ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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引っ越してインターネットが少しの間使えなくて遅れました。
短め(二万字)です。

砂糖漬けその2
前回の更新で日刊ランキング5位に載りました。
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28話です。


28話 ミオシティ④

「………」

 

ミオジムのトレーニングルームで、カイムは腕を組み深く考えていた。

その原因となっているのは、目の前にいるポケモン達。目の前にいるポケモン達はカイムの手持ちと、カイムがジム戦において手持ちに加える候補のポケモン達だ。

 

彼らは今、互いに交流を深めているのだが、候補のポケモン達全員丸い性格をしているため、カイムの手持ちとも割と普通に打ち解けていた。それぞれ性格が合うポケモンに差はあるが、誰を入れたとしても問題無さそうな様子をしている。

 

「グハハハ!仲が良さそうではないか!」

「トウガンさん」

 

現ミオジムリーダーのトウガンが背後から声をかけてきた。

トウガンはカイムの手持ちと候補のポケモン達が仲良さげに触れ合うのを見て、満足そうに頷く。

 

「手持ち同士の仲の良さというのは、トレーナーを長く続ける上で大切なことだ。いくら優秀なポケモン達でも、手持ちとの兼ね合いが悪いとどうしてもパフォーマンスが落ちてしまうものだ」

「ええ、把握してます。彼らの特徴的に誰が入っても問題ないので、俺の手持ちとの兼ね合いはどうか考えていたんですけど…誰でも問題無さそうです」

 

ハガネールは少々ずぶとい性格をしているが、落ち着いた性格であるためにトリトドンやブラッキーと相性が良さそうである。また、ハッサムは陽気な性格をしており、バシャーモと組み手をしているあたり鍛えることが好きなのだろう。そしてキリキザンは寡黙な性格なのか、ルカリオと共にメタグロスの上で瞑想しており、相性は良さそうだ。

 

「ふむ…誰でも君なら上手く鍛えられるだろう。君との相性も悪く無さそうだ」

「そうですね。余計誰にするか迷います」

「前にも言ったが、いっそのこと全員手持ちにしてしまえばどうだ?今の君なら全員面倒みきれるだろうし、何より彼らの基礎は既にできている。そこまでじっくり鍛える必要もないから問題ないのでは?」

「まあ、それはそうなんですけど…」

 

やはりまだカイムは自信を持ちきれない。実際トウガンの言う通りカイムが今全員を手持ちに加えたとしてもある程度育成させることはできるだろう。

だがカイムはまとめて手持ちを増やすことで全員の面倒を均等に見ることができなくなるのではないか?と考えていた。ポケモンのことが好きであるため、手持ちを増やすことで構ってやれる時間が減ってしまうことを懸念していたのだ。シロナはうまく全員とやっていけているが、不器用な自分があれほどうまくできる自信がなかった。

 

「いきなり増やして、環境を劇的に変えた場合…俺はうまくできない気がするんです。自分があんま器用ではないことはわかっているんで…」

「ふむ、なるほどな。そういうことなら確かにいきなり三体も増やすのはよくないか」

「手持ちに加える以上、全員ちゃんと面倒みたいんです」

「優しいんだな」

「はは、どうでしょう。俺にとってはそれが最善だって思えるだけです。ポケモンにとっても、俺にとっても」

 

そう言ってカイムはポケモン達を優しい眼差しで見つめた。普段と比べて優しい雰囲気のカイムにトウガンは表情を緩める。

 

「君にジムリーダーを任せられて良かった」

「まだ決まってませんよ。試験に受かるかどうかはまだわかりません」

「いいや、君は通るさ。私が見込んだトレーナーでもあり、あのチャンピオンの弟子だ。それに、君はジムリーダーが何たるかを既に理解しているようだからな」

 

ジムリーダーは、人を指導する立場。故に半端な覚悟や心意気で勤めていいものではない。

そういう意味で、カイムは既にジムリーダーとしての自覚を持っているとトウガンは考えていた。代理を勤めたときに培ったのか、はたまた他の場所でなのかはわからないが、カイムには指導者としての自覚があることをトウガンは感じ取っていた。

 

「…俺なりの解釈に過ぎませんけどね」

「それでいい。ただ漫然と実力がある者より、明確な意志を持った未熟者の方が遥かにジムリーダーに適している。己の立場を考え、理解した上で物事に臨む姿勢は指導者として大切なものさ」

 

トウガンはかれこれかなり長いことジムリーダーを勤めている。それ故に、ジムリーダーとしての責務が何たるかを誰よりもわかっていた。

そんなトウガンから見て、カイムはまだ未熟だった。しかしトウガンが大切にしているジムリーダーとしての心得を持っている青年でもあった。だからこそ、トウガンはカイムをジムリーダーに推薦した。

 

「…精進します」

「うむ!それでこそだ!」

「それでどうしました?俺に何か用ですか?」

 

わざわざトレーニングルームにまで降りてきてまでカイムと話にくるような内容ではない。故にカイムはトウガンが何かしら用があるのだろうと考えた。

 

「おおそうだ!カイム君、今日は何の日か知っているかな?」

「今日?」

 

カイムは今日が何の日かを考える。

日付は二月十四日。誰かの誕生日というわけでもないし、ポケモン達に関連する日でもない。ジム関連でなにかイベントがあるわけでもない。

 

「………なんかありましたっけ」

 

カイムは結局なにも思いつかずに白旗をあげる。

そんなカイムにトウガンは豪快に笑った。

 

「グハハハ!やはりわかってなかったな!」

「す、すんません…ジム関連でなんか俺忘れてましたか?」

「いやいや。ジム関連ではなにもないよ。世間的なものさ」

「…世間的」

 

ジム関連ではないと考えたカイムはさらに頭を捻らせる。そして数秒の沈黙の後、一つの答えを導き出した。

 

「あ…バレンタイン?」

「正解だ」

 

二月十四日。それはバレンタインデーとして世間は盛り上がっているが、カイムはすっかり忘れていた。

 

「バレンタインが、どうしました?」

 

だがバレンタインだといってもカイムに関係があるとは思えない。正確には関係あるが、わざわざトウガンが言ってくるようなことではないことは確かだ。

 

「ジムトレーナーの女の子達が君のことを探していたよ」

「俺を?」

「ああ。うちは男所帯だが、最近は女性も多くなってきた。その女性達が今、皆にチョコレートを配っているんだ。だが君がいないため、君へのチョコレートを渡せないらしい」

「ああ、なるほど」

 

どうやら義理チョコの配布をしていたらしい。それを事前に知らされていたらカイムとてその場にいたのだが、知らされていなかった以上仕方ない。

しかしそこでカイムは少し考える。シロナと恋人になって初のバレンタインなのに、最初に受け取るチョコレートがシロナ以外のものでいいのだろうか、と。

 

「どうかしたのか?」

 

考え込むカイムを見て、トウガンがそう声をかけてくる。

 

「ああいや…えっと……一応シロナと付き合って初めてのバレンタインなんで、最初に受け取るチョコレートがシロナのものでなくていいのかって思いまして…」

 

カイムは女心に疎い。最近は多少わかるようにはなったものの、未だにわかっていない部分があるのは確かだ。せっかくの初めてのバレンタインでシロナの機嫌を損ねてしまうような行動は取りたくなかった。気を使って付き合いをしているわけではないが、できることなら楽しくやりたいという思いが少なからずカイムにはある。だからこその思考だった。

 

「ふむ…それもそうだが、彼女らは君とシロナさんが付き合っていることを知らない。弟子であるということは伝えてあるが、まさか恋仲だとは思うまい。あまり無闇に隠す気もないのだろうが、大っぴらにする気もないのなら、大人しく受け取っておく方が彼女らとの仲を壊さないためにも無難ではないか?」

「そっすね…」

 

カイムはこのミオジムの中では一番の新入り。その新入りがいきなり次期ジムリーダー候補ともなれば面白くないと思う人物もおり、入った当初は多少確執もあった。しかしカイムの人柄とトウガンのおかげで今ではちゃんとジムに馴染めている。ジムリーダーになるにしろならないにしろ、今後ここでやっていく以上、今は下手な行動はしないことが得策だろう。

 

「その方が良さそうですね」

「うむ。では、行ってこい。ポケモン達は私が見ておいてやろう」

「すみません、ありがとうございます」

 

そう言ってカイムはトレーニングルームを出て行った。

 

残されたトウガンはその後ろ姿を見て、ほんの少しだけ悪く思う。

その理由は、チョコレートを配っている女性トレーナーの中にカイムのことが気になっている女性がいるからだ。ミオジムにいる男性はほとんどが鋼鉄島での業務と兼任しているトレーナー。故に、家族持ちがほとんどであり出会いもないし、何より友人というには些か歳が離れている。本来ジムはそういう場所ではないのだが、友人としてくらいは業務に支障はないため、いきすぎない限り問題になることはない。

 

そんな中に久しぶりの若く有望視されている男が入ってくれば、男性として意識しなくとも、仲良くなりたいと思うのは仕方ない部分もあるかもしれない。トウガンとしても、カイムの交友関係が広がることは彼のさらなる成長に繋がると考えているため、ジムトレーナーとの関係もできるだけ良いものでいてほしいと思っていた。

 

とは言え、結局トウガンができることは何もない。相手の女性もカイムのことが好きというわけではなく、今はただ友人として仲良くなりたいと思う程度だ。しかし万が一という可能性はある。このまま穏便に終わることを願うばかりだが、この思いが杞憂だったと知るのはもう少し先の話だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数日前

ヨスガシティのポフィン調理場のキッチン。

そこには異様なメンバーが集まっていた。

 

「シロナさん、そこもう少しちゃんとココアパウダーをかけてあげたほうが見栄え良くなりますよ」

「こ、こうかしら?」

「なるほど…こういうところも気を使うんですね。勉強になります!」

「さらに!ここで別のパウダーを使うことでより見た目が良くなりマス!」

 

シロナを筆頭に、スズナ、スモモ、そしてメリッサという強豪ポケモントレーナー達がお菓子作りに励んでいるという異様な光景だった。

 

「む、難しいわ…」

「大丈夫!練習なんで色々やりましょう!気合いでなんとかなります!」

「何事も失敗から学ぶことですね!」

「味は良いデス。だからあとはどれだけ見た目を良くできるか!これに限りマスわ!」

 

シロナが悪戦苦闘しながら作ったチョコトリュフにパウダーをかけていく。いくつか加減を間違えてパウダーをかけすぎてしまったが、いくつかこなすことで見栄えがいいものができるようになってきた。

 

「こ、こんな感じかしら」

「うんうん!すっごく見た目良くなったよシロナさん!」

「手作りでここまでできるのですね!勉強になります!」

「お店で売っているものも、結局は人の手で作られていマス!なら、我々の手で作ることも可能なのデス!」

 

高らかに言うメリッサを見て、シロナは納得する。

 

今、シロナはスズナ、スモモ、メリッサと共にバレンタインデーのチョコレート作りに励んでいた。元々はスズナにチョコレート作りを教えてもらうことになっていた。以前キッサキシティに訪れた時、シロナはスズナにチョコレート作りを教わる約束をしており、その日以来時々会って秘密の特訓をしていたのだ。特訓は最初はシロナの自宅で行う予定だったのだが、スズナが完全に特訓の証拠を隠すのは難しいという言葉から、キッサキシティからもミオシティからも行きやすいヨスガシティで特訓を行うことにした。そしてその話を聞いたスモモがそこに加わり、さらにお菓子作りが得意だと言うメリッサにも協力してもらい、現在に至る。

 

「メリッサさん、本当にすごいのね」

「シンオウ地方に来る前から、お菓子作りは趣味でシタ。このくらいならお安い御用…で、合ってますヨネ?」

「ええ、合っているわ」

 

メリッサは元々シンオウ地方の人ではなく、別の地方からやってきたトレーナーだった。なんでもフロンティアブレーンのダリアに憧れ、トレーナーを始めたらしい。そこから言葉だけでなくバトルの実力も独学で身につけることができたのは、彼女の努力の賜物だろう。

 

「本当に助かりました!あたしだけじゃ限界があったので!」

「このくらいでしたらいくらでもお付き合いしますヨ!同じジムリーダーですからネ!」

「あたしまで教えてもらっちゃって…ありがとうございました」

 

スズナは一応お菓子作りはできるが、基礎的なことしか出来なかった。だからシロナに教えられるものも普遍的なものしかなかったのだが、メリッサの介入によってそれがいい方向に転ぶことになった。元々はチョコレートを湯煎して型に流し込む普通のチョコレートを想定していたが、今目の前にはチョコトリュフができている。この差はかなり大きいことが素人目にもよくわかるものだった。

 

「スモモちゃんもこれを機にお菓子作りをやってみるのはどう?」

「はい!できる範囲でやってみようと思います!思ってたより、こういうのも楽しいですね」

「できると楽しいわよね」

「そうなんです!今まで触れてこなかったことができるようになるのは楽しいです!」

 

スモモの快活な笑みを見てシロナは優しく微笑む。

元々はシロナの都合で始まったこのお菓子作りだが、他の人にとってもいい刺激になったようでシロナは嬉しかった。

 

「でもシロナさん、本当に上手くなりましたね!」

 

スズナはテーブルに並べられたチョコトリュフを見ながら言う。その言葉を受けてシロナは少し照れたように笑った。

 

「初めは全然だったけどね」

「だとしてもです!今ここに並んでいるのは全部シロナさんが作ったものですよ!自信持ってください!」

 

実際シロナの目の前にあるテーブルおいてあるチョコトリュフはかなりいい出来栄えになっていた。何も教えずにカイムに出した場合、シロナが作ったとは思わないだろう。

 

「それでこのチョコレートは…カイムサンにあげるのデスカ?」

 

メリッサにそう指摘されてシロナは一瞬固まるが、照れたように笑いながら頷いた。

 

「おお!素晴らしいデース!好きな人のために頑張る…とっても素敵デース!」

「メリッサさんは、カイムと交流あるんでしたっけ?」

「少しだけありマス。トバリジムのジムトレーナーの時にジム交流戦で数回バトルしまシタ。悪くない腕前デシタ」

「最後の交流戦は…確か一年前でしたね」

「今年はチャレンジャーが多くてあまり交流戦もできませんデシタネ。アタシはコンテストの方もありまシタから」

 

ジム同士の交流戦は年に数回あるのだが、ジムには連日チャレンジャーが訪れる。ジムチャレンジ以外にも単純に腕試しやトレーニングのためにジムを訪れるトレーナーも多い。ジムトレーナーはどのジムも一定以上の数がいるため休みは取りやすいが、それでも暇な日は少ない。

 

「筋は…悪くないんですけど、今一歩な印象デシタ。今はジムリーダー候補なんですヨネ?」

「はい!あたしにも勝ってるんですよ!」

「スモモサンにも勝てる…となると、あれからかなり強くなったのデスネ!次にバトルするのが楽しみデス」

 

スモモに勝つ、ということは一定以上の実力はある。以前メリッサが見た時も決して弱くはなかったが、それでもスモモに勝てるほどではないものだった。あれから成長したという事実がメリッサに静かな闘志をたぎらせた。

 

「カイムさんがジムリーダーかぁ。大会とかポケモンリーグでバトルできる日が来るのかな」

「ジムリーダー承認試験の後なら出ることもあるかもしれないわね。ポケモンリーグは…なんとも言えないけど」

 

ジムリーダーならポケモンリーグに出てもおかしくはないが、カイムはシロナのサポーター。故にシロナが大会に出る場合はそのサポートに入るため、チャンピオンであるシロナがポケモンリーグに出ないことはないため、ポケモンリーグにカイムが選手として出ることはないだろう。

 

「そっか。カイムさん、シロナさんのサポーターですもんね」

「うん。私が大会に出る場合はサポートに入るから、私がチャンピオンである間は多分ポケモンリーグにはでないわね」

「実際サポーターってどうです?あたしはサポーターとかつけてないんでわからないんですけど、やっぱいた方がパフォーマンスって上がりますか?」

 

シロナはスズナの問いに少し難しい顔をして答えた。

 

「うーん…一言では言いづらいわね。自分に合ったサポートをしてくれるサポーターならいてくれた方がいいけど、そうでないならいない方がいいかもしれないわ」

「合ったサポート?」

「ええ。人それぞれバトルへの向き合い方がある。サポーターも自分なりにサポートを方法を考えるんだけど、それが合わないこともあるはずよ。単純にポケモンとの相性とかもあるし」

 

ポケモンはちゃんと人を見ている。故に、ポケモンとサポーターが合わない場合もあるのだ。ポケモンとサポーターが合わなければ互いにストレスが溜まるだけであるため、いない方がいいこともあるだろう。

シロナ自身もだが、シロナのポケモンとカイムの相性が良かったためこの二人はトレーナーとサポーターとして成り立っている(尤も、カイムはポケモンに好かれやすいので相性が悪いことはほぼないのだが)。

 

「サポーターって…主になにするんデスカ?」

「サポーターはポケモンのケアがメインね。バトル後の回復はポケモンセンターに任せているけど、その後の疲れや精神的疲労のケアをすることで、ポケモン達のパフォーマンスを向上させられるの。体力だけでなく、メンタルケアも行うことでポケモン達のモチベーションもあげられるのよ」

「メンタルのケアは大切って聞きます!やっぱり、メンタルと身体って直結してるから両方ケアしなきゃいけないんですけど、両方きちんと管理するのって難しいんですよね…」

「そうなの。だからサポーターを雇うという手段があるんだけど…自分の身体やポケモンだけでも難しいのに、他人の身体とポケモンとなると余計難しくなるのよ」

 

自分だけでなく、自分のポケモンも他者に一部とはいえ託すということは、信頼できる相手でなければならない。サポーターは相性が良い人物であれば、最大限力を発揮しやすくさせてくれるが、それが如何に難しいのか彼女達は今の話だけで理解した。

 

「なるほど…難しいんですね。気合だけでどうこうできるものじゃないですものね」

 

気合を重んじるスズナだが、気合だけで全てを解決できるとは思っていない。だからこそ、シロナの話はよく理解できた。

 

「自分と相性の良いサポーターに巡り会えたら、つけるのもアリじゃないかしら」

「サポーターって簡単じゃないんですね。でも確かに、簡単なものならもっと流行ってますよね」

「ええ。そう考えると、私はかなり運が良かったわ」

「カイムサン、実はすごい人なのデスネ」

「そうなの。実はすごいのよ」

 

ジムリーダーレベルの実力を持ちながらもサポーターとして高い腕を持つトレーナー。そんな人物が世界を見てどれだけいるだろうか。少なくともシロナに合うサポーターはカイムの他にいない。そうシロナは断言できるほど相性が良かった。

 

「あ、シロナさんいい顔してる!」

「えっ⁈」

 

驚いてシロナは思わず自分の両頬を手で隠す。それを見てスズナは楽しそうに笑った。

 

「自分が好きな人やものを褒められると嬉しいですよね。よくわかります!」

「わかりマース!好きなものを人に認めてもらう…とってもステキなことデース!」

「…ええ、そうなの」

 

シロナはスモモとメリッサの言葉に頷く。

ポケモンであれ人であれ、自分が大切にしているものが褒められたり認められたりするととても嬉しい。その感情が思わず顔に出てしまうのは仕方ないことだろう。

 

ふと時計を見ると、そろそろ貸し切り時間が迫ってきている時刻だった。

 

「あら大変。そろそろ時間だわ」

「あ!もうこんな時間なんだ!じゃあ手早く片付けちゃいましょ!」

「そうデスネ。手早く済ませまショウ!」

「この作ったチョコレートはどうします?」

 

練習で作ったチョコトリュフを指差しながらスモモは言う。その言葉にシロナは苦笑しながら返した。

 

「私は持って帰れないから、ここで食べるかみんなに持って帰ってもらうことになるわ」

「じゃあ食べちゃいましょ!糖分摂って、気合入れて片付けです!」

「そうね、食べちゃいましょうか」

 

そう言って各々皿に乗っているチョコトリュフを口に含む。少し硬い外ととろりと甘い中身がうまくマッチしている。見てもらっていたとはいえ、ほとんどシロナ一人で作ったチョコレートは、特訓の成果もありかなり美味しく仕上がっていた。

 

「おいしいですね」

「とっても良くできてマス」

「ありがとう。みんなのおかげよ」

 

3人にお礼を言いながら、シロナは数日後にチョコレートを渡す最愛の人の顔を思い浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

二月十四日

 

シロナは自宅でカイムの帰りを待っていた。

 

「…ちゃんとできてる、わよね」

 

テーブルに置いてあるラッピングされたチョコレートを見ながらそう呟く。ダークブルーの袋に包まれたチョコレートは、今日の朝にシロナが一人で作ったものだ。カイムが今日は朝からジムに行くため、それを見計らって作り始めた。完全に一人で作ったものは初めてであるため、指導を受けていた時に作ったものと比べて少しだけ不恰好だが、シロナが一人で作ったものの中では相当良くできている。

 

「……早く帰ってこないかしら」

 

カイムがどんな顔をしてこのチョコレートを受け取るのか。それを想像すると楽しみであると同時に少しだけ不安だった。この手作りチョコレートを受け取ってくれるか、食べた時どんな反応をされるか考えると若干緊張してしまう。

無論カイムは突っ返すようなことはしないとわかっている。だとしても初めての手作りチョコレートを贈ることに、緊張してしまうのは仕方ないだろう。

 

「ふふ、柄にもない」

 

ポケモンリーグ決勝くらいでしか緊張しない自分が、全く大舞台でもない場所で緊張する。柄にもないことはよくわかっていた。

 

そこで傍にいたルカリオがピクリと反応し、顔を玄関の方に向ける。それとほぼ同じタイミングで家の鍵が開く音がした。

 

「おかえり」

「ただいま」

 

玄関には寒さで頬をわずかに赤くしたカイムがムクホークの体についた雪を払っていた。北国であるシンオウ地方の真冬は雪が多く降る。そのためこの光景は日常茶飯事だった。

 

「お疲れ様。寒かったでしょ」

「まあな。移動距離が短くなっただけマシさ」

 

以前所属していたトバリジムでは移動距離が長く、寒さに慣れていない時はかなり苦労していた。しかし今ではすぐ近くの街であるため、以前と比較したらかなり移動は楽になっている。

 

雪で濡れたムクホークの身体をタオルで拭き、ドライヤーで乾かし終えるとボールに戻した。

カイムが靴を脱いで玄関から上がると、その手に紙袋があることにシロナは気づいた。朝家から出る時にはなかったものだ。

 

「カイム、その袋は?」

「ん、ああ…これな」

 

カイムは少しだけバツが悪そうに袋を開く。そこには数個の市販チョコレートが入っていた。

 

「ジムトレーナーの人からもらったんだ。俺は新入りだし、断るのもどうかと思ってな」

「断る?なんで?」

「いや…一応恋人いるのに他の女性からもらうのって、どうなんだろうって思って…」

 

それを聞いたシロナは目を丸くし、そして笑った。

 

「あはは!そんなこと気にしなくていいのに」

「…そう、か?」

「そうよ。気にしすぎ」

 

確かにカイムに初めてチョコレートを渡すのは自分でありたいという気持ちもあるが、それ以上に周囲との交流も大切にしてほしいという思いがシロナにはあった。そこで下手な気をつかわれてしまうと、シロナとしても申し訳なくなってしまうため、カイムがここでちゃんとチョコレートを受け取ってくれて寧ろ良かったと考える。

 

「考えすぎか。悪い癖だな」

「人のことを考えられる。貴方の美徳でもあるけどね。それに、そういう風に考えてくれたことは素直に嬉しいわよ?喜んでもらって帰ってきたら、さすがにちょっと複雑だけど」

「嫌ではないが、どうもな。シロナからのものを1番大事にしたかったんだ」

「ふふ、嬉しいこと言ってくれるわね」

 

カイムが自分のことを大切にしてくれているという実感とともに、こうして言葉にしてくれることはシロナとしては嬉しいものだった。他とのつながりもだが、その中で1番自分のことを大事にしてくれるというちょっとした特別感。これは彼女ならではの実感だとシロナは内心で噛み締めていた。

 

「じゃあ、ご希望通りに私からのチョコあげるから」

「…ああ」

 

カイムはコートをハンガーにかけてシロナのあとを追う。

リビングに着くと、そこにはダークブルーの袋が一つテーブルに置いてあった。シロナはその袋を手に取ると、カイムに手渡した。

 

「はい。ハッピーバレンタイン。私からのチョコレート」

「ありがとう」

 

カイムはシロナからチョコレートを受け取り、少しだけ笑った。ほとんど表情が動かないが、こういう心から嬉しい時は表情が僅かに動く。

 

「開けていいか?」

「ええ。開けてみて」

 

満面の笑みで言うシロナに少しだけ疑問を抱きながらカイムは袋を開けた。袋の中には透明な袋に包まれた丸いチョコレートが六つ内包されていた。ラッピングから見て、市販のものとは思えない。

 

「…これ、手作りか?」

「ええ。恋人になって初めてのバレンタインでしょ?だから、今回だけは自分の力で作ってみたかったの」

「え、でも…お前…」

 

シロナの料理を含む家事の腕は壊滅的。以前と比べたら遥かにマシになったとはいえ、一人でやらせるとなにをしでかすかわからないため未だに家事は監視付きでなければやらせていない。

しかしシロナは一人でこれを作ったという。変なところで見栄を張るようなことをシロナはしないが、カイムは元を知っているだけに本当にそうなのかと思わず確認してしまう。

それに対してシロナもそういう反応をされるとわかっていたため、特に気を悪くするわけでもなく頷いた。

 

「疑うのも無理はないわ。そう言われても仕方ないような腕なのは自覚してたし」

「ああ、まあ…」

「でもね、これは正真正銘私が一から作ったものよ」

 

他のはできないけどね、と少しだけ恥ずかしそうにシロナは笑った。

そんなシロナから渡されたチョコレートに視線を移す。球体型のチョコレートが複数袋に入っており、とてもシロナが作ったとは思えないものだった。だがシロナが作ったことは本人の口から言われているため、まず間違いないことなのだろう。

 

「…すげえ。よくできたな」

「なによ。皮肉?」

「違えよ。素直に褒めてんだ」

「ふふ、わかってるわ。ありがとう」

 

若干物言いが皮肉な感じがするが、元よりそういう物言いをするのがカイムであるため、シロナは気を悪くすることなく笑った。

 

「なあ、食べてもいいか?」

「ええ。食べてみて」

 

シロナの了承を得たカイムは袋を開き、チョコトリュフを一つ取り出して口に放り込んだ。そしてその味に思わず目を見開く。

 

「美味え」

「ほんと⁈」

「ああ、ちゃんと美味え」

 

とても数ヶ月前までカレーすら作れなかった人物が作ったものとは思えないほどの味だった。もぐもぐと口を動かし、シロナが作ったチョコレートを味わって飲み込む。

 

「うん、美味かった」

「よ、よかった〜…」

「んだよ。味見くらいはしたんじゃねえの?」

「したわよ?でも、料理が得意なカイムからしたらあまり美味しくないのかもって思っちゃって…」

「そこまで舌肥えてねえよ」

 

料理が得意だからといっても、必ずしも舌が肥えているわけではない。多少はよくなるだろうが、料理をするだけで劇的に味の変化に敏感になることはないからだ。

特にカイムはお菓子作りに関してはそこまで腕が立つわけではない。材料とレシピさえあればなんでも作れるだろうが、オリジナルのレシピを開発したりできるほど詳しくない。

 

「シロナも食ってみるか?美味えぞ」

「そ、そう?じゃあもらおうかしら」

 

そう答えたシロナにカイムは袋からチョコレートを一つ取り出して差し出した。

 

「ん」

「あーん」

 

カイムが差し出したチョコレートをシロナはそのまま口にする。餌付けされているような感覚もするが、チョコレートの味が思いの外美味しくてシロナは表情をパッと明るくした。

 

「美味しい!」

「味は知ってんじゃねえのかよ」

「知ってるけど、貴方と食べるから美味しく感じるの」

「そりゃどーも」

 

シロナ的には無意識に『あーん』をしてくれたというのも含まれているが、口には出さなかった。これを口にしてしまうと、これ以降やってくれなくなってしまう可能性があるからだ。

 

「うん、美味い」

 

だがカイムはそんなシロナの思いを知ることなく、シロナのチョコレートを続けて食べていた。

 

「…すげえな」

「え?」

 

突如言われた言葉が理解できず、シロナは聞き返す。

カイムは頬をかきながら少し照れくさそうに言った。

 

「…できないことを、努力してできるようになっているってすげえ事だ。自分のできない事に向き合うって、難しいことだから」

「そうね。でもそれは、貴方が私に教えてくれたことよ。できないことに向き合うことが、どんなに辛くて難しいことなのか。そしてそれを乗り越えた時の喜びがどんなに大きいものなのかをね」

「……そう、かもな」

 

カイムは、できないことをできるようになりたくて、ずっと間違えた努力を続けてきた。そんなカイムがシロナと出会い、正しい努力を教えてもらい、そして乗り越えた。その時のほとんど変わらないカイムの無表情が、あの時だけは笑っていた。その表情がシロナは嬉しかった。あの鉄仮面を動かせただけではない。最愛の人が己と向き合い、共に乗り越えることがとても嬉しかった。

 

「俺も、少しはシロナに返せているのか」

「もちろんよ。貴方がいたから乗り越えられたこともたくさんあるし、貴方がいたから…私はこのチョコレートを作れるようになったの。カイム、私の側にいてくれてありがとう」

 

柔らかい笑みと共に真っ直ぐに向けられた瞳を受け、カイムは思わず目を逸らしそうになるが、それをぐっと堪えてシロナの手に自分の手を重ねる。

 

「こちらこそ、ありがとう。俺と出会ってくれて…俺といてくれて、ありがとう」

 

僅かに口角が上がるだけの笑み。だがその笑顔が、どれほどシロナにとって嬉しいものなのかをカイムは実感していない。いや、正確にはある程度実感しているが、カイムの想像以上にこの僅かな笑みがシロナにとっては嬉しいものだった。

 

「ありがとう。ふふ、贈り物なんて何度かしてるのに…なんだか照れ臭いわ」

「わかるよ。思いを込めた贈り物ってのは、贈るのにちょいと勇気がいるもんな」

 

実際カイムも数回シロナに贈り物をしているが、その時は少なからず緊張していた。自分の贈り物にセンスがないのではないか、内心嫌がっているのではないか。そんなことを思うシロナではないとわかっていても、大事な人だからこそそう思ってしまう。喜んでもらいたい、という気持ちが大きくなるほど、その裏返しである否定的な思いも湧き出てしまう。

 

「相手が拒否しないってわかってても、ちょっとだけ勇気が必要なのよね。柄にもなくさっきまで緊張してたわ」

「リーグ決勝くらいでしか緊張しないのに、俺に贈り物で緊張すんのかよ」

「ええ。大好きな貴方に、初めて作ったチョコレートを贈るのよ。緊張もするわよ」

「嬉しいねえ」

 

そこまで言われるとは思っていなかったカイムは、照れ臭くなり苦笑する。美人にここまで言われては、多少慣れているカイムでも照れてしまう。照れたカイムを見てシロナは楽しそうに笑い、そして視線を床に置いてある紙袋に移した。

 

「そのチョコも食べたら?」

「飯の前に食うのも…つっても、もうシロナの食っているから関係ねえか」

 

そう言ってカイムは紙袋からもらった市販のチョコレートを取り出す。

 

「………」

「ん、なんだよ」

 

取り出したチョコレートをじっと見つめるシロナを訝しげにカイムは見た。

 

「…そのチョコレート、くれたのは女の子よね」

「ああ、まあ…全員に配ってたけど」

「…ふーん」

 

カイムがチョコレートをもらうこと自体は全く不愉快ではない。寧ろ色んな人と積極的に関わってほしいとすら思っている。

しかしそれはそれとして、カイムのことを独占したい気持ちもある。特にこのバレンタインという特別な日の場合はその気持ちが大きくなっているような感じがあった。

 

「…え、なに」

「ううん。うまくやれているのね」

「ああ、うん…え、本当に何」

「……いや、もらったチョコレートを食べるのはいいんだけど…その…今日の残り時間くらいは、私のことを考えてほしいなって」

 

シロナはそう言いながら顔を赤くして目を逸らした。

 

(…かわいい)

 

そんなシロナにカイムはぼんやりと表情を動かさずにそう思う。普段の凛とした雰囲気からのギャップがよりカイムをそう思わせた。

 

だがシロナの思いは嬉しくとも、それを理由にこのチョコレートを食べずに捨てるのも違う。例えここでこのチョコレートを捨てたところで差出人であるトレーナー達は知る由もないだろう。だが生真面目なカイムは例え知らないとしても他者の厚意を無下にしたくなかった。

そしてそんなカイムの性格をシロナは誰よりも知っている。それにそこまでしてほしいとまでも思っていない。なんとも面倒なものだが、人の心とは往々にして矛盾していて複雑だ。

そんな中、シロナは名案を思いついたと言わんばかりに表情を明るくした。

 

「じゃあ、こうしましょ」

「ん?」

 

シロナはカイムの手にあったチョコレートを取ると、袋を開けてカイムに向けて差し出した。

 

「このチョコレート、私が全部食べさせてあげる」

「……は?なんで?」

 

シロナの提案(命令)にカイムは苦い顔をしてシロナを見た。

だがシロナは「名案!」とでも言うようなドヤ顔をしている。

 

「私が食べさせてあげれば、私のことしか考えられない。チョコレートもちゃんと食べる。ほら、合理的でしょ?」

「いや、だからなんぐっ⁈」

 

抗議を続けようとするカイムの口にチョコレートが突っ込まれる。咄嗟のことで回避できず、突っ込まれたチョコレートを食べることになった。

 

「どう?美味しい?」

「…うめえよ」

「ふふ、よかった。じゃあ次も…はい、あーん」

 

笑顔でチョコレートを差し出してくるシロナにカイムは表情を苦くする。だがこういう時まず間違いなく勝てないため、大きくため息を吐きながらも大人しく口を開けた。

 

「……あーん」

「素直でよろしい!はい」

「……いやもう味わかんねえ」

 

市販のチョコレート故に味は保証されているが、気恥ずかしさのせいで碌に味がわからなくなっていた。

シロナは手についた僅かに溶けたチョコレートを舐めとり、次のチョコレートを手に取る。

 

「はい次」

「…これ、全部やんの?」

「ええ。そう言ったでしょ?」

 

にこやかに言うシロナが次のチョコレートをカイムに差し出した。

と、そこでシロナの耳が赤くなっているのが見えた。良く見るとその差し出す手も少しだけ震えている。

 

(…恥ずかしいなら辞めろや)

 

やられているカイム自身も恥ずかしいが、やっているシロナも恥ずかしいらしい。カイムとしては自分を巻き込んで自爆しないでほしいのだが、悪い気がしないのも確か。

 

シロナの盛大な自爆にカイムは大人しく巻き込まれるしかないと腹を括り、苦笑しながらシロナの差し出してくるチョコレートを口にする。

 

そんな二人を見て、ポケモン達は『またやってら』とでも言わんばかりの雰囲気を出しながら謎の組体操をしているのだが、二人は何故彼らが組体操をしているのか知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

「満足か?」

 

全てのチョコレート(シロナのものを除いて5個)を食べきったカイムは恥ずかしそうに笑うシロナに言った。

シロナは照れたように傍にいたカイムのブラッキーを撫でながら口を開く。

 

「…うん。付き合ってくれてありがと」

「いい。いいもん食わせてもらったし」

「そんなにもらったの美味しかった?」

「いや、シロナのな」

 

カイムの答えにシロナは一瞬呆けたような表情になるが、カイムは気にする事なく続けた。

 

「これしかできないとはいっても、ここまでできるようになってんのは大したもんだ。これを俺のためにやってくれたのは、正直めっちゃ嬉しい。ありがとう」

「…急に本音を出してくるわね」

「まあ、あんま言わんからな」

 

カイムは基本感情を口にしない。最低限のものは口に出すが、あまり出さないのは間違いない。それは自覚しているが、ここまでのことをしてもらった以上、ちゃんと自分の心を口にするべきだと考えた。

 

「ここまでされたんだ。ちゃんと言葉にしなきゃ…言葉にしたいって思ったんだよ」

「…嬉しいわ」

「言わなくても伝わるなんてのは、幻想だ。言っても伝わらないことがあんだし、言わなきゃなんも伝わらねえ。俺の心をちゃんと伝えたかった」

 

かつてカイムは姉のイサナと話さなかった。それ故に、この歳まで二人は互いを誤解し、そして決裂していた。だからこそ、話すことの大切さを理解している。

 

「そうね。話すこと…口に出すって、大事だものね」

 

二人は己の心を口に出したから今こうして寄り添い合うことができる。この関係になれたことも、二人が己の心を言葉にしたから。それを良く実感しているシロナとカイムは、大切なことはちゃんと言葉にする、というルールを二人で決めていた。

ただ今のカイムはルールだからではなく、『自分がそうしたいから』という理由で話してくれた。それが嬉しくて、シロナはカイムに自分の手を重ねる。

 

「カイム」

「ん?」

「好きよ」

「好きだ、シロナ」

 

そう言って二人は唇を重ねた。

数秒間触れ合った後、離れる。

 

「チョコの味」

「そりゃ食ってたからな」

 

照れ臭いのか、カイムは目を逸らして頭をガシガシとかき、立ち上がった。

 

「飯にしよう」

「デザートと順番が逆になっちゃったわね」

「今日くらいいいだろ」

 

他愛のない話をしながら二人は夕飯を食卓に並べ、食事を始めた。

 

雑談をしながら食事を進めていると、シロナが思い出したようにカイムに問いかけた。

 

「そういえば、引き取る子は決めたの?」

 

シロナの問いかけに一瞬だけ手を止めるが、すぐに動き出し、カイムは応える。

 

「ああ。キリキザンにしようと思う」

「キリキザンね。どうしてキリキザンにしようとしたの?」

 

カイムの話では、ハガネール、ハッサム、キリキザンから選ぶ予定で、自分のポケモンとの相性がいいポケモンにするとのことだった。しかしそれだけで決めたとも思えないため、シロナはカイムにそう聞いた。

 

「単純な相性なら誰でもうまくやれそうだからな。中でも理解度が比較的高いポケモンにしたんだ」

「理解度?」

「タイプ的な意味だがな。ハガネールは鋼・地面タイプだ。トリトドンのおかげで多少地面タイプの扱いにも慣れたが、あくまでトリトドンだけ。理解度は低い。虫タイプ複合のハッサムは今の俺じゃまだ理解度が低くてうまく戦わせてやれん。だがキリキザンは悪タイプだ。悪タイプはブラッキーのおかげで馴染みがある。だからこの中なら一番うまく戦わせてやれんじゃないかって考えた結果だ」

 

三匹のポケモンは皆カイムの手持ちとそれなりにうまくやれる雰囲気であった。だが誰もが皆うまくやれる、ということはそれを基準にして決めることができないということでもある。

だからカイムは自分に馴染みのあるタイプを持つポケモンを選ぶことにした。カイムがより馴染みがあるのはバシャーモ、ルカリオが持つ格闘タイプ。ルカリオ、メタグロスが持つ鋼タイプ。そして相棒であり、エースのブラッキーが持つ悪タイプだ。

候補の中で馴染みのあるタイプを持つのはキリキザン。悪タイプのやり方をそれなりに知っているカイムなら、キリキザンもうまく戦わせられるのではないか、と自分なりに考えた結果、キリキザンを選ぶことにした。

 

「いいじゃない。ちゃんと考えているならそれでいいわ」

「ポケモンの生活にも関わる。キリキザンにも、俺のポケモンにもな」

「貴方らしいわ。いいことよ」

「ああ」

「そうなると…ジムトレーナーとしてはルカリオ、メタグロス、キリキザンでバトルする感じ?」

「そうなるな。相手次第では、ルカリオの出番はないが」

 

ルカリオはカイムの手持ちの中でもブラッキー、バシャーモの次に古株だ。加えてシロナに弟子入りしてから加入したポケモンであるため、育成としては相当鍛え込まれている。故に、ルカリオだけでバッジを集めきった程度のトレーナー相手ならば6タテできてしまうこともある。

だからまだ育成が途中であるメタグロスとキリキザンでバトルすることになるだろう。

 

「キリキザンは『ふいうち』、『つじぎり』といった悪タイプの技だけでなく、鋼タイプの『アイアンヘッド』とかも覚える。特に俺は『メタルバースト』が使えると思ってんだ」

 

メタルバーストは、相手から受けたダメージを反射して返すカウンター系の技。カウンターの倍率は1.5倍と低めではあるが、『カウンター』や『ミラーコート』のように受けた攻撃の種類は指定されておらず、物理・特殊両方が対応範囲となっている。

 

「メタルバースト!なかなか難しい技に目をつけたわね」

「どうしてもカウンター技はタイミングが難しいからな。一歩間違えりゃ瀕死になっちまうし、場合によっちゃただのヘボ技になって隙を晒すことになる。だが刺さればまず間違いなく相手を落とせる強みもある」

「でもカウンターじゃなくてメタルバーストに目をつけたのは何故?」

「色々あるが、ジムリーダーっていう色んなタイプのトレーナーとバトルする役職になる以上、一つの技で色んなタイプの相手に対応できる術が欲しかったんだ。それに関してメタルバーストは好都合だった。ウチのコンセプトにも合うしな」

 

カイムは相手からの攻撃を耐え忍び、勝利につながる一手を探し続けるトレーナー。耐え忍んだ先に繋がる一手というコンセプトは、メタルバーストによく合っていた。

 

「悪タイプで扱いも慣れてる。ちゃんと育成すりゃ、戦力になるだろ」

「いいわね。自分のコンセプトに合ったバトルスタイルとポケモン達。ジムリーダーになってもそれは捨てないようにね」

「ああ」

「それにしても…カイムもジムリーダーか。成長したね」

 

まるで親のような顔をするシロナにカイムは表情を歪める。

 

「親か」

「師匠で恋人よ?」

「………そうだな」

「うふふ」

 

楽しそうに笑いながらシロナは味噌汁を啜る。カイムは小さくため息を吐きながら照り焼きを口に放り込んだ。

 

「シロナは、ポケモン増やしたりしないのか?」

 

突然の問いかけにシロナは一瞬目を丸くするが、小さく笑って返す。

 

「増やすわよ。今度一体ね」

「へえ、増やすのか。誰を増やすんだ?」

「ジャラランガ」

「ジャラランガか…強いやつだな。でもなんでジャラランガ?」

「ガブリアスに次ぐエースを育てたかったの。それで色々考えた結果、ジャラランガはどうかなってなったのよ」

 

ジャラランガはドラゴン・格闘という珍しいタイプをもつポケモン。しかし覚える技やタイプ的に扱いが難しく、ジャラランガを扱うトレーナーは少ない。

 

「面白そうじゃない?ジャラランガのタイプも覚える技も」

「うまく育ててやれば、強そうだが…」

 

ジャラランガは特性も『防塵』や『防音』など一部の攻撃に強いだけでなく、『みがわり』を貫通する音系統の技を使うことができる。実際うまく育てれば強いのは間違いない。

 

「…俺にはうまく扱えなさそうだ」

「そういえば、私がポケモンを一から育ててみせたことはなかったわね。一から育てていくけど、カイムにも協力してもらうわよ」

「ああ。格闘タイプなら多少理解がある」

「よろしくね」

 

ある意味二人で育てる初めてのポケモン。

まだ加入はさせていないが、二人でポケモンを育てられる。それを少しだけ嬉しく思いながらシロナは食事を進めるのだった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

食事を終わらせ、洗い物を済ませたカイムは庭でトリトドンとムクホーク、そしてバシャーモと触れ合っていた。

 

「あら、なにしてるの?」

 

ムクホークの顎を撫でながらトリトドンの頬をぷにぷにと突いていたカイムの背後からシロナが声をかける。

 

「戯れてる」

「なにそれ」

 

クスクス笑いながらシロナはカイムの隣に立ち、ムクホークのトサカを撫でる。ムクホークは気持ちよさそうに喉を鳴らしていた。

 

「なんとなく遊びたそうだったから」

「そうなの?」

「ああ。なんとなくだけど」

 

そう言いながらカイムはトリトドンの頬をむにーっと伸ばしている。トリトドンもされるがままになっているため、特別嫌というわけではなさそうだった。

バシャーモはカイムの背中に寄りかかってぼんやりしている。

 

「バシャーモ、ちょっと疲れてる?」

「今日ルカリオ、キリキザン相手に組み手してたから」

「ああ、それは疲れるわね…」

 

ブラッキー同様に一番の古株であるバシャーモは総合的な実力はルカリオよりも高い。また、バシャーモ自身が鍛えるのが好きであるため、ルカリオとしょっちゅう組み手をしているが、今回はそこにハッサムとキリキザンも加わった。一番実力のあるバシャーモが一番多く相手をしていたため、バシャーモはかなり長い時間を組み手に使っていた。しかも相手がルカリオでは手を抜く余裕などない。技を使わない技術のみの組み手ではあるが、長時間集中して組み手を行うのはさすがに疲れたらしい。信頼する主人であるカイムに寄りかかって、英気を養っていた。

 

「ジムリーダー、なれそう?」

「さてな。なるための教材でもありゃやってたが、んなもんねえし。今はとにかく鍛えて学ぶだけだ」

 

ジムリーダー承認試験は筆記、実技、面接の三つ。筆記は一般教養及びバトルやポケモンに関する基礎知識の問題が出ると通達されている。これに関しては正直今のカイムなら寝起きでも解けるレベルなのだが、己を過小評価するカイムは念のため一通り学び直していた。

面接に関してはどうすることもできないため、マナーの再確認くらいしかしていないが、やはりジムリーダーに最も求められる実技に不安があった。

 

「……もう自分を卑下することはしない。でも、やっぱ不安は残る」

 

カイムがジムリーダーレベルの実力も持っていることは間違いない。だがそのジムリーダーの中でもカイムはまだ弱い。スモモのように実力にムラがあって振れ幅があるわけではないため、最高の調子を発揮できてもカイムの実力の100%が限界。スモモやレッドのように時として120%を発揮することは彼にはできない。

 

「大丈夫…って言っても、貴方は多分信じきれないんでしょうね。それで大丈夫ならもう大丈夫になってるだろうし」

「こればっかりは治せん。性分だしな」

「治せとは言わないわ。人事を尽くして天命を待つ…貴方の美徳よ。でも同時に過ぎたるは及ばざるが如し。やり過ぎないようにね」

「わかってる。ポケモン達のためにも、この目標は達成したい。だから最善を尽くすよ」

「いいことよ」

 

目標は行動への活力となる。その目標に向けて必要な努力を積み上げることを厭わなくなるため、大きなものでも小さなものでも目標は大切だと二人は認識していた。

尤も、その目標に対して必要な努力が何なのかを正しく見極めなければ目標は達成できない。かつてカイムが出来なかったのは、まさにそれである。

 

「…そういやさ」

「ん?」

 

ムクホークとバシャーモを撫でているシロナにカイムは聞く。

 

「チョコ、どこで練習してたんだ?ここじゃないだろ?」

 

もしここで練習をしていたのなら、カイムは気づく。

だがシロナは全くカイムに悟られることなく練習してきた。どこかで練習していたのはわかるが、それがどこなのかカイムにはわからなかった。

 

「色々よ。私の実家のときもあるし、コトブキシティの時もあったわ。一番多かったのはヨスガシティだけど」

「ヨスガ?なんで?」

「途中からメリッサさんにも指導してもらってたの」

「ああ、なるほど」

 

そういえばあの人多才だったな、とぼんやり思い出し、カイムは納得した。

それと同時に、まさかバレないためにここまでしているとは思ってもいなかったため、苦労させたなと内心で苦笑する。

 

「はじめはスズナちゃんに教えてもらってたんだけど、そこにスモモちゃんとメリッサさんも加わったのよ」

「え、スモモもいたのか?」

「うん。スズナちゃんから話が伝わってね。参加したいってきたのよ」

 

スモモは格闘技およびバトルで多大な才能を持ち、彼女自身もそのあたりに興味があった。しかし彼女も年頃の女の子。女の子らしいことに興味があるらしく、今回の話をスズナから聞いたスモモは参加したいと言ったのだ。

 

「そうか…あいつも元気そうで良かったよ」

「今度会ったらまたバトルしようって」

「戦闘狂ばっかだな俺の周り…」

 

シロナといいダイゴといいスモモといい、誰もが強い相手とのバトルを楽しもうとしている。カイムもそれなりに好きではあるのだが、ここまでではない。

だがため息を吐きながらも、カイムとしてはバトルを申し込まれるのは嬉しかった。彼らが自分を『バトルするに値する』人物だと認めてくれているような気がして、今まで見向きもされなかった身からするとなんとなく嬉しく思えるように感じられた。

 

「しかしそうなると、あいつらの分のチョコも作ったのか。大変だったんじゃねえの?」

 

共に練習したとなると、恩返しに自分が作ったものを彼女達に作っていても不思議ではない。シロナの性格を考慮すると、その可能性の方が高いのではないかとカイムは考えた。

しかしシロナの答えはカイムの予測とは異なるものだった。

 

「いいえ。今日作って渡したのは貴方だけよ」

「あ、そうなんか」

「意外?」

「少し。意外ってほどではないが、あいつらの分も作ると思った」

「そうね。確かに、考えたわ」

 

じゃあなんで?とカイムが視線を向けると、シロナはカイムに優しく微笑みかけながら言った。

 

 

 

 

「今年は本命に全霊をかけたかったの」

 

 

 

 

シロナの言葉を聞いたカイムは一瞬ぽかんとした表情を浮かべるが、すぐにその言葉の意味を理解して苦い表情をしながら顔を背けた。

 

「っ…」

「恋人としての初めてのバレンタインだからね。貴方のことを大事にしたかったの」

「…そりゃあ……どうも」

「ドキッとしたでしょ。耳が赤いわよ?」

「やかましい」

 

がしがしと頭をかき、必死に照れ隠しをするが、耳だけでなく首まで赤くなっていた。そしてカイム自身、それを自覚できるくらい全身が熱くなっている。

 

「ふふ、かわいい」

「………ちっ」

 

やられっぱなしなのは面白くない。

なにか仕返しをしてやろうと思ったが、なにも思いつかない。なにも思いつかないため、カイムはシロナのことを後ろから抱きしめた。

 

「どうしたの?」

「やられっぱなしは癪なんだよ」

「ふふ…って、身体すごく熱いわよ」

「誰のせいだ誰の」

 

今カイムの体温は熱が出ているのかと間違うほど熱い。それもシロナからの言葉が恥ずかしく、そして大事にされているという実感があまりにも嬉しいものだった。シロナの肩に顔を埋め、赤くなった顔を隠すが、隠しきれていないのも自覚している。

 

「ねえ」

「……あん?」

「もっと強く抱きしめてくれる?」

「…ああ」

 

シロナの要望通り、カイムはさらに強い力でシロナを抱きしめる。

 

「んっ…」

 

カイムの体温、力、感触をより強く感じ、シロナの胸中は幸せな気持ちにで満たされた。

 

「ありがと」

「…ん」

 

シロナを離したカイムはポケモン達をボールに戻し、室内に戻っていった。

残されたシロナはその後ろ姿を見送ると、空を見上げた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

入浴を済ませ夜も更けてきた時間、シロナとカイムは同じ布団で寄り添い合っていた。

 

「なに見てるの?」

 

寄り添いあいながらカイムはタブレットを操作しており、シロナはその画面を覗き込む。その時にカイムの堅い身体の感触が伝わってくる。鍛えている割には細いカイムだが、鍛えている故に触れるとかなり筋肉質だ。ただ本人的にはもう少しゴツくなりたいらしいのだが、あまりそういう才能もなかったらしい。

 

タブレットに書かれていたのは、バトルフロンティアの設備拡大についての通知だった。

 

「バトルフロンティア設備拡大?」

「ああ。どうやら、シンオウ地方(こっち)のバトルフロンティアの設備が拡大することが決定したらしい」

「新しい設備ができるのね。それで、今度はどんな設備ができるの?」

「今度できるのは、バトルマウンテン。ルールはどうやら、ホウエン地方にあるバトルピラミッドと同じ感じみたいだ」

 

バトルピラミッドは自分の手持ちから三匹のポケモンを選び、ピラミッド内を探索、攻略していくという設備だ。道中道具を使うことができるが、その際にいくつか縛りがあり、自分で持ち込んだ道具を使用することはできない、というものだ。ただし、ピラミッド内に落ちている道具を使用することは可能であるため、道具を拾いながらトレーナーを倒し、そして探索を進めていくというのが大まかな流れとなっている。

 

「トウガンさん、このバトルマウンテンのフロンティアブレーンに立候補するんだとさ」

「炭坑夫だものね。あの人ならできそうだわ。でも、フロンティアブレーンになったら、鋼鉄島の方は大丈夫なのかしら」

 

トウガンは鋼鉄島で炭坑夫をやっており、鋼鉄島で働く炭坑夫達を仕切るリーダーのような役目も担っている。もしトウガンがフロンティアブレーンになった場合、ジムリーダーはカイムが引き継げるが鋼鉄島の方は引き継げない。その穴を誰かが埋める必要がある。

 

「炭坑夫としてのリーダーは引き継ぎ先がいるらしい。それにトウガンさんの友人がちょくちょく鋼鉄島には来てるらしいから、その人が対応することもできるんだとさ」

「へえ…そんな人がいるのね」

「なんなら最初はその人にミオジムのジムリーダーを任せる予定だったらしい」

「あら、そうなの?」

「断られたらしいがな。でなけりゃ、俺に白羽の矢は立たん」

 

その人物にカイムは会ったことがないが、ジムリーダーを打診するあたりかなりの腕を持つトレーナーなのだろう。少なくとも、簡単に勝てる相手ではないことはわかる。

 

「…みんな変わっていくのね」

「どうした急に」

 

どことなくしおらしくなるシロナが珍しく見え、カイムはそう問いかけた。

 

「私も、いつまでもチャンピオンとしていられるわけじゃない。いつか誰かにこの席を渡すことになる。それがもうすぐなのか、まだまだ先なのかはわからないけど、チャンピオンでなくなった私はどうなるのかなって」

 

ヒカリのように若いトレーナー達がここ最近より力をつけてきている。レッドやグリーンを筆頭に、これからの世代を担うトレーナー達が既に台頭してきており、それは今トップに立っているシロナもいつかはチャンピオンの座を降りることを示唆することに他ならない。

 

「さあな。今はチャンピオンだ。どうするか、どうしたいかはこれから考えればいい」

「そうね。今は、チャンピオンとしての地位を守って、チャレンジャーに対して全力でぶつかる。それだけでいい」

 

自分が誰かにチャンピオンを譲るのはそう遠い未来ではないかもしれない。だが、きっとその時は自分の持てる全てを出し切り、晴れやかな気持ちで渡せるだろう。

 

「俺は、お前の側でずっと支える。チャンピオンでも、そうじゃなくても。ずっと」

「…ありがと。ちょっと照れ臭いわね」

「仕返しできたか?」

「いいえ、全然。この前の『カウンター』の分、返せてないもの」

「ケッ…んのやろう」

 

シロナはいたずらが成功した子供のような顔をしてカイムの肩に顔を埋める。そんなシロナを抱き寄せながら、カイムは小さく舌打ちをした。

 

「ずっとって言ってたけど、プロポーズ?」

 

シロナはさらにカイムに追い討ちを仕掛けるが、これは以前仕掛けて返り討ちにあった。ただ今ならこれで反撃できる気がした。

 

「…前に言ったろ。それは、まだ先だ」

「でも考えてくれてるんだ?」

「ああ。つか、そんなこと聞くってことはシロナもだろ」

「まあ、ね」

 

二人とも、明言はしない。これは伝わっているからではなく、今はまだ口にするべき時ではない。そう判断したからだ。

だが二人とも今よりも『先』の話をしている。

 

二人だけの未来、そしていつか二人ではなくなる未来。

 

そんな未来を想像し、シロナは胸の奥が熱くなるような思いに駆られると同時に僅かな眠気を感じて小さくあくびをした。

 

「慣れねえことして疲れたろ。寝るか」

「…そうね。でも、大事な人のために頑張るのは楽しいわ。心地良いしね」

「そいつはよかった」

「平然と言わないでよもう」

 

くつくつと笑うカイムにそうぼやきながらも、二人は布団をかけ直し再び寄り添い合う。こつんと互いの額を合わせ、体温を感じながら見つめ合った。

 

「おやすみカイム」

「おやすみ。また明日な」

 

それだけ言って二人は目を閉じる。

 

 

お互いに存在を感じながら、二人の意識は微睡の中に落ちていった。

 

 

 




砂糖漬けは書きやすいけど、こんなに砂糖まみれにする予定はなかった。勝手にイチャつくんですけどこの人たち。
あとバトルマウンテンは私が勝手に作り出した設備です。実際には存在しませんし、ポケモンコロシアムのバトル山とは無関係です。

この私の欲望から生まれた話も早くも1周年です。
評価のために書いているわけではありませんが、皆様のおかげでここまでモチベーションを落とすことなく続けてくることができました。今後も私が壁になって見ていたいだけの話を続けていくので、よろしくお願いします。
一周年記念の話、今のところなんも考えてませんけど、何かリクエストがあればメッセージまで送ってください。リクエストや案が出たらアンケート取るかもしれません。

メリッサさん、実際ここまで日本語流暢じゃないと思いますが、片言なの書きにくいんで勉強して流暢になってもらいました。


いちゃつく二人を見ているポケモン達
ガブ「またやってる」
ミロ「いつもお熱いことで」
ルカ「苦いポフィンはないか」
トリ「仲良し〜」
ロズ「砂糖って毒で中和できないっけ?」
トゲ「結婚まだ?」
グレ「ふぶきでも凍らないくらい熱い」
ウォ「ぼうふう使っても引き離せない」
シビ「はよ結婚しろ」
ポリ「ぬーん」
ミカルゲ「おんみょ〜ん」

ブラ「仲良し!混ぜて!」
バシャ「糖分消費が追いつかない」
ルカ「………糖分過多。某には厳しい」
ムク「はいはいいつものね…zzzzz」
トリ「仲良し〜」
メタ「あのカイム殿が笑っておられる。流石シロナ殿」


普段
シロナ→→→→→→←←カイム

時々
シロナ→→→→←←←←←←←カイム

内心
シロナ→→→→→→→→→→←←←←←←←←←←カイム

カイムは口下手なだけで、あまり口に出さないだけです。内心はぞっこんです。

今週か来週の間にジラーチ更新します。


今後書く予定の話
・カイムのレジ系統の研究が認められてシロナの助けを受けながらも本を出版し、それが世間にウケて特集を組まれる話
・アルトマーレ再訪
・N再登場

次回はカイムの誕生日とジムリーダー承認試験で、第三部最後です。私の予定では第四部で本編は終了する予定です。本編終了後も二人の子供の話とかも書く予定ですが、一応そこで終了させます。まだまだ続きますが、良ければ最後までお付き合いください。

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