ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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間に合いませんでした。

砂糖漬け。コーヒーをご用意ください。
とうとう合計30話です。






27話です。


27話 ミオシティ③

「ねえカイム。今度の私の誕生日にカトレアを呼んでもいいかしら」

 

年を越してすぐ、三が日の合間であろうと仕事をしているカイムにシロナはそう尋ねてきた。シロナの質問の意図がよくわからずカイムは聞き返す。

 

「カトレア?あいつ今イッシュにいるんじゃ…」

「本家の挨拶周りのために年越しはシンオウに戻ってきてるのよ」

「ああ、そういやそうだったわ」

 

そういえばそんな話してたな、とカイムは思い出す。

納得したカイムを見ながらシロナは続ける。

 

「だからね、カトレアにも来てほしいなって…どうかしら」

「いいじゃん。呼ぼう」

 

シロナはカイムの言葉と態度にほっとする。もしかしたら恋人としてはじめての誕生日は二人で過ごしたいとかあるかもしれないと考えていたが、カイムは特別そういうことは考えていなかったらしい。

 

「カトレアには、ちと大きな借りがある。早めに返しておきたい」

「そういえばそうだったわね」

 

シロナはカイムの部屋に入り、ベッドに腰掛けた。

カイムはかつてメタグロスの育成においてカトレアとダイゴにアドバイスをもらっていた。そのため二人には色々と世話になっていたため、それを返したいと考えていた。

 

「…カトレアには、色々と世話になりっぱなしだな」

 

かつてカイムが自身の悪癖を治すためにもカトレアには世話になっている。あの時はシキミやアイリスにも助言をもらっていた(尤も、シキミの場合はほとんど取材になってしまったが)ため、色々世話になりっぱなしだと苦笑した。

 

「いいのよ。みんな、誰かの助けを受けて生きていくんだから」

「まあ…そうだな。話を戻すが、カトレアはいつ来るかわかってんのか?」

 

来ると言っている以上、恐らくカトレアはここに宿泊することになる。部屋やスペースにはかなり余裕があるとはいえ、どれくらい宿泊するのかを予め知っておく必要があるとカイムは考えた。

 

「私の誕生日の前日から来る予定よ」

 

その日付を聞いたカイムは少しだけ目を細める。

 

「前日か」

「あれ?何か予定ある?」

「ああいや…俺、ジムの方でやることがあるから日中はいねえ。まあ、夕方には帰ってくるけど」

「大丈夫よ。私が出迎えて待ってるから」

「わかった。寝る場所は…シロナの部屋に布団もう1組敷けばいいか」

 

普段はシロナの部屋でシロナとカイムは共に寝ているが、さすがに来客が来た時に同じように寝るのはどうかと考えていた。カトレアとシロナの仲の良さなら同じ部屋で眠っても問題ないだろうとカイムは考え、そのように提案した。

 

「お嬢様のカトレアを床に寝かせるの?」

「なら俺の部屋のベッド、一時的にシロナの部屋に持っていくか。シロナの部屋がちと狭くなるが、それなら問題ないよな」

「ああ、いいわね。じゃあそうしましょうか」

「OK。コクランさんは?」

 

カトレアには専属の執事であるコクランがいる。基本いつもカトレアの側に控えているため、今回もカトレアと共に来るだろうとカイムは考えていた。

だがシロナの答えはカイムの予想とは違うものだった。

 

「コクランさんは今回は来ないわ」

「マジか、珍しい」

 

大体いつもカトレアの側にはコクランが控えている。カトレアが四天王として活動するようになってからは、常に側にいるというわけではなくなったが、それでも高頻度でコクランが側にいる。

 

「ええ。なんでも、フロンティアブレーンとしてやらなきゃいけないことがあるらしいの」

「カトレア一人で大丈夫か?」

 

いくらイッシュ地方で四天王をやっているとはいえ、基本は箱入り娘のお嬢様。一人でここに来ることなどできるのだろうか、とカイムは懸念した。

 

「ここまでは執事の一人が送ってくれるらしいから大丈夫よ」

「ああ、なるほど」

 

他のことはコクランのことだし『カイム様とシロナ様がいらっしゃるので大丈夫でしょう』とか言ったんだろうな、とカイムは内心で考える。

 

「そうなると、一人追加って感じか」

「それでいいはずよ」

「ん、了解。当日の材料とか色々と変更しておく」

 

毎年二人の誕生日は家で祝っている。そのためそれなりにいいものを家で作り、二人とポケモン達で食べていた。今回はそこにカトレアが来るということでディナーの材料などを追加しておく必要があるな、とカイムは考えた。

淡々と応えるカイムの操作するパソコンのモニターをシロナは覗き込む。モニターにはミオジムに所属するトレーナーと手持ちポケモン、そしてジム所属のポケモンのデータだった。

 

「ジムのお仕事?」

 

シロナはカイムの肩に手を置きながらそう言った。

カイムはシロナの言葉を受けてモニターに視線を戻して頷く。

 

「ああ。ジム所属のトレーナーとポケモン達のデータだ」

「どうしてこのデータ見てるの?」

「一応ジムリーダー候補なんでな。新しいジムの環境に慣れるためにもジムに所属する人とポケモンについて知っておきたくてな」

 

トウガンの話だと、ジムリーダー就任試験においては実力はもちろんのこと、ポケモンジムについてどれくらい知っているかを見られるとのことらしい。実力と比較したらかなり重要度は下がるが、圧倒的な実力のないカイムが実力以外の場所で万全を尽くすことは至極真っ当だといえるだろう。

 

「そっか。そういう理由ね」

「トウガンさんに推薦されてんだ。トウガンさん以外にもスモモやヒョウタも色々と協力してくれた。応えたい」

「そう。いい覚悟だわ」

 

そう言ってシロナはカイムを後ろからそっと抱きしめる。

 

「なに。どした」

「頑張ってる彼氏を応援してるのよ」

「…どーも」

 

自分をそっと抱きしめてくるシロナの腕を優しく撫でながらカイムは呟く。ここ最近はスキンシップが多めであるが、こんな些細なことで嬉しいと思ってしまう単純な自分に苦笑しながらも仕事の続きをするためにそっとシロナの腕を外す。

 

「風呂、沸いてる。入ってこい」

「ええ。いってくるわね」

 

そう言ってシロナはカイムの頭を優しく撫で、頬に唇を落とすとカイムの部屋を出て行った。

 

「………」

 

シロナが出て行った扉を見つめ、視線をモニターに戻して仕事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロナの誕生日前日。

シロナの自宅にインターホンが鳴り響いた。扉を開けると、普段の高貴な服装ではなく、かなりラフな服装をしたカトレアがいた。

 

「いらっしゃい、カトレア」

「お久しぶりですわ、シロナさん」

 

カトレアはシロナの顔を見ると柔らかく微笑む。カトレアは普段の大きな帽子は被っておらず、長い髪の毛をポニーテール状にまとめていたため、普段の『お嬢様』らしい雰囲気とは打って変わり、『女の子』らしい雰囲気になっていた。

 

「さ、入って。寒かったでしょう?」

「ふふ、アタクシも一応シンオウの人間です。もう慣れてますよ」

 

カトレアはそう言って振り返った。振り返った先には白髪の執事服を着た男性が立っている。

 

「ありがとうルシュ。帰りはまた連絡するわね」

「いってらっしゃいませ、お嬢様」

 

執事は頭を下げると、車に戻っていった。

 

「あの人…前にどこかで」

「ええ。コクランと一緒にアタクシの執事をしてるの。コクランと二人で色々とお仕事をやってくれてるんです」

「そっか。それでか」

 

そこまで話したところで冷たい風が吹き抜ける。家の中にいたシロナは比較的薄着であったため、思わず身体を震わせた。

 

「うう、寒い。さ、入って」

「ええ。お邪魔します」

 

スーツケースを自身の超能力で浮かせながらカトレアはシロナと共にシロナ宅へと入った。

カトレアのことをグレイシアとウォーグルが出迎える。

 

「ふふ、お久しぶりね。元気だったかしら?」

 

カトレアはウォーグルとグレイシアを撫でながら言う。ウォーグルはシロナがカトレアの別荘を借りている時にシロナのチームに加わったポケモンであるため、カトレアとも馴染みがあるポケモンだった。

 

「シビルドンはどうしてます?」

「今は庭でトリトドンと遊んでいるわ」

「そうですか。じゃああとにしますわ」

 

カトレアは靴を脱いで玄関から上がる。シロナに言われた部屋に荷物を置くと二人はリビングで腰を落ち着けた。

 

「カトレア、コーヒーでいいかしら?」

「ええ。ありがとうございます」

「いいのよ。じゃあちょっと待ってて」

 

シロナは冷蔵庫からコーヒー豆を取り出し、コーヒーミルに入れてコーヒーを淹れる準備を始めた。

 

「いい匂いですね」

「でしょ?結構いい豆使ってるのよ」

「ふふ、楽しみです」

 

程なくしてマグカップに入ったコーヒーを二つシロナが運んできた。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

お礼を言ったカトレアは、受け取ったマグカップに口をつけて一口コーヒーを飲んだ。程よい苦味と酸味が口に広がっていくのを感じる。

 

「シロナさんのコーヒーはいつも美味しいですね」

「ふふ、嬉しい。ありがと」

「紅茶はよく淹れますけど、コーヒーはあまり上手く淹れられなくてあまり飲まないんです。でもこうして美味しいコーヒーを飲むと、自分でも淹れたくなります」

 

カトレアはイッシュ地方で一人暮らしをしている。一人暮らし、とは言ってもカトレアの執事であるコクランが時折訪れて家事を片付けたり、先ほどカトレアを送ってきたルシュが基本いつもカトレアの気付かない場所で色々フォローしたりしている。いくら四天王といえども、まだ未成年である。多少の保護は必要だろう。

 

「…そういえば、カイムは?」

 

普段ならシロナの側にいつもいるあの小言が多い男がいない。この時点で出てこないということは恐らく今は家にいないのだろうとカトレアは察していたが、どこにいるのだろうと気になった。

 

「ああ、カイムは今ジムにいるわ」

「ジム?ああ…そういう」

 

カトレアは妙に納得したように呟き、シロナはそのカトレアに一瞬だけ違和感を感じたが、カイムの名前であることを思い出した。

 

「あ、そうだ。カイムがね、お茶菓子にって言って用意してくれたものがあるの」

 

シロナは立ち上がり、冷蔵庫を開く。冷蔵庫の中から取り出してきたのは、いちごのカップタルトだった。

 

「あら、これは?」

「カトレアが来るからって理由で、カイムが作ったの。『俺がいない間のお茶菓子にでもしろ』って」

「これ…カイムが作ったのね」

 

カトレアがタルトの一つを取って眺める。その出来栄えはとても手作りとは思えないほどいい見栄えをしていた。

 

「お菓子ははじめてだったらしいけど、よくできてるわよね」

「はじめて?へえ…本当にあの子は器用ねぇ」

 

カイムは今まで料理はしてきたが、お菓子作りはポフィン作り以外ほとんどしたことがなかった。それにも関わらず、ほぼ初挑戦のお菓子作りでここまで完璧に仕上げてきたあたり、相当調理慣れしてきたことがよくわかる。

 

「明日のケーキもカイムが作るって言ってたの」

「ケーキも?本当に器用ね…でもこれだけできるのなら、出来栄えは期待できそうだわ」

「でしょ?色々とリクエストしちゃった」

 

カトレアはシロナの話を聞きながらタルトを齧る。タルト生地の程よい甘味といちごの甘味、酸味が口に広がった。生クリームのアクセントもよく合っている。

 

「美味しい…やるわね、カイム」

「そうよね。私も食べたけど、はじめてでここまでできるのってすごいわよ」

「あらあら、大好きな人が褒められて嬉しそうですね」

「っ!」

 

カトレアの言葉にシロナの顔がぽっと赤くなる。そんなシロナの様子を見てカトレアは楽しそうに笑った。

 

「うふふ。相変わらず可愛らしい反応をしてくれますね」

「カトレアは相変わらず意地悪ね。楽しい?」

「ええ。尊敬する人の嬉しそうな顔を見るのは楽しいです」

 

コーヒーを飲みながら優雅に笑うカトレアに対してシロナは少し頬を染めながらタルトを齧る。

 

「もう…私がカイムと付き合ってから意地悪ばかりね」

「うふふ、すみません。シロナさんがいい反応をするのでつい。それでどうですか?順調ですか?」

 

カトレアのいう『順調』とはシロナとカイムの関係についてだろう。わざわざ聞いてくるあたり、やはりカトレアも年頃の女の子なんだなとシロナは思った。

 

「ええ。おかげさまで仲良くやってるわ」

「そうですか。ならよかったです。喧嘩などはしないのですか?」

「しないわけじゃないけど、喧嘩する理由は大体いつも他愛無いものよ」

 

最後に喧嘩したのは数日前だが、その理由も本当に下らないものだった。カイムが机に置いておいたポフィンが数個減っていて、シロナが食べたのではないかとカイムが推測したのだが、シロナは食べていなかった。以前似たようなことがあり、その時はシロナが食べたのだが、今回のは食べていなかった。前科があるため疑われても仕方ないのだが、いつも勝手に食べてしまうほどシロナも食い意地は張っていない。それで5分ほど言い合いしていたのだが、視界の隅に映ったブラッキーの口元にポフィンの食べカスがついているのを発見し、ブラッキーを捕縛したところ犯人がブラッキーであることが判明した。

 

犯人がブラッキーであることを察したカイム(シロナ)はシロナ(カイム)に謝ると、ブラッキーの顔を両手で挟んでもみくちゃにしていた。

 

「なるほど、夫婦喧嘩ですね」

「ふっ⁈」

 

カトレアの感想にシロナは再び赤くなる。恋人ネタならともかく、それよりも先の関係である夫婦となるとシロナはまだ耐性がない。なによりシロナが将来的にそれを望んでいるが故に、夫婦ネタでいじられると赤くなる傾向があった。

 

「それとも夫婦漫才とでもいうべきですか?」

「カトレア?私は確かにカイムと付き合っているし同棲もしてるけど、まだ夫婦じゃないわよ?」

「まだ?つまり、未来にその可能性があると」

 

カトレアの言葉にシロナは思わず顔を覆う。シロナは顔から火が出そうなほど恥ずかしい思いだった。無意識に願望が表に出てしまい、自ら墓穴を掘ってしまったことを自覚していた。

 

「………この話やめない?」

「うふふ、シロナさんがそう言うならやめておきましょうか」

 

カトレアとしても半年ぶりの再会であるため、この場ではこのあたりにしておいた。尤も、夜は同室であるため、これより多少掘り下げられるだろうことはわかっているし、シロナもこの場で覚悟を決めた。

 

(…こうなったら惚気倒してあげようかしら)

 

恨めしそうな視線をカトレアに向けながらシロナはそんなことを考えつき、実行する決心を胸中で固めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻

カイムがジムから帰ってきたため、シロナとカトレアはカイムを出迎えた。

 

「おかえり、カイム」

「ただいま。そんで久しぶり、カトレア」

「ええ、久しぶり。元気そうね」

「おかげさんで」

 

いつも通り表情は動かないが、カイムはそれが平常運転であるためカトレアは特に気にすることなく挨拶をした。

コートをハンガーにかけ、手洗いうがいを済ませたカイムは二人がいるリビングにバシャーモと共に入る。

 

「お疲れ様」

「ああ」

 

シロナの労いにカイムは淡白に返す。シロナもいつものことであるため気にすることなく笑い、ぽんぽんと自分の隣を叩いて座るように促した。特別断る理由もないカイムはその誘いになんの疑いもなく応える。それを見てカトレアは楽しそうに笑った。

 

「んだよ」

「いいえ?仲良しですわね」

 

楽しそうに笑うカトレアをカイムはジト目で見る。

 

「相変わらず年上を揶揄うのが好きなんだな」

「いいえ?お二人を揶揄うのが好きなのです」

「いい迷惑だっての…」

 

小さくため息をつくと、カイムはテーブルに置かれている皿を取り、台所に下げた。傍らにいたバシャーモは空になったマグカップをカイムのあとに続いて台所まで運んでいく。

 

「あら、ありがとうバシャーモ」

 

カトレアに礼を言われたバシャーモは小さく頷いた。

カイムはそのまま台所で洗い物を始める。洗い物は手伝えないため、バシャーモはシロナ達のもとへ歩いてくると、床に胡座をかいて腰掛けた。

 

「随分と強くなりましたね、バシャーモ」

「そうでしょ?最後に見たサザナミタウンの時と比べてかなり強くなってるわよ。もちろんバシャーモだけじゃなくて、カイムのポケモンみんなだけどね」

 

カトレアが最後にカイムと会ったのは、サザナミタウンの時だった。あの時はまだカイムが自分の悪癖を治すことができていないどころか、自覚すらできていない時だった。そのためレベルとしてはジムトレーナー以上ジムリーダー未満程度のものだった。

しかし今のカイムのポケモン達はジムリーダーと胸を張って名乗れるくらいの強さを得ている。それをポケモンを見ただけで判断できるのは、カトレアの実力の高さ故だろう。

 

「メタグロスの育成にもアタクシが一枚噛んでますからね」

「ためになったって言ってたわ」

「ならよかったわ。あとで会わせてもらおうかしらね」

 

そう話しているうちにカイムが戻ってくる。足元にはブラッキーがいた。

 

「メタグロスの話か?」

「そうよ。カトレアが会いたいって」

「じゃ、今でいいか?」

「構わないわ。お願いね」

 

カイムは頷くと、ガラス扉を引いて庭に出る。そして腰についたボールからメタグロスを出した。

カトレアもカイムに続いて庭に出ると、カイムのメタグロスと視線を合わせるように屈んだ。そして優しくメタグロスの鋼の身体に手を触れる。

 

「…よく鍛えられてますね。加入してから一年未満だというのに、上手く鍛えてあるのがわかるわ」

「鍛えることに関しては、最高の相手がいるんでね」

 

強い相手と鍛えればそれ相応にこちらも強くなれる。シロナほどの実力を持つトレーナーを相手にしていれば、それだけで強くなれるだろう。そこにカイムが培ってきた育成の知識と経験を合わせれば、戦力としてカウントできるくらい強くもなる。

 

「シロナさんがお相手ですものね。強くもなるわ」

「ふふ、ビシビシ鍛えてるわ」

「お相手がシロナさんで、育成の知識とバトルの経験を得たカイムなら、短期間でここまで強くさせられても不思議ではありませんね」

 

カトレアは満足したように立ち上がり、自身の持つボールからメタグロスを出した。当然だが、カイムのメタグロスよりも遥かに鍛えられていることがわかる。

 

「どうです?軽く手合わせといきませんか?」

「ああ、頼む」

 

端的に言ってカイムはメタグロスの側に立つ。メタグロスもカトレアの言葉とカイムの行動でこれから手合わせがあることを察し、小さく鳴いた。

 

「相手は遥かに格上だ。だが怖がることはねえ。シロナの方が強いからな」

「アタクシも強くなってますのよ?油断しないことね」

「格上なのは変わらねえ。油断する理由はねえよ。いくぞメタグロス」

 

カイムの言葉に同意するようにメタグロスは鳴いた。

 

 

その後、しばらくメタグロス同士のバトルをシロナは楽しそうに眺めていた。結果としては当然カトレアが勝利したが、カトレアの予想よりもはるかにいい動きをカイムのメタグロスは見せた。

 

「悪くない動きだったわ。まだまだ発展途上だけど、ちゃんと鍛えれば強くなるわ」

 

手合わせを終えたカトレアは、メタグロスをボールに戻しながら言った。カイムはメタグロスの治療をしながらその言葉を聞き、メタグロスの鋼の身体を撫でた。

 

「だってよ。頑張ろうな」

 

メタグロスはカイムの言葉に頷く。

そんな二人の様子をシロナは微笑ましく眺めていた。

 

「だいぶ動けるようになってきたわね」

「ああ。覚えが早くて助かる」

 

一番新入りであるのにも関わらず、メタグロスの成長は目まぐるしいものだった。そこまで個体値が高いわけではないのだが、ルカリオのような真面目さと勤勉さ、そしてシロナの指導とカイムへの信頼がここまでメタグロスの実力を押し上げた。無論手持ちの中ではまだまだ弱い方だが、それでもこの短期間でこれほど腕を上げたとなれば十分だろう。

 

「貴方の育成も良くなってきてるわ。自分なりに育成の仕方を考えるようになっていて、自分に合った育成方法を見つけられたのが大きいわね」

「かもな」

 

人それぞれポケモン達との向き合い方は違う。故に基礎以外でトレーナー全員に合った育成方法などない。自分に合った育成方法を見つけることがなによりも大切となる。

シロナが教えたのは基礎と苦手の克服。無論カイムに合った育成を共に模索したが、最後に決めたのはカイム自身。自分で決めることができたということがシロナにとっては嬉しいものだった。 

 

「カトレア。手合わせ、為になった。ありがとう」

「ええ、構わないわ」

 

そう言って二人はポケモンをボールに戻して室内に戻る。

そこで時計に目を向けると、夕飯の時間が近くなってきていた。そろそろ夕飯の支度をしようと考えたカイムは袖を捲ると、カトレアに向き直った。

 

「カトレア、晩飯なんか食いたいのあるか?」

 

カイムの問いかけにカトレアは目を丸くする。

 

「アタクシがリクエストしても良いの?」

「ああ。明日はシロナリクエストだから今日はお客様のリクエストを受ける。なんかある?」

 

カイムの問いかけにカトレアは少しだけ考える。

色々と選択肢が出てきたが、その中でカトレアは一つの選択肢に決めた。

 

「そうですね…アタクシ、和食が食べたいです」

「和食?」

 

意外な答えに今度はカイムが目を丸くした。

 

「そんなんでいいんか?」

「ええ。イッシュ地方にいると、あまり和食を食べる機会が無いんです。本家でも会食ばかりであまり和食を食べる機会がなかったの。だから和食を食べたいわ」

「構わんが…和食の何がいいとかはないのか?」

 

和食はあくまでジャンルであり、それに含まれる食べ物は無数にある。その中で何かしらチョイスしてもらえればそれを作る予定だが、何もないなら今ある材料で和食を作ることになる。

 

「ないわ。貴方なら美味しく作ってくれるのでしょう?」

「ええ。カイムならなんでも美味しくしてくれるわ」

「だからなんでシロナが誇らしげなんだよ」

 

相変わらずカイムの料理事情になると、シロナが誇らしげに胸を張り、それを見てカイムは苦笑した。やれやれと思いながらも、カイムはエプロンを装着し、頭の中でどういう献立にしていくかを組み立てていく。今ある材料、栄養バランスなどを考慮し、どう調理していくかを決めた。そしてルカリオをボールから出す。

 

「やるか」

 

カイムの言葉にルカリオは小さく頷いた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

調理をするカイムを横目に見ながら、シロナはカトレアの髪を櫛でとかしていた。

 

「カトレアの髪は綺麗ね」

「シロナさんの方が綺麗な金髪です。アタクシのは波打っているので…」

「あら、それが持ち味じゃない。お手入れも綺麗にしてるから艶もあるし、とっても素敵よ」

「ふふ、そう言っていただけると嬉しいです」

 

カトレアはそう言って笑う。そしてシロナの長い髪を手に取り、優しく撫でた。二人の会話は少し歳の離れた姉妹のようでありながら、気心知れた女友達のようにも聞こえた。

 

「シロナさん、とても髪が長いですけどどうお手入れしてるんですか?」

 

カトレアもだが、シロナの髪はかなり長く量も多い。そのため当然手入れは大変になる。その大変さは自分のことであるため、カトレアにはよくわかった。

シロナの髪は長いが、とても美しく絹のような艶を持っている。どう手入れをしているのかはカトレアにとってとても気になることだった。

 

「そんな特別なことはしてないけど…椿油を使ってるかしら」

「椿油?」

「ええ。前の誕生日にカイムがくれたの。同じものを買い足して使っているのよ」

 

いつの日かの誕生日、まだ付き合ってはいなかったが、カイムはシロナが喜んでくれそうなものを考えた結果、髪の手入れに役立つものという結論に至った。そしてシロナはそれを使った手入れが気に入り、カイムが贈ってくれたものと同じブランドのものを買い足して使っている。

 

「あら…カイムにしては意外とエレガントなものを贈ってくださってのですね」

「おい、聞こえてんぞ」

「聞こえるように言ったのよ」

 

何食わぬ顔で返してくるカトレアにカイムは顔を顰めた。

そんな二人のやり取りを見てシロナは楽しそうに笑っている。

 

「なに楽しそうにしてんだ」

「ごめんごめん。カトレアは可愛いなぁって」

 

シロナはそう言いながらカトレアを後ろからぎゅっと抱きしめる。

カトレアはシロナがどうして自分のことを可愛いと言ったのかがわからず首を傾げた。

 

「久しぶりにカイム(お兄ちゃん)に会えて嬉しいのよね」

「なっ⁈」

 

シロナの言葉にカトレアは一気に顔を赤くする。

カトレアは、無愛想ながらも面倒見が良いカイムのことを兄のように慕っている。それはカトレアの考える兄の姿はカイムによく当てはまるものだったからかもしれない。

 

「し、シロナさん!」

「うふふ。カトレアいつも私のことを揶揄ってくるからこれでおあいこよ」

「むう…」

 

カトレアは頬を膨らませて目の前にいたカイムのムクホークに顔を埋めた。

そんな二人を見ながらカイムはルカリオの手助けを受けながら調理を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

食事の用意ができた、という知らせを受けてシロナとカトレアはポケモン達にポケモンフードを与えていた。

 

「ここまでポケモン達が多いと、フードを与えるのも一苦労ですわね」

 

カトレアは普段、ここまで多くのポケモン達を相手にすることはない。カトレア自身のポケモンだけでなく、シロナとカイムのポケモンもいるため、シロナ宅の庭はポケモンだけで埋め尽くされていた。自分のポケモンの面倒は自分で見ているが、ここまで多くのポケモンを見ることは今までなかった。

 

「そうね。私のポケモンが割と多いし、カイムの手持ちも揃ったから結構大所帯にはなったわ」

 

カイムがホウエン地方に来た際はまだ手持ちがブラッキーとバシャーモだけだった。加えてシロナの手持ちにもウォーグルやシビルドン、ジャラランガなどはまだいなかったため、今と比べたらかなりポケモンの数は少なかったが、今は大所帯になった。

 

「やっぱりカイムの手持ちが揃ったことが大きいのかもね」

「合計で四体も増えたことになりますものね」

 

ここまでの数のポケモン達の面倒を見切ることができるのも、やはりシロナのトレーナーとしての腕と、カイムのポケモン達への愛情があるからだろう。

カトレアはカイムの手持ち(ルカリオとブラッキーはカイムについているためここにはいないが)を見て、ふと疑問に思った。

 

「そういえば…カイムはミオシティのジムリーダー候補になっているのですよね」

「ええ、そうよ」

「以前は代理でしたから特に疑問も持ちませんでしたけど、ちゃんとしたジムリーダーになるのならタイプに専門性を出した方がいいのではありませんか?」

 

ポケモンのジムは大体専門のタイプがある。以前カイムが所属していたトバリジムなら格闘タイプ、現在のミオジムなら鋼タイプを専門としている。時折グリーンがジムリーダーを務めるトキワジムのように専門タイプがないジムも存在するが、ミオジムはそうではない。カイムの現在の手持ちにおいて鋼タイプはルカリオとメタグロスのみ。特別少ないわけではないが、正式な鋼タイプのジムリーダーとなるならジム用にでも鋼タイプのポケモンをあと一、二体ほど増やした方がいいのではないか、とカトレアは考えた。

 

「ああ、やっぱりそうよね。カイムもそれについては考えているみたいだけど、まだ候補のポケモンを出すくらいみたい」

 

一応カイムもそれについては考えていた。仮にジムリーダーになれずとも、鋼タイプのジムならばもう少し鋼タイプのポケモンがいた方がいいだろうと考えた。

 

「さすがに、アタクシが言うまでもなく考えていましたか」

「ええ。私が鍛えてますから」

「ふふ、そうですね。それについてもご飯を食べながらカイムに聞いてみましょうか。いい匂いがします」

「でしょ?私、お腹空いてきちゃった」

 

夕飯に何が出るのかを楽しみにしながら、二人は食卓に向かった。

 

 

 

 

 

 

食卓には既に食事が並べられていた。献立は焼き魚、煮物、白米に味噌汁とサラダという栄養バランスがよく考えられたものだった。

 

「準備できてるぞ。座れ」

 

カイムは着ていたエプロンを外し、所定の位置にかけた。そして手伝いをしていたルカリオの頭を撫で、食事に行くように促した。また、足元でカイムの足に頭を擦り付けて甘えているブラッキーを抱き抱えると、他のポケモン達が食事をしている場所に運んでいき、頭を撫でる。

ブラッキーが食事を始めたのを見ると、カイムは食卓に戻ってきた。

 

「お待たせ。食おう」

「大丈夫よ。じゃ、早速いただきましょう」

「ええ。いただきます」

「どーぞ」

 

シロナとカトレアは手を合わせて食事を始める。

カトレアは箸を使って焼き魚を口に入れる。合わせ調味料と魚の味、そしてすっきりとした酸味が口に広がり、僅かに目を見開く。

 

「美味しいお魚ね」

「お気に召したならなにより」

「カイム、これって確か柚庵焼きって料理よね?」

「ああ。シント遺跡調査の時に食べたやつだ」

 

春頃、新たに発見されたシント遺跡を調査した時に立ち寄った和食店。そこで食べた柚庵焼きをシロナはいつか作ってほしいと頼んだ。

 

「美味しいわね。煮物もよく味が染みてる。本当に家政婦みたいね、カイム」

「誰が家政婦だ阿呆」

「ふふ、カイムの料理は美味しいわよね。約束通り作ってくれたし」

 

カトレアはシロナの約束通り、という言葉に首を傾げる。当然だが、カトレアはシント遺跡調査であった二人の約束を知らない。故に疑問に思うのは当然だろう。

 

「カイムがね、これを作ってくれるって約束してくれたの。シント遺跡の調査の時にね」

「本当はもっと早く作る予定だったんだが…すっかり忘れてた」

 

シント遺跡調査の後、弾ジョウト地方ツアーに出かけただけでなく、ポケモンリーグであったりイッシュ地方での休暇であったりと色々あったため、すっかり忘れてしまっていた。

だがそれはシロナも同じであり、楽しそうに笑いながらカイムに言った。

 

「いいのよ。なんだかんだで作ってくれたじゃない。正直、私も約束したこと忘れてたし」

「そうか。すまん」

「気にしないで。でもこの味気に入ったから、また作ってね」

「気に入ったのなら、また作ろう」

 

カトレアは柚庵焼きを口にしながら遠い目をした。この二人の仲の良さは知っていたし、なんならずっと見てきたわけだが、こんなナチュラルに二人だけの空間が形成されることはなかった。

 

「カトレア?どうしたの?」

 

遠い目をしていたカトレアを見て、シロナはどうしたのだろうと声をかける。

 

「いいえ?お二人がとっても仲良しで、どこでも二人だけの空間が形成できるくらいラブラブであることは承知の上でしたが、今はアタクシもいますので。それを忘れないでくださいね?」

「いや…普通の会話だろ」

「そ、そうよね?」

 

二人にとってこの程度の会話は日常茶飯事であり、特別なことではない。故にカトレアにそう指摘された二人はそう言い返すし、言葉のみを聞けば普通の会話であることは間違いないだろう。

しかしカトレアから見ると、この会話をしている二人の空気が独自の空間を作り出しており、見ているだけで口の中が甘くなるような思いだった。

 

「…そうでしたね、無自覚ですものね。これを見せられているポケモン達も大変ですわね」

「はあ?」

「貴方も意外と鈍感というか…シロナさんのことになると盲目的になりますよね」

 

普段は礼節や空気感に敏感なカイムだが、シロナとの会話は普段からこのような甘ったるい空気感を出しているらしく、感性が鈍くなっているらしい。

そもそも付き合う前から『付き合っているのでは?』と思われるような距離感であった。付き合うことでその距離感が更に近くなることは当たり前であるが、もはや夫婦では?とカトレアは言いたかった。

 

「はあ…もういいです。それよりカイムに聞きたいことがあるの」

「なんだ?」

「貴方、手持ちは増やさないの?」

 

その問いを聞いてカイムは苦笑した。

 

「前も似たようなことを聞かれた気がするな」

 

実際、カイムはサザナミタウンに訪れた際に同じようなことを聞かれていた。その時はカイムがジムリーダー代理になる前であったため、手持ちが四体しかおらず、腕の割に少なかったという理由だった。

だが今は別の理由でこの問いかけをしており、カイムもそれを理解している。

 

「貴方、ジムリーダーになるのでしょう?代理でなくちゃんとしたジムリーダーなら、多少専門のタイプのポケモンを増やした方がいいのでは?」

「ああ、わかってる。一応候補はいくつか出しているんだが、まだ決めきれてない」

 

手持ちを増やす、と言うことは簡単だが、実際は簡単ではない。

まず増やしたところでちゃんと育成できるかはトレーナー次第である。加えて既存のポケモン達とうまくやれるかどうか、差別なく平等に接することができるかなど色々と考慮する点はある。カイムの今の手持ちは比較的穏やかで、全員仲良くやっていけているが、新たに加えたポケモンがそうなるかどうかは不明である。

 

「手持ちを増やすのも、トレーナーとしての技量が必要だものね。今のカイムなら、ジム用に新たにポケモンを増やすのも可能だわ。それで、候補のポケモンって?」

「今はジム所属のポケモンに何体か筋が良さそうなのがいる。そいつらのうち誰かを引き取ることを考えてんだ」

 

ジム所属のポケモンはある程度育つと、バトルフロンティアなどのバトル施設所属のポケモンになるか、新たに加入するジムトレーナーなどに割り当てられ手持ちとなる場合がほとんどだ。その要領で、ある程度育ったポケモンの中からカイムはポケモンを引き取ることを考えていた。

 

「さすがトウガンさんのとこで鍛えられただけある。ジム所属だから完全な育成はされてないが、基礎だけは俺が育成し直す必要もないくらい鍛えられている。少しやり方を教えれば多分、戦力になるだろう」

「へえ…いいわね。基礎を固める育成をジム所属のポケモンにもするのって結構大変だと思うんだけどね」

 

シロナ自身、ポケモンを育成する時に最も基礎に時間を割く。身体造り、動き方、技の熟練度上げなどやることは多くある。そう考えると、所属ポケモンの基礎を鍛えるというのはかなり献身的な指導だと言えるだろう。

 

「それで?そのポケモンっていうのは?」

「ハッサム、ハガネール、キリキザンの三体」

 

ハッサムは鋼・虫タイプ、ハガネールは鋼・地面タイプ、キリキザンは鋼・悪タイプであり、それぞれタイプが違う。タイプを考えればハッサムだが、役割やタイプへの理解度を考えるとハガネールやキリキザンもいいだろう。トウガンにはいっそのこと全員手持ちにしたらどうだと言われたが、いきなりそれをできるほどカイムに余裕はない。

 

「へえ…結構色々候補がいるのね」

「ハッサムはアタッカーね。特性『テクニシャン』からのバレットパンチは強力だし、他にも色々できる器用なポケモンだわ」

「ハガネールは…物理ディフェンダーかしら?アタクシ、あまり鋼タイプには詳しくないのだけど…」

「ハガネールは物理防御においては全てのポケモンの中で最高レベルだ。特防はブラッキーが強いし防御もいい。俺の手持ちのアタッカーであるバシャーモとルカリオは耐久が低い。まあ、メタグロスは耐久性もあるがな」

「そうなると…キリキザンはメタルバーストや悪タイプ特有のおいうちやふいうちみたいなからめ手も使える。うん、誰が入ってもバランスは悪くないわね」

 

カイムの手持ちは、シロナとダイゴの影響を受けたものとなっている。バランスよく構成されているが、どんなにバランスを考えたとしても六体の手持ちでできることは限られる。

それを完全とは言えないながらも弱点を潰し、選択肢を増やすための手持ちをどうするか。そういう考えで本来なら考えるが、カイムは少し違った。

 

「まあ…トレーナーならそう考えるのがな」

「ふふ、わかってるわよ。貴方の場合、自分の手持ちと仲良くなれるかどうか、よね?」

「…ああ。正直、誰が入っても構わないんだ。誰でもバトルにおいては多分いい感じになるし。なら、メンバーとの個性的な部分に目を向けた方がやりやすいんじゃねえかって思っただけだ」

 

それを聞いてシロナは楽しそうに笑い、カトレアは一瞬ぽかんとして可笑しさに笑った。

 

「貴方、本当にポケモンが好きなのね」

「…んだよ。別にいいだろ」

 

むすっとしながら言うカイムがおかしくてシロナとカトレアは笑う。

 

「貴方って、本当に単純ね。自分のポケモンと仲良くなれるかどうかで決めるトレーナーなんてそういないわ。アタクシでもバランスを考えてチームを組みましたよ」

「う、うるせえ…わかってんだよんなこと」

 

今のところいるメンバーに関してはある程度バランスを考えた上だったが、ジムリーダーとしてメンバーを増やすとなると、今の候補ポケモンならば誰でもうまく扱える自信があった。故に今のメンバーと仲良くできるなら誰でもいいかな、とカイムは気楽に考えていた。

 

「なら、その子達とよく触れ合って決めるのがいいんじゃない?」

「そうなる」

「単純ね」

「やかましい」

 

そんな雑談をしながら和やかに食事の時間が流れていった。

 

 

そして食後に三人でパーティゲームをしたのだが、そこでもカイムがボコボコにされていたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

カイムは一人で寒空の下、空を見上げていた。

 

「なにしてるの?」

 

そんなカイムにシロナは後ろから声をかけた。

カイムは白く染まる息を吐きながら振り返る。そして足元にいたブラッキーを抱き上げた。

 

「いや、ただ換気がてら外の空気吸ってただけだ」

 

そう言ってカイムはウッドデッキに腰掛け、シロナもその隣に腰掛けた。

 

「カトレアは?」

「今はお風呂。髪が長いからお手入れが大変そうよ」

「そいつはお前もだろ」

 

カトレアはもちろんのこと、シロナの髪の長さも相当なものだ。手入れの大変さは同棲しているカイムはよく理解しているし、なによりシロナも髪に対しては相当な努力を費やしている。

 

「まあね。でもいいのよ。好きでやってるし、私は自分にこのヘアスタイルが合っているって思ってるから」

「実際合ってると思う。お前のアイデンティティの一つだろうよ」

 

実際、シロナの長い髪は彼女のアイデンティティの一つだと言えるくらいよく目立つ。これほど長く、美しい髪を持つ女性もそういないだろう。

それを肯定するように、カイムの膝にいたブラッキーがシロナの髪をくんくんと匂いをかぎ、髪の中に潜っていった。

 

「あら?もう…甘えん坊なんだから」

「…昔から、心を開いた人間にはとことん甘えるんだが、ここまで懐いたのはシロナが初めてだ」

 

ブラッキーは人懐っこい。故に、結構誰にでも懐くのだが、ここまで心を開いて懐いたのはカイムを除けばシロナが初だった。

 

「嬉しい限りね」

「そうだな」

 

暫しの沈黙が流れる。聞こえるのは僅かな風の音と、互いの息遣い、そしてブラッキーの寝息だけ。

その沈黙をシロナが破る。

 

「ねえ、カイム」

「ん?」

「明日の私の誕生日会なんだけど…一個お願いしていい?」

 

珍しいとカイムは思う。

普段シロナはあまりお願いというか、要求をしてこない。だというのにここでお願いをしてくることがカイムは少し意外だった。

 

「応えられるものは応えよう。なんだ?」

「あのね…明日、カイムは私の誕生日ケーキを手作りしてくれることになってたじゃない?」

「ああ」

 

毎年、二人の誕生日は買ってきたケーキを食べているのだが、今年は付き合ってから最初の誕生日ということもあり、カイムが手作りのケーキを作る、と言い出した。シロナとしても自分のために動こうとしてくれたことが嬉しくてその申し出を快く受け入れた。それに、カイムの料理の腕ならば美味しく作ってくれるだろうと考えてのことだった。

 

「ケーキ、やっぱ買うか?」

「あ、違うの。材料も用意してくれてるし、カイムも色々と調べて準備してくれてる。それに、私のために作ってくれるのはすごく嬉しいからそれでいいの」

「じゃあなんだ?」

「あのね…そのケーキ、私も一緒に作りたいの」

 

シロナの申し出にカイムは驚き、小さく目を見開く。

 

「私もさ、教えてもらえれば少しはできるようになってきてる。まだまだカイムの監視下でないとできないレベルだけど、最低限動きはまともになったと思うの。それで、せっかく初めてカイムもケーキを作るわけだから一緒にやりたいなって」

 

お菓子作りをカイムがやった経験はほとんどない。ポフィンはあるが、ほかのお菓子はほぼないに等しいため、初めてやることを一緒にやってみたいという願望があった。

 

「ああ、そういうこと」

「うん。だめ、かしら」

「いや、いいよ。一緒にやろう」

 

カイムがそう答えると、シロナはパッと表情を明るくした。

 

「いいの?」

「ああ、いいよ。俺が監視してりゃ、やばいことにはならんだろう」

「ありがとう」

 

そう言ってシロナは、カイムの手を握り、頬に唇を落とした。

急なことでカイムは驚愕したように目を見開く。

 

「………」

「『ふいうち』。(好き)だらけよ」

「……んのやろう」

 

耳を赤く染めながら、カイムはぶすっと表情を歪めた。そんなカイムをシロナは楽しそうに笑った。

 

「隙を見せるのが悪いのよ〜」

「……そうだな」

 

実際カイムは気を抜いていたが、カイムに落ち度はない。そもそも自宅でわざわざ気を張っているような人間などそういないだろう。

故に、今は相手が悪かったと言うべきだな、と内心でカイムはため息をついた。

 

そこでシロナの髪にくるまっていたブラッキーがもぞもぞと這い出てきて、シロナの膝を枕にしてころんと横たわった。それを見てシロナは柔らかく笑い、ブラッキーの頭を撫でた。

 

「………」

 

その瞬間、シロナが気を緩めたのがわかった。

そして次の瞬間、カイムは動いていた。

 

「シロナ」

「なn…⁈」

 

声をかけられてカイムの方を見た瞬間、シロナの視界にはカイムの顔があった。そして次は唇に柔らかい感触。

 

その僅かな時間は、シロナにとって永遠にも思えるほどの長さに思えた。

カイムの顔が離れていく。離れる際に銀色の糸が一瞬だけできたが、すぐに切れる。その感触すらも感じられるほどシロナの意識は顔に集まっていた。

 

「…へ?」

「『ふいうち』されたからな。仕返しの『カウンター』」

「な……あ……」

 

顔を赤くし、プルプルと震えるシロナを見て「かわいいな」と想いながらもカイムは『カウンター』がうまく決まったことに満足して、口角を上げた。

 

「効果は抜群ってか?」

「…もう!」

 

シロナは頬を膨らませてカイムの肩に顔を埋めた。

カイムはそんなシロナを見てくつくつと楽しそうに笑い、そんなカイムを憎らしく思ったシロナはそのまま頭をカイムの膝に落とした。その弾みでブラッキーはシロナの身体に包まれるような体勢になる。

 

「拗ねんなよ。そっちから仕掛けてきたんだろ」

「………」

「まったく…ガキみてえに頬膨らませやがって」

 

呆れたように言いながらも、カイムはシロナの頭を優しく撫でた。それにより不貞腐れた表情が少しだけ表情が柔らかくなる。シロナもそれを自覚しており、あまりにも単純な自分に呆れてしまい、ブラッキーをぎゅっと抱きしめた。

 

そんな二人のやり取りを見て、ブラッキーは「またやってるよ」と言わんばかりの表情をしたが、大好きな二人が側にいてくれることが嬉しくて、その尻尾はゆらゆらと揺れていた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

入浴を終えたカトレアとシロナは、シロナの寝室で雑談をしていた。

カトレアは白いワンピースタイプのパジャマ、シロナは黒いパーカーと黒い細身のスウェットという姿だった。

 

「お部屋にベッド二つはさすがにちょっと狭いですね…」

「ふふ、そうね」

 

今現在、シロナの部屋にはベッドが二つある。シロナのベッドと、カイムの部屋にあったベッドだ。カトレアがここに宿泊するにあたり、カイムがシロナの部屋にベッドを運んだため、こうなった。

 

「アタクシは床にお布団でも良かったのですが…」

「だめよ。お嬢様を床になんて寝かせられないわ。それに、カトレアは私が床で寝るって言ったら絶対反発したでしょ?」

「それはそうです。シロナさんを床でなんて寝させられませんわ」

「ほらね。だからこうすれば、問題ないだろってカイムが」

 

その言葉にカトレアは目をぱちくりと瞬かせた。

 

「あら、カイムが?ならあの子はどこで寝るの?」

「カイムは隣で床にお布団敷いて寝てるわ」

「そう。少し悪い気もするけど、シロナさんを床で寝させない心遣いは素晴らしいわ」

 

そう言ってカトレアは小さく笑う。カイムのどちらも譲らないだろうという予想は当たっており、その予想に対してベッドをシロナの部屋に運んでおく行動はカトレアにとってもありがたいものだった。

 

「じゃあ…このベッドはカイムのものなのね」

「そうよ。シーツとか枕とかは全部洗濯して客人用のものを使ってるから大丈夫よ」

「ふふ、分かってます。とてもいい香りのシーツですもの。わざわざ洗濯してくれたのはわかりますわ」

 

カイムを褒められてシロナは嬉しそうに笑う。自分の好きな人が褒められることは、やはり嬉しい。先ほどの『カウンター』のこともあり、シロナの頭の中はかなりカイムに染められていたため、シロナの表情は恋する乙女の表情になっていた。

 

「…シロナさん、先程なにかありました?」

「へっ⁈」

 

その表情があまりにも印象的で、カトレアはシロナに思わずそう聞いた。まさかそこまで表情に出ていると思っていなかったシロナは、カトレアに言い当てられたことに驚き、思わず声が上ずった。そしてそのリアクションから、カトレアは何かあったことを感じ取る。

 

「あったんですね?」

「あ…いや、えっと…」

 

カトレアは面白いおもちゃを見つけたような笑みを浮かべ、シロナに詰め寄る。

 

「カイムが、シロナさんになにをしたんですか?」

「カイムが…」

 

言いかけて、先程の光景がフラッシュバックし、顔が赤くなる。顔が赤くなったことで、シロナが何かあったことを確信したカトレアはシロナに詰め寄った。

 

「カイムはシロナさんになにをしたのですか?」

「……ス」

「え?」

「…キス、してくれた」

「!」

 

カトレアは口に手を当てて驚く。まさか自分が入浴しといる隙にそんな大胆なことをカイムがしていたとは思いもしなかった。

 

「カイムから、ですか?」

「…そうよ」

「結構、大胆なんですね…」

 

入浴中だったとはいえ、客人が来ている状態だ。その時にあの堅物カイムがそんな大胆なことをしているとはカトレアは思いもしなかった。

 

「カイムは…確かに堅物で、あまり好きオーラを出したりはしないし、そういうこともあまり言わない。でも時々踏み込んできて…」

「踏み込んできて?」

「……私の、してほしいことをしてくれる」

 

顔を赤くし、ぽつりと呟くように言った。そんな乙女のようなことを言われ、なんだか聞いているカトレアまで恥ずかしくなりそうだった。

 

「いつも…カイムは私の欲しい言葉を、行動をしてくれる。いつも側にいてくれる。それだけで、嬉しくなっちゃうの」

「…本当に、好きなんですね」

「…うん。多分、人をここまで好きになることはもうない。そう思えるくらい、好き」

「聞いててこちらが恥ずかしくなりそうです」

 

カトレア自身、まだ成人しておらず家柄もあり、年頃の女の子のように恋をすることはなかった。今のところ自分の眠りを妨げ、感情を揺さぶるような人物には出会っていない。だが今のシロナを見ていると、自分もいつか(ここまでとは言わないが)誰かを好きになるのだろうか、と考えてしまう。

 

「…アタクシも、いつか誰かを好きになるのでしょうか」

 

カトレアの呟きに、一瞬シロナは驚いたように僅かに目を見開いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべてカトレアの頬を撫でた。

 

「どうかしらね。大切に思える人に出会えるかどうかは、運も関係してくるから」

 

シロナがカイムと出会えたのは、完全に偶然。カイムの所属した研究室の教授がシロナと知り合いだった。本当にそれだけであり、そこで出会った時はここまで深い関係になるとは思いもしなかった。

 

「まさか、こんなに好きな人ができるなんてね」

「少しだけ、羨ましいです。アタクシはお父様とお母様、コクランのことが好きです。でも、シロナさんがカイムに向ける『好き』とは違うことはわかりますわ」

 

カトレアがコクランのように近しい人に向けるのは親愛であり、シロナがカイムに向ける感情とは違う。まだ恋をしたことがないカトレアには好きという言葉の区別を実感はしていないが、どういうものかはわかる。

 

「いつか、わかる時が来るといいわね」

「ええ」

 

家柄故に自由に恋愛などカトレアには許されない可能性もあるが、ここまで人を夢中にさせるような感情をいつか自分も抱けたら嬉しい。そうカトレアは思った。

 

「カトレアって、初恋とかはないの?」

 

シロナの質問にカトレアは小さく笑って首を振った。

 

「アタクシはそういう感情を抱いたことはありません。友愛と親愛ならいくつも経験しましたが、シロナさんがカイムに抱いているような感情は一度も。それに昔のアタクシは感情の爆発から来る能力の制御すらままならない状態でした。だから、それどころではなかったというのが正確ですわ」

「そうね。昔のカトレアは、感情のコントロールがうまくできなかったものね」

「シロナさんのおかげで、もう感情に振り回されることもありません」

 

成長したカトレアは、完全に感情と超能力をコントロールできるようになっていた。だがそれは決してカトレアだけではできないことだった。しかしシロナがそんなカトレアを導き、成長を促した。カトレアはそのことを心底感謝している。

 

「ふふ、今の成長したカトレアも素敵だけど、あの頃のカトレアも可愛かったわ」

「もう…揶揄わないでください」

「あーもう、かわいい」

 

照れてジト目で唇を尖らせるカトレアをシロナはご機嫌で抱きしめて撫で回す。そしてそのカトレアがあまりに可愛らしく、カトレアがシロナのことをいじる気持ちがわかった気がした。

 

(…たしかに、照れてる美人ってかわいいわね)

 

自分のことをいじるだけだったカトレアだが、今は立場が逆になっている。少しだけすっきりした気持ちになりながら、シロナはカトレアを撫で回すが、面白くなくなってきたカトレアはシロナに反撃に出ようとした。

 

「もうアタクシのことはいいんです!それよりまずシロナさんのお話が聞きたいです」

「まだ聞きたいの?」

 

シロナとしては話そうと思えばいくらでも話せるのだが、いかんせん揶揄われ続けるのは面白くない。たった今少しだけ仕返しをしたとはいえ、シロナが受けたダメージの方が多い。

 

「もちろん。シロナさんのお話はどれだけ聞いても楽しめますから」

「…はあ。わかったわ。わざわざこの時期に来てもらったこともあるし、聞きたいだけ聞かせてあげる」

 

逃げられないことを察したシロナは、昼間に考えたありったけの惚気を聞かせることを覚悟し、カトレアに向き直るのだった。

 

 

 

「カイムの好きなところ?そうね…私のことを信じてくれるところかしら。どんな逆境でも、私なら必ず乗り越えられるってただ信じてくれているところ。そんなところがとても好きなの。手を貸してくれることよりも、優しい言葉を選んでもらうよりも、心から信じてくれている。心から誰かを信じることって、案外難しいことだけどカイムは私のことは絶対に信じてくれるの。そんなところが、本当に好き。それに、とっても一途で真面目、そのくせ不器用でいじっぱりなところも魅力的だわ。誰にでも何にでも真摯に向き合っていこうとする精神は、誰にでもできることじゃないの。だからこそポケモン達にも好かれるんでしょうね。無愛想なところもあるけど、そのうえで真摯に向き合おうとするギャップなんかも素敵なところよね。そういうところがポケモンにも好かれるのかも。そう、それでね。この前のクリスマスでは、私に喜んでほしいって理由で色んな人の助けを借りてまでデートプランを用意してきてくれたの。苦手だけど、喜んでもらうためにわざわざしてくれたっていうことがとっても嬉しかったわ。それにデートもとても楽しかったの。最後は綺麗なお店で美味しいものを食べて、プレゼントを渡してくれたの。すっごく嬉しくて、思わず私が持ってきたプレゼントの存在を忘れるくらい嬉しかったわ」

「し、シロナさん…もう、もう十分です」

「あら、カトレアが聞きたいって言ったのよ?こんなのまだ序の口よ?まだまだいくわ」

 

あまりに砂糖成分過多な惚気に、カトレアは思わずたじろぐ。そしてシロナはそんなカトレアを見て不敵に笑った。

この瞬間、カトレアはやりすぎると反撃を受けることを理解し、これ以来いじりすぎることはやめようと心に固く誓うのだった。

 

 

 

 

風呂から上がり、リビングで髪を乾かしていたカイムは、わいわいと騒ぐ二人の声を聞いて傍にいるトリトドンと共に首を傾げた。

 

一時間後には顔を真っ赤にして目を回すカトレアがシロナの部屋にいたらしいが、カイムがそれを知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

朝食を済ませたシロナとカイムはキッチンに立っていた。二人の服装はエプロンを装着した状態であり、これから料理を行うということがよくわかる状態になっていた。

 

「よし、じゃあ始めるか」

「ええ、よろしくね」

 

材料を並べたキッチンに立ち、シロナとカイムは調理を開始した。

これから二人が作るのはチョコレートケーキ。シロナのリクエストで誕生日ケーキとして作ることにしていたのだが、贈られる本人であるシロナも調理に参加するという異例の事態になっていた。

 

そして二人の他に普段からカイムの調理を手伝っているルカリオと単純にカイムが料理をしているのを見るのが好きなブラッキーがキッチンにいた。客人であるカトレアは二人の邪魔をしないように食卓のある食堂で二人の調理を見守っており、超能力でスマートフォンを動かし、二人が調理する姿を写真に収めようとしていた。

 

「おい、何撮ろうとしてやがる」

 

それに気づいたカイムが手を動かしながらジト目を向けてくる。しかしカトレアはその程度で怯むことはなく、平然と写真を撮った。

 

「あら。お二人の仲睦まじい光景を写真に収めようとしただけですよ?」

「誰も撮ってくれ、なんて頼んでねえだろ…」

 

止める様子がないカトレアにため息を吐きつつ、カイムはシロナの手元に視線を移した。一通り調理作業はできるようになったとはいえ、まだおぼつかない部分も多々あるのも事実。カイム自身手を動かしながらもシロナへのフォローも忘れないように動いていた。

 

「こんな感じで大丈夫?」

「もうちょい混ぜな。ダマが残ってる部分がある」

「あ、ほんと。わかったわ」

 

カトレアに対してジト目を向けていたカイムだったが、シロナの言葉に即座に反応すると、普段のテンションで平然とシロナにアドバイスを送る。そのあまりの自然さに、普段からこういうことしてるんだろうな、とカトレアは考えた。

 

(…結婚まで秒読みでしょうか)

 

二人とも成人しており、自立もしている。加えて二人の稼ぎは同年代の人と比較したら遥かに多い。カイム自身の稼ぎだけでも、うまくやれば二人で食べていけるだけの稼ぎがあるが、そこにシロナの稼ぎが加わるとなると、金銭的な心配は無いに等しい。それに二人は感覚が庶民的であるため、無駄遣いをすることもせず、着実に貯金を増やしていっている。今この場に子供がいたとしても、問題なく養育費を出すことができるだろう。

 

ただこの二人には決定的な弱点があった。

 

何を隠そう、この二人…致命的に奥手である。二人が互いを意識し始めたのはおそらくカイムが大学を卒業してから。卒業後は、しばらくカイムはミオシティで一人暮らしをしていたが、シロナの説得を受けて同棲を始めたと聞いている。

 

(あの堅物生真面目仏頂面のカイムが同棲を受け入れるということは、その時にはシロナさんのことを意識していたはず……カイムの性格上、意識していない女性との同棲なんて断固として拒否していたでしょう)

 

カイムは自他共に認める超がつくほどの生真面目。故に付き合っていない女性との同棲など、余程のことがない限り受け入れることはない。シロナの説得があったとはいえ、それを受け入れたということは、その時にはシロナのことを意識していたか、はたまた無自覚ながら好意を抱いていたかのどちらかだろう。

 

そしてそれはシロナもだった。誰にでも人当たりのいいシロナだが、人との距離感においてはちゃんと人を見て線引きを行う。例えどんな高名な人物であっても、自身との距離感は必ず適切なものになるようにする。

そんなシロナがカイムとの同棲をしたい、と言い出した。その時にシロナがカイムのことをどれだけ意識していたかわからないが、同棲を説得するほどカイムに対して心を開いていたことは確かだ。さすがにカトレアでもその時のシロナが何を考えていたのかはわからないが、男性の中ではトップクラスに好感を抱いていたのだろう。

しかしシロナは最初それを自覚しなかった。他者を恋愛的な意味で好きになる、ということを経験したことがなかったからだ。

 

(人のことは言えませんが、シロナさんも男性経験などなかったですからね)

 

シロナは今まで、ポケモンと考古学に自身の全てを費やしてきた。故に、シロナは男性経験などなかった。シロナに言いよる男は無数にいたが、シロナのお眼鏡にかなう男はいなかった。

 

そんな中、シロナのスカウトで助手になり、そして気づけば好意を寄せるほどカイムのことを信頼していたが、生まれてから大人になるまで恋愛などしてこなかったシロナはその感情に気づくのに相当な時間を要した。

そしてその反動なのか、今では見慣れているカトレアですら砂糖を吐きそうになるほどのラブラブオーラが出るに至った。

 

(…いいことなのですが、少しはアタクシがいることも考慮して欲しいですね)

 

写真を撮りながら内心で苦笑していると、そのわずかな雰囲気の変化をシロナは感じ取った。

 

「カトレア?どうかした?」

 

カイムから手ほどきを受けていたシロナがカトレアにそう尋ねる。

カトレアは一瞬驚いたように目を少し見開いたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべながら返した。

 

「いいえ。お二人が仲睦まじくて嬉しかったのです」

 

カトレアにとって、シロナは恩人であり大切な友人でもある。だからそんなシロナが誰かのためではなく、自分のために時間を使い、そして大切な人と幸せそうに笑いながら過ごす。それが嬉しかった。

そしてカイムもカトレアにとっては大切な人だった。ぶっきらぼうで無表情。才能がない癖に諦めが悪いが、優しさとポケモンへの愛情は本物だった。また、面倒見もよくカトレア相手にさりげない優しさを向ける不器用なところが、カトレアの想像する『お兄ちゃん像』と一致しており、気づけばカイムのことを兄のように慕っていた。

 

そんな二人が幸せそうにケーキを作る。その光景がカトレアにはとても幸せで、嬉しいものに思えた。

 

(普通の女の子って、こういう感じなのかしら)

 

家族や友人と共に穏やかな時間を過ごす。名家の生まれであり、幼い頃から次期当主となるための勉強や習い事、能力の制御の特訓などであまり同年代の子供と遊ぶようなことはできなかった。辛く、苦しい時もあったが、積み上げていくことをカトレアはそこまで苦に思わなかったから続けられた。しかしやはり、普通の生活に時折憧れを持っていたことも事実だった。

 

シロナとカイムはどちらも年上であり、カトレアの想像する普通とは少し違うかもしれないが、この時間はカトレアにとって愛おしかった。

 

「…ふふ」

「どうした?」

 

小さく笑ったカトレアにカイムが問いかける。

カトレアはなんでもないと言うように首を振り、笑った。

 

「いいえ、なんでもありません」

「…そうか」

 

またいじってくるかと少しだけカイムは身構えたが、カトレアの穏やかな笑みを見てそうでは無さそうだと判断し、視線を調理途中の生地に戻すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

カトレアとシロナの目の前にはたくさんの料理が並んでおり、どれもかなり力が入って作られたものだとわかるほどだった。

 

「わあ…すごいごちそう」

「これ、全部カイムが作ったのですか?」

「ああ」

 

食卓に並んだのは刺身の盛り合わせ、山菜と魚ときのこの天ぷら、だし巻き卵や鶏肉の照り焼きなどシロナが好物としている和食メインのものが多数並んでいた。

 

「シロナのリクエスト+αでいくつか追加してみた。味は保証する」

「これだけの量作るの…大変だったんじゃない?」

 

確かにシロナがリクエストしたものばかりだが、いくらカイムが料理上手でもこれだけのメニューを一人で作るのはかなり大変だったはずだとシロナは考えた。いくら誕生日とはいえ、ここまでやってもらうのは少々申し訳なく思ってしまう。

 

だが予想に反してカイムは何でもないように返した。

 

「別にそこまで大変じゃねえ。手伝ってくれたしな」

 

そう言ってカイムは傍にいたルカリオの頭を撫でる。ルカリオは表情をほとんど変えないが、どことなく誇らしげな表情をしているように見えた。

そしてそんなカイムの足元で、存在を主張するようにブラッキーがぴょんぴょんと跳ねている。ブラッキーを抱き上げ、顎を撫でると嬉しそうに鳴いた。

 

「今回は、ブラッキーもサイコキネシスで色々と手伝ってくれた」

「あら、ブラッキーが?」

 

普段は後ろから見ているだけだったが、ブラッキーも今回はサイコキネシスを使うことで色々と手伝ってくれていた。制御が苦手ではあったのだが、ある程度制御できるようになっていたため、特訓がてら少しカイムの手伝いをしたのだった。

 

「ありがとう。頑張ってくれたのね」

 

そう言ってシロナはブラッキーとルカリオの頭を撫でた。

二匹を他のポケモン達が食事をしているところに向かわせ、シロナ達も食卓につく。そして手を合わせて三人は食事を始めた。

 

「あ、これ美味しい」

 

煮物を口にしたシロナは思わずそう呟く。それを聞いたカイムは無表情のままほとんど変わらないが、少しだけ嬉しそうに口角を上げた。

 

「コクランも料理はかなりのものだけど、やっぱり料理に関してはカイムの方が上ね」

「あの人は他が俺以上だから」

 

フロンティアブレーンとして今なお活躍しているコクラン。その実力は四天王であるカトレアに勝るとも劣らないほどのものである。コクランの一族は代々、カトレアの一族に仕えており、カトレア達を守るためにその実力はかなりのものとなっている。

その中でもコクランは次期当主であるカトレアの側近を任されるほどであり、伝説のポケモンである『エンテイ』を従えるほどだった。今のカトレアと本気でバトルしても、おそらく勝率は五分五分だろう。シロナですら完勝することはほぼ不可能といえるほどの実力がある。カイムでは良くて善戦、悪くて惨敗だろう。

 

「あら、ジムリーダーなら善戦くらいはできるのではなくて?」

「俺はまだジムリーダーじゃねえ。ジムリーダー候補だ」

「代理やってたんだし、似た様なものよ。気にしすぎ」

「まだ決まってねえだろ…」

 

色々な人に今のカイムの実力なら大丈夫だと言われるが、当の本人はまだそう信じられてはいない。これはカイム自身の悪癖に由来するものであるが、それ以上に慎重かつ真面目さ故だろう。

 

そこでカトレアはジムリーダーという単語から、一つの疑問が出てきた。

 

「ジムリーダーといえば…カイムのジムリーダー承認試験はいつなの?」

 

ジムリーダーに承認されるためには当然試験がある。無論カトレアはそれを把握しているが、その試験がいつになるのかは知らなかった。カトレアはイッシュ地方の四天王に最初からなれるほどの実力者であったため、ジムリーダーという関門を通ることはなかった。そのため、ジムリーダー関連のものはあまり知らない。

 

「三月の中旬。試験内容はバトル実技、筆記試験、面接だとさ」

「あと二ヶ月くらいね。バトルは問題ないでしょうけど、他は大丈夫そうかしら?」

 

カトレアから見ても実力面では問題ないだろうが、他のことをカトレアは知らない。その疑問も尤もだろう。

 

「筆記試験はまあどうにかなんだろ。聞いた感じ、一般常識の範疇を超えないような問題だし。面接は知らん」

「カイムって…頭良かったの?」

「……一応、大学は出てるぞ俺」

「あら、そうだったのね」

 

まるで初見のような反応をするカトレアにカイムは少しだけげんなりしながら答えた。

 

「俺、言わなかったっけ」

「言ったかもしれないわ。ごめんなさいね、あまり重要な情報ではないから」

「まあ、重要ではないな」

 

ポケモンバトルを生業にする以上、学歴というものはあまり重要ではない。アカデミック方面ならともかく、バトルとなればどれだけ勉強ができようが強くなければ意味がない。どちらも実力主義であることは変わりない。

 

「なら心配なのは面接だけかしら?」

「そうなるわね」

「なんでシロナが答えるんだよ」

「だってそうでしょ?基本貴方は礼節を重んじるけど、無愛想すぎるから誤解されないか心配だわ」

「親かよ…」

 

心配のコメントがあまりにも保護者のようなコメントでカイムは思わず苦笑する。実際シロナのコメントは保護者のそれであり、師匠という立場を考えればあながち保護者というのも間違いではないが、カイムとしてはそれでいいのかと思えるものだった。

 

「親じゃないわよ」

「そりゃあな」

「恋人でしょ」

「……ああ」

 

シロナの言葉があまりに唐突で若干返答にタイムラグがあったが、カイムは答えることができた。シロナは悪戯が成功した子供のように笑い、カイムは顔を顰めた。

そんな二人を見て、カトレアの目が光る。

 

「あらあら。耳を赤くして可愛らしいわね」

「やかましい」

「恋人というのは間違いではないでしょう?なら恥ずかしがる必要はないはずよ」

「うるせえ。そうだよ」

 

むすっとしながらカイムは水を飲み、シロナは刺身を口にする。

シロナは楽しそうにしているのを横目に、カトレアは言った。

 

「それとも、奥さんや妻の方が正しいですか?」

「っ⁈」

「ゴフッ!」

 

予想外すぎる攻撃に思わずシロナは口に入れていた刺身を飲み込み、カイムは水が気管に入りむせた。

 

「カトレア?何度も言うけど、私たちはまだ婚約とかはしてないわよ」

「まだ?ああ、そうでしたね。あまりにも仲睦まじくて結婚したての夫婦と勘違いしてしまいました」

「か、カトレア!揶揄わないでよ…」

「うふふ、すみません。お二人ともアタクシがいることを忘れてイチャつき始めるのでつい」

 

笑顔で白米を口に運びながらカトレアはそう言った。シロナは顔がどんどん熱くなるのを感じ、思わずカイムに視線を向ける。カイムは顔を顰めて味噌汁をすすっているが、耳が真っ赤になっているのが見えた。

 

「もう…昨日今日のカトレアは意地悪ね」

「シロナさんのリアクションが可愛らしくて普段とのギャップが愛らしいので」

「むう…カイムもなんとか言ってよ」

 

シロナがそう言ってカイムに話を振るが、夫婦扱いされたことが恥ずかしいと同時に嬉しく思っていたカイムの頭は完全に停止しており、いい言葉が思いつかず思わず頭に浮かんだ言葉をそのまま言った。

 

「………ナントカ」

「そういうことじゃないわよもう!」

「ふふ…あははは!面白いわね、カイム」

 

珍しく声を上げて笑うカトレアにカイムはジト目を向けて言った。

 

「うるせえ!もとはと言えばカトレアのせいだろ!」

「あら。ならアタクシを黙らせて見なさいな?もちろんバトルでね」

「なら私がやるわよ」

「ちょっとそれはお話が変わってきますので…」

 

カトレアの言葉にシロナとカイムは笑い、カトレアも釣られて笑った。

しばらく笑いの絶えない穏やかな食事の時間が流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

一通り食事を済ませると、カイムは食卓から立ち上がった。

 

「飯も食い終わったことだし、デザートとするか」

 

そうカイムが言うとシロナとカトレアの目が輝くのがわかった。

 

「完成したのが見れるのね!楽しみにしてたの!」

「トッピング…というか飾り付けはアタクシのアドバイスの下カイムがやったんですよね」

 

シロナが手を動かしたのはケーキのスポンジを焼くところまでであり、そのあとのケーキのトッピングはカトレアが横からアドバイスをしながらフルーツやパウダーをかけたりした。無論カイムはそういうセンスはない。故に予めたくさんのケーキの調理動画などで予習し、加えて美的センスの強いカトレアのアドバイスをもとにトッピングを完成させた。

 

「完成品はまだ見たことがないから楽しみなのよ」

「ふふ、楽しみにしてください。手作りですけど、割と良い出来ですわ」

「手を動かしたの、俺なんだけど」

「あら?貴方一人であそこまでの完成度にできたのかしら?」

「…………」

 

黙り込むカイムを見てシロナとカトレアは顔を見合わせて笑う。

やれやれとカイムは小さくため息を吐くと、冷蔵庫から大きな皿に乗ったチョコレートケーキを取り出し、食卓に置いた。チョコレートケーキはイチゴが載せてあり、生クリームとパウダーによって綺麗に飾り付けられていた。

 

「すごい…綺麗にできているわね」

「初めてにしては、マシなデキだと思う」

「よくできてるわよ。とっても美味しそうだわ」

「お気に召したようで何より」

 

シロナの目から見てもこのケーキはよくできていた。シロナが手を動かして作ったスポンジがこんなに綺麗になるとは思っていなかった。売り物ほど、とまではいかないが、手作りの中では相当高いデキなのは間違いない。

 

「これ…クッキー?」

 

そこでシロナは見覚えのないクッキーのようなものがケーキに飾り付けられているのを発見した。そのクッキーをよく見てみると、ガブリアスの形をしたクッキーだった。

 

「すごい!ガブリアスのクッキーだわ!」

「アイシングっていうんだ。練習して、作った」

「練習?どこで?」

 

シロナとカイムは同棲している。故にカイムが何か普段やらないことをしていたら気づくはずだが、そんな様子は全くなかった。

 

「ああ、いや…その…」

 

歯切れの悪いカイムにシロナは首を傾げる。

 

「…ああ実は、ジムの帰りにトウガンさんの家で練習してたんだ。ここ二、三週くらい」

「全然気づかなかった…そんなことしてたなんて」

 

ケーキの周辺にはガブリアスの他にもミカルゲやルカリオなどのクッキーもあった。かなり良い出来であり、シロナは感嘆の声を漏らす。

 

「ねえ…これ写真撮ってもいい?」

「ああ」

「ありがと」

 

シロナは自分のスマートフォンでケーキの写真を撮る。何枚か撮ったあと、カトレアと一緒に写真を撮り、撮った写真を見て楽しそうに話していた。

そこでカトレアが視線をカイムに移し、言う。

 

「お二人で撮ってはいかがですか?」

「二人?ああ、俺とシロナか」

「ええ。せっかくお二人がお付き合いして最初のお誕生日ですもの。記念の写真はあってもいいのでは?」

 

カトレアの言葉にシロナとカイムは目を見合わせる。そして二人は頷くと、カトレアに向き直った。

 

「撮ってくれる?」

「ええ、もちろん」

 

カトレアにスマートフォンを渡すと、シロナはカイムの隣に座る。

カトレアは二人とケーキがいい位置になるように角度を調整し、シャッターを押した。確認のために見た写真に写る二人はとても幸せそうであり、この写真がいい思い出となることがよくわかるものだった。

 

「いい写真ですよ」

「ありがとう。さ、そろそろ食べましょ」

「味は悪かねえはずだ。食うか」

 

そう言ってカイムは温めたナイフでケーキを切り分け、紅茶をカップに注いでシロナとカトレアの前に置いた。

 

「いいおもてなしね」

「主役には、最大のもてなしをしなきゃな」

「ふふ、どうも」

 

ケーキを皿に乗せてカイムはシロナ、カトレア、そして自分の前に置き、それぞれにフォークを手渡した。

シロナは待ちきれないとでも言うように目を輝かせてカイムの方を見る。それを見たカイムは苦笑して頷いた。

 

「誕生日おめでとう、シロナ。食べてくれ」

「ありがとう。いただくわね」

 

フォークでケーキを小さく切り分けて口に運ぶ。口の中にチョコレートの苦味と甘味や生クリームの味などが広がりシロナは目を見開く。

 

「美味しいわ…!」

「全部じゃねえが、自分で作ると美味いだろ?」

「ええ、とても」

 

もぐもぐと口を動かしていると、ゴリっとした感覚が口の中からする。異物混入かとも思ったが、噛み砕けるし、なによりそこからチョコレートの味がした。

 

「あれ?なにか別のものが入ってる?」

「ああ。スポンジの間にあるクリームの中に、砕いた板チョコを入れてみた。食感に違いが出てうまくなるってネットにあった」

「板チョコ!なるほどね」

 

ゴリっとしたものは板チョコだった。しっとりしたチョコレートスポンジを生クリームで挟んでいるが、その中に砕いた板チョコを入れることで、チョコレートケーキの味を損なわずに食感に違いを出せるようにしているとのことだった。

 

「板チョコは考えたわね。アタクシもこういうケーキは初めてだわ」

「悪くねえな」

「ほんと。スポンジを焼くとこまでしかやってないけど、あれがここまでできるのはさすがの腕前ね」

「とりあえず味が良けりゃいい。見た目云々はあんまセンスねえからカトレアの手を借りたがな」

「二人とも、ありがとう」

 

シロナにとってこれほど美味しいと感じられるケーキを食べることはそう無いだろう。自分で手を動かしただけでなく、大切な二人が自分のためにここまで尽くしてくれた。とても幸せな瞬間をチョコレートケーキと共にシロナは噛み締めるのだった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ケーキを食べ終わり、洗い物も一通り終わらせ、三人はリビングに集まる。尤も、シロナとカトレアは先にリビングで談笑しており、洗い物をしていたのはカイムとルカリオ、ブラッキーだけだったが。

 

ルカリオに肩車されるような体勢のブラッキーと共にカイムはリビングに入る。シロナとカトレアがカイムに目を向けた。

 

「お疲れ様、カイム。洗い物ありがとう」

「ああ」

「じゃあカイムも来たので、やりますか」

 

カトレアの言葉にシロナは首を傾げた。

 

「なにを?」

「プレゼント贈呈です」

「そういうこと」

 

そういうとカトレアとカイムはどこからか取り出した袋を手に持った。

 

「え!どこに隠してたの?」

「そこら辺」

「わかんないわよ…」

 

呆れるシロナをよそに、カイムはシロナの隣に腰掛けた。

 

「では早速アタクシから」

 

カトレアはラッピングされた白い袋をシロナに手渡す。

 

「ありがとうカトレア。開けてもいい?」

「ええ。もちろん」

 

シロナが袋を開けると、中には黒いの布が入っていた。広げると、金色のラインが入っているのがわかる。

 

「わあ…綺麗」

「アタクシが愛用しているブランドのストールです。期間限定のものがとてもシロナさんに合っているものでしたので…」

「嬉しいわ。ありがとうカトレア!」

 

ここ最近、シロナは普段のコートだけでなく色々な服装を着る。普段のコートは厚手でありかなり暖かいのだが、他の服装はそれと比較したら薄い。重ね着をするなどでどうとでもなる部分ではあるが、このように簡単に着脱可能なものはシロナ的にありがたかった。

 

「このブランド、普段カトレアが来ているピンク色のストールと同じブランドよね?」

「はい。アタクシのお気に入りです」

「ふふ、じゃあおそろいね。水着と同じだわ」

「嬉しいですわ」

 

女子同士で盛り上がる二人をよそにカイムはルカリオに肩車されるブラッキーを撫でる。

カイムが手持ち無沙汰になっているのを察したシロナはカイムの頬に手を添えた。

 

「ごめんごめん。カイムにはつまらない話よね」

「つまらないという気はないが、俺にはわからない話ではある」

「ふふ、じゃあカイムのプレゼントをもらってもいい?」

「ああ。ただ、俺の前にもう一つある」

 

カイムは薄い黄色の袋を手渡した。その袋には封筒がテープで貼り付けられている。

 

「これは?」

「姉貴…イサナからのプレゼントと手紙」

「イサナさんから?」

「イサナさん…ってどちら様かしら?」

 

カトレアはカイムの姉であるイサナを知らない。シロナもカイムの実家に行った時にたまたま出会ったにすぎないため、カトレアが知らないことは無理もない。

 

「カイムのお姉さんよ。この前カイムの実家に行った時にたまたまタイミングが重なって会ったの」

「お姉さんでしたか。それに、実家って…」

「ちょっとホウエン地方に用があってね。その時にカイムの実家に滞在させてもらったのよ」

 

オーキド博士から託された海図に記された島…最果ての孤島に行く際に二人はカイムの実家に訪れた。その時にカイムの姉であるイサナもたまたまおり、そこでシロナはイサナと仲良くなった。

 

今回、カイムがシロナの誕生日である旨を伝えると、イサナはノリノリでプレゼントを送ってきた。

 

(…実家に訪れたということは、お二人の関係もカイムのご両親に認知されているのですよね?それって実質婚y…いえ、お二人にはお二人の関係があり、歩む速度もお二人独自のもの。弄るのはともかく、口出しはしてはいけません)

 

実家に挨拶となると、婚約まで秒読みなような気もするが、それはカトレアが言うことではない。そう納得し、カトレアは口を閉じた。

 

そうカトレアが考えているのをよそにシロナは袋につけられていた封筒からイサナの手紙を取り出す。

 

『シロナちゃんへ

お誕生日おめでとう!ここではカイムの姉としてではなく、シロナちゃんのお友達としてプレゼントを贈らせてもらいます。シロナちゃんが使っている化粧品を集めてみました。結構いいやつだし、スタイリストの目から見てもいいものを集めたから使ってくれると嬉しいな!

チャンピオンと学者の両立ってとても大変だと思うけど、体には気をつけて頑張ってね!

 

PS カイムのことでなにか困ったらなんでも連絡してね!

 

イサナより』

 

シロナはイサナからの手紙を見てくすっと笑う。イサナらしい明るい文面に思わず笑みがこぼれた。

隣でその手紙を見ていたカイムは顔を顰める。恐らく最後の一文がカイムとしては面白くなかったのだろう。

 

「相変わらずね、イサナさん」

「チッ…いらねえ一文書きやがって」

「お姉さんらしいことしてあげたいのよ」

「それは同じ姉としての言葉か?」

「もちろん」

 

シロナにも妹がいる。故にイサナの弟や妹になにか尽くしてあげたいという思いはよく理解できた。どこまでいっても兄妹という間柄は変わらない。だからこそ、同じ立場の者として理解できるものだった。

 

「これは…私の使ってる化粧品の詰め合わせね」

 

そしてメインであるプレゼントはシロナの使っている化粧品の詰め合わせだった。化粧品は消耗品であるため、いくらあっても困ることはない。

しかしシロナはイサナに使っている化粧品のメーカーを教えたかな?という疑問があった。

 

「私の使ってるブランドの期間限定商品とかまである。とっても嬉しいけど、私イサナさんにブランド教えたっけ?」

「俺がシロナの部屋にある鏡台に置いてある化粧品の写真撮って送った」

「ああ、そういうことね」

 

同棲している以上、化粧品の写真を撮るくらい造作もない。そういうことならば確かにシロナの使う化粧品のブランドを知っていてもおかしくはなかった。

 

「わあ、ファンデーションやリップまである。嬉しい」

「さすがスタイリスト。メイク方面まで理解してるとは」

「カイムのお姉さん、スタイリストなのですね」

「ああ。ガラル地方でジムリーダーやジムチャレンジャーをメインに相手している」

「ガラル地方のジムチャレンジは他の地方と比べて特殊だものね」

 

ガラル地方は他の地方と比べてポケモンバトルを競技として発展させる傾向がある。それは世界的に有名であり、カトレアもそのことを把握していた。

 

「あとでお礼の電話しておくわ。こんないいもの貰ったのに自分でお礼を言わないと」

「そうしとけ」

 

そこでカイムは言葉を切ると、最後に自分の用意したプレゼントを取り出す。

 

「…最後に、俺から」

「ありがとう」

 

シロナはカイムの目を見てプレゼントを受け取った。青い袋にラッピングされており、手触りは少し硬い。

袋を開くと、その中にはボールホルダーと万年筆があった。

 

「俺からはボールホルダーと万年筆。前にボールホルダーが古くなってきたって言ってたろ。ちょいといいやつを買ってみた。万年筆はまあ、なんとなく」

「覚えてたのね。嬉しいわ」

 

万年筆のなんとなくはともかく、ボールホルダーが古くなってきたことを覚えていてくれたことが嬉しかった。

ボールホルダーは黒を基調とした色になっており、シロナのイメージカラーと良く合う。カイムなりに考えたのだろうとシロナは納得した。

 

改めてお礼を言おうとした時、袋の底にまだ小さな袋があることに気づく。

 

「これ…」

「………」

 

袋を取り出してカイムに視線を向けるが、カイムは何も言わない。視線だけで開けるように促した。

シロナは首を傾げながらも袋を開ける。すると中には金属でできたガブリアスと、ガブリアスが守るように抱える赤褐色の石だった。

 

「これ、ガブリアス?」

「…ああ」

「ガブリアスと、この石は?」

「…一月の誕生石、ガーネット」

「ガーネット?」

 

シロナは一月生まれであり、ガーネットはシロナの誕生石といえる。そこまで珍しいものではないため、ここでカイムがシロナに贈ることは特別変なことではない。

しかし同時に疑問も生まれる。このガーネットは見たところ市販でよく見るものと比べて大きい。たまたま大きいものだ、といえばそれだけだが、なんとなく売り物と比べてがたついているように見える。

 

「ガブリアスの地面タイプとガーネットの色…合うから合わせて見たんだが」

「合わせたってことは、やっぱりこれ手作り?」

「まあ、な。俺がやったのは、ガーネットの形を整えて磨くところだけだが」

「ど、どこでそんなことしてたの?」

 

ここ最近、カイムがこんな内職のようなものをしている様子はなかった。だというのにカイムは一部でも自分が作ったという。

 

「ミオジムに、そっち方面を趣味にしてる人がいてな。その人に手伝ってもらった。ガーネットそのものは、一緒に採掘した時に掘ったやつを使ってる」

「ああ…そういうことね」

 

シロナはカイムの言葉に内心で苦笑した。

 

(考えることは同じね)

 

カイムと自分の思考回路があまりにも同じであり、顔には出さないが嬉しさがあった。

 

再びシロナは手元にあるガブリアスに目を落とす。精巧に作られたガブリアスがガーネットを守るように抱えている。

 

「よくできてるわね。素敵だわ」

「…まあ、ガブリアスはよくできてるよな」

「ううん。ガーネットも綺麗よ。とても素敵」

 

シロナはそう言ってカイムの手に自分の手を重ねた。シロナにとってこのガブリアスは先程のボールホルダー以上に嬉しいものだった。

 

「こんなに素敵な贈り物、初めて。とても嬉しいわ。ありがとうカイム」

「お気に召したのなら、よかった」

 

カイムは僅かに口角を上げてシロナを見つめ、シロナもカイムを穏やかな笑みで見つめた。

 

「…お二人とも」

 

見つめ合ってあ二人はカトレアの声で正気に戻り、重ねた手を離し、瞬時にカトレアに向き直った。

 

「何度も言いますが、アタクシがいることを忘れないでくださいますか?」

「…ごめんなさい」

「…悪かった」

(早く結婚なさい)

 

あまりにも甘い空間にカトレアは内心でそう呆れ果てた。ここまで一瞬で二人だけの空間になるとは思いもしなかったからだ。

ブラックコーヒーが欲しいなと思いつつ、視線をずらすと、ルカリオと肩車されるブラッキーがまたやってるよみたいな目をしていたため、『ポケモン達も苦労しているな』と内心でポケモン達を労うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

カトレアは荷物を持って玄関外に立っていた。

 

「じゃあ、二日間お世話になりました」

「楽しかったわ。来てくれてありがとうね」

「いえ、アタクシも楽しかったです」

 

カトレアはシロナにそう言って笑いかけ、シロナも応えるように笑う。シロナとしても自身の誕生日にわざわざ来てくれたことは嬉しかったし、なにより楽しかったと思える時間だった。

 

「カイム、おもてなしありがとう」

「ああ」

 

カイムもこの三日間、ずっとカトレアのことを友人として扱いながらも同時に客人としてのもてなしをしてくれた。

カイムの淡白な返事に気を悪くすることもなく、カトレアは二人に向き直る。

 

「大切な記念日にアタクシを呼んでくれてありがとう。また会いましょう」

「ええ、また会いましょうね。カトレア」

「またな」

「ではまた」

 

そう言ってカトレアは車に乗り込む。執事であるルシュが車の扉を閉じるとシロナとカイムに頭を下げた。

 

「カトレアお嬢様がお世話になりました」

「いいえ。私たちも楽しかったわ」

「そう言っていただけると、幸いです。では、失礼いたします」

 

ルシュは運転席に乗り込み、車を発進させる。窓から見えたカトレアが手を振っていたため、シロナとカイムをカトレアに手を降って見送った。

 

二人は家に戻ると、リビングのソファに寄り添い合うように腰掛けた。

 

「カトレアが帰っただけで、少し広く感じるわね」

「ああ」

 

外の庭ではガブリアスとルカリオ対バシャーモとルカリオの組み手が行われており、他のポケモン達も思い思いに過ごしている。

その中でシビルドンとメタグロスと何かをしていたブラッキーが寄ってきて、カイムの隣で丸くなった。そんなブラッキーを撫でながらシロナのことを抱き寄せる。

 

「この一年が、シロナにとっていい一年になりますように」

「私にとっていい一年にするには、貴方の存在が不可欠よ」

「わかってる」

 

シロナとカイムは目を見合わせ、どちらからともなく顔を近づける。

そして二人の唇が重なった。

 

「んっ」

 

柔らかい感触と暖かい感覚。

それらから互いの存在をより深く感じ取ることができた。

 

数瞬間の後、二人は顔を離す。

互いに少し顔を赤くし、その赤くなった顔を見て二人して笑い、シロナはカイムの胸板に顔を埋めた。

 

「カイム」

「ん?」

「ありがとう。大好き」

「ああ。俺もだ」

 

シロナの頭を撫でながらカイムも応える。

 

 

 

何もない、ただただ穏やかな時間が流れていき、その事実にシロナとカイムは幸せを感じるのだった。

 

 

 

 




イチャつかせると言ったが、カトレアともイチャついてもらいました。
公式でもこの二人いちゃついている、というかボディタッチ描写(ポケカスリーブ参照)あるから許されると思ってる。
あとみなさんそろそろお気づきだと思いますが、私はみんなでまったりご飯を食べているシーンが好きです。

シロナさんの誕生日は、1月7日にしました。理由は誕生日カラーが『漆黒』だからってだけです。


シロナ
カイムのことは無論大好きだが、カトレアのことも好き。当たり前だが、好きのベクトルが違う。一緒にケーキ作りができてご満悦な様子。得意技は『ふいうち』。耐久性は低く、反撃を受けるとすぐに瀕死になる。

カイム
カトレア相手だとお兄ちゃんポジになる男だが、シロナさん相手には無表情でデレる。はよプロポーズしろ。得意技は『カウンター』と『がまん』。攻撃力は低いが、耐久性は高い。余談だが、最近バシャーモの特性を『もうか』から『かそく』に変えた。また、ジム用にポケモンを増やす予定だが、ハッサム、ハガネール、キリキザンで悩み中。

カトレア
シロナ宅に滞在している間はブラックコーヒーを愛飲してた。理由は目の前で息を吸うようにいちゃつくカップルがいるから。これが親しい二人でなかったら苦行でしかなかった。なんで結婚してないんだろうと思ってる。一応年齢は19歳くらいを想定。

ルシュ
執事。キャッスルバトラーをしてるコクランさんだけだとイッシュにいるカトレアのお世話とか厳しいだろうなと考えた結果できたコクランさんの弟子兼部下。今後登場する予定はない白髪黒目(カラーコンタクト)の青年。


興味本位で皆さんの推しタイプと推しポケモンが知りたくなりました。
私の推しタイプは悪、鋼、格闘です。
推しポケモンはブラッキー、バシャーモ、メタグロス。ブラッキーとメタグロスはポケモンコロシアムで、バシャーモはエメラルドで推しになりました。


次回、バレンタイン。砂糖漬け回、その2。
ジラーチも現在執筆中です。もう少しお待ちください。


書いてみたいけど絶対書くことが出来なさそうなシチュエーション
・命懸けの闘いでボロボロになりながらも敵を倒したシロナさんが一瞬だけ気を抜いてしまい、その隙に敵が最後の力でシロナさんを攻撃してきて避けられず攻撃を受けそうになるが、咄嗟にカイムが庇って致命傷を負ってしまいそんなカイムを見て泣きながら手当てをするシロナさん。
・何故か体と記憶が幼少期に戻ったカイムを世話しようとするが、結局幼少期カイムの方が家事ができてしまい世話をされるシロナさん。
・体調を崩して看病されるシロナさん(逆も可)。


早く二人の子供がラティ兄妹と遊ぶところを穏やかな表情で見守る二人が書きたい。


感想、評価は励みになるのでよければお願いします。
リクエストなどありましたら、メッセージから受け付けております。

みなさんの推しタイプは?

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