っ張るんじゃねーぞ!」
レッドとグリーンはコピーピカチュウとコピーカメックスに対して自身のポケモンを繰り出した。
「10まんボルト!」
ピカチュウの『10まんボルト』がコピーカメックスを襲う。しかし攻撃によって生まれた隙にコピーピカチュウが『アイアンテール』で攻撃を仕掛けてきた。
「貸しだぜレッド!カメックス!ピカチュウを守れ!」
ピカチュウに迫っていた『アイアンテール』をカメックスは正面から受け止める。完全に防御体勢に入っていたのにも関わらず、カメックスは僅かに押された。
(おいおい威力高すぎだろ)
水タイプのカメックス相手に鋼タイプの『アイアンテール』は効果今一つ。だというのにカメックスが防御において僅かに押し負けている。先程の攻防も含めて、気を抜けば間違いなくやられるということをレッドとグリーンは強く自覚した。
「カメックス!叩きつけろ!」
受け止めたコピーピカチュウの尻尾を掴み、そのまま地面に叩きつけようとするが、ピカチュウは驚異的な身軽さでカメックスから逃れた。
だが抜け出されることをグリーンは読んでいた。
「そのくらいやってくるわな!みずのはどう!」
コピーピカチュウの回避先に『みずのはどう』を撃ち込む。コピーピカチュウはなんとか『みずのはどう』を回避したが、その瞬間レッドのピカチュウが『でんこうせっか』で肉薄し、『アイアンテール』で撃ち落とした。
「いいじゃねえか。さすがオレのライバルだぜ!」
「………」
グリーンの言葉にレッドは口元を緩める。
だが気を抜いた一瞬、コピーカメックスが立ち直りピカチュウに突撃してきた。
「カイリュー!りゅうのはどう!」
『りゅうのはどう』がコピーカメックスに直撃し、ピカチュウに攻撃することを未然に防いだ。
「グリーン君!」
「わかってるぜ!」
ワタルのカイリューがピカチュウのカバーに入ったことにより、一瞬コピーカイリューがフリーになるが、グリーンはそれを見逃さなかった。
「ふぶき!」
タイプ不一致だが、強烈な冷気がコピーカイリューを襲った。大きなダメージを与えるが、コピーカイリューは倒れることなく憎しみの籠った目を依然として向けてくる。
「ボルテッカー!」
『ふぶき』を発動したカメックスにコピーピカチュウが『ボルテッカー』で攻撃してくるが、レッドのピカチュウも『ボルテッカー』でぶつかることで相殺した。反動ダメージを僅かに受けるが、両者共動きに支障はない。
「………」
「こいつは…思ったよりしんどいな」
「ああ。普段のバトルのようにルールが無い以上、横槍がいつでも飛んできかねん」
ルール無用の殺し合いに等しい戦い。そんな状況である以上、一瞬でも隙があればそこを突かれかねない。なにより相手の耐久力が異様だ。コピーカイリューはタイプ不一致とはいえ4倍弱点の『ふぶき』を受けているのにダメージを受けた様子がない。
(ダメージがねえ…というより、ヒットポイントが果てしない感じだな。色々といじくれるならそれも不可能じゃねえか)
ダメージはある。それは間違いない。
だがこれだけ攻撃してダメージが無いようにも見えるということは、体力と防御が尋常ではないのだろうとグリーンは考えた。
「互いにカバーし合おうのがいいだろう。幸い、向こうは連携はしてこないようだ」
「………」
「だな。いくぞカメックス!」
「ピカチュウ!」
「さあいくぞ!カイリュー!」
カントーの三人、レッド、グリーン、ワタルは襲い掛かるコピーポケモンを迎え撃つために互いに連携しながら突っ込んでいった。
一方、ダイゴとミクリは一対一の戦いをしつつ、互いにカバーする戦いをしていた。
「メタグロス!しねんのずつき!」
「ミロカロス!メタグロスのカバーだ!ねっとう!」
コピーミロカロスにダイゴのメタグロスが『しねんのずつき』で攻撃するが、その隙を突いてコピーメタグロスが不意打ちを仕掛けてくる。それをカバーするためにミクリのミロカロスが『ねっとう』で攻撃することでメタグロスにダメージが入ることを防いだ。
「助かったよ、ミクリ」
「気を抜かないようにね、ダイゴ。相手はとても強い。とてもエレガントとは言い難い目をしているがね」
コピーポケモン達は皆こちらを憎むような目をしている。何故そのような目で見てくるのかはわからない…いや、なんとなくはわかっているのだが、それがここまでの憎悪を滾らせる要因となり得るのかをミクリは図りかねていた。
「うん、わかってる。どうもボク達を憎んでいるようだね。彼ら個人に何かをした覚えはないが…まあ、彼らからしたらそんなこと関係ないよね」
「何にしても、まずは倒さないといけない。でないと本丸に辿り着けないのだからね」
「だね。ただ彼ら、異常なほどタフなんだけど」
既に何度も攻撃を直撃させているのにも関わらず一向に倒れる気配がない。それどころかどんどん攻撃の威力が上がってきている。
いくらチャンピオンレベルのポケモンとはいえ、相手の攻撃が強力である以上そう何度も攻撃を受ける余裕はない。ミロカロスは『じこさいせい』があるが、メタグロスはそうはいかない。
「カイム達も心配だし、できることなら早めに片付けておきたいんだけど…そんなこと言ってる余裕ないな」
トーナメントの時とは違う意味で余裕がない。今はコピーメタグロスとコピーミロカロスのみを相手にしているが、時折他のコピーポケモンから横槍が飛んでくる。故に目の前の相手に集中すればいいというわけではない。何よりコピーポケモン達のステータスが高すぎる。
「わざわざボク達のエースポケモンをコピーしてくるあたり、ミュウツーの目的はポケモンというより
コピーメタグロスを相手にするメタグロスに指示を出しながらダイゴは呟く。もし強力なポケモンを造り出し、強さを証明するという目的であればすでにその目的は達している。ここまでチャンピオン達が苦戦を強いられている以上、コピーポケモンの強さは証明されたに等しい。
加えて、ミュウツー自体は明らかにコピーポケモン達よりも強い覇気を纏っている。レッドといえど、あのミュウツーを相手にするのはかなり骨が折れることになるだろう。
そうなると、強さを証明する、という目的とは別に何か目的があると考えられる。
そこまで考えた瞬間、コピーメタグロスの『バレットパンチ』がメタグロスを襲った。効果今一つの技のはずだが、ダメージが大きい。
(素の攻撃力が高すぎる…集中しないとダメだ)
トレーナーの指示が無いにも関わらず、コピーポケモン達の判断力は一般的なトレーナーが指示を出しているのと同レベルの動きをしている。チャンピオンであるダイゴからすれば穴は多い行動だが、異常なまでのパワー、スピード、体力がその穴を感じさせないくらいの強さに仕立て上げていた。
「まだやれるかい?ダイゴ」
「誰に言っているんだ?ボクはホウエン地方で一番強くてすごいトレーナーだよ。メタグロス!アームハンマー!」
ミクリの問いかけにダイゴは不敵に笑いながら応え、それと同時にメタグロスがコピーミロカロスに『アームハンマー』を振り下ろすのだった。
「オノノクス!りゅうのまい!」
「サーナイト!オノノクスのカバーよ!ムーンフォース!」
オノノクスの『りゅうのまい』による能力強化をしている隙をカルネのサーナイトが『ムーンフォース』によってカバーし、追撃されることを防いだ。
「ありがとうカルネさん!オノノクス!アイアンテール!」
素早さと攻撃力が上がったオノノクスがコピーサーナイトに硬化した尻尾をぶつけた。フェアリータイプを持つコピーサーナイトに大きなダメージを与えたが、即座に反撃に移ってくる。
「下がって!」
コピーサーナイトの『ムーンフォース』をオノノクスは回避する。
その背後からコピーオノノクスが襲ってくる。
「サーナイト!」
コピーオノノクスの『げきりん』をサーナイトが体を張って止める。フェアリータイプを持つサーナイトにドラゴンタイプの『げきりん』は無効。
「ムーンフォース!」
コピーオノノクスは大きなダメージを受けて吹き飛んだ。
タイプ一致の効果抜群技を受けた以上、本来なら即座に復帰できることはない。しかしコピーポケモンは異常なまでの耐久力を持つ。そのため体勢を立て直したコピーオノノクスは再び目の前にいるサーナイトに『アイアンテール』で攻撃してきた。
「オノノクス!ダブルチョップ!」
攻撃されたサーナイトを今度はオノノクスがカバーする。
「ありがとうアイリスちゃん」
「大丈夫!でも、油断できないよ」
「…そうね」
タイプ相性的に二人は互いにカバーし合いながら戦っているが、いかんせん相手の耐久力が高すぎる。どんなにダメージを与えても何事もなかったように立ち上がってくる。また、動きそのものはともかく、ステータスの高さは凄まじい。下手に受ければ、簡単に倒されてしまう。
「お互いをカバーしながらやりましょう。私たちならできるわ」
「………」
「アイリスちゃん?」
「え?ああ、ごめんなさい。大丈夫」
どことなく上の空気味になっていたアイリスにカルネは違和感を感じる。
「…何か、気がかりでもあるの?」
指示を出しながらもカルネはアイリスに聞く。アイリスも戦闘から目を離すことなく頷いた。
「…あのオノノクスね、なんだか変なの」
「変?」
「うん。こっちに向けてきてる感情がね、なんか変。あたし達が嫌いなのかなって思ってたけど…違うみたい。なんかこう…執着してるような感じがするの」
アイリスは、ワタルとは違う意味でドラゴンと心を通わせることができる。それ故に、コピーオノノクスの感情がなんとなくアイリスは読み取れた。
その読み取れた感情は、憎悪に混ざって『執着』の感情があった。その執着の対象はアイリス…いや、『人間』と『オノノクス』だった。
「執着?」
「…うん。なんでかまでは、わからないけど」
(…執着…コピーであることが関係してる?)
彼らがコピーではない存在に執着するのはなんとなくわかるが、人間に対する執着が何故あるのかはわからない。さすがのカルネといえどもこれだけの情報では結論は出せない。
(コピー…ミュウツー…執着………もしかして)
なんとなく仮説を立てることはできたが、推測の部分が多すぎる。
やはりまず目の前のコピーポケモン達を戦闘不能にするしかないとカルネは考えた。
「アイリスちゃん、カバーをお願い!」
「まかせて!オノノクス!ちょっと耐えるよ!アイアンテール!」
「サーナイト!オノノクスが抑えている間にめいそうよ!」
迫り来るコピーオノノクスとコピーサーナイトを『アイアンテール』で弾き飛ばし、その隙にサーナイトは『めいそう』で特攻と特防を上昇させた。
「ありがとうアイリスちゃん!交代よ!」
「りょーかい!オノノクス!サーナイトとスイッチだよ!」
オノノクスが下がると同時にサーナイトが前に出る。
「マジカルシャイン!」
フェアリータイプの光が広がり、効果抜群のコピーオノノクスは吹き飛ばされたが、等倍のコピーサーナイトはダメージをものともせずに『ムーンフォース』を放とうとしてくる。
「シャドーボールで相殺!」
『ムーンフォース』と『シャドーボール』がぶつかり合い、相殺される。本来ならタイプ一致かつステータスの高いコピーサーナイトの『ムーンフォース』が競り勝つのだが、『めいそう』を積んだおかげで相殺にまで至った。
「アイアンテール!」
その攻撃の隙を突いてオノノクスが『アイアンテール』を直撃させた。
「ナイス、アイリスちゃん」
「カルネさんもすごい!」
即興のコンビネーションではあるが、ハイレベルな二人が組むことで凄まじいレベルへと昇華されていた。いくらステータスが高いとはいえ、これほどのコンビネーションを見せられては簡単には倒しきれない。
「さあ!このまま押し切るわよ!」
「うん!」
トレーナー達に同調するようにオノノクスは咆哮を上げ、サーナイトは優雅な鳴き声をあげるのだった。
「リザードン!りゅうのはどう!」
ダンデの『りゅうのはどう』がコピーガブリアスに直撃した。その瞬間、コピーリザードンが迫ってくるが、ガブリアスがそれを押し戻した。
「ストーンエッジ!」
ガブリアスの『ストーンエッジ』がコピーリザードンを襲う。直撃は避けられたが、4倍ダメージの攻撃は大きなダメージになる。コピーリザードンは押し戻された。
その瞬間、ガブリアスとリザードンは位置を即座に入れ替えた。
「ガブリアス!げきりん!」
「リザードン!エアスラッシュだ!」
ガブリアスの『げきりん』、そしてリザードンの『エアスラッシュ』がそれぞれのコピーに直撃する。それによってコピーガブリアスとコピーリザードンはようやく倒れた。
「はあ…はあ…ようやく倒れたな」
ダンデは帽子を取り、袖で汗を拭う。シロナも大きく息を吐き、ガブリアスを労い、体力を回復させた。
最低限回復を済ませると、シロナはダンデに向き直った。
「ごめんなさいダンデさん。たくさんフォローしてもらっちゃいました」
「構いません。それに、オレだけじゃ多分こいつらには勝てなかった。助けてもらったのはお互い様です」
「…ありがとう」
シロナは目を伏せる。そんなシロナをダンデは見ながら思案する。
(確かにシロナさんの動きはよくなかった。オレとバトルした時と比べて気持ちがノッてなかったな。バトルの疲れというより…この戦いの意味を考えてしまっていたのだろう。だから最後までボルテージが上がりきらなかった)
バトルに気持ちが乗っていないという意味ではダンデも同じだった。気持ちに左右されないほど確固たる実力があるからこそここを戦い抜くことができた。
(まあ、ノッてなかったのはオレもだが)
突然連れて来られた挙句によくわからず戦わされればそうなるだろう。
現にダンデもあまりこの戦いに乗り気ではなかった。
「………」
ダンデの考えた通り、シロナはこの戦いの意味を考えすぎてしまっていた。ミュウツーの目的、コピー達がここまでこちらに憎悪をむけてくる理由、カイム達の安否、そしてミュウツーを造った人物について。
「ミュウツー…」
シロナはこちらを見据えるミュウツーを見つめた。
ミュウツーもシロナの視線に気づき、目を細め、周囲を見渡す。他のコピーポケモン達もチャンピオン達によって鎮圧され、戦闘不能になった。
「よお!お前の望み通り倒してやったぜ!」
カメックスを伴ってグリーンは挑発するようにミュウツーに言った。その言葉に反応したミュウツーは僅かに口元を歪める。
『ほう…さすが世界最高峰のトレーナー達だ』
「世辞はいい。約束通り、キミの目的を教えてくれるかい」
ミュウツーの言葉を遮るようにミクリは言う。ミクリの言葉にミュウツーは一度目を閉じると、凄まじい覇気と共にシロナ達を見据えた。
『いいだろう。お前たちの強さに免じて、答えてやる。私の目的…それは、ポケモンを人間達から解放し、人間の世界を破壊することた』
「人間の世界を…破壊」
『そうだ。貴様ら人間は、どうしよもなく醜く、矮小で愚かだ。一人ではなにもできない貴様らがこの世界の頂点に位置する種族となっている。このままお前たちに世界を任せていては、この世界は駄目になる』
ミュウツーは生まれてからそう時間は経っていない。その僅かな時間で見てきた世界は、醜かった。己の欲望のためにミュウツーを利用する者やミュウツーに挑み、何もできずに崩れ落ちる者。卑劣な手でミュウツーを倒そうとする者もいた。ミュウツーの目にはそれら全てが醜く、無価値なものにしか見えなかった。
そして、なによりも大きな思い。それは、己の存在理由。幾度も自身に問いかけ、自分について調査もした。しかしなにもわからなかった。胸に穴が空いたような虚無感。それを造り出した人間という種族への、抑え切れない怒り。その人間がこの世界を支配しているという、やるせなさ。
『お前たち人間が、私を造り出した。だが私は、造ってほしいなどと頼んだ覚えはない。理由もなく造り出され、訳もわからず利用した挙句、私の存在理由すらも答えられない。そんな愚かなお前たちを排除するために、私は動いている』
「貴方の目的は…人間への復讐?」
『復讐?いいや違う。これは復讐ではない。私は、私を生んだ全ての存在を恨む。だからこれは攻撃でも復讐でも、宣戦布告でもない。これはお前たち人間への逆襲だ』
ミュウツーはそこで言葉を切り、小さく息を吐いた。
『だから世界で最も強いお前たちを集め、私のコピーの強さを見せつけた上で叩き潰そうと考えたのだが…そう簡単にはいかないらしい』
「ボク達はチャンピオンだ。キミが世界を混乱に陥れるつもりなら、ここで止める!」
『止める、か。いいだろう…止めてみせろ』
その瞬間、ミュウツーの全身から凄まじいエネルギーが発せられた。今まで感じたどのポケモンよりも強く、冷たい覇気。それはチャンピオン達が恐怖するには十分すぎるものだった。
「っ……!」
チャンピオンの中でも実力が頭一つ出ているレッドですら、その覇気に冷や汗を流し、思わずバングルに手を伸ばすほどだった。
『いくぞ』
「っ!ギルガルド!キングシールドだ!」
ミュウツーの放った『シャドーボール』をダンデが咄嗟に出したギルガルドの『キングシールド』によって防ぐ。だがあまりの威力の高さに『キングシールド』で防ぎきることができず、弾き飛ばされた。
「ギルガルド!」
(キングシールドを貫通してくるなんて…なんて威力なの⁈)
『まもる』同様、ポケモンの攻撃を完全に防ぎ切ることができるほどの防御力を誇る『キングシールド』。それを突き破るだけでなく、戦闘不能直前までダメージを与えられるとなると、威力は計り知れない。耐久力の低いポケモンでは一撃でやられてしまうだろう。
『まず一体』
満身創痍のギルガルドに向けてミュウツーは『サイコブレイク』を放つ。念力の塊がギルガルドに迫るが、シロナはそこに向けてボールを投げた。
「ミカルゲ!」
ギルガルドの前にミカルゲが飛び出し、ミュウツーの『サイコブレイク』を受ける。悪タイプを持つミカルゲにエスパータイプの技である『サイコブレイク』は無効。ミカルゲはダメージを受けることなくミュウツーの攻撃を受け切った。
『ミカルゲ…悪タイプか。小賢しい』
「すまないシロナさん。助かった」
「大丈夫よ。ただ…ミュウツーの強さは、さっき倒したコピー達よりも遥かに強い」
コピー達との戦いでこちらは少なからず消耗している。そこにあれほどの力を持つポケモンを相手にするとなると、総力戦だとしても、勝ち目は薄い。
『私がエスパータイプだと知っていたのか?』
「気配でわかるわ。それに、あなたの
シロナの言葉にミュウツーは目を見開き反応した。
『お前…私のオリジナルを知っているのか?』
覇気がさらに上がる。その覇気を一身に受けたシロナは思わず後退りそうになるが、足に力を込めて正面から対峙する。
「…ええ」
『オリジナル…私のもととなった存在、ミュウ。奴のことを知っているのか』
「そうだと、言ったはずよ」
嘘ではない。シロナは最果ての孤島でミュウと遭遇しているし、触れ合いもした。目の前にいる存在がミュウツーならば、ベースとなったのは恐らくシロナが遭遇したミュウだろう。
ミュウの存在を認知していることを言ったことは後悔していない。こちらに気を向けさせれば、その間に回復や対策ができる。だがここまで反応されることはシロナとしては予想外だった。
『貴様、名はシロナといったか』
「ええ、そうよ」
『ミュウは、どこにいる』
ミュウツーの言葉にシロナは一瞬思案する。この言葉の真意がわからなかったからだ。ただミュウに会いたいだけなのか、それともミュウに対して何かしらの害意があるのか。それがわからない。
「どうして、ミュウの場所を聞くの?」
『そこまで答える気はない。言わないのならそれでいい。吐かせるまでだ』
「シロナさん!」
ミュウツーの放った『サイコブレイク』は真っ直ぐシロナに向けて飛んでいくが、それをミクリのミロカロスが庇った。
「ミラーコート!」
受けたダメージをそのまま倍にして弾き返す。しかしミュウツーは自身にバリアを展開することで『ミラーコート』によるダメージを無効化した。
『ミラーコートか…小癪ではあるが、悪くない手だ』
「…ミラーコートも効かないか」
『効果はあるぞ?当たれば、だがな』
ミュウツーは再び『サイコブレイク』を放つ。ミロカロスは先程のダメージから立ち直ることができておらず、回避ができない。この攻撃を受けたら、ミロカロスは戦闘不能に陥ってしまう。
「サザンドラ!」
そのミロカロスをアイリスのサザンドラが庇った。だが悪タイプのポケモンが庇ってくると予想していたミュウツーは『サイコブレイク』の影に『きあいだま』を忍ばせていた。
「やばっ⁈」
「サーナイト!サイコキネシス!」
『きあいだま』をサーナイトが『サイコキネシス』で軌道を変化させ、サザンドラが『きあいだま』を受けることを防いだ。
「ありがとうカルネさん!」
「大丈夫よ。ただ…」
『きあいだま』の弱点タイプであるタイプ一致『サイコキネシス』でも軌道を逸らすことで精一杯だった。コピーポケモン相手ならできたが、ミュウツーの相手をするとなると、全力で行かざるを得ない。
「出し惜しみしてる余裕は、ないわね」
「仕方ないさ。相手がこれほどまで強いとなると、使わざるを得まい」
カルネの真意を読み取ったワタルも前に出てくる。そしてボールを二つ手に取り、そこから二体のカイリューが姿を現した。
「オレも付き合いますよ」
ダンデはワタルの隣に並ぶと、リザードンを出す。この場ではダンデはダイマックスを行うことができないため、奥の手を持つトレーナー達のことをフォローする動きに切り替えた。
「君と肩を並べて戦う日が来るとはな」
「オレは嬉しいですよ」
「ああ、そうだな」
ワタルとダンデは不敵な笑みを浮かべて頷くと、真剣な表情になってミュウツーを見据えた。
ミクリもそこに加わろうとするが、先程の攻撃のダメージが大きい。すぐにミロカロスの回復に専念すべきだと判断し、ミロカロスを『じこさいせい』によって回復させる。
『止めてみせるんだな』
ミュウツーの放った連続の『シャドーボール』が襲ってくるが、ワタルとダンデは動じることなく動いた。
「リザードン!エアスラッシュ!」
「カイリュー!ふぶき!そしてひかりのかべだ!」
片方のカイリューが『ひかりのかべ』を展開することで『シャドーボール』の威力を格段に下げ、そこにリザードンの『エアスラッシュ』と広範囲の『ふぶき』が加わり、放たれた全ての『シャドーボール』を相殺した。
『!』
「こんなもんじゃ終わらないぜ!だいもんじ!」
「二人ともはかいこうせんだ!」
リザードンの『だいもんじ』と二体のカイリューによる『はかいこうせん』がミュウツーに向けて放たれた。直撃すればミュウツーでも大きなダメージを受けるだろうが、素直に受けるようなミュウツーではない。バリアを展開し、攻撃を防いだ。
その瞬間、ワタルとダンデはカルネ達の方を見て頷く。ワタル達の行動を無駄にしないために、カルネは頷いた。
「…いくわよ」
カルネは、キーストーンに手を添えながら言った。
その言葉にレッド、グリーン、ダイゴは頷く。シロナも一瞬迷ったが、ここで躊躇う余裕はないと判断し、胸元のブローチを外す。
「………」
「ああ!全力でいくぜ!」
「ボク達の全霊を見せる!」
「……やるしか、ないのね」
五人のキーストーンがポケモン達の持つメガストーンと共鳴し、眩い光を放った。
「「「「「メガシンカ!」」」」」
サーナイト、リザードン、カメックス、メタグロス、ガブリアスがメガシンカによってパワーアップする。放たれる覇気の強さはミュウツーにも引けを取らないほど強い。
『ほう…メガシンカか』
「これなら負けねえ!いくぞカメックス!ハイドロカノン!」
メガカメックスの放った『ハイドロカノン』がミュウツーを襲うが、ミュウツーはバリアを展開することでそれを防ぐ。
「サーナイト!10まんボルト!」
メガサーナイトの放った電撃がカメックスの放った水流にぶつかり、水煙があがった。レッドはカルネの真意を即座に汲み取り、リザードンに指示を出す。
「ブラストバーン!」
リザードンの放った炎がミュウツーを包み込む。その瞬間、サーナイトの電気によって分解されたカメックスの水が炎と触れ合い、大爆発を起こした。その勢いは凄まじく、フィールドに立つ全員が余波に耐えることしかできないほど強いものだった。
(水素が爆発したのね…)
水は水素原子と酸素原子によって構成されており、電気によって分解することができる。そして水素は、火に触れることで爆発する。
グリーンの攻撃を見て咄嗟にこれを思いついたカルネと、その真意を即座に読み取ったレッド。即興でこれだけのコンビネーションができるのはチャンピオンの技量あってのことだろう。
だがこれで倒すには至っていないことを全員が確信していた。ミュウツーを倒す上でなによりも厄介なのがミュウツーを包むあのバリア。あれを破らなければダメージを与えることは不可能。だからカルネは水素爆発によってバリアを一度吹き飛ばすことを選んだ。あれだけの威力があれば、バリアを破るか疲弊させることはできるだろう。
そして爆炎の中、メタグロスとガブリアスがミュウツーに向けて攻撃を放つ。
「コメットパンチ!」
「げきりん!」
硬化した腕と強化された鎌が爆煙の中で立ちすくむ影に向けて振り下ろされる。これで倒すことはできなくとも、ダメージを与えることができる。そう考えていたが、ミュウツーはチャンピオン達の思惑の上を行った。
メタグロスの拳が止まり、ガブリアスが弾き飛ばされる。
「なっ⁈」
「ガブリアス!」
『さすが各地方最強のチャンピオンだ。まさか、私のバリアを剥がすに至るとはな』
爆煙が晴れていく。
そこにいたのはミュウツーなのだが、姿が変わっており、纏う覇気の強さが段違いになっていた。
「まさ、か…メガシンカか?」
『メガシンカはお前たちだけの切り札ではない』
ミュウツーは、残された自身とオリジナルであるミュウの記録、そしてメガシンカの仕組みを解明することでキーストーンを媒介にせずともメガシンカすることを可能としていた。
メガミュウツーY
リザードン同様、二種あるメガシンカのうちの一つであり、特攻に特化したメガシンカ形態。もともと強力だったミュウツーの力がさらに強化され、メガシンカしたポケモンが相手であろうと造作もなく攻撃を弾き飛ばせる。
『私にこの姿を使わせたことを誇るといい。そしてここが、お前たち人間の限界だ』
そのままミュウツーはメタグロスを『サイコキネシス』で持ち上げ、超強力な念力の力をぶつけた。
鋼・エスパータイプのメタグロスに『サイコキネシス』のダメージは25%に抑えられる。だというのに、この攻撃を受けたメタグロスは一撃で満身創痍にさせられてしまった。
「メタグロス!」
「嘘だろ…強すぎる」
「………!」
ダメージが激減されてるはずのメタグロスが倒れてはいないにしても満身創痍になった。その事実はチャンピオン達に絶望感を与えるには十分すぎた。
技量云々だけでどうにかなるレベルを超えている。心に諦めの影が生まれ、全員の心をじわじわと侵食していくのがわかる。
だがその中でレッドだけはまだ諦めていなかった。
「リザードン!フレアドライブ!」
炎を纏ったリザードンがミュウツーに突撃していく。ミュウツーは『サイコキネシス』でリザードンを拘束するが、突如ミュウツーの背後から現れた影がミュウツーを攻撃する。攻撃を防ぐためにリザードンにかけていた念力を一瞬ゆるめたため、リザードンは拘束から抜け出した。
ミュウツーの背後から攻撃してきたのはピカチュウだった。ピカチュウとリザードンはそれぞれ『ボルテッカー』と『フレアドライブ』でミュウツーに突撃していく。
『愚か』
ミュウツーはピカチュウとリザードンの両方に『サイコブレイク』を放つ。強力な攻撃はピカチュウとリザードンにぶつかるが、咄嗟に進路をずらした二体は直撃を免れ、即座に進路をもとに戻すことでミュウツーに攻撃した。結局はバリアに弾かれダメージを与えるには至らなかったが、攻撃が通じる可能性をレッドは見せてくれた。
心に巣食った影は消えない。しかしレッドのおかげでチャンピオン達は再び立ち向かう気力を得られた。
「おいおいレッド!お前だけでやろうとしてんじゃねえよ!まだオレ達はやれるぜ!」
レッドの肩を叩きながらグリーンはレッドと肩を並べる。
「ああ。オレも、オレのドラゴン軍団もまだ負けていないぞ!」
ワタルは二体のカイリューを率い、マントを翻しながらグリーンに続く。
「直撃すると、ボクのメタグロスでもダメージが大きい。ひかりのかべをネンドールに張ってもらうけど、ダメージは極力受けないようにした方がいいね」
メタグロスがまだ戦えることを確認したダイゴは、メタグロスのダメージを見て警戒を促すよう冷静な言葉で前線に戻る。
「耐久の高い私のミロカロスでカバーする。君たちのエレガントな動きは、私が邪魔させない」
ミロカロスと共にミクリがアタッカー達の盾になり、サポートをするという得意戦法を使ってミュウツーとのバトルを有利に進めることを提案した。
「ミュウツーのバリアは相当な威力をぶつけないと破れない。私のガブリアスとアイリスちゃんのサザンドラの攻撃で、必ずバリアを破るわ」
高い攻撃力を誇るガブリアスの力はミュウツーを倒す上で必要不可欠。それを理解しているシロナは、胸に燻る不安を押し殺してミュウツーへと視線を向けた。
「うん!あたしのサザンドラ、悪タイプだからエスパータイプのカバーもできるよ!この中じゃまだまだ新入りだけど…あたしができること、全力でやるね!」
チャンピオン達の中では数少ない悪タイプを持つサザンドラを従えるアイリスの力はミュウツー相手に必ず必要となる。この中では経験は浅い方だが、レッド同様卓越した才能は経験の少なさをカバーしてミュウツーと戦うこともできるだろう。
「私はミクリさんと一緒にカバーに入るわ。私のサーナイトなら、火力補助、防御、撹乱、回復に攻撃全部できる。好きなだけ暴れていいわよ」
器用でなんでもできるサーナイトだが、タイプ相性的にあまり火力は出せない。だからサポートに回ることで戦いを有利に進めようとカルネは判断した。
「ならオレも攻撃に入らせてもらおう。ダイマックスは使えないが、ダイマックスだけがリザードンの強さじゃないのをミュウツーに見せてやるぜ!」
ダイマックスを使えなくとも、ダンデの実力は本物。経験の豊富さから臨機応変に動くことが可能なダンデの力は大きな武器となる。
レッドに並んで立つチャンピオン達の姿を見て、レッドは僅かに口角を上げて帽子を被り直す。そして鋭い目つきでミュウツーを見据えた。
「…みんなを、守る!」
レッドの言葉と同時にポケモン達がミュウツーにむかっていく。
それを見たミュウツーは不愉快そうに目を細め、小さく呟いた。
『……愚か』
次の瞬間、眩い光がフィールドを包み込み、爆音が島全体に響き渡った。それと同時に轟音と衝撃が伝わってくる。あまりの光の強さに目を閉じてしまう。
「なっ…」
光が晴れた時、そこには倒れ伏したポケモン達がいた。
己の主人を守るためにミュウツーの攻撃を正面から受け止めたため、一瞬で体力がもっていかれてしまい、意識を保つことすらできないほどのダメージを受けてしまった。
「ウソ…だろ…」
「……!」
何をされたのかすらわからなかった。光が視界を埋め尽くした次の瞬間、ポケモン達は倒れていた。
ただこれだけはわかる。それはミュウツーがメガシンカしたポケモン達を一瞬で倒したということ。
『私の全力の攻撃だ。メガシンカしたとはいえ、受け切れるはずがない』
「そんな…」
自分のエースが、一瞬でやられた。その事実は心に植え付けられた絶望感を膨れ上がらせ、絶望は対抗する気力を削ぎ落とす。
その中で唯一、レッドとグリーンは負けじとミュウツーを睨みつけて次のポケモンを出そうとするが、その手は震えていた。
『やめておけ。いくらお前たちのポケモンといえども、結果は火を見るよりも明らかだ』
「………」
「そんなの、やってみなきゃわかんねえだろ!」
グリーンの言葉にミュウツーは首を振る。
『わかるさ。私は確かに今、全力に近い攻撃をしたが、戦いにおいては全力は出していない。メガシンカなど、出力を上げる手段の一つにすぎん』
「………」
『これ以上、時間を割く必要は無さそうだ』
ミュウツーが手をかざすと、ミュウツーと周囲に黒いモンスターボールが出現した。不気味なモンスターボールには明らかに嫌な気配がしており、全員が『あのボールはまずい』と本能的に察知した。
『お前たちのポケモン、貰い受ける』
ミュウツーの言葉と同時に黒いモンスターボールが飛んでくる。そして倒れ伏して動かないポケモン達のもとへ飛んでいくと、赤い光と共に黒いモンスターボールに吸収されていった。
それだけでは終わらない。黒いモンスターボールは、ボールごとポケモンを吸収してしまう。
「馬鹿な⁈人のポケモンを奪うだと⁈そんなこと、できるはずが…」
『人間は愚かで弱い生き物だが、その知恵は利用価値がある。人間の知識を利用し、他者のポケモンだろうと捕獲可能なモンスターボールを私が開発した』
「人のポケモンを奪う⁈そんなの卑怯だろ!やめろよ!」
『私に指図するな』
その言葉と共にレッドとグリーンはミュウツーの『サイコブレイク』によって弾き飛ばされた。吹き飛ばされた二人をダイゴとダンデが受け止める。
「ってえ…すまねえダイゴさん、ありがとう」
「大丈夫か?」
「なんてことねえよ」
攻撃を受けた衝撃で僅かに鼻血が出ているが、それを手の甲で拭うとグリーンは立ち上がった。
レッドも口を切ったのか口元に血が滲んでいたが、何事もなかったように立ち上がる。
『ポケモンがいなければ、人間など恐るるに足らない。ポケモントレーナーの中で最強のお前たちが戦えなくなってしまえば、私を阻む者はいない』
「…コピーポケモン達を率いて、世界を壊しにいくの?」
アイリスの言葉にミュウツーは口元を歪めた。
『そうだ。私が世界を管理する。有用な人間以外は全員消し、人に寄り添おうとする弱いポケモンも消す。弱いポケモンに価値などない』
「そんなわけねえだろ!」
ミュウツーの言葉にグリーンは叫ぶ。
「強いとか弱いとか…そんなのだけで価値が決まるわけねえ!弱くても強くても…無価値なものなんかねえ!」
『黙れ』
ミュウツーが再びグリーンを吹き飛ばす。フィールドを転がり、壁にぶつかりそうになった瞬間、赤い謎の泡みたいなものがグリーンの身体を受け止めた。
『なに?』
「え…な、なんだこれ」
ミュウツーだけでなくグリーン本人も困惑していた。助かったことはいいが、いきなりこんなものが現れれば誰でも困惑するだろう。
混乱しているグリーンの視界に薄いピンク色の小さなポケモンの姿が映った。その姿にシロナは見覚えがあった。
「え…ミュウ?」
『ミュウ…だと?』
ピンク色のポケモン…ミュウはシロナの姿を見ると、楽しそうに笑うのだった。
***
時は少し遡る。
シロナ達と別れたカイムとソニアは城のような建物の中を探索していた。
「…ここ、結構広いね」
「ああ。それに見た感じここは絶海の孤島らしい」
城の廊下の窓から見える景色は真っ暗だが、月明かりに照らされた僅かな情報と波の音からカイムはそう判断した。
「そうだね。なんでミュウツーはあたし達をここに連れてきたのかな」
「…さてな。チャンピオンを呼ぶくらいだし、自分の強さを証明したいとかがわかりやすいんだが……そう単純ではない気もする」
ただ強さを証明するならば、コピーポケモンはいらない。トレーナーとしての強さを証明するのであればコピーポケモンを出すのはいいが、ミュウツーの目的はそうではない気がしてならなかった。
「しかし…この城広いだけでなんもねえな」
探索を始めてからあまり時間は経っていないが、それでもここまで何もないものかとカイムは思った。城はただ広く、何もない。あるのはちょっとした庭と先程までカイム達がいた広間、そして今恐らくシロナ達が戦っているフィールドだけ。
「どうしてこんな場所にお城を建てたのかな?」
「身を隠すには良さそうだが…どうだろうな」
「今の場所もよくわからないし、あまり長く探索しない方がいいかもしれないね。ダンデ君じゃないけど、迷って戻れなくなったらまずいし…って、どうしたの?ワンパチ」
ソニアの足元にいたワンパチがくんくんと壁の匂いを嗅いでいる。なんだろうとソニアが近づくと、突如としてその壁は音を立てて開いた。
「わっ!な、なに⁈」
後ずさるソニアと対称にカイムは開いた壁に近づいていく。先程まで歩いてきた廊下と同じ造りの廊下が続いており、目を凝らすと奥にもう一つ扉があるのが見えた。
「扉だ」
「びっくりした〜。こんなところに隠し扉があったなんて…全然気づかなかった」
「ポケモンの感覚は俺たち人間より強い。ワンパチには俺たちが気づかない何かを感じ取ったんだろうな」
「うん、きっとそうね。それでどうする?進む?」
二人はバトルについていけないという理由から別行動を取り、情報収集に出た。その目的を考えれば、ここを進むことは必須だろう。
「進もう。ミュウツーもここの情報も足りてない。やるしかあるまい」
「だよね。よし!行こっか!」
カイムの隣をすり抜けてワンパチと共に進んでいくソニアの背中を見ながらカイムは小さくため息を吐く。ソニアのバトルの腕がどれくらいあるかはわからないが、現役でバトルをしているわけではない。なら現役でバトルを修行しているカイムが先に進むべきなのだろうが、言って聞くような相手ではないことをカイムは察していた。
ソニアの後を追ってカイムは奥にある扉を開く。
そこにあったのは無数のコンピュータや謎の機械で埋め尽くされた謎の部屋だった。
「ここ…研究室?」
「ああ、多分な」
あまり人が出入りしているようには見えないが、コンピュータや機械は稼働している。埃が溜まっている様子もないことから、誰かしらが手入れをしているのかもしれない。
部屋を見渡すと、部屋の隅で人がうずくまっているのを見つけた。そのうずくまっている人物にカイムは見覚えがあった。
その人物に近づき、肩をたたく。しかし反応はない。
「おい、大丈夫か?」
反応が無いが、呼吸はしている。抵抗されるような感覚もないため、恐らく気を失っているのだろうとカイムは判断した。
「ソニア」
「ん?どうしたの?」
部屋のコンピュータをいじって中身を見ていたソニアをカイムは呼びつける。ソニアはすぐに反応すると、カイムのもとに駆け寄ってきた。
「あ、この人…」
「さっきまで広間にいた人だ。招待状に映っていたホログラムの人もこの人だろうよ」
いつのまにかいなくなっていたが、まさかここにいるとは思ってもいなかった。未だに反応がないため肩をゆすると、ふらりと倒れてしまった。その拍子に帽子が外れて顔全体が露わになった。
「この人…ジョーイさんよね」
「みたいだな」
ポケモンセンターの職員であるジョーイ。皆同じ顔に見えるが、全員親族であるため一応別人である。そしてそのうちの一人がなぜかここにいた。
「……命に別状は無さそうだ。多分、ミュウツーの催眠術が切れたんだろう」
目覚めないが、外傷は無さそうだし息遣いも普通。眠っているだけなのだろうと判断したカイムは、ジョーイを壁際に運んで寝かせた。
「ルカリオ、一応見ておいてくれ」
カイムはボールからルカリオを出してジョーイのことを見ておくように頼む。ルカリオは頷くとジョーイの側で屈み、波導の流れからジョーイの状態を探っていた。
とりあえずルカリオに任せて大丈夫だろうと判断したカイムは、部屋の奥にあった装置を操作し、この部屋がなんなのかを探ることにした。
キーボードを叩いてコンピュータがなんのソフトを積んでおり、なにをしようとしているのかを表示させていく。
「カイム君…これって」
「チャンピオン達のエースのデータだな。初っ端、エースミラーしてきたし、これくらいは持ってておかしくない。ただ問題はこっちだ」
そう言ってカイムが表示させたプログラムにソニアは視線を巡らせる。それがなんなのか、学者の卵であるソニアは数瞬間の間に理解することができた。
「これ…コピーポケモンの構成プログラム?」
「多分な。つまりこいつは、コピーポケモンを造るための装置だ」
シロナ達のエースを造り出したのも、恐らくこれだろう。破壊すべきなのかはわからないが、ミュウツーがなにをするためにこれを造り出したのか。その目的次第では破壊しなければならないだろう。
「…一度、戻ろう。ジョーイさんの保護も必要だ」
「そうね。ここがコピーポケモンを造り出すための研究所であることがわかったし、コンピュータに入ってたマップデータを見た感じここ以外部屋はセキュリティルームしか無いみたいだし、ここを詳しく調べるとしたらかなり時間がいるもんね」
カイムの言葉にソニアは同意したことを確認すると、カイムはボールからバシャーモを出した。
「バシャーモ、ジョーイさんを運んでくれ」
バシャーモは頷くと、ルカリオが控えている場所まで歩いていき、ジョーイさんを背負った。
そしてその瞬間、轟音と振動が島全体を揺るがした。
「な、なに⁈」
「ブラッキー、ソニアのカバーにいってくれ」
カイムはボールからブラッキーを出し、物の崩落からソニアを守るように指示した。振動は少ししたら収まり、幸いなにも崩れることはなかったが、なにがあったのかを考えると良い予感はしない。
「…こいつは、早急に戻った方がいいかもしれんな」
「うん!戻ろ…なにあれ⁈」
ソニアの視線を追うと、その先にあった機械に謎の黒いモンスターボールのようなものがゴロゴロと流れてくる姿があった。
「なんだ…あれ」
「わかんないけど…なんか嫌な感じがする」
謎のボールが先程カイムがいじっていた装置に格納されていく。あのボールが何なのかはわからないが、その数の多さからカイムは嫌な予感がした。
「なんかわからんがやばい気がする。ソニア、俺はこの装置の動きを一旦止める。ソニアはあのボールがなんなのか調べてくれ」
「うん!任せて!」
「バシャーモ、一旦待機だ。ジョーイさんを守ってやれ」
バシャーモに指示を出すと、カイムはキーボードを叩き始める。
操作を進めていくと、恐らく装置を稼働させていると思われるプログラムまでたどり着いた。
「これか。停止コマンドを…」
カイムはプログラムを停止させるコマンドを入力する。
これで止まる、と思ったが、モニターに表示された文字を見てカイムは目を見開く。
「パスワードを寄越せだぁ⁈」
なんとプログラムを停止させるためにはパスワードが必要だった。無論カイムはパスワードなど知らない。いくつかミュウツー関連で思いつくパスワードを入力してみるが、当たっているはずもなく全て弾かれてしまった。
「くっそが…やってくれんじゃねえか」
そこでモニターが再び動き、なにかのシルエットが表示された。
表示されたシルエットはカイリューやギルガルド、ルチャブルなどのポケモンのものであった。そしていくつかシルエットが表示された後、あるポケモンのシルエットを見てカイムは目を見開いた。
「ミカルゲに…トリトドン…ロズレイドまで」
見覚えのあるポケモンのシルエットだった。表示されたポケモンのシルエット、チャンピオン達がミュウツーと戦っているという現状。それらを考慮すると、一つの仮説が出てきてしまった。
「…カイム君、このシルエットって…」
「…信じたくねえが、多分…シロナ達のポケモンだ。そんでこのボールに入っているのは、あいつらのポケモン。チャンピオン達のポケモンのコピーを造るつもりだ…!」
「じゃ、じゃあ…ダンデ君達は…」
「……多分、負けた」
ソニアは信じられないというような表情を浮かべた。
カイムも信じられない事実ではあるが、同時にあり得ない話ではないことを自身の冷静な部分が認識していた。
「チャンピオン達は、確かに最強レベルのトレーナー達だ。だがあくまで最強であって『無敵』じゃない。ミュウツーの力次第では、あり得ない話ではない」
「そんな…」
思わずソニアはへたり込みそうになるが、すぐに手のひらで自身の頬を叩く。
「ここで絶望している暇はないよね。あたし達で、みんなのポケモンを解放しよう!ちょうどあのボールの仕組みもわかったし!」
「そうするしかねえ。残念だが、コピーを止めることはできねえし、まずは解放するしかない」
「うん。あたし達でみんなを助けよう」
ソニアの言葉にカイムは頷く。ソニアはカイムに手招きをし、ソニアが見ているモニターを見るように促した。モニターに表示されていたのは、黒いボールの構造と使用技術、管理状況などだった。
「あのボールなんだけど、スナッチマシンの技術を使って作られているみたい。だからあのボールにみんなのポケモンが捕獲させられているのは多分間違いないわ」
「スナッチマシン…オーレ地方のスナッチマシンか」
シロナとカイムの住むシンオウ地方からはるか遠くにある地方、オーレ地方。世界的に治安が悪く、アングラな雰囲気の街が多く、数年前にダークポケモンというポケモンを兵器に変えて、世界を支配しようとしていた組織…シャドーが暗躍していたらしい。そのシャドーが他者のポケモンを奪う集団、スナッチ団と共謀して計画を進めていたが、最終的にその企みは一人の青年によって阻止されたらしい。
そしてそのスナッチ団が使っていたのが、スナッチマシン。他者のポケモンだろうが問答無用で捕まえることができるという凶悪な装置だ。その技術を利用しているとなると、チャンピオンのポケモン達を奪えたことも納得がいく。
「このボール、中に捕縛したポケモンの情報を読み取る機能があるの。だから捕まえられたら最後…」
「コピーを作られるってことか」
カイムがそう呟くとほぼ同時のタイミングで、コピーポケモン製造装置に繋がった大きなチューブから、コピーポケモン達が出てきた。
「嘘⁈もうコピーができたの⁈」
「早すぎる…ソニア。ボールを排出することはできないか?」
「多分できる……あ!これだ!」
ソニアはコンピュータを操作し、こちらに送られてきた黒いモンスターボールを全て外に排出させた。
「ブラッキー。サイコキネシスでボールをまとめてくれ。すぐにこの場を離れる」
ブラッキーは頷くと、黒いボールを一箇所にまとめた。
そのままそれを持ち上げてこの場を去ろうとした瞬間、チューブの中にいたコピーポケモン達が這い出してきた。
「…おいおい、もう自律行動もできんのかよ」
生まれたばかりだというのに、コピーポケモン達は既に自律的に行動している。そして全員がカイムとソニアが入ってきた扉に向けて歩き出していた。
「…ソニア。今すぐにその黒いボールを持ってシロナ達のもとに戻れ。今あいつらは、ポケモンが手元にいない。だからこのコピー達が全員シロナ達の場所にたどり着いた場合…なす術がない」
そう言ってカイムは自分の上着で黒いボールを包む袋代わりにし、ソニアに押し付けた。
「それはいいけど、カイム君は?」
「こいつらを、抑える。狭い通路でならいくらでもやりようはある。だが長くは保たない。やりようはあると言ったけど、保っても五分が限界だ。早めに頼む」
「…うん。無茶しないでね」
「善処しよう。バシャーモ」
カイムに呼ばれたバシャーモは頷くと、ジョーイを抱き抱えた。
「ジョーイさんとソニアを頼む。お前なら、シロナ達の場所まで守れるだろ」
カイムの言葉にバシャーモは頷き、ソニアに着いてくるように促す。
ソニアはバシャーモに続いてボールを持って走り出した。
残されたカイムは全ての手持ちを出し、コピー達の前に立ち塞がる。
「悪いな。ちょいと足止めさせてもらうぞ」
相手がチャンピオン達のポケモンである時点で勝ち目はない。加えてコピーによってステータスは上昇している。チャンピオン達ほどの頭脳はないとはいえ、カイムに勝ち目はゼロに等しい。
「……シロナにも無茶すんなって、言われたばっかなんだがなぁ」
カイムはそうぼやきながらコピーポケモン達の群れに突っ込んでいった。
ソニアがチャンピオンのポケモン達を運んでいるのとほぼ同時刻。
ミュウはシロナの頭上で楽しそうにくるくる回っていた。
「…あなたどうしてここに」
『ミュウ…私の、オリジナル』
ミュウはミュウツーに目もくれずシロナの周りをくるくる回り、シロナの手を引く。遊んでほしいらしいが、残念ながらシロナ達はそれどころではない。
『お前がどのような力を持とうが、私はお前よりも強く造られた。お前を倒し、私が本物になる!』
突如、ミュウツーの放った『シャドーボール』がミュウに襲い掛かる。しかしミュウはほとんどそれを見ることなく、バリアを展開して『シャドーボール』を自身の力を加えて弾き返した。
『っ!』
まさか返されると思っていなかったミュウツーは回避し切れず『シャドーボール』が直撃する。咄嗟にバリアを展開したためダメージはないが、衝撃は緩和しきれず吹き飛ばされてしまう。
「なっ…あ…」
小さい身体であのメガシンカしたミュウツーの攻撃を弾き返す。その光景にチャンピオン達は思わず声を失った。
ミュウは吹き飛ばしたミュウツーから視線を逸らすと、シロナや他のチャンピオン達の前をくるくる回りながら浮いていた。そして最終的にはシロナの目の前まで来て頭にちょこんと乗る。
「……シロナちゃん。その子って…」
「…えーっと…色々と省くけど、前にこの子と会ったことがあるの。それで懐かれているんだけど…」
ただなぜここにいたのかはわからない。たまたまだとしてはあまりにもタイミングが良すぎる。何かしらに導かれ、ミュウはここに至ったのだろうが、全くわからない。
「あなた…どうしてここにいるの?」
シロナはそう尋ねるが、ミュウは首をかしげるだけだった。
その瞬間、フィールドにソニアが息を切らせながら走ってきた。袋のようなものを抱えており、酷く焦った様子をしている。
「ソニア!大丈夫か⁈」
そんなソニアの様子を見て、ダンデが駆け寄る。ソニアは苦しそうに息をしているが、外傷はない。
また、ソニアの後ろからカイムのバシャーモがジョーイを抱き抱えた状態で姿を見せた。
「はぁ、はぁ…はあ…なんとか、あたしは大丈夫」
「そうか…とりあえず無事ならいい。それで、バシャーモが抱えている人は?」
「招待状に映っていた人。ミュウツーに催眠術をかけられてただけで、命に別状はないわ」
ダンデはほっとしたような表情を見せるが、同時にシロナの表情が曇る。ソニアと共に行動をしていたはずのカイムの姿が見当たらない。加えてソニアが先程自分達の手持ちを盗んだボールを運んできた袋のようなもの…それはカイムの上着だった。
「ソニアさん…カイムは?」
「カイム君は今…コピーポケモンの大群を一人で抑えてます!でも、そんな無茶長く保たない!早くカイム君を助けてあげてください!」
ソニアは黒いボールをシロナ達に差し出す。そしてボールからワンパチを出すと、ワンパチの『でんきショック』によって黒いボールの機能を完全に停止させた。
黒いボールの機能が停止したことで捕らえられていたポケモン達が飛び出し、主人のもとに戻った。自分のポケモン達が戻ってきたシロナは、ソニアに尋ねる。
「カイムはどこにいるの?」
「扉を出て、真っ直ぐのところです!」
「ありがとう」
シロナは即座に行動に移ろうとするが、その瞬間、扉が爆発した。
「っ⁈」
何事かと身構えた瞬間、爆煙の中からルカリオに肩を貸してもらいながら歩いてくるボロボロのカイムの姿があった。
「カイム!」
シロナはカイムに駆け寄り、その身体を抱き止める。カイムは度重なる攻防の余波によってボロボロになっていたが、出血などの様子はない。
「あー…悪い。無茶した」
「もう…心配させないでよ」
「悪い」
ルカリオもかなり傷ついており、肩で息をしている。これ以上戦うことはできなくもないが、厳しいだろう。
そこで爆発した扉の奥からムクホーク、トリトドン、メタグロス、そして最後まで『まもる』で仲間を庇っていたブラッキーが吹き飛ばされてきた。
「みんな!」
カイムはよろめきながらも吹き飛ばされてきた自身のポケモン達に駆け寄る。カイムのポケモン達はバシャーモ以外全員満身創痍になっており、特に守ることが得意なブラッキーの傷は深かった。
そしてカイムのポケモン達が引き止めていたコピーポケモン達がぞろぞろと姿を見せてくる。チャンピオン達ですら手こずった相手をカイムが数分とはいえ抑えていた。おかげでポケモン達は皆自身の主人のもとに戻れたが、あまりにも形勢は悪い。
その瞬間、ミュウツーか爆煙を振り払って姿を現した。そしてミュウに向けて『サイコブレイク』を放った。
ミュウはチャンピオン達を守るために『サイコブレイク』の軌道を逸らす。
『私の攻撃を逸らし、跳ね返す。なるほど…私のオリジナルというのも頷けるな。だが強いのはこの私だ。《本物》は、私だ!』
ミュウツーは全開の覇気を放出すると、ミュウに向けて突撃していく。ミュウはそれを軽やかに回避し、自由気ままに飛んでいた。
『生き残るのは、私だ!』
ミュウを追いかけてミュウツーは飛ぶ。縦横無尽に飛び回るミュウに対してミュウツーは『シャドーボール』など攻撃を交えながら追跡していくが、ミュウはその悉くを回避した。
『何故戦わない。戦わないのは、私が怖いからか⁈』
ミュウツーは続け様に攻撃をしていく。それらをミュウは軽やかに回避していくが、ミュウの回避した攻撃の一つがシロナ達に向けて飛んでいくのを視界の隅に捉えた。
その瞬間、ミュウはテレポートし、ミュウツーの『シャドーボール』を弾き返した。
『!』
ミュウツーは弾き返された攻撃をバリアで防ぎ、ふわりとコピーポケモン達の上空に留まった。
『……なるほど。なかなか骨のある相手というわけだ』
ミュウはシロナ達の真上に留まると、ミュウツーと対峙する。相変わらずふわふわと気の抜けた態度だが、僅かに敵意のようなものを感じる。
『どちらが本物か…決めるのはこれから。ミュウと私…どちらが強いか。私の造り出したコピーと、オリジナルであるお前達のどちらが強いかをこれから決める。私達はオリジナルよりも強くなるように造られている』
ミュウツーの言葉に同調するように、コピーポケモン達は咆哮を上げる。
だがミュウはふわふわと浮きながらミュウツーに対して何かを言うように鳴き声を上げた。
『何…?本物は、身体でぶつかり合えば負けない…だと⁈』
ミュウツーは声を荒げると、ミュウに向けて『シャドーボール』を放つ。ミュウはシロナ達に被害が出ないように『シャドーボール』をバリアを展開することで打ち消した。
『いいだろう。どちらが強いか…今ここで決めてやる!行けお前達!』
ミュウツーの言葉と同時にコピーポケモン達は一斉にシロナ達のもとに走り出した。それを見たオリジナルのポケモン達は、主人を守るために前に出て、己のコピーを相手に戦い始める。
「み、みんな!」
「おいおい…マジかよ」
己のコピーと戦う自分のポケモン達を見て、シロナ達はどうすることもできずにいた。戦う理由、戦う目的はない。しかしここで抑えなければこのコピーポケモン達は己の中に燻る憎しみと虚無感を糧に世界に混乱をもたらす。ここで止めるしかないが、チャンピオンという立場であっても、どうしてもシロナ達は手を出す気になれなかった。
『私の力が、これだけだと思うな!』
その言葉と同時にミュウツーは自身の姿を変えた。光の繭がミュウツーを包み、そして姿を変えたミュウツーが顕現した。
メガミュウツーX
もう一つのミュウツーのメガシンカ。覇気の強さは変わらないが、纏う力の使い方が変わった。溢れ出る力を放出するのではなく、自身の周囲に留めることで力の密度を上昇させた。
『本物は、私だ!』
ミュウも力を自身を覆うバリアに変化させ、ミュウツーとぶつかり合った。衝撃が周囲に広がり、コピーを取られていない自分のポケモン達を庇うようにカイムはポケモン達の前に立ち塞がる。ブラッキーが心配そうに鳴くが、カイムは優しくブラッキーを撫でた。
「大丈夫だ」
気丈に振る舞っているが、ポケモンの攻撃を余波とはいえ受けていたカイムは限界が近い。
「ブラッキー、バシャーモ、ルカリオ、ムクホーク、トリトドン、メタグロス…お前らは手ェ出すな。本物とか偽物とかの問題じゃねえ。こんな虚しいだけの戦いに、せめてお前達だけでも加わらないでくれ。頼む」
ミュウツーは《本物》であることに拘り、そのために強さを証明しようとした。そしてミュウはオリジナルであることに誇りを持ち、《本物》としてコピーであるミュウツーを倒そうとしている。
コピー達も同様に己のオリジナルを倒すことでら自身が《本物》になろうとしており、オリジナル達は自身の主人を守り、そして本物として戦うことを選んだ。
だがカイムはこの戦いは虚しいだけだと言った。
《本物》か《偽物》か。カイムにとっては些細な問題だった。
どちらでもいい。
なぜなら、《本物》も《偽物》も等価値だと考えているから。
《本物》がなければ、《偽物》もない。《偽物》がなければ、《本物》は《本物》としての価値はなくなる。
この戦いは、虚しい。
勝とうが負けようがなにも得られない。
だがカイムにはこの戦いを止める術はない。
だから責めて、自分のポケモン達だけはこの戦いに参加しないでほしかった。
「…この戦いに、なんの意味があんだよ」
グリーンの呟きに、カルネは小さく答える。
「生き物は、己の縄張りを侵す相手を排除するまで止まらない。自分の領域を侵されたら、全力で排除しにかかるわ」
「今オレ達の前で起こってるのも、それなのかよ」
「……ええ、それに近いわ」
オリジナルとコピー。互いに譲れないものがあるから、今こうして戦っている。己の大事なものを守るためではなく、尊厳を守るための戦い。それに果たしてどれほどの価値があるのか。シロナ達にはわからない。
「…そっか。あのポケモン達が執着してたのは…自分達を造る要因になった
アイリスはそう呟く。
コピーポケモン達はミュウツー同様、《本物》であることに執着していた。だからオリジナルのポケモン達を倒そうとし、自分達はオリジナルより優れていることを証明したかった。オリジナルよりも優れていることを証明すれば、自分達は《本物》になれる。そう信じているから戦う。
「…《本物》であることが、彼らにとっては存在意義なのね」
「なあシロナさん。《本物》ってなんだ?《偽物》であることはそんなに悪いことなのか?どっちも同じ生き物だろ?オレにはもうわかんねえ」
グリーンの呟きは、シロナもずっと考えていたことだ。
《本物》こそが価値なのか、《偽物》であればそれだけで無価値になるのか。その答えは、シロナには出せない。
ただ目の前で繰り広げられる戦いを見ていて、シロナは胸が締め付けられる思いだった。どちらも罪はない。競技として競い合うのではなく、己の存在意義をかけた戦い。それにどれほどの意味があるのか。
「…《本物》も《偽物》も、今は一個体の生き物。どちらが優れていようが劣っていようが、同じ生き物なのに…」
《本物》と《偽物》…どちらも今は同じ生き物。何か明確な目的による争いではなく、曖昧な目的のための争い。
これは止めなくてはいけない。シロナはそんな思いに駆られたが、同時にこの争いを生み出した元凶である人間の自分に、この争いを止める資格はあるのか。そんな気持ちがせめぎ合っていた。
(…私に、止める資格はあるの?)
止めなければならないという心と、止める資格はないのではないかという理性。その二つの思いに板挟みになるが、視界に広がるポケモン達が傷つき、そして互いに折り重なるように倒れていく姿を見てシロナは足を進めた。
「シロナさん⁈」
グリーンが突如足を進めたシロナを止めようとするが、そのグリーンの手をレッドは掴む。
「おいレッド!なんのつもりだ⁈」
「………」
レッドは無言で首を横に振り、小さく答えた。
「…心が命じたことは、誰にも止められない。シロナさんを信じよう」
レッドの言葉にグリーンは納得はしてないようだが、大人しく引き下がり、歩いていくシロナに目を向けた。
シロナは、争い、互いにボロボロになったポケモン達を見ながら足を進める。ポケモン達の争う姿は、自分自身を傷つけているようでとても痛ましいものだった。そんな中、なおのこと互いにぶつかり合うミュウとミュウツーに向けてシロナは歩いていく。
ミュウとミュウツーの攻撃がぶつかり合い、土煙が舞う。シロナはその中に足を踏み入れ、二体が争う真っ只中に入っていく。
そして両者が再びぶつかり合う瞬間、シロナはミュウに向けて手を広げて割って入った。突然のことでミュウは止まるが、ミュウツーは止まらない。
「シロナ!」
カイムの叫びが聞こえる。
それとほぼ同時にミュウツーはシロナもろともミュウに突撃していった。眩い光が周囲を包み、思わず誰もが目を閉じる。
光が収まり、目を開くと、そこにはシロナを庇ってミュウがミュウツーの攻撃を受けていた。シロナに影響が出ないように自分の力でミュウツーの力を吸収し切ったが、その反動は大きくミュウはボロボロになってしまった。
『な……何故』
「ミュウ!」
シロナはボロボロになり、ふらふらと地面に落ちていくミュウを地面に着く前に受け止めた。ミュウは意識はあるが、ダメージが大きく呼吸が荒い。『じこさいせい』によって回復を始めているが、力の消耗が大きくなかなか回復が終わらない状況だった。
そんなミュウを前に、ミュウツーは困惑していた。何故ミュウが人間であるシロナを庇ったのか、シロナが何故ミュウとの戦いに割ってまで止めようとしたのか。ミュウツーには理解ができず、困惑していた。
『何故だ…何故人間のお前が、私達の戦いを止める』
理解ができなかった。
自身が危険になることもわかっていたはずなのに、それを無視してまで止めようとするシロナの行動が、ミュウツーが今まで見てきた人間像とかけ離れていた。人間は己の欲望のために動く存在。そう考えていたが、シロナは自分が傷つくことを顧みず戦いを止めようとした。
『お前は人間だ。私達の戦いに割って入る理由など、ないはずだ』
「…そうね。私に、貴方達の戦いを止める資格も理由もないのかもしれない。でもね、《本物》とか《偽物》とか…そんな理由で戦う貴方達を、私は見ていたくなかった。そんなもののために、傷ついて欲しくなかった」
『そんなもの…?お前たち《本物》にはわかるまい。私達《偽物》の心がどんなものか!』
ミュウツーが生まれた時から感じている虚無感。これをシロナは『そんなもの』と称した。ミュウツーはシロナ達が生まれた時から《本物》だから、《偽物》として生まれてきた自分のこの虚無感がわからない。そう考えての言葉だった。
しかし、シロナの言葉はミュウツーが予想だにしていない言葉だった。
「そうね、私は《偽物》の気持ちはわからない。でも、同じこの世界に生きている生き物。それは変わらないわ」
『同じ…生き物?』
「そう…同じなのよ。私も、貴方も。この世界に生きている」
『では…では何故!お前たち人間は私を造った!私は誰なのだ!私は何故生まれてきたのだ!』
同じ生き物。なら、人に造られた自分にも存在意義があるはず。それがわからず、ミュウツーはずっと虚無感を抱えて孤独に生きてきた。同じなら、何故自分は生まれてきたのか。その問いの答えをミュウツーはシロナに問いただした。
シロナは自らを治癒するミュウを抱き抱えながらミュウツーを見据える。
「生きていることに、理由はいらないわ。この世界に存在する。それだけでいいの。理由がなければ存在してはいけないなんてものはないわ」
『…では、私のこの虚無感はなんだ!何故私は生まれてきたのだ!』
「どのような形であれ、望まれず生まれてくる存在はないわ。貴方は確かに人間によって造られた。でも、どのような形であれ、貴方が生まれることを望まれた。その後貴方がどう生きるかは、貴方が決めることよ」
どのような形であれ、生まれてくる存在に罪はなく、望まれて生まれてくるものだ。生まれは選ぶことはできない。だが、どう生きるかは己の心次第だと、シロナはミュウツーに言った。
ミュウツーはシロナの言葉に目を見開く。
そしてしばしの沈黙の後、ミュウツーはメガシンカを解除し、元の姿に戻った。
『…確か、お前の名はシロナといったな』
「…ええ」
『……お前と、話がしたい』
シロナはある程度回復が終わったミュウをカイムに託し、優しくミュウの頭を撫でた。
ミュウを託されたカイムは、シロナを見つめる。
「…シロナ」
「わかってる。心配してくれてるのよね。でも大丈夫。今のミュウツーは対話を望んでいるわ。だから、私とミュウツーを信じて待ってて」
そう言ってシロナは優しくカイムを抱きしめた。シロナとミュウツーを信じて待っていてほしい。このシロナの言葉を受け止め、抱きしめられたカイムは小さく頷いた。
カイムが頷いたことを感じると、シロナはカイムを放し、ミュウツーのもとへ歩いていった。
『…私の疑問が、答えが出るものなのかはわからない。だが、それでもお前との対話を重ねることが、答えを出すために必要なことだと判断した』
「そう。いいわ、いくらでも付き合うわよ」
『……では、行くぞ』
ミュウツーはシロナと共にテレポートを行い、その場から姿を消した。
次の瞬間、シロナとミュウツーは先程までカイムがいた研究室のような場所にいた。
「ここは…?」
『ここは、私が生まれた場所だ。正確に言えば、私が生まれた場所を再構築し、改良した場所だがな』
「貴方はここで生まれたのね」
厳密には少し違うらしいが、この場で生まれたということは間違いではないらしい。
シロナは部屋をぐるりと見渡す。よくわからない装置やコンピュータが無数に並んでおり、高い技術力がここにあることだけはわかった。
『私はここで生まれ、そして少しの間ロケット団に兵器として扱われていた。その間に私が見てきた世界は、人間の欲望と悪意に満ちた世界だった。そんな人間が世界を支配していたら、この星は駄目になる。そう思えるほど醜悪なものだった』
ロケット団によって使われていた期間、ミュウツーが見たものは醜悪の一言に尽きるものだった。己の力ではなく、ミュウツーを使って敵を倒していき、ロケット団はまるで自分が敵を倒したかのように振る舞う。欲望と悪意に満ちた人間しかミュウツーは見てこなかった。
「…そうね。人間の悪意と欲望に、底は無い。だから貴方がそう思うのも無理はないわ」
口ぶりからして、ミュウツーはそういう人間しか見たことがなかったのだろう。そういう人間しか見たことがないのであれば、人間がそういうものだと思い込んでしまっていても違和感はない。だからチャンピオン達にも敬意を払うように振る舞いながらも同じ人間ということでどこか見下していたのかもしれない。
『だが、お前は…お前達は違った。お前達は、オリジナルとコピーが戦うのを見て、心を痛めた。私にはそれが理解できない。何故心を痛めた?何故私とミュウの戦いを、身を挺してまで止めようとした?』
「あの戦いは、虚しいだけで何も生まないからよ」
『…何故、そう思うのだ』
「だって、オリジナルもコピーも生きているじゃない。生きている以上、《本物》も《偽物》もないわ。《本物》も《偽物》も、生きている以上別の存在。どちらが優れていようが劣っていようが、どちらも唯一無二の存在だからよ」
オリジナルとコピー。どちらもこの世に存在し、別の個体として生きている以上、唯一無二の存在だとシロナは言った。オリジナルをもとに造られた存在だとしても、別の個体として意志を持っている。ならそれはもう新たな一個体の生き物であり、《偽物》などではない。そうシロナは主張した。
『唯一無二の、存在』
「貴方は、確かにオリジナルのミュウをもとに造られたかもしれない。でも今の貴方はミュウとは別の意志を持ち、己の心を宿しているわ。だから貴方はどこまでいっても、ミュウを倒したとしてもミュウになることはできない。でもね、同時にミュウも貴方になることはできないのよ」
『私は、ミュウにはなれないが…ミュウも、私にはなれない』
その言葉は、すとんとミュウツーの中に入ってきた。
今まで《本物》であることに拘り、そして《偽物》である己のことを卑下してきた。《偽物》である時点で価値はない。そう思っていたが、シロナは生きている以上《本物》も《偽物》もない。そう言ってくれた。
『……そうか』
ミュウツーはずっと孤独に生きてきた。《本物》が溢れる世界の中で自分だけが《偽物》であると意識しており、どこにも居場所がないように思えた。
だから同族を増やそうと自身を造り出した装置を復元し、チャンピオンのポケモン達のコピーを造った。だが、同族が増えようとも、ミュウツーの虚無感は消えなかった。
『…私は、その言葉を誰かに言ってほしかったのかもしれない』
「…そう」
『シロナ。もう一つ聞きたい。私は、何故生まれた。お前は私に望まれず生まれてくる存在はいない、と言った。私も、ある意味望まれて生まれてきたのはわかる。だがその望まれた通りに生きることを、私は疑問に思った。私は、人に使われるために生きているのか?』
ミュウツーの問いかけにシロナは首を振る。
「いいえ。そんなことないわ」
『では…私は……なんのために生きているのだ』
シロナはミュウツーと真っ直ぐ向き合いながら口を開く。
「何のために生きているか。それは貴方が決めることよ。どんな望まれ方をしていたとしても、結局貴方の生き方は貴方が決めるの。貴方の心がどう生きたいのか…心のままに生きていいの」
『…心のままに、だと』
「ええ。誰かと共に過ごすのも、誰かと競い合いながら自分を高めていくのも自由」
シロナは一度言葉を切り、ミュウツーに歩み寄る。そして小さく笑いながらミュウツーの目を真っ直ぐと見据えた。
「私の住むシンオウ地方にね、こんな言葉があるの。『全ての命は別の命と出会い、何かを生み出す』。この世に存在する生き物はどんな形であれ、別の命と関わりを持ち、そしてどんなものであれ、その間に何かを生み出すの。それは友情でも愛情でもあり、時には悪意も生まれる。そして、命と命の間に新たな命が生まれることもあるの。他の人やポケモンとは違うかもしれないけど、貴方は命の繋がりの中で生まれた新しい命であることは間違いないわ」
『私も、一つの命か』
この言葉はシンオウ地方にあるズイの遺跡にあった言葉だ。
命は、命である以上別の命と関わる。そして何であれ、その命の関係の中からは別のものが生まれる。感情や時間だけでなく、時として命すら生まれることがあるもの。無論、命同士の関係には悪いものも含まれる。ミュウツーは悪意の中、生まれてきたようなものだ。だから人を忌避してきた。
『……私も、一つの命…生き物なのか?造られた私も、お前達と同じ生き物として生きていいのか?』
「ええ。貴方は生きている。だから貴方も私達と同じよ」
『では、私は誰なのだ。私はミュウをもとに造られた存在。私も生き物だというのなら、私を《私》として定義するものはなんだ?』
そう問いかけられ、シロナは目を閉じる。数瞬間の後、目を開いたシロナは言った。
「貴方はミュウツー。貴方が自身を《ミュウツー》だと定義するものは、貴方自身のこれからの生き様よ。貴方がどう生きていくか、どう生きたいか。それを自分自身で世界を見て、考えて、切り拓いていく。そうして積み上げてきた過去こそが、その人を形作るものになるの」
『私自身の…生き様』
その言葉をミュウツーはまだ理解できなかった。自分が何者なのかを問いかけ続けてきたミュウツーは、自分がどう生きたいのかわからない。
だがシロナの言った『自分自身の目で世界を見て、どう生きたいのかを決める』という言葉はわかった。だからまずは、世界を見てみる必要があるとミュウツーは考えた。
『…そうか。私はまだ、生まれてすらいなかったのだな』
「どう生きたいかなんて、簡単に答えは見つからない。でも世界のいろんなものを見ればきっと、いつか答えは見つかると思うわ」
『私が見た世界…それは所詮、世界の一部でしかないのか』
ミュウツーが見てきたのは世界の一部…それも暗い部分のみ。それしか知らなかった故に、ミュウツーはその暗い部分のみが世界だと思ってしまった。強さこそ価値だと思ってしまった。
『…そうでは、なかったのだな』
価値とは、一概に言えるものではなく、生き方は、簡単に定まるものではない。シロナの言葉を受けて、ミュウツーは自身の考えと心が組み変わっていくような思いに駆られていた。
『…もう十分だ』
「もう、いいのね」
『ああ。お前の…お前たちのおかげだ』
ミュウツーはそう言ってシロナと自分を元の場所にテレポートさせた。戻ってきたシロナを見て、カイムはほとんど表情を動かさなかったが、内心ではひどく安堵していた。
『…私は、お前たちのおかげでようやくこの世界に生まれることができた。礼を言う』
「いいの。この世界で、あなたよりも少しだけ多くのものを見てきた私の持論でしかないから」
『だとしても、私には価値があるものだった』
そう言ってミュウツーはふわりと浮かび上がる。それに追随するように、コピーポケモン達もミュウツーの念力によって浮かび上がった。
それを見たミュウはカイムの腕から抜け出し、カイムの頭にその小さな手をぽんと置くと、シロナのもとへ飛んでいった。目の前まで飛んできたミュウに対してシロナは優しく笑いかけ、その頭を撫でる。ミュウは気持ちよさそうに身をよじると、ミュウツーのもとへ飛んでいった。
『…私もお前も、同じ生き物。《本物》や《偽物》といった概念に縛られる必要など、なかったのだな』
ミュウはミュウツーの言葉に頷いた。
そしてミュウとミュウツーはコピーポケモン達を伴って空に向けて飛んでいく。
「どこへ行くの?」
シロナの問いかけに振り返ることなく、ミュウツーは答えた。
『私達は生きている。だから、これからも生きていく。いつか死ぬ、その日まで…この広い世界のどこかで』
ミュウツーの答えに、シロナは小さく微笑む。
シロナ達はその後ろ姿が見えなくなるまで、生き方を探す旅に出たポケモン達をずっと見送っていた。
*
「とんだエキシビジョンだったな」
カイムは苦笑しながらホテルのバルコニーでそう呟いた。傍らにいるシロナも、ガブリアスを撫でながら頷いた。
「そうね…まさかこんな体験を大会後にするなんてね」
シロナとしても、ここまでの事態に巻き込まれるとは思ってもいなかった。だが悪い気分はしない。突発的でとても辛い瞬間でもあったが、貴重な体験であることに変わりはない。
あの後、ミュウツーの力なのかどうかはわからないが、催眠術をかけられていたジョーイを含めてセキエイ高原のスタジアムに転送された。催眠術をかけられていたジョーイは、どうやら前から捜索願いが出ていたらしい。とりあえず保護してもらい、その後は無事にもといた場所に戻ったと聞いた。
本来ならミュウツーの件の翌日、全員帰る予定だったのだが、ポケモン達だけでなくチャンピオン達も含めて疲労困憊になっていた。そのためシロナとカイムは一日滞在期間を延ばし、帰ることにした。
そして今、ホテルのバルコニーでシロナとカイムはポケモン達と共にまったり過ごしていた。年末故にまだまだ寒いが、日差しが暖かくそこまで寒さを感じない。寒いのが苦手なガブリアスも日差しを浴びて気持ちよさそうにしている。
「今回のこと、記録には残さないんだっけか」
「ええ。ワタルさんが今回のことは記録しない方向にするって言ってたわ」
今回の一件、ワタルは記録には残さないと言った。本来ならチャンピオン全員を巻き込んだ事件など記録に残さないはずがないのだが、ワタルはこの件は誰も知らない方がいいと判断し、チャンピオン達の記憶のみに留めておくことにすることを決断した。そしてチャンピオン達もそれに同意し、口外しないことを約束した。
「そうか。ま、それもいいだろうよ」
「ええ。でもやっぱり、大会後にあれは疲れるわね」
シロナの表情にはまだ疲労の色が見て取れる。それもそうだろう。チャンピオン達との本気のバトルの後にステータスが恐ろしく高いコピー達とのバトル。いくらバトルを極めたシロナ達といえども、もう体力の限界だった。
「ちゃんと休んで、飯を食う。それが一番だ」
「頼りにしているわよ、サポーターさん」
「結局最後はシロナ次第だがな」
「わかってるわよ」
そう言ってシロナはカイムの隣に並び、その手を取った。
「ありがとう。ここまで一緒にいてくれて」
「俺が望んだことだ」
普段と変わらない答えにシロナは微笑む。
カイムが自分と共に居ることを望んでくれる。それが嬉しかった。
「…全ての命は別の命と出会い、何かを生み出す」
「随分古い言葉だな。いきなりどうした」
バルコニーの柵に止まっているムクホークを撫でながらカイムは聞いた。それに対してシロナは答える。
「私がミュウツーに贈った言葉よ。生きている以上、別の存在と必ず関わるからね」
「なるほどな」
「私も、貴方と出会って色々あったわ。私自身、成長できた部分もあったと思うし、貴方は言わずもがな成長した。当たり前のように思えるけど、これを意識しているかどうかって大切なことよね」
人は一人では生きていけない。ポケモン達も同様に単体で完結できることはない。故にこの言葉は当たり前のことではあるが、当たり前だからといって蔑ろにしていいわけではない。当たり前であることを当たり前にできる事実に感謝しなければならない。そうシロナは考えていた。
(私とカイムの出会いから、何が生まれたかしら)
シロナが知ることができなかった感情や、一人ではできない家事スキルなど色々と知ることができた。
カイムとの思い出を振り返っていると、ホテルから恐らくトーナメントを見にきていたであろう家族が出て行くのが見えた。
(…いつか、カイムと一緒に……)
その家族に自分とカイムの姿を思わず重ねてしまう。
幸せそうな家族の姿に、自分自身と隣にいる最愛の人。その間には二人の間に生まれた子供の姿。
ここまで想像してシロナは赤面した。あまりにも幸せそうな姿の想像に、自分の願望があまりにも強く反映されていたからだ。
「…どうした?顔赤くして」
「え、あ…いや、その…」
シロナの視線を追うと、家族の姿。少しだけ考えたあと、シロナが何を考えたのかをなんとなくカイムは察した。
「…全ての命は別の命と出会い、何かを生み出す。いつか…そうなるといいな」
「……ええ、そうね」
まだ二人の関係はそこまで至ってはいない。だがその思いはある。故にここで明言することはなく、ただ二人は短く言葉を交わすだけだった。
繋がれた手に込められる力が、少しだけ強くなった。
いつか来る幸せな姿を想いながら、二人は元の日常へと戻っていく。
ミュウツーの逆襲編終了。
正直上手く書けた自信はない。ちょっと無理矢理感あるし、なによりレッドとグリーンが頑張りすぎたためシロナさんがバトル中結構影薄い。砂糖漬け回を早急に更新するので許して。
ウォロさんとコギトさん…どっちがシロナさんのご先祖様なんですかね。個人的にはコギトさんの方がイメージに合ってますけど、絶対ウォロさんもなんか関係ありますよね。
個人的にアルセウスに出てほしいポケモン
バシャーモ(カイムの相棒)
メタグロス(カイムの手持ち)
キリキザン(結構好き)
ヌオー(あの気の抜けた顔好き。湿地にいそう)
Q.なぜカイムはチャンピオン達と別行動を取ったのですか?
A.彼がそこにいても役に立たないからです。下手に守られる意識を割かせるよりも別行動を取り、ミュウツーに関する情報を集めれば何かしら弱点や打開策を見つけられる可能性に賭けました。
Q.なぜミュウはなぜミュウツーのいる場所がわかったのですか?
A.ミュウは個体が少ないため同族の気配に敏感だからです。同族っぽい気配を感じたから来てみた、程度の気持ちです。
シロナ
やっぱり主人公ポジになる人。ミュウツーとの対話シーンだけは最初から決めていた。
カイム
結局君はこういう壮大な話だと主人公にはなれないんだよね。ソニアとの助手コンビは割と合うと思ってる。
レッド
シロナ、グリーンと共に主人公ポジになる。さすが原点にして頂点。
グリーン
ライバル。かっこよくレッドと一緒に事態の収拾に努めた。
ワタル
カントーチャンピオン。トーナメントではあんま書けなかったからここで頑張ってもらった。
ダイゴ
ミクリとコンビでバトルしてもらった。カイムともうちょい絡ませたかった。
ミクリ
ダイゴとのコンビがよく描かれているのでダイゴと一緒に活躍。
アイリス
同じ女性チャンピオンということでカルネとコンビで戦った。
カルネ
アイリスと共に戦う。アイリスよりもチャンピオン歴が長いことからアイリスをカバーしながら戦った。
ダンデ
シロナと共に戦う。無敵のチャンピオン同士の夢のタッグになった。
ソニア
裏方で事態の収拾に奔走。研究者の卵としてコピーポケモンの原理を瞬時に理解し、ポケモン達を救出した。
出る人が多いから書くのに苦労しました。全員どこかしら見せ場をつくるのが難しかったです。なんならもっと出したほうがいいのでしょうが、私にはこれが限界でした。
前回の更新にもハイキューの名言を使いまくってます。ちなみに私が一番好きな名言は『この
みなさんの推しタイプは?
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